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雑誌目次

雑誌文献

medicina46巻1号

2009年01月発行

雑誌目次

今月の主題 循環器薬の使い方 2009

著者: 磯部光章

ページ範囲:P.7 - P.7

 循環器疾患の診療の進歩は急速である.最近は冠動脈治療でのステントや不整脈治療におけるペースメーカーや除細動機などのデバイス治療が普及してきた.不整脈に対するアブレーション治療も増加の一途である.心不全に対しても再同期療法や人工心臓の普及など10年前には予想もしなかった展開があり,治療の選択肢が拡がっている.しかし,そのなかにあっても,心血管疾患の治療の基本が薬物療法であることに今も昔も変わりはない.いかに症例が増えているとは言っても,侵襲的な治療やデバイス治療を受ける患者は一部であり,またどのような先端医療を受ける場合も内科的薬物療法がその前提となり,併用で治療が進められるのが常である.

 心不全,高血圧,動脈硬化,不整脈などの慢性疾患は,生活習慣とともに加齢に伴って進展していくものであり,自然治癒や根治ということが期待し難い疾患であることから,薬物治療は長期間に及ぶ.高齢化に伴って患者数は増加の一途であり,そのため薬物療法に関わる医療費も群を抜いて多く,日本の総医療費の約四分の一が循環器疾患に費やされているとされる.

頻用される循環器薬の使い方

抗血小板薬

著者: 小西博応 ,   代田浩之

ページ範囲:P.8 - P.11

ポイント

●アスピリンは,虚血性心疾患の一次予防としては十分なエビデンスはないが,アスピリンは虚血性心疾患の二次予防としては有効である.

●チクロピジンは肝障害やTTPなど重篤な副作用を生じることがある.

●チクロピジンは,投与開始2カ月以内は2週間隔で採血をすることが望ましい.

●冠動脈ステント留置後は,アスピリンとチエノピリジン系化合物投与が必要である.

●薬剤溶出性ステントでは,アスピリンとチエノピリジン系化合物の長期投与が必要である.

抗凝固薬

著者: 是恒之宏

ページ範囲:P.12 - P.14

ポイント

●投薬にあたっては,抗凝固薬がなぜ必要かをよく患者に理解してもらう.

●出血性合併症に十分注意するよう,医師も患者も心がける.

●食事やほかの薬がワルファリンの効き具合に大きく影響し得ることを理解させる.

●抜歯や手術時には必ず主治医に相談するよう,患者に伝える.

●ほかのどんな薬よりも服用遵守が重要であることを患者にわかってもらう.

血栓溶解薬

著者: 尾林徹

ページ範囲:P.16 - P.18

ポイント

●血栓溶解薬には,ウロキナーゼとt-PAがある.

●血清プラスミノーゲンをプラスミンに活性化し,フィブリノゲンを分解する.

●適応疾患は発症6時間以内の急性心筋梗塞と不安定な血行動態を伴う急性肺塞栓症である.

●出血性合併症に注意が必要である.

●脳梗塞,脳出血,脊髄・頭蓋内の手術から2カ月以内の使用は禁忌である.

強心薬(静注,経口,ジギタリス)

著者: 安村良男

ページ範囲:P.20 - P.23

ポイント

●ドブタミンとドパミンの相違:強心作用を期待するときにはドブタミン.ドパミンは血圧の上昇を期待するときに使用する.

●ドパミンのrenal dose:心不全でも腎血流を増加させるが,総合的に腎保護作用をもつことは示されていない.

●PDEⅢ阻害薬:強心作用を期待するときに低用量のドブタミンと低用量のPDEⅢ阻害薬の併用が有効である.

●ジギタリスの徐拍効果:急性心不全における頻脈性の心房細動への有効性は明らかではない.

●ジギタリスの強心作用の有無:慢性心不全患者の左室駆出率は増加させるが,予後を改善することは証明されていない.

hANP(カルペリチド;ハンプ®

著者: 加藤真帆人

ページ範囲:P.24 - P.28

ポイント

●hANP(ハンプ)とは,人工合成されたヒト心房性ナトリウム利尿ホルモンであり,利尿作用,血管拡張作用がある.

