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雑誌目次

雑誌文献

medicina45巻8号

2008年08月発行

雑誌目次

今月の主題 内科医のためのがん診療Update

著者: 田村和夫

ページ範囲:P.1365 - P.1365

 『medicina』では2005年11月号(42巻11号)で「内科医が知っておくべきがん治療」として総合的に基礎から臨床まで,各論では肺,消化器,乳がんなど主だった臓器がんを網羅して記載がなされている.本特集では,それ以後に開発あるいは普及してきた検査法や,がん薬物療法をまとめたい.

 「がん診療をめぐる日本の現状」では,2007年4月に施行されたがん対策基本法について,すべての医療者が知っておくべきものと考えその概要を記載いただくことにした.また,診療の背景となる疫学もおさえておきたい.

がん診療をめぐる日本の現状

がん対策基本法に基づくがん診療

著者: 若尾文彦

ページ範囲:P.1366 - P.1369

ポイント

●がん対策基本法は,政府が,がん対策を総合的,計画的に推進することを目的としている.

●がん対策推進基本計画は,死亡者の減少と患者・家族の苦痛の軽減を全体目標としている.

●国の計画を基本に,都道府県が都道府県がん対策推進計画を策定することが求められている.

がんの疫学―実態と動向

著者: 津金昌一郎

ページ範囲:P.1370 - P.1373

ポイント

●生涯のうちに,男性の2人に1人,女性の3人に1人は,がんに罹ると推計される.

●がん死亡率は,人口の高齢化により増加しているが,年齢調整すると減少傾向にある.

●部位別では,胃が減少,乳房が増加,肺・肝・大腸・前立腺は,増加が横ばいから逆転する傾向.

●がんの動向は,生活習慣の変化や医療の進歩などの複合的要因の影響による.

●正確ながん罹患率・生存率を知るために,がん登録は必須の基盤である.

がんの特徴

発がん要因とがんの予防

著者: 小船雅義 ,   加藤淳二 ,   新津洋司郎

ページ範囲:P.1375 - P.1378

ポイント

●がんは遺伝子異常の蓄積によって引き起こされる疾患であるが,その遺伝子異常の誘引として生活習慣があるとされる.

●アスベスト曝露からがん発症までの潜伏期間は10~50年であり,本邦では2030年頃に,胸膜中皮腫発症のピークが来ると予測されている.

●新たな発がん要因の発見や予防法の開発のために質の高い疫学研究が必要である.

微生物が関連した腫瘍と治療

著者: 木村哲夫 ,   土井俊彦 ,   岩坂剛

ページ範囲:P.1379 - P.1384

Helicobactor pyloriと胃MALTリンパ腫,胃がん

 Helicobactor pylori(HP)は1982年オーストラリアのWarrenとMarshallらにより慢性胃炎患者の胃粘膜より分離されたグラム陰性らせん状細菌である.HP感染は開発途上国では小児期で既に70~80%以上の高い感染率を示すが,先進国では途上国より低く40歳以上で約50%の感染率を示す.わが国のHP感染率は若年者では,10~40%程度,40歳以上では80%以上の感染率である.HPは鞭毛,ウレアーゼ,カタラーゼ,アドヘジン(接着因子),空胞化毒素(VacA),熱ショック蛋白(HSP),毒素関連蛋白(CagA)等の病原因子を有する.現在,HP感染による胃粘膜障害はmultifactorial(多因子性)なメカニズムにより引き起こされるものと考えられている.代表的なウレアーゼは尿素を分解し,アンモニア産生により,胃酸を中和する.また,アンモニアは胃粘膜傷害作用を有する.菌側病原因子のほかに,本菌感染に引き続いて胃上皮細胞が産生する各種サイトカインや好中球,マクロファージが産生する活性酸素などもHPの病原因子に加えられ,胃癌,MALTリンパ腫を含む種々の疾患との関連が研究されている.


human papillomavirusと子宮頸がん

 子宮頸がん,特に扁平上皮がんの発生過程は,ヒトがんの中でも特によく研究されているもののひとつである.これによると,扁平円柱上皮接合部近辺の円柱上皮下にある予備細胞が増生する過程において,何らかの原因によって異形成が生じ,それが上皮内がんを経て浸潤がんへ進展すると考えられている.この認識は,それまでに集積された膨大な追跡調査の結果から生まれたものである.さらに,1980年代には,頸部異形成および頸がんの発生過程に,ヒトパピローマウイルス(human papillomavirus:HPV)が関与している可能性が指摘された1).その後,基礎・臨床の双方にわたる多数の研究成果により,このウイルスが頸部異形成および頸がん組織に高率に検出されること,またこのウイルスにはin vitroにおける発がん能力があることが証明された.現在,HPV感染は,子宮頸がん発生に最も重要な因子と目されている.

