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雑誌目次

雑誌文献

medicina45巻9号

2008年09月発行

雑誌目次

今月の主題 Multiple problemsの治療戦略

著者: 福原俊一

ページ範囲:P.1575 - P.1575

 患者の高齢化とあいまって,内科の患者は複数の疾患によるmultiple problemsをもっていることがほとんどである.multiple problemsを有する患者では,すべての問題を理想的にマネージすることが困難な場合が稀でない.さらに,エビデンスは単一疾患に対する単一治療のみに関してあることが多く,multiple problemsに対してどの治療を優先するべきかのエビデンスや指針が乏しいことが多い.

 また,「一方をたてれば,他方がおろそかになる」,「一方の治療が他方を悪くしたり,再発を促す」いわゆる利害相反が生じるケースなど,multiple problemsの頻度が高い後期高齢者の治療にみられるジレンマは枚挙にいとまがない.

総論―Multiple problemsにどう対応するか

Multiple problems時代における次世代EBMの展望:Think globally, apply locally

著者: 福原俊一

ページ範囲:P.1576 - P.1579

ポイント

●診療ガイドラインは海外のエビデンスに多く依拠しているが,わが国の診療に当てはめるには注意を要する.

●海外のエビデンスをわが国の診療に当てはめるには,相対リスク減少など相対的な評価指標のみで治療効果を判断するのではなく,アウトカムの頻度(有病割合,罹患率),人口寄与危険など,「絶対的な頻度」を考慮する必要がある.

●複合疾患では,さらに複雑となる.複合疾患の存在下におけるアウトカムの頻度などの疫学データの蓄積と活用が期待される.

Multiple problems:エビデンスがない場合にはどうするか?―自施設データによる検証のすすめとコンセンサスに基づいた治療戦略

著者: 東尚弘

ページ範囲:P.1580 - P.1583

ポイント

●RCT(ランダム化比較試験)がない場合でも,現存するベスト・エビデンスを参照する.

●RCTの結果が自分の患者に当てはまるか疑問を抱いた場合には,自施設データで検証する姿勢と技術が重要.

●コンセンサスを形成する場は権威が支配することのないよう,多角的な検討と客観性を確保するための手順をふむ.

Multiple problems:エビデンスが当てはまらないケースはどうするか?

著者: 四方哲 ,   中山健夫

ページ範囲:P.1585 - P.1588

ポイント

●エビデンスが当てはまるか否かは,内的妥当性と外的妥当性を判断する.

●エビデンスが当てはまらないケースに対する系統的な解決手順はない.

●エビデンスを適用するか否かは,個々の患者の選好を考慮して決定する.

Multiple problems:患者参加型治療戦略の考え方

著者: 野村英樹 ,   中山健夫

ページ範囲:P.1590 - P.1593

ポイント

●患者の自律性を尊重した医療では,医療者と患者の共有意思決定のプロセスが重視される.

●複数の問題を抱える患者では,問題の緊急性と介入で得られる価値の大きさを区別する.

●専門家として助言を行う際には,患者が初期値に従う傾向があることを特に留意する.

内科診療におけるmultiple problems 【治療戦略の優先順位づけのジレンマ】

糖尿病と高脂血症,高血圧

著者: 山田信博

ページ範囲:P.1594 - P.1596

ポイント

●メタボリックシンドロームは,高血糖,高脂血症,高血圧の重積を特徴とする.

●安易に服薬数を増やすのではなく,生活習慣の改善に努めるべきである.

●複数の医師が診療している場合も多く,情報の共有化に努めるべきである.

糖尿病と腎疾患

著者: 森永裕士 ,   佐田憲映 ,   槇野博史

ページ範囲:P.1598 - P.1603

ポイント

●アンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬およびアンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)は,早期腎症の顕性腎症への進展予防効果,顕性腎症の腎機能悪化の抑制効果がある.

●糖尿病性腎症第3期A以前は厳格な血糖コントロールが重要であり,第3期B以降は厳格な血圧管理が重要である.

●腎機能の低下した患者やステロイド糖尿病の患者における血糖コントロールでは,インスリンの使用が望まれる.

COPDとうっ血性心不全

著者: 木田厚瑞 ,   茂木孝

ページ範囲:P.1605 - P.1608

ポイント

●疫学調査では,COPDの死因として肺以外の併存症が注目されている.

