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雑誌目次

雑誌文献

medicina45巻11号

2008年11月発行

雑誌目次

今月の主題 浮腫をどう診るか

著者: 鍋島邦浩

ページ範囲:P.1949 - P.1949

 浮腫は,一般診療においてしばしば遭遇する,ありふれた症候の一つですが,その原因は多岐にわたります.浮腫はそれ自体が治療対象ではなく,その原疾患が治療対象となります.緊急性があるものとしては,特に肺水腫を伴うような重症心不全が代表的ですが,ほかに気道閉塞をきたす可能性のあるアナフィラキシーや血管浮腫,肺血栓塞栓症を合併しうる深部静脈血栓症,気道熱傷,壊死性筋膜炎,また,きわめて稀ですが,致命的な血液濃縮を伴いうるsystemic capillary leak syndromeなどが挙げられ,これらの病態は迅速な診断と処置を要する病態といえます.しかし多くの場合,浮腫自体に緊急性はなく,したがって,まず原因を鑑別することが重要です.

 そこで本特集では,主に浮腫の鑑別に焦点を合わせ,さまざまな診療料の疾患を幅広く網羅的に採り上げることを特色として企画しました.そのため,稀な疾患にも言及していただきました.また,治療に関しては,原因を想定あるいは診断することなしに安易に浮腫の対症療法が行われたりしていないか,という点も含めてポイントを絞って話題を提供していただきました.

浮腫の基礎知識

浮腫の成因と分類

著者: 鍋島邦浩 ,   杉山敏

ページ範囲:P.1950 - P.1954

ポイント

●浮腫の成因には,毛細血管から間質への体液の移動の増加をきたす血行動態の変化と,腎によるNaと水の貯留とがある.

●前者は,毛細血管内静水圧の上昇,血漿膠質浸透圧の低下,毛細血管透過性の亢進,リンパ系の障害のいずれかによる.後者は,腎自体の障害による一次性のものと前者に伴い生ずる二次性のものがある.

浮腫患者の診察のポイント―身体所見のとり方を中心に

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.1955 - P.1958

ポイント

●浮腫の鑑別ではまず,両側性浮腫(または全身性)なのか片側性なのかを判別する.

●片側性浮腫においては,深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)による肺塞栓のリスクを考慮し,まずDVTを早急に除外(または確定)すべきである.

●血管内容量の評価は頸静脈圧(jugular venous pressure:JVP)で可能である.

●pitting edemaではpit recovery timeの測定が有用である.

浮腫の部位別の鑑別診断

顔面に浮腫をみたら何を考えるか

著者: 矢吹拓 ,   鄭東孝

ページ範囲:P.1959 - P.1963

ポイント

●顔面浮腫を,全身性に浮腫をきたす疾患と,顔面のみに限局性に浮腫をきたす疾患とに分けて考える.

●血管性浮腫(アナフィラキシーや遺伝性血管性浮腫等)と顔面(気道)熱傷は致命的な経過をたどることがあり,注意が必要である.

●詳細な病歴聴取と身体所見が原因を探るために重要となる.

上肢に浮腫をみたら何を考えるか

著者: 廣田彰男

ページ範囲:P.1965 - P.1967

ポイント

●上肢の浮腫はリンパ管や静脈への直接の障害が関与する局所性浮腫が多い.

●リンパ浮腫や上大静脈症候群が重要な疾患として挙げられる.

●その他,Stewart-Treves症候群,Paget-Shroetter症候群,Klippel-Trenaunay-Weber症候群,区画症候群,炎症性浮腫などがある.

●全身性浮腫に伴う多くの上肢浮腫は多くは起立により軽減するが,甲状腺低下症など軽減しにくいものもある.

下肢に浮腫をみたら何を考えるか

著者: 真木寿之

ページ範囲:P.1968 - P.1972

ポイント

●浮腫に対して,すぐに利尿薬を使い,原因を考えずに放置してはならない.重要な点は原因を特定することである.

