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雑誌目次

雑誌文献

medicina43巻7号

2006年07月発行

雑誌目次

今月の主題 血液腫瘍はどこまで治し得るのか Editorial

治療の最終目標

著者: 杉浦勇

ページ範囲:P.1060 - P.1062

ポイント

治療の最終目標は治癒である.

血液腫瘍の主だったものは内科的治療のみで治癒が望み得る.

治癒が望めない場合にも目指すべき治療の目標は存在する.

医学的最良の治療が医療としての最良の治療とは限らない.個々の患者に最良の治療を探すのが普遍的目標である.

血液腫瘍の治療目標と戦略

診断の基本戦略

著者: 小杉浩史

ページ範囲:P.1064 - P.1068

ポイント

血液腫瘍は高い寛解率の達成可能な疾患であり,単に病理確定診断と臨床病期診断を得ることでは不十分である.

予後リスク別層別化治療が標準的治療として行われるため,画像診断・表面抗原検索,染色体解析・遺伝子診断などにより予後リスク診断が必要である.

分子診断の重要性が高まりつつある.

治療の基本戦略

著者: 神田善伸

ページ範囲:P.1069 - P.1071

ポイント

血液腫瘍の一部は化学療法によって根治を目指すことができる.全身疾患であることからも治療の中心は化学療法となる.

しかし,根治を目指すか,緩和的治療を行うかなどの治療の目標は,診断,年齢,全身状態などを考慮して,総合的に判断しなければならない.

臨床的に完全寛解が得られても多数の腫瘍細胞が残存しているため,根治を目指す場合には一定期間の治療の継続が必要である.

造血器腫瘍の診断と治療のトピックス

著者: 木下朝博

ページ範囲:P.1072 - P.1074

ポイント

造血器腫瘍の新しい分類,WHO分類が定着しつつある.

DNA microarrayなどを用いた研究によって,新たな疾患の同定や病態の解明などが進歩している.

分子標的治療が飛躍的に進歩している.代表的な小分子物質薬剤としては,慢性骨髄性白血病(CML)に対するイマチニブ,急性前骨髄球性白血病(APL)に対するATRAや砒素,多発性骨髄腫(MM)に対するサリドマイド,ボルテゾミブ,レナリドミドがある.モノクローナル抗体治療薬としてはリツキシマブや放射性同位元素標識抗CD20モノクローナル抗体などがある.

造血幹細胞移植は,幹細胞ソースや移植前処置の多様化によって大きな進歩を示している.

血液腫瘍の診断法

染色体異常の診断

著者: 野村憲一 ,   藤本佳子

ページ範囲:P.1076 - P.1078

ポイント

造血器腫瘍と染色体異常は密接な関係にある.

染色体異常の検出においては,G分染法が基本である.

FISHがG分染法の欠点を補う.

SKYが有効な症例がある.

細胞形態学的診断

著者: 波多智子

ページ範囲:P.1079 - P.1080

ポイント

WHO分類においては骨髄中の芽球が20%以上を急性白血病とする.

2血球以上において50%以上の形態異常を認める症例は,多血球系異形成を伴うAMLのカテゴリーに分類される.

WHO分類におけるその他のAMLの分類はFAB分類に従っており,形態診断はWHO分類においても診断の基本となる.

細胞免疫学的診断

著者: 鈴木律朗

ページ範囲:P.1082 - P.1089

ポイント

表面マーカーなどの細胞免疫学的診断は,時に形態学以上の知見をもたらす.

しかしながら例外は常に存在する.

このため,形態学的所見の収拾を怠ってはならない.あくまで補助的に用いるべきである.

微小残存病変の分子生物学的検出

著者: 玉置広哉

ページ範囲:P.1091 - P.1093

ポイント

寛解時の患者体内にある,光学顕微鏡では検出困難な白血病細胞を微小残存病変(minimal residual disease:MRD)という.

発症時に白血病特有の染色体転座・遺伝子変異を同定しておくとMRDの追跡に役立つ.

特にWT1遺伝子の発現レベルはMRDマーカーとして多くの白血病で利用できる.

治療効果を判定する統計学的基礎知識

著者: 熱田由子

ページ範囲:P.1094 - P.1098

ポイント

生存解析は「生存時間解析」とも呼ばれ,時間軸の設定が重要である.

対象・起算日・評価項目それぞれの設定時に注意点がある.