分子標的薬を理解するための腫瘍の特徴

著者: 西尾和人

ページ範囲:P.1385 - P.1388

ポイント

●がんは遺伝子異常の積み重なりにより生じる疾患であり,遺伝子腫瘍を除くがんは後天的に獲得される複数の遺伝子の体細胞変異によって多段階的に生じる.

●がんの増殖などの形質は1つあるいは少数の遺伝子の異常に依存する(oncogene addiction).

●がん遺伝子の変異,増幅,転移等は分子標的治療の標的であり,効果予測マーカーである.

がんに関する情報の取得と共有

がん診療にかかわる適切な情報取得とコミュニケーション

著者: 大野真司 ,   重松英朗 ,   川口英俊

ページ範囲:P.1390 - P.1392

ポイント

●EBMは科学的根拠を利用することにより目の前の患者に最良の治療を提供することを目的とする.

●標準治療は臨床試験,臨床経験などの結果から,その時点で最も効果的で安全と考えられる治療である.

●日本人に合ったコミュニケーション・スキルトレーニングの方法としてSHARE法が開発された.

がん遺伝相談

著者: 吉田輝彦 ,   牛尼美年子 ,   菅野康吉

ページ範囲:P.1393 - P.1396

ポイント

●日常診療において,がんの家族歴のみならず,若年発症や多重がんからも遺伝性腫瘍の可能性を考えるようにする.

●遺伝性腫瘍の診療においては遺伝カウンセリングが重要な役割を果たすので,適切な段階で専門外来(遺伝相談外来)への紹介を検討する.

●遺伝性腫瘍の診断がついた場合,必要に応じて複数の臓器について定期的に検診を行い,早期発見に努めることが対策の中心となる.

がんの診断

日常診療の中でどこまで悪性疾患の診断にせまれるか?

著者: 角道祐一 ,   石岡千加史

ページ範囲:P.1398 - P.1401

ポイント

●わが国のがん疫学,がん検診の状況についての概要を把握しておくことが重要である.

●がんを疑った場合,画像診断や病理組織診断を積極的に進める.

●確定診断が得られない場合は,速やかにがん診療拠点病院など専門機関に相談,紹介する.

がん検診の重要性と限界

著者: 濱島ちさと

ページ範囲:P.1402 - P.1404

ポイント

●がん対策基本計画において,がんによる死亡・罹患を減少させるうえで,がん検診は重要な役割を担っている.

●がん検診の目的は,早期発見・早期治療により,がんによる死亡を減少させることにある.

●目的を確実に達成するためには,有効性の確立した検診を正しく実施する必要がある.

生検病理診断・細胞診の重要性

著者: 森永正二郎

ページ範囲:P.1405 - P.1410

ポイント

●病理診断は,腫瘍の良悪や組織型決定のみならず,がんの悪性度や治療反応性,治療効果判定にも用いられる.

●組織診と細胞診の違いを知り,それぞれの特徴を生かして用いる必要がある.

●臨床医は病理診断の有用性と限界を知り,病理医と協力して診療に生かしていく姿勢が必要である.

画像診断の有用性と限界

著者: 桑原康雄 ,   清水健太郎

ページ範囲:P.1413 - P.1416

ポイント

●MD-CTの普及により,詳細な形態に加え,血流情報が容易に得られるようになった.

●MRIは組織分解能の高い新しい撮像法の開発により,腫瘍への応用が広がっている.

●FDG-PET検査はPET-CT装置の普及により,腫瘍診療での役割を確立しつつある.

乳がんスクリーニング,マンモグラフィの適応と限界

著者: 藤吉健児 ,   藤富豊

ページ範囲:P.1417 - P.1419

ポイント

●50歳台以降へのマンモグラフィ検診は乳がん死の減少効果がある.

●40歳台へのマンモグラフィ検診は乳がん死の減少効果がある可能性が高い.

●20~30歳台についてはマンモグラフィ以外の方法も併用することが重要.

●受診率が高い欧米においては乳がん死亡数が減少しつつあるが,受診率の低い日本では死亡数が減少していない.

