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雑誌目次

雑誌文献

medicina45巻7号

2008年07月発行

雑誌目次

今月の主題 主治医として診る後期高齢者

著者: 星哲哉

ページ範囲:P.1159 - P.1159

 「現在の研修医・開業医に老年医学に対するニーズはございません」

 これは筆者が老年医学書翻訳(英文→和文)の企画を2007年9月某出版社に持ち込んだときに出版社側から受けた回答である.程度はわからないが少なくとも出版社レベルでは老年医学教育の必要性に対する認識は驚くほど低い,とこのとき思い知らされた.

主治医として身につけたい後期高齢者の基本的な診かた

後期高齢者が外来に来たら―Geriatric Assessmentを有効に使う

著者: 星哲哉

ページ範囲:P.1160 - P.1164

ポイント

●高齢者外来診療にGeriatric Assessment(GA)は威力を発揮する.

●GAは1回の外来でそのすべてを実施する必要はない.

●医学的のみならず社会・心理的なアプローチを心がける.

後期高齢者が入院したら

著者: 石丸裕康

ページ範囲:P.1166 - P.1170

ポイント

●高齢入院患者ではADLや認知機能を重視した病歴をとるなど,情報収集にひと工夫が必要.

●老年症候群のリスク評価や,徴候の早期発見をこころがけ,チーム医療でアウトカムを改善させる仕組みが大切.

●転倒,誤薬,ライン類自己抜去などの予防処置を講じる.

●患者にあわせたゴール設定が大切であり,どこまでの医療を行うか,キーパーソン・家族とともに考えるプロセスが重要.

●入院直後から,退院へ向けた調整を始める.

後期高齢者における診断と治療のポイント

高齢者と救急疾患―高齢者特有の見逃してはいけない救急疾患

著者: 平野史生

ページ範囲:P.1171 - P.1174

ポイント

●非典型的な症状・所見のパターンを知る.

●せん妄を認識し,背後にある重篤な疾患の把握に努める.

●常用薬を明らかにし,副作用の可能性を検討する.

●軽微な外傷機転が重篤な損傷を起こしやすい.

●老人特有の社会的問題・生命倫理にかかわる問題に留意が必要である.

疼痛―高齢者の痛みへの対処

著者: 白石正治 ,   菊地博達

ページ範囲:P.1175 - P.1180

ポイント

●後期高齢者の痛みの対処法は,主に薬物療法である.

●アセトアミノフェンは,大酒家を除き比較的安全に投与できる.

●非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)では,COX-2の選択性が高く,作用時間の短い薬物が後期高齢者に適している.

●多臓器に障害を有する後期高齢者は,温熱療法も有効である.

●後期高齢者の痛みは慢性,急性にかかわらず,あらゆる治療法を駆使して早急に取り除き,臥床早期に発症する認知症を予防し,早期離床し,日常生活に戻れるようにすることが肝心である.

認知症のスクリーニング―外来でいかに早くみつけるか?

著者: 大蔵暢

ページ範囲:P.1182 - P.1185

ポイント

●認知症は,日常生活に支障を及ぼす記憶障害を含んだ複数の認知領域の障害である.

●認知機能評価は,高齢者の包括的評価での最重要項目である.

●MMSEとHDS-Rのスクリーニング性能に差はなく,どちらを使ってもよい.

●スクリーニング後の精査は,患者によって個別的に進めるべきである.

高齢者と集中治療―高齢者をICUで治療することの是非

著者: 金城紀与史

ページ範囲:P.1186 - P.1191

ポイント

●予後が若年に比べて不良である,治療してもQOLが低い,高齢者自身は集中治療を望んでいないというエビデンスは乏しい.

●家族が本人の意向を100%反映できるとは限らないが,それでも家族の意向を尊重することを患者は望んでいる.

●高齢予後不良患者に集中治療を施さなければ医療費削減ができるというエビデンスは乏しい.

●無益(futility)という概念で,患者・家族の希望を無視して集中治療を拒絶することは問題が多い.

