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雑誌目次

雑誌文献

medicina46巻13号

2009年12月発行

雑誌目次

今月の主題 腎臓病診療のエッセンス

著者: 片渕律子

ページ範囲:P.1921 - P.1921

 今回「腎臓病診療のエッセンス」という特集号を組むにあたり,日常診療においてぜひ知っておいていただきたい腎臓病を取り上げ,診断のきっかけ,腎臓専門医への紹介のタイミング,腎臓専門医はこのように治療している,という点を明らかにすることを念頭に置いてまとめてみた.

 本特集の構成であるが,総論の後,糸球体病変を原発性,続発性,遺伝性に分け,第Ⅱ章~Ⅴ章で取り上げた.間質,尿細管,血管病変で臨床的に問題になる疾患は急性腎不全の原因となるものが多いため,「診断,治療に急を要する腎臓病」として第Ⅵ章にまとめた.

Editorial

腎臓病MAP

著者: 片渕律子

ページ範囲:P.1922 - P.1923

 腎臓病は分類のしかたがさまざまでわかりにくく,その理由で腎臓病が嫌いになる先生方も少なくないのではないだろうか? 腎臓病を理解していただくため,腎臓病を病変の主座別に分け,これに臨床経過,治療経過を加味した腎臓病MAPを作ってみた(図1).本号で取り上げ,MAPに登場する疾患については項目番号をMAP内にふっている.

腎臓病診療の基本

腎臓病を察知するための医療面接のコツ―総合診療的な医療面接を踏まえて

著者: 早野恵子

ページ範囲:P.1924 - P.1928

ポイント

●緊急時も含む効果的な医療情報収集のコツを知る.

●腎臓病を察知し,見逃さないための病歴聴取法を知る.

●腎臓病の診断プロセスのために自問すべき3つの重要なポイントを知る.

腎臓病患者の診察のポイント―身体所見でここまでわかる腎臓病

著者: 須藤博

ページ範囲:P.1929 - P.1931

ポイント

●循環血漿量や細胞外液量など,体液バランスの評価には身体所見が重要である.

●尿閉では,真横からの視診で下腹部が膨隆する.

●腎臓病を伴う全身性疾患では,四肢や皮膚など腎臓以外の所見が診断に役に立つ.

検尿のすすめ

著者: 野口和之 ,   鶴岡秀一 ,   山縣邦弘

ページ範囲:P.1933 - P.1935

ポイント

●尿検査は簡便・安価・低侵襲であり,腎疾患を疑ったらまず施行すべき検査の1つである.

●検尿異常とその種類・尿蛋白排泄量とその経過から,腎臓病の原因を絞り込むことが可能である.

●蛋白尿は末期腎不全だけでなく,心血管合併症のリスクファクターである.

●血尿に赤血球円柱や変形赤血球を伴う場合は糸球体性血尿が疑われる.肉眼的血尿をみた際には泌尿器疾患の鑑別も必要となる.

腎臓病診療に必要な血液検査の見かた―病態に応じて

著者: 渥美宗久 ,   藤田芳郎

ページ範囲:P.1936 - P.1941

ポイント

●腎疾患は腎前性と腎後性を除外することが重要である.

●急性の腎実質疾患はANCA・補体・抗GBM抗体で大別すると理解しやすい.

●糸球体濾過量(GFR)推定は,日本人のGFR 推算式,Cockcroft-Gaultの式を用いる.

●GFRの推定は急性期には使用できない.

腎臓病診療に必要な最低限の画像診断

著者: 和泉雅章

ページ範囲:P.1942 - P.1946

ポイント

●経過が不明の腎臓病患者では,方針決定のためにも,まずエコーを行う.

●慢性腎不全症例では腎の萎縮があり,急性腎不全(ARF)/急性腎傷害(AKI)では萎縮がない.

●糖尿病性腎症・蓄積疾患では,腎萎縮が起こりにくい.

●ARF/AKI症例では,水腎症の有無や“蓮根サイン”の有無に注意する.

原発性糸球体疾患:腎炎とネフローゼ症候群

腎生検の適応と禁忌―こんなとき,腎臓専門医に紹介してください

著者: 升谷耕介

ページ範囲:P.1948 - P.1951

ポイント

●腎生検は腎疾患の診断を確定し,適切な治療を行ううえで重要な検査である.

●現在,超音波ガイド下に自動式生検装置を用いて行う経皮的腎生検が普及している.

