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雑誌目次

雑誌文献

medicina44巻7号

2007年07月発行

雑誌目次

今月の主題 内科医が診る睡眠障害

著者: 塩見利明

ページ範囲:P.1233 - P.1233

 睡眠障害の診察は、どの診療科の医師がどのような方法で行えばいいのだろうか.わが国の大学医学部では,睡眠医学の実践的な卒前・卒後教育が行われていないため,ほとんどの内科医は睡眠障害(sleep disorders)に何種類の病気があるのかさえもわからず,またそれらの実践的な診断法・治療法についても即答できないのが現状である.

 不眠,睡眠障害,睡眠呼吸障害,睡眠覚醒障害,睡眠覚醒リズム障害,という用語の違い,また睡眠ポリグラフ検査(polysomnography:PSG)という大変手間のかかる検査が睡眠障害の診断に必須で,PSGを集中的に行う睡眠医療センターの設置がわが国にはまだ非常に少ないことに早く気づくべきである.

睡眠障害とは?

睡眠障害の定義と疫学―いまなぜ睡眠障害なのか?

著者: 大川匡子

ページ範囲:P.1234 - P.1237

ポイント

●一般成人の平均睡眠時間は6.6時間:男女ともに高年齢層で睡眠時間は長い傾向にあり,最も少ないのは40歳代女性である.

●不眠症は約5人に1人:男女ともに加齢とともに有症率は高くなり,80歳以上女性では40%以上に上る.

●睡眠補助品使用者は約7人に1人:眠りを助けるために睡眠薬,精神安定剤,アルコールを使用する人は,加齢とともに高くなる.

●中高生の睡眠時間も短縮傾向:中高生の平均睡眠時間は6時間未満が約30%,不眠を訴えるものは20%以上に上る.

睡眠障害国際分類第2版(ICSD-2)について

著者: 本多裕

ページ範囲:P.1238 - P.1241

ポイント

●ICSD-2では,臨床症状ばかりでなく,終夜睡眠ポリグラフ所見,睡眠潜時反復検査(MSLT),などの生物学的検査指標が診断項目として取り上げられている.

●大きな枠組みとしては,睡眠障害を8つに分類している.

●アメリカ方式を基準としており,世界のどの国でも容易に使える国際基準という視点が乏しいという問題点がある.

睡眠障害の基本的な診察法―問診と身体診察のポイント

不眠を訴える患者へのアプローチ

著者: 内山真

ページ範囲:P.1242 - P.1245

ポイント

●成人のおよそ5人に1人が不眠の訴えをもち,20人に1人が睡眠薬を服用.

●対応の基本は不眠のつらさを受け止め,具体的症状を把握すること.

●睡眠習慣に関する問診は診断治療にきわめて重要.

●頻度の高い特異的睡眠症候群の除外により,不眠症の診断が確定.

過眠を訴える患者へのアプローチ

著者: 吉田祥 ,   神林崇 ,   清水徹男

ページ範囲:P.1247 - P.1250

ポイント

●不眠だけではなく,過眠(日中の眠気や居眠り)も治療の対象となる症状である.

●プライマリケアの現場でも過眠の訴えを見逃さないことが必要である.

●不適切な睡眠衛生,睡眠不足による二次的な過眠,合併症や服用中の薬剤の影響をまず考える.

●睡眠時無呼吸症候群は有病率が高く,過眠症の鑑別診断として常に考えておく.

●ナルコレプシーなどの一次性過眠症や,確定診断に専門的な検査を要する過眠疾患が疑われる場合は専門医療機関へ紹介する.

睡眠覚醒リズム障害を訴える患者へのアプローチ

著者: 越前屋勝 ,   三島和夫

ページ範囲:P.1252 - P.1256

ポイント

●睡眠覚醒リズム障害は生体時計の調節障害に基づく病態と考えられる.

●受診頻度が比較的高いのは睡眠相後退症候群と非24時間睡眠覚醒症候群である.

●頭痛・倦怠感・疲労感・食欲不振といった身体症状や抑うつ症状を伴うことが多い.

●睡眠覚醒のパターンを把握するためには睡眠日誌の記載が必要である.

●不登校や出社拒否といった社会心理的要因との鑑別が困難な場合も少なくない.

睡眠時随伴症,寝言,歯ぎしりを訴える患者へのアプローチ

著者: 岡靖哲 ,   井上雄一

ページ範囲:P.1257 - P.1260

ポイント

●睡眠時随伴症は,睡眠中あるいは睡眠・覚醒移行期に異常行動がみられるものをいう.

●ノンレム睡眠期に起こる睡眠時随伴症は,小児期にみられ思春期には治まるものが多い.

●レム睡眠期に起こる睡眠時随伴症は,高齢者に多く,脳変性疾患と関連することがある.

●症状が高頻度にみられ,行動に伴う外傷の危険性が高い場合は,薬物治療を考慮する.

●鑑別診断が困難な場合には,睡眠専門医の受診や睡眠検査が必要となる.

睡眠呼吸障害を訴える患者へのアプローチ

著者: 篠邉龍二郎 ,   野村敦彦 ,   塩見利明

ページ範囲:P.1261 - P.1264

ポイント

●睡眠呼吸障害をもつ患者の主訴は昼間の眠気,中途覚醒が多いが,まったく自覚がなく,周囲の者からの勧めで,しぶしぶ受診する者も多い.

