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雑誌目次

雑誌文献

medicina43巻13号

2006年12月発行

雑誌目次

今月の主題 理解しよう! 下痢と便秘 下痢と便秘の病態生理

腸管の水分吸収のメカニズムと下痢の発生機序

著者: 谷口誠

ページ範囲:P.1974 - P.1976

ポイント

下痢は大腸の吸収能力以上の腸内容物が大腸に到達するために起こる.

腸管での細胞膜を介した水分移動は,電解質の移動に伴い受動的に起こる.

下痢の発生機序には,①腸管での吸収障害,②腸管の運動亢進,③浸透圧差による下痢,④小腸での能動的分泌による下痢,などがある.

下痢の分類

著者: 福島豊実

ページ範囲:P.1977 - P.1979

ポイント

下痢は「液状か液状に近い」便の性状で定義され,便の性状は含まれる水分と水分保持力をもつ固形成分の比率で決定される.

下痢は発生機序により,浸透圧性,分泌性,腸蠕動運動異常性,滲出性の4種類に分類される.

下痢は発症~診察までの期間により,急性と慢性の2種類に分類される.

多種多様な下痢に対し,問診と診察にて鑑別診断を絞り込むことが可能である.

排便のメカニズムと便秘(病態生理)

著者: 勝健一

ページ範囲:P.1981 - P.1984

ポイント

便秘には診断基準や定義はない.患者が便秘と思っていれば便秘と診断する.

機能性便秘のメカニズムは陰陽のごとく,腸管運動において弛緩性と痙攣性は全く反対の病態にあるため,画一的な治療法はない.治療法が反対であれば便秘は増悪する.

器質性便秘ではメカニズムが機能障害ではないので,機能性便秘の治療方法は場合によっては禁忌である.

下痢の患者への診断的アプローチ

急性下痢への診断的アプローチ

著者: 船越信介 ,   芹澤宏 ,   日比紀文

ページ範囲:P.1986 - P.1988

ポイント

便回数,経過,便の量,便の性状,病態生理,病因とさまざまな角度から下痢を分類する.

医療面接では誘因となる食品,集団発生の有無,海外渡航歴,薬剤の服用歴,基礎疾患,精神的ストレスの有無を確認し,身体所見では下痢の随伴症状の有無を確認する.

初期のアセスメントとして病歴・身体所見からある程度,重症度(長期間,出血性,脱水,嘔吐)を把握することが大切である.

慢性下痢への診断的アプローチ

著者: 小林健二

ページ範囲:P.1989 - P.1993

ポイント

4週間以上持続する下痢を慢性下痢と定義する.

急性下痢の原因のほとんどが感染であるのに対して,慢性下痢の原因は多岐にわたり,感染によるものの頻度は少ない.

慢性下痢の診断的アプローチは,まず「水様性下痢」,「炎症性下痢」,「脂肪性下痢」のいずれに属するかを把握することから始まる.

下痢患者における便検査

著者: 岡本真 ,   山地裕 ,   小俣政男

ページ範囲:P.1994 - P.1996

ポイント

下痢患者に便検査を行うに際して,原因として疑われる疾患を念頭に置きながら,検査を選択することが大切である.

便培養では,抗生物質投与前に便を採取し早急に培養にかけることが重要である.

最近では,一部の病原体ではあるが迅速検査として,培養を行わずに,便中の毒素や抗原を短時間で直接検出できるものがある.

下痢の一般的治療

急性・慢性下痢の食事療法

著者: 木村琢磨

ページ範囲:P.1998 - P.2000

ポイント

食事療法の目的は,急性下痢症では生理的状態の維持であり,特に水分,塩分,糖分を補給する.

さらに,慢性下痢症では,栄養状態の維持が求められ,蛋白質,脂質,ビタミン類などの栄養素もバランスよく補充する.

食事には,精神的な充足感や社会的機能も求められ,古くから養生されてきた下痢症では,患者の意向も重視して食事内容を決定する.

代表的な止痢薬と対症療法の注意点

著者: 福本陽平 ,   原田唯成 ,   村上泰昭

ページ範囲:P.2001 - P.2004

ポイント

急性下痢では感染性,なかでも食中毒や伝染病には注意が必要である.