群間比較する際の群分け方法は,比較するために妥当な方法である必要がある.

p値のみで解析結果を判断してはいけない.

血液腫瘍の治療法

化学療法―自家末梢血幹細胞移植を含めて

著者: 岡部起代子 ,   岡本昌隆

ページ範囲:P.1099 - P.1102

ポイント

血液腫瘍は化学療法が最も良好な治療成績を得た腫瘍の一つである.

予後に最も重要であるのは,初回寛解導入化学療法の治療効果である.

自家造血幹細胞移植併用大量化学療法は単独では治療効果は限られ,地固め・強化療法としての役割が期待される.

予後予測モデルに基づく層別化と,化学療法を中心とする集学的治療が求められる.

同種造血幹細胞移植―標準的同種移植,ミニ移植,臍帯血移植

著者: 成松宏人

ページ範囲:P.1104 - P.1106

ポイント

同種造血幹細胞移植は血液腫瘍に対する根治的治療法である.

強力な前処置とgraft-versus-malignancy 効果にて強力な抗腫瘍効果を発揮する.

近年の移植方法の進歩および幹細胞源の多様化により,その適応が広がりつつある.

免疫療法

著者: 渡辺隆

ページ範囲:P.1107 - P.1110

ポイント

キメラ型抗CD20抗体は,低悪性度B細胞リンパ腫に対して化学療法と併用することにより,高い奏効率を示す.

キメラ型抗CD20抗体はaggressive B細胞リンパ腫に対しても有効で,CHOP療法と併用することにより,生存率の上でも寄与する.

放射性同位元素抱合型マウス抗CD20抗体は,毒性が一過性で,高い奏効率を示す.

分子標的療法

著者: 清井仁

ページ範囲:P.1111 - P.1113

ポイント

分子標的療法は,腫瘍細胞において破綻している分子機構を標的とする治療法である.

分子標的療法においては,標的分子と標的方法,さらに対象とする病型の選択が重要である.

分子標的薬を理解するうえで,その薬剤の標的理論(proof of concept)と治療上の妥当性(proof of principle)を検証していくことが肝要である.

支持療法の進歩

著者: 吉田稔

ページ範囲:P.1114 - P.1116

ポイント

感染予防ではニューキノロン薬やフルコナゾールなどが投与される.

発熱性好中球減少症に対しては広域抗菌薬(セフェムやカルバペネム)の経験的治療を行う.

広域抗菌薬不応性発熱に対しては抗真菌薬(ミカファンギン,アムホテリシンB)の経験的治療を行う.

侵襲性アスペルギルス症に対する有効な薬剤が開発された(ボリコナゾール,リポソームアムホテリシンB).

治癒可能な血液腫瘍

急性骨髄性白血病

著者: 横澤敏也

ページ範囲:P.1117 - P.1120

ポイント

急性骨髄性白血病(AML)の診断は,形態,マーカー,染色体を用いて総合的に行う.

予後因子は年齢と染色体異常である.

治療は寛解導入療法と寛解後療法に分けられ,寛解後療法には化学療法と造血幹細胞移植がある.

t(8;21),inv(16)は予後良好群であり,化学療法のみで長期生存を期待できる.

予後中間群・不良群では,第1寛解期に同種造血幹細胞移植の適応がある.

高齢者AMLの予後は不良であり,今後の新規治療法の開発が必要である.

急性前骨髄球性白血病

著者: 恵美宣彦

ページ範囲:P.1122 - P.1124

ポイント

急性前骨髄球性白血病(APL)の芽球は,細胞質に多数のアズール顆粒とAuer小体を持ち,FAB分類でM3に分類される.

初発症例は,播種性血管内凝固症候群(DIC)を伴う出血傾向で受診することが多く,血液検査では汎血球減少を示すことが多い.

治療薬は,分子標的治療薬であるレチノイン酸からヒ素まで,興味ある薬剤が主体となる.レチノイン酸と化学療法の併用により5年生存率が約70%を示す.

Ph陰性急性リンパ性白血病

著者: 矢ケ崎史治

ページ範囲:P.1125 - P.1129

ポイント

思春期ALL(急性リンパ性白血病),Ph-ALL,Burkitt typeに対し個別の治療が行われる.

思春期ALLに対しては小児プロトコールの優位性が示唆されている.

Burkitt lymphoma/leukemiaに対してはメトトレキサート大量とシクロホスファミド分割投与による短期強力療法が有効である.リツキサンの併用が予後を改善する可能性がある.

