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雑誌目次

雑誌文献

medicina46巻11号

2009年11月発行

雑誌目次

今月の主題 脳卒中の征圧をめざして

著者: 豊田一則

ページ範囲:P.1735 - P.1735

 わが国の脳卒中診療を取り巻く環境は,2005年10月の急性期脳梗塞へのtissue plasminogen activator(t-PA)静注療法の承認を契機に,大きく様変わりした感がある.この承認の直後の『medicina』2006年2月号(第43巻2号)で,山脇健盛先生(当時・名古屋市立大学神経内科/現・広島大学脳神経内科)が「ブレインアタック2006 tPA時代の診断と治療」という特集を組まれてから3年を過ぎたが,この間にも頸動脈狭窄症へのステント留置術の承認,脳卒中ケアユニット入院医療管理料や脳血管疾患等リハビリテーション料,超急性期脳卒中加算の新設,脳卒中病院前救護コースの開催など,脳卒中診療を後押しする出来事が続いた.特に2007年に施行された第五次改正医療法で,四疾病(がん,脳卒中,急性心筋梗塞,糖尿病)・五事業(救急医療,災害時医療,へき地医療,周産期医療,小児医療)の医療連携体制構築が記され,脳卒中や救急医療への注目度がさらに高まった.国を挙げた脳卒中診療への支援を求めて,脳卒中対策の法制化に向けた取り組みも進んでいる.脳卒中はもはや「治らない病気」ではなく,「治る病気」,「治すべき病気」として認識されるようになった.このような追い風の一方で,近年のいわゆる医療崩壊現象は,けっして楽ではない脳卒中診療にも大きな不安の影を落とす.団塊の世代が脳卒中適齢期を迎え,脳卒中診療への需要がより高まる今日,その担い手である専門医を中心に,一般医家,救急科医,コメディカル,救急隊や介護職員などが効率よく連携して,脳卒中の予防と脳卒中患者の社会復帰に努めなければならない.

 今回の特集では,脳卒中診療の追い風と向かい風を肌で感じながら,現場で指揮官として働く方々を中心に,執筆を依頼した.全体を4つの章に分け,脳卒中の基礎知識,救急時の連携,急性期治療と再発予防,最新のトピックスを,それぞれ平易な文章で論じていただいた.また座談会では,医学生の教育から一般医家との連携,理想的な脳卒中チームの構築まで,自由な意見を論じていただいた.この特集号が,脳卒中患者と向き合って日々の診療を行っておられるさまざまな領域の方々の役に立てば,幸いである.

Editorial

脳卒中対策基本法制定を見据えて

著者: 豊田一則

ページ範囲:P.1736 - P.1738

ポイント

●t-PA静注療法の承認を契機に,脳卒中ケアユニットや病院前脳卒中救護の整備など,脳卒中診療を取り巻く環境が変わりつつある.

●この数年間,脳卒中治療のための新薬開発は,必ずしも順風に乗っていない.日本発の優れた臨床試験も望まれる.

●日本脳卒中協会は,2009年6月に脳卒中対策のための法整備のたたき台となる法律要綱案を発表した.

脳卒中を知る7つの鍵

脳卒中とは何か?

著者: 北川一夫

ページ範囲:P.1739 - P.1742

ポイント

●脳卒中は,脳梗塞,脳出血,くも膜下出血に大別される.

●脳梗塞は,ラクナ梗塞,アテローム血栓性脳梗塞,心原性脳塞栓症,そのほかに分類される.

●脳卒中の前駆発作である一過性脳虚血発作は,放置すると脳卒中へ移行しやすい.

脳卒中の危険因子

著者: 二宮利治 ,   清原裕

ページ範囲:P.1743 - P.1746

ポイント

●近年,わが国では降圧治療の普及により,脳卒中に及ぼす高血圧の影響が減少した.

●従来,降圧薬治療の対象とならない軽度の血圧上昇も脳卒中のリスクとなる.

●耐糖能異常,高脂血症などの代謝異常が増加し,脳梗塞の危険因子としての重要性が増している.

●多量飲酒,喫煙は脳卒中の危険因子となる.

●最近注目される危険因子として,高感度C反応性蛋白,メタボリック・シンドローム,慢性腎臓病が挙げられる.

