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文献詳細

雑誌文献

medicina46巻10号

2009年10月発行

文献概要

書評

医師が患者になるとき―The PHYSICIAN as PATIENT:A Clinical Handbook for Mental Health Professionals フリーアクセス

著者: 飯野靖彦1

所属機関: 1日本医科大学腎臓内科

ページ範囲:P.1669 - P.1669

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 「大多数の医師が最も望まないことは,自分が患者になることである」と監訳者が序文で述べているように医師と患者の関係が逆転することはパラダイムシフトであり,人生観や精神に多くの影響を与える.しかし,医師を取り巻く環境は苛酷であり,一般人以上に疾病に罹患する可能性は高く,また,“紺屋の白袴”と言われるようにその事実に気づかない,あるいは気づきたくない状況にある.そのことから最適な治療を受けられない可能性もある.特に医師のメンタルヘルスに関しては,語ることをタブー視する医学界の風潮がある.この本はそのタブーを打ち破り,医師も病気になるのであり,その苦悩する医師に理解を示し,その苦悩から早期に救い出すための予防と治療が述べられている.この本の対象読者は,当事者となる臨床医はもちろんのこと,臨床心理士,ソーシャルワーカー,精神科看護師なども含まれる.さらにストレスの多い医学生や研修医の精神衛生面での責任を持つ医学部長,卒後研修担当者,病院のリスクマネージャー,資格試験認定委員などに必要な知識である.日本でも今まで隠れていた一面を明らかにし,対策を早急に立てる必要性をこの本を読んで感じさせる.

 監訳はこの分野でのエキスパートである松島英介先生と保坂隆先生である.内容は3部に分かれており,主として医師の精神疾患を中心に,それぞれに症例を掲げ解説を加えている.第1部では医師の特性と脆弱性について述べており,医師の共通する特性は“完璧主義と自己非難である”としている.例として小児心臓外科医の自殺を取り上げ,“100人中98人を救った”とは考えず,“100人中2人を失った”と考えた完璧主義が原因と推論している.この完璧主義はうつ,燃え尽き,自殺などの脆弱性因子となる.さらに医療ミスを0にすることは困難であるにもかかわらず,メディアもこの完璧主義を医療に求める風潮がある.現在の日本においても患者サイドから,100%の治療結果を求めて裁判を起こすことがよく報じられているが,この特性と脆弱性をもつ心ある医師はこれに耐えられず自己不信感・罪悪感・過度の責任感から精神的破綻に陥る.統計でも医師は一般人に比べ自殺率が高い.さらに日本と同じように女性医師の多い米国においても,ハラスメントが存在し女性医師の精神的負担となる.第2部では“苦悩する医師と苦悩させる医師の診断と治療上の問題”について述べている.その中には精神疾患,薬物中毒,パーソナリティ障害,さらには日本でも新聞上で時に問題になる非倫理的な患者との性的関係がある.第3部はその予防と治療とリハビリテーションについて述べられている.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1189

印刷版ISSN:0025-7699

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