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雑誌目次

雑誌文献

medicina46巻10号

2009年10月発行

雑誌目次

今月の主題 一般内科診療における呼吸器薬の使い方

著者: 金城紀与史

ページ範囲:P.1565 - P.1565

 呼吸器系の主訴で受診する患者は多い.発熱,咳といった「風邪」症状から呼吸困難・胸痛まで症状は多彩であり,しかも急性疾患から慢性疾患,また外来でマネージできるものから病棟・ICUレベルの治療が必要なものまである.鑑別診断も呼吸器疾患のほか,心疾患・神経筋疾患・精神科疾患と幅広い.そこで,今回は内科系診療で必ず遭遇する一般的呼吸器疾患での薬剤療法を中心に特集を組んだ.

 取り上げるテーマは肺炎,急性上気道炎,喘息とCOPD,そして結核や重症呼吸器疾患・間質性肺疾患にも触れた.最後にタバコ依存治療・ワクチン・対症療法・緩和療法の概説も加えた.

肺炎

市中肺炎治療の基本原則

著者: 椎木創一

ページ範囲:P.1566 - P.1570

ポイント

●市中肺炎は「コモン」な疾患であるが,軽症から重症まで幅広く起因微生物も多様である.

●「安易なエンピリック治療」を選択せず,病歴や身体所見,喀痰スメア等の検査を組み合わせて起因微生物を絞りたい.

●重症度判定には,意識状態,呼吸・循環状態と年齢が重要である.

市中肺炎の治療のTips

著者: 椎木創一

ページ範囲:P.1572 - P.1576

ポイント

●市中肺炎に対する抗菌薬は,レジオネラ肺炎の関与と肺炎球菌の薬剤耐性のリスクを吟味して選択する.

●喀痰塗抹検査(グラム染色)と自施設の細菌感受性パターンを活用したい.

●経口抗菌薬は投与量に注意しながら市中肺炎の治療の選択肢に入れる.

●治療期間は短くできる可能性があるが,臨床経過を十分考慮する必要がある.

耐性菌が疑われる市中肺炎への薬の使い方

著者: 伊藤正仁 ,   柳秀高

ページ範囲:P.1577 - P.1581

ポイント

●市中肺炎の最大の起因菌である肺炎球菌のペニシリン感受性の定義が変化した結果,ほとんどの肺炎球菌性肺炎をペニシリンで治療することが公式に可能となった.

●髄膜炎におけるペニシリン感受性の定義はほぼ以前と変わりがないことに注意.

●インフルエンザ桿菌にはβラクタマーゼ陰性でもアンピシリン耐性の株(BLNAR)がある.

●緑膿菌のリスクファクターがある患者では重症度,グラム染色などを手掛かりにカバーするかどうかを決める.

誤嚥性肺炎の抗菌薬・嫌気性菌カバーの考え方

著者: 岸田直樹

ページ範囲:P.1582 - P.1585

ポイント

●誤嚥による肺の一連の変化を理解する.

●誤嚥による肺の炎症には全例抗菌薬投与の必要はない(見極める臨床能力,待つ勇気).

●不顕性誤嚥という概念を知る.

●嫌気性菌の関与は,「敬意は表するが違うと思う」という姿勢も忘れない.

●実はもっと大切なことは,何故誤嚥したか? であることが多い.嘔吐の原因を検索せよ.

急性上気道炎

たかがインフルエンザ,されどインフルエンザ

著者: 島川祐輔 ,   有吉紅也

ページ範囲:P.1588 - P.1592

ポイント

●季節性インフルエンザは基本的には自然に治る病気である.

●日本は世界におけるオセルタミビル(以下タミフル®)使用量の7割も占めている.

●抗インフルエンザ薬の適正使用について考える必要がある.

●症状の軽減や合併症の予防には有効だが,入院や死亡を防ぐかは不明な点も多い.

●タミフル使用後の異常行動や耐性ウイルスの流行が問題となっている.

●迅速検査陽性例にルーチンで処方するのではなく,各患者に合った治療方針を考えたい.

上気道炎に抗菌薬は禁忌?

著者: 堀之内秀仁

ページ範囲:P.1593 - P.1598

ポイント

●急性上気道炎は一般内科診療で最も多く遭遇する臨床問題である.

●急性上気道炎には急性副鼻腔炎,急性咽頭炎,急性気管支炎などが含まれる.