●そのためには,病歴聴取と身体所見のとり方に習熟することが重要である.極意は“ただ眼でみて,聴くだけですよ”と答えたシャーロックホームズの捜査法でも参考にして.

●くどいようだが,“浮腫は表現型にすぎない.バック・グランドに潜む原因疾患を特定すること”が重要である.

さまざまな臨床各分野における浮腫

心疾患からくる浮腫をどう診るか

著者: 絹川弘一郎

ページ範囲:P.1973 - P.1975

ポイント

●心疾患からくる浮腫の場合,息切れを伴うことが多い.

●検査所見として,胸部X線,心エコー,BNPは重要である

腎疾患からくる浮腫をどう診るか

著者: 須藤博

ページ範囲:P.1977 - P.1980

ポイント

●浮腫は組織間液の過剰で,その主な病態はNa再吸収の亢進(排泄障害)である.

●診察上明らかな全身性浮腫では,体重は4~5kg増加している.

●尿沈渣異常は,ネフローゼ型,腎炎型,慢性腎不全型の3パターンで考える.

●pit recovery time(PRT)はベッドサイドで浮腫の鑑別に有用である.

肝疾患からくる浮腫をどう診るか

著者: 柴田実

ページ範囲:P.1982 - P.1985

ポイント

●肝疾患に伴う浮腫は腹水を伴うことが多い.

●原因のほとんどは肝不全である.

●肝不全には急性肝不全と慢性肝不全がある.

●慢性肝不全の原因のほとんどは肝硬変である.

内分泌疾患からくる浮腫をどう診るか

著者: 小澤安則

ページ範囲:P.1987 - P.1990

ポイント

●甲状腺機能低下症では粘液水腫というnon-pitting edemaが生じる.

●甲状腺機能亢進症でも浮腫が生じうる.

●浮腫をみたら一度は甲状腺機能異常の可能性を考える.

●Cushing症候群での浮腫の頻度は高い.特異的な症状の有無を検討する.

●インスリン作用の増強で浮腫が生じる.

呼吸器疾患からくる浮腫をどう診るか

著者: 滝澤始

ページ範囲:P.1991 - P.1993

ポイント

●全身性の浮腫は,さまざまな呼吸器疾患からくる肺性心,右心不全が原因である.

●上大静脈症候群による上半身の浮腫は肺癌など重要な所見

●COPD,結核後遺症,特発性間質性肺炎が主要な原因疾患である.

神経疾患からくる浮腫をどう診るか

著者: 木村哲也 ,   大生定義

ページ範囲:P.1994 - P.1997

ポイント

●神経学領域で遭遇する浮腫は,脳卒中肩手症候群とParkinson病患者の下腿浮腫の2つが大部分を占めている.

●病態機序のなかで重要な役割を演じている浮腫,血管原性浮腫と細胞毒性浮腫について,血液組織関門の視点から考察する.

●筋疾患,神経原性肺水腫,視神経乳頭浮腫について概観する.

リウマチ・膠原病疾患からくる浮腫をどう診るか

著者: 岡田正人

ページ範囲:P.1999 - P.2002

ポイント

●関節炎に伴う関節周囲の浮腫では受動的関節運動で関節痛を認める.

●関節リウマチでは薬剤性腎症に留意する.

●SLEではループス腎炎の増悪を浮腫が起こる前に診断・治療できるように心がける.

●Sjögren症候群では橋本病に伴う甲状腺機能低下症が頻繁に認められる.

感染症からくる浮腫をどう診るか

著者: 柳秀高

ページ範囲:P.2004 - P.2007

ポイント

●敗血症性ショックでは通常,初期に大量輸液を必要とし,これに伴う浮腫はあまり気にする必要がない.

●蜂窩織炎と壊死性筋膜炎の鑑別は重要で,後者では緊急手術を必要とする

血液疾患からくる浮腫をどう診るか

著者: 水野伸一

ページ範囲:P.2008 - P.2011

ポイント

●貧血の身体所見を見逃さない.

●不明熱の原因疾患として悪性リンパ腫を念頭に置き診察をする.