●検診を受診することと,その中間期における自己触診が乳がん死の減少につながるため,検診医のみならず一般診療の場面での啓発も重要である.

治療方針決定,経過観察のための検査

著者: 石塚賢治

ページ範囲:P.1422 - P.1425

ポイント

●治療方針決定,治療後の経過観察とも,過不足なく計画的に検査を行う.

●それぞれの疾患の予想される経過,各種検査の長所と短所を知り,必要な検査を選択して行う.

●がん診療におけるFDG-PETのエビデンスの確立が今後の課題である.

医療連携

放射線治療,外科的治療を依頼する病態とタイミング

著者: 平田泰三 ,   勝俣範之

ページ範囲:P.1426 - P.1429

ポイント

●がんはどんな場所にも転移・浸潤し,さまざまな症状や病態を引き起こすため,それに対応するには他科の医師と医療連携をとりながら診療していく必要がある.

●特にoncologic emergencyでは緊急対処が必要であり,適切な診断のもとで早急に処置しなければならない.

●治療法の選択については転移巣の個数や大きさだけでなく,その患者の予後や全身状態もかかわってくるので,それらを考慮のうえで適切に判断しなければならない.

がん診療における一般内科医の役割

著者: 江﨑泰斗 ,   政幸一郎 ,   有山寛

ページ範囲:P.1430 - P.1432

ポイント

●外来化学療法の普及に伴い,在宅で過ごす患者の副作用への対応は,治療継続,QOLの維持向上にとって重要である.

●抗がん薬の催吐作用の程度,嘔気・嘔吐の分類により適切に制吐薬を使用する.

●経口摂取不良,激しい下痢,発熱性好中球減少の場合は速やかにがん専門医と連携をとる.

がん薬物療法

原発不明がんの診断と治療

著者: 布施弘恵 ,   伊藤国明

ページ範囲:P.1434 - P.1436

ポイント

●原発不明がんとは,臨床的に原発部位が確認できない転移性腫瘍のことである.

●病理組織学的診断が,原発部位の推測に役立つ.

●原発不明がんのなかには特定の治療に反応して長期生存が得られるグループが存在する.

がん薬物療法 【ホルモン薬が有効な腫瘍の治療】

乳がん

著者: 伊藤良則 ,   小坂泰二郎

ページ範囲:P.1438 - P.1442

ポイント

●化学療法はアンスラサイクリンとタキサンが,ホルモン療法はアロマターゼ阻害薬が主力薬剤であり,HER 2陽性乳癌にはトラスツズマブが有用である.

●早期乳がんに対する術前または術後薬物療法は生存率を向上させ,術前では乳房温存率の向上と薬剤感受性からの予後予測が可能である.

●頻度の多い骨髄抑制,消化器症状だけではなく,心毒性,アレルギー,高血圧,血栓症の管理が必要である.

●早期乳がんにおけるリスク分類による薬物治療の最適化,個別化治療が進んでいる.

前立腺がん

著者: 鳶巣賢一

ページ範囲:P.1444 - P.1446

ポイント

●LHRH作動薬と非ステロイド性の抗男性ホルモン薬が主な治療薬である.

●ホルモン療法では根治は期待できず,通常,数年後には再燃する.

●女性の更年期障害と同様の副作用があり,必ずしも安全で楽な治療でない.

がん薬物療法 【化学療法】

造血器腫瘍

著者: 薄井紀子

ページ範囲:P.1447 - P.1450

ポイント

●白血病では,病因となる分子遺伝学的特徴が解明され,これらを標的とする分子標的薬が治療成績向上に寄与する.

●悪性リンパ腫では,リツキシマブがB細胞リンパ腫の治療成績を向上させている.

●多発性骨髄腫では,サリドマイドを含む治療法が第一選択治療となりつつあり,患者によっては大量化学療法+自家末梢血幹細胞移植療法が適応される.

肺がん

著者: 坂英雄

ページ範囲:P.1451 - P.1453

ポイント

●小細胞肺がんの限局型では,化学療法と放射線照射の同時併用が標準治療である.

●非小細胞肺がんの術後補助化学療法は,IB-IIIA期で行うことが標準治療である.

●IV期進行・再発非小細胞肺がんは,2剤併用化学療法が標準治療である.

