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雑誌目次

雑誌文献

medicina45巻1号

2008年01月発行

雑誌目次

今月の主題 プライマリケア医が主役―膠原病・関節リウマチの早期診断・早期治療

著者: 岡田正人

ページ範囲:P.5 - P.5

 自己免疫性多臓器慢性炎症性疾患の多くは「膠原病」として知られている.この膠原病という日本語はおそらく英語の「collagen vascular diseases」からと想像されるが,現在は英語圏の膠原病を専門とする医師の間では膠原病は「connective tissue diseases」と総称されている.今回の特集においても結合組織疾患という用語を使う案もあったのだが,あえて「膠原病」という言葉を残した.理由は読者にわかりやすいであろうということだけでなく,このconnective tissue diseasesという呼び方も一般に膠原病といわれる疾患群を正確には包括していないと考えたからである.

 さて,日本の膠原病診療の現状はどうであろうか.ヨーロッパでは一般に,Rheumatologistは関節リウマチと整形内科的な腱鞘炎,腰痛,関節痛を診る内科医のことを指し,SLE(全身性エリテマトーデス)などの膠原病はRheumatologistの専門分野とはみなされていない.米国のRheumatologistは整形内科的疾患とリウマチ・膠原病・血管炎などすべてを診療する.日本では膠原病を専門とする内科医が欧米に比して極端に少ない.これには,関節リウマチは整形外科医が診療してくれることも多く,SLEなどの比較的まれな疾患を主に診療する膠原病内科医は大都市周辺以外では必要性が乏しかったという日本固有の事情もあると想像する.

overview

プライマリケア医のための膠原病の診かた,考えかた

著者: 岡田正人

ページ範囲:P.6 - P.10

ポイント

●膠原病は自己免疫性多臓器慢性炎症性疾患である.

●診断の基本は病態を念頭に置いたHistory & Physicalである.

●抗核抗体は膠原病全体に対する検査ではなく,主にSLEを疑うときにオーダーする.

●血管炎では血管の閉塞(虚血),破綻(出血)がどのサイズの血管で起こっているかに注目する.

膠原病を見逃さないための日常診療

頻度の高い膠原病関連疾患

著者: 萩野昇

ページ範囲:P.12 - P.19

ポイント

●皮膚・関節の所見から膠原病を「感度よく」疑うことが大事.

●稀な結合組織疾患も,いったんは頭の片隅で考える.

●診断の確定・初期治療の方針は専門施設で.

頻度の高い膠原病類似疾患

著者: 金城光代

ページ範囲:P.20 - P.23

ポイント

●急性発症の対称性多発関節炎は,関節リウマチ以外の可能性を十分考える.

●ウイルス性関節炎は,ほとんどが数週以内に自然寛解する.

●高齢者の多発関節炎では,結晶性関節炎を鑑別から忘れない.

●リウマチ因子陽性の多発関節炎は,HCVや結核性関節炎でも認める.

●亜急性の筋力低下では,甲状腺疾患,薬剤,神経疾患による原因も考える.

初診時の系統的レビュー(review of systems:ROS)

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.25 - P.27

ポイント

●医療面接は,医師にとって最も重要な技能である.

●ROSは主訴と現病歴を補完し,全身の症候把握を完成することができる.

●ROSは誤診と治療失敗を系統的に回避する有用なツールである.

●心理社会的背景を把握することで全人的医療の視点を得ることも可能となる.

●ROSは「病歴」のなかに含まれ,患者の主観的所見(S)に属する.

再診で膠原病を見逃さない

いつもの患者さんの症状から膠原病を疑う

著者: 野口善令

ページ範囲:P.29 - P.33

ポイント

●膠原病では,多臓器,多系統にわたって症状が出現する.手掛かりとなる症状を見落とさず,鑑別診断として膠原病を含めたいくつかの候補を想起し,次の段階で候補の疾患を絞っていく.

●膠原病を疑わせる個々の症状は非特異的なものが多い.つまり,症状があるから必ず膠原病であるとは限らない.

●発熱,紫斑,Raynaud現象,関節痛,筋肉痛,蛋白尿,乾燥症状などは,比較的よくみられるが,特異性は低い.

●運動で改善する腰痛,顎跛行(開口障害),上肢跛行は,特定の膠原病に特異性が高い.特異的な症状は発現頻度が低いことが多いが,あれば診断の助けになる.

