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雑誌目次

雑誌文献

medicina45巻12号

2008年12月発行

雑誌目次

今月の主題 末梢血検査異常 何を考え,どう対応するか

著者: 奈良信雄

ページ範囲:P.2125 - P.2125

 血液疾患として扱われる疾患は,貧血や白血病などを中心とした造血器疾患,血漿蛋白異常症,リンパ系疾患,止血血栓系異常症などである.このほか,肝疾患,腎疾患や膠原病などの全身性疾患に伴う貧血,薬剤の有害事象としての貧血や無顆粒球症,重症感染症や悪性腫瘍に随伴する播種性血管内凝固症(DIC)などがある.

 血液疾患は内科系疾患に属してはいるものの比較的頻度は低く,特殊な疾患としてみられがちである.実際,ベテランの内科医ですら血液疾患は苦手という声をしばしば耳にする.その理由は,血液疾患は迅速に適切な処置を施さなければ重症の出血や感染症で致命的になってしまうことにあると思う.

Editorial

血液疾患の診かた

著者: 奈良信雄

ページ範囲:P.2126 - P.2127

 血液疾患を診療するにあたっては,ほかの内科系疾患と同じで,まず医療面接によって患者の訴える症状を確認し,次いで身体診察を行って身体所見を把握する.そして,末梢血液検査を主とした基本検査を行う.この過程だけで大半の血液疾患は診断がつく.貧血にしても白血病にしても,また紫斑病も,これらの診察法によって診断を下すことができる.

 血液疾患による症候として最も重要なものは,貧血に伴う症候,顆粒球減少によって発症する感染症の症候,出血あるいは血栓症に伴う症候,そしてリンパ節腫脹である.特に出血傾向や高熱は適切な処置を早期に開始しなければ致命的になる可能性があり,これらの症候から血液疾患が疑われる場合には,速やかに診断し,治療を開始するか,専門医に紹介する必要がある.

 診断を確定し,さらに病型を細分類するためには,骨髄検査や染色体・遺伝子検査などの精密検査が要求される.これらの精密検査も,ほとんどは一般の医院,病院でも可能であるが,適切な検査項目を選択し,検査結果を詳細に解釈し,さらに各病型ごとに適した高度の治療を行うとなれば,血液内科専門医に委ねたほうが望ましいことが多い.

血液疾患にみられる症候

貧血

著者: 今井康文

ページ範囲:P.2129 - P.2132

ポイント

●貧血自体の診断は,症候や一般検査値から比較的容易であるが,そのなかから原因病態,疾患の鑑別につながる事項を判断していくことが重要である.

●貧血の鑑別診断初期のポイントは,末梢血検査のなかでは赤血球指数(MCV,MCH,MCHC)と網状赤血球絶対数(Ret)である.

●貧血の診療では,赤血球,白血球,血小板の数値だけでなく,分画,形態にも注意を払う.

出血傾向

著者: 石田明 ,   半田誠

ページ範囲:P.2133 - P.2135

ポイント

●止血機構の破綻によって起こる易出血性変化を出血傾向という.内科診療の目標は,出血傾向のある患者を高感度で抽出できること,そして病態と重症度(緊急性)を正しく判断し,専門医に相談するタイミングを逃さないことである.

●出血傾向の診療のポイントは,易出血性,止血遷延,全身性の3点である.

●出血傾向の身体学的所見には,紫斑(点状出血,斑状出血),粘膜出血(鼻出血,消化管出血),深部出血(関節内出血,筋肉内出血),後出血などがある.

発熱

著者: 東田修二

ページ範囲:P.2137 - P.2139

ポイント

●血液疾患患者の発熱の原因として,腫瘍熱,感染症の合併,薬剤熱などを鑑別する.

●白血病患者の発熱を腫瘍熱と決めつけずに,感染症の検索も行う.

リンパ節腫大

著者: 室橋郁生

ページ範囲:P.2140 - P.2144

ポイント

●臨床の現場で,リンパ節腫大の原因のおおよその推測が可能である.

●成人の無痛性,弾性硬,石様硬のリンパ節腫大で,最大径が1.5~2.0cmのリンパ節腫大はリンパ節生検の適応となる.

●特別の場合を除いて,抗生物質や副腎皮質ステロイドを投与して反応をみるtherapeutic trialを行ってはならない.