●致死的になりうる慢性疾患をもつ患者と事前に集中治療などについての希望を聞くことは重要である.しかし,リビングウィルが高齢者医療費削減の切り札にはならないだろう.

後期高齢者という特徴を考慮にいれるべき疾患,病態

誤嚥性肺炎―診断,治療,予防

著者: 法月正太郎 ,   矢野晴美

ページ範囲:P.1192 - P.1196

ポイント

●誤嚥性肺炎では,3つの要素“機械的閉塞”“化学性肺臓炎”“細菌性肺炎”を念頭に置き,治療にあたる.

●誤嚥性肺炎の治療では,抗菌薬投与前に,採取可能な場合は努めて喀痰のグラム染色と培養を提出,血液培養2セットを採取のうえ,緑膿菌および嫌気性菌をカバーするかどうかを判断し,抗菌薬を選択する.

●腎機能に考慮した投与量とし,薬物相互作用,副作用に注意する.

●ワクチン(インフルエンザウイルス,肺炎球菌)と30°の頭部挙上,口腔ケアは,予防のために大切である.

高血圧―後期高齢者の血圧をどこまで下げるか?

著者: 星出聡 ,   苅尾七臣

ページ範囲:P.1198 - P.1201

ポイント

●後期高齢者の降圧目標は,140/90mmHg程度とする.

●後期高齢者においては,若年と違って,降圧すればするほどよいというエビデンスはない.

●超高齢者(80歳以上)の降圧目標は150/90mmHg程度にすれば,脳卒中の予防につながる可能性がある.

糖尿病―高齢者と一般成人では治療はどう違うのか?

著者: 渡邊祐子

ページ範囲:P.1202 - P.1205

ポイント

●高齢者糖尿病の診断には,空腹時血糖値より負荷後血糖値を用いることが望ましい.

●治療のゴールは,患者のADL,認知機能,生命予後により個別に設定する.

●薬物治療は,患者の服薬コンプライアンス,腎機能を考慮して選択する.

●通常量のSU薬投与でもコントロール不良例では,早目にインスリンの導入を考慮する.

●シックデイ・経口摂取不能時の対応について,平時よりわかりやすく指示しておく.

皮膚疾患―後期高齢者によく見られる皮膚疾患の診断と治療

著者: 山本洋介 ,   松村由美

ページ範囲:P.1206 - P.1210

ポイント

●後期高齢者は皮膚のバリア機能が低下していることを念頭におく.

●日常生活動作能力(activity of daily life:ADL)低下のある高齢者に対しては,褥瘡,おむつ皮膚炎,真菌感染症の発生に留意する.

●入院や施設への入所などに伴い,増加する疾患がある.

●腫瘍性疾患は拡大傾向の有無・形状・色調を確認し,確定診断・治療方針は専門医へ.

骨粗鬆症―疫学・評価・危険因子・予防と治療

著者: 鈴木隆雄

ページ範囲:P.1212 - P.1216

ポイント

●わが国の骨粗鬆症患者はおよそ1,000万人,大腿骨頸部骨折発生数は約12万人と推計されている.

●骨粗鬆症の診断は骨密度測定が強く推奨される.脊椎はもちろんのこと,大腿骨頸部の測定も望ましい.

●骨粗鬆症性骨折の危険因子として,①骨密度低下,②骨質低下,③既存骨折,④年齢,および⑤外力(転倒など)などが挙げられる.

●治療の基本的考え方としては,①骨折危険性の抑制,および②QOLの維持改善であり,上記の骨折危険因子を考慮して決定する.

うつ病―高齢者と一般成人の違い

著者: 中尾睦宏

ページ範囲:P.1218 - P.1221

ポイント

●高齢者のうつ病は,決して稀ではないので,日常診療で注意したい.

●高齢者のうつ病は,不安,心気症,アルコール依存など,他の精神疾患と合併することが多い.