●急性上気道炎に対するルーチンの抗菌薬投与は推奨されない.

●過剰な抗菌薬治療により患者の利得は乏しく,耐性菌の増加が問題となる.

●急性ウイルス性上気道炎と急性細菌性上気道炎の鑑別はしばしば困難である.

喘息とCOPD

喘息発作の治療法

著者: 篠原直哉

ページ範囲:P.1599 - P.1602

ポイント

●喘息発作は重症度の初期評価が重要である.

●致死性喘息をピックアップし気管挿管のタイミングを逸しないようにトリアージする.

●酸素投与,β2刺激薬吸入,全身ステロイド投与が治療の基本である.

●初期治療後の評価を適切に行う.

●退院後は再発予防に努める.

慢性期の喘息コントロール

著者: 知花なおみ

ページ範囲:P.1603 - P.1608

ポイント

●喘息は気道の慢性炎症性疾患であり,治療は吸入ステロイド薬を中心とした抗炎症治療である.

●患者のコントロールレベルから治療のステップを選択し,定期的に調整していく.

●ステップ3以上では,吸入ステロイド薬と長時間作用型β2刺激薬が最も効果的な組み合わせであるが,必ず両者を併用することが原則である.

●薬物療法以外にも患者教育,環境コントロールが重要であり,医師や患者だけでなく,家族,看護師,薬剤師が協力しあって治療に参加することが望ましい.

喘息と禁忌薬

著者: 芦原順也 ,   星哲哉

ページ範囲:P.1610 - P.1612

ポイント

●成人喘息患者の約10%がアスピリン喘息である.

●喘息患者にNSAIDsを処方するときは,アスピリン喘息を疑い病歴を確認する.

●アスピリン喘息患者に安全なNSAIDsを覚えておく.

●喘息患者にはβ1選択性遮断薬を用い,利益があれば積極的に使用していく.

Difficult asthmaのコントロール

著者: 片岡健介

ページ範囲:P.1613 - P.1616

ポイント

●経口や高用量吸入ステロイド薬治療にもかかわらずコントロール不良な喘息患者はdifficult asthmaといえる.

●Difficult asthmaを治療する際には喘息以外の疾患の鑑別・合併の可能性も考慮する.

●Difficult asthmaの中には増悪因子に適切に対処できていない患者がいるかもしれない.

●Difficult asthmaは治療薬のアドヒアランス改善でコントロールを改善可能なことがある.

妊婦と喘息

著者: 馳亮太 ,   八重樫牧人

ページ範囲:P.1618 - P.1621

ポイント

●喘息合併妊娠では喘息のコントロールを良好に保つことが何よりも重要.

●妊婦に薬を処方するときは必ずFDA分類を確認する.

●胎児が低酸素にさらされることが何よりも危険なので,必要な場面での喘息治療薬の使用を躊躇しない.

COPD急性増悪の治療法

著者: 齊藤茂樹

ページ範囲:P.1622 - P.1625

ポイント

●COPD急性増悪は患者の短期・長期予後およびQOLに悪影響を与え,社会経済的なインパクトも大きい.予防,早期発見,および早期適正治療が非常に重要.

●バイタルサイン,身体所見,病歴,検査所見などをもとにきちんと重症度を評価し,入院が必要か,ICU入室が必要か判断しよう.

●治療薬としては,酸素,短時間作用型吸入気管支拡張薬,ステロイド,抗菌薬が重要.

●機械換気(非侵襲的あるいは侵襲的)が適応となる患者をきちんと同定しよう.

慢性期におけるCOPDの治療

著者: 南木伸基 ,   山地康文

ページ範囲:P.1626 - P.1632

ポイント

●COPDは,予防/治療が可能である.

●COPDの危険因子は,喫煙である.

●COPDの管理には,確定診断すること,危険因子を減らすこと,安定期のCOPDの治療,急性増悪の治療が重要である.

●薬物療法は,症状の予防やコントロールが可能で,急性増悪を減少させ,健康状態を改善させ,運動耐応能を改善させる.

●非薬物療法も,同時に有用である.

●患者教育により,スキルが改善し,疾患への対処が可能になり,健康状態が改善し,禁煙が成功し,人生の終末期の理解が進み,急性増悪への反応が改善する.

吸入薬の使用方法・指導方法

著者: 莇由衣 ,   狩俣洋介

ページ範囲:P.1634 - P.1638

ポイント

●適切なデバイス選択と吸入指導は患者のアドヒアランスに直結する.