●大規模治験の成績では,COPDの死因の約30%が循環器疾患であった.

●治療では,高血圧,狭心症の外来治療例にCOPDが併存している可能性があり,他方,COPDの治療で循環器疾患に対する治療が不十分となっている可能性がある.

●COPDの増悪による低酸素血症が心不全の増悪因子となり,COPD治療薬による副作用は心不全増悪を起こす可能性がある.両者の共存は治療方針のうえでも問題が多い.

【薬物投与のジレンマ】

術後肺炎に対する抗生物質投与と偽膜性腸炎

著者: 横山薫 ,   小林清典 ,   西元寺克禮

ページ範囲:P.1610 - P.1613

ポイント

●抗生物質投与歴の確認が大切である.

●高齢者や重症例では,脱水と電解質異常に注意が必要である.

●偽膜性腸炎を疑ったら,速やかに大腸内視鏡検査で確認し,塩酸バンコマイシンの経口投与を開始する.

GERD治療中の患者への降圧薬投与時の配慮

著者: 福島豊実

ページ範囲:P.1614 - P.1617

ポイント

●近年,逆流性食道炎(GERD)は,本邦でも広く認識されるようになり,GERDの診断のもとに治療を継続されている患者が増えている.その多くは降圧薬も同時に服用していることがある.

●特にカルシウムチャネル拮抗薬(CCB)は,本邦において最も頻繁に用いられている降圧薬であり,下部食道括約筋圧(LES)を減少することが知られており,GERD症状を悪化させる可能性がある.硝酸塩(nitrate)とα1遮断薬でも同様の傾向が報告されている.

●GERDの治療において,症状コントロールをより良好なものとするためには,患者が服用している降圧薬の内容と種類を確認し,変更の必要度を検討すべきであり,GERD患者に降圧薬を開始する場合には,GERD症状を悪化させない選択肢を検討することが望ましい.

抗凝固薬,抗血小板薬投与中の患者が抜歯を必要とする場合

著者: 宮脇卓也 ,   窪木拓男

ページ範囲:P.1618 - P.1621

ポイント

●PT-INR値が2.5~3.0までであれば,ワルファリン継続下で抜歯可能である.

●抗血小板薬は継続下で抜歯可能である.

●患歯の状態,併用薬との相互作用に注意する.

●状況によっては,入院下での抜歯やヘパリンによる抗凝固療法も考慮する.

ステロイド服用中のリウマチ疾患患者が結核を発症した場合

著者: 山本舜悟 ,   岸本暢将

ページ範囲:P.1622 - P.1624

ポイント

●結核治療においては,キードラッグであるリファンピシンとの薬物相互作用が鍵である.その数は多種多様なので,必ずそのつど確認する必要がある.

●プレドニゾロン換算で15mg/日が結核発症のリスクになる1つの目安である.

●TNF阻害薬を併用している際は,ツベルクリン反応陰性でも結核を発症しうるため,慎重な経過観察が必要である.また,TNF阻害薬投与中の結核は約半数が肺外結核である.

●ステロイド以外の薬剤(特に免疫抑制薬),糖尿病・腎障害などの併発症なども感染症のリスクとなるため,十分注意する.

潰瘍性大腸炎の既往がある患者へのNSAIDs使用と再燃

著者: 井上詠 ,   今枝博之 ,   日比紀文

ページ範囲:P.1626 - P.1629

ポイント

●緩解期の炎症性腸疾患では,従来型のNSAIDsの投与により再燃をきたすことがある.

●短期間のCOX-2選択的阻害薬投与であれば,再燃に対する影響は少ない.

中等度の慢性腎臓病患者に対する変形性関節症の薬物治療

著者: 森永貴理

ページ範囲:P.1630 - P.1633

ポイント

●慢性腎疾患患者では,NSAIDsによる急性腎不全のリスクが高い.

●腎障害の症例には,NSAIDsよりもアセトアミノフェンが安全である.

●NSAIDsの開始後には,早期に腎機能の評価を行うべきである.

●鎮痛薬を長期的に使用する場合には,定期的な腎機能の評価が望ましい.