●強心薬を必要としないすべての急性左心不全に効果がある.

●脱水,右室梗塞など前負荷がかからない心不全では,血圧の低下に注意して使用する.

利尿薬

著者: 辻野健 ,   増山理

ページ範囲:P.30 - P.33

ポイント

●サイアザイド系利尿薬は高血圧に使用される.少量使用により代謝性副作用を最小限にしつつ,良好な降圧効果と心血管病予防効果が得られる.

●日本人は塩分の摂取量が多いので,サイアザイド系利尿薬は厳密な降圧目標を達成するために強力な武器となる.

●ループ利尿薬は心不全治療に不可欠であるが,必要最小限の使用量にとどめるよう,工夫が必要である.

●サイアザイド系利尿薬もループ利尿薬も,低カリウム血症を回避することが重要である.

ACE-Ⅰ/ARB

著者: 小松愛子 ,   野出孝一

ページ範囲:P.34 - P.38

ポイント

●ACE-ⅠはアンジオテンシンⅠからアンジオテンシンⅡへの変換を阻害して,アンジオテンシンⅡの産生を抑制する.

●ARBは,AT1受容体を選択的にブロックしてアンジオテンシンⅡによる有害な働きを抑える.

●ACE-Ⅰ/ARBは,高血圧治療の主要薬剤であり,降圧作用以外の多面的作用による臓器保護作用をもつ.

●ACE-Ⅰ/ARBは,臓器障害(脳,心,腎)や糖尿病合併の高血圧への使用が推奨されている.

●妊娠,高K血症,両側腎動脈狭窄が禁忌で,腎障害や高齢者には少量からの開始と注意が必要である.

抗アルドステロン薬

著者: 名越智古 ,   吉村道博

ページ範囲:P.39 - P.41

ポイント

●抗アルドステロン薬は,降圧・利尿作用を超える臓器保護作用を含めた多彩な薬効(pleiotropic effects)がある.

●アルドステロンブレークスルー現象を考慮すると,ACE阻害薬やARBとの併用は特に有用である.

●腎保護作用がある一方で,腎機能低下例では高K血症をきたしやすく,注意が必要である.

●エプレレノンは受容体選択性が高く,女性化乳房などの副作用が少ない.

●アルドステロンの作用は,食塩環境と密接に関連しており,塩分摂取制限が重要である.

冠拡張薬(硝酸薬,ニコランジル,Ca拮抗薬)

著者: 足利貴志

ページ範囲:P.42 - P.45

ポイント

●硝酸薬は,冠攣縮性,労作性狭心症いずれの狭心症においても発作の緩解に有効である.長期投与に伴う耐性の問題があり,心筋梗塞後では短期もしくは心不全合併例に使用される.

●ニコランジルは,冠攣縮性,労作性,不安定狭心症いずれにも有効である.Kチャネル遮断薬であるSU薬の服用が,ニコランジルのKATPチャネル開口作用を減弱させる可能性がある.

●Ca拮抗薬は冠攣縮性狭心症に対する第一選択薬である.Ca拮抗薬を降圧薬として使用することの利点は,降圧効果に優れていることに加えて,臓器保護的に働き,糖脂質代謝への悪影響がないことである.

β遮断薬:虚血性心疾患

著者: 佐藤明 ,   青沼和隆

ページ範囲:P.46 - P.48

ポイント

●β遮断薬は,虚血性心疾患に対して初期治療薬として推奨されている.

●心筋梗塞による左室機能不全を有する例においても,β遮断薬により予後の改善効果が期待できる.

●左室機能不全を有する症例や高齢者へは,少量から開始する.

●β遮断薬の副作用や禁忌に注意して使用する.

β遮断薬:不整脈

著者: 池田隆徳

ページ範囲:P.50 - P.53

ポイント

●抗不整脈作用は弱いが,β遮断薬は交感神経活動の緊張緩和により不整脈を抑制することができる.