●睡眠呼吸障害は,多様の疾患にからんでいるため,これらの既往歴,治療歴を含めて,問診する必要がある.

●OSAS(閉塞性睡眠時無呼吸症候群)の診断では顎顔面形態,上気道の所見を確認し,治療選択の参考とする.

●睡眠呼吸障害のリスクとしてメタボリックシンドロームの合併が疑われる場合には,腹囲も計測する必要がある.

●妊娠可能年齢のいびきのある高度肥満の女性では,妊娠によって稀ながら危険な状態が起こりうるため,注意が必要で,厳密な治療が求められる.

睡眠障害診療の基本的な検査

質問法―エプワース眠気尺度など

著者: 山城義広

ページ範囲:P.1265 - P.1267

ポイント

●エプワース眠気尺度(ESS)は8つの状況下で眠りに落ちる可能性を自己評価して点数化する質問表である.

●ESSのカットオフ値は10~11点以上とされている

●眠気のすべてではなく,ある側面をみている可能性がある.

●臨床的に簡便であるが疾患特異性はなく,点数が低くても過眠の存在は否定できないことに注意する必要がある.

●過眠の診断には十分な問診を加える必要がある.

睡眠障害の診断のための検査法―PSG,MSLT,MWT

著者: 當山和代 ,   加根村隆 ,   名嘉村博

ページ範囲:P.1268 - P.1271

ポイント

●睡眠構築や睡眠中の異常な生体現象の評価・診断には,PSG検査が有用である.

●日中の眠気を評価する検査として,MSLTとMWTがある.

●上記検査法の意義,適応,限界を熟知したうえで日常臨床に臨むことが大切である.

睡眠呼吸障害の診療における簡易検査法

著者: 中野博

ページ範囲:P.1272 - P.1275

ポイント

●睡眠呼吸障害における呼吸の変化としては,無呼吸,低呼吸,上気道抵抗増大がある.

●上記の変化は,一過性の低酸素血症や,短時間の覚醒をきたすことが重要である.

●携帯型モニタは,睡眠呼吸障害のスクリーニングや経過観察に用いられる.

●携帯型モニタでは低呼吸の一部や上気道抵抗増大などが検出できない場合がある.

●眠気などの症状があるときは,携帯型モニタの結果が陰性でも原因追及の精査が必要である.

睡眠障害の治療

不眠症の薬物療法―睡眠薬の使い方の基本

著者: 内村直尚

ページ範囲:P.1276 - P.1279

ポイント

●睡眠薬としては,ベンゾジアゼピン(BZ)受容体作動薬を主に使用する.

●不眠のタイプ,診断名,年齢,全身状態や生活状況によって,消失半減期を指標として使い分ける.

●高齢者では副作用が出現しやすいので,成人の半量程度から投与する.

●半減期の短い超短時間作用型や短時間作用型の睡眠薬では漸減法を用い離脱する.

●半減期の長い中間作用型や長時間作用型の睡眠薬では,漸減法と隔日法を併用し離脱する.

不眠症の非薬物治療―生活指導と行動療法

著者: 古田壽一

ページ範囲:P.1281 - P.1284

ポイント

●不眠が慢性化する背景には遷延要因が存在する.

●生活指導にあたっては,就床時刻よりも起床時刻を一定にする指導が重要である.

●不眠症患者は必要以上に就床時間をとる傾向があるので,その習慣を修正する.

●患者の特性に合わせて,有効な行動療法を選択あるいは組み合わせる必要がある.

過眠症の治療―ナルコレプシーなど

著者: 吉田祥 ,   黒田健治

ページ範囲:P.1287 - P.1290

ポイント

●過眠症は診断により治療法が異なるので,まずは正確な診断が求められる.

●一次性過眠症の治療には中枢神経刺激薬が用いられる.

●睡眠不足(睡眠量の減少)による過眠では十分な睡眠をとる以外に対処方法はなく,中枢神経刺激薬を安易に用いないほうがよい.

睡眠覚醒リズム障害の治療

著者: 植木洋一郎 ,   伊藤洋

ページ範囲:P.1291 - P.1294

ポイント

●概日リズム障害とは体内時計リズム,昼夜周期,睡眠覚醒のタイミングがずれたものである.

●高照度光は,朝には概日リズムを前進させ,夜には後退させる作用がある.

●メラトニンは,朝には概日リズムを後退させ,夜には前進させる作用がある.

●概日リズム障害では,生活指導,高照度光療法,メラトニンなどの薬物療法を組み合わせて治療を行う.

睡眠時随伴症の治療

著者: 粥川裕平 ,   北島剛司 ,   岡田保

ページ範囲:P.1296 - P.1299

ポイント

●睡眠時随伴症は,ノンレム睡眠中の異常とレム睡眠中の異常に二大別される.

●児童期の睡眠時随伴症は,自然治癒する夜尿症,夜驚症,夢遊病などがある.

●初老期以後の睡眠時随伴症であるレム睡眠行動障害は,変性疾患との関連が強い.

●レム睡眠行動障害の診断には,解離性レムの睡眠ポリグラフ所見が不可欠である.

●レム睡眠行動障害の多くはクロナゼパムが奏効するが,無効例もある.

