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雑誌目次

雑誌文献

medicina46巻2号

2009年02月発行

雑誌目次

今月の主題 訴え・症状から考える神経所見のとり方

著者: 河合真

ページ範囲:P.215 - P.215

 「いやあ神経だけは苦手なんです」という言葉をよく耳にする.その責任の一端は,神経所見のとり方を「神経内科医にならない人には教えない」という態度をとってきたわれわれ神経内科医にもあるだろう.出身大学ごとに流儀が違ったり,非常に細かく変法があったりすることも親しみにくい原因だろう.しかし,根本は「所見の意味するところ」がわからないことだと思われる.このような状況を打破するために,ルーティンの診察法とテーラーメイドの診察法という考え方を紹介したい.

 まず,すべての患者に行う診察法をルーティンの診察法とする.ルーティンの診察法を意識清明で指示動作に従える患者を対象とする場合と,意識状態が悪く指示動作に従えない患者を対象にする場合に分けて解説する.そして,小児を対象とした診察法を解説する.

ルーティンの神経診察とは

意識清明な患者を診察するとき

著者: 河合真

ページ範囲:P.216 - P.219

ポイント

●ある程度は時間に余裕のある外来や,入院病棟での最初の診察にスクリーニングとして用いる神経診察の方法を述べる.

●すべての神経診察は本稿で紹介する診察法を基本構造として,他稿で述べられている訴えに対する診察法を拡張モジュールとして付け足していくイメージをもつ.

●省略する方法も記載するので,その意味を理解し,状況に応じて組み合わせて用いる.

意識障害のある患者での神経所見のとり方

著者: 野寺裕之

ページ範囲:P.220 - P.222

ポイント

●意識障害は両側大脳皮質,脳幹,全身の代謝性疾患のいずれかによって生じる.

●意識障害は全身の代謝疾患で起こることが多い.

●意識障害での診察は,バイタルサイン,眼の診察,腱反射が特に重要である.

小児のルーティン神経診察とは―「子どもは小さな大人ではない」

著者: 二木良夫

ページ範囲:P.223 - P.225

ポイント

●子どもと遊びながら,観察により多くの情報を得る.

●一般的診察では,関連ある部分により注意を払う.

●5歳以上になると,神経内科に近い診察ができる子が増える.

救急外来でよく遭遇する訴え

「急に片方の手足が動かなくなりました」―急性期運動麻痺の診察について

著者: 大谷良

ページ範囲:P.226 - P.231

ポイント

●片麻痺以外に,失語や失認,視野欠損など,ほかの神経脱落症状を伴っているか判別する.

●麻痺なのか,運動失調なのか? 痙性麻痺なのか,弛緩性麻痺なのか? 判別する.

●ベッドサイドで行える診察方法は,その解剖学的意味と正しい診察法をマスターする必要がある.

「頭が痛いです」―頭痛診療のエッセンス

著者: 伊藤泰広

ページ範囲:P.232 - P.237

ポイント

●まずは二次性頭痛を否定することが重要である.

●画像診断も必要.しかし画像に異常がないことを説明しても,患者の頭痛を治したことにはならない.

●一次性頭痛は詳細な問診が大切で,手際よく,必要な情報を聞き出すことが大事である.

●問診だけでなく理学所見,神経学的所見をとり,必要ならば特別な検査を行うべきである.

「めまいがします」―中枢性めまいと末梢性めまいの鑑別

著者: ,   河合真

ページ範囲:P.239 - P.242

ポイント

●病歴と診察のあわせ技で鑑別診断のあたりをつける.

●末梢性,中枢性の各々の特徴を理解する.

●良性発作性頭位めまい症は誘発法で診断できる.

●追視の異常があれば,例外はあるものの,まずは中枢性病変を考える.

「けいれんしました」―てんかん発作

著者: 今村久司 ,   松本理器

ページ範囲:P.243 - P.247

ポイント

●初回かどうか,起こしやすい状況があったかを尋ねる.

●発作症候を把握することで局在診断までつけられる.

●抗てんかん薬の中毒は用量関連の副作用,慢性中毒症状,特異体質による副作用,催奇形性がある.

●高齢者はけいれんがなくても,複雑部分発作が多いので注意.