いつもの検査から膠原病を疑う

著者: 金城紀与史

ページ範囲:P.34 - P.37

ポイント

●リウマチ・膠原病でCRPやESRが上昇することが多いが,これに頼りすぎると診断をミスすることがある.

●抗リン脂質抗体症候群では血小板減少やaPTT延長がみられることがあるが,症状は血栓塞栓症である.

●喘息でステロイド内服・点滴を頻回に必要とする状態になって好酸球数が上昇した場合には,ABPAとCSSを考える.

●血尿で糸球体病変を示唆する所見は,赤血球の変形と赤血球円柱である.

●蛋白尿の定量には尿蛋白/クレアチニン比を用いるのが簡便である.

膠原病を疑ったときの診断の進め方

膠原病を追い込む問診事項

著者: 岸本暢将

ページ範囲:P.38 - P.42

ポイント

●関節痛の原因診断は詳細な問診により的を絞ることができる.特に関節の“OPQRSTa”を忘れずに.

●安静時・寝ているときに増悪する痛みは要注意.

●前医の診断が正しいとは限らない.現在の主訴以外に,過去の診断に至った経緯についても詳細に問診すること.

●各疾患の特徴を理解し,システムレビューにて全身のチェックも忘れずに.

膠原病に焦点をあてた身体所見の取り方

膠原病に特徴的な皮膚所見―指先から始めよう

著者: 衛藤光

ページ範囲:P.44 - P.47

ポイント

●全身性エリテマトーデス(SLE)では,手指に多彩な紅斑がみられる.

●全身性強皮症(SSc)では,Raynaud症状,手指の腫脹,皮膚硬化,爪上皮の延長,爪上皮出血点(NFB)がみられる.

●皮膚筋炎(DM)では,関節背面の角化性または萎縮性紅斑,爪囲紅斑,NFBがみられる.

●Sjögren症候群(SjS)では,凍瘡様紅斑がみられる.

●混合性結合組織病(MCTD)では,Raynaud症状,手指の腫脹,NFBがみられる.

関節炎所見から膠原病を見分ける

著者: 上野征夫

ページ範囲:P.48 - P.51

ポイント

●関節炎とは滑膜に炎症をもっていることであり,発赤,腫脹,熱感,圧痛所見の有無を確認し,関節周囲あるいは皮下組織からの痛みと解剖学的に区別する.

●急性単関節炎を疑った場合には,外傷,結晶誘発性関節炎,化膿性関節炎が鑑別すべき主なものである.

●慢性単関節炎では,変形性関節症,関節の機械損傷,また,炎症性関節炎では結核,真菌感染によるものを考えておく必要がある.

●急性多発性関節炎では,関節リウマチの初期,あるいは結合組織疾患をまず考えるべきであり,ウイルス性関節炎も除外すべき疾患である.

●慢性多発性関節炎では関節リウマチをまず考え,血清反応陰性脊椎症の可能性も除外する.ただし,圧倒的に多い疾患は高齢者の軟骨変性による変形性関節症である.

膠原病を追い詰める特徴的な全身所見

著者: 牛山理 ,   長澤浩平

ページ範囲:P.52 - P.55

ポイント

●問診に際しては,局所/全身,末梢性/中枢性,急性/亜急性/慢性かなどに留意する.

●発熱性疾患では,できるだけ熱型を観察・確認する.

●膠原病による間質性肺炎に伴うfine crackleは両下肺野背側で聴取されやすい.

●動脈硬化に乏しい梗塞では,抗リン脂質抗体症候群を疑う必要がある.

●「まず疑う」ことが診断につながりやすいが,感染症や腫瘍性疾患にも注意したい.

膠原病を疑ったときの検査

抗核抗体・特異抗体はいつ測るべきか?

著者: 八田和大

ページ範囲:P.56 - P.59

ポイント

●膠原病の本態は自己免疫疾患であり,自己抗体の出現が特徴である.

●膠原病の診断に抗核抗体をはじめとした自己抗体を検出することは大切である.

●抗核抗体はスクリーニングとして有用であるが,特異性が低いなど,pitfallがある.

●非特異的なところは,随伴症状とほかの自己抗体(特殊抗体)で絞り込む.

●臓器病変先行型膠原病があるので,どんな病態でも一度は膠原病関連ではないか考える.

ANCAはいつ測るべきか?

著者: 赤井靖宏

ページ範囲:P.60 - P.63

ポイント

●血管炎の診断は,ANCAの時機を逸しない測定がポイントである.