治療には一般的な対症療法と原因療法がある.

感染性の下痢では,下痢を完全に止めるべきではない.

感染性下痢で抗菌薬投与はどのような場合に必要か?

著者: 柳秀高

ページ範囲:P.2006 - P.2007

ポイント

下痢に対して必要なのは水・電解質異常に対する配慮であり,便培養,抗菌薬投与は対象を選んで行う.

ウイルス性腸炎には不要だが,細菌性腸炎には抗菌薬を基本的に投与する,という態度は間違いである.

抗菌薬投与は効果と副作用を天秤にかけて決めるため,下痢が改善傾向にあれば投与しないが,悪寒戦慄を認め,菌血症を疑うような場合は投与するなど,たとえ同じ起因菌であっても,対応が異なる場合もある.

下痢の特殊病態―診断および治療

海外渡航者の下痢(travelers' diarrhea)

著者: 大路剛 ,   岩田健太郎

ページ範囲:P.2008 - P.2010

ポイント

旅行者下痢症の多くは基本的には自然に軽快する疾患であるが,一部寄生虫性のものは遷延することがある.

免疫抑制状態,制酸薬内服中または胃切除後の患者はハイリスクグループである.抗菌薬の予防内服などを含め,外来主治医または専門医の指導が重要である.

下痢を初発症状とする重篤な全身疾患に注意が必要である.

入院患者の下痢

著者: 岡晶子 ,   小林健二

ページ範囲:P.2012 - P.2014

ポイント

入院患者の下痢症で最も多いのは,抗菌薬起因性下痢である.

例外を除き,入院後72時間以上経過した症例では便培養は必要ない(modified 3-day rule).

Clostridium difficile腸炎の診断では,毒素自体の検出が必要である.

抗菌薬以外の原因としては,薬剤起因性や浸透圧性の下痢が鑑別に挙がる.

AIDS患者の下痢

著者: 五味晴美

ページ範囲:P.2016 - P.2018

ポイント

医療面接で詳細かつ必要十分な下痢の情報を得る.

体系的な鑑別診断を挙げる.これには感染症と非感染症がある.

HIV/AIDS特異的なHAARTによる薬剤性,AIDS腸症も考慮する.

確定診断をつける努力を最大限行い,必要に応じ対症療法も考慮する.

術後患者の下痢

著者: 村山章裕

ページ範囲:P.2019 - P.2021

ポイント

手術を行った結果生ずる下痢と,周術期の治療によって起こる下痢を区別する.

下痢は主として胆汁塩・脂肪吸収障害の結果として起こる.

貧血・尿管結石・胆石も合併することを理解する.

周術期の予防的抗菌薬投与は執刀時の組織中濃度が再大になるよう,また投与期間が最低限になるよう注意する.

Clostridium difficileによる下痢

著者: 上原由紀 ,   古川恵一

ページ範囲:P.2023 - P.2025

ポイント

Clostridium difficileは,抗菌薬投与などに伴う腸内細菌の菌交代現象によって増加し,産生するtoxinが下痢を引き起こす.

軽度の下痢から偽膜性腸炎,劇症型腸炎までさまざまな臨床像を示し,致死的となる場合もある.

診断には便中toxin検出や内視鏡,腹部CTが有用である.

治療はメトロニダゾールやバンコマイシンの内服が主となるが,再感染や他の患者への伝播を予防するために接触感染予防策の徹底も必要である.

下痢のエマージェンシー

著者: 下澤信彦 ,   箕輪良行

ページ範囲:P.2026 - P.2028

ポイント

下痢のなかには,頻度は少ないが生命にかかわるものがある.

ありふれた下痢でも,患者の年齢,全身状態,基礎疾患によっては輸液,入院加療を必要とすることがある.

下痢では電解質異常,脱水をきたすことがあり,輸液の基本は細胞外液の補充である.

便秘の診断と一般的な治療

便秘の患者へのアプローチ―初期の評価で注意すべき点

著者: 喜多宏人

ページ範囲:P.2030 - P.2031

ポイント

便秘の原因としては機能性のものが最も多い.