●pMDIは薬剤噴霧と吸気の同調,または適切なスペーサーの使用が必須.

●DPIは一定以上の吸入速度が必要.

●外来受診時には実際に目の前で吸入してもらい,問題点がないか確認する必要がある.

●特に高齢者では,家族も含めた繰り返しの吸入指導が必要.

その他の呼吸器疾患

結核

著者: 成田雅

ページ範囲:P.1639 - P.1644

ポイント

●結核を疑うべき臨床状況を理解する.

●治療成功の成否は,良好な患者-医師関係にかかっている.

●推奨された期間は,抗結核薬は毎日きちんと内服することが大事であり,DOT(Directed observed therapy)が勧められる.

●多剤併用療法が原則であり,治療期間は最低6カ月間である.

●治療の完了には,治療「期間」よりも処方「回数」がきちんと内服されているかが重要である.

潜在結核感染症治療

著者: 山本舜悟 ,   岸本暢将

ページ範囲:P.1645 - P.1650

ポイント

●潜在結核の診断は長年ツベルクリン反応に頼ってきたが,日本ではBCG接種による偽陽性が問題であった.QuantiFERON®-TB(QFT)検査はこの問題点を解消する可能性がある.

●QFT検査は結核感染の既往があれば,活動性がなくとも陽性になりうる.QFT検査が結核の活動性の有無を示すというのは誤解である.

●QFT検査は活動性結核に対しても80%弱の感度であり,陰性でも結核感染を除外できない.潜在結核に対する感度はreference standardが存在しないため,厳密には不明である.

●潜在結核治療の際には,必ず活動性結核を除外しなければならない.

非結核性抗酸菌症―Nontuberculous Mycobacteria

著者: 森野英里子

ページ範囲:P.1651 - P.1654

ポイント

●非結核性抗酸菌症と結核は似て非なるものである.

●非結核性抗酸菌症はヒトからヒトへの感染はないため,隔離は不要である.

●非結核性抗酸菌が培養されたからといってすぐに診断とはならない.

●非結核性抗酸菌症の診断後,いつ治療を開始するかは臨床医の総合的判断による.

●治療の基本は抗菌薬による多剤併用療法であり,場合によって外科的治療が考慮される.

知っておきたいステロイド薬の使い方

ARDS(急性呼吸窮迫症候群)におけるステロイド療法

著者: 金城紀与史

ページ範囲:P.1655 - P.1659

ポイント

●ARDSに対するステロイド治療については早くから数々の研究で検討されてきたが,早期のARDSに対する短期ステロイド・パルス療法は有効ではない.

●7日目でも改善しないARDS患者でのステロイド治療は酸素化・人工呼吸器離脱などは改善するが長期的予後の改善は不明確である.

●早期ARDSに対するステロイド長期間投与については有効性を示す研究が1つあるが,追試が必要であろう.

●ステロイドの最適な投与タイミング・投与量・投与期間・テーパーの方法などコンセンサスはない.

●ARDSの予後はここ10年で改善してきており,以前の研究と最近のものを単純比較することは難しい.原疾患の治療とともに,人工呼吸器管理などの支持療法の向上が予後改善につながる.

重症肺炎のステロイド治療とその他の補助療法

著者: 山田広之 ,   藤谷茂樹

ページ範囲:P.1660 - P.1663

ポイント

●重症肺炎において過剰な炎症を抑える目的でステロイド投与が有効ではないか,という意見がある.

●重症肺炎におけるステロイド治療は,現時点では標準的治療とはいえない.

●エンドトキシン吸着療法,免疫グロブリン製剤についても同様である.

間質性肺疾患に対するステロイドの使い方

著者: 喜舎場朝雄

ページ範囲:P.1665 - P.1668

ポイント

●労作時呼吸困難などの重要な呼吸器症状と臨床経過,胸部理学所見から間質性肺炎は疑うことができる.

●理学所見では関節・皮膚症状などの膠原病を示唆する所見の有無も含めて全身を丹念に診察することが重要である.

●普段の内服薬に関しては経時的に詳細に聞き出すことで原因となる薬剤を同定することに結びつく.

●ステロイドの効果判定は臨床症状,画像所見,肺機能などを駆使して総合的に行うべきである.