●治療によって引き起こされる特殊な病態を学ぶ.

産婦人科で浮腫をどう診るか

著者: 佐世正勝

ページ範囲:P.2012 - P.2016

ポイント

●女性性器癌の既往について問診する.

●性周期との関連について考察する.

●不妊治療の既往について質問する.

●妊娠の可能性について質問(最終月経など)あるいは尿中hCG検査を行う.

静脈疾患からくる浮腫をどう診るか

著者: 駒井宏好 ,   重松宏

ページ範囲:P.2017 - P.2019

ポイント

●深部静脈血栓症は各種凝固線溶異常の合併や長期臥床,手術後などの要因が関与している場合が多い.

●肺塞栓症は深部静脈血栓症発症初期に合併する可能性があり迅速,確実な診断が必要となる.

●下肢静脈瘤では症状の強い症例に対しては圧迫や手術などの治療を考慮する.

●上・下大静脈症候群は対症的治療法とともに原疾患の同定,治療が必須となる.

リンパ浮腫をどう診るか

著者: 今井智浩 ,   鮑智伸 ,   前川二郎

ページ範囲:P.2020 - P.2023

ポイント

●リンパ浮腫は,リンパ流の障害により生じる難治性・進行性の四肢慢性浮腫である.

●リンパ浮腫では組織間質に高蛋白の間質液が貯留する点が,他の浮腫との最大の違いである.

●リンパ浮腫がnon-pitting edemaとなる原因は,組織の線維化が進み四肢が硬化するためである.

●原発性と続発性に大きく分類され,癌治療後に発症する続発性が圧倒的に多い.

●注意すべき鑑別診断は深部静脈血栓症や静脈還流不全による静脈性浮腫である

栄養障害・低蛋白血症に伴う浮腫をどう診るか

著者: 松橋有紀 ,   丹藤雄介 ,   中村光男

ページ範囲:P.2024 - P.2027

ポイント

●血中栄養指標(血清総蛋白濃度,血清アルブミン濃度,血清総コレステロール濃度)を用い,栄養状態を評価する.

●食事摂取量が低下している場合,その原因を検索するが,うつ病や神経性食思不振症も原因となりうる.

●食事摂取量が十分であるのに低栄養状態にある場合,吸収不良症候群や蛋白漏出性胃腸症も鑑別に入れる.

皮膚疾患からくる浮腫と浮腫に伴う皮膚病変をどう診るか

著者: 石黒直子

ページ範囲:P.2028 - P.2031

ポイント

●浮腫は,限局性もしくは片側性にみられる局所性浮腫と,全身性にみられる全身性浮腫に分類される.

●皮膚科に関連する全身性浮腫は,疾患の重症度を反映することが比較的多い.

●Churg-Strauss症候群では浮腫が初発症状の1つであり,重要である.

●局所性浮腫にはリンパ性,静脈性,血管性,炎症性などがある.

●acute edema/cutaneous distention syndromeは急激な浮腫に伴う線状や水疱形成を呈する特異な皮膚病変で,治療には浮腫の改善が重要である.

診断に迷う病態・頭のすみに置きたい疾患

薬剤・中毒に伴う浮腫

著者: 鍋島邦浩 ,   比企能之

ページ範囲:P.2032 - P.2035

ポイント

●薬剤性あるいは中毒性の浮腫の診断の第一歩は,まず疑うことが重要である.

●病歴では使用薬剤をしっかり把握することは当然であるが,基礎に心・腎・肝疾患といった,浮腫をきたすリスクの高い疾患の存在や,アレルギー歴の有無も把握する.

●薬剤性と判明した場合,その薬剤の中止,あるいは減量が原則であるが,それが無理な場合は,浮腫をきたした病態生理を踏まえて対応を考える

特発性浮腫(idiopathic edema)

著者: 東理 ,   早野恵子

ページ範囲:P.2036 - P.2039

ポイント

●特発性浮腫は生殖年齢の女性にみられ,両側下腿の浮腫を主訴とする病態である.