大腸がん

著者: 福田大輔 ,   吉野孝之

ページ範囲:P.1454 - P.1456

ポイント

●大腸がんの術後アジュバント療法(補助化学療法)は6カ月間であり,現在使用されている治療法は5-FU/LV,UFT/LV,カペシタビンの3種類である.

●進行・再発大腸がんの化学療法は緩和的治療であって根治的治療ではなく,1st→2nd→3rdと薬剤の組み合わせを変えていく必要がある.

●いずれの治療法も年々変化しているため,患者に不利益を与えないよう臨床腫瘍医は日々情報に目を向ける必要がある

卵巣がん―原発腹膜がんを含む

著者: 杉山徹

ページ範囲:P.1457 - P.1460

ポイント

●術後初回化学療法としてパクリタキセル175mg/m2とカルボプラチンAUC6が最も標準的である.

●維持化学療法や腹腔内化学療法は現時点では標準治療としては推奨されない.

●感受性再発では初回と同じか類似した治療,抵抗性再発では交差耐性を有さない薬剤を選択する.

胃がん

著者: 瀧内比呂也 ,   川部伸一郎

ページ範囲:P.1461 - P.1463

ポイント

●S-1は5-フルオロウラシルと比較して,少なくとも同等以上の有効性を有する.

●日本における進行・再発胃がんに対する標準的治療はS-1+CDDP併用療法である.

●日本における胃がん術後補助化学療法の標準的治療はS-1の1年間投与である.

膵・胆道がん

著者: 福冨晃 ,   朴成和

ページ範囲:P.1464 - P.1468

ポイント

●ゲムシタビンは膵・胆道領域のがんに対し,幅広く用いられるようになってきている.

●ゲムシタビンの副作用は外来で十分コントロール可能である.

●分子標的治療薬の開発も現在進行中であり,膵がんでは第Ⅲ相試験の結果が報告されつつある.

がん薬物療法 【最近話題の抗がん薬】

経口抗がん薬の有用性と適応疾患

著者: 南次郎 ,   相羽惠介

ページ範囲:P.1469 - P.1472

ポイント

●フッ化ピリミジン薬は代表的な代謝拮抗薬であり,消化器がん,乳がん,頭頸部がんなど広く用いられる.

●プリンアナログは,プリン塩基類似物質であり,主にDNA合成を阻害する.

●アルキル化薬は,晩期副作用として2次発癌があり,注意を要する.

分子標的薬の特徴と役割

著者: 土井俊彦

ページ範囲:P.1473 - P.1477

ポイント

●現在,臨床応用されている分子標的治療薬は,チロシンキナーゼ阻害薬を中心とするシグナル伝達阻害薬および血管新生阻害薬である. 

●分子標的治療薬には,阻害のシグナル特有の毒性が存在し,適切なマネジメントと選択が重要であり,幅広い知識が必要になる.

近い将来に臨床応用が期待される抗腫瘍薬

著者: 田村研治

ページ範囲:P.1478 - P.1481

ポイント

●殺細胞性抗がん薬と分子標的薬がある.

●薬剤耐性の克服を主眼としたものも多い.

●副作用の軽減,経口薬化は新しい抗がん薬開発の重要な方向性である.

●抗がん薬をRI標識することにより効果の増強を試みた薬剤も出現している.

支持療法

がんに関連した緊急事態の病態と治療

著者: 綿屋洋 ,   一瀬幸人 ,   中尾正嗣 ,   山本裕康 ,   安達淳一 ,   西川亮

ページ範囲:P.1482 - P.1486

心タンポナーデ・癌性胸膜炎

 本稿で述べる心タンポナーデ(癌性心囊炎),癌性胸膜炎という疾患自体は,なにがしかの治療が必要な病態ではあるが,そのすべてに緊急性があるわけではない.症状の有無が緊急性を決める最も大きな因子である.呼吸器,循環器の不全状態は,生命にかかわる.また,症状が時間単位で,日単位で,週単位で増悪しているのかといった,時間的な変化も考慮する必要がある.


電解質異常(高Ca血症,SIADH)

 がんに認められる水・電解質異常のなかで,合併頻度が比較的高く,緊急の対応を要する病態として,高カルシウム(Ca)血症である悪性腫瘍随伴高Ca血症(malignancy associated hypercalcemia:MAHC)と低ナトリウム(Na)血症である抗利尿ホルモン分泌異常症(SIADH:syndromes of inappropriate secretion of antidiuretic hormone)について概説する.