予後不良ALLでは第一寛解期で移植治療が行われる.

慢性骨髄性白血病

著者: 宮村耕一

ページ範囲:P.1130 - P.1133

ポイント

慢性骨髄性白血病はt(9;22)によりBCR-ABL融合産物ができ白血球が増加する.

BCR-ABLのmRNAを定量することにより10-6レベルまで治療をモニターできる.

イマチニブはBCR-ABLのリン酸化を抑えることにより白血病細胞を減らす分子標的薬である.

Hodgkinリンパ腫

著者: 鏡味良豊

ページ範囲:P.1134 - P.1137

ポイント

Hodgkinリンパ腫の化学療法は有効性,安全性から,ABVD療法が標準的治療となっている.

限局期は,ABVD療法4コースと区域照射の併用が標準治療である.

進行期では,ABVD療法6~8コースが標準治療である.

再発,難治性症例では,多剤併用救援化学療法に引き続き,造血幹細胞移植併用の大量化学療法を行うことにより,無増悪生存率の向上が期待できる.

びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫

著者: 永井宏和

ページ範囲:P.1139 - P.1142

ポイント

びまん性大細胞型B細胞性リンパ腫(DLBCL)は最も頻度の高い悪性リンパ腫である.症例により表面マーカーや遺伝子異常などを含め病態が異なることも多く,heterogenityのある疾患群である.

DLBCLの治療法は限局期,進行期ともCHOP療法を基本としている.

CD20を細胞表面にもつDLBCLに対しては,抗CD20抗体であるリツキシマブが有効である.

胃原発MALTリンパ腫

著者: 中村常哉 ,   田近正洋 ,   河合宏紀

ページ範囲:P.1144 - P.1146

ポイント

MALTリンパ腫とは,粘膜関連リンパ組織(MALT)を発生母地とする低悪性度の悪性リンパ腫である.

粘膜上皮腺管が破壊されるリンパ上皮性病変(LEL)が特徴的である.

限局期胃MALTリンパ腫の60~80%がH.pylori除菌で消失する.

t(11;18)(q21;q21)転座を有するものは除菌に反応しない.

除菌に反応しないものに対する二次治療は,以前は胃全摘であったが,最近は放射線治療が普及しつつある.

長期コントロール可能な血液腫瘍

濾胞性リンパ腫

著者: 西尾充史

ページ範囲:P.1147 - P.1149

ポイント

濾胞性リンパ腫は臨床的には無症候性に進行し,診断時より進行期症例が大多数を占める.

さまざまな治療法に対して一時的には反応するが,再発を繰り返し,結局は治癒を望むことができない疾患,とされてきた.

リンパ腫細胞の表面に発現されるCD20を標的としたリツキシマブの登場により,その治療体系が大きく変化しようとしている.

多発性骨髄腫

著者: 矢野寛樹 ,   飯田真介

ページ範囲:P.1150 - P.1153

ポイント

65歳以下であれば自家末梢血幹細胞移植を併用した大量化学療法を行う.

長期の生存が期待できるが治癒は望めず,QOLを維持しながら生存期間の延長を図るのが治療目標である.

MGUSや無症候性骨髄腫に対しては,治療を行うメリットはない.

慢性リンパ性白血病

著者: 青木定夫

ページ範囲:P.1155 - P.1159

ポイント

慢性リンパ性白血病はCD5, CD23陽性の成熟小型Bリンパ球の腫瘍性増殖性疾患である.

経過は緩徐ですぐに治療が必要でない場合が多いが,治癒を得ることも難しい.

治療はプリンアナログの一つのフルダラビンの単独療法が第一選択である.

二つのsubgroupに分けられ,白血病細胞の体細胞変異のないもの,細胞質内ZAP-70陽性例の予後が悪い.

染色体異常では17p-,11q-をもつものの予後が悪く,13q-では予後が良い.

治癒が期待できない血液腫瘍

Ph陽性急性リンパ性白血病

著者: 柳田正光

ページ範囲:P.1161 - P.1163

ポイント

フィラデルフィア(Ph)染色体は成人急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia:ALL)において最も頻度の高い染色体異常である.

Ph陽性ALLの予後はきわめて不良であり,通常の化学療法で治癒に至ることはきわめて稀である.

治癒指向の治療法として唯一確立されているのが同種造血幹細胞移植である.