●月経周期に無関係な朝夕の大きな体重変動に加え,頭痛,不安,倦怠感,抑うつ気分などの精神症状が認められる場合が多い.

●診断は通常,病歴と身体所見から浮腫を生じる疾患を除外することで可能である.

●体重増加や浮腫に対する過度の不安のため,利尿薬や下剤を常用する患者もみられる.

●治療は非薬物療法を中心とし,無効時には副作用をモニターしながら,ACE阻害薬やスピロノラクトンによる薬物療法を行う.

RS3PE症候群と浮腫を伴うリウマチ性多発筋痛症

著者: 水野泰志 ,   草深裕光

ページ範囲:P.2040 - P.2041

 四肢末梢の浮腫に筋痛・関節痛をきたす患者ではRS3PE(remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema)症候群とリウマチ性多発筋痛症(polymyalgia rheumatica:PMR)の可能性を検討する必要がある.本稿ではRS3PE症候群とPMRの臨床的特徴について記載する.

POEMS症候群(Crow-深瀬症候群)

著者: 菅憲広 ,   今井裕一

ページ範囲:P.2042 - P.2043

 POEMS症候群は,多発神経炎を必発とし,浮腫・胸腹水,皮膚症状(剛毛,色素沈着,血管腫),M蛋白血症,骨硬化病変などを呈する全身性疾患である.その根底にはplasma cell dyscrasiaが存在する.1968年の最初の報告以降,1984年までに102例が報告され,わが国ではCrow-深瀬症候群として扱われている.欧米ではその主要症状(polyneuropathy, organomegaly, endocrinopathy, M-protein, skin changes)の頭文字をとってPOEMS症候群と呼ばれている1)

 2003年の全国調査では国内患者数は約340名と推定されている.1996年に血中の血管内皮細胞増殖因子(vascular endothelial growth factor:VEGF)が著明な高値を示すことが明らかになった2).VEGFは強力な血管新生と同時にヒスタミンの約50,000倍の血管透過性亢進作用などの生理的作用を持つことから本症候群の浮腫,臓器腫大,血管腫などの病態と深く関連すると考えられ,新しい診断基準の1項目に入っている(表1)3)

systemic capillary leak syndrome(Clarkson症候群)

著者: 柴垣有吾

ページ範囲:P.2044 - P.2045

疾患概念・病態

 systemic capillary leak  systemic capillary leak syndrome(SCLS)は1960年にClarksonらにより初めて報告された疾患概念であり,Clarkson症候群とも呼ばれる.SCLSは血管壁の蛋白透過性亢進のため,血管内の膠質浸透圧が維持できないために,体液の血管内から間質へのシフトを引き起こし,全身の浮腫や胸腹水を生じ,また,血管内容量の極度の減少によって,血管内容量減少性ショックをきたす.血管壁の蛋白透過性亢進のメカニズムは未だ不明であるが,パラプロテイン血症の合併が多く,サイトカインの急激な放出(サイトカインストーム)によっても同様の病態が観察される点から,何らかの循環液性因子の関与が示唆されている.

episodic angioedema associated with eosinophilia(Gleich症候群)

著者: 信藤肇 ,   秀道広

ページ範囲:P.2046 - P.2047

 1984年,Gleichらは繰り返す浮腫,末梢血好酸球増加,皮膚に限局する好酸球浸潤を特徴とする4例を報告し,episodic angioedema associated with eosinophilia(EAE,別名Gleich症候群)と命名した1).hypereosinophilic syndromeとは異なり,皮膚以外の他臓器病変を伴わない点も特徴である.その後,本邦においては浮腫の再燃を認めない例の報告が相次ぎ,1998年,Chikamaらがnonepisodic angioedema associated with eosinophilia(NEAE)として多数の報告例をまとめた2)

CRPS(complex regional pain syndrome)に伴う浮腫

著者: 荒木絵里

ページ範囲:P.2048 - P.2050

CRPSとは

 複合性局所疼痛症候群(complex regional pain syndrome:CRPS)は従来反射性交感神経性ジストロフィー(reflex sympathetic dystrophy:RSD)やカウザルギーと呼ばれていた疾患で,骨折,捻挫,打撲などによる組織損傷をきっかけとして,焼けるような持続性の痛みをはじめ,浮腫,皮膚温の異常,発汗異常などの症状を呈する難治性の慢性疼痛症候群である.