●高齢者のうつ病は,心血管障害,膠原病,癌など身体疾患と合併することも多い.

●高齢者のうつ病と認知症は共通点が多い.鑑別が難しいときは経過をみながら判断する.

●主治医として精神的なサポートをし,適切な薬物療法をすることが基本となる

後期高齢者によくみられる眼疾患

著者: 平塚義宗 ,   高橋研一

ページ範囲:P.1222 - P.1225

ポイント

●視覚障害者数は今後ますます増加する→眼疾患に対する基本的知識をもつべき.

●まず屈折異常,「眼鏡は合っていますか?」

●後期高齢者は白内障必発.「きっと白内障があるから眼科を受診しましょう」

●緑内障患者には「点眼は続けていますか?」

●糖尿病患者には「眼科を受診していますか?」

後期高齢者によくみられる症状とプロブレム

転倒・骨折―実態と予防

著者: 奥泉宏康

ページ範囲:P.1226 - P.1229

ポイント

●転倒は加齢とともに増加し,橈骨遠位端骨折は50歳台,大腿骨頸部骨折は75歳から増加する.

●地域在住高齢者で年に20~30%,施設入居者で30~40%が転倒を経験する.

●転倒の約10%に骨折が,1%に大腿骨頸部骨折が生じる.

●運動器不安定症は,高齢化によりバランス能力や歩行能力が低下して転倒リスクが高まった状態をいう.

●転倒は多因子の現象なので,運動・薬剤見直し・環境整備・教育などを加えた多面的介入が有効である.

せん妄―見逃さないためのポイント

著者: 大蔵暢

ページ範囲:P.1231 - P.1234

ポイント

●せん妄は急性認知・知覚障害であり,慢性進行性の認知症と区別する.

●高齢者,認知機能障害,多疾患は,せん妄発症の危険因子である.

●入院加療にかかわるすべての要素がせん妄発症の引き金となりうる.

●せん妄が治療を妨げたり,危険行為を呈したり,苦痛を伴う場合にのみ,向精神薬による薬物治療を考慮する.

嚥下障害―胃瘻を考慮するまえに

著者: 片桐伯真 ,   藤島一郎

ページ範囲:P.1235 - P.1240

ポイント

●高齢者の誤嚥性肺炎は繰り返される可能性があり,予防には適切な嚥下評価が必要である.

●嚥下障害の評価で,嚥下造影や嚥下内視鏡検査は摂食条件を設定するうえでも有効である.

●経管栄養法を選択する場合は,それぞれの利点・欠点を考慮したうえで決定するべきである.

●胃瘻造設後も誤嚥性肺炎を起こす可能性があり,予防には適切な管理が求められる.

●胃瘻造設後も経口摂取の可能性と希望があれば,嚥下評価や訓練を行うべきである.

尿失禁―分類,診断,評価,治療

著者: 吉村耕治

ページ範囲:P.1242 - P.1244

ポイント

●後期高齢者の尿失禁は,腹圧性,切迫性,溢流性,機能性の区別が必須である.

●残尿の多寡が,治療法の選択に重要である.

●切迫性や腹圧性の場合,可能であれば行動療法も考慮すべきである.

高齢者の便秘

著者: 正田良介

ページ範囲:P.1245 - P.1250

ポイント

●患者の訴える「便秘」の内容が多様であることを理解したうえで,病歴聴取を行う.

●高齢者の便秘の有病率は高く,すでに市販の下剤を使用している可能性も考慮して,診療にあたる.

●高齢になるほど原因疾患をもつ二次性便秘の有病率は高くなるため,器質的病変を疑わせる警告症状があれば検索を行う.

●原因のはっきりしない一次性便秘では,生活指導のみでは改善しない場合,治療への反応をみながら対症的な薬物療法を行う.

●対症療法の下剤は,基本的には膨張性→浸透圧性→刺激性の順で(追加)使用するが,症状に応じて順序を無視してもよい.