近年研究が進められているイマチニブ併用化学療法は有望な治療法であり,さらなる研究の推進が期待される.

骨髄異形成症候群 RAEB型

著者: 緒方清行

ページ範囲:P.1164 - P.1166

ポイント

骨髄異形成症候群(MDS)は高齢者に多く,血球減少・造血細胞の形態異常(異形成)・無効造血を主徴とする造血幹細胞由来の腫瘍である.

RAEBはMDSの一病型であり,進行性の血球減少に加え,約3割が白血病化する.

同種幹細胞移植は唯一治癒が期待できる治療だが,副作用が大きく適用できる症例は限られている.

成人T細胞白血病・リンパ腫

著者: 宇都宮與

ページ範囲:P.1169 - P.1171

ポイント

成人T細胞白血病・リンパ腫(ATL)はhuman T-lymphotropic virus type 1が原因で発症する.

ATLは化学療法に抵抗性であり,免疫不全も伴い,予後はきわめて不良である.

近年,同種造血幹細胞移植により予後の改善が得られつつある.

モノクローナル抗体やnuclear factor κ-B阻害薬などの分子標的薬剤による治療が期待されている.

予後不良のリンパ腫―Burkittリンパ腫,マントル細胞リンパ腫,末梢T細胞性リンパ腫,NK/T細胞性リンパ腫

著者: 伊豆津宏二

ページ範囲:P.1172 - P.1175

ポイント

Burkittリンパ腫はCODOX-M/IVAC療法などの適切な治療選択により進行期でも治癒が期待できる.

マントル細胞リンパ腫はR-CHOP療法による長期予後は不良であるが,R-hyper CVAD/MA療法や,in vivo purgingを用いた早期の自家移植による予後改善が期待されている.

限局期NK/T細胞リンパ腫では十分量の放射線治療と化学療法を早期に行うことが必要である.

一般医が行う血液腫瘍患者へのプライマリケア

基本的検査の理解と習得―血液像,骨髄穿刺法とリンパ節生検

著者: 竹尾高明

ページ範囲:P.1176 - P.1178

ポイント

末梢血の血液像報告には,自動分析によるものと目視による再検を経たものがある.

血算報告書に添えられたコメントを平素から確認する癖をつける.

研修医,一般内科医にとっては後腸骨稜での骨髄穿刺が望ましい.また,作成標本の質にも留意することが必要である.

リンパ節生検については,事前に検体処理に関する明確な指示を出しておく.

一般医が行う血液腫瘍患者へのプライマリケア

著者: 村山徹

ページ範囲:P.1180 - P.1182

ポイント

血液腫瘍の症状には特異的でないものが多いので,重篤感を感じたら血液検査を行う.

診断用の検査は無駄にならないように専門医と連携して行う.

対応を急ぐ合併症をもっている場合は一般医の段階から対応する.

長期寛解中の患者はポイントを押さえれば一般医でも十分に経過観察できる.

固形癌と血液腫瘍の診かたの違い

著者: 神谷悦功

ページ範囲:P.1184 - P.1186

ポイント

血液腫瘍と固形癌の大きな違いは,疾患の進行速度と抗癌剤に対する感受性である.

血液腫瘍は固形癌と異なり進行が速いものが多く,確定診断までにスピードが要求される.

早期固形癌の治療は手術が中心となるが,血液腫瘍では早期であっても抗癌剤治療を必要とすることが多い.

oncologic emergenciesの場合,血液腫瘍では抗癌剤治療が優先されるが,固形癌では対症療法を優先する.

インターネットで調べる血液腫瘍の常識

著者: 鈴木律朗

ページ範囲:P.1188 - P.1191

ポイント

現在では,想像以上に多くの情報がインターネットで入手可能である.

論文発表よりも最新かつ詳細な情報が手に入ることがあるので,検索に力を入れるべきである.

臨床血液腫瘍のおもしろさ

著者: 鈴宮淳司

ページ範囲:P.1192 - P.1195

ポイント

臨床血液腫瘍が専門の医師は忙しくて大変であります.しかし,おもしろいのです.治癒を目指した内科的治療が行えること,急性白血病や慢性白血病のように病態も治療も多様であること,一人で自己完結できる病気も他科とのチーム医療も経験できることです.そして最大の理由はベッドサイドにサイエンスがあることです.