【利害相反する治療のジレンマ】

腎機能低下時の心臓カテーテル施行―循環器内科医の立場から/腎臓内科医の立場から

著者: 三谷治夫 ,   山口徹 ,   小松康宏

ページ範囲:P.1635 - P.1640

設定シナリオ

75歳,男性.狭心痛があり,内科的治療にてコントロール不十分のため心臓カテーテル検査を予定している.高血圧のほかは併存症なし.血清クレアチニン(酵素法)1.5mg/dl

冠動脈疾患(PCI後)の消化性潰瘍―循環器内科医の立場から/消化器内科医の立場から

著者: 付強 ,   一色高明 ,   東健 ,   田村勇 ,   久津見弘

ページ範囲:P.1642 - P.1647

設定シナリオ

72歳男性.タール便を主訴に来院.狭心症のため3カ月前に他院でステントを留置され,アスピリンとチクロピジンを投与されている.内視鏡検査にて胃角部に巨大な潰瘍を認めた.ヘモグロビン10.5mg/dl

うつを併存するC型肝炎―精神科医の立場から/肝臓専門医の立場から

著者: 吉田芳子 ,   宮岡等 ,   山田剛太郎 ,   泉明佳 ,   川原田美保

ページ範囲:P.1648 - P.1652

設定シナリオ

40代,男性.母親が肝細胞癌治療中,うつ状態となり自殺.本人にも5年前にうつ病の治療歴があるが,詳細は不明.検診でC型肝炎とわかった.肝機能は悪化傾向にある.ウイルスはgroup 2で量も少ない.

糖尿病患者へのステロイド治療の適応―糖尿病専門医の立場から/リウマチ専門医の立場から

著者: 津村和大 ,   岡田正人

ページ範囲:P.1653 - P.1657

設定シナリオ

80歳女性.経口薬で糖尿病の治療中,リウマチ性多発性筋痛症と診断された.過去6カ月の慢性疼痛のためQOLは低下し,軽度のうつ状態になっていた.今後,リウマチ性多発性筋痛症に対しては,年単位のステロイド服用が標準治療と考えられる.

【高齢者治療のジレンマ】

高齢者への睡眠薬投与と転倒・骨折

著者: 鈴木隆雄

ページ範囲:P.1658 - P.1661

ポイント

●睡眠薬・抗不安薬,抗精神病薬,抗うつ薬,循環器系薬など,多くの薬物が転倒の危険性を高くしている.

●睡眠導入薬として頻用されるベンゾジアゼピン系薬剤は,精神・神経機能障害および運動機能障害の両面から転倒の危険性を高めている.

●高齢者では,薬物代謝や排泄機能が低下していることから,一般常用量の半量程度から投与するべきである.

摂食障害,認知症の患者への胃瘻造設

著者: 岡田晋吾

ページ範囲:P.1662 - P.1665

ポイント

●経腸栄養ルートの第一選択はPEG(経皮内視鏡的胃瘻造設術)となっているが,極度の低栄養を示す高齢者では他の栄養ルートからの栄養療法を選択すべきである.

●摂食障害による低栄養患者では,PEGによる栄養療法を行うことで栄養状態が改善するだけでなく,肺炎予防なども期待できる.PEGによる栄養療法を行いながら,摂食嚥下訓練を行うことも可能である.

●認知症患者に対するPEGの効果についてのエビデンスはないが,その適応決定にあたっては,文化,宗教的,感情的な要因を考慮しながら決定することが大切となる.

救急室にきた腹痛高齢患者への造影CT検査

著者: 志水英明 ,   藤田芳郎

ページ範囲:P.1667 - P.1671

ポイント

●高齢の腹痛患者は,重症疾患のことが多く,原則的には入院する.

●バイタルサインは必須,高齢者で血圧正常(偽性正常血圧)を示すときは重症疾患が隠れている.

●造影剤投与の前に確認すべきことは腎機能,アレルギー反応の既往,内服薬である.

●糖尿病+腎機能障害(血清クレアチニン1.5mg/dl以上)は,造影剤腎症の危険因子である.

●必要があれば,腎機能障害でも造影剤を使用するが,その後の経過観察が重要である.