機能性便秘はさらに弛緩性便秘,痙攣性便秘,直腸性便秘,薬剤性便秘に分類される.

便秘の患者をみた場合,イレウスなど緊急に対応すべき状態であるかどうかを判断することが最も重要である.

入院患者における便秘

著者: 遠藤豊 ,   黒木優一郎 ,   江林明志

ページ範囲:P.2032 - P.2034

ポイント

入院患者では,全身性疾患に伴う便秘・薬剤性便秘に注意が必要である.

高齢入院患者では,大腸癌による器質性便秘を除外する必要がある.

女性の便秘患者に対する生活・食事指導

著者: 小橋恵津

ページ範囲:P.2035 - P.2037

ポイント

便秘している女性の年齢層・食生活・生活習慣を理解し,便秘の原因を探ることが重要ある.

随伴症状として重要なのは,腹痛の強さ,腹部膨満感の度合,下痢の有無,血便の有無である.

食事指導の内容は随伴症状によっても異なる.例えば,腹部膨満感の強い人にはゴボウや芋類は控えるように指導することも大切である.

代表的な便秘薬と対症療法の注意点

著者: 鈴木孝良 ,   松嶋成志 ,   峯徹哉

ページ範囲:P.2038 - P.2040

ポイント

便秘の治療にあたる前に,便秘の原因としての背景因子,食習慣,生活習慣や排便習慣などを詳細に問診し,必要があれば改善させることが重要である.

便秘薬の使用は,その性質や作用機序を理解し,病態に合った治療法の選択が大切である.

便秘の特殊病態

妊娠中の便秘

著者: 永田智子

ページ範囲:P.2042 - P.2043

ポイント

妊娠中によくみられるマイナートラブルの一つで,妊娠中のプロゲステロンの増加による腸管平滑筋の運動性低下・弛緩,また子宮の増大に伴う腸管の圧迫に起因すると考えられている.

妊娠中の便秘の治療を行う場合,薬物療法を始める前に適度な運動,繊維成分の多い食事,起床時の牛乳摂取などの水分補給などの生活指導から始める.

無効時には速やかに薬物療法を導入する.初めは塩類下剤から使用し,無効の場合には大腸刺激性下剤を使用する.

刺激性下剤の長期乱用と便秘薬依存性

著者: 小俣富美雄

ページ範囲:P.2044 - P.2045

ポイント

刺激性下剤は,長期投与には適さない.

慢性の便秘に対して非薬物療法が無効な場合,酸化マグネシウムなどの高浸透圧性下剤,あるいはカルメロースナトリウム(バルコーゼ®)などの膨張性下剤を使用すべきである.

刺激性下剤が投与されている患者では,低カリウム血症などを含む「慢性下剤乱用症候群」を念頭に置く.

刺激性下剤への依存からの離脱には,高浸透圧性あるいは膨張性下剤を適時使用する.

便秘のクリティカルケア

著者: 木村裕樹 ,   井村洋

ページ範囲:P.2046 - P.2048

ポイント

便秘は時に死に至る病である!

新たな便秘の出現時にはクリティカルな病態が潜む可能性を忘れてはならない.

排便コントロールを怠ると,恐ろしい結末が待っているかもしれない.

全身疾患に伴う便通異常

著者: 藤野均

ページ範囲:P.2050 - P.2053

ポイント

便秘は,単一でなく複数の要因が絡まって生じることが多い.

患者さんの多くはpoor historianであり,自らの便通異常をうまく表現できないことが多い.

病歴聴取,ポイントをしぼった診察が解決の早道である.

消化管内腔を閉塞する悪性病変の除外は必須である.

内科診療でよく遭遇する便通異常

高齢者の便通異常

著者: 伊藤康太

ページ範囲:P.2054 - P.2056

ポイント

高齢者の便秘と便失禁を,加齢に伴う生理的変化とみなすべきではない.

高齢者で最も高頻度の便失禁は,宿便に伴う溢流性便失禁である.

便失禁が受動性か切迫性かは,鑑別の鍵となる病歴である.

直腸診は高位の宿便を除外するのに十分ではない.

高齢者の便失禁の多くは,適切な治療で改善する.