理解のための31題

ページ範囲:P.1197 - P.1203

Scope

患者中心の医療を実現するために―倫理的問題への実践的アプローチ

著者: 吉田雅幸

ページ範囲:P.1204 - P.1206

 近年,科学技術の社会・経済に与える影響が拡大するにつれて,社会のなかに科学技術をどう適応させるかという視点が求められている.医療の分野においても先端生命科学技術の応用については当該技術の専門家および技術を使う側の人間によって,ヒトに適応する妥当性が倫理的かつ科学的に検討されている.先端生命科学技術の革新的進歩はまた生命科学そのものの考え方や倫理観にも影響を与えているのである.

 しかしながら,加速化する生命科学の進歩がそれをとりまく社会に及ぼす倫理的問題についての取り組みは十分とはいえない.いわんや,一般臨床の現場において倫理という視点が注目される局面は驚くほど少ない.しかし倫理という視点は先端生命科学分野においてのみ重要なものではなく,むしろ日常臨床の治療方針に生かされて社会的な意味をもつものである.したがって,昨今キーワードとなっている『患者中心の医療の実践』を目指すためにも,倫理的問題についてのアプローチは臨床現場での対応に変換・適応されなくてはならない.昨年,東京医科歯科大学に設置された生命倫理研究センターでは,倫理的問題へのアプローチについてその具体的方策を検討することになっている.

連載

目でみるトレーニング

著者: 武政聡浩 ,   岸田堅 ,   南留美

ページ範囲:P.1207 - P.1214

問題 448

 症例:26歳,女性.

 主訴:乾性咳嗽.

 既往歴:特記事項なし.

 生活歴:職業;会社員(デスクワーク),喫煙歴なし,ペット飼育歴なし.

 現病歴:生来健康であった.2005年9月の健康診断では胸部X線写真で異常を指摘されなかった. 10月初旬より乾性咳嗽出現し,市販薬を内服したが改善せず,10月28日に近医を受診した.感冒として治療されたが改善せず,11月2日の胸部X線写真で異常を指摘された.クラリスロマイシン(クラリス®)400mg/日の内服で7日間治療したが,咳嗽は中等度改善したものの胸部X線写真で陰影に改善なく,11月8日に紹介受診された.

病理との付き合い方 明日から使える病理の基本【実践編】 6

肝臓,胆道系,膵臓

著者: 西川祐司

ページ範囲:P.1215 - P.1219

病理組織(細胞)診断の対象となる肝・胆・膵疾患

 まず,どのような肝・胆・膵疾患が日常の病理診断の対象になるのかを概観してみよう.

 1. 肝臓

 針生検の対象となる代表疾患はB型およびC型肝炎ウイルスによる慢性肝炎である.自己免疫性肝炎,アルコール性肝炎,非アルコール性脂肪肝(non-alcoholic steatohepatitis:NASH),肝硬変,原発性胆汁性肝硬変(primary biliary cirrhosis:PBC),原発性硬化性胆管炎(primary sclerosing cholangitis:PSC)などに対しても針生検が行われる.また,肝アミロイドーシスやリソソーム病などの蓄積症の診断にも有用である.さらに,肝移植後の拒絶反応の評価には生検は欠かせない.肝腫瘍,特に肝癌は,画像診断で確診できない場合に,病変からの生検が行われる.転移性肝癌は肝部分切除検体として提出されることが多い.

東大病院内科研修医セミナー 12

発熱,皮下出血で発症し,海外渡航歴からデング出血熱と診断された人工弁置換術後の症例

著者: 野尻剛史 ,   山下尋史 ,   貫井陽子 ,   畠山修司

ページ範囲:P.1220 - P.1224

Introduction

弁膜症を有する患者の発熱で注意することは何か?

海外渡航歴のある患者の発熱をみたら?

研修おたく海を渡る 7

EBM(Evidence Based Medicine)

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.1225 - P.1225

 1990年代の後半から日本でもEBMという言葉が,少しずつ取り上げられるようになったのを覚えています.横須賀の米海軍病院に応募するときのPersonal Statementにも,EBMを身につけたいなどと書きました.

 ところで米国の研修の現場ではEBMはどんな感じなのでしょうか.ある指導医から,「学生は教科書をしっかり読みなさい」「インターンはあれやこれや忙しいので,耳年増になれればいい.無理せずに指導医や上のレジデントから聞いたことを身につければ,それで十分だ」「レジデントは雑用から解放された時間をreviewを読んだり,さらに余裕があればオリジナルの文献にあたることに使いなさい.そして自分の進路を決めなさい」と言われたのが非常に印象に残っています.

