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雑誌目次

雑誌文献

medicina44巻6号

2007年06月発行

雑誌目次

今月の主題 認知症のプライマリケア

著者: 宇高不可思

ページ範囲:P.1039 - P.1039

 認知症(痴呆症)とは,一定水準にまで発達した知能が後天的な疾患により障害され,生活に支障をきたすようになった状態である.原因疾患のうちで最も多いものは神経変性疾患であるアルツハイマー病,脳血管障害による血管性認知症の二者であり,レビー小体型認知症がそれに次ぐ.治療可能なものもあるが,大部分は緩徐進行性で,生命予後も数年ないし十年程度に過ぎない.進行につれて周辺症状やADLの低下をきたすため,周辺症状の緩和,ADLを少しでも長く維持すること,介護負担の軽減が主な課題となる.

 85歳ぐらいまで長生きすると1/3ないし半数もの人がアルツハイマー病を発症するといわれる.その原因はまだ完全には解明されていないが,注目されるのは,生活習慣病としての側面,すなわち脳血管障害の危険因子である高血圧や糖尿病,高脂血症などがアルツハイマー病の危険因子でもあるらしいことである.アミロイド仮説に基づく原因療法のほかに,血管系危険因子への治療介入によって発症,進展を多少とも抑制できる可能性が開けてきたことは,大いに期待されよう.

Editorial

なぜ認知症が重要か?

著者: 宇高不可思

ページ範囲:P.1040 - P.1041

認知症がなぜ重要か?その理由はいくつもある.

(1)患者数がきわめて多いこと

 認知症は,もはやメタボリックシンドロームなどと同様に,common diseaseとなった.現在の患者数は160~180万人,有病率は65歳以上の8~10%程度といわれるが,年齢別にみると,大雑把にいって,60歳台で1%,70歳台で5%,80歳台で20%,85歳以上では30%以上もある.“長生きの先には認知症が待ち受けている”のである.

認知症とは

認知症の定義,病態,分類と疫学

著者: 和田健二 ,   中島健二

ページ範囲:P.1042 - P.1043

ポイント

●認知症は後天的な要因によって慢性的に認知機能が低下した状態である.

●内科的疾患や抗精神病薬・抗癌剤などの薬物内服により認知症を呈することがある.

●本邦において認知症は増加しており,アルツハイマー型認知症は脳血管性認知症を上回っている.

認知症と似て非なる病態―加齢による物忘れ,抑うつ,せん妄

著者: 北村伸 ,   岩本将人

ページ範囲:P.1044 - P.1046

ポイント

●加齢による物忘れは,体験の一部分を忘れており,生活には支障がない.

●抑うつでは,記憶障害は軽度であるが,認知症との鑑別が難しいことがある.

●せん妄は意識障害を伴い,一過性で,何らかの身体疾患や環境の変化などが関係している.

MCI(mild cognitive impairment,軽度認知機能障害)とは

著者: 水上勝義

ページ範囲:P.1048 - P.1051

ポイント

●MCIはアルツハイマー病の前駆状態を意識して提唱された概念である

●MCIの原因は多岐にわたり,なかには認知機能が回復する例もある.

●amnestic MCIにアルツハイマー病の前駆例が多く含まれる.

認知症診療の進め方

どういう場合に認知症を疑うか

著者: 繁田雅弘

ページ範囲:P.1052 - P.1054

ポイント

●問診で気づきやすい認知症の症候として,記憶障害と失語が挙げられる.

●診察室以外でも,スタッフが患者の失敗から認知症に気づくことができる.

●仕事や趣味における失敗から,本人が認知症の徴候に気づくことができる.

認知症の精神症候―中核症状と周辺症状

著者: 福原竜治 ,   池田学

ページ範囲:P.1056 - P.1059

ポイント

●「認知症の行動と心理症状(behavioral and psychological symptoms of dementia:BPSD)」は認知症の診断と治療上,重要な症状である.

認知症に伴う神経症候

著者: 森松光紀

ページ範囲:P.1060 - P.1063

ポイント

●神経症候の把握には,詳細な神経診察が必要である.