●原因不明の発熱を呈し,肺障害,腎障害を有する高齢者では,ANCAの測定を考慮する.

●ANCAが陽性であっても,できうる限り組織生検を行う.

●ANCAが陽性というだけで血管炎の治療を開始してはならない.

●ANCA値の上昇・下降は,血管炎の病勢に一致する場合が多い.

リウマトイド因子・抗CCP抗体が陽性・陰性の臨床的意義

著者: 村上孝作 ,   藤井隆夫 ,   三森経世

ページ範囲:P.64 - P.67

ポイント

●IgM-リウマトイド因子(RF)は,アメリカリウマチ学会の診断基準に採用されている.

●RF陰性を特徴とする疾患もある.

●抗CCP抗体は,RAの早期診断と関節破壊予測を可能とする新しい診断マーカーである.

●RF,抗CCP抗体ともに,RAにおける感度は70%程度である.

●RF,抗CCP抗体ともに陰性であっても,完全にRAを否定することはできない.

画像はいつどれを撮るべきか?

著者: 山本万希子

ページ範囲:P.68 - P.72

ポイント

●読影は常にA-S-B-C-Dの順で行うと見落としが少ない.

●DIPを侵すリウマチ性疾患の代表的なものは,変形性関節症と乾癬性関節炎である.

●bare areaからのmarginal erosionは関節リウマチに特徴的である.

緊急を要する膠原病関連疾患

緊急を要する膠原病関連疾患

著者: 萩野昇

ページ範囲:P.73 - P.79

ポイント

●重要臓器病変を有する膠原病の場合,診断の確定よりも治療の開始が優先されることもある.

●膠原病の重要臓器病変に対して,打つべき「最初の一手」の種類は多くない.

●検査所見ではなく,患者の状態を治療するよう心がける.

内科医としての関節リウマチ治療戦略

抗リウマチ薬の基本知識と使い始め方―パスを作ろう

著者: 古谷武文 ,   小竹茂

ページ範囲:P.80 - P.83

ポイント

●NSAIDsは,QOL改善目的のみに用いる.

●ステロイド薬は漸減法で,骨粗鬆症に注意する.

●抗リウマチ薬は漸増法で,主役はメトトレキサート.

●抗リウマチ薬は副作用が20~40%,患者教育と定期検査が重要.

●抗TNF療法の効果は絶大だが,免疫力低下や費用が問題.

関節リウマチ活動性の指標と治療効果―現実的な治療目標

著者: 岸本暢将

ページ範囲:P.85 - P.89

ポイント

●RAの活動性は何か1つの検査(例えばRF)で示せるものではなく,疼痛・腫脹や医師および患者の疾患活動性全般評価などの問診・身体所見を中心とした総合評価(DASなど)によって示される.

●RAの疾患活動性をできる限り低く抑えることにより,疾患転帰である関節破壊,身体機能障害を予防することができる.

●日常診療でも最低3カ月ごとにはDAS28などを使用し,疾患活動性を定量しモニターし,治療を再検討するよう心がける.

●治療効果判定にも疾患活動性の指標が使用でき,理想的には寛解を目標とすること.

抗リウマチ薬の早期開始と内科医としての治療戦略―non-erosive era

著者: 岡田正人

ページ範囲:P.90 - P.93

ポイント

●早期リウマチの多くは分類基準を満たさず,リウマチ因子も20%以上で陰性.

●骨びらんの存在,リウマチ因子陽性,CRP高値などは関節破壊進行の危険因子である.

●診断が確定すれば,抗リウマチ薬をできる限り早期に導入することが望ましい.

●治療計画は,3カ月ごとに効果,副作用,QOL,合併疾患を考慮し,調整する.

●薬物治療の進歩により多くの症例で関節炎をコントロールし,骨びらんを予防できる.

膠原病の診断,治療開始とフォローの実際

リウマチ性多発筋痛症・側頭動脈炎

著者: 岡崎仁昭

ページ範囲:P.94 - P.98

ポイント

●PMRは50歳以上の高齢者に発症する,四肢の近位筋を主体とする筋痛とこわばりを特徴とするリウマチ性疾患である.

●PMRはPSL 10~20mg/日の少量でコントロール可能である.

●わが国では側頭動脈炎の合併は少ないが,合併時には速やかなPSL増量が必要であり,専門医へ紹介する.