不眠―高齢者における不眠の生理と対処法

著者: 河合真

ページ範囲:P.1251 - P.1254

ポイント

●眠れないという患者の訴えを聞いたら,まず病歴を聞く.

●「眠れない=不眠」ではない.

●不眠の診断が正しくついていないのに,治療を行ってはいけない.

●不眠は睡眠薬欠乏症ではない.睡眠薬以外の治療法を知ることが重要である.

●入院中の不眠で「環境条件に起因する睡眠障害」には睡眠薬を処方してもよいが,種類に注意する.

主治医として知っておきたい後期高齢者の医療と生活

後期高齢者医療制度の概要と課題

著者: 武藤正樹

ページ範囲:P.1255 - P.1258

ポイント

●後期高齢者医療制度は,75歳以上の高齢者を対象とした新たな医療保険制度である.

●後期高齢者診療料は,糖尿病,脂質異常症,高血圧,認知症などを対象疾患とする外来包括支払い制度である.

●後期高齢者医療における入院では,後期高齢者の総合評価,退院調整,緊急入院などに対する加算が設定された.

●後期高齢者の終末期医療においては,医療従事者と患者が十分相談のうえ,診療内容の合意をすることが求められている.

介護保険とその将来性

著者: 和田勝

ページ範囲:P.1260 - P.1272

ポイント

●介護保険は,社会連帯によって介護を支える仕組み(介護の社会化)である.

●要介護高齢者の選択を尊重し,その自立を支援する(利用者本位・自立支援).

●専門職の連携協力により適切かつ効率的なサービスを確保(ケアマネジメント)する.

●在宅サービスを中心に,サービスの質の向上と効率化が課題である.

高齢者と虐待

著者: 和田忠志

ページ範囲:P.1274 - P.1277

ポイント

●身体的虐待,心理的虐待,性的虐待,放置・放任,経済的虐待という5つで虐待を認識する.

●虐待のリスク要因や虐待のパターンを知っておく.

●他職種連携のなかで虐待の解決をはかる.

●加害者支援の観点が重要である.

●入院という分離手法や成年後見人制度を活用できることが望ましい.

後期高齢者の栄養管理

著者: 田中清 ,   岸本正実 ,   福田美由紀

ページ範囲:P.1278 - P.1281

ポイント

●後期高齢者は低栄養の頻度が高く,重要な予後不良因子である.

●後期高齢者は,体液量減少,腎機能低下,口渇を感じにくいなど,脱水に陥りやすい.

●高齢者は通常,血清アルブミン濃度3.5g/dl未満は,低栄養と考えられる.

●後期高齢者に対しては,食形態の工夫や,自助具・介護用食器の活用も重要である.

男性高齢者の性―高齢者における男性ホルモンと性生活の意義

著者: 安田弥子

ページ範囲:P.1282 - P.1288

ポイント

●欧米では,壮年期から加齢に伴い男性のテストステロン値が低下することによって起こる,LOH症候群(加齢性腺機能低下症)が注目されるようになった.

●生活習慣の改善など,男性における予防医学に積極的に取り組む必要がある.

●LOH症候群に対する治療として,男性ホルモン(テストステロン)補充療法(testosterone Replacement Therapy:TRT)が行われつつある.

女性高齢者の性

著者: 大川玲子

ページ範囲:P.1290 - P.1293

ポイント

●高齢女性も含め,性はすべての人にとってQOLの重要要件である.

●加齢による性的活動性の低下は,女性において著明であるが,個人差が大きい.

●多くの高齢女性は「性交」から関心が離れ,愛撫や精神的な愛情表現を求める.

●閉経後の性交痛には,エストロゲンの補充療法や潤滑ゼリーなどが有効である.

●加齢,疾患に伴い,高齢女性の性の問題は増えるが,研究や医療体制は不十分である.

高齢者ドライバー―医師の立場からできること

著者: 上村直人 ,   谷勝良子 ,   井関美咲

ページ範囲:P.1294 - P.1298

ポイント

●高齢者ドライバーの交通事故が増加し,認知症患者の運転が社会的問題となっている.