●前頭葉症候,錐体路・錐体外路・小脳・自律神経系について分析する.

●神経症候が前景に立つ疾患でも,認知症が潜在しうることに留意する.

認知症の身体的合併症と対策

著者: 岩本俊彦 ,   中井利紀 ,   木村明裕

ページ範囲:P.1064 - P.1066

ポイント

●認知症の身体的合併症には,認知症に起因するものと,それに罹患した高齢者に由来するものとがある.

●認知症性高齢者には総合的機能評価を行い,予見的洞察力,チーム医療をもってトータルケアを施す.

外来における認知症診療の進め方

著者: 羽生春夫

ページ範囲:P.1067 - P.1069

ポイント

●物忘れが病的か生理的か,原因疾患は何か,重症度はどの程度か,を念頭に置いて問診を進める.

●発症や進行様式,一般内科的,神経学的診察後に,必要に応じて補助検査や画像検査を加える.

神経変性疾患(アルツハイマー病など)による認知症

アルツハイマー病の臨床症候と自然経過,予後

著者: 下濱俊

ページ範囲:P.1071 - P.1073

ポイント

●アルツハイマー病の臨床症候は,認知機能の障害,精神症状や行動の異常,身体症状に分けられる.

●病状は初期から中期,末期へと進行し,物忘れの初発症状出現からの平均生存期間は約10年と報告されている.

アルツハイマー病の臨床診断―画像

著者: 松田博史

ページ範囲:P.1074 - P.1077

ポイント

●アルツハイマー病早期では,海馬傍回を中心とする内側側頭部の萎縮がみられる.

●アルツハイマー病早期では,帯状回後部から楔前部の血流・代謝の低下がみられる.

●早期の画像診断には,画像統計解析手法が有用である.

アルツハイマー病の臨床診断―バイオマーカー

著者: 浦上克哉 ,   谷口美也子

ページ範囲:P.1078 - P.1081

ポイント

●髄液中リン酸化タウ蛋白測定は,現在最も精度の高いバイオマーカーと考えられる.

●髄液中WGA結合糖蛋白はアルツハイマー病とタウオパチーの鑑別に役立つ可能性がある.

●タッチパネル式コンピュータを用いた認知症の簡易スクリーニング法は,負担が少なく,容易に検査が可能で,認知症のスクリーニングに有用である.

アルツハイマー病の危険因子と予防の可能性

著者: 玉岡晃

ページ範囲:P.1082 - P.1085

ポイント

●アルツハイマー病の遺伝的危険因子として,アポリポ蛋白Eの遺伝子多型ε4,21番染色体のトリソミーや重複などがある.

●虚血性脳血管障害とアルツハイマー病との危険因子の共有を報告する疫学調査がみられるのみでなく,アルツハイマー病と血管性因子の関連を示唆する臨床病理学的知見も多い.

●高血圧,糖尿病をはじめアテローム血栓性動脈硬化症の危険因子はアルツハイマー病のリスクも増加させるため,これらを抑制することがアルツハイマー病の予防のためにも重要である.

●魚や抗酸化物質の摂取などはアルツハイマー病のリスクを減少させるため,これらの促進も必要である.

●トリヘキシフェニジルなどの抗コリン作用を有する薬物は認知症様症状を惹起することがあり,特に慎重な投与が必要である.

アルツハイマー病治療ガイドラインの概要

著者: 中村重信

ページ範囲:P.1086 - P.1090

ポイント

●アルツハイマー病治療ガイドラインに基づく治療はケアの質を高める.

●アルツハイマー病治療ガイドラインは患者・介護者の生活を改善する.

●ガイドラインに基づいたアルツハイマー病の治療をするように心がける.

アルツハイマー病の病態と薬物治療―現状と展望

著者: 中村祐

ページ範囲:P.1092 - P.1094

ポイント

●アルツハイマー病では脳内のアセチルコリンが減少しており,塩酸ドネペジルなどのアセチルコリンエステラーゼ阻害薬が進行抑制に有効である.

●老人斑はアミロイド蛋白の蓄積により生じたものであり,この病態に対して薬物が開発中である.