●侵襲的検査であるため,個々の症例において適応と禁忌を見きわめる必要がある.

腎生検診断のABC

著者: 片渕律子

ページ範囲:P.1953 - P.1955

ポイント

●原発性糸球体腎炎にみられる組織病変は,微小変化,巣状分節性糸球体硬化症,管内増殖,メサンギウム増殖,管外増殖,膜性腎炎,膜性増殖性腎炎の7つの基本パターンがある.

●臨床症候分類と組織分類の組み合わせには一定のルールがある.

急性腎炎症候群

著者: 吉澤信行

ページ範囲:P.1956 - P.1959

ポイント

●本症候群を呈する代表的な疾患は急性糸球体腎炎である.

●本症候群の共通症状としては先行感染,浮腫・乏尿,高血圧,血尿,蛋白尿,腎機能低下などがある.

●本症候群の進行は速いので,速やかに診断し,速やかに専門医に送るのが肝要である.

慢性腎炎症候群―特にIgA腎症について

著者: 原順子 ,   川村哲也

ページ範囲:P.1960 - P.1963

ポイント

●IgA腎症の20~40%が末期腎不全へと進行し,長期腎予後は必ずしも良好とはいえない.

●確定診断は,腎生検による糸球体の観察が唯一の方法である.

●組織学的重症度と臨床的重症度から予後分類(透析導入リスクの層別化)を行い,リスク群別の治療指針をもとにフォローアップする.

ネフローゼ症候群

著者: 横山仁 ,   井村淳子 ,   渥美浩克

ページ範囲:P.1964 - P.1967

ポイント

●ネフローゼ症候群は一次性と二次性(基礎疾患)の診断が重要である.

●一次性ネフローゼ症候群に対する療法は,副腎皮質ステロイドを中心に行われる.

●ステロイド抵抗性あるいは依存例に対して免疫抑制薬を併用する.

続発性糸球体疾患

糖尿病性腎症―Point of no returnは?

著者: 小川大輔 ,   槇野博史

ページ範囲:P.1968 - P.1972

ポイント

●糖尿病性腎症のpoint of no returnは治療次第で変わる.

●腎症の早期診断のために,アルブミン尿を測定することが重要である.

●血糖,血圧,脂質を厳格にコントロールし,レニン・アンジオテンシン系を抑制することによって,アルブミン尿を陰性化させること(寛解)が可能である.

膠原病に伴う腎臓病診療のポイント

著者: 奥村利矢 ,   古市賢吾 ,   和田隆志

ページ範囲:P.1974 - P.1978

ポイント

●膠原病による腎病変は糸球体障害,間質障害,血管障害と多彩である.

●非ステロイド系消炎鎮痛薬や抗リウマチ薬,免疫抑制薬など治療薬による腎障害にも注意する.

腎アミロイドーシス―治療可能な時代を迎えて

著者: 乳原善文 ,   星野純一 ,   諏訪部達也

ページ範囲:P.1980 - P.1983

ポイント

●原発性ALアミロイドーシスに対しては,化学療法+自己末梢血幹細胞移植が有効である.

●腎不全を合併した関節リウマチ患者に対しても,生物学的製剤による治療が効果的である.

治療に難渋する肝炎関連腎臓病

著者: 佐内透

ページ範囲:P.1984 - P.1986

ポイント

●B型およびC型肝炎ウイルス関連腎症は治療に難渋する.

●治療としては,インターフェロンが第一選択である.

●C型肝炎ウイルス関連腎炎,特に膜性増殖性糸球体腎炎の治療については結論が出ていない.

感染症に伴う腎炎―MRSA腎炎も含めて

著者: 小松田敦

ページ範囲:P.1987 - P.1989

ポイント

●細菌,ウイルス,原虫や寄生虫などの感染症により腎障害をきたすことが知られている.

●病因として,病原体に対する免疫反応が関与する場合と,病原体が直接腎組織を障害する場合がある.

●全身性エリテマトーデスに似た症状を呈することもあり,鑑別が必要である.

遺伝性糸球体疾患

Alport症候群・菲薄化基底膜病

著者: 𡌛村信介 ,   片山鑑 ,   村田智博

ページ範囲:P.1990 - P.1992

ポイント

●家族歴に注意する.末期腎不全,蛋白尿,血尿,聴力障害などの病歴を確認する.

●電子顕微鏡による詳細な観察が必要である.病初期に菲薄化基底膜病とされ,その後,Alport症候群と診断し直される症例が見受けられる.