「腰が痛いです」―腰痛を訴える患者の診察法

著者: ,   ,   河合真

ページ範囲:P.249 - P.252

ポイント

●病歴からまずは緊急性のある疾患を見分ける.

●触診,視診,可動域,歩行,深部腱反射,感覚,運動をチェックする.

●詳細な診察は解剖学的な分類を考えて脊椎前方,脊椎,脊椎後方に分けて行う.

すぐ神経内科にコンサルトしたくなる訴え

「見えません」「見えにくいです」―視力低下・複視

著者: 河合真

ページ範囲:P.253 - P.257

ポイント

●「見えない」「見えにくい」と患者が訴えた場合,眼科の疾患と眼科ではない疾患に鑑別する.

●問診である程度,眼科疾患と眼科疾患以外を絞りこめるので,そのうえで診察を行う.

●ベッドサイドで行う診察方法はその解剖学的意味と正しい診察法をマスターする必要がある.

「顔がしびれます」―顔面麻痺

著者: 宇高不可思 ,   森千晃

ページ範囲:P.259 - P.262

ポイント

●顔面神経麻痺は顔面神経の走行が複雑なため,障害部位によって特徴ある症候が合併する.これを利用して部位診断ができる.

●脳血管障害などによる中枢性麻痺ではBell麻痺などの末梢性麻痺とは対照的に額は麻痺を免れるが,初期には紛らわしいことがある.

●両側性顔面神経麻痺を見逃さないようにする.

「むせます」―神経内科領域での嚥下障害の評価法について

著者: 高橋牧郎

ページ範囲:P.264 - P.267

ポイント

●嚥下障害の原因が,①器質性通過障害に伴うものなのか,②神経原性病変があり,嚥下筋の協調運動,麻痺によるものなのかをまず鑑別する必要がある.

●嚥下障害の危険因子として,年齢70歳以上,男性,Barthel Index 60以下,非対称性軟口蓋麻痺,口腔内クリアランス不良,咽頭反射減弱などがある.さらに認知症やパーキンソニズム,意識障害があれば高率に嚥下障害,誤嚥がみられる.

●軟口蓋麻痺,カーテン徴候,gag reflexの有無,舌偏倚に注意する.軟口蓋は中枢での両側性支配を受けており,一側中枢病変では両側性軟口蓋麻痺は顕著でない.

●嚥下障害の評価法としてvideo fluorographyやRSST,リハビリとして氷を用いた嚥下訓練(アイスマッサージなど),薬物治療としてアマンタジン,アンギオテンシン変換酵素阻害薬などがある.

「ろれつが回りません」―構音障害

著者: 中溝知樹

ページ範囲:P.268 - P.271

ポイント

●「ろれつが回らない」という訴えでは,まず失語症,発声障害,構音障害を考える.

●発声の障害では発声時に息が漏れる,嗄声がみられる.

●構音障害は病変部位によって麻痺性(弛緩性,痙性)失調性などに分類され,それぞれに特徴的なしゃべり方がある.

●「ろれつが回らない」イコール神経疾患ではない.

「動きません」どこが? どんなふうに?―四肢麻痺・脱力

著者: 久堀保

ページ範囲:P.272 - P.275

ポイント

●問診から病態を,神経所見から病変部位を推測する.

●脱力筋の分布パターンを考えながら診察する.

●神経所見のとり方のスキルアップが,正確な診断に不可欠である.

「しびれるんです」―感覚障害の診察について

著者: 三枝隆博

ページ範囲:P.277 - P.281

ポイント

●まず,左右・上下比較で症状分布を絞り込む.また,大まかでも必ず全身を調べよう.

●次に,異常知覚の分布が末梢神経・髄節レベル・脳のどの領域と対応するか照合しよう.

●振動覚試験は深部覚の所見以外に偽症状の鑑別にも役立つ.音叉をよく活用しよう.

「ふらつきます」―小脳性運動失調・深部感覚障害など

著者: 和泉唯信

ページ範囲:P.282 - P.285

ポイント

●「ふらつきます」と患者が訴えた場合に小脳障害,深部感覚障害,前庭障害に大別して考える.

●問診でこれらを鑑別する情報が得られる.

●問診でストローク(脳血管障害)が疑われる場合はMRIなどの画像検査を急ぐ.