●β遮断薬は薬剤ごとに薬理学的作用が大きく異なるため,使い分けが必要である.

●不整脈の発現機序は,β遮断薬の適応を決定するうえで参考になる.

●不整脈による心臓突然死の予防効果は,心筋梗塞あるいは虚血性心不全で高い.

β遮断薬:心不全

著者: 野堀潔 ,   柿﨑学 ,   伊藤宏

ページ範囲:P.54 - P.57

ポイント

●慢性心不全の治療目標は,予後とQOLの改善である.

●日本で使用できるβ遮断薬で,慢性心不全のガイドラインで推奨されているものは,カルベジロールとビソプロロールのみである.

●症状がある心不全症例のみでなく,症状がない心収縮能低下症例や,心収縮能の低下がなくとも心筋梗塞の既往がある全症例に対しても,投与が推奨されている.

●β遮断薬導入によって,一時的にではあるにせよ血行動態の増悪する可能性があり,注意が必要である.

●合併症のある症例では,注意して投与する必要がある.

Ca拮抗薬

著者: 山本浩一 ,   楽木宏実

ページ範囲:P.58 - P.61

ポイント

●Ca拮抗薬は,L型Caチャネルを阻害することで血管平滑筋や心筋の収縮を抑制する.

●Ca拮抗薬は3種類に大別され,DHP系は血管選択性が高く,主な降圧薬が属している.

●ALLHAT試験により,長時間作用型Ca拮抗薬の心血管事故抑制作用が確立された.

●日本高血圧学会ガイドラインにおいて,Ca拮抗薬は第一選択薬の1つに位置づけられる.

●Ca拮抗薬は,脳卒中予防効果において優れている可能性が報告されている.

抗不整脈薬:Ⅰa群薬,Ⅰc群薬,Ⅳ群薬

著者: 藤木明

ページ範囲:P.62 - P.65

ポイント

●Vaughan Williams分類で,Ⅰ群はNaチャネル,Ⅳ群はCaチャネルブロッカーである.

●Ⅰ群薬には,活動電位持続時間,結合解離速度,結合するタイミングによる細分類がある.

●Ⅰb群は,活動電位持続時間を短縮,逆にⅠa群は延長,Ⅰc群は変化させない.

●結合解離速度からfast drug はⅠb群,slow drugはⅠc群,intermediate drugはⅠa群に.

●抗不整脈薬使用に際しては,QRS幅,QT時間の過度な延長を避ける.

抗不整脈薬:Ⅲ群薬

著者: 横山泰廣 ,   佐藤康弘

ページ範囲:P.66 - P.70

ポイント

●Ⅲ群薬は,活動電位持続時間の延長を主な作用とするKチャネル遮断薬である.

●IKr遮断薬は逆頻度依存性を示し,徐脈時にQT延長が増強する.

●β遮断作用は,Kチャネル遮断薬の弱点を補うことが期待される.

●アミオダロンは,心外副作用に注意する.

●QT>550 msecでは薬剤を減量,中止するのが安全である.

高脂血症薬(脂質異常症治療薬):スタチンを中心に

著者: 島野仁

ページ範囲:P.72 - P.76

ポイント

●LDLは,動脈硬化内皮に侵入し,動脈硬化病変を進行させる.LDL-Cが最大のリスクファクター.

●動脈硬化症性疾患予防ガイドラインは,危険因子の数に応じてLDL-Cの管理目標を設定している.

●Friedewaldの式:LDL-C = TC-TG/5-HDL-C(TG < 400 mg/dl)を理解する.

●プラーク(粥腫)は,動脈硬化症病変中,泡沫細胞からなり脂質に富む部分をさし破綻しやすい.破綻すると血栓が形成され梗塞イベントとなる.

●スタチンは,LDL受容体を活性化し,LDL-Cを低下させる最も抗動脈硬化症作用のエビデンスの豊富な脂質低下薬.プラーク破綻の予防効果もいわれている.