できる医師のプレゼンテーション―臨床能力を倍増するために 4

プレゼンテーションのフォーマット(各論1)―主訴・プロファイル・現病歴・ROS

著者: 川島篤志

ページ範囲:P.1226 - P.1232

例 ・ある日のカンファレンスで

 研修医:80歳の方で,主訴は胸痛です.

 (聴衆):(虚血性心疾患のリスクも高いかもしれないな.既往歴を聞いておこう)

 (聴衆):(80歳だと脳血管障害とか起こしてそうだな.どんなADLだろ?)

 (聴衆):(お年寄りのおばあさんは腰も曲がってて,膝も悪いんだろうな.退院設定も大変そうかもな)

 研修医:現病歴です.マラソン大会のスタートで,若い人と激しく胸をぶつかった後から…….

 (聴衆):……(え,そんな元気な方なの?).

 研修医:(プロファイルまで終了).現病歴です.3月29日に発熱で近医を受診した際の血液検査の結果ですが,白血球が9,500でCRPが5.3でした.それで抗生物質投与で経過をみられていましたが,改善が認められないため,昨日,近医を再受診しています.胸部X線をとられ,肺炎や気管支炎などが疑われています.結核や肺癌も否定できないといわれていたそうです.それで本日当院を受診するようにいわれたそうです.当院外来に紹介になったときに,身体所見上,右肺にpan-inspiratory cracklesを認め…….検査では,白血球も15,000,CRPが15.2に上がっており…….本人の呼吸困難も増強しており,本日4月2日に入院となりました.それで検査所見ですが…….

 指導医:……(あ,今は現病歴をしゃべってたのか!あれ,発症は何日前だったっけ?).

 前回は総論を述べました.今回から3回にわけて各論をお話しします.

医療事故を防ぐ! 対策を絵に描いた餅としないために 7

インスリンを上手に使おう

著者: 本村和久

ページ範囲:P.1233 - P.1235

インスリン使用の現状

 血糖コントロールのためのインスリンの使用法は,医師によってさまざまである.患者さんの病態に応じて使い分けているのが主な理由であると思うが,低血糖,高血糖などの緊急時インスリン使用についても,慢性期の同じような病態(中心静脈栄養時など)でもばらつきがあり,複雑な指示を受ける看護師は大変である.業務が複雑だと医療事故につながる.医師のわかりにくい指示で害を被るのは患者さんである.例えば,下記のような事例であろうか.

ある問題ケース

 患者さん65歳男性,糖尿病歴15年,HbA1cが8.0とコントロールは悪い.今回,細菌性肺炎で入院,指導医は感染症があると血糖コントロールが不良になると考え,スライディングスケールを研修医に指示,1日3回の血糖測定を行うことになった.血糖は300前後と高かったが,研修医は「血糖300mg/dlで速効性インスリン2単位皮下注」のような甘い基準のスライディングスケールを使用した.血糖はコントロールされず,指導医の回診で厳格なスライディングスケールを使用したところ患者さんは低血糖に.また,新たなスライディングスケールを使用したが,この指示を看護師が勘違い,最初のスライディングスケールが使用され,患者さんの血糖はまた300台に後戻りした.

しりあす・とーく 第16回

内科ローテーションで何を学ぶか?―検証!新医師臨床研修制度(中編)

著者: 前野哲博 ,   鳥居秀成 ,   下山祐人 ,   石丸裕康

ページ範囲:P.1236 - P.1245

 新臨床研修制度が実施されて2年が経過し,必修化後初となる研修修了者が誕生した.新制度の目玉とも言える「スーパーローテーション研修」は研修医,指導医にどのようなインパクトを与えたのだろうか? 一巡した新医師研修制度を検証する本企画・中編では,すべての研修医に「必修」とされた「内科ローテーション」について,研修医,指導医両方の立場からご議論いただいた.

(前号よりつづく)

研修医はどのように内科ローテーションをしたか?

 前野 新しい医師臨床研修制度では,すべての研修医が内科ローテーションを行いますが,指導医にとっては,特に内科志望者以外に,何をどこまで教えるかということは大きな悩みです.

 そこでまず,内科のローテーションではどういうことを学んだか,またはどういうつもりで回ったかを,研修を終了されたばかりのお2人にお聞きしたいと思います.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻12号(2023年11月発行)

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59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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