アルツハイマー病の非薬物治療

著者: 菅野圭子 ,   森永章義 ,   鈴木絵里子 ,   山田正仁

ページ範囲:P.1096 - P.1099

ポイント

●アルツハイマー病に対する非薬物治療の目標は,認知機能障害や社会的機能障害などの軽減と生活の質の改善にある.

●非薬物治療のアプローチ対象は,行動,感情,認知,刺激の4つに大別される.

●現在のところ,治療効果が十分実証されたものは少なく,さらなるエビデンスの構築が必要である.

アルツハイマー病以外の変性疾患による認知症―レビー小体型認知症,前頭側頭葉変性症,進行性核上性麻痺,皮質基底核変性症

著者: 西尾慶之 ,   森悦朗

ページ範囲:P.1100 - P.1104

ポイント

●認知症の鑑別診断には,認知障害および行動異常の特徴の把握,随伴する神経学的所見の特徴の把握が必須である.

●MRIやSPECTなどの画像所見が診断確定において重要な役割を果たす.

●抗コリンエステラーゼ薬,レボドパ,抗うつ薬,非定型抗精神病薬などを用いた対症療法が中心となる.根治療法は現在のところ存在しない.

血管性認知症

血管性認知症の症候と画像診断

著者: 高橋智

ページ範囲:P.1106 - P.1109

ポイント

●血管性認知症は基盤になる脳血管障害の病理に基づいて,大梗塞による認知症,多発梗塞性認知症,Binswanger型認知症などに分類される.

●血管性認知症は不均衡な認知機能障害と特徴的な神経症状の合併が診断に有用である.

血管性認知症の病態と予後

著者: 冨本秀和

ページ範囲:P.1110 - P.1113

ポイント

●血管性認知症は異質な原因による症候群で,大血管病変による多発梗塞性認知症(MID),小血管病変による皮質下血管性認知症(SVD),strategic single infarct dementiaを含む.

●血管性認知症では実行機能障害が主で,健忘は軽度である.

●MIDは突然発症し,SVDは血管性の軽度認知機能障害(MCI)から移行することが多い.本邦ではラクナ梗塞,白質病変からなるSVDが多い.

●血管性認知症の生命予後はアルツハイマー病より悪い.

血管性認知症の危険因子と予防

著者: 宮地隆史 ,   松本昌泰

ページ範囲:P.1114 - P.1117

ポイント

●血管性認知症の診断は「脳卒中」と「認知症」があり,両者に関連があることが必要である.

●血管性認知症の危険因子は,人種,生活,地域,疫学調査方法により異なりうる.

●血管性認知症の発症予防には,脳卒中の発症予防が重要である.

血管性認知症の薬物治療―現状と展望

著者: 脇田英明

ページ範囲:P.1118 - P.1120

ポイント

●血管性認知症の治療は危険因子の管理や抗血小板療法,抗凝固療法による原因となる脳血管障害の再発予防が中心である.

●周辺症状に対する薬物療法も並行し,ADL低下を予防する.

●認知機能障害に対する治療薬は現在ないが,アセチルコリンエステラーゼ阻害薬の有効性が報告された.

混合型認知症の諸問題

著者: 織田雅也 ,   宇高不可思

ページ範囲:P.1122 - P.1124

ポイント

●混合型認知症(mixed dementia)は,複数の病態が合併した認知症の総称であるが,一般的には,アルツハイマー病と血管性認知症とが合併したものを指す.

●アルツハイマー病と血管性認知症両者の臨床および病理所見には類似点や共通点が少なくない.また,アルツハイマー病病変と血管性認知症病変とはしばしば併存するが,アルツハイマー病の病理学的変化の程度や,血管性病変の数や広がりなど,それらの組み合わせは多様である.

●アルツハイマー病と血管性認知症両者の病変が併存する混合型認知症については,その定義や診断基準に関して一致した見解がなく,それを整備していくことが今後の課題である.

その他の原因による認知症ないし認知症様状態

内科系疾患(内分泌・代謝疾患,感染症など)

著者: 田口敬子 ,   宇高不可思

ページ範囲:P.1125 - P.1129

ポイント

●内科系疾患による認知症の診療では,treatable dementiaを見逃さないことが重要である.