●スタチンにはレギュラースタチンとストロングスタチンがあり,患者の脂質異常症の状況と治療ゴールから適宜選択を考慮する.

病態に応じた薬物治療の基本

心原性ショック

著者: 平光伸也 ,   宮城島賢二 ,   木村央

ページ範囲:P.79 - P.82

ポイント

●心原性ショックの原因には,さまざまな病態が含まれている.

●ショックに陥った原因を迅速に判断することが重要である.

●左室拡張末期圧が上昇している場合は,主にカテコラミンを使用する.

●左室拡張末期圧が低下している場合は,まず輸液を行う.

慢性心不全の急性増悪

著者: 猪又孝元

ページ範囲:P.84 - P.86

ポイント

●心不全治療としての「目に見える治療」と「目に見えない治療」の棲み分けを意識する.

●「目に見えて悪い」心不全例では,「目に見える治療」を「目に見えない治療」に優先させる.

●他臓器の合併症を回避しつつ「目に見える治療」で急性増悪から脱却したら,「目に見えない治療」にギアチェンジをかける.

●「目に見えない治療」の妥当性判断として,BNP 100~200 pg/mlを閾値として補完的に活用する.

●心不全という「状態」にのみ専心せず,同時にその「原因」を追求して解除策を求める.

慢性心不全(安定期)

著者: 福田延昭 ,   倉林正彦

ページ範囲:P.88 - P.91

ポイント

●慢性心不全では,交感神経系,RAA系などの神経体液性因子が重要な因子となっている.

●慢性心不全の進行の予防は,RAA系抑制薬やβ遮断薬がその中心となっている.

●症状や病態に合わせ,利尿薬,抗アルドステロン薬,ジギタリス,強心薬が使用される.

●長期的な効果には,患者の内服コンプライアンスも重要であり,患者教育も必要.

不安定狭心症

著者: 松陰崇 ,   伊苅裕二

ページ範囲:P.92 - P.96

ポイント

●不安定狭心症に対する薬物治療で,エビデンスレベルが確立しているもの(クラスⅠかつレベルA)はアスピリンである.

●本症と診断された時点で,すべての患者にアスピリン162~325 mgの咀嚼服用が推奨されており,アスピリン禁忌例にはチクロピジンの投与を行う.

●ヘパリン単独投与では,心筋梗塞および死亡率の低下は認められず,アスピリンとの併用投与が必須である.

●β遮断薬の使用は有効であるが,冠攣縮性狭心症患者に対しては注意が必要である.

●短時間作用型ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬の不安定狭心症に対する単独投与は推奨されない.

急性心筋梗塞

著者: 谷樹昌 ,   長尾建 ,   平山篤志

ページ範囲:P.97 - P.99

ポイント

●急性心筋梗塞の診断がつき次第,可及的速やかにその施設で可能な初期治療に移る.

●経静脈的血栓溶解薬の投与は発症早期ほど効果があるため,禁忌事項を除外し,速やかに投与し,心電図変化,症状に改善がなければCCUのある施設に転送する.

●機械的補助循環が必要な心原性ショックを除き,心不全に関して時期を逸することなく薬物療法を行う.不整脈合併例に関して血行動態が悪化する例には,積極的に治療を行う.単発の期外収縮は経過観察する.

●急性期を乗り越えた例に対しては退院までに冠危険因子を的確に把握し,そのコントロール管理を徹底する.

安定狭心症・慢性期の心筋梗塞

著者: 掃本誠治 ,   小川久雄

ページ範囲:P.100 - P.105

ポイント

●安定狭心症・慢性期心筋梗塞患者の治療の目的は,①発作の治療,②予後の改善である.

●発作の治療は,発作時の治療と発作の予防に分けられる.

●発作を取り除き生活の質(QOL)を改善する.

●予後の改善は,心臓死,心筋梗塞の予防である.