脊髄圧迫,脳圧亢進

がんによる脊髄圧迫

 がんによる「脊髄圧迫」は,がんが血行性に椎体骨に転移し増殖して起こる場合が多い.椎体骨への転移は椎体の病的骨折を招き,変位した骨によって脊髄が圧迫される.がんが椎体から硬膜外腔へ進展し脊髄を圧迫する場合もある.脊椎の不安定性が圧迫を増悪させる因子となる場合も多い.また,悪性リンパ腫や神経芽細胞腫では,傍脊椎に存在する腫瘍が椎間孔から侵入して,がんそのものが直接的に脊髄の圧迫を引き起こす場合もある.さらに,圧迫による直接の脊髄損傷とは別に,圧迫を受けた脊髄の静脈潅流障害から,虚血・壊死へと至る病態も指摘されている.

疼痛対策

著者: 服部政治 ,   後藤玲子

ページ範囲:P.1487 - P.1490

ポイント

●がん患者の痛みは放置してはならない.治療と併行して除痛を図ることが重要である.

●疼痛管理にあたってはWHOのガイドラインを基本に行い,オピオイド使用を躊躇してはならない.

●難治性の痛みにはペインクリニックなど,ほかの専門家にコンサルトする.

好中球減少時の対応

著者: 斉藤博

ページ範囲:P.1491 - P.1493

ポイント

●発熱性好中球減少症では,病原体の同定を待たずに抗緑膿菌作用をもつ抗菌薬を投与するエンピリックセラピーが標準的治療である.

●低リスクグループでは経口抗菌薬による治療が可能であるが,リスクアセスメントを含む初期評価を必ず行う.

●耐性菌予防の観点からキノロン系抗菌薬の予防投与は高リスクグループに限定する.

高齢者のがんの特徴と対処法

老化に伴う生理的な臓器機能低下,精神・神経的な特徴

著者: 森岡健彦 ,   宮腰重三郎

ページ範囲:P.1494 - P.1497

ポイント

●新規抗腫瘍薬や合併症管理の発達に伴い,若年者だけでなく高齢者悪性腫瘍に対する治療成績も向上してきた.

●高齢者がん治療では,若年者と同様の薬剤・投薬量で漫然と治療すると,逆に合併症のために致命的となりうる.

●加齢に伴う臓器機能低下や抗腫瘍薬に対する反応性の若年者との違い,頻度の高い合併症を十分理解する必要がある.

●加齢者では,各々の患者で臓器障害・合併疾患が異なり,個別の対応が必要となる.

●高齢者がん治療では,生命予後の改善だけではなく,ADLやQOLを総合的に改善していく治療戦略が必要である.

高齢者の薬物動態と適切な薬物量

著者: 中西弘和 ,   日置三紀 ,   小林由佳

ページ範囲:P.1498 - P.1501

ポイント

●高齢者のがん化学療法はまだ確立された方法が少ない.

●高齢者のがん化学療法は,投与量の減量や投与コースを減少しても,副作用の程度が高い場合が多い.

●高齢者は身体的機能が個々で大きく違っているため,臨床試験の結果などに基づき投与量・投与間隔などを決定する必要がある.

高齢者の治療の実際と成績

著者: 岡本渉 ,   中川和彦 ,   高松泰

ページ範囲:P.1502 - P.1507

固形がん

 本邦の悪性新生物による総死亡者数は30万人を超え,45~84歳の男女において最大の死因である.全がん死亡症例のうち,75歳以上の後期高齢者が50.9%を占めており,高齢者のがんはますます問題化しつつある.

 有意義な生存期間の延長やQOLの向上をもたらさないがん治療は回避すべきであるが,高齢というだけで有効な治療の機会を逃すことがあってはならない.がん治療の臨床試験参加者に占める高齢患者の比率は低く,不明な点も多いが,適切な患者選択と支持療法が行われた場合には,若年患者と同様の治療が可能であると考えられている.高齢患者に有効で安全ながん治療を行うためには,がんの進行度や予備機能,併存症から予測しうる平均余命など,個々に対するリスク評価が重要である.


造血器腫瘍

高齢者造血器腫瘍に対する抗がん薬治療の現状

 急性白血病の患者は,骨髄中で白血病細胞が急速に増殖するのに伴って正常造血細胞の産生が抑制され,汎血球減少をきたす.そのため無治療で経過観察すると感染症,出血が主因で早い場合は数日,遅くとも数カ月で死亡する.