●易感染性,糖尿病,骨粗鬆症などのステロイドの主な副作用を十分に念頭に置いて治療管理する.

ステロイド治療患者や免疫抑制患者でのニューモシスチス肺炎予防

著者: 岡田正人 ,   山口賢一

ページ範囲:P.1670 - P.1672

ポイント

●ニューモシスチス肺炎予防の第一選択はST合剤である.

●ST合剤に対する過敏反応は投与開始数週間後に出現することも多い.

●非HIV患者のニューモシスチス肺炎予防の適応には基礎疾患,免疫抑制期間を考慮する.

●関節リウマチへの抗TNF製剤では,高齢,ステロイド併用,間質性肺炎がリスクとなる.

●予防投与開始基準と中止基準は異なるため,十分に免疫抑制が取れた時点で休薬する.

呼吸器疾患患者における骨粗鬆症予防と治療

著者: 上原元太 ,   金城光代

ページ範囲:P.1673 - P.1676

ポイント

●プレドニゾロン15 mg/日以上を間欠的に,または5~7.5 mg/日を持続内服している患者は骨粗鬆症のリスクが増す.

●吸入ステロイドおよびβ刺激吸入薬と骨粗鬆症リスクについて見解は一致していない.

●プレドニゾロン開始直後より骨折リスクが増加するためすぐ骨粗鬆症治療を開始する.

●COPDもステロイド使用の有無に限らず骨粗鬆症のハイリスク群と考え,骨密度を測定する.

●骨粗鬆症の治療は,カルシウム製剤・ビスフォスフォネート・ビタミンD製剤の併用が基本.

日常診療に役立つ呼吸器治療Q&A

タバコ依存症の患者がいます.どのように対応したらよいのでしょうか?

著者: 玉城仁

ページ範囲:P.1677 - P.1681

ポイント

●喫煙は全死亡への相対リスクが高血圧,糖尿病,高コレステロール血症より高い.

●医療従事者は受診したすべての患者の喫煙状況を把握することが大切.

●診療のたびに喫煙者へ3分以内の禁煙指導だけでも1.3倍禁煙率が上がる.

●禁煙補助薬と禁煙支援を組み合わせて行うと禁煙率がさらに向上.

●Eメールや携帯メールでの禁煙支援プログラム活用も有用.

患者にワクチンについて質問されました.何をどう説明したらよいのでしょうか?

著者: 松浦武志

ページ範囲:P.1682 - P.1685

ポイント

●肺炎球菌ワクチンは,肺炎そのものの発症を予防する効果は限定的.

●肺炎球菌ワクチンは,侵襲性肺炎球菌感染症を予防する効果が認められている.

●インフルエンザワクチンは,健常成人や小児での発症予防効果が高い.

●インフルエンザワクチンは,高齢者で合併症の予防や死亡率の低下に効果がある.

●肺炎球菌ワクチンとインフルエンザワクチンは併用するとより効果が高い.

日常診療に役立つ呼吸器疾患への対症療法には,どんなものがありますか?

著者: 吉嶺厚生 ,   西垂水和隆

ページ範囲:P.1687 - P.1690

ポイント

●急性咳は原因治療により軽快する.対症療法は基本的に不要.心不全や肺塞栓など重篤な疾患を見逃さないことが大切.

●遷延性・慢性咳は原因疾患により薬剤の使い方に工夫が必要.咳喘息,アトピー咳,副鼻腔気管支症候群,胃食道逆流症などが多い.疾患と薬剤の特徴を理解することが大切.

●高齢者では,投与薬物により誤嚥が誘発されている可能性もあり,薬剤の調整が必要.

日常診療に役立つ呼吸器の緩和療法には,どんなものがありますか?

著者: 関根龍一

ページ範囲:P.1691 - P.1696

ポイント

●呼吸器の緩和治療と同時に,原因病態の治療を常に検討し可能であれば実施する.

●呼吸困難の症状マネジメントでは,モルヒネ等のオピオイドが第一選択薬である.

●激しい呼吸困難の症状緩和に治療的鎮静が必要な場合がある.

●侵襲的処置の是非は,本人の意向,医学的適応,予後などから総合的に判断する.

連載 手を見て気づく内科疾患・10

リウマトイド結節,関節リウマチの関節外症状

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.1561 - P.1561

患 者:60歳,女性

病 歴:10年前から関節リウマチの治療中である.現在はメトトレキサート(methotrexate)6 mg/週を内服している.手関節,肘関節,膝関節に腫脹,疼痛を認める.