●現時点では根治療法はないが,慢性腎臓病のガイドラインに沿って,食事療法,降圧療法,抗蛋白尿治療を行う.

Fabry病―見逃さないためのポイント

著者: 湯澤由紀夫

ページ範囲:P.1994 - P.1996

ポイント

●多臓器にわたり多彩な臨床症状を呈するため,関節リウマチ,成長痛,多発性硬化症,糸球体腎炎,家族性高コレステロール血症,肥大型心筋症,遺伝性出血性毛細血管拡張症,アミオダロン,などとの鑑別が必要である.

●酵素補充療法による原因治療が可能となった.

診断,治療に急を要する腎臓病

急性腎不全―ERで腎前性,腎性,腎後性をすばやく見分けるコツは?

著者: 安田隆

ページ範囲:P.1998 - P.2002

ポイント

●血清クレアチニン(Cr)値のわずかな上昇により予後は悪化する.また,Cr値の上昇が著しいほど予後は不良である.したがって,早期診断・対処が大切である.

●原因の鑑別には,的確な病歴,身体所見,腹部超音波,尿生化学・沈渣所見からの情報による判断が大切である.

見落としてはいけない尿細管・間質病変

著者: 平塩秀磨 ,   賴岡德在

ページ範囲:P.2003 - P.2005

ポイント

●尿細管間質性疾患では糸球体性蛋白尿などの検尿異常はきたしにくい.

●急性尿細管間質性腎炎の診断にはガリウムシンチグラフィが有用な場合がある.

●尿細管間質性疾患の原因には感染,薬剤,Sjögren症候群,多発性骨髄腫などがある.

IgG4関連疾患

著者: 佐伯敬子

ページ範囲:P.2007 - P.2010

ポイント

●血清IgG4高値で病変部に多数のIgG4陽性形質細胞浸潤を認める全身多臓器疾患である.

●自己免疫性膵炎,Mikulicz病が代表的で,腎病変の代表は間質性腎炎である.

●中高年男性に好発し,高γ-グロブリン血症を認める.

●ステロイドが著効する.

壊死性血管炎と急速進行性糸球体腎炎

著者: 武曾恵理

ページ範囲:P.2011 - P.2015

ポイント

●高齢者に持続する発熱や食欲不振などの症状と,CRPや好中球増多などの炎症所見のほかに,血尿を新たに認める場合,感染症の治療を行いながら全身性血管炎を視野に入れる.

●Cr値が低くても確実に上昇傾向であれば,急速進行性糸球体腎炎の初期と判断し,早急に専門医への情報提供,診療依頼を行う.

●血管炎を疑った場合,必ずANCAの血中での検索を早めに行い,確定診断に迫る.

血栓性微小血管症(TMA)―悪性高血圧を含む

著者: 武田朝美

ページ範囲:P.2018 - P.2021

ポイント

●TMAは血管内皮細胞傷害により,溶血性貧血,消耗性血小板減少,微小循環障害による急性臓器障害を特徴とする.

●TMAは稀な病態であるが,致命的となりやすく,速やかな診断・治療選択が必要とされる.

コレステロール塞栓症

著者: 中山勝

ページ範囲:P.2022 - P.2025

ポイント

●コレステロール塞栓症(CCE)の診断のためには,CCEの臨床的特徴をまず理解することが大事である.

●高度の動脈硬化病変を有する高齢者の原因不明の腎障害の鑑別として,CCEの可能性を念頭に置く.

●CCEの誘因となるイベントは,心臓カテーテル検査などの侵襲的検査,心血管系手術,抗凝固療法である.

慢性腎不全

保存期慢性腎不全―診療のポイント

著者: 川村和子 ,   西慎一 ,   成田一衛

ページ範囲:P.2026 - P.2029

ポイント

●慢性腎不全の治療の目的は,末期腎不全への進展抑制と心血管合併症の発症予防である.

●高血圧,脂質異常,高尿酸血症,貧血などさまざまな合併症に対する治療が必要となる.

●透析導入のタイミングを逸しないことが重要である.

多発性囊胞腎(常染色体優性多発性囊胞腎)

著者: 奴田原紀久雄 ,   東原英二

ページ範囲:P.2031 - P.2033

ポイント

●70歳で約半数が終末期腎不全に至る.

●高血圧の治療にはアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)が推奨される.