座談会

外来がん診療における一般内科医の役割

著者: 田村和夫 ,   藤原康弘 ,   坂田優 ,   二ノ坂保喜

ページ範囲:P.1508 - P.1518

 がん対策基本法が成立して以降,がん対策基本計画を通して,がん診療に携わる人材の育成から体制の整備まで,がん診療の全体像は大きく変わろうとしている.また,社会の要請や治療の進歩に伴い,がん治療が入院から外来にシフトしている状況で,病病・病診連携はきわめて重要である.そこで,外来あるいは在宅でのがん治療中の連携のとり方から,在宅における緩和医療の重要性,誰が看取るかまで,診療所や一般病院で診療する内科医が担う役割とその問題点について,多角的にご議論いただいた.

連載

目でみるトレーニング

著者: 山本元久 ,   永石彰子 ,   道免和文 ,   谷口浩和

ページ範囲:P.1526 - P.1531

聖路加Common Diseaseカンファレンス・16

―呼吸器内科編―代表的な呼吸器症状への対応を学ぼう!

著者: 野村征太郎 ,   冨島裕 ,   仁多寅彦 ,   西村直樹 ,   蝶名林直彦

ページ範囲:P.1532 - P.1537

呼吸器症状への対応  まずここを押さえよう

①生死にかかわる疾患であることも多い! まずは緊急性をしっかりと判断しよう!
②症状を引き起こしている病態を常に把握するよう努力しよう!

市中感染症診療の思考プロセス IDATEN感染症セミナーより・5

皮膚・軟部組織感染症のマネジメント

著者: 大曲貴夫

ページ範囲:P.1538 - P.1546

ケース 下腿皮膚の腫脹・熱感で来院した76歳男性


現病歴 インスリン治療を行っている糖尿病のある76歳の男性が1週間前に右下腿を打撲し,その後3日前から発赤,腫脹・熱感を伴う下腿の皮膚感染を訴え救急外来を受診した.患部は発赤著明で圧痛があった.悪寒戦慄を伴う発熱はなかった.薬物アレルギーはない.


身体所見 体温37.2℃,心拍数90,呼吸数20,血圧146/60.全身状態:あまりきつそうではない.頭目耳鼻喉:特に問題なし.頸部:問題なし.心臓:I・II音正常,雑音なし.胸部:肺胞呼吸音.腹部:肥満・軟,腫瘤なし.四肢:右下腿部にかけて径5cm程度の範囲で腫脹した紅斑を伴う皮疹.リンパ節:触知せず.


検査データ 白血球9,200/μl(50%好中球,42%桿状球,7%リンパ球,1%単球).創からの浸出液:少ない.

研修おたく海を渡る・32

がんプロ(3)―WEB勉強法

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.1547 - P.1547

 今回はインターネットを駆使して,がんプロに近づく方法を紹介します.

 多くのサイトで学会速報や,論文のサマリーを見つけることができます.また新しい知見を学びながらContinuing Medical Education(CME)クレジットという医師免許を維持するために必要な単位を取得できるプログラムもあります.

患者が当院を選ぶ理由 内科診察室の患者-医師関係・8

診察室でのちょっとした工夫―患者が語りやすくする

著者: 灰本元

ページ範囲:P.1548 - P.1551

 長く通院する間に高血圧患者の家庭血圧が135/85以下にきっちりコントロールされてしまうと,血圧の話題は薄くなってしまう.そのとき,医師が“どんなことも診ますよ”“些細な心配も聞きますよ”という心構えなら,実にさまざまな身体の訴えや家族,仕事など日常の話題へ拡がっていく.吸い取り紙に鮮やかな絵の具を落としたような拡がり方である.

見て・聴いて・考える 道具いらずの神経診療・8

―主訴別の患者の診かた3―ふるえを訴える患者の診かた

著者: 岩崎靖

ページ範囲:P.1552 - P.1557

 「ふるえ(震え)」という愁訴は神経内科領域では比較的多く,中枢神経疾患を心配して受診する患者が多い.神経学的には「振戦(tremor)」を指し,不随意運動のなかでは最も頻度が高い.生命にかかわる重篤な病態が隠れている頻度は少ないが,日常生活上において問題となっている場合が多く,適切な対応を行うことが患者のQOLの面からも重要である.

 今回は「ふるえ」を訴える患者の問診法と視診での観察点について解説し,日常診療で頻度の高い鑑別疾患について鑑別のコツを概説したい.