脳の循環と代謝

著者: 北園孝成

ページ範囲:P.1747 - P.1750

ポイント

●血圧の変動により脳灌流圧が変化しても,脳血流を一定に保とうとする脳血流自動調節能が存在する.

●虚血中心部の外側に,血流の回復によって機能が回復する虚血性ペナンブラ領域が存在する.

●虚血性ペナンブラ領域は急性期の治療ターゲットである.

●脳梗塞急性期にはdysautoregulationの状態にある.

脳卒中を疑う患者の診察

著者: 奥田聡

ページ範囲:P.1751 - P.1755

ポイント

●脳卒中を疑う代表的な神経症状は急性発症の「片麻痺,一側感覚障害」「構音障害,失語」「失調」「黒内障,複視,一側視野欠損」「突発する頭痛」「嚥下障害,嗄声」である.

●問診では「発症時刻」を確認し,t-PA静注療法適応の必要条件を満たすか否かを判断する.

●t-PA静注療法適応となりうる患者ではprehospital stroke scaleなどを用いて速やかな診断を行い,頭部CT撮影,専門医へのコンサルトを行う.

●診察では軽微な脳神経症状(顔面麻痺や構音障害)を見逃さないことが重要である.

●脳卒中と鑑別すべき重要な急性疾患としては,胸部大動脈解離,低血糖,Todd麻痺などがある.

脳卒中の画像診断

著者: 佐々木真理

ページ範囲:P.1757 - P.1760

ポイント

●rt-PA静注療法の適応決定ではCTまたはMRIで脳出血と広汎な初期虚血病変を否定する.

●無症候性脳梗塞と無症候性白質病変のMRI所見を混同しないよう留意する.

●頸部頸動脈狭窄の治療方針決定には狭窄率(NASCET法)が重要である.

●軽微なくも膜下出血(minor leak)を見落とさないよう注意する.

脳卒中の超音波診断

著者: 緒方利安

ページ範囲:P.1761 - P.1764

ポイント

●脳梗塞急性期の治療方針決定において,超音波検査は欠かせない検査である.

●脳梗塞急性期に施行される超音波検査としては,頸部血管超音波検査,経頭蓋超音波検査,経胸壁心エコー検査や経食道心エコー検査,下肢静脈エコー検査がある.

脳卒中治療ガイドライン2009―その概要と予測される改訂のポイント

著者: 永山正雄

ページ範囲:P.1768 - P.1771

ポイント

●わが国初のエビデンスに基づいた脳卒中治療ガイドライン2004の策定・公表から5年が経過した.

●改訂作業は脳卒中関連5学会合同による脳卒中合同ガイドライン委員会により行われている.

●本稿ではガイドライン2004の特徴,外部評価結果,問題点,ガイドライン2009改訂のポイントを紹介する.ガイドライン2009は本年11月公表予定であるため,本稿では改訂が予想される点を紹介するにとどめる.

脳卒中の救急診療:7つのバトン

かかりつけ医の初期対応―事前教育と発症時の対応

著者: 中山博文

ページ範囲:P.1773 - P.1775

ポイント

●患者には,脳卒中が疑われたら,かかりつけ医に連絡せず,即119番へ電話するように指導する.

●発症時に家族から電話連絡を受け,脳卒中が疑われる場合は,すぐに119番へ電話するよう,指導する.

●発症時に患者が診療所を受診した場合,迅速にスクリーニングし,脳卒中の可能性があれば,119番へ電話する.

●診療所の職員を教育し,来院患者が脳卒中疑いの場合は,待たせず直ちに医師が対応する.

脳卒中患者の救急搬送とテレストローク

著者: 藤井修一 ,   芝﨑謙作 ,   木村和美

ページ範囲:P.1777 - P.1780

ポイント

●t-PA静注療法を成功させるためには,病院前救護体制の構築が必要である.

●脳卒中の病院前救護の標準化を目指したPSLSが救急隊員により行われている.

●倉敷病院前脳卒中スケール(KPSS)により脳卒中患者の抽出と重症度の評価を行うとよい.

●t-PA静注療法が可能な医療施設に地域格差がみられる.

●テレストロークにより脳卒中医療の地域格差を是正できる.