●頭蓋内出血の頻度が高く(約8%),MRAでは4~12%に脳動脈瘤を認める.

●囊胞内感染には脂溶性抗菌薬が有効である.

●終末期腎不全に至った患者の腹部膨満に関しては,腎動脈塞栓術が有効である.

血液透析患者の管理のエッセンス―術前・術後管理も含めて

著者: 田中元子

ページ範囲:P.2034 - P.2037

ポイント

●透析患者の管理=全身管理である.

●透析患者の現況は,高齢者,糖尿病患者の増加と長期透析患者の増加が顕著である.

●透析患者の管理のエッセンスは,透析患者の病態と合併症の特徴を知ることから始まる.

●透析患者の病態は,①腎不全によるもの,②透析治療そのものによる影響,③長期透析合併症,④悪性腫瘍や感染症など腎不全や透析と直接は関係ない疾患の合併,の4つに分類される.

●透析患者の管理のうえでは,透析合併症とその対策が最も重要となる.

●透析患者に合併した感染症は重症化しやすい.

全身管理にかかわる重要なポイント

薬剤性腎障害

著者: 志水英明

ページ範囲:P.2038 - P.2042

ポイント

●非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の腎障害には,腎動脈収縮による急性腎不全と間質性腎炎にネフローゼ症候群を伴ったものがある.体液量貯留,高カリウム血症などの電解質異常も起こす.

●造影剤腎症は造影剤使用による腎障害で,その後の腎障害のみならず,心血管合併症や死亡率も高くなる.特に心臓カテーテル検査に関連するものが多い.

●リスクのある症例にNSAIDsや造影剤を使用する場合には,その後の腎機能の評価を行う.

腎臓病患者への薬剤の使い方

著者: 古久保拓

ページ範囲:P.2043 - P.2047

ポイント

●腎機能を評価してから腎排泄型薬物を処方する.

●腎機能に応じた使い方が必要な薬物か否かを確認する.

●腎障害の存在時には腎毒性のある薬物の使用を極力避ける.

腎と高血圧のすべて―ここでマスターして診療に活かす

著者: 長谷川詠子 ,   竹本文美

ページ範囲:P.2048 - P.2051

ポイント

●高血圧は慢性腎臓病(CKD)の進行や心血管疾患(CVD)の発症リスクとなるため,適切な降圧療法が重要である.

●CKDではレニン-アンジオテンシン(RA)系抑制薬を第一選択薬とした多剤併用療法により十分な降圧を図る必要がある.

妊娠高血圧症候群―腎臓病を有する妊婦の管理を含めて

著者: 御手洗哲也 ,   本島みずき ,   木場藤太

ページ範囲:P.2052 - P.2055

ポイント

●妊娠中毒症は妊娠高血圧症候群と改称された.

●腎疾患患者は加重型妊娠高血圧腎症を合併しやすい.

●収縮期血圧150mmHg,拡張期血圧95mmHg以上であれば降圧治療を開始する.

●メチルドパとヒドララジンが第一選択薬である.

特別コラム

こんなときは泌尿器科医に紹介してください

著者: 兼松明弘 ,   小川修

ページ範囲:P.2056 - P.2057

 腎疾患における泌尿器科と内科の守備範囲には一部重複もあるが,血尿などの同じ症状がまったく異なる病態の現れである場合も少なくない.泌尿器科の独自領域は腎盂,尿管,膀胱,尿道などの尿路疾患と,その外科的治療である.積極的に泌尿器科へご紹介いただいたほうがよいケースについて以下に述べる.

鼎談

腎臓病診療のメリハリ―アンテナで引っ掛けて、ここまでは診て、そこから先は専門医に

著者: 片渕律子 ,   須藤博 ,   木村琢磨

ページ範囲:P.2059 - P.2069

 腎臓病は内科疾患のなかで頻度はそれほど高くないが,診療の遅れは腎不全,透析導入につながり,患者・家族のQOLを低下させる.

 本鼎談では,病歴や検査結果から腎臓病をどう疑い治療するか,腎臓専門医とどう連携するかなど,受持患者の腎臓病を悪化させない,また新たな腎不全・透析導入患者を作らないために内科医ができる腎臓病診療についてお話しいただいた.