化学療法中の患者でみられる下痢・便秘

著者: 金井雅史 ,   石黒洋 ,   松本繁己

ページ範囲:P.2057 - P.2059

ポイント

化学療法中に起こる下痢は脱水,電解質異常から致死的になることもあるので,正確な評価と早期の対策が必要である.

化学療法中はさまざまな要因から便秘が起こりやすい.癌の進行に伴う腸閉塞を除外することが重要である.

治療薬の副作用としての下痢

著者: 上田俊秀 ,   三浦総一郎

ページ範囲:P.2060 - P.2061

ポイント

下痢患者では抗生物質,NSAIDs,その他薬剤の服用歴を必ず聴取する.

偽膜性腸炎など,大腸内視鏡検査で特徴的な所見を有するものがある.

原因薬剤の中止のみで軽快するものも多い.

治療薬の副作用としての便秘

著者: 舟越亮寛 ,   上野文昭

ページ範囲:P.2062 - P.2064

ポイント

日常診療で遭遇する便秘には,治療薬の副作用としての医原性の便秘が少なくない.

向精神薬,鎮痛薬,カルシウム拮抗薬などが便秘を誘発する代表的な薬剤である.

便秘を訴える患者の医療面接のなかで,詳細な薬剤服用歴の聴取は必須である.

処方医と相談のうえ,当該薬剤の中止または同様の効果を有する他の薬剤への変更を考える.

神経・精神疾患患者の便通異常

著者: 舌津高秋 ,   金子宏 ,   山本紘子

ページ範囲:P.2065 - P.2067

ポイント

Parkinson病では発症早期から便秘が出現し,進行期ではほぼ必発となる.Parkinson病治療薬は概して腸管運動を抑制する作用があり,便秘を増悪させやすい.

内科を受診するうつ病患者は,いわゆる仮面うつ病として下痢や便秘を主訴とすることも多い.うつ病と過敏性腸症候群の合併も頻度が高い.

抗うつ薬(特に三環系)や抗精神病薬を内服中の患者では,副作用として便秘をしばしば認める.

過敏性腸症候群

著者: 正田良介

ページ範囲:P.2069 - P.2072

ポイント

過敏性腸症候群は,外来診療で遭遇する頻度の高い(一般人口の有病率10~20%),予後良好な機能性の腸管障害の一つである.

適切な病歴聴取により,診断のための不必要な検査を回避し,有効な治療が可能となる.器質的病変はなくても,患者の症状は実在することの認識が前提となる.

生活指導・心理的サポートが治療の基本であり,薬物療法が必要になる患者は必ずしも多くない.

理解のための28題

ページ範囲:P.2073 - P.2078

連載

目でみるトレーニング

著者: 川畑茂 ,   熊野浩太郎 ,   齋尾友希江

ページ範囲:P.2079 - P.2086

問題 463

 症例:76歳,女性.

 主訴:特記事項なし.

 既往歴:特記事項なし.

 生活歴:喫煙歴なし.

 現病歴:6年前まで毎年検診を受けていたが,異常を指摘されたことはなかった.今回検診目的で胸部X線検査を施行したところ異常陰影を指摘され,精査のため紹介となった.

Case Study 診断に至る過程・4

病歴,そして身体所見

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.2106 - P.2108

 本シリーズではCase Studyを通じて鑑別診断を挙げ,診断に至る過程を解説してみたいと思います.どこに着目して鑑別診断を挙げるか,次に必要な情報は何か,一緒に考えてみませんか.

 さて,今回の患者さんです.

病歴&身体所見

34歳,男性

主 訴:発熱,両膝関節炎

現病歴:受診の18日前から発熱と両膝の痛みが出現し来院した.5年前に初めて,左の膝関節炎を患った.他院の整形外科で膝の関節にたまった水(関節液)を抜いてもらって,関節炎は消退した.その後は症状がなかったが,13カ月前に発熱と左膝関節炎が,10カ月前には右膝関節炎と右足関節炎が出現した.いずれも他院の整形外科を再び受診したが,診断はつかなかった.そこで行われた血液検査の結果はWBC 10,100/μl,CRP 6.78mg/dl,リウマチ因子は陰性であったという.3カ月前には右の手関節炎が出現した.今度は他の病院を受診したが,やはり診断はつかなかった.いずれの関節炎のエピソードも非ステロイド系消炎鎮痛薬の内服で,数日から数週で緩解した.よくよく話を聞くと,患者さんは症状に一定のパターンがあるという.最初に咽頭痛が出現し,2~3日後に38℃程度の発熱が認められる.そして4~5日後に関節炎が出現するという.さらに,下肢に圧痛を伴った皮疹も毎回出るという.視力の異常を感じたことはなく,口腔内や陰部にアフタらしきものが出たこともないという.