救急外来での脳卒中初期診療

著者: 藤本茂

ページ範囲:P.1783 - P.1788

ポイント

●脳卒中急性期病院では,rt-PA静注療法を24時間体制で遂行できることは最重要事項といえる.

●rt-PA静注療法は厳格かつ迅速な適応判断のもとで,脳卒中専門医と看護師,コメディカルによるチーム体制で遂行される必要がある.

●診断の精度を保ちつつ院内体制を整備し,患者到着から治療までの時間を可能な限り短縮することは,治療効果を高めるのみならず,治療適応症例を少しでも増やすことにつながる.

ストロークケアユニット

著者: 上原敏志

ページ範囲:P.1790 - P.1793

ポイント

●stroke unit(SU)とは,「多職種からなる専属の脳卒中チームが配属され,他疾患と明確に区分された脳卒中患者専用の病棟(病床)」である.

●脳卒中の初期治療をSUで行えば,死亡率の低下,自宅復帰率の上昇,在院日数の短縮効果が得られる.

●わが国において,stroke care unit(SCU),SUを有する急性期施設は増加しているが,地域格差の是正など脳卒中救急医療体制の整備が必要である.

t-PA静注療法の現状

著者: 古賀政利

ページ範囲:P.1794 - P.1797

ポイント

●発症3時間以内の脳梗塞に対するアルテプラーゼ(t-PA)による経静脈的血栓溶解療法が標準治療として普及している.

●低用量アルテプラーゼ(0.6mg/kg)でも欧米と同様の治療成績を得ている.

●t-PA承認後に,「脳卒中は救急疾患」の認識が広まり,脳卒中診療体制の整備が喫緊の課題になっている.

●欧米では発症後4.5時間以内の脳梗塞を治療対象としつつある.

脳卒中チームにおける看護師の役割

著者: 苅山有香

ページ範囲:P.1798 - P.1801

ポイント

●看護師には,病態予測や重篤化回避のための知識とアセスメント力が求められる.

●特に脳卒中の看護には,運動・高次脳機能・嚥下などの障害に対する専門的かつ個別的なアプローチが重要である.

●入院中はもちろん,退院後の療養生活までを視野に入れて,患者・家族のQOL向上へ向けたサポートを提供する.

●脳卒中患者が継続した医療を受けられる環境を整えるために,チーム医療の充実のみならず,地域医療連携の重要性が増している.

脳卒中の地域医療連携

著者: 米原敏郎

ページ範囲:P.1802 - P.1806

ポイント

●脳卒中の医療連携は医療の高度化による急性期,回復期の役割分担の必要性から生まれた.

●患者にとっては切れ目のない医療を安心して継続して受けられることが重要である.

●再発をなくすべく地域でケアしていくためには医療機関間の正確な情報伝達が不可欠である.

●「切れ目のない医療」を「地域全体で提供」するために地域連携パスが重要な役割を果たす.

●地域医療連携とは急性期から回復期のみならず,療養型施設・かかりつけ医を包含するネットワークである.

急性期治療と再発予防:7つの焦点

抗血栓療法

著者: 長尾毅彦

ページ範囲:P.1808 - P.1811

ポイント

●抗血小板療法と抗凝固療法は標的となる血栓が異なり,使い分けが必要である.

●急性期,慢性期を問わず,脳梗塞の臨床病型,主幹動脈病変,基礎疾患,合併症に応じた適切な抗血栓療法の選択が重要である.

●急性期から慢性期にかけて切れ目のない抗血栓療法を継続する.

●抗血栓療法の用量設定,併用の際には,出血合併症の危険性を常に念頭に置く.

血圧管理

著者: 星野晴彦

ページ範囲:P.1812 - P.1815

ポイント

●経静脈血栓溶解療法適応患者では血圧は185/110mmHg以下に下げる.

●急性期脳梗塞では原則として降圧治療は行わない.

●急性期脳出血では収縮期血圧>180mmHgまたは平均血圧>130mmHgでは前値の80%を目安に降圧する.

●慢性期脳卒中患者では140/90mmHg未満を目標に降圧するが,ラクナ梗塞や脳出血ではさらなる降圧が推奨される.

●一次予防では年齢,合併症を考慮し,家庭血圧を測定しながら,積極的な血圧管理を行う.