身体所見:左肘関節近くの前腕伸側に固く,圧痛のない結節を大小4カ所触れる(図1).

研修おたく海を渡る・46

アメリカ開業医の視点

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.1703 - P.1703

 今年の4月から,“Private Practice”─開業医として働いていた経験豊富な医師が,仲間に加わりました.違った視点からの多くの指摘は,新鮮で目を開かされる体験となりました.10年ほど“academic”すなわち大学病院で働いたあとに,全米でも有名な腫瘍内科開業グループでさらに10数年経験を積んだという筋金入りのベテランです.子どもの大学卒業を機に昔から好きだった若い人への教育現場に戻ってきたのです.

 彼の希望ははっきりしており,契約の条件にも「教育の時間を必ず確保する」という項目が織り込まれていたそうです.大学病院でのトレーニング中にはなかなか触れることのできない開業医の生活,考え方も伝えたいと穏やかに彼は語ります.大学では腫瘍内科医としてもさらに専門分野を決めることが普通なのですが,General Oncologistとして「がんなら,なんでもいいよ」と人手の少ないところをカバーすることを厭わずひょうひょうとしているのです.

目でみるトレーニング

著者: 吉田勉 ,   永石彰子 ,   小川大輔

ページ範囲:P.1704 - P.1710

The M&M reports 見逃し症例に学ぶ内科ERの鉄則・2

78歳男性 主訴 肺炎疑い

著者: 長谷川耕平 ,   岩田充永

ページ範囲:P.1711 - P.1715

救急レジデントH:

 78歳の男性が肺炎疑いでクリニックより当院救急外来に紹介受診となりました.2週間に及ぶ乾性咳嗽,咽頭痛,労作時呼吸困難感のためにかかりつけクリニックを受診したようです.37℃の微熱と,咳のしすぎで喉も痛いとのことです.胸痛,起座呼吸,発作性夜間呼吸困難,下腿浮腫は否定しました.

 既往歴には,脳梗塞,発作性心房細動,高血圧があります.薬はサイアザイド,アムロジピン,ワーファリンをちゃんと服用しているとのことです.

外来診療に差をつけるコミュニケーションスキル・1【新連載】

患者満足度と医師のコミュニケーションスキル

著者: 和座一弘

ページ範囲:P.1716 - P.1720

 若手の総合内科医にとって,面接がきわめて基礎的な力であると気づくのは,定時の外来を担当するようになってからではないでしょうか.限られた時間とリソースの中で,効率よく,診療の質を担保して,患者との関係を上手に築いていくことができないと,外来日はかなり悲惨な結果となります.食事もままならない,夕方遅くまで終わらない,病棟ナースから嫌な顔をされる…….こうならないように,コミュニケーションスキルを鍛えませんか.

 本連載は『コミュニケーションスキルトレーニング──患者満足度向上と効果的な診療のために』(医学書院,2007)を執筆した私たちの仲間が,テキストでは十分に紹介できなかったことも含めて,誰でもが修得できるテクニックや,回避できるピットフォールをご紹介します.ご期待ください.

書評

心臓病の診かた・聴きかた・話しかた―症例で学ぶ診断へのアプローチ

著者: 宮崎俊一

ページ範囲:P.1581 - P.1581

 髙階先生は本田宗一郎氏に似ていると私は思う.各界に偉人といわれる人々は多いが,髙階先生は現在79歳であるにもかかわらず,間違いなく今も“現場”の人である.本田宗一郎氏の伝記を読むと彼が晩年まで“現場”で生きていたことがわかるが,髙階先生もしかりである.実際,髙階先生の考案したタコ足聴診器からコンピュータをいち早く取り入れたシミュレータ“イチロー”の開発などをみていると,本田宗一郎氏が油にまみれながら原動機付き自転車からF1レーシングカーまで作っていった経緯と似ているように思う.両者には“自分自身の手によって現場で工夫する”という哲学が共通しているのである.昔の日本には上記のような哲学がさまざまな場所で多く存在したのではないかと思うが,現在の日本では少なくなったことは間違いない.私が髙階先生を尊敬しているのはこのような哲学をもち,実践し,他者を指導し,そしてそれを楽しんでいるからである.髙階先生は,臨床医として活躍されているだけでなく,臨床心臓病学教育研究会(JECCS)を立ち上げられて医学教育に長年尽力されてきた.近年,医師不足または偏在による医療崩壊が叫ばれるようになって久しいが,これまで以上に医師の質を担保する卒前および卒後教育が重要となっている.このような状況を考えると,髙階先生の実践的医学教育がまさに求められている時代だと思う.