心房細動の抗凝固療法と出血性疾患

著者: 渡辺昌文 ,   前村浩二

ページ範囲:P.1673 - P.1677

ポイント

●高齢者は血栓塞栓症のリスクが高く,心房細動の患者にはワルファリンの服用が推奨される.

●高齢者は出血性合併症のリスクも高く,PT-INR目標値は低め(1.6~2.6)に設定する.

●高齢者ではリスク・ベネフィットを評価し,本人とも相談して,ワルファリンの服用可否を決定する.

座談会

複合疾患―問題解決への戦略と基本軸

著者: 福原俊一 ,   山田信博 ,   上野文昭 ,   岡田正人

ページ範囲:P.1678 - P.1686

 高齢社会に突入した昨今,一人の患者が複数の疾患あるいは問題をもつことが多く,それらの問題が複雑に絡み合っていることも稀ではない.

 本座談会では,「複数の問題をどう考え,どう解決していくか」について,具体的な事例を挙げながら,医師個人レベルおよび医師を取り巻く制度上の問題点を明らかにし,それぞれの解決法について,各領域でご活躍する先生方にご示唆いただいた.

SCOPE 医学・医療の注目トピックを取り上げます。

インスリン導入と糖尿病地域連携パス―インスリン導入後,安定した患者は連携パスでかかりつけ診療所へ

著者: 平井愛山

ページ範囲:P.1692 - P.1696

糖尿病における地域医療連携

 第5次医療法改正に伴い,2008年度から地域医療連携の推進が法制化された.特に主要な4疾病の一つとして挙げられた糖尿病においては,地域ぐるみの医療連携体制の構築と,そのしくみとしての糖尿病地域連携パスの作成と運用が当面の課題である.地域ぐるみの糖尿病診療連携体制の具体的な内容としては,2007年7月に厚生労働省が大別して4つの糖尿病診療機能を提示し,地域の医療機関ごとの役割分担を明らかにして,市民へ情報開示するよう各都道府県に通達している1).具体的には,

 (1)初期・安定期治療としては,合併症の発症を予防するための初期・安定期治療を行う機能として,糖尿病の診断,生活習慣の指導,および良好な血糖コントロール評価を目指した治療を実施する.

連載

目でみるトレーニング

著者: 立花崇孝 ,   高橋牧郎 ,   小松研一 ,   鈴木克典

ページ範囲:P.1698 - P.1703

市中感染症診療の思考プロセス IDATEN感染症セミナーより・6

骨・関節・軟部組織感染症のマネジメント

著者: 岩田健太郎

ページ範囲:P.1704 - P.1707

ケース 右肘の著明な腫脹・疼痛を訴える関節リウマチのある64歳女性


現病歴 30年来の関節リウマチにてNSAIDs,プレドニゾロン10mg内服中の64歳の女性.10年前に両膝人工関節置換術を施行されている.4日前に右肘に擦過傷ができ,自宅で消毒して様子をみていたが軽快せず前日から発赤,腫脹・熱感を伴い40℃の高熱を訴え救急外来を受診した.患部は発赤著明で圧痛があった.薬物アレルギーはない.


身体所見 体温38.6℃,心拍数120,呼吸数20,血圧110/70.全身状態:肘を触ると痛がる,頭目耳鼻喉:特に問題なし,頸部:問題なし,心臓:I,II音正常,雑音なし,胸部:肺胞呼吸音,腹部:肥満・軟,腫瘤なし,四肢:右肘に10cm程度の範囲で腫脹した紅斑を伴う皮疹,リンパ節:触知せず.


検査データ 白血球12,200/μl(好中球50%,桿状球42%,リンパ球7%,単球1%).創からの浸出液グラム染色でグラム陽性球菌.関節液所見:白血球32,500/μl(好中球95%,リンパ球4%,その他1%),結晶なし,グラム染色:グラム陽性球菌あり,ブドウ球菌様の形態.

研修医のためのリスクマネジメント鉄則集・9

インフォームド・コンセントの手順(前編)―リスクマネジメントの基本としての

著者: 田中まゆみ

ページ範囲:P.1708 - P.1711

 日常診療におけるリスクマネジメントの鉄則を綴ってきた本連載を締めくくる前に,「インフォームド・コンセント」に触れないわけにはいかない.前回まで「リスクマネジメントのABCD」を示してきたが,そのいずれもがインフォームド・コンセントと表裏一体の関係にある.インフォームド・コンセントを適切に取ることが,最大のリスクマネジメントであると言っても過言ではない.