●改正道交法が施行され,認知症などの一定の疾患をもつ患者の運転免許が法的制限されうる.

●医師は患者の運転能力について,医学的判断を求められる.

●日常臨床において,医師は患者の運転免許の有無や交通事故のリスク評価を行う必要がある.

歩行補助具の種類とその使い方

著者: 高岡徹

ページ範囲:P.1299 - P.1302

ポイント

●適切な歩行補助具の選択のためには,実際の試用や専門職のアドバイスが有用である.

●歩行補助具にはケイン,クラッチ,歩行器がある.

●使用の目的としては,①免荷,②安定性向上,③歩行リズムの獲得がある.

●諸制度によって歩行補助具の種類や対象者が異なるので,注意が必要である.

補聴器の基本知識

著者: 西村忠己 ,   岡安唯 ,   細井裕司

ページ範囲:P.1303 - P.1306

ポイント

●補聴器の適合の前に,耳疾患の有無の確認および聴覚機能の評価を行う必要がある.

●補聴器の装用には本人の意思も重要なため,装用を強制してはいけない.

●十分な効果を得るためには,実際に使用した結果を参考に,音質調整していく必要がある.

●難聴者が聞き取れるように大きな声で話しかけても,逆に聞き取りが悪くなる場合がある.

●補聴器の効果には限界があり,周囲の者の気遣いが重要である.

Advanced Directive(事前指示書)とLiving Will(生前遺書)

著者: 田中まゆみ

ページ範囲:P.1308 - P.1313

ポイント

●医療者には,患者本人の意思を家族の意向よりも尊重する倫理的義務がある.

●日本では,家族優先の特殊な医療文化が横行しており,終末期医療における法も整備されていないため,後期高齢者の主治医になった医師は,遅かれ早かれ,終末期医療の医療現場で倫理的ジレンマに直面すると予想される.

●このような日本の特殊性から,終末期医療の準備は早目に開始することが推奨される.

●患者本人に判断力があるうちに,終末期医療について説明し,医療内容について具体的な指示(Living Will)を文書化する.

●患者が自分で意思表示できなくなったとき,「患者の意思の最善の推量」を行う「医療代理人」をあらかじめ指名してもらい,文書化する.

連載 研修おたく海を渡る・31

がんプロ(2)―ひとり勉強法

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.1319 - P.1319

 血液・腫瘍内科のフェローシップを修了すると,初めて血液内科と腫瘍内科の専門医試験「ボード」の受験資格が与えられます.僕も,この10月に施行されるボードに向けて,同僚と勉強会を開いたり,ひとりでひまを見つけては対策を練っています.「がんプロ」になるには,どんな手段があるのかいろいろな学習法を紹介したいと思います.

 手っ取り早く今のスタンダードを知るには,NCCN(National Comprehensive Cancer Network)のガイドラインがいいでしょう.インターネット上でほぼ主要な癌の治療方針が,こと細かく記載されています.

市中感染症診療の思考プロセス IDATEN感染症セミナーより・4

市中細菌性髄膜炎のマネジメント

著者: 笹原鉄平

ページ範囲:P.1320 - P.1325

ケース 70歳男性,頭痛・咳を伴う発熱


現病歴特記 すべき既往のない70歳男性が,1週間前に発熱・咳で近医を受診し,急性気管支炎の診断で抗菌薬を処方された.いったん軽快するも,来院前日からの38.8℃の発熱,悪寒,前頭部痛と頸部痛の訴えで救急外来を受診した.来院時嘔吐が1回あった.頭痛はひどい痛みで,いままでにこのような頭痛の経験はないという.耳痛,鼻漏,皮疹なし.診察の途中で失禁し,直後に強直間代性の全身性痙攣が起こった.薬物アレルギーはない.付き添ってきた妻と2人暮らしで,妻は健康である.