血液検査から何がわかるか

血球検査

著者: 東克巳

ページ範囲:P.2145 - P.2148

ポイント

●血球検査は,手軽に患者の全身状態を把握するのに最適である.

●自動血球計数装置におけるピットフォールとして,EDTA依存性偽血小板減少や重症火傷での血小板偽高値に注意する必要がある.

出血凝固系検査

著者: 丸山征郎

ページ範囲:P.2150 - P.2152

ポイント

●現行の出血凝固系検査は主として“出血傾向”を診断するための検査で,血栓傾向の診断に関しては弱い.血栓傾向を診断するのには,SFMC(可溶性フィブリンモノマー複合体)が有用である.

●出血傾向をみた場合には,先天性か後天性か,家族歴があるかどうか,に基づいて検査することが重要である.

●PT,aPTTともに延長している場合には,複数の凝固因子の低下か,第X因子以下の共通凝固経路の因子(第X,V,プロトロンビン,フィブリノゲン)の低下か,欠損である.

●第XIII因子はPT,aPTTには影響しないので,別個第XIII因子のみ測定する必要がある.

骨髄穿刺検査

著者: 村上直己

ページ範囲:P.2154 - P.2156

ポイント

●常に血液の状態と骨髄の状態を対比して病態を考える.

●血液の異常が持続している場合は,早期に骨髄穿刺検査を検討する.

●血液の異常については,血液内科医との緊密な連携が重要である.

フローサイトメトリー検査

著者: 米山彰子

ページ範囲:P.2157 - P.2160

ポイント

●モノクローナル抗体とフローサイトメーターを用いて,細胞表面抗原を解析する.

●リンパ球サブセット検査では,T,B,NK細胞やCD4陽性,CD8陽性細胞の増減が把握できる.

●腫瘍細胞の性質を解析することができる.

染色体・遺伝子検査

著者: 東田修二

ページ範囲:P.2161 - P.2165

ポイント

●目的に応じて染色体検査,FISH法,RT-PCR法,サザンブロット法を使い分ける.

●染色体検査には細胞分裂しうる十分量の腫瘍細胞が必要である.

血液疾患へのアプローチ 【赤血球系の異常】

貧血患者へのアプローチ

著者: 檀和夫

ページ範囲:P.2166 - P.2170

ポイント

●貧血症を疑ったら,まず末梢血液検査を行い貧血を確認したら,赤血球指数からどの群に属するかを判断する.

●末梢血液検査では,白血球系,血小板系の異常の有無にも注意を払う.

●網赤血球数,血清鉄,総鉄結合能,血清フェリチン,血清LDH,間接ビリルビンなどの値から鑑別診断の目安をつける.

小球性低色素性貧血

著者: 小松則夫

ページ範囲:P.2171 - P.2175

ポイント

●小球性低色素性貧血は,平均赤血球容積(MCV),平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)が基準値以下の貧血症の総称である.

●鉄欠乏性貧血,二次性貧血,サラセミア,鉄芽球性貧血,無トランスフェリン血症が含まれる.

●慢性炎症や悪性腫瘍に伴う鉄利用障害による二次性貧血は肝臓でのヘプシジン産生亢進による.

正球性正色素性貧血

著者: 唐澤正光

ページ範囲:P.2177 - P.2181

ポイント

●正球性正色素性貧血をきたす疾患は多彩である.

●非血液疾患に続発することも多いため,総合的に診断することが大切である.

●網赤血球数により赤血球造血が亢進しているのか,または低下しているのかを判定する.

大球性正色素性貧血

著者: 別所正美

ページ範囲:P.2182 - P.2184

ポイント

●大球性正色素性貧血をみた場合,塗抹標本で赤血球の凝集の有無を確認する.

●大球性正色素性貧血をきたす疾患は,骨髄に巨赤芽球のみられるもの(巨赤芽球性貧血)とみられないものに大別できる.

汎血球減少症

著者: 脇本直樹 ,   松田晃

ページ範囲:P.2185 - P.2189

ポイント

●汎血球減少症の鑑別診断には,末梢血の白血球分画,血液像,網赤血球が重要である.

●汎血球減少症の鑑別診断を進める際は,白血病を常に念頭に置かなければならない.