患者が当院を選ぶ理由 内科診察室の患者-医師関係・9

患者が一番知りたいこと

著者: 灰本元

ページ範囲:P.1712 - P.1716

 患者が一番知りたいことはなんだろう? 読者はこの質問にどのように答えるだろうか.診断名や病気の原因? それとも治療法? そんなことより治るかどうか,などなど.もしかすると大学病院の医師と開業医では違った答えになるかもしれない.

研修おたく海を渡る・33

カンファのお作法

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.1717 - P.1717

 研修生活を振り返りながら,どうすれば魅力的なカンファレンス(以下,カンファ)になるか,「カンファのお作法」について考えてみたいと思います.

 一つの症例を丁寧に扱うねちっこいカンファも必要ですが,いつもそれだと準備疲れしてしまいます.テンポよく「Bread and Butter」といわれる典型的な症例に触れるカンファも必要です.テンポがいいというのは,ただ症例をこなすのではありません.それぞれの症例について,診断に至るまでが大事なのか,治療経過が教育的なのか,その後のフォローアップが重要なのかを分析し,ポイントはしっかり議論して,それ以外のところはさらっと流すのです.「次の症例は,治療がポイントです」とプレゼンの最初にコメントすることで,聞く側も集中できます.診断までは一気につけてもいいのです.まだ年の初めはなかなかテンポよくといっても難しいかもしれませんが,慣れてくると,1時間で10例近く検討することができるようになってきます.

聖路加Common Diseaseカンファレンス・17

―内分泌内科編―糖尿病緊急症(低血糖・高血糖)へ的確に対応しよう

著者: 松田道隆 ,   門伝昌己 ,   出雲博子

ページ範囲:P.1718 - P.1724

低血糖  まずここを押さえよう

 
①患者は「低血糖」を主訴にはやってこない.意識障害や低血糖症状でやってくる.
②意識障害の基本はAIUEOTIPS.すぐに加療できる低血糖の鑑別順位は高い.
③冷汗,振戦,動悸などの交感神経症状が出れば,血糖60mg/dl以下のサイン.

見て・聴いて・考える 道具いらずの神経診療・9

―主訴別の患者の診かた4―頭痛を訴える患者の診かた(前編)

著者: 岩崎靖

ページ範囲:P.1725 - P.1730

 「こめかみが痛い」,「後頭部が痛い」など頭痛を主訴に受診する患者は神経内科に限らず非常に多い.「片頭痛です」と自分で診断をしてくる患者や,「昔から頭痛持ち」と訴えてくる慢性頭痛の患者も多い.日本人成人の40%が慢性の頭痛持ちともいわれるが,頭痛の診療を専門としない医師は,鎮痛薬投与のみか,必要以上に恐れてすぐに専門医に紹介するか,無視して対応しないか,という傾向があるのではないだろうか.頭痛の専門家が対応しなければならない頭痛はむしろ稀であり,きわめて多くの患者が潜在しているわりには,ほとんどの患者が病院を受診しないのも事実である.

 今回は「頭痛」を訴える患者の問診法と観察点について解説し,日常診療で頻度の高い機能性頭痛の鑑別についてポイントを概説したい.緊急の対応が必要な場合が多い症候性頭痛の鑑別法については,次回概説させていただきたい.

書評

グラント解剖学図譜 英語版CD-ROM付 第5版

著者: 佐々木克典

ページ範囲:P.1589 - P.1589

 解剖学は古い学問で,すべてがわかってしまっており,新しさの加わることのない領域だと揶揄されることも少なくない.それにもかかわらず教科書は改訂され,あるいは新しく書き下ろされ,世に受け入れられているのも事実である.この理由は,解剖の魅力は断片的な知識の集積ではなく,人体構造の“見方”にあるからである.“見方”は無限で,観察する人の個性が著しく反映するものであり,それゆえ数多くの解剖学書が書かれてきた.その中には歴史の中に埋もれたものも少なくないが,時代の変遷にかかわらず,改訂を重ねながら永く多くの医学生に影響を与えてきたものもある.その一冊が『グラント解剖学図譜』である.最近,原書第11版を翻訳した日本語第5版が刊行された.