●甲状腺機能低下症の頻度が多いため,一度は甲状腺機能検査の施行が勧められる.

脳神経外科疾患(慢性硬膜下血腫,正常圧水頭症)

著者: 古瀬元雅 ,   石川正恒

ページ範囲:P.1130 - P.1132

ポイント

●慢性硬膜下血腫と正常圧水頭症では,認知症症状を認めるが,手術にて改善が見込める.

●両疾患ともに画像検査は診断に有用で,疑わしい症例には頭部CTやMRIを行うべきである.

薬物による認知症様状態

著者: 谷口彰 ,   葛原茂樹

ページ範囲:P.1134 - P.1137

ポイント

●認知症では,常に薬物による副作用の可能性を念頭に置く必要がある.

●脳神経系作用薬以外の薬物も,認知機能障害の原因になる.

●薬物による認知機能障害には,せん妄のほかに,潜行性または亜急性に発症するものもある.

●高齢,肝・腎機能低下,薬物の高用量,多剤併用の際に副作用が出現しやすい.

認知症の介護と社会支援

病名告知と権利擁護

著者: 今井幸充

ページ範囲:P.1138 - P.1141

ポイント

●認知症の病名告知は,重度認知症や意識障害,自身の拒否を除いて本人にすべきである.

●医師自身の理由で患者に告知を行わないのは明らかに説明義務不履行となる.

●認知症患者の権利や意思・意向を明らかにし,それを守ることが権利擁護の基本である.

成年後見制度の利用と診断書および鑑定書

著者: 池尻義隆 ,   宇高不可思

ページ範囲:P.1142 - P.1146

ポイント

●認知症の患者の人権および権利擁護のためには,成年後見制度の利用が不可欠である.

●任意後見として任意後見契約が,法定後見として補助,保佐,後見の3類型がある.

●任意後見と補助には診断書が,保佐と後見には鑑定書が原則として必要である.

介護保険主治医意見書の書き方と制度上の問題点

著者: 飯島節

ページ範囲:P.1147 - P.1149

ポイント

●介護サービスの給付を受けるためには,あらかじめ要介護認定を受けなくてはならない.

●要介護認定審査はコンピュータによる一次判定と介護認定審査会による二次判定からなる.

●主治医意見書は二次判定で有力な判断材料となる.

認知症患者の介護と家族への介護指導

著者: 山下真理子

ページ範囲:P.1150 - P.1153

ポイント

●認知症患者への“治療的”かかわりは,その人の生活や人生の支援である.介護支援はその重要な一環である.

●患者の生活をイメージしながら,その人が“自分らしく”生活できるような支援内容を計画する.そのためには,患者の認知機能だけでなく,その人の人生を知り,要望をよく把握する.

●家族の介護支援が患者の支援につながる.家族の生活上の困難やさまざまな対象喪失体験を理解しながら,余力のあるうちに早めに社会資源の活用を勧めていく.

認知症と自動車運転免許

著者: 上村直人 ,   諸隈陽子

ページ範囲:P.1154 - P.1157

ポイント

●改正道路交通法が施行され,一定の疾患をもつ患者の運転免許が法的に制限されうるようになった.

●睡眠障害,低血糖症,再発性失神,不整脈などの身体疾患においても制限されうるが,ほとんどの臨床家はそのことを知らない.

●認知症を含め,一定の疾患と運転能力の問題は今後の医学的検討が喫緊に必要である.

認知症患者のQOLとターミナルケアのあり方

著者: 原健二

ページ範囲:P.1158 - P.1160

ポイント

●認知症患者の良好なQOLは適切な医療に支えられた良質なケアによって得られる.

●認知症患者のターミナルケアには医師を中心としたスタッフと家族との話し合いが大切である.

座談会

認知症の実地診療における諸問題―誰が,どこで,どこまで診るべきか

著者: 宇高不可思 ,   松田実 ,   藤田拓司 ,   繁信和恵

ページ範囲:P.1162 - P.1174

急速な高齢化に伴い,認知症の診療・介護が社会的問題となっている.特に,アルツハイマー型認知症は原因がいまだ解明されず,ゆっくりと着実に病状が進行することから,長期にわたり患者のみならず家族の介護負担も大きい.