PCI後の薬物療法

著者: 田辺健吾

ページ範囲:P.106 - P.108

ポイント

●アスピリン+チエノピリジン(チクロピジンまたはクロピドグレル)の2剤抗血小板薬療法はPCI後,BMSの場合は1カ月,DESの場合12カ月が推奨される.

●DESの場合,抗血小板薬を完全に中止してしまうとステント血栓症を発症する可能性があり,注意を要する.

●抜歯や体表の小手術では,抗血小板薬は中止すべきではない.

発作性上室性頻拍・心房粗動

著者: 佐々木真吾 ,   木村正臣 ,   奥村謙

ページ範囲:P.109 - P.114

ポイント

●不整脈に対する薬物治療では,患者QOLと生命予後の改善を考慮する.

●発作性上室性頻拍,心房粗動におけるカテーテルアブレーションの有効性は確立されている.

●心房粗動の多くが薬物治療抵抗性で,その停止にはDCショックが必要となる場合が多い.

●心房粗動の薬物治療の目的はレートコントロール,あるいは再発予防のための期外収縮の抑制である.

心房細動(発作性・持続性)

著者: 蜂谷仁

ページ範囲:P.116 - P.120

ポイント

●心房細動の治療方針は,リズムコントロール(洞調律維持)とレートコントロール(心拍数調節)の2つに大別される.

●AFFIRMなどの大規模臨床試験では,リズムコントロールとレートコントロールにQOLや塞栓症発症率,死亡率などに有意差はなかった.

●洞調律であることとリズムコントロールはイコールではない.重要なことはリズムコントロールに際し,患者側のAfの多様性と抗不整脈薬の有効性/副作用を十分把握することである.

心室頻拍・心室細動:静注薬による停止

著者: 中川晃志 ,   草野研吾

ページ範囲:P.122 - P.125

ポイント

●心室頻拍の治療は,基礎心疾患の有無,頻拍中の血行動態によって異なる.

●薬理作用と頻拍の機序を理解したうえでの,薬剤使用が不可欠である.

●近年使用可能となったアミオダロン静注薬は,ニフェカラントと並び,心室性不整脈治療に非常に重要である.薬理作用の相違点を理解しておく必要がある.

心室期外収縮・心室頻拍・心室細動の経口薬による予防

著者: 野上昭彦

ページ範囲:P.126 - P.128

ポイント

●VPCを治療すべきかどうか判断する際には,器質的心疾患の有無と治療の目的が重要である.

●抗不整脈薬を使用する際には,催不整脈作用の可能性を常に念頭に置く.

●VT/VF患者の予後およびQOLを改善するためには,抗不整脈薬治療と非薬物治療を組み合わせた戦略を立てる.

●不整脈の状況は,疾患としての経過や全身状態で変化するため,1つの治療法に固執せず,柔軟に対処する.

高血圧

著者: 小森孝洋 ,   苅尾七臣

ページ範囲:P.130 - P.135

ポイント

●患者背景を考慮し,患者個人に合わせた降圧治療が必要である.

●朝・晩の家庭血圧測定で血圧を評価することが重要である.

●24時間にわたって,血圧レベルを十分下げるようにすることが大切である.

●各種降圧薬の特性を理解して,薬剤選択を行うことが重要である.

●薬物療法以外にも,生活習慣の改善,食事・運動療法など,患者のライフスタイル全般にわたる指導も行うべきである.

肺高血圧

著者: 佐藤徹

ページ範囲:P.136 - P.139

ポイント

●肺動脈性肺高血圧症が,新しい血管拡張薬の基本的な適応疾患となる.

●重症例には,エポプロステノールの投与を行う.

●中等症以下では,内服薬であるボセンタン,シルデナフィルを投与する.

●各薬剤の長所,短所を十分に検討して,投与薬剤を決定する.

感染性心内膜炎

著者: 光武耕太郎

ページ範囲:P.140 - P.143

ポイント

●原因菌(血液培養)が判明しているかどうかが,非常に重要である.

●経験的治療は,臨床経過や人工弁か自己弁かを考慮する.

●抗菌薬は,十分量を推奨された期間投与する.