慢性心不全の在宅酸素・換気療法

著者: 葛西隆敏 ,   成井浩司

ページ範囲:P.1301 - P.1306

ポイント

●睡眠呼吸障害の合併がある慢性心不全患者の予後は不良である.

●睡眠呼吸障害を治療することで心機能そのものの改善も期待できる.

●閉塞型睡眠時無呼吸に対しては,持続気道陽圧(CPAP)の有用性が高い.

●中枢型無呼吸と過呼吸を繰り返すチェーンストークス呼吸(CSR)に対しては,在宅酸素は重要な治療オプションである.

●CSRに対しては,CPAPが有効でない症例も存在する.

睡眠呼吸障害の病態と治療

睡眠呼吸障害の疾患概念,疫学,予後

著者: 榊原博樹 ,   井水ひろみ

ページ範囲:P.1308 - P.1312

ポイント

●睡眠時無呼吸症候群(SAS)は,無呼吸-低呼吸指数(AHI)が5以上の睡眠呼吸障害(SDB)に日中傾眠,倦怠感などの自覚症状を伴うときに診断される.

●症状の有無にかかわらず,AHI15以上でSASとする新しい診断基準が提示された.

●低呼吸は3~4%以上の酸素飽和度の低下か,脳波上の覚醒反応を伴うイベントのみを採用するべきである.

●AHI5以上のSDBは30歳以上の男性の24.0%,女性の9.0%に認められる.

●AHI5以上のSASは30歳以上の男性の4%,女性の2%に認められる.

●AHI30以上のSASは,心血管イベントやそれによる死亡のリスクを約3倍に高め,経鼻持続陽圧呼吸療法(nCPAP)によりそのリスクは回避される.

睡眠呼吸障害の病態分類と診断

著者: 高崎雄司 ,   吉田浩幸 ,   金子泰之 ,   玉谷青史

ページ範囲:P.1314 - P.1318

ポイント

●OSASとCASAでは病態・治療法が異なる.

●OSASの増悪要因はさまざまだが,体位と飲酒は特に大きく影響する.

●OSASの第一選択の治療法はCPAPだが,原因疾患があればその治療を優先させる.

●CSRではその発現頻度はnonREM睡眠に比しREM時にかえって減少する.

睡眠呼吸障害の治療指針

著者: 赤柴恒人 ,   川原誠司 ,   赤星俊樹

ページ範囲:P.1320 - P.1323

ポイント

●睡眠時無呼吸症候群のほとんどは睡眠中に上気道が閉塞する閉塞型である.

●軽症例では,減量,側臥位就寝など生活習慣の改善で効果が期待できる.

●nCPAPは軽症~重症のすべてに有効で,SAS治療の第一選択である.

●口腔内装具は,軽症~中等症例に有効である.

睡眠呼吸障害の合併症―高血圧,メタボリックシンドロームなど

著者: 池上あずさ ,   赤木正彦 ,   大石史弘

ページ範囲:P.1324 - P.1327

ポイント

●中等度以上の睡眠時無呼吸症候群は,その生命予後が不良でCPAPなど適切な治療を要す.

●睡眠中交感神経系緊張の結果,夜間血圧低下が得られず,non-dipper, riser型高血圧が多い.

●メタボリックシンドローム合併SASは,AHI30/h以上の重症SASの約半数に認めた.

●CPAP療法は夜間の呼吸イベントだけでなく,QOL改善,降圧効果などももたらす.

内科疾患と睡眠障害

消化器疾患と睡眠障害―GERD,NASHなど

著者: 高橋進 ,   櫻井滋

ページ範囲:P.1328 - P.1330

ポイント

●胃食道逆流症状は,睡眠時無呼吸症候群患者において一般人口よりも明らかに頻度が高い.

●睡眠時無呼吸症候群の胃食道逆流には,無呼吸中の過度の胸腔内圧低下が関与している.

●睡眠時無呼吸症候群による低酸素血症により,低酸素性肝障害を生じることがある.

●非アルコール性脂肪性肝疾患の危険因子として睡眠時無呼吸症候群の関与が示唆される.

●消化器疾患と睡眠障害関連のエビデンスはいまだ不十分であり,さらなる研究が望まれる.

循環器疾患と睡眠障害―心不全,不整脈など

著者: 篠邉龍二郎 ,   長谷川里佳 ,   塩見利明

ページ範囲:P.1332 - P.1335

ポイント

●閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)は,結果として左心負荷が増大し,左室肥大,高血圧,虚血性心疾患の合併の誘引となる.

●心不全における非薬物治療として,nCPAPやASVの導入,酸素・炭酸ガスの投与がある.

●OSASと心房細動とは関連があり,心房細動の新規発症が無呼吸の重症度および肥満度の上昇により増える.

●OSAS患者のCPAPやOAによる治療は,不整脈を改善する.

●脂溶性の高い循環器治療薬では,不眠を訴えることがあるので,注意を要する.

呼吸器疾患と睡眠障害―COPD,気管支喘息など

著者: 飛田渉 ,   丹野久美子

ページ範囲:P.1336 - P.1339

ポイント

●COPD,気管支喘息などの呼吸器疾患では,不眠,頻回なる覚醒により睡眠の質が低下する.

●COPD,気管支喘息などの呼吸器疾患では,REM睡眠時に低酸素血症をきたしやすい.