●汎血球減少症患者の診断,マネジメントは血液内科医にコンサルトする.

多血症

著者: 村手隆

ページ範囲:P.2190 - P.2192

ポイント

●赤血球増加を示す疾患には,相対的赤血球増加症,二次性赤血球増加症,慢性骨髄性白血病などが挙げられる.

●真性多血症には臨床データによる診断基準が存在する.

●真性多血症の病因として,近年ではJAK2遺伝子変異が注目されている.

赤血球の形態異常

著者: 辻岡貴之 ,   通山薫

ページ範囲:P.2193 - P.2195

ポイント

●赤血球形態の確認は血液疾患診断の重要な検査の一つである.

●正確な形態診断を行うためには,よい標本を作製することが重要である.

●赤血球の形態異常は血液疾患のみならず,他疾患の診断についても有用な手がかりとなる.

【白血球系の異常】

白血球異常患者へのアプローチ

著者: 鈴木利哉

ページ範囲:P.2197 - P.2201

ポイント

●非常に忙しい臨床の合間に突然「白血球数が非常に多い」,「白血球数が非常に少ない」,あるいは「芽球が末梢血中に出ている」など血液検査室から緊急連絡を受けることは多い.

●白血球の異常に対して判断に迷ったときは,速やかに骨髄検査を行い,特殊染色,細胞表面マーカー,骨髄染色体検査を提出し,血液内科専門医にコンサルトすべきである.

●血液内科専門医は専門外の内科医が血液疾患を必要以上に恐れていることをよく知っているので,遠慮せず,気軽に相談してほしい.

白血球数の増加

著者: 青木定夫

ページ範囲:P.2202 - P.2205

ポイント

●白血球増多をみた場合には,その絶対数と白血球分画の確認が重要である.

●明らかな基礎疾患のある場合は類白血病反応と呼ばれ,基礎疾患の治療が重要である.

●原因が明らかでない場合も,多くの場合は血液疾患である可能性は高くないので,再検査などで経過を確認する.

●比較的高度の白血球増多(15,000/μl以上)をみた場合や,軽度であっても出血や貧血などの症状が伴う場合は,専門医への紹介が必要である.

●白血球増多の鑑別には,形態,表面マーカー,染色体,遺伝子検査などが有用である.

白血球数の減少

著者: 北川誠一 ,   日野雅之

ページ範囲:P.2206 - P.2208

ポイント

●白血球減少がある場合には,ほかの血球成分(赤血球,血小板)の変化にも注意する.

●白血球減少がある場合には白血球分画を調べ,どの成分が減少しているか確認する.

●白血球減少がある場合には薬剤の服用歴,治療歴を詳細に問診する.

白血球の機能異常

著者: 浅野健

ページ範囲:P.2210 - P.2213

ポイント

●白血球の機能異常を呈する疾患はほとんどが先天性である.

●白血球の機能異常を呈する疾患は稀である.

●白血球の機能異常を疑ったときには,白血球の機能をよく考えて検査をすることが重要である.

白血球の形態異常

著者: 石川隆之

ページ範囲:P.2214 - P.2217

ポイント

●血球数の異常を伴う白血球の形態異常には注意が必要である.

●血液疾患との関連は,細胞質の異常よりも核の異常があるときに強い.

●血球比率の異常は血液疾患によらないことが多い.

●日和見感染や出血症状を伴った白血球形態異常症は速やかに血液専門医に相談する.

【出血凝固系の異常】

出血傾向患者へのアプローチ

著者: 小山高敏

ページ範囲:P.2218 - P.2224

ポイント

●出血傾向は,血管壁,血小板,凝固・線溶因子の異常によって起こる.

●スクリーニング検査に,血小板数,PT(プロトロンビン時間),APTT(活性化部分トロンボプラスチン時間),フィブリノゲン量,出血時間がある.

●確定した原因に応じて治療を行えば,生命予後はよいが,血小板減少やDIC(播種性血管内凝固症候群)では基礎疾患の影響を受ける.

血栓傾向患者へのアプローチ

著者: 鈴木伸明 ,   小嶋哲人

ページ範囲:P.2225 - P.2227

ポイント

●血栓症の発症には,血液成分・血流・血管壁の3要素が深くかかわっている.