●注意深い観察のもと,血液培養の陰性化が効果判定の基本となる.

閉塞性動脈硬化症

著者: 越川めぐみ ,   池田宇一

ページ範囲:P.144 - P.146

ポイント

●閉塞性動脈硬化症は,全身の動脈硬化性疾患の一部分症である.

●治療は,重症度分類(Fontaine分類)に基づいて行う.

●ほかの動脈硬化性疾患(虚血性心疾患や脳血管障害など)の精査・加療も同時に行う.

薬物療法の基本的注意

循環器薬の体内動態と血中濃度測定

著者: 石渡泰芳 ,   安原眞人

ページ範囲:P.148 - P.150

ポイント

●有効治療域の狭い薬物を有効かつ安全に使用するためには,血中濃度測定を利用した薬物投与設計が有用である.

●示されている有効治療域を目安としてとらえ,患者ごとに血中濃度と効果・副作用の関係を評価することが重要である.

腎障害・肝障害時における循環器薬の使用

著者: 越前宏俊

ページ範囲:P.151 - P.154

ポイント

●腎障害または肝障害患者の薬物治療には,薬物動態の知識が必要である.

●薬物には,腎消失型と肝除去型がある.

●腎障害患者では,薬物誘発性腎障害の感受性が高い.

●患者の腎機能評価には,eGFR推算式が簡便で有用である.

●肝障害患者では,Child-Pugh分類による肝細胞障害の評価と食道静脈瘤形成などによる門脈側副路の形成を薬物投与量減量の指標とする.

高齢者への循環器薬の与薬

著者: 金子英司

ページ範囲:P.155 - P.157

ポイント

●高齢者では,薬物有害作用が起こりやすく,多臓器の重い症状を呈しやすい.

●高齢者では,症状が非典型的なので,常に薬物有害作用の可能性を考える.

●高齢者では,薬物は若年者の1/2~1/3の少量で開始し,ゆっくりと増量する.

●高齢者では,一包化や1日1回投与などの簡便な服用法でコンプライアンスを改善する.

●治癒した疾患の治療薬は中止し,慢性疾患では治療薬の減量を常に考慮する.

妊婦・授乳女性への循環器薬の与薬

著者: 嘉川亜希子 ,   鄭忠和

ページ範囲:P.158 - P.162

ポイント

●妊婦への薬物療法には,母体のみならず,胎児への薬物影響についての評価が必要である.

●母体・胎児・乳児すべてに対して100%安全といえる薬剤はない.

●妊婦・授乳婦への薬物投与に関しては十分な説明・カウンセリングが必要である.

SCOPE

在宅医療という選択肢―患者さんの退院時のフォローに活用してほしい冊子の紹介

著者: 児玉有子 ,   湯地晃一郎

ページ範囲:P.169 - P.171

 患者さんが在宅での治療継続を希望された場合,スムーズに入院から在宅医療へ移行する準備をすることは,医療者の重要な役割です.しかし,在宅医療で可能なこと,在宅医療開始の準備について,医療者に知られていない実態も意外に多いようです.

 「在宅での治療継続は難しいと思い込んでいませんか?」

連載 手を見て気づく内科疾患・1【新連載】

ボー線,重篤な病態の証拠

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.3 - P.3

患 者:74歳,女性

病 歴:腎硬化症から腎不全となり,1年前に血液透析に導入された.1カ月前から微熱,胸部異常陰影を認め,間質性肺炎の診断にてプレドニゾロン20 mg/日の投与が開始された.プレドニゾロン減量中に呼吸不全を呈し,集中治療室(ICU)に入室した.

ICU入室時身体所見:左第1に爪白癬,Half-and-half(ハーフアンドハーフ爪:爪の遠位部が褐色を呈し,爪の近位部は白色を呈する.爪の半月は消失している)を認めた(図1).