連載

目でみるトレーニング

著者: 佐藤光博 ,   渡辺卓也 ,   廣野玄 ,   知花和行

ページ範囲:P.2078 - P.2084

手を見て気づく内科疾患・12

レイノー現象,鑑別が重要

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.1917 - P.1917

患 者:58歳,女性

病 歴:5年前から水仕事をすると指先が白くなることに気付いていた.紫色,赤色になって元に戻る.指の硬化,爪上皮出血点,爪上皮の延長から限局型強皮症と診断された.さらに4年前には慢性多発性関節炎,リウマトイド因子陽性から関節リウマチと診断された.12月の外来での所見である.

身体所見:指は全体に腫脹しており皮膚はやや固い.第3,5指にレイノー現象(Raynaud's phenomenon)を認める(図1).第5指に著明なレイノー現象を認める(図2).

研修おたく海を渡る・48

カンファ三昧

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.2077 - P.2077

 新しいフェローが入ってきて,半年近くが経ちました.3年間で専門医試験に通り,それなりの決断をできるようになるにはどうしたらいいでしょう.「そんなん結局は本人次第やって」と言ってしまっては身も蓋もありません.せっかく仲間がいるのです.グループダイナミズムを最大限に生かすために,工夫がほしいところです.ぼくが出ている一週間のカンファと最近の工夫を具体的に見てみましょう.

 月曜日の朝8時からは,Oncology Journal Clubです.毎月,消化器がん,肺がんなどとテーマを決めて主要な文献を読み,その領域の指導医が,背景についてコメントをします.最近は文献PDFをプロジェクターで大写しにして読みます.担当フェローは書き込みや,蛍光ペン機能を使って前もってポイントを明らかにしておきます.手元の文献に突っ伏しがちだった参加者も議論に集中できるようになりました.午前の外来を終えると,13~15時は頭頸部がんのTumor Boardです(Tumor Boardについては第18,36,37回を参照してください).

外来診療に差をつけるコミュニケーションスキル・3

傾聴は人のためならず:スムーズな診療のために

著者: 菅野圭一

ページ範囲:P.2085 - P.2089

事例紹介●忙しい時に突然来院した話の長い患者さん

 今日は午後から講演会に出かける予定があり,午前中の外来を早めに終了させなければならない.運よく初診や救急の患者さんも少なく,順調に外来は進行していった.11時30分には,患者さんもあと3人しか残っておらず,そろそろ終わりが見えてきた.

 ところがそんな時,いつも訴えが多く,話が長くなりやすいAさんが,予約外で「明日飲む薬がない」と慌てて外来に駆け込んできた.いつもなら諦めてじっくり話を聞くところだが,そうすると講演会に間に合わないかもしれない.そんなふうに思ったら焦ってしまい,つい話が途切れたところで患者さんの話を遮って,「お話からすると,いつもとあまり変わらないようだから,同じ薬を出しておきますね」と切り出してしまった.すると,「そう言えば,今の薬はずっと飲み続けても大丈夫かしら?」「最近,指のしびれも心配だし……」と,いつにも増していろいろな相談事が出てきてしまった.

 どうにか講演会にはぎりぎり間に合ったが……

The M&M reports 見逃し症例に学ぶ内科ERの鉄則・4

40歳男性,主訴 失神

著者: 長谷川耕平 ,   岩田充永

ページ範囲:P.2090 - P.2095

救急レジデントH:

 高血圧の既往のある40歳男性が失神のために救急車にて救急外来に搬送になりました.会社のアイスホッケー同好会の練習中,突然倒れたとのことです.目撃者によると,意識消失は45秒ほど持続して,その後数分以内には元の意識状態に戻ったようです.ヘルメットも防具もつけており,頭は打っていないようだとのこと.また患者さんは,失神の直前に何の前兆症状もなかったと訴えています.頭痛,胸痛,動悸,息切れ,腹痛なども否定していますし,血便や下血といったことも最近ないそうです.

 既往歴は高血圧のみで,サイアザイド系利尿薬を内服しているとのことです.家族歴に心疾患や突然死の既往はないようですね.