脂質・糖代謝の管理

著者: 横田千晶

ページ範囲:P.1816 - P.1819

ポイント

●脳卒中発症リスクの低下には,脂質異常症の有無にかかわらず,スタチン投与による積極的なLDL低下療法が有効である.

●冠動脈疾患歴のない虚血性脳血管障害の再発防止には,高用量のスタチンが有効である.

●脳卒中既往を有する2型糖尿病患者に対して,インスリン抵抗性改善薬ピオグリタゾンは脳卒中再発リスクを下げる.

頸動脈ステント留置術と血管内治療

著者: 山上宏

ページ範囲:P.1822 - P.1826

ポイント

●頸動脈高度狭窄症を有し外科治療が危険な例では,頸動脈ステント留置術が行われる.

●症候性頭蓋内動脈狭窄症に対するステント留置術の臨床試験が開始されている.

●主幹動脈閉塞による脳梗塞に対して,血栓回収機器による血行再建が試みられている

虚血性脳卒中に対する外科的血行再建術

著者: 小笠原邦昭

ページ範囲:P.1827 - P.1829

ポイント

●頸動脈内膜剥離術および浅側頭動脈中大脳動脈バイパス術は有効性が証明されている.

●頸動脈内膜剥離術の適応は周術期合併症と狭窄率に依存している.

●浅側頭動脈中大脳動脈バイパス術の適応決定では脳循環測定が最も重要である.

出血性脳卒中の最新治療

著者: 植田敏浩

ページ範囲:P.1830 - P.1833

ポイント

●出血性脳卒中は,脳出血とくも膜下出血に分類され,脳梗塞と比べて死亡率は高い.

●中高年の脳出血の原因は80%以上が高血圧であり,血圧管理などの内科的治療が主体となる.

●脳出血の外科的治療は,救命目的の開頭手術か低侵襲な内視鏡手術が推奨される.

●破裂脳動脈瘤に対するランダム化比較試験では,塞栓術は開頭手術より治療成績は良好であった.

急性期から回復期へのリハビリテーション

著者: 豊田章宏

ページ範囲:P.1834 - P.1836

ポイント

●急性期リハの主目的は廃用症候群の予防であり,可及的早期に開始すべきである.

●嚥下障害のチェック,口腔ケアの実践が合併症予防に非常に重要である.

●高次脳機能障害・知覚障害・バランス障害の存在は予後に大きく影響する.

●リハは訓練室だけでなく,病棟の日常生活動作の中でも行うべきである.

●リハゴール設定には患者の能力だけでなく家庭・社会環境が欠かせない.

明日の脳卒中:7つの課題と展望

脳卒中と遺伝

著者: 久保充明

ページ範囲:P.1837 - P.1840

ポイント

●ゲノム研究の進歩により,通常の脳卒中においても遺伝要因が関与することが明らかとなっている.

●脳卒中発症と関連する個々の遺伝子多型のリスクは小さい.

●脳卒中治療薬の効果・副作用でも,遺伝子多型との関連が報告されている.

無症候性脳血管障害への対応

著者: 髙橋愼一

ページ範囲:P.1841 - P.1846

ポイント

●無症候性脳梗塞は将来の脳卒中のリスクファクターである.その進展には高血圧の関与が大きく,厳格な血圧コントロールが必要である.降圧薬として,Caチャネル遮断薬,ACE阻害薬,ARBなどが推奨される.抗血小板薬の必要性は個別に判断する.

●無症候性白質病変の多くは高血圧を背景とした虚血性病変である.脳卒中,認知症への進展予防のための血圧コントロールが重要である.

●無症候性脳出血はMRIのT2強調画像で認められるmicrobleedsによって診断する.将来の脳出血のリスクが高く,抗血小板薬の投与は慎重に行う.

●無症候性頸部頸動脈狭窄または閉塞に対しては,抗血小板薬やスタチンの内服に加えて,高度狭窄の場合には頸動脈内膜剥離術(CEA),ステント留置術(CAS)の適応を判断する.

●無症候性頭蓋内主幹動脈狭窄または閉塞の治療についての十分なエビデンスはないが,アスピリンとシロスタゾールの併用療法により血管狭窄の改善効果が報告されている.さらに,適切な降圧は病変血管支配領域の将来の虚血性イベントを抑制する可能性が高い.