目でみるトレーニング

著者: 永石彰子 ,   宗政充 ,   黒瀬龍彦 ,   堀田彰一

ページ範囲:P.172 - P.177

聖路加Common Diseaseカンファレンス・21

―アレルギー膠原病科編―アレルギー疾患の基本診療を身につけよう

著者: 上地英司 ,   山口賢一 ,   岡田正人

ページ範囲:P.178 - P.185

アレルギー疾患の診療 まずはここを押さえよう

 
①アレルギー疾患では,まずI型(IgE)によるものかそれ以外によるものかを考える.
②I型に一致する発症様式と症状であるかを確認し,既往歴,家族歴,生活環境も含めた社会歴も合わせて聴取する.
③皮疹を診た際には薬疹を必ず鑑別診断の一つと考え,健康食品,市販薬を含めた詳細な薬剤歴を確認する.
④抗原回避と除去を薬物療法に併用し,より副作用が少なく効果の高い治療を目指す.

市中感染症診療の思考プロセス IDATEN感染症セミナーより・10

尿路感染症のマネジメント

著者: 藤田崇宏

ページ範囲:P.186 - P.191

ケース 高熱と下腹部痛・右背部痛を訴える尿道カテール留置中の80歳女性

 

現病歴 脳梗塞後遺症にて左不全麻痺,神経因性膀胱があり,尿道カテーテル留置中(1カ月に1回交換)の80歳女性.軽度の認知症があるがコミュニケーションは可能.前日からの尿量減少,尿の混濁があった.また当日からの下腹部痛,右背部痛および悪寒戦慄を伴う発熱があるため救急外来を受診した.

 

身体所見 体温38.5℃,心拍数120,呼吸数25,血圧100/60.全身状態:きつそうである.頭頸部:異常なし.心臓:I・II音正常,雑音なし.胸部:肺胞呼吸音,ラ音なし.腹部:平坦・軟,右背部(肋骨脊椎角部)の叩打痛,腹部触診にて筋性防御はなく下腹部の軽度圧痛あり,肝脾腫なし,四肢:皮疹なし.尿バルーン内は混濁尿を認める.

 

検査データ 血液所見:白血球17, 500/μl(桿状核好中球17%,分葉核好中球64%,リンパ球16%,単球2%,好酸球1%),ヘモグロビン9.5 g/dl,ヘマトクリット29%,血小板35×104/μl.尿所見:pH 7.5,蛋白(+)・糖(-),赤血球50~70/HPF,白血球>100/HPF,細菌3+.

研修おたく海を渡る・37

Tumor Boardのお作法(2)

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.192 - P.192

 Tumor Board のお作法を書き上げているころ,タイミングよく「どうすればTumor Boardをもっと有意義なものにできるか」という話し合いがありました.長かったり退屈だとおもしろくない映画や劇のように,ひとりふたりと参加者が減っていきます.週1回1時間だと短すぎるけど,週2回は忙しすぎて集まれない,2時間だと長すぎるし,じゃあ90分でやってみようなんて話をしていたのです.

 すると「エビデンスに基づかない意見は控えたほうがいい」という提案が若手スタッフからありました.「ごもっとも」とそのまま流れかけたのですが,それに対して,「一つひとつのケースを細かく見ると,エビデンスを当てはめることができないことがよくある.またエビデンスをつくること自体が難しいような稀な症例もあるのだから,“anecdotal(逸話的)な”話もばかにしてはいけない」と経験豊富な外科医からの反論がありました.

見て・聴いて・考える 道具いらずの神経診療・13

―主訴別の患者の診かた8―意識障害のある患者の診かた(前編)

著者: 岩崎靖

ページ範囲:P.193 - P.198

 神経内科では意識障害患者の診察を依頼される機会が多いが,原因となる疾患は神経領域に限らず,感染症,内分泌疾患から精神疾患まで多彩である.意識障害の程度は見逃すほどのごく軽度から昏睡に至る状態まで幅広く,判定を誤りやすい意識障害類似の状態もある.死に至る病態など診断よりも救急処置を優先しなければならない場合,早急に適切な診療科へ紹介する必要がある場合,経過観察で良い場合までさまざまであり,病態を的確にとらえて対応する必要がある.