書評

心療内科ケーススタディー―プライマリケアにおける心身医療

著者: 青木誠

ページ範囲:P.2010 - P.2010

 この度,中野弘一教授執筆の「心療内科ケーススタディー」が上梓された.提示されている25の症例には,臨床に携わる医師ならば誰でも経験するであろう臨床問題がとりあげられている.一般内科の通常外来や救急外来に多い,動悸,胸痛,吐き気,頭痛,めまい感,微熱,眠れない,肩こり,パニック発作などから,診療部門として開かれていれば総合診療科にも依頼されることの多い,他覚的に説明困難な身体症状,うつ病を疑わせる症状など,自分ならどのように診療を進めていくであろうかとケーススタディー形式ならではの引き込まれてしまう展開の中に,著者の豊富な心身医学的ならびに内科学的な知識と長年の治療経験から得られた診察方法や治療方針がQ and A形式で記載されている.愁訴を出発点として器質的ないし機能的疾患はないか,また患者からどのような陽性,陰性情報を収集できれば,その人の置かれている社会や家庭環境の問題,生活習慣の乱れ,心理的ストレスや精神障害の存在に気づくことができるか,身体疾患と心理・精神的問題の両者に目配りしながら診断,治療をすすめる著者の診療を,傍らのベシュライバーの目線で学ぶことができる.

ティアニー先生の診断入門

著者: 藤田芳郎

ページ範囲:P.2015 - P.2015

 本書の扉の推薦のことばに,ティアニー先生と16年間の親交がある青木眞先生の短い名文がある.その青木先生のおかげで,著者の松村先生と同様,私も数年来ティアニー先生に触れる機会を得ることができているが,本書によって改めてティアニー先生というエベレストがいかに出来上がったかを知ることができた.このように読みやすくかつ臨床の叡智を凝縮させた本書の出版に尽力された松村正巳先生に深謝したいと思う.

 臨床において大切なことの1つは,正しい診断とよりよい治療を求めて,権威的にも感情的にもならずに医療者が検討しあうという医療の透明性である.もう1つの推薦のことばを書かれた黒川清先生の名文にも感じる,そういう自由闊達な雰囲気の中でのレベルの高い日々の症例検討の産物が,ティアニー先生という怪物であると私は思ってきた.実際,ティアニー先生の教育は,自由で明るい雰囲気の中で行われる.

グラント解剖学図譜 英語版CD-ROM付―第5版

著者: 小澤一史

ページ範囲:P.2033 - P.2033

 大学医学部・医科大学における解剖学実習は,医学部教育の根幹をなすきわめて重要な実習の一つである.解剖実習では,教師は基本的事項,重要事項の道標を灯し,学生はそれをもとに自らの努力で,精緻に富み,機能と合理的に対応する人体の構造を学び,身につけていく.したがって,自ら学ぶ際の,信頼できるテキスト,アトラスとの出会いが,その後の学習効率を高めることはいうまでもない.

 今回,グラント解剖図譜第5版の日本語版が出版の運びとなった.“Grant's Atras of Anatomy”は,世界における最も優れ,詳細なスタンダード解剖学テキストとして,大きな貢献を残してきているが,その図譜もまたきわめて優れた本である.本書の特徴は,なんといっても図が見やすく,豊富なことである.しかも,その図が多角的な視野から描かれており,人体構造を三次元的に理解するための大きな手助けとなる.このことは,人体解剖という目の前の「三次元」を考えるうえで,きわめて有用なツールとなることを意味している.近年の解剖学は,ただ身体の構造を知るだけの学問の概念をはるかに超えて,解剖学が臨床医学を学ぶ際の重要な課題解決の基盤となることを理解するのが大切なことと認識されている.その意味から,解剖学教育の現場では,すでにX線造影像,血管造影像,CT,MRIといった画像が紹介され,実際の解剖による観察との対比も積極的に行われている.その現状にぴったり当てはまるように,本書では随所にこれらの画像が加わり,まさに基礎医学と臨床医学を連結する立場も示され,学生に対し,医学部において解剖学を学ぶことの意味,意義を自然と伝えている点が高く評価される.

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編集室より

著者:

ページ範囲:P.2108 - P.2108

●突然ですが,『栄養と料理』という雑誌をご存じでしょうか.健康な生活を送るための栄養に関する知識と料理の実際が詳しく書かれており,家族の健康を守る私のバイブルです.11月号特集は「食事で腎臓を守る」.「たんぱく質適量・適塩おかず」として治療食の紹介に続き,慢性腎臓病の考え方,なぜ塩分・蛋白質の制限が必要かなどの医学的知識や,読者に栄養士も多いことから管理栄養士の役割などが書かれていました.

●「食事で腎臓を守る」のは,医師でもなく栄養士でもなく自分自身です.食習慣の改善以外にも,本特集の鼎談で話されていた健診データを管理し体調の変化に敏感になることもそのひとつ.腎臓に限ったことではありませんが,医師に依存せず日々の生活でできることは何かを改めて考えました.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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