●深部静脈血栓症の診断には,D-ダイマーと静脈エコーが有用である.

●先天性凝固異常が疑われる場合は,専門医へコンサルトする.

トピックス

造血器腫瘍治療の進歩

著者: 泉二登志子

ページ範囲:P.2228 - P.2230

ポイント

●慢性骨髄性白血病の治療では,イマチニブメチル酸塩が第一選択である.

●非Hodgkin悪性リンパ腫の治療はリツキシマブとCHOP療法併用,高リスク症例では自家移植が有用である.

●多発性骨髄腫の治療はVAD療法と自家移植,ボルテゾミブ,サリドマイドが有用である.

造血幹細胞移植

著者: 谷川宗

ページ範囲:P.2232 - P.2235

ポイント

●患者とドナーの関係で自家移植,同系移植,同種移植に分かれ,それぞれに骨髄,末梢血,臍帯血の3種の造血幹細胞源がある.

●造血幹細胞移植により,致死量を超える抗癌薬や放射線が使用できる.同種移植ではGVL効果が期待できる.

分化誘導療法

著者: 竹下明裕

ページ範囲:P.2236 - P.2238

ポイント

●all-trans retinoic acid(ATRA)は急性前骨髄球性白血病(APL)の約90%に完全寛解(CR)と約60%に6年無病生存率をもたらした.

●治療前のAPL細胞数により,併用する化学療法の期間と量を設定する層別化治療が行われる.

●Am80は分化誘導能が強く化学的にも安定しており,再発APLにおいて約60%の寛解が得られる.

●亜砒酸の有効性も高く,再発APLでも60~80%の寛解が報告されている.

DIC治療の進歩

著者: 和田英夫

ページ範囲:P.2240 - P.2242

ポイント

●DIC(播種性血管内凝固症候群)の予後はいまだ悪く,DIC治療の標準化が必要である.

●DICの治療において,基礎疾患の治療が最も重要である.

●生理的プロテアーゼインヒビターの開発は,DICの予後を改善する可能性がある.

ITP治療の進歩

著者: 藤村欣吾

ページ範囲:P.2244 - P.2247

ポイント

●血小板数と出血症状に基づいて治療を開始する.

●副腎皮質ステロイド療法,次いで摘脾が標準的治療であるが,Helicobacter pylori陽性ITP(特発性血小板減少性紫斑病)症例では除菌療法が有効であることが多い.

●難治性ITPに対する治療法は確立されていないが,リツキサン療法や血小板増殖因子の応用が試みられている.

抗リン脂質抗体症候群

著者: 鏑木淳一

ページ範囲:P.2248 - P.2250

ポイント

●抗リン脂質抗体症候群では,動脈あるいは静脈血栓症,自然流産をはじめとする妊娠合併症を臨床特徴とする.

●抗リン脂質抗体症候群における検査基準として,抗カルジオリピン抗体,β2-GPI依存性抗カルジオリピン抗体,ループスアンチコアグラントが取り上げられている.

鼎談

プライマリケアにおける血液疾患の診療

著者: 奈良信雄 ,   吉永治彦 ,   長田薫

ページ範囲:P.2252 - P.2260

 「血液疾患の診療は苦手」という内科医が多いが,common diseaseである鉄欠乏性貧血や,頻度は高くないにしても早期診断・専門医への紹介を要する疾患など,内科医が血液疾患の診断・治療を行う機会は少なくない.そこで大学病院,市中病院,診療所の血液専門の医師に,診断のポイント,血液疾患を診た場合の対応,専門施設で治療後のフォローなど,経験例を交えながらお話しいただいた.

連載

目でみるトレーニング

著者: 斎藤泰晴 ,   窪田哲也 ,   鈴木克典

ページ範囲:P.2266 - P.2271

見て・聴いて・考える 道具いらずの神経診療・12

―主訴別の患者の診かた7―物忘れを訴える患者の診かた(後編)

著者: 岩崎靖

ページ範囲:P.2272 - P.2277

 「物忘れ」を主訴に受診する患者の診察において注意すべき観察ポイント,検査法,認知症でみられる各種症候について,前回概説した.認知症は疾患名ではなくさまざまな高次機能障害を含めた病態像と考えるべきで,その原因疾患はAlzheimer型認知症だけでなく多岐にわたる.今回は,認知症を呈する代表的な各種疾患の鑑別法について概説したい.