 「手首をちょっと捻っただけなのに,焼けるような痛みと腫れが何カ月も続いている.少し触れるだけで飛び上るほど痛くて顔も洗えない」.このような訴えを聞いたときは,CRPSも考えて診断を進める必要がある.

浮腫の治療をめぐる話題

すべての浮腫に塩分制限・利尿薬は必要か?

著者: 野口善令

ページ範囲:P.2052 - P.2055

ポイント

●心不全,肝硬変,ネフローゼ症候群など,体液量が増加する病態に合併する浮腫には塩分制限や利尿薬が有効である.

●局所要因による浮腫,リンパ性浮腫,薬物性浮腫には効果はない.

●浮腫の軽減によるQOLの改善が利尿薬による有害作用に引き合うかを考えて使用する.

心不全,ネフローゼ,肝硬変の輸液―細胞外液量が増加している患者への輸液の考え方

著者: 小松康宏

ページ範囲:P.2056 - P.2059

ポイント

●全身性浮腫は細胞外液量過剰状態にあるので,Na制限と利尿薬が治療の中心である.

●うっ血性心不全,肝硬変では細胞外液量が増大しNa貯留状態にあるが,「有効動脈容量」は減少しており動脈系の圧受容体が刺激され,腎臓でのNa排泄が障害されている.

●浮腫患者に輸液療法を処方する際には,過剰なNa,水負荷とならないようにする.

浮腫治療におけるアルブミン製剤の功罪

著者: 青木明日香 ,   菊地勘 ,   新田孝作

ページ範囲:P.2060 - P.2062

ポイント

●アルブミン製剤と利尿剤の併用で利尿効果が期待される.

●アルブミン製剤の投与は対症療法にすぎず,原疾患の治療が優先される.

●ネフローゼ症候群の低アルブミン血症では原則として使用しない.

●低アルブミン血症の急激な補正で心不全,肺水腫を誘発する場合がある.

浮腫性疾患における体外循環療法の応用

著者: 緒方浩顕 ,   山本真寛

ページ範囲:P.2063 - P.2065

ポイント

●薬剤治療抵抗性の浮腫では体外循環を用いた治療が有効である.

●低左心機能やうっ血性心不全を伴う症例ではECUMが有効である.

●肝硬変による大量腹水貯留症例では腹水濃縮療法により,アルブミン製剤の使用を節減できる.

●難治性ネフローゼ症候群では,LDL吸着により治療抵抗性の改善が期待できる.

座談会

心不全と腎不全を合併する浮腫をどう診るか―その大多数の背景に潜む糖尿病

著者: 鍋島邦浩 ,   平光伸也 ,   藤田芳郎 ,   奥村中

ページ範囲:P.2068 - P.2077

 本特集のテーマである浮腫をきたす疾患は,多岐にわたる.なかでも,心不全と腎不全は,ともに全身性浮腫をきたす代表的な疾患であるとともに,互いの増悪因子となる.そこで,本座談会では心不全と腎不全をクローズアップして取り上げるとともに,その背景に多く潜む糖尿病が心疾患に与える影響や糖尿病性腎症の特徴などについて,それぞれのエキスパートにご議論いただいた.

 浮腫をきっかけとして,その複合的な病態や原因へどうアプローチするか,多角的に診る重要性が浮かび上がる.

連載 研修おたく海を渡る・35

自分ひとりの外来?

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.2083 - P.2083

 フェローシップを修了して数カ月が経ちました.指導医のいない自分ひとりでの外来は,ずいぶんひさしぶりです.「自分ひとり?」そんなことはありません.外来での小さな,でも強力なチームについて,紹介させてください.僕の科では,医師と看護師がマンツーマンで外来チームをつくります.僕は,月,水,金と週3回外来を担当するのですが,3回とも同じ看護師さんがついてくれます.