 本書は心臓病について架空の医学生および研修医(メディック)をシミュレートして心臓疾患について質疑応答を行うことで,病態,ベッドサイドでの診療,検査法,治療を学んでいくという形式で書かれている.つまりオムニバス形式なので最初から読む必要はない.読者のレベルや関心の度合いによって適当な箇所から読み始めてよいのである.記述されている内容はベッドサイドでの診療を想定して書かれているので,基本的事項が中心となっている.つまり,循環器専門医を志す若い医師または医学生を対象とした書籍内容ということができる.ところが実際に読んでみると髙階先生の哲学である“実践的”な精神が発揮されており,ベテラン循環器専門医にとっても役に立つ情報が随所に出てくる.このため,本書はむしろ臨床の現場で患者さんと向き合っている先生方の役に立つのではないかと思う.研修医と一人前の臨床医の双方にお薦めしたい書籍である.

Dr. ウィリス ベッドサイド診断―病歴と身体診察でここまでわかる!

著者: 伴信太郎

ページ範囲:P.1612 - P.1612

 ウィリス先生(Dr. G. Christopher Willis)のご高名には,本書の監訳者である松村理司氏の興味深い逸話の紹介を通して10年以上前から接していた.そのウィリス先生が「医学生や若い医師に臨床診断を教えるために作ったノートをまとめたもの」(「」は著書からの引用)が本書である.ウィリス先生のことを少しでも知っている人(評者のように直接お会いしたことはないが評判は聞いていたという人がおそらく多いと思う)にとっては,垂涎の書といってよい.

 本書は,外来のテーブルにおいて症候に応じた鑑別診断を探したり,一冊を始めから終わりまで読み通したりするタイプの本ではない.一例をじっくり症例検討する時に,本書の関連箇所を開くと,ウィリス先生の「ほぼ50年に及ぶ臨床医としての経験が凝集されている」アドバイスに接することができる.少し時間的余裕がある時でないと読みこなせない深さがある.

医師が患者になるとき―The PHYSICIAN as PATIENT:A Clinical Handbook for Mental Health Professionals

著者: 飯野靖彦

ページ範囲:P.1669 - P.1669

 「大多数の医師が最も望まないことは,自分が患者になることである」と監訳者が序文で述べているように医師と患者の関係が逆転することはパラダイムシフトであり,人生観や精神に多くの影響を与える.しかし,医師を取り巻く環境は苛酷であり,一般人以上に疾病に罹患する可能性は高く,また,“紺屋の白袴”と言われるようにその事実に気づかない,あるいは気づきたくない状況にある.そのことから最適な治療を受けられない可能性もある.特に医師のメンタルヘルスに関しては,語ることをタブー視する医学界の風潮がある.この本はそのタブーを打ち破り,医師も病気になるのであり,その苦悩する医師に理解を示し,その苦悩から早期に救い出すための予防と治療が述べられている.この本の対象読者は,当事者となる臨床医はもちろんのこと,臨床心理士,ソーシャルワーカー,精神科看護師なども含まれる.さらにストレスの多い医学生や研修医の精神衛生面での責任を持つ医学部長,卒後研修担当者,病院のリスクマネージャー,資格試験認定委員などに必要な知識である.日本でも今まで隠れていた一面を明らかにし,対策を早急に立てる必要性をこの本を読んで感じさせる.

 監訳はこの分野でのエキスパートである松島英介先生と保坂隆先生である.内容は3部に分かれており,主として医師の精神疾患を中心に,それぞれに症例を掲げ解説を加えている.第1部では医師の特性と脆弱性について述べており,医師の共通する特性は“完璧主義と自己非難である”としている.例として小児心臓外科医の自殺を取り上げ,“100人中98人を救った”とは考えず,“100人中2人を失った”と考えた完璧主義が原因と推論している.この完璧主義はうつ,燃え尽き,自殺などの脆弱性因子となる.さらに医療ミスを0にすることは困難であるにもかかわらず,メディアもこの完璧主義を医療に求める風潮がある.現在の日本においても患者サイドから,100%の治療結果を求めて裁判を起こすことがよく報じられているが,この特性と脆弱性をもつ心ある医師はこれに耐えられず自己不信感・罪悪感・過度の責任感から精神的破綻に陥る.統計でも医師は一般人に比べ自殺率が高い.さらに日本と同じように女性医師の多い米国においても,ハラスメントが存在し女性医師の精神的負担となる.第2部では“苦悩する医師と苦悩させる医師の診断と治療上の問題”について述べている.その中には精神疾患,薬物中毒,パーソナリティ障害,さらには日本でも新聞上で時に問題になる非倫理的な患者との性的関係がある.第3部はその予防と治療とリハビリテーションについて述べられている.