●COPDに閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSAS)が合併すると,低酸素血症,高炭酸ガス血症をきたし予後が悪い.

●気管支喘息では喘息発作による睡眠障害が起こる.

●肥満はOSASのリスクが高い.

神経・筋疾患と睡眠障害―Parkinson病,筋ジストロフィ

著者: 宮本智之 ,   宮本雅之 ,   平田幸一

ページ範囲:P.1340 - P.1343

ポイント

●Parkinson病の睡眠障害は非運動症状のなかでも高率で,QOLに大きく影響する.

●Parkinson病では,不眠症,睡眠関連運動異常症,睡眠関連呼吸障害,睡眠時随伴症,過眠症を合併する.

●Parkinson病の睡眠障害は種々の因子が絡みあっているため,症例ごとに最も問題である因子を判断する必要がある.

●神経筋疾患では睡眠時低換気による呼吸障害を生じた結果,睡眠の分断,夜間頻尿,起床時頭痛,日中の疲労などを生じる.

●神経筋疾患では睡眠中の非侵襲的呼吸療法は呼吸機能の悪化の防止やQOLの向上に有用である.

●筋強直性ジストロフィはQOLの問題に日中過眠があり,治療は中枢神経刺激薬が有効である.

内分泌・代謝疾患と睡眠障害―肥満,メタボリックシンドロームなど

著者: 陳和夫

ページ範囲:P.1344 - P.1347

ポイント

●肥満は閉塞型睡眠時無呼吸(OSA)の重要な発症因子であり,増悪因子でもある.

●肥満の成立,進展に対するOSAの影響を考慮する必要がある.

●OSAは肥満に独立して高血圧の発症因子であるが,同様にインスリン抵抗性,脂質代謝に影響を与えている可能性もある.

●先端肥大症,甲状腺機能低下症などは,OSAの関連は示されているが不明な点もある.

●肥満を介するOSAとメタボリックシンドロームの関連を解明する必要がある.

腎・泌尿器疾患と睡眠障害

著者: 小池茂文 ,   山本勝徳 ,   渡辺康二

ページ範囲:P.1348 - P.1350

ポイント

●末期腎不全患者の主観的睡眠愁訴は,高頻度に認められる.

●末期腎不全患者の睡眠時無呼吸症候群や周期性四肢運動障害は,終夜睡眠ポリグラフ検査で調査すると高頻度に認められる.

●末期腎不全患者のむずむず脚症候群は,20%以上に認められる.

●閉塞型睡眠時無呼吸症候群は,夜間頻尿や遺尿症の原因となる.

●閉塞型睡眠時無呼吸症候群は,勃起障害(electile dysfunction:ED)の原因となる.

血液疾患と睡眠障害

著者: 山口祐司

ページ範囲:P.1352 - P.1355

ポイント

●睡眠時無呼吸症候群患者においては,間欠性低酸素血症によりエリスロポエチンや血管内皮増殖因子(VEGF)が増加する.

●重症睡眠時無呼吸症候群では,CRP・IL-6・末梢白血球数が増加し,炎症性疾患としての病態を呈している.

●睡眠時無呼吸症候群は,凝固系・血小板の活性化を合併しており,冠動脈疾患・脳血管障害の独立した危険因子である.

●睡眠時無呼吸症候群では,呼吸器系・循環器系・代謝系障害が主な合併症として認識されているが,血液学的異常(多血症,白血球増加,血小板活性化)も重要な病態である.

心療内科的疾患と睡眠障害―パニック障害を中心に

著者: 金子宏

ページ範囲:P.1356 - P.1359

ポイント

●心療内科的疾患には不安や抑うつなどの気分の変調が高頻度にみられる.

●睡眠障害はうつ病診断のキーポイントとなるが,不安障害でも睡眠障害の頻度は高い.

●パニック障害では覚醒時のみならず睡眠時にパニック発作がみられる症例が存在する.

●全般性不安障害では不眠が主訴であることが多い.

●不安による睡眠薬に対する誤った考えには,共感的態度で正しい知識の啓蒙が必要.

Q&A―睡眠についての疑問に答える

ページ範囲:P.1361 - P.1361

人間はどれくらい寝たらよいのか?

著者: 田ヶ谷浩邦

ページ範囲:P.1362 - P.1362

 「何時間眠ったらよいか?」という質問を患者さんからよく受ける.結論から言うと,「日中に居眠りが出ない程度に眠れば十分」ということになる.

 日本人が眠るために床に就いている長さ(床上時間)は20~50歳代では約7時間で,男性では40歳代から,女性では50歳代から床上時間が延長しはじめ,70歳以上になると昼寝を含めた床上時間が8~9時間になる1)

夢を見るのは良いことか,悪いことか?

著者: 堀忠雄

ページ範囲:P.1363 - P.1363

 なぜ夢を見るのかという根本的なことはよくわかっていません.しかし,夢は毎晩誰もが見ており,夢を見ることはごく自然な生理心理現象と考えられています.