身体所見 血圧110/62mmHg,心拍数122/分・整,呼吸数12/分,体温39.6℃.全身状態:傾眠がち.頭頸部:瞳孔左右差なし,円形,両側対光反射あり,うっ血乳頭なし,鼓膜正常,鼻漏なし,咽頭軽度発赤あり.心臓:脈拍整,雑音なし.肺:肺胞呼吸音.腹部:平坦・軟,圧痛・腫瘤なし,肝脾腫大なし.四肢:浮腫なし,皮疹なし.神経学的所見:人と場所は言えるが,時間が言えない.項部硬直あり,Kernig徴候・Brudzinski徴候ともに陽性.


検査データ 血液検査:白血球 31,000 /μl(分葉核好中球88%,桿状核好中球10%,リンパ球2%),血糖 110mg/dl.髄液:初圧 250mmH2O,白血球 12,500/μl(好中球95%,リンパ球4%),蛋白 150mg/dl,糖 30mg/dl,白血球とグラム陽性双球菌あり.胸部X線:異常所見なし.造影頭部CT:腫瘤影や出血なし,脳ヘルニアの所見なし.

研修医のためのリスクマネジメント鉄則集・7

リスクマネジメントのABCD―その5 C=Communicate(何でも言いあい話し合う)

著者: 田中まゆみ

ページ範囲:P.1326 - P.1329

 今回のテーマは,「リスクマネジメントのABCD」の「C:Communicate(よく話し合う)」である.「患者の声に耳を傾ける」ことが医療事故や訴訟を防ぐことになる.また,職員間で何でも聞き合えるオープンな組織をつくることも大切である.

リスクマネジメントのABCD

A=Anticipate……(予見する)

B=Behave………(態度を慎む)

C=Communicate(何でも言いあい話し合う)

D=Document……(記録する)

患者が当院を選ぶ理由 内科診察室の患者-医師関係・7

患者との距離の取り方

著者: 灰本元

ページ範囲:P.1330 - P.1333

 患者との心理的距離の測り方や取り方は患者-医師関係をつくるためのコツの一つである.近ければ巻き込まれ,遠ければ互いに気持ちが届かない.今回は多忙な外来でも簡単にできる距離の測り方や取り方について考えてみたい.

 私は患者が退室する直前に次回の予約を決めるが,その“次の来院のさせ方”で患者との心理的距離を測ったり調整できる.この重要性が意外に知られてないし,私も教育された記憶がない.当直の研修医は「悪化したり,不安があったら明日また来てくださいね」と言葉をかけるように教育されているが,研修医を卒業するともっと高次元の“次の来院のさせ方”が求められる.

聖路加Common Diseaseカンファレンス・16

―消化器内科編―血便から鑑別疾患を考えよう

著者: 鈴木祥子 ,   藤谷志野 ,   飯塚雄介

ページ範囲:P.1334 - P.1340

血便の診断  まずここを押さえよう
①便の回数,性状を問診し,どのような血便なのか実際に直腸診をして確認をすることで,出血部位を推定する.
②随伴症状(腹痛,発熱,下痢の有無)の確認,消化管出血の既往歴,生活歴(渡航歴や食べ物など),薬剤服用歴,基礎疾患,性生活歴,月経との関連などの問診から原因疾患を推定する.
③血便の原因には,腹部大動脈破裂の穿破や上腸間膜動脈閉塞症のような緊急性の高い疾患も含まれる.

目でみるトレーニング

著者: 河合宏紀 ,   谷口浩和 ,   高橋牧郎 ,   永田理絵

ページ範囲:P.1341 - P.1346

見て・聴いて・考える 道具いらずの神経診療・7

―主訴別の患者の診かた2―めまいを訴える患者の診かた

著者: 岩崎靖

ページ範囲:P.1347 - P.1353

 「めまい」という訴えはかなり曖昧な表現であるが,最もありふれた愁訴の一つである.「目が回る」,「目がくらむ」,「ふらふらする」など多彩な自覚症状を患者は一様に「めまい」と訴える.「めまい」を訴えたというだけで神経内科に紹介されてくる患者が多いが,めまいの原因には耳鼻科疾患も多いことは言うまでもなく,脳外科疾患,精神疾患,眼科疾患,貧血,循環器疾患,いわゆる自律神経失調症や更年期障害,栄養失調,脱水,薬剤性など多岐にわたり,すべての診療科に関連すると言っても過言ではない.めまいの原因は不明であることも多いが,生命にかかわる重大な病態が関連している可能性もあり,慎重な対応が必要である.