病理との付き合い方 明日から使える病理の基本【実践編】 11

泌尿器―前立腺

著者: 小山徹也 ,   神原常仁 ,   深堀能立

ページ範囲:P.2087 - P.2092

 前立腺癌の増加が著しい.米国においては前立腺癌の罹患率は男性の罹る癌の第1位を占めているが,本邦においては米国の1/10程度と現時点では少ない.しかし,2005年度版がんの統計によると,前立腺癌の年齢調整罹患率の予測では,2020年には結腸癌を抜き第3位となる勢いである.その原因はいろいろあるが,高齢化,食生活の変化,さらにPSA(prostate specific antigen;前立腺特異抗原)検診の普及による早期癌の発見の増加などが考えられる.前立腺癌はホルモン反応性増殖の性格を有する比較的予後の良い癌であり,ホルモン療法,内部ないし外部からの放射線療法,外科手術およびその組み合わせによるさまざまな治療法がある.このほか,watchful waitingと呼ばれる無治療経過観察や温熱/冷凍療法などもある.治療方針の選択に,病理診断が深くかかわっている.特に癌であるか否かではなく,「どんな種類の腺癌なのか」という病理学的因子が重要である.特に近年ではGleason分類に基づく病理組織分類が基本とされる傾向がある.

 本稿の目的は病理と臨床医師をつなぐメッセージとして企画された.前立腺の検査の概略とそのなかで針生検が選択される場合について,泌尿器科医側から解説し,病理学的にどんな情報がほしいのかまず述べる.それに呼応するように,実際獨協医科大学病院で行われている針生検の方法と依頼票の書き方,報告のしかたについても言及しながら,病理側からGleason分類を中心とした診断の解説を行う.病理と泌尿器科,双方の円滑なコミュニケーションの手助けになればと考えている.

研修おたく海を渡る 12

リフトチーム

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.2093 - P.2093

 前回取り上げたアメリカンフットボールといえば,徹底した分業が特徴です.攻撃チームは攻撃のみに,守備チームは守備のみに専念します.例えば攻撃では,司令塔QB(クオーターバック)を筆頭に,ラインマンはプレーを進めるための壁となり,レシーバーはパスキャッチに,ランニングバックは文字通りランプレーと個々の役割分担がはっきりしています.キックオフ,パントなどのキッキングゲームと呼ばれる戦況のみの要員もおり,キッカーといえば,プレースキックをすべて請け負う仕事人です.キックだけと思われがちですが,これが勝敗を分けるのです.あなどることはできません.

 この徹底した分業化はアメリカでは,医療の世界にもあてはまります.日本のように一人でいくつもの業務をこなす姿はあまり見られません.

東大病院内科研修医セミナー 17

大動脈基部拡大と潰瘍性大腸炎を合併した大動脈炎症候群の心不全例

著者: 小野祥太郎 ,   武田憲文 ,   山下尋史 ,   川畑仁人

ページ範囲:P.2094 - P.2099

Introduction

潰瘍性大腸炎治療後の経過中,腸炎の再燃なく炎症反応が持続したら?

多様な心血管病変を併発したら?

できる医師のプレゼンテーション―臨床能力を倍増するために 9

場所に応じたプレゼンテーション

著者: 川島篤志

ページ範囲:P.2100 - P.2105

例 ・循環器内科のカンファレンス:不安定狭心症の症例で

研修医:主訴は心窩部痛で来院された,ここ数年検診を受けておられない58歳の喫煙男性です.現病歴ですが……(現病歴,ROSなど既に数分経過).

スタッフ:オイオイ.いつになったら検査所見が出てくるの?