 夢はノンレム睡眠とレム睡眠のどちらでも見ていますが,記憶に残る夢はレム睡眠中に現れます.鮮明で情動性に富んでおり,印象的です.レム睡眠中に起こして夢を見ていたかを尋ねると,見ていたという報告は80%以上になります.ノンレム睡眠ではこれが30%程度です.夢を「よく見る人」と「見ない人」の違いは,どちらの眠りから目覚めるかによっていると考えられています.目覚める直前の睡眠段階を調べた研究では,若い人(19~28歳)はレム睡眠から目覚める割合が全体の47%であるのに対して,高齢者(60~82歳)では27%でした.「年をとると夢を見なくなる」というのは,このような朝の目覚め方に関係しているのかもしれません.

部屋は暗くして寝たほうがよいか?

著者: 遠藤拓郎 ,   黒田摂子

ページ範囲:P.1364 - P.1364

 回答は,「本人が恐怖心を覚えない範囲で,極力暗くしたほうがよい」です.

 睡眠障害を考える場合,睡眠をとるタイミングを考える必要があります.ヒトの頭のなかには,およそ24時間のリズムを発振している体内時計があり,睡眠をとるタイミングはこの体内時計により強く制御されています.体内時計は,視床下部の視交叉上核にあり,そこでは時計遺伝子と呼ばれる遺伝子が多く発現しています.その制御機構のなかで一番重要だと考えられている物質がメラトニンと時計遺伝子です.

アルコールやカフェインの睡眠への影響は?

著者: 斎藤恒博

ページ範囲:P.1365 - P.1365

 アルコールは眠気を催す.カフェインは眠気を払う.うまく付き合うにはコツがいる.日々の摂取に気を配る必要がある.

 カフェインは眠気を引き起こすアデノシンの拮抗剤である.お茶やコーヒーなどのほかに,コーラなどのソフトドリンク,栄養・健康ドリンク剤,チョコレートなどに多く含まれている.眠りに落ちるのを防いでくれるのにとどまらず,眠りを途中で覚醒させてしまう傾向がある.カフェインには利尿作用があるので尿意で目を覚ますこともしばしばである.カフェインは摂取30~40分後に覚醒作用を現わす.効果は4~5時間持続する.薬理効果の発現程度は個体差が大きい.少量の摂取で眠れなくなる人も多い.カフェインに過敏なため,パニック障害が誘発されてしまう人もいるほどだ.

運動療法は睡眠障害に有効か?

著者: 津田徹

ページ範囲:P.1366 - P.1366

 本邦における閉塞型睡眠時無呼吸症候群(以下OSAS)の約7割がBMI25以上の肥満であり,その背景には食行動,運動習慣,眠気による活動性の低下が存在する.

 運動能力の指標としては,運動耐容能を示す,呼気ガス分析による酸素摂取量の最高値であるVo2peak,および組織での嫌気的解糖が始まる炭酸ガス排泄量(Vco2)の増加が急峻になる点であるAT(anaerobic threshold)を用いる.運動習慣がない健常人ではATが早くなり,Vo2peakが低く,運動耐容能が低下していることが示唆される.さらにOSAS患者でも,睡眠時の酸素飽和度が90%未満の時間が長いほど,運動耐容能が低下している.運動習慣がないOSAS患者ではさらに運動耐用能が低下している.運動習慣によって体重をコントロールし,適正な体格へ改善することでOSASリスクを減らせることが考えられ,運動習慣が適切であれば運動耐容能向上も考えられる.

どんな枕が良いか?

著者: 小林敏孝

ページ範囲:P.1367 - P.1367

 旅先で「枕が違うと気になって,よく寝られない」という話をよく耳にする.快適な睡眠を得るには,枕は大切なものである.いつでもどこでもよく寝られる人にとっては,枕はそれほど大きな問題ではない.しかし,加齢やストレスなどによって睡眠の質が低下している人にとっては,枕の性能は大きな関心事である.

 枕と睡眠の関係はいまだ科学的によく理解されていないが,枕の基本的な機能としては,睡眠を促し維持できるような寝姿勢を確保することである.最適な寝姿勢とは,立位の姿勢がつくる頭部と身体の関係をベッドの上で実現でき,頭部を支える筋肉の緊張が大きく緩和されることが望ましい.この寝姿勢は背骨などの骨格系に負荷が加わらないし,気道が確保できるので,脳を覚醒させるような感覚刺激が大きく抑制される.さらに,寝つきが悪いとき,また夜中に目が覚てしまって再入眠するときに,枕が果たす心理的な役割は非常に大きい.枕に頭を横たえたときに,仰臥位でも側臥位でも,自分とって心地よい寝姿勢になったときに,頭部の安定感と身体全体で感じられる安心感が重要である.枕の形状,硬さ,清潔感を漂わす香りや色,枕カバーの肌触りなどはとくに重要であり,これらがうまく組み合わされると「よく寝られそうだ!」という感触が生まれる.この感触が入眠期や中途覚醒後の再入眠のときには特に重要であろう.また,睡眠という意識状態は,運動系が極端に抑制されるので,身体が一定の姿勢でかなりの時間保持される.これが悪く働くと「寝違え」となり,朝きた起きたときに首が痛いといったことになる.一方,良く働くと整体と同じ機能をはたすことになる.枕を変えてから腰や背中の痛みがやわらいだといった話は,枕が寝姿勢の保持に重要な役割を果たしているので,これが整体の機能を発揮しているものと考えられる.

高齢者によくみられる睡眠障害とは?