●PMRは除外診断が基本であり,特にステロイド療法による改善がみられない場合は,悪性腫瘍や感染症の検索が必要である.

●高齢発症の関節リウマチとの鑑別には,抗CCP抗体がきわめて有用である.

成人Still病

著者: 村上孝作 ,   藤井隆夫

ページ範囲:P.100 - P.103

ポイント

●成人Still病は弛張熱,多関節炎,定型的皮疹を3主徴とする.

●急性期には炎症反応が高値となり,高フェリチン血症を示す例が多い.

●成人Still病の確定診断には,発熱をきたす他疾患の除外が重要である.

●ステロイド抵抗性の場合には,メトトレキサートをはじめとした免疫抑制薬投与を試みる.

全身性エリテマトーデス

著者: 岡田正人

ページ範囲:P.104 - P.107

ポイント

●発熱,多関節痛,原因不明の遷延性炎症疾患では,全身性エリテマトーデス(SLE)を鑑別診断に挙げる.

●診断には,問診と身体所見,血算,尿検査などの基本的検査をまず行う.

●抗核抗体陰性では,SLEをほぼ除外,陽性は非特異的で抗体価も活動性を反映しない.

●CRP上昇は漿膜炎などで上昇することはあるが,一般に感染症をより強く示唆する.

●補体,血球数,血沈,蛋白尿,抗dsDNA抗体などが活動性を反映することがある.

Sjögren症候群

著者: 赤平理紗

ページ範囲:P.108 - P.114

ポイント

●Sjögren症候群は,唾液腺・涙腺の乾燥症状以外に腺外症状の有無に着目して全身を診察する.

●Sjögren症候群に肺・神経・腎など重要臓器に障害があれば,評価して専門医にも相談する.

●間質性肺炎増悪や脊髄炎を合併した際は,緊急にステロイドパルスが必要なこともある.

●Sjögren症候群は悪性リンパ腫発生のリスクが高く,フォローして早期発見を心がける.

Behçet病

著者: 菊地弘敏 ,   広畑俊成

ページ範囲:P.116 - P.119

ポイント

●Behçet病の特殊病型は遅発性病変が多く,生命予後を左右する.

●後部ぶどう膜炎は発作を繰り返すと著しい視力・視野障害を生じる.

●腸管Behçet病では,定型的回盲部病変以外に潰瘍性大腸炎様やCrohn病様の病変もみられる.

●血管Behçet病においては,動脈系よりも静脈系の病変頻度が高い.

●慢性進行型の神経Behçet病は,髄液中IL-6が持続的に高値で,ステロイド抵抗性の病態である.

多発性筋炎,皮膚筋炎

著者: 高田和生

ページ範囲:P.120 - P.125

ポイント

●初期診断的評価は,病歴・身体所見および検査にて筋病態の存在を確認,鑑別疾患の除外,筋・皮膚外病変合併の評価,悪性腫瘍合併の評価,の4つの過程よりなる.

●多発性筋炎を疑う症例や,特徴的な皮疹を伴わない症例に皮膚筋炎を疑う場合には,筋生検の施行が推奨される.

●合併する間質性肺炎の糖質コルチコイドへの反応性は低く,特に皮膚筋炎に合併頻度の高い急速進行性間質性肺炎は短期生命予後不良であり,初期治療開始時より強力な免疫抑制治療が必要である.

全身性強皮症

著者: 後藤大輔

ページ範囲:P.126 - P.129

ポイント

●全身性強皮症(SSc)は広汎性(dSSc)と限局性(lSSc)に分けられる.

●初期には診断が難しい場合もあるが,臨床所見と検査結果を総合して判断する.

●特に肺,腎,心には生命予後を左右する合併症が発症するので,注意を要する.

高安病(大動脈炎症候群)

著者: 金城光代

ページ範囲:P.130 - P.132

ポイント

●初期症状は,発熱や倦怠感,筋肉痛など非特異的症状のみのこともある.

●若年者の高血圧や血管雑音に加え,発熱や炎症反応があれば本疾患を疑う.

●診断が何年もつかず,血圧の左右差や上肢跛行症状でみつかることも多い.

●診断のgold standardは,血管造影による大動脈および主要第1分枝の狭窄・閉塞病変である.

●大動脈弁閉鎖不全による心不全,脳梗塞,失明,腎動脈性高血圧症と腎不全は,重篤な合併症である.