市中感染症診療の思考プロセス IDATEN感染症セミナーより・9

急性下痢症のマネジメント

著者: 黒上朝子

ページ範囲:P.2278 - P.2283

ケース 発熱,水様性下痢で来院した生来健康な35歳女性

 

現病歴 2日間持続する発熱,全身倦怠感,腹痛,水様性下痢にて救急外来を受診.水様性下痢は5回/日以上,夜間就寝中も腹痛と下痢で覚醒するほどである.便は水様性,血液混入なし.軽度の嘔気・嘔吐と立ちくらみがある.娘が3日前,夫が2日前から同様の症状,娘は脱水・急性胃腸炎で入院中.5日前に生卵ですき焼きを食べた.

 

身体所見 体温38.0℃,心拍数130/分・整,呼吸数18/分,血圧100/60mmHg,座位にてふらつきあり,見た目sick.頭頸部:口腔粘膜の乾燥+.心音:I・II音正常,雑音なし.肺音:ラ音なし.腹部:平坦軟,軽度の右下腹部圧痛,筋性防御・反跳痛はなし,肝脾腫なし.四肢:皮疹なし.

 

検査データ 血液所見:ヘマトクリット50%,白血球12,500/μl(好中球70%,リンパ球25%,単球5%),電解質,Cr,BUN:正常.尿所見:ケトン(3+),蛋白・糖(-),赤血球1~3/HPF,白血球<1/HPF,細菌(-),便所見:粘液(-),白血球(+),血液(-).

患者が当院を選ぶ理由 内科診察室の患者-医師関係・12【最終回】

医師の原罪

著者: 灰本元

ページ範囲:P.2284 - P.2287

 いわゆる医者嫌いの患者をしばしば見かける.そういう患者は薬だけ取りに来るが決して診察室に入ろうとしない.たまに診察すると,びくびくしたその表情から私に恐怖を抱いているように感じられ,診察を受けたくないのも無理はないと思う.また,白衣高血圧の原因は緊張だが,会社や井戸端会議では決して緊張しないのに,病院だけで緊張する患者がかなりいるのではないか.

 医師が冷たい態度を取ったからでも,誤診したわけでもなく,医師という存在そのものが患者の症状を発現させ,悪化させる,そのような医師の原罪について心気症を題材にして最後に書いてみたい.心気症は内科医が最も苦手とする疾患であるが,身体を診る技術,検査の技術,それに患者から逃げない強さが必要で,内科医が最も鍛えられる疾患であると思う.

研修おたく海を渡る・36

Tumor Board(癌症例検討会)のお作法

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.2289 - P.2289

 以前,Tumor Boardといわれる症例検討会について紹介しました(第18回参照).そこには,腫瘍内科医,腫瘍外科医,放射線治療医だけでなく放射線診断医,病理医,また看護師,ソーシャルワーカー,臨床治験コーディネーターといった多くの人が参加します.これだけの幅広い職種が参加するTumor Boardです.工夫や努力をしないと,うまくいかないものです.

 まず症例を提示する人が,この集まりで何を明確にしたいのかをはっきりしておくことが必要です.ポイントは治療,診断,それとも経過観察の仕方なのでしょうか.治療であれば,手術でいくのか,はじめは化学療法で小さくしてから手術するのか,それともchemoradiation(放射線化学療法)で押すのか,自分なりの意見を準備しておくことが大事です.治療方針だけでなく,画像や病理所見の確認が,症例提示の理由になることもあります.

書評

異常値の出るメカニズム―第5版

著者: 渡辺清明

ページ範囲:P.2165 - P.2165

 本書は1985年に第1版が出版されて以来,23年間の長きにわたり臨床検査の基礎読本として多くの医師や臨床検査技師に愛読されている.

 今回第5版が出版され,内容も血液化学検査,遺伝学的検査をはじめ最新の情報が加わり,前回の第4版より約70ページ増えた.具体的には関節液検査,赤血球酵素,栄養アセスメント蛋白およびシスタチンC,LDLコレステロールとリポ蛋白リパーゼ,銅およびセルロプラスミン,セロトニンおよび5-HIAA,MMP-3,抗リン脂質抗体,遺伝学的検査などが新たに項目として加えられた.これらの最新の項目の追加により旧第4版より,ますます刷新されたものになっている.また,血液化学検査については,各項目に総論が加えられ,より理解しやすいよう編纂されている.