著者: 高岡俊夫

ページ範囲:P.1368 - P.1368

 高齢者の睡眠の特徴としては,夜中に目が覚める中途覚醒,朝早く目が覚める早朝覚醒があげられる.深いノンレム睡眠の時間が短くなり,全体的に睡眠が浅くなるためであり,少しの物音でも目が覚めやすくなり,睡眠の持続が障害される.痛みやかゆみ,頻尿によって睡眠が障害されることもある.また,生活環境の変化が原因になることもある.加齢とともに,外出や運動する機会が減り,昼間の活動量が減る.太陽の光を浴びることも少なくなり,昼夜のメリハリがつかなくなることによって夜間眠れなくなる.そのため,昼間の眠気が出現し,昼寝をしてしまい,ますます夜眠れなくなるという悪循環に陥ってしまう.また脳器質性疾患,呼吸器疾患,循環器疾患,内分泌疾患など身体疾患によって夜間睡眠時動作の制限や不随意運動,咳,呼吸困難,口喝などを生じ,二次的に睡眠障害を生じることがある.さらに,各身体疾患の治療薬剤で睡眠障害を起こすことがあるので,注意が必要である.またうつ病,アルコール依存症など精神疾患により睡眠障害を引き起こすことがある.

更年期によくみられる睡眠障害とは?

著者: 香坂雅子

ページ範囲:P.1369 - P.1369

 更年期にみられる睡眠障害,とくに不眠としては,更年期障害に伴うもの,うつ病,反応性の不安抑うつ状態,精神生理性不眠が考えられる.

 更年期(閉経を中心とした前後10年間)にエストロゲン欠乏に由来する血管運動神経症状に伴って不眠が認められることがある.ICSD(国際睡眠障害分類)初版では閉経時不眠症と定義され,ほてり・発汗を伴い,夜間の中途覚醒が頻回に出現することを特徴としている.睡眠ポリグラフィ所見では,総睡眠時間の短縮,入眠潜時の延長,中途覚醒の増加に加えて,レム睡眠の短縮,レム潜時の延長などが報告されている.

閉塞型睡眠時無呼吸を生じやすい顔貌とは?

著者: 佐藤誠

ページ範囲:P.1370 - P.1370

 肥満に対する感受性が高いアジア人は,肥満の程度が軽くても高血圧症や糖尿病などを発症することが知られている.閉塞型睡眠時無呼吸(OSAS)に関しても肥満に対する感受性が高く,わずかな体重増加でOSASを発症する患者が多いことが本邦の特徴である.

 主として上顎骨と下顎骨によって形成される顔面頭蓋という硬組織の大きさと,舌や軟口蓋,脂肪などの軟部組織の量が,解剖学的な咽頭腔の大きさを決定する.したがって,硬組織である顔面頭蓋の大きさが正常であっても肥満などで軟部組織の量が増えると,咽頭腔は狭くなり,逆に軟部組織の量が正常であっても顔面頭蓋が小さければ,咽頭腔は狭くなる.

睡眠時無呼吸を生じやすい歯並びとは?

著者: 山田史郎

ページ範囲:P.1371 - P.1371

 睡眠時無呼吸症候群の口腔内装置治療を行っておりますと,歯並びの悪い患者さんが多いと感じます.

 歯並びの悪い咬み合わせを不正咬合といいます.不正咬合は小児期の指しゃぶり,口呼吸,爪をかむ癖,舌を前方に出す癖などにより生ずることはよく知られていますが,近年では咀嚼回数が少ないために顎骨の発達が抑制され,不正咬合をもたらすとされています.さらに成人では虫歯,歯周病により悪化する場合が一般的です.

座談会

一般外来における睡眠障害の診かた

著者: 塩見利明 ,   山口祐司 ,   平田幸一 ,   成井浩司

ページ範囲:P.1372 - P.1380

 睡眠障害はどこにでもある病気であるが,ここにきて患者数の増加とともに,高血圧や脳血管障害をはじめとする,さまざまな生活習慣病に合併をすることが知られるようになり,プライマリケアの第一線で対応する内科医にとっても,積極的な対応が求められる時代となった.

 本号では,内科医であり,かつ睡眠医療の専門家としても知られる4人のドクターにお集まりいただき,「一般外来における睡眠障害の診かた」についてわかりやすくお話しいただいた.

連載 聖路加Common Diseaseカンファレンス・4

あなたは失神を的確に診断できますか?

著者: 綾部健吾 ,   西原崇創

ページ範囲:P.1386 - P.1392

失神の診断 まずここを押さえよう
①失神の原因は心原性と非心原性に分けることができる.
②失神の原因検索で大切なことは,きちんと失神の前後の問診を取ることである.先駆する胸痛,動悸などがあれば,心原性の場合が多い.
③心原性失神の場合は,診断の遅れが予後に影響を与えることがしばしばある.

研修おたく海を渡る・19

ホスピス

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.1393 - P.1393

 この間,1年前にオープンしたばかりの近所のホスピスに見学に行ってきました.これは「elective」と呼ばれる選択ローテーションの一環です.緩和医療に興味をもち,がんの世界に進んだ僕にとっては待ちに待ったローテーションです.優しい声の持ち主であるホスピス担当医の姿を想像しながら,車を走らせました.もともとチャールストンは田舎なのですが,その中でもさらに緑の多い少し奥まったところにそのホスピスはありました.