●小脳性運動失調の診察方法は多数あるがスクリーニングで行うものをマスターする.

「勝手に動きます」「動きにくいです」―hyperkinetic/hypokinetic movement

著者: 松本真一 ,   梶龍兒

ページ範囲:P.287 - P.289

ポイント

●「勝手に動きます」「動きにくいです」と患者が訴えた場合,律動性の疾患か,非律動性の疾患に大別する.

●局在診断と原因診断を考えながら診察を進める.

認知症・レベル低下と決めつけたくなる訴え

「不隠で暴れています」―せん妄

著者: 織田雅也

ページ範囲:P.291 - P.294

ポイント

●せん妄は高齢者に高頻度にみられ,特に入院中,急性疾患合併,術後といった状況で出現しやすい.

●せん妄は脳機能の低下を反映するが,他臓器の疾患や薬物摂取など全身性要素が背景に存在することが多く,その検索が重要である.

●認知症疾患との鑑別が重要であるが,認知症に合併することも少なくない.

「物忘れ」を訴える患者の診察法―記憶障害とそのほかの障害との鑑別

著者: ,   河合真

ページ範囲:P.296 - P.299

ポイント

●「物忘れ」は記憶の障害とは限らない.神経疾患と精神疾患もしくは良性の(臨床上問題にならない)記銘力障害を区別する.

●病歴聴取で訴えに応じて診断の仮説をたてる.

●簡易な認知検査では診断を確認する作業になる.

●典型的なAlzheimer病の症状を認識できるようになる.

様子がおかしい,話が通じない―失語症の診察

著者: 渡辺俊之 ,   秋口一郎

ページ範囲:P.300 - P.304

ポイント

●非流暢失語であるBroca失語と全失語では通常右麻痺を伴う.

●流暢性失語であるWernicke失語と超皮質性感覚失語では病識が欠如する.

●伝導失語は自己修正努力を伴う復唱障害と字性錯語が特徴である.

●失語類型は急性期から慢性期にかけて変化することが稀ではない.

「わからない」「できない」―失認と失行

著者: 麻生俊彦

ページ範囲:P.305 - P.308

ポイント

●失認と失行の病態は,時に患者本人にも理解が難しい.訴えは不可解なものとなりやすく,訴え自体がない場合もある.失認・失行を念頭に置くことがスタートポイントである.

●症状はバラエティに富むので,失認・失行を除外するのは難しい.「そんな症状はあり得ない」と簡単に言ってはいけない.

「性格が変わりました」―前頭葉の脱抑制など

著者: 安藤功一 ,   植村健吾

ページ範囲:P.309 - P.312

ポイント

●気づきにくい前頭葉症状.まず,前頭葉障害の臨床症状を知ろう.

●注意深い問診により,機能障害の内容をおおまかに推測することができる.

●神経心理検査の意味について理解しよう.

すぐ精神科へコンサルトしたくなる訴え

「これはなんだかおかしいな」整合性がない訴え―解離・転換性障害

著者: 兼本浩祐

ページ範囲:P.313 - P.316

ポイント

●心因性疾患を疑っても,器質性疾患の可能性を排除せず,経過診断を基本とする.

●単一の徴候に基づいて診断しない.

●患者に対する自分の陰性感情に目配りをする.

「眠れません」―不眠の鑑別

著者: 立花直子

ページ範囲:P.318 - P.323

ポイント

●不眠を起こす原因は一つに定められないことも多く,初診時にすべての鑑別診断が出なくても構わないが,「すぐに睡眠薬を投与してはならない場合」を押さえておく.

●初診時には昼間の生活習慣を含めた睡眠歴をとり,聞ききれない部分はsleep-wake logを利用する.

●睡眠歴を睡眠衛生の観点から聞き取り,こまめに教育的なfeed-backを与えていく.

座談会

神経内科診察は難しい?

著者: 河合真 ,   岩田充永 ,   野口善令 ,   兼本浩祐

ページ範囲:P.324 - P.334

 身体所見をとるうえで避けて通れない神経診察.しかし,この神経内科のArt of Medicineともいうべき重要な知的作業である神経診察が,膨大かつ難解であるように感じられるため,苦手意識を抱く若手医師は少なくないと言われる.

 そこで本座談会では,なぜ神経