ANCA関連血管炎

著者: 池ノ谷紘平 ,   蓑田清次

ページ範囲:P.134 - P.137

ポイント

●Wegener肉芽腫症(WG),アレルギー性肉芽腫性血管炎(AGA),顕微鏡的多発血管炎(MPA)は,ANCA陽性となることが多く,ANCA関連血管炎と総称される.

●WGではC-ANCA,AGA・MPAではP-ANCAが高率に陽性となる.

●WGは上気道・肺・腎を中心に障害する全身性血管炎である.

●AGAは喘息症状・好酸球増多が先行した後,血管炎による症状が出現する.

●MPAは急速進行性腎炎と間質性肺炎・肺出血が特徴である.

座談会

一般内科外来における膠原病・関節リウマチの診かた

著者: 岡田正人 ,   岸本暢将 ,   野口善令 ,   赤平理紗

ページ範囲:P.138 - P.149

 一般内科医にとって,膠原病や関節リウマチをもつ患者を診ることは,決してめずらしいことではない.日本全体では,リウマチ専門医の数が不足していると言われており,プライマリケアの段階における適切な対応が求められている.

 「プライマリケア医が主役」とうたった本特集では,「一般内科外来における膠原病・関節リウマチの診かた」について,4人の内科医にお話いただいた.

連載 見て・聴いて・考える 道具いらずの神経診療・1【新連載】

問診表のウラを読む

著者: 岩崎靖

ページ範囲:P.157 - P.161

連載を始めるにあたり

 「神経内科の診察,特に神経所見の取り方は非常に難しく,時間もかかる」,と研修医や他科の先生方は考えている.実際,われわれ専門医であっても神経内科所見の取り方は非常に難しいが,全例で詳細に神経所見を取るわけではない.「外来診療の場で,神経疾患が疑われる患者を診たときに短時間で正確な診断や病変部位の特定ができるようなコツはないですか?」という質問を受ける機会も多い.「そんな便利なコツはありません.神経内科疾患が疑われたら神経内科専門医に紹介してください」と答えているが,もう少し問診,身体所見を取って,鑑別診断をしてから神経内科に紹介してほしいと感じることも多い.

 今回の連載では,神経内科を専門としない先生方に向け,適切な問診,病歴聴取,身体診察に焦点を当て,日常の診察室のなかで,患者の訴えや動作のなかに現れる注目すべきサインを見逃さないように,神経内科専門医には当たり前のことだが非専門医は意外と知らない重要なこと,少ない質問で診断がつくちょっとしたコツ,自己流でしている診察法など,実例を挙げて概説してみたい.

患者が当院を選ぶ理由 内科診察室の患者-医師関係・1【新連載】

治療意欲がない患者

著者: 灰本元

ページ範囲:P.162 - P.165

 内科医にとって,高血圧患者は最もありふれた患者である.しかし,その患者に治療意欲が全くない場合にどのように患者-医師関係を始めたらよいのだろうか.


初診の緊張感に鍛えられる

 治療意欲がない場合,高血圧を治療してほしいという主訴で来院することはありえないが,かぜ,アレルギー性鼻炎や腹痛で来院する未治療の高血圧患者は中小の病院や診療所では決して少なくない.

 初診はいわば出会い頭,いまここで人間関係が成立するか否かの瀬戸際だから,たとえかぜでも互いに緊張する.患者の意志でこの医院や私を選択してくれたのだから,初診からほどよい関係をつくりたいし,二度とこんな医院にかかりたくないとは思われたくない.この緊張感が内科医を鍛えていく.

研修医のためのリスクマネジメント鉄則集・1【新連載】

医師とリスクマネジメント(前編)

著者: 田中まゆみ

ページ範囲:P.166 - P.167

 医療現場でのリスクマネジメントというと,いまだに「保身」,「防衛医療」,「名医なら患者との信頼関係で解決すべきこと」と顔をしかめる向きがあるが,性善説からくるとはいえ,まったく認識が誤っているというほかない.医療は航空機産業などよりはるかにハイリスク産業であり,飛行機に乗るたびに非常時のビデオを見せられることに違和感がないなら,検査のたびに死亡の危険性もあると説明を受けるのは当然であり,乗客が非常時の予備知識をもつほうがもたないより良いのと同様,むしろ患者にとって今からどのような危険に巻き込まれるおそれがあるのかを知るのは良いことなのである.