生きるための緩和医療―有床診療所からのメッセージ

著者: 山崎章郎

ページ範囲:P.1697 - P.1697

明るい悪戦苦闘ぶりが面白い

 いささか意表を突かれた本であった.書名から伝わってくる第一印象は,誠実に地域の有床診療所で緩和医療に取り組んでいる人々からの,真摯な問題提起が詰まった本なのではないか,つまり,よく理解できるけれども,問題の重さゆえに,読むほうの気分も重くなってしまうような本なのではないか,ということだったからである.そう覚悟して読んでみた.しかし,まず筆者が一読して感じたことは,この本は面白いということであった.有床診療所という入院施設でもあるのに,病院や緩和ケア病棟とはかけ離れて安い,まるで格安ビジネスホテルか民宿並みの入院費しか認められていない医療施設で,しかし質の高い緩和ケアを提供しようと悪戦苦闘している人々の奮闘ぶりが,5つのそれぞれに個性的で味のある物語として展開されているからである.が,悪戦苦闘しているのに,決して暗くもなく,明るい希望すら感じるのである.居直っているようにも見えるが,確信してその苦労を楽しんでいるようでもある.はらはらどきどきもするが,わくわくするような面白さが伝わってくるのである.

 そのような観点から言えば,本書の書名は「5人の侍」の方がふさわしかったかも知れないと思った.読後に黒澤明監督の映画「7人の侍」を思い出し,本書に登場する,個性に満ちた5人の医師を「5人の侍」と表現してもよいのではないかと思ったからである.野盗の悪逆非道に蹂躙されていた村人が,その窮状を知った7人の侍の応援を得て,犠牲を払いつつも,野盗に勝利し,自立し,人間の尊厳を回復していく物語は,緩和ケアを求めつつもなかなか得られない人々に,不十分な制度にも関わらず,時には身銭を切り,赤字を覚悟しながらも,それらの人々のニーズに応えようとする5つの診療所の物語と,その底流で共通するものがある.それはどんな困難にあっても,不公正や不条理に対して,やむを得ないとあきらめることなく立ち向かう勇気,あるいは人間性に対する信頼とでも言うべきものなのかも知れない.でも,こんなことを書くと,そんなに肩肘張っていませんよと,軽くいなされそうでもある.それは読めば分かる.だから面白い本になっているのだ.

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編集室より

著者:

ページ範囲:P.1728 - P.1728

●本号編集中の7月,数年ぶりに39度台の熱が出ました.急な発熱だったため,念のためインフルエンザ迅速検査を受けましたが,幸い結果は陰性.自宅で毛布に包まりつつ,寄ってくる猫を追いやりながら「基礎疾患のある高齢者や妊婦と同居している人が新型インフルエンザに罹患した場合,どちらかを隔離するのだろうか」などとぼんやり考えていました.

●先日,厚労省から新型インフルエンザワクチンの優先摂取対象などを盛り込んだ「新型インフルエンザ(A/H1N1)ワクチンの接種について(素案)」が発表されました.それによると「インフルエンザ患者の診療に従事する医療従事者,妊婦及び基礎疾患を有する者(この中でも,1歳~就学前の小児の接種を優先),1歳~就学前の小児,1歳未満の小児の両親」の順に優先的に接種を行うこと,また,季節性インフルエンザにおいて重症化リスクが高い高齢者や,今回の主な発症者である小学生,中学生,高校生についても優先的に接種することが望ましいとされています.あわせて,高齢者に対しては季節性インフルエンザワクチンの接種も推奨されています.輸入ワクチンの問題等,議論の余地はまだ多そうですが,ハイリスク群へのワクチン接種が理想的な形で行われれば,最初に書いたような心配も減るかもしれません.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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