 今回から2回に分けて意識障害患者の診療についてポイントを概説したい.今回は意識障害についておよび,一般理学所見の取り方を概説し,神経学的所見の取り方,代表的疾患の鑑別のコツについては次回解説する.

書評

「人は死ぬ」それでも医師にできること―へき地医療,EBM,医学教育を通して考える

著者: 山本和利

ページ範囲:P.29 - P.29

 本書は,へき地診療所を離れた医師が,人を死なせないことを使命とする都市部の病院の臨床研修センター長になって,日々研修医たちとの間で繰り広げた「こと」を週刊医学界新聞に綴った1年間の実践記録・日記である.

 実在する名郷直樹氏と架空の存在丹谷郷丹谷起(ニャゴウ・ニャオキ)とが主に現在の医療問題について3つの視点から切り込んでゆく.1番目は研修医教育であり,2番目が著者お得意のEBMについてであり,3番目が死ぬこと・生きること等の哲学についてである.

誰も教えてくれなかった診断学―患者の言葉から診断仮説をどう作るか

著者: 上野文昭

ページ範囲:P.77 - P.77

 「臨床疫学」という言葉の響きから,いまだに何やら伝染病などを扱う学問と思い込んでいる読者はおられないだろうか.もしそうであれば,すべての臨床医がいつでも,どこでも,誰にでも必要な知識であることに早く気付いていただきたい.

 このたび医学書院より上梓された『誰も教えてくれなかった診断学―患者の言葉から診断仮説をどう作るか』に目を通し,この認識が誤りでないことを再確認した.共著者の野口・福原両氏は評者の最も信頼する内科医である.二人とも北米での内科研修で得た優れた臨床技能を,さらに臨床疫学を学ぶことにより科学的に磨きをかけ,現在わが国の臨床・教育・研究の各分野で活躍中である.過剰検査が当たり前のわが国で,これまでほとんど学ぶ機会のなかった正統派診断学を,今ここで二人が教えてくれている.

「治らない」時代の医療者心得帳―カスガ先生の答えのない悩み相談室

著者: 池田正行

ページ範囲:P.121 - P.121

 「人間は究極の生物兵器である」と私が言っても,仕事場で,家庭で,そういった事例を嫌というほど経験しているあなたは決して驚かないだろう.その究極の生物兵器自身が,病気や怪我になったら,医師がその手当てを担当する.つまり,医師とは,手負いとなって攻撃力が高まった究極の生物兵器と常に対峙せねばならない商売である.

 通常,血を吐いただの,骨が折れただのといった体の傷への対応については,われわれはしかるべき訓練を受けている.対応マニュアルも,医学書院をはじめとする出版社から数多く出ている.ところが,究極の生物兵器たる所以の「感情,言語,行動」に対しては,われわれはきわめて貧弱な装備しか持ち合わせていない.

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編集室より

著者:

ページ範囲:P.208 - P.208

●2008年9月14日,「スタチン」の発見者として知られる遠藤章氏(バイオファーム研究所長)のラスカー賞受賞を,各メディアが一斉に報じた.ラスカー賞は「ノーベル賞の登竜門」と呼ばれていることからも,遠藤氏のノーベル賞受賞へ期待が高まった.因みに,これまでラスカー賞を受賞した日本人は,後にノーベル賞を受賞した利根川進氏(マサチューセッツ工科大教授)を含め4人だが,いずれも基礎医学部門での受賞であり,臨床医学部門では遠藤氏が初めての受賞となる.

●スタチンは「世界で3,000万人以上が使用する薬」,「世界で一番売れている薬」とメディアは報じる.実際,最新(2007年)の資料によれば,スタチン製剤の市場規模は世界一である.世界中で最も多く使用されている薬の発見者が日本人だったのだから,メディアが大きく取り上げるのは当然だが,逆に,スタチンはこれだけ多く使用されているのだ,という事実をあらためて確認することにもなった.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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