エキスパート外来診療―一般外来で診るcommon diseases & symptoms

著者: 木戸友幸

ページ範囲:P.2175 - P.2175

 一般外来を受け持つ医師,特にソロのプライマリ・ケア医として幅広い外来診療を行っている開業医に最適な参考書が出た.

 本書の最大の特徴は,使い勝手の良さである.各項目の始めにまず要約が述べられ,次いで疾患の特徴が要領よく示された後,診断,治療と続く.これらも程よい分量で診療中でも流し読みできる量である.そして最後に専門医に送るタイミングで締めくくっている.

がん診療レジデントマニュアル―第4版

著者: 徳田裕

ページ範囲:P.2184 - P.2184

 臨床腫瘍学に関する情報も湯水のごとく存在しており,authorizeされたguidelineやrecommendationなどを含めてほとんどの情報をonlineで入手することが可能である.しかし,実地医療の現場においては,それぞれを別個に検索し入手しているのでは,診療のスピードについていけない.やはり,基本的な事項については,ある程度まとまったマニュアルが必要である.しかも,実臨床での利用が容易であるためには,ポケット版という携帯性も重要である.そこにも執筆者の配慮が感じられるが,本書はタイトルにも示されているように,対象読者はレジデントであるが,シニアレジデントが中心になって執筆しているのであるから,それももっともなことである.

 このようなガイドライン的なものは,2~3年ごとの定期的な改訂が求められる.本書は,第4版であり,10年間に4版を重ねているということは,まさに,それを実践しているといっても過言ではない.

がん医療におけるコミュニケーション・スキル―悪い知らせをどう伝えるか[DVD付]

著者: 垣添忠生

ページ範囲:P.2201 - P.2201

 『がん医療におけるコミュニケーション・スキル―悪い知らせをどう伝えるか』が医学書院から刊行された.編集は内富庸介,藤森麻衣子の両氏,執筆は国立がんセンター東病院,同中央病院,聖隷三方原病院,癌研有明病院,静岡県立静岡がんセンターなど,いずれも日々がん患者や家族と濃密に接するベテラン揃いである.

 患者,家族と,医療従事者との関係,特に患者と医師の間の意思疎通,コミュニケーションは医療の原点である.最近の診療現場の多忙さは危機的である.限られた時間の中で患者と医師がコミュニケーションを図ることは至難になりつつある.とはいえ,患者―医師関係を構築するうえでコミュニケーションは避けて通れない.

問題解決型救急初期検査

著者: 堀之内秀仁

ページ範囲:P.2247 - P.2247

 数ある検査に関する類書をイメージして本書を手に取った読者は,ちょっとした肩すかしを食らうことになる.

 それは,ページを開き,目次を見たときにすでに明らかである.そこには,従来の書籍にありがちな「血算,生化学検査,凝固検査,内分泌代謝検査……」といったありきたりな項目ではなく,患者の訴える主観的データ“以外の”すべての情報に挑むために必要な項目が並んでいる.本書のようなハンディな書籍で,なおかつ「検査」と銘打っていながら,バイタルサインや身体所見に関する記載にこんなにもページを割いたものがかつてあっただろうか?

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編集室より

著者:

ページ範囲:P.2298 - P.2298

●ある朝のこと.息子が突然「ヒトの体の中がわかる本がほしい」.話の流れからではなく突然のひと言に,どうしてその言葉が出たのか,まったくわかりませんでした.理由を聞いてもモジモジ.「じゃ,今日会社の近くで探してみるね」と約束し,保育園で別れました.

●調べてみると,子ども向けの「からだの本」といっても絵本から図鑑まで種類はさまざま.イラストも簡単な模式図から実際に近いものまで.「何が知りたいのかな」「まったく知らない人にどう伝えたらわかりやすいのかな」「より興味を持つためには最初の1冊は大切だな」と悩みながらも,興味・疑問を抱いたときを逃したくないと帰りがけに書店に立ち寄り,実際に近いイラストでまず体全体,そして各臓器がわかる1冊を購入しました.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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