 僕の相棒は,ボビーという看護師さんです.ご主人は精神科医で,中西部のミシガン州から最近引っ越してきました.循環器内科での経験が長いが,がん外来は初めてだというそんな彼女と新米同士なんとかやっています.看護師歴は長く,僕なんかよりずっと臨床経験も人生経験も豊富なのですが,ボビーは今でも勉強熱心です.

市中感染症診療の思考プロセス IDATEN感染症セミナーより・8

胆道系感染症のマネジメント

著者: 矢野晴美

ページ範囲:P.2084 - P.2089

 本稿では,ケースをもとに,どのように胆道系感染症にアプローチすべきか,マネジメントの基本を述べたい.


ケース 発熱,右季肋部痛,黄疸のある80歳女性


現病歴 ADL自立した80歳の女性が,半日持続する発熱,悪寒戦慄,嘔気,右季肋部痛の訴えで救急外来を受診した.呼吸困難や咳はない.既往として食事療法を行っている糖尿病があり,胆囊胆石,総胆管結石を指摘されている.


身体所見 体温39.5℃,心拍数120/分,呼吸数24/分,血圧90/60mmHg.全身状態:きつそうである,頭目耳鼻喉:黄疸著明,心臓:I・II音正常,雑音なし,胸部:右下肺に呼吸音減弱し打診上濁音,ラ音なし,腹部:平坦・軟,軽度の右季肋部痛,肝腫大なし,脾腫なし,四肢:皮疹なし,下肢痛なし,リンパ節:触知せず.


検査データ ヘマトクリット36%,白血球14,500/μl(好中球72%,桿状球19%,リンパ球3%,単球6%),血小板7万/μl,CRP34,電解質,BUN,クレアチニン正常,赤沈82mm/hr,ALT82,AST55,ALP122,ビリルビン6.0,胸部X線:右胸水(+),血液培養:グラム陰性桿菌(+),腹部エコー:総胆管拡張,胆囊胆石,総胆管胆石貯留.

聖路加Common Diseaseカンファレンス・19

―感染症内科編―尿路感染症の分類と適切な治療について学ぼう!

著者: 森信好 ,   古川恵一

ページ範囲:P.2090 - P.2095

尿路感染症の診療  まずここを押さえよう

①尿路感染症は日常診療のなかで最も多く遭遇する感染症のひとつ!
②尿路感染症は単純性と複雑性に分類される.それぞれの起因菌と治療法を理解しよう!
③無症候性細菌尿の対処法を理解しよう!

目でみるトレーニング

著者: 谷口浩和 ,   高橋牧郎 ,   永田理絵 ,   山之内良雄

ページ範囲:P.2096 - P.2101

患者が当院を選ぶ理由 内科診察室の患者-医師関係・11

紹介の流儀

著者: 灰本元

ページ範囲:P.2102 - P.2105

 他の医師へ患者を紹介するとき,私は最もエネルギーを使う.「あの医院はいい先生を紹介してくれる」という噂が立つかどうかは開業医にとって死活問題である.紹介は,私,患者それに紹介先の医師,三者の気持ちが一つになったときうまくいく.それは,サッカーで,ミッドフィルダーからフォワードに針の穴を通すようなパスが出たときにだけ,ゴールが生まれるのによく似ている.おそらく,わずかな空間ができたその瞬間に祈るようにパスを出すのだろう.ところが患者紹介とサッカーでは決定的な違いがある.サッカー選手たちは毎日一緒に練習しているが,開業医と紹介先の医師とはそういうわけにはいかないのだ.

 それでは,私たちはどのような努力が必要なのだろうか.それが今回のテーマである.