研修医のためのリスクマネジメント鉄則集・8

リスクマネジメントのABCD―その6 医療記録は医療の正当性を証明できる唯一の証拠である

著者: 田中まゆみ

ページ範囲:P.1558 - P.1560

 今回は,「リスクマネジメントのABCD」の「D:Document(記録する)」である.医療記録がなければ医療行為はなされなかったとみなされる.医療記録は自分の医療行為を正当化し得る唯一の証拠であり味方である.もちろん医療記録は絶対に改竄してはならない.

リスクマネジメントのABCD

A=Anticipate……(予見する)

B=Behave………(態度を慎む)

C=Communicate(何でも言いあい話し合う)

D=Document……(記録する)

書評

IPMN/MCN国際診療ガイドライン―日本語版・解説

著者: 山雄健次

ページ範囲:P.1412 - P.1412

 IPMN(Intraductal Papillary Mucinous Neoplasms)は,1982年にわが国の大橋,高木らが世界に先駆けて提唱した“粘液産生膵癌”(後に粘液産生膵腫瘍)とほぼ同一の疾患概念である.一方,MCN(Mucinous Cystic Neoplasms)は,従来から膵嚢胞腺腫・腺癌と呼ばれていたものであり,両者の疾患概念は一時その異同をめぐって混乱をきたしていたが,現在では異なった疾患と理解されている.これらはこれまで非常に稀なものとされてきたが,最近では日常臨床において少なからず遭遇し,その取り扱いの理解は研究者,消化器内科医・消化器外科医のみならず一般臨床医や研修医にとっても重要となっている.

 さて,この本は“International Consensus Guidelines for Management of Intraductal Papillary Mucinous Neoplasms and Mucinous Cystic Neoplasms of the Pancreas”として,2006年の春にPancreatology誌上に報告された論文の日本語版解説書である.その論文があっという間に,わかりやすい日本語の解説文に多数の新たな写真が加えられた一冊のすばらしい本に化けてしまった.さすが田中雅夫教授,見事と言うほかはない.

腹部のMRI 第2版

著者: 大友邦

ページ範囲:P.1421 - P.1421

 上腹部から骨盤を含む腹部領域のMRIについてのオーソドックスな教科書として定評のあった「腹部のMRI」の改訂版がこのほど出版された.序文で編集者の荒木 力先生が,4年に1回開催されるサッカーのワールドカップやオリンピックを例に挙げて,技術革新がめざましいMRIを扱う以上は「改訂しなければチャンネルを切り替えられてしまう.“Stay tuned!”というわけです」と8年ぶりの改訂の目的を簡潔に表現されている.

 基本的枠組みは初版を踏襲しているが,この間に腹部MRIに大きな影響を与えたさまざまな進歩(SSFPなどの撮像法,パラレルイメージング,3Tそして肝特異性MRI造影剤)が総論(執筆はもちろん荒木 力先生)として巻頭に加えられた.またMR interventionおよびMR内視鏡に代わってDWIBS(執筆はもちろん高原太郎先生)が加えられ,拡散強調画像の原理,各種の用語解説,DWIBSの概念・施行方法・臨床的有用性・問題点が懇切丁寧に記述されている.加えて,臓器別の章ごとに,MRCP,MRUを含めた最新の撮像法とそれらの活用性と有用性が紹介されている.各論では特に膵臓の嚢胞性腫瘍が漿液嚢胞腺腫,粘液嚢胞腫瘍,そしてIMPNに分類され,鑑別のポイントがわかりやすく解説されている.また,MRIが画像診断の主力となっている婦人科領域では,付属器について,系統的記載がなされ,内容的にも大幅に拡充されている.

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編集室より

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ページ範囲:P.1570 - P.1570

●本号の担当となったとき,複雑怪奇ながん治療に対する苦手意識を払拭するよい機会だと思いました.また,病と共に生きるという点だけ見れば多くの慢性疾患と同じはずなのに,がん患者はその数を背景とした声の大きさから主張が通りがちだと羨んでいました.それこそが私の想像力の欠如からくる貧困な発想にほかならず,克服したかった点です.

●関連学会を取材する過程で,よりよい治療を追究しながら日々がん患者と向かい合っておられる医師の姿を目にし,がん患者にとってよい医療の形が,ほかの患者にとってもよい医療となるような道を探ればよいのだと,素直に思えるようになりました.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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