 聴診器をぶら下げて見学に行ったのですが,いったん中に入るとなんとなく不釣り合いな気がして,白衣とともに車に置きに戻りました.先生を探してきょろきょろしていると「あなたが来ることは聞いていたわよ」とスタッフの女性が部屋を案内してくれました.

Case Study 診断に至る過程・11

病歴と身体所見2

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.1394 - P.1398

病歴&身体所見

66歳,女性

主訴:手の関節炎,筋肉痛,発熱

現病歴:生来健康であったが,10週間前から手の対称性の関節炎,筋肉痛,食欲低下が出現した.また,2時間あまり続く,朝の手のこわばり感があるという.6週間前からは37℃台の発熱を認めるようになった.さらに,3日前からは最高38.5℃の発熱を認めていた.この2カ月で1.5kg体重が減ったという.食べ物が飲み込みづらいということはないが,口腔内の乾燥感は数年前からあるという.また,10カ月程前からは水仕事をすると,指が白くなる現象を認めていた.

既往歴:特記事項なし.

家族歴:特記事項なし.

嗜好:たばこは吸わない.お酒は飲まない.

職業:主婦

ペットは飼っていない.

身体所見:血圧120/74mmHg,脈拍96/分,整,体温39.1℃,呼吸数20/分.患者さんには慢性的な病的な印象がある.リンパ節腫脹,皮下結節,皮疹は認めない.眼,耳,鼻,口腔に異常所見はない.呼吸音,心音に異常なし.腹部にも異常所見なし.

両手の指は全体に腫れており,PIP(近位指節間),MP(中手指節)関節に腫脹,圧痛を認める.左の第2,3指の爪床の毛細血管の拡張を認める.また,下肢に沈下性の浮腫1+を認める.徒手筋力テストで異常は認めない.

外来研修医教育への招待・7

こんな場合はどうする? その3

著者: 鄭真徳 ,   川尻宏昭

ページ範囲:P.1400 - P.1405

 前回・前々回と,初診外来を行ううえで重要な「軸」というキーワードを意識しつつ,それをいかに研修医に伝えてゆくか? ということを,ケースを用いた実際的な方法として示してきました.そしてこれまでに,「緊急性」と「緊急性は高くないが,見逃してはいけない」という2つの軸を提示してきました.多様な訴えをもつ患者さんを診なければならない初診外来において,これらの「軸」を意識することは,担当する医師にとって有用な考え方です.同時に,研修医の先生にもそのような考え方を身につけてもらうことは,外来研修の大きな目標の一つといえるでしょう.そしてこれを身につけることで,研修医の先生も,右往左往することが減るのではないでしょうか.それでは今回も「軸」を意識しながら,研修医教育の実際をみてみましょう.

成功率が上がる禁煙指導 誰にでもできる日常診療の工夫・1【新連載】

禁煙指導を始めるに当たって医師としての取り組み

著者: 安田雄司

ページ範囲:P.1406 - P.1411

 2006年4月から「ニコチン依存症管理料」が新設され,禁煙治療を開始したか,もしくは将来取り入れようと考えている医療機関は多いと考える.しかし,治療を始めてもなかなか禁煙成功率を上げられなかったり,どうやって禁煙を進めていけば良いのか迷っている医師も少なくない.当院では1998年開院と同時に禁煙指導を行うとともに同年に発足した京都禁煙推進研究会(現NPO法人京都禁煙推進研究会)の構成メンバーとして会員相互による禁煙指導技術を向上させる努力を行ってきた1).そして「ニコチン依存症管理料」が新設されると同時に保険診療による禁煙治療を開始し,2006年末の途中集計では禁煙成功率が70%と予想以上に良好であった.禁煙成功率を向上させる工夫とその取り組みなどを私見を交えながら述べていきたい.したがって,“禁煙治療”としての基本的なことは,禁煙ガイドライン2),禁煙治療のための標準手順書3)や禁煙外来マニュアル4)などで詳しく書かれており,本文では私が日常診療上での禁煙治療成績を上げるためにいろいろ取り組み工夫した内容を中心に記載した.

日常診療の質を高める口腔の知識・7

歯科疾患と関連する意外な病気

著者: 岸本裕充

ページ範囲:P.1412 - P.1415

 むし歯と歯周病は2大歯科疾患ですが,これらが意外な病気と関連していることが少しずつ明らかになってきました.むし歯や歯周病の罹患率が非常に高いことを考えると,これらの影響を常に頭の隅に置いておく必要があると思います.

目でみるトレーニング

著者: 石田真実子 ,   山下竜也 ,   長嶋道貴

ページ範囲:P.1416 - P.1423

内科医が知っておきたいメンタルヘルスプロブレムへの対応・7

やたらと病気を気にする人―心気症

著者: 中尾睦宏

ページ範囲:P.1424 - P.1427

 病気を非常に心配する人がいる一方で,全く無頓着な人もいる.この違いはどこからくるのであろうか?ちまたには健康情報があふれ,例えばテレビで「本当は恐ろしい胸痛」などの特集番組があると,次の週の心療内科外来には「私は胸痛があるのですが大丈夫でしょうか?」と困惑しつくした顔で受診する患者がいる.「先週はこの患者は腹痛を訴えていたのに変だな?」と内心思いながら診療に当たる.もちろん胸痛の背景には重大な内科疾患が潜む可能性があるので決して油断をしてはいけないのであるが,さまざまな身体愁訴を訴え,検査に異常がないといくら説明しても病気ではないかと心配する.そうした患者はもしかすると心気症なのかもしれない.