若年脳卒中と脳動脈解離

著者: 松岡秀樹

ページ範囲:P.1847 - P.1850

ポイント

●脳動脈解離の解離部位は,欧米では頸部内頸動脈が,本邦では頭蓋内椎骨動脈が最も多い.

●若年発症のWallenberg症候群や,前大脳動脈領域梗塞の症例では動脈解離を疑い,血管評価を行う必要がある.

●解離診断においては,二重腔の存在を証明することが重要である.所見の経時的変化の観察も重要である.

●頭蓋外解離による脳梗塞では抗凝固療法を施行されることが多いが,頭蓋内解離では血管形態に応じて治療を選択する.

●SAH発症の脳動脈解離例には再出血予防として外科治療や血管内治療が行われることが多い.

●若年脳卒中の原因として,奇異性脳塞栓症や抗リン脂質抗体症候群,AVMなども重要である.

血栓溶解療法の展望

著者: 井口保之 ,   木村和美

ページ範囲:P.1851 - P.1854

ポイント

●発症後3時間を経過した超急性期脳梗塞例に対する経静脈的血栓溶解療法の有効性が示されている.

●経静脈的血栓溶解療法と経動脈的局所動注療法の併用療法が試みられつつある.

●経静脈的血栓溶解療法と超音波連続照射の併用療法に加えて,超音波造影剤の使用が注目を集めている.

脳保護療法と新しい内科治療

著者: 卜部貴夫

ページ範囲:P.1856 - P.1859

ポイント

●エダラボンは発症後24時間以内の脳梗塞すべての病型に対し脳保護薬として投与される.

●エダラボンは発症後早期に投与開始し,極力短期間の使用に留める.

●低脳温療法のランダム化比較対象試験はなく,効果についての十分な科学的根拠がない.

●骨髄幹細胞を用いた細胞治療は,脳梗塞の新たな内科治療となる可能性がある.

●現存する薬剤には多面的作用としての脳保護効果を有するものがある.

脳卒中の再生医療

著者: 田口明彦

ページ範囲:P.1860 - P.1862

ポイント

●脳卒中後の機能回復に神経再生が寄与していることが明らかにされつつある.

●わが国でも中枢神経系の再生能力を用いた治療法の開発が進められている.

●脳卒中後の神経再生には,血管系の再生が非常に重要である.

脳卒中診療と生命倫理―重症脳卒中急性期診療の倫理的問題

著者: 森久恵 ,   宮本享

ページ範囲:P.1863 - P.1867

ポイント

●脳卒中診療で生じる倫理的問題の多くは,意識障害があるため患者本人の意思やアドバンス・ディレクティブ(事前指示)を確認できないことにある.

●臨床現場では倫理的な問題に対して常に難しい対応に迫られている.

●日本における倫理コンサルテーションのシステムはまだ不十分である.

座談会

脳卒中診療の教育・連携・チーム医療

著者: 豊田一則 ,   平野照之 ,   飯原弘二 ,   江面正幸

ページ範囲:P.1868 - P.1879

 t-PA静注療法認可後の数年間で,脳卒中診療への関心は飛躍的に高まったが,医療スタッフ不足など,まだまだ理想的な診療体制が構築されているとは言い難い.そこで本座談会では,卒前教育や初期研修から,一般内科医の役割と医療連携,理想的な脳卒中チームのあり方とコメディカルの養成,脳卒中対策基本法に対する期待まで,医療崩壊の時代における脳卒中診療の方向性を論じていただいた.

連載 手を見て気づく内科疾患・11

さじ状爪,診断のヒント

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.1731 - P.1731

患 者:39歳,女性

病 歴:18歳時に発熱,関節炎,蛋白尿,白血球減少,抗核抗体陽性を認め,全身性エリテマトーデスと診断された.現在,プレドニゾロン内服加療中である.

身体所見:両第1指にさじ状爪を認める(図1).


診断:全身性エリテマトーデスに認めるさじ状爪

研修おたく海を渡る・47

ニールの流儀

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.1885 - P.1885

 腫瘍内科医が10人近くいるような大きな開業グループは別として,通常,腫瘍内科医の多くは,General oncologist(総合腫瘍内科医)として働いています.彼らは,最も多い患者層である乳癌,大腸癌を中心として,肺癌,さらには欧米で多くみられる慢性リンパ性白血病といった血液疾患までカバーします.ともすれば「広く浅く」なってしまうのではと考えるところですが,前回紹介したニールは違います.