研修医:いや,鑑別診断で胆石症や逆流性食道炎も挙げられるかと思ったんですが…….

スタッフ:でも,この症例はすでに心臓カテーテル検査で,虚血性心疾患ってわかってるんでしょ.それより危険因子は?

研修医:あ,まだ検査所見までいってなかったんですが…….身体所見はどうしましょうか?

スタッフ:必要なところだけキッチリ教えて.

研修医:血圧は164/92で,脈拍は110の整でした.(以下,続く……).腹部は平坦,軟で圧痛はありませんでした.Murphy徴候は…….

スタッフ:もう腹部はいいって.前回のクールの研修医から申し送り受けてないの? 

研修医:…….

・ICUの申し送り:間質性肺炎の症例で

研修医:今日,ICUに入室された64歳女性の方です.数年前に膠原病関連の間質性肺炎を指摘され,当院に入院されています.その後,外来にて……(今回の入院に至る病歴で数分経過).

指導医:いつまで,病歴の話してるの? とにかく,間質性肺炎の急性増悪の症例なんだよね.感染が契機になったって入室時は聞いたけど.次にいこう,もう.

 (各臓器ごとのプレゼンテーションに移行し)

研修医:次は,胸部です.聴診では,呼吸音は両側にlate inspiratory cracklesを聴取し,心音では…….

指導医:今,呼吸の話してるんでしょ.呼吸器の条件は? 血液ガスも取ったでしょ.

 (ようやく,呼吸が終わり……)

研修医:あ,次は心臓ですか.えーっと,検査は心エコーをしていただいて…….

指導医:循環のところでは,まずバイタル.次に他の所見.使っている薬剤と順番に言わないと.

研修医:すみません.バイタルは…….(ひと通り,循環も終わり)

スタッフ:今,使っている循環作動薬は?

研修医:えっ.ドパミンが2ml/hrで流れていました.

スタッフ:それは,何γ?

研修医:え,ガンマ? 時間あたり2mlで流していると思いますが…….

指導医:もういい.後はこっちで話さないと,当直の先生に迷惑がかかっちゃうよ.命がかかってるんだからね.

研修医:(シュン……)

 前回までは,新入院患者の入院時のプレゼンテーションについて,お話ししました.これが,基本であることに間違いはありません.しかし第1回で話したように,プレゼンテーションは相手がほしい情報を提供することが求められるので,状況によって話し方を換える必要があります.

 今回は,専門科/ICU/外来と3つに分けてお話しし,次回以降にコンサルテーションや病棟での回診についてお話しします.

しりあす・とーく 第19回

アメリカの医師研修から何を学ぶか?(中編)

著者: 白井敬祐 ,   金城紀与史 ,   大曲貴夫

ページ範囲:P.2110 - P.2116

 日本の医師研修はこの数年急速に変わりつつあるが,アメリカ型臨床研修に学ぶべきものは,まだまだ多い.今回の「しりあす・とーく」では,前号に引き続き,アメリカでの研修経験をもつ3人の医師に,アメリカの医師研修から学ぶべきものを,日本の医療の現状を踏まえながら語っていただいた.

(前号よりつづく)

症例への曝露のされ方

 白井 日米の医師臨床研修を比較すると,追体験する症例の数は,圧倒的にアメリカのほうが多いです.必ずしも自分が診るわけではないけれども,当直の間にカバーしたり,モーニングレポートで他の人のプレゼンを聞いたりすることで,まるで自分の患者のように頭を使って考えなければなりません.そのようなトレーニングを受ける数は,アメリカのほうが多いと思います.

毎日の申し送りというのを,私は日本では経験しませんでした.私が自分で研修していたときは,極端な話,自分の患者に何か起こったら,起こってからどうするか考えようという感じでした.十数人の担当患者のリストがあっても呼び出されてから対応するという生活をしていたけれども,アメリカの場合には,その十何人について,申し送りのため毎日それなりのまとめをしてから帰らないといけません.それが貴重なシミュレーションになります.逆に自分が当直のときは,4~5人のインターンから申し送りをドーッと受けるので,「こういう患者を診るんだ」「こういう経過もあるんだ」ということを,大まかだけれども知ることができます.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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