研修おたく海を渡る・25

抗がん剤の値段

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.168 - P.168

 Big Pharmaと呼ばれる大きな製薬会社はひとつの新薬の開発に900ミリオンドル=1000億円かけるといわれています.最近ではMolecular Targeted Agent(分子標的薬)と呼ばれる薬が抗がん剤を中心に話題になっています.日本でもリツキシマブ(商品名:リツキサン)などに続きベバシズマブ(商品名:アバスチン),エルロチニブ(商品名:タルセバ)といった薬が認可されています.

 がんの発生,進展に関係のあるターゲットを決めて,そこに作用しそうな物質をしらみつぶしに探したり,あるいは化学工学的にそこに作用するような物質を作り出すようです.しぼりこまれた候補が,細胞,マウスを使った臨床前実験を経て,初めて毒性試験である第1層試験にたどりつくことができます.そのあと第2層試験,そしてランダム化比較試験である第3層試験へと進んでいきます.第3層試験へ進むことができるのは第1層試験にたどりついた薬のうち数%だとも言われています.引き続いて投資に値する薬かどうか第1,2層試験の結果をできるだけ早く知りたいので,製薬会社も第1,2層には長い年月をかけてはいられないのです.

聖路加Common Diseaseカンファレンス・10

あなたは不定愁訴を的確に診療できますか?

著者: 山田宇以 ,   太田大介 ,   山雄さやか

ページ範囲:P.169 - P.173

不定愁訴の診断 まずここを押さえよう
①内科臨床を続けていく以上,不定愁訴は避けては通れない.「不定愁訴を制するものは内科臨床を制する」
②収集した情報を身体面,心理面,社会面に分けて整理していこう.

目でみるトレーニング

著者: 徳永日呂伸 ,   木村琢磨 ,   小田口尚幸

ページ範囲:P.174 - P.179

書評

《神経心理学コレクション》頭頂葉

著者: 入來篤史

ページ範囲:P.103 - P.103

 酒田英夫先生の研究の足跡は,世界の頭頂葉の研究の歴史そのものである.そして,その集大成を象徴するのが,本書最終章に掲げられた,セザンヌの『サン・ヴィクトワール山』に見る線遠近法の妙技であり,フェルメールの『真珠の耳飾りの少女』に込められた陰影の魔術なのである.つまり,「頭頂葉を通してみた世界の風景」はかくあり,ということなのだと思う.どのようにしてこの境地に辿りつかれたのか,その歩みの一歩一歩に込められた想いを,希望を,信念を,本書の聞き手の山鳥 重,河村 満,田邊敬貴の3先生が巧みな質問で聞き出してゆき,酒田先生ははるか遠くに視線を投げながら,そのときどきの世界の研究現場の人間模様を回想しつつ物語ってゆく.

 ここには酒田英夫先生の,自然に対する畏敬の念が満ちている.真の研究者かくあるべし,という真摯な態度である.そんななかで,私の心に残る言葉がある.本書にも出てくる『ニューロンに聞く』という,脳に対する謙虚な研究姿勢である.まずは仮説を立てて,神経活動を検証するための手段として用い,精密に定式化されたモデルを構築してゆく,という現在一般的になった神経生理学の手法とは,明確に一線を画するこの態度は,いまや「酒田学派」のスローガンといってもよいだろう.

不整脈―ベッドサイド診断から非薬物治療まで

著者: 相澤義房

ページ範囲:P.155 - P.155

 この度,医学書院から,大江透教授(岡山大学大学院・循環器内科)の手による『不整脈──ベッドサイド診断から非薬物治療まで』が上梓された.

 氏は医学部卒業後米国での臨床研修トレーニングを受けられ,帰国後は国立循環器病センターの循環器部門の創設に加わられた.同センターでは,不整脈領域の診断と治療に専念されるとともに,不整脈専門医をめざす若い医師の育成に当たられてきた.その後,岡山大学循環器内科の第2代目の教授として赴任された.

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編集室より

著者:

ページ範囲:P.188 - P.188

●「リウマチ科が廃止に?」昨年5月,こんなニュースが膠原病・リウマチ患者の間を駆け巡った.厚労省が,現在の標榜診療科の見直しを行い,半分近くに削減するという方針を示し,新聞各紙が一斉に報じたためだ.

●当初厚労省は,標榜科の細分化が進み,患者から「わかりにくい」という声があると,見直しの必要性を述べたが,逆に患者側からの反発を招き,最終的に撤回に追い込まれた.とりわけ,リウマチ患者の反発は強く,大規模な署名活動が展開された.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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