見て・聴いて・考える 道具いらずの神経診療・11

―主訴別の患者の診かた6―物忘れを訴える患者の診かた(前編)

著者: 岩崎靖

ページ範囲:P.2106 - P.2111

 「物忘れ」を主訴に神経内科を受診する患者は急速に増加している.認知症患者数は65歳以降では人口の5~10%,85歳以降では20~30%,国内全体で約180万人の患者がいると考えられているが,高齢社会の到来により今後も増加すると推定されている.マスコミでの認知症特集記事や,「認知症は早期に治療すれば進行を抑制することができる」という宣伝,啓発が増え,認知症に関する社会的関心も増加している.医療側でも「物忘れ外来」の開設,診断技術の向上などにより認知症の診断・評価が正しくされるようになったことも認知症患者の増加に拍車をかけている.「認知症でないか心配」と訴えて受診する正常者,認知症と誤られて紹介受診する老人性うつ病患者なども増加している一方で,認知症の評価が正しく行われていない場合がまだ多いことも事実である.

 今回から「物忘れ」を主訴に受診する患者,認知症が疑われる患者の鑑別のコツについて,2回に分けて概説したい.代表的な各種疾患の鑑別法は次回に譲り,今回は初診時に注意すべき観察ポイント,検査法,認知症でみられる各種症候について概説したい.

書評

内科診断学[CD-ROM付]―第2版

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.2043 - P.2043

 40数年前に初めて,診断学の本を手にした時にはいよいよ臨床教育が始まるのだという戦慄を覚えたことを思い出す.

 医学のどの分野にゆくにせよ,医師になるための通過点の一つが内科診断学である.

がん患者の感染症診療マニュアル

著者: 藤本卓司

ページ範囲:P.2050 - P.2050

 近年,国際基準に見合った癌診療の標準化が強く求められるようになってきた.なかでも癌治療の中心である手術や化学療法などが注目されがちだが,支持療法の一つとしての感染症治療についてはどうであろうか.「背景に癌があるから」,「癌のために免疫が落ちているから」といった漠然とした理由で,論理性に乏しい抗菌薬,抗真菌薬などの選択と使用がなされてきたのではないだろうか.

 このマニュアルは,読みやすい簡潔な文体でありながら,強い信念とも言うべき哲学に貫かれている.患者背景,罹患臓器から原因微生物を推定し,それに基づいて抗微生物薬を選択するというきわめて論理的な思考過程が,総論から各論の隅々にまで首尾一貫して展開されている.

抗菌薬マスター戦略―非問題解決型アプローチ

著者: 喜舎場朝和

ページ範囲:P.2067 - P.2067

 原著は,Alan R. Hauser M.D., Ph. D.による“Antibiotic Basics for Clinicians:Choosing the Right Antibacterial Agent”.訳者は,監訳者の岩田健太郎先生を筆頭にした,感染症学を志す14名の新進気鋭の多彩な顔ぶれで,なかには,地下鉄サリン事件で名を馳せた奥村徹先生が名を連ねている.

 正直なところ,古い年代の私は原著者を知らない.しかし,岩田先生その人と彼の“キレものぶり”をよく知っているので,若い彼が,さらなる若者達を動員して邦訳に情熱を傾けたからには,それ相当の思い入れがあるに違いないと読む前から興味津々であった.

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編集室より

著者:

ページ範囲:P.2120 - P.2120

●デスクワークに没頭したり,取材で立ち続けたりした日の夕方は,自分のものとは思いたくないほど脚がパンパンにむくみ,全身がだるくなってしまいます.病的な浮腫ではないと承知していても,むくみは不快でつらいもの.ましてや疾患が原因の浮腫を抱えて暮らす方々のつらさは,原疾患が引き起こすほかの症状と相俟っていかばかりか,察するに余りあります.

●「知らなければ鑑別に挙げられない.どんなに稀な疾患や症候群であっても満遍なく取り上げたい」という鍋島先生の編集方針のもと,本特集では,さまざまな領域でご診療に携わるエキスパートの方々に,臨床で遭遇する思いつくかぎりの浮腫についてご執筆をお願いしました.原因や症状に応じた治療の考え方など,多彩な情報がぎっしり詰め込まれた1冊,まさに浮腫のエンサイクロペディアとして,ご活用いただければ幸いです.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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