 開業医からアカデミア(大学病院)に出戻ってきたニールの流儀を紹介させてください.普段からフェロー対象のカンファには,時間さえあれば必ず参加し,隙あらば質問して帰っていきます.多岐に渡る腫瘍について,標準治療を知るだけでなく,最先端の情報にも通じています.いったいどんな風にアンテナを張っているのでしょうか? 一度,彼の外来をのぞかせてもらったことがあります.

目でみるトレーニング

著者: 渡辺卓也 ,   長谷川勝彦 ,   岡本洋子 ,   中田一之

ページ範囲:P.1886 - P.1891

The M&M Reports見逃し症例に学ぶ内科ERの鉄則・3

25歳女性,主訴 痙攣

著者: 長谷川耕平 ,   岩田充永

ページ範囲:P.1892 - P.1896

救急レジデントH:
 25歳の女性が初回の痙攣発作のために精神病院から搬送になりました.統合失調症の陽性症状が出て2日前に入院になったようですが,精神科医の問診中に突然ミオクローヌス様の痙攣発作を発症したとのことです.痙攣自体は20秒ほど継続し,痙攣後の錯乱も5分ほど続いたようでした.尿失禁はないとのこと.また患者さんは前兆症状を否定しました.
 既往歴は統合失調症のみで痙攣発作はなし.2日前からハロペリドールが陽性症状に対して開始されたとのことでした.

外来診療に差をつけるコミュニケーションスキル・2

オープニング:第一印象が肝心!

著者: 菅野圭一

ページ範囲:P.1898 - P.1902

事例紹介:緊張気味の初診患者さん

 今日は初診の担当.診察室のいすに座ったまま,「どうぞお入りください」と声をかけ最初の患者さんを呼び入れる.患者さんは,緊張した面持ちの年配の女性.すぐいすに座っていただき,カルテの名前と相違がないか確認してから,自分の名字を名乗る.やはりかなり緊張しているようで,表情も硬く,軽くうなずくだけで返事は返ってこない.

 緊張をほぐして話がスムーズにできるように,「そんなに硬くなんなくっていいんダヨ」と砕けた口調で言葉をかけるが,これが逆に緊張を与えてしまったようだ.「しまった!」と思いながら,よい案も浮かばず,「さて,今日はどうしましたか?」と気を取り直して診察を開始する.しかし,患者さんから出てくる言葉は「はあ」「ええと,胸のあたりがちょっと……」と途切れ途切れで,さっぱり要領を得ない.詳しい経過を話してもらおうと,言語的コミュニケーションスキルを駆使して躍起になるが,焦れば焦るほどこちらの緊張も高まってしまい,スムーズに診察が進まなくなってしまった.

 時間ばかりが過ぎていく……

書評

内視鏡所見のよみ方と鑑別診断―下部消化管 第2版

著者: 飯田三雄

ページ範囲:P.1781 - P.1781

 このたび医学書院から『内視鏡所見のよみ方と鑑別診断――下部消化管 第2版』が発刊された.多くの内視鏡医から好評を博した初版の上梓から約7年がたち,企画の意図は初版のまま,時代の進歩に即した内容の充実が図られている.その結果,初版より掲載症例と写真は大幅に増加し,頁数も約1.7倍に増えているが,日常臨床の現場で容易に活用できるサイズは維持されており,初版以上の売れ行きを示すことは間違いないであろう.

 本書の執筆者は,いずれもわが国を代表する消化管形態診断学のエキスパートであり,東京で毎月開催される早期胃癌研究会の運営委員やその機関誌である雑誌「胃と腸」の編集委員を歴任してこられた方々である.そのため,本書は「胃と腸」誌と基本的には同様の方針で編集されている.すなわち,掲載された内視鏡写真に限らず,内視鏡所見の成り立ちを説明するために呈示されたX線写真や病理写真に至るまですべて良質な画像が厳選されており,“実証主義の立場から消化管の形態診断学を追求する”という「胃と腸」誌の基本理念が貫かれている.

口腔咽頭の臨床―第2版

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.1801 - P.1801

 日本口腔・咽頭科学会によって編集された『口腔咽頭の臨床 第2版』がこのたび出版された.初版は1998年に出版されたので,約10年ぶりの改訂となる.