本座談会は,一般医が診る機会が今後増えると思われる認知症-特にアルツハイマー型認知症の重症度に応じた患者・家族への対応および今後の展望について,日々認知症診療に携わっている先生方にお話しいただいた.

連載 聖路加Common Diseaseカンファレンス・3

あなたは全身倦怠感の鑑別を的確にできますか?

著者: 西崎祐史 ,   田中まゆみ

ページ範囲:P.1181 - P.1189

全身倦怠感の鑑別 まずここを押さえよう
①全身倦怠感の鑑別をするうえで重要なのは,Review of systemsによる系統的な問診である.
②全身倦怠感の鑑別では,急性の場合は感染症が最も多く,慢性の場合は心因性(不安やうつ状態)が最も多い.
③見逃してはいけない疾患に,悪性腫瘍・慢性感染症(結核,心内膜炎,骨髄炎など)・膠原病・内分泌疾患・肝疾患・腎疾患などがある.体重減少を伴う場合は,特に慎重に鑑別する.

Case Study 診断に至る過程・10

病歴と身体所見1

著者: 松村正巳 ,   狩野恵彦 ,   上田幹夫 ,  

ページ範囲:P.1190 - P.1195

病歴&身体所見

58歳,男性

主訴:発熱,腰痛

現病歴:高血圧と尋常性乾癬で通院中であったが,3週間前から倦怠感を自覚していた.5日前から38℃台の発熱,悪寒,腰痛が出現した.2日前には整形外科を受診し,乾癬性関節炎が疑われ,ロキソプロフェンナトリウム(ロキソニン®)が処方された.しかし,発熱が全く治まらず救急外来受診し,入院となる.

既往歴:51歳時から高血圧,54歳時から尋常性乾癬の治療を受けている.

内服薬:ニフェジピン(アダラートL®20mg)2錠/分2,フロセミド(ラシックス®20mg)1錠/朝,塩化カリウム(スローケー®)1錠/朝

家族歴:特記事項なし.

嗜好:たばこは吸わない.お酒も飲まない.

 最近の旅行歴,発熱のある人との接触もない.ペットは飼っていない.

身体所見:血圧84/50mmHg,脈拍120/分,不整,呼吸数28/分,体温39.0℃.意識レベルJapan coma scale3.眼底,耳,鼻,口腔内に異常所見はなし.リンパ節腫脹なし.手掌,指先,足底に圧痛のない紫斑が散在している(図1).両側上腕に尋常性乾癬の皮疹を認める.吸気時に肺底部にラ音を聴取する.心尖拍動は鎖骨中線より外側に径3.5cm触れる.胸骨左縁第3肋間にgrade2の拡張期雑音を聴取する.腹部に異常所見なし.腰の痛みを訴えるが,明らかな圧痛は認めない.頸部硬直はない.

研修おたく海を渡る・18

Tumor Board

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.1197 - P.1197

 僕のいる大学病院のがんセンターでは,必要であれば一回の外来受診で腫瘍内科医,腫瘍外科医,放射線治療医の診察を受けられるシステムになっています.同じフロアに同時に三者がそろい,その場で意見の交換ができることが特徴です.ただ診察代は3倍になってしまうのですが…….そこで意見を交換してもまだ意見が分かれる,すなわちいろいろな解釈ができる症例は,Tumor Boardと呼ばれる週一回開かれる症例検討会でさらに話し合われます.

 腫瘍内科医,腫瘍外科医,放射線治療医に加えて,さらに放射線診断医,病理医,また看護師,ソーシャルワーカー,臨床治験コーディネーターも参加します.乳癌,頭頸部癌では,再建にかかわる形成外科医も加わります.ここでは,がんの状態だけではなく,患者さんの状態,家族のサポートがしっかりしているのか,いないのかといった社会的状況も考慮に入れたうえで,治療の選択肢を探っていきます.