 『グラント解剖学図譜』の凄さは,描写された図のはっとするような斬新さにある.それまで見たことがない,しかし見てみたいと思う部位を憎いほどうまく描き出したリアルな図が数多く挿入されている.それぞれの図の説明は,人体の構造を深く洞察した人でなければ,決して書くことができないような示唆に富んだものが多い.例えば,“縦隔の右側面は,いわば「青色の面」であり,奇静脈弓や上大静脈といった太い静脈が見られる”という説明を最初に読んだ時,「青色の面」という表現に,電撃に打たれる思いがした.この図譜を描いたGrant JCBは,その前に“Grant's Method of Anatomy”という,読めば知らず微笑んでしまうようなきわめて面白い,しかしアカデミックな解剖書を書いている.グラントの人柄を同僚らは,“物静かな機知と限りない人間愛”と表現しているが,彼の人柄が滲んだこの本が土台となり図譜は作られた.当然その中には機知と人間愛がここかしこに溢れている.これが『グラント解剖学図譜』の個性であり,長く受け入れられてきた理由であろう.

解剖学用語―改訂13版

著者: 柴田洋三郎

ページ範囲:P.1597 - P.1597

 『解剖学用語 改訂13版』が,医学書院の全面的なご協力により出版された.この13版は,これまで『解剖学用語』として,過去12版を重ねた日本解剖学会用語集とは内容と性格を異にする.その意味では,改訂版と呼ぶのは不適切で,新版とみなすにふさわしい.

 まず大きな相違点として,従来はラテン語のNomina Anatomicaに準拠して,日本語の解剖学名を定めていたのに対し,今回13版からは,国際解剖学会連合(IFAA)の用語委員会(FCAT)において編纂された英語学名とラテン語によるTerminologia Anatomica(1998, Thieme)を尊重し,日本解剖学会の解剖学用語委員会においてあらたに編集された点が挙げられる.すなわち,これまでの正式な解剖学名はラテン語という不文律にとらわれず,英語の解剖学名も同等に扱い併記した点で,画期的なものとなっている.従来,特に臨床の先生方から,英語の解剖学名が教科書によってもまちまちで困る,何とか統一できないものかという苦情を承り,苦慮していた.これからは自信を持って,本書記載の英文解剖学名をお薦めできる.

小児科研修の素朴な疑問に答えます

著者: 別所文雄

ページ範囲:P.1640 - P.1640

 大変おもしろく有意義な本が出た.物事の進歩は疑問を発することから始まる.特に,科学の領域ではどのような疑問を発するかは,その疑問に対する回答を得ること以上に大切で,優れた疑問を持つことが優れた科学者の資質である.基礎医学ばかりでなく,臨床医学も科学である.日々の診療行為も,「なぜ」という質問を発することの連続であり,適切な「なぜ」を発することが優れた臨床家の条件である.

 さて,この本はこのような臨床医学における疑問と,それに対する回答を集めたものである.本のタイトルは,「素朴な疑問に答えます」であり,またその頭に「小児科研修の」という形容句がつけられている.ところが,ちょっと中身を見てみればわかるようにこの表題は「うそ」である.挙げられている疑問は「素朴」などではないし,ここにあるような多くの疑問は,それを発するためには研修も相当進んだ段階にならなければ不可能である.ただ,「研修」といっても必ずしも初期研修や,後期研修だけを指すわけではなく,「生涯研修」ということもあるので,この形容句については必ずしも「うそ」だとは言い切れないが.

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編集室より

著者:

ページ範囲:P.1740 - P.1740

●今月の主題は「Multiple problemsの治療戦略」.複数の疾患あるいはproblemsをもつ患者を診る機会は多いものの,複数の診療科にわたる問題であり,難しく感じている方も多いと思います.本企画も,執筆テーマの選定に困難を極め,複数疾患の治療に関するエビデンスやガイドラインが乏しいことから,執筆者にもご苦労いただきました.

●正直に言えば私自身も,複数科にからむ執筆テーマに苦手意識を抱きました.しかし,座談会「複合疾患-問題解決への戦略と基本軸」のわかりやすいお話に,その意識が少し取り除かれました.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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