書評

左アプローチによるTRI

著者: 延吉正清

ページ範囲:P.1237 - P.1237

 冠動脈インターベンションを世界で最初に行ったのは,Gruentzigである.彼は1977年にスイスのチューリッヒで右股動脈穿刺に細いカテーテルを用い,前下行枝の高度狭窄の拡張に成功した.そしてこの手技を,percutaneous transluminal coronary angioplasty,すなわちPTCAと命名した.
 その後,ステントやロータブレーター,DCAなどの出現によりPTCAをPCI(percutaneous coronary intervention)と呼ぶようになった.歴史的には股動脈穿刺の後,Stertzerらにより右前腕穿刺で行うPTCAも普及した.

よくある症状-見逃せない疾患―デキる臨床医はこのように考える

著者: 鈴木富雄

ページ範囲:P.1323 - P.1323

 『よくある症状-見逃せない疾患』を読んだ.手ごろな重量感,2色使いの読みやすい文章.適切なポイントで区切られた臨場感あふれる症例提示.興味深く,段階を追いながらも一気に読ませるQ & A方式の解説.1章の「Nguyen氏とFennech夫人の胸痛」から始まり,36章の「Brunoさんの急性側腹部痛」にいたるまで,読み進むうちに,積極的でやる気のある研修医を,若手の優れた指導医が指導していく現場に居合わせているような高揚感と,双方に対して「おぬし達,できるな」という,敬意と親しみの混じったような気持ちを強く感じた.

 総合内科領域の指導医にとって,ここに書かれている内容は,マスターしておきたいことばかりである.しかしながら,業務に忙殺されるなかであいまいにしてきた部分もあるはずである.総合内科医としての力量を,短期間にバランス良くブラッシュアップさせるのに,これほど良いレベルと分量の書物は他に見ない.優秀な指導医にとっては,記載が物足りなく思える部分もあるかもしれない.だからこそ,短時間に一気に読め,そのなかで,「おやっ」と思う未知なる知識や,臨床的コツに出会うこともあるであろう.いわゆるclinical pearlである.

内科学

著者: 井村裕夫

ページ範囲:P.1355 - P.1355

 「教科書も進化する」というのが,医学書院の新刊,『内科学I・II』を手に取ったときの第一印象であった.図表を数多く入れて理解を助けていること,系統ごとに「理解のために」という項を設けて,基礎研究の進歩,患者へのアプローチ,症候論,疫学,検査法などをまとめていること,疾患ごとの記載でも疫学を重視し,新しい試みを導入していること,などであろう.膨大な内科学の情報を,2巻に凝縮した編集の努力も,大変なものであったと推測される.その意味で,新しい内科学教科書の1つの型を作り上げたといえよう.

 序文にもあるように,内科学は医学の王道であるといってもよい.病気を正確に把握し,できるだけ患者に負担をかけない,侵襲の少ない方法で治療するのが,医学の究極の目標だからである.この目標を達成するためには,基礎研究の成果を活用することが不可欠である.内科学こそは臨床医学のなかでも最も生命科学に基礎を置いた分野であり,その理解なしに診療にあたることは困難である.本書ではそのような配慮が十分になされているといえる.

レジデントのためのアレルギー疾患診療マニュアル

著者: 狩野庄吾

ページ範囲:P.1399 - P.1399

 『レジデントのためのアレルギー疾患診療マニュアル』は,アレルギー専門医をめざすレジデントだけでなく,他の分野に進む臨床研修医,プライマリケア医にもお勧めしたい本である.

 著者の岡田正人氏は,医師免許取得後,横須賀米海軍病院で卒後研修生として1年間臨床研修を受けた.1991年に渡米してNew YorkのBeth Israel Medical Centerで3年間内科レジデントとして臨床のトレーニングを受け,さらにYale Universityで3年間フェローとしてリウマチ学とアレルギー学の臨床と研究に従事した経歴をもつ.米国の内科専門医,アレルギー・臨床免疫科専門医,リウマチ科専門医の資格を取得している.その後,フランスのAmerican Hospital of Parisで内科,アレルギー,リウマチの診療を続け,2006年4月から聖路加国際病院のアレルギー膠原病科に勤務している.日本,米国(コネチカット州),フランスの医師免許を取得している.

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編集室より

著者:

ページ範囲:P.1436 - P.1436

●大作曲家バッハの残した作品は数え切れないが,その代表作として,「ゴールドベルク変奏曲」(1742年)の名が挙がることは少なくない.天才ピアニスト,グレン・グールドが1955年に行った録音が,この曲の評価を決定的にしたのだ.

●かつて,主に古楽の専門家によってチェンバロで演奏されてきたゴールドベルク変奏曲を,グールドは斬新な演奏スタイルによって,ピアノで録音した.端麗な容姿と独特の芸術観,異端とも言える音楽活動で注目を集めたグールドのアイドル的な人気も手伝い,世界中がこの曲を聞き,グールドの名前とともに,ゴールドベルク変奏曲の名は不滅のものとなったのである.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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