目でみるトレーニング

著者: 井畑淳 ,   所敏子 ,   森本聡 ,   清水哲

ページ範囲:P.1198 - P.1204

外来研修医教育への招待・6

こんな場合はどうする? その2

著者: 及川晴子 ,   川尻宏昭

ページ範囲:P.1206 - P.1211

 新研修医が入ってきてはやくも2カ月がたちました.1年目の先生は少しずつ病院にも慣れてきた頃でしょう.2年目の先生は先輩らしくちょっと得意気に指導している頃でしょうか.新人医師たちの初々しさとやる気に,元気をもらっている指導医の先生方も多いのではないかと思います.そのパワーで今月も一緒に,外来研修教育について学んでみましょう.

 前回は,「患者さんの緊急性をいかに研修医に理解してもらうか?」という点がその主題でした.今回も具体的な症例に沿いながら,研修医に修得してもらう外来診療の実際について,皆さんと一緒に考えていきたいと思います.

内科医が知っておきたいメンタルヘルスプロブレムへの対応・6

やたらと痛がる人―疼痛性障害

著者: 中尾睦宏

ページ範囲:P.1212 - P.1215

 疼痛は医療現場で最も頻繁にみられる訴えである.難治性の慢性疼痛患者を抱え対応に苦慮されている先生方も多いであろう.疼痛は,末梢神経性疼痛,中枢性疼痛,精神的疼痛の3つに大別されるが,今回扱うのは精神性疼痛である.心理的な要因が重要な役割を果たしている代表的な病態としては,疼痛性障害がある.疼痛性障害は,診察や臨床検査を行っても目立った異常が見つからず,ひたすら痛みを訴えて臨床像の中心となる.実際の症例から入ってみよう.

日常診療の質を高める口腔の知識・6

誤嚥性肺炎と口腔ケア その2

著者: 岸本裕充

ページ範囲:P.1216 - P.1219

 前回,「高齢者の肺炎の多くは誤嚥が原因である」こと,また薬剤による「予防」の可能性,さらには「薬剤に頼らない誤嚥性肺炎対策」として,「口腔ケア」をはじめ,「脱水対策」,「強力な睡眠薬の中止・減量」,「ベッド挙上による胃食道逆流防止」,「感冒予防や栄養の改善」の重要性を説明しました.

 人工呼吸管理下にある患者に生じる肺炎(人工呼吸器関連肺炎:ventilator-associated pneumonia:VAP)も,少し特殊ではありますが,誤嚥性肺炎の1つです.

 今月はVAPへの対策も含めて,誤嚥性肺炎予防のための適切な口腔ケアについて考えてみましょう.

書評

標準法医学・医事法―第6版

著者: 近藤稔和

ページ範囲:P.1081 - P.1081

 評者が医学生として法医学を学んでいた頃(決して熱心な学生ではなかった),法医学の教科書といえば限られたものだけで,その一つが「標準法医学・医事法」であった.また,当時は法医学に対する世間の認識も低いものであったが,この20年間,医師,医学生を対象とする専門書はもとより,一般の人を対象とした法医学に関する書物,小説,マンガ,さらにはテレビドラマが放映されるなど,法医学が幅広く認知されるようになったことは言うまでもない.このことはわれわれ法医学を専門とするものにとっては喜ばしいことではあるが,その反面,小説,マンガ,ドラマなどでは,法医学が事件解決のための唯一の手段であるかのように描かれすぎていると感じているのは,評者だけではないはずである.