 めまいの鑑別には誘発眼振検査(頭囲変換眼振検査)や聴力検査などの耳科的検査,重心動揺検査などの平衡機能検査が必要であるが,詳細は成書に譲り,今回は外来での簡単な鑑別のコツについて述べてみたい.

書評

呼吸器診療シークレット―Pulmonary/Respiratory Therapy Secrets, 3rd Ed.

著者: 杉山幸比古

ページ範囲:P.1240 - P.1240

 このたび,八重樫牧人先生,田中竜馬先生によって監訳出版されたParsons & Heffnerの『呼吸器診療シークレット』はきわめて異色の書である.これまで類書は日本ではなかったものだが,米国ではこの『シークレット』シリーズは広く受け入れられ,定着しているようである.

 本書はきわめてユニークな体裁をとっており,呼吸器領域に関する疾患,検査,治療の全76項目が選ばれており,各項目にはおおよそ20~30のQ & Aが掲載されている.したがって全体で2000弱の呼吸器領域に関する疑問に答えるという形である.

《シリーズ ケアをひらく》ケアってなんだろう

著者: 釈徹宗

ページ範囲:P.1259 - P.1259

 落語でよく「スガレている」という表現が出てくる.「よっ,いいねぇ.スガレてて」などと使う.粋でナチュラルで様子がよいサマのことを言う.どうやら「素枯れている」と書くらしい.この本の第Ⅲ部では,小澤氏の公開講座での講演録が記載されている.小澤氏の視点を理解するのによいテクストである.良寛さんの歌を引用しながら老いを語るあたりがとてもいい雰囲気だ.素枯れている.

 本書は,四部構成になっていて,第Ⅰ部では小澤勲氏が田口ランディ氏,向谷地生良氏,滝川一廣氏,瀬戸内寂聴氏という多彩な4氏と対談.第Ⅱ部は若手研究者3氏との対談で,彼らの小澤論も添付されている.

クリニカルエビデンス・コンサイス―issue16 日本語版

著者: 山口直人

ページ範囲:P.1273 - P.1273

 このたび『クリニカルエビデンス・コンサイスissue16 日本語版』が医学書院から出版されたことは,わが国で医療に携わる全員にとって大きな喜びである.まずは,ご苦労なさった葛西龍樹教授はじめ翻訳に携わった皆様,出版社のみなさんに謝意を表したい.Clinical Evidenceは英国医師会出版部(BMJ Publishing Group)が総力を挙げて作り出したEBMバイブルの1つである.その日本語版は葛西教授が中心となっての献身的な努力で2001年に原書第4版の日本語訳が出版され,2002年に第6版,2004年には第9版が出版されたことは周知のとおりだが,その後,諸般の事情で出版が途絶えていたものである.今回,第16版の日本語版が装いも新たに出版されたことは,わが国の医療界にとって大きな福音であると言っても過言ではないであろう.

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編集室より

著者:

ページ範囲:P.1360 - P.1360

●何でこんな制度をつくったんだ? いま,素朴に,後期高齢者医療制度に対して,こんな疑問をもっている人は少なくないのではないか? 同制度をめぐる混乱は,連日マスコミがトップニュースとして報じ,永田町では,これを材料にした駆け引きが激しさを増している.

●何でこんな制度をつくったんだ? 批判の矢面に立たされ,冴えない表情でカメラの前に立つ福田総理も,本心ではそう思っているに違いない.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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