 本書の第一の特徴として,まず見開き2頁を基本構成としており,左頁に解説が,右頁に写真や図表が配置されていることが挙げられる.また内科医として,感染症専門医としてこのテキストを見ていくと,本書に掲載されている写真は執筆者の秘蔵のものであろうが,鮮明さから,また病変の現れ方から理解しやすい内容となっており,まさに見て把握するには大変参考になるテキストである.

エキスパート外来診療―一般外来で診るcommon diseases & symptoms

著者: 伴信太郎

ページ範囲:P.1811 - P.1811

 世の中に類書は少なくないが,本書は章・項目立てと著者選びに非常に工夫が凝らされた,きわめて実用的かつ格調の高い外来診療のガイドブックだといえる.

 まず,章・項目立ては「外来でみる症候からの診断学,治療原則」から始まって,感染症,循環器疾患,というように内科学書に似た章立てとなっているが,その項目内容は外来でよく遭遇する疾患に絞り込んだ簡にして要を得て,かつ実践的な記述となっている.さらには,家庭医的な診療にも役立つように,小児科,眼科,耳鼻科のほか,在宅医療,漢方治療も含まれていて幅が広い.

《脳とソシアル》社会活動と脳―行動の原点を探る

著者: 地引逸亀

ページ範囲:P.1821 - P.1821

 東京女子医科大学の前任の神経内科教授岩田誠先生と昭和大学医学部神経内科教授の河村満先生の編集から成る本書は,2007年11月30日に岩田先生が東京女子医科大学弥生記念講堂で会長として主催された第12回日本神経精神医学会のシンポジウム「脳からみた社会活動」を基としている.

 ただし,実態はそのシンポジウムの域をはるかに超えて,シンポジストのみならず神経心理学や精神医学,脳科学,社会心理学,経済学,倫理学などに携わる臨床医や基礎系の医学者,心理学者,文学,経済学さらには工学系の学者までもが執筆者として名を連ねた甚だ学際的な書物である.

内科医のためのうつ病診療―第2版

著者: 久保木富房

ページ範囲:P.1855 - P.1855

 高い評価を受けていたうつ病診療入門書『内科医のためのうつ病診療』(野村総一郎著)が10年ぶりに改訂された.野村氏は現在日本うつ病学会の理事長としてうつ病の研究,臨床,教育に専念している.国内だけでなく国際的にも広く活躍中の研究者であり精神科医である.筆者は心療内科を専門としていることもあり多くの精神科医との交流を持っている.信頼できる精神科医として,さらに友人として20年近くの付き合いがある.

 本書は内科医はもちろん,うつ病診療にかかわるすべての医療職,心理職,企業関係者,家族にとって分かりやすい入門書といえる.著者は,うつ病診療の最大のポイントは「うつ病の概念を理解することである」と述べ,非専門医にとって分かりやすさ,実用性を第一主義の目的として本書を世に出している.本書を精読してみると,分かりやすさや実用性だけでなく,広範な内容に十分深い検討が加えられていることがわかる.まさに,この一冊でうつ病がわかる専門書ともいえる.

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編集室より

著者:

ページ範囲:P.1914 - P.1914

●祖父が最初に脳卒中で倒れた時,手足が麻痺し,呂律が回らず,感情失禁を起こす様子を目の当たりにし「おじいちゃんが壊れちゃった」かのような衝撃を受けました.その後のリハビリで,歩行や会話がスムーズにできるまで回復した祖父を待ち受けていたのは,「カロリー制限」「塩分制限」「禁煙」に加え,麻痺があるからと自動車の運転を止められ,興奮するからとプロレス観戦を禁じられる日々.そして,それだけ節制したにもかかわらず,祖父の命を奪ったのは,再び襲った脳卒中でした.

●あれから10年以上の歳月を経て,MRIが普及し,t-PA静注療法や血管内治療が開発されるなど,脳卒中の診断・治療は格段の進歩を遂げました.脳卒中の征圧を願う医師の方々の志が,本特集を通してじわりと伝わってきます.その思いに応えるためにも,少しでも多くの人が脳卒中の一次予防,再発予防に関心をもってくださることを願います.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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