 法医学は,単なる基礎医学ではなく,臨床医学と同様に応用医学に大別され,法治国家においては必要不可欠な学問である.本書において「法医学とは法律上問題となる医学的事項を検査,研究し,それによって問題点を解明して,法的な解決に寄与することを目的とする医学である」と定義されるように,決して法医学は犯罪捜査のための一手段ではない.現代の医学・医療の場において,外因死,突然死や医療事故など,法医学が担う役割は,ひと昔前とは比較にならないほど大きくなっている.したがって,法医学の講義で,評者は学生に対して「どのような分野を専攻しようとも,医師である限りは法医学的知識をもつことは医師としての最低限のマナーである」と,常々言っている.そういう観点からみると,本書は「生体に関する法医学」と「死体に関する法医学」の章立てがあり,法医学が単に「死」を対象とする医学ではないことを示している.第5版が発行されてから6年の月日が経ち,第6版では各分野についての基礎知識から最新の知見にいたるまで網羅されていることはもちろんのこと,各項目の始めにあった「学習目標」に加えて「観察のポイント」または「検査のポイント」が新設され,それぞれの項目における重要な点がより明確にされている.さらに,欄外コラムとして「SIDE MEMO」も新設されるなど,学生にとって非常に親しみやすく,使いやすい教科書となっている.また,学生のみならず,研修医や臨床医にとっても,実際の医療現場で法医学の知識が必要となった時や,死亡診断書(死体検案書)の書き方に迷った時の助け船としても重宝するものと思われる.月並みではあるが,このように本書は,法医学については医学生,医師を問わず,必携の一冊である.

循環器病態学ファイル―循環器臨床のセンスを身につける

著者: 櫻田春水

ページ範囲:P.1104 - P.1104

 村川裕二教授,岩崎雄樹先生,加藤武史先生共著の本書を読むきっかけがあり,一気に通読した.著者の先生方が循環器の病態を理解するのに,そして後輩たちに教育するのに,どのように考え工夫してきたかがよくわかる良書である.

 以前に比べ,現在の医学生や,初期および後期研修医が学ぶべきことは確実に増えてきている.かつ,医療の安全,医療保険なども学ばなければならないし,診療にあたっては患者様へ十分な説明をしなければならない.時間はいくらあってもたりなくなる.しかし,どのような状況でも,個々の患者様の病態を理解し,最良の治療ができるように努めなければならない.

NPPVハンドブック

著者: 田中一正

ページ範囲:P.1109 - P.1109

 誰が誰のためにどのようにNPPVを安全に行うか,刻々とバイタルサインの変化するなかでNPPVをどう具体的に行うか,そのための指導書として,本書は実に簡潔に編纂されています.また,NPPVの適切な対応とは何か?など,実践の中から湧き出たさまざまな問題点も本書では,見事に解き明かしてくれています.

 「これはどうするの?」,「え~っとどうだったけ?」,「ちょっと調べてよ!」

 これらは,現場の毎日の会話のなかにある疑問と不安のやり取りです.

内科レジデントの鉄則

著者: 竹村洋典

ページ範囲:P.1137 - P.1137

 研修医向けの書籍に常に目を通す私も,この本を読んだときに,思わず「ワォー」と言ってしまった.

 研修医向けの書籍の大切なことの第一は,プラクティカルであることである.どんな施設の研修医たちも心のなかは不安でいっぱいある.苦しむ患者を前に知らないことがたくさんある.大学で知識は得たはずだが,頭が回らない.手も動かない.しかし一方で,医師になる以上,必要最低限のことは経験したいとも思う.少なくとも誰でもが出遭うであろうコモンな問題・疾患の対処方法は知っておきたい.よい指導者がそばにいてくれたらばその対処方法に困ることはなくなるかもしれないが,いつもというわけにはいかない.そんなときに「ああ,あってくれて本当によかった!」と思えるのが,コモンな問題・疾患に対して具体的にその対処方法を教えてくれる本である.『内科レジデントの鉄則』はまさしくそのような本である.薬品名など大胆に選んでくれていることに,熟考の後と自信が垣間見られて拍手を送りたくなる.

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編集室より

著者:

ページ範囲:P.1228 - P.1228

●「子どもしかるな来た道だもの.年寄り笑うな行く道だもの」 私の大切にしている言葉です.今月の主題は「認知症のプライマリケア」.認知症診療の難しさや介護の大変さなど,両親が,そして自分自身が行くかもしれない道の恐ろしさを感じ,いろいろと考えさせられた特集でした.

●本特集を担当することが決まったとき,ふと思い浮かんだ本が『恍惚の人』(有吉佐和子).発行からすでに30年以上経っているのですが,描き出される家族模様は,今に見聞きする認知症のお年寄りをみる家族そのもののような気がし,古さを全く感じさせませんでした.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻12号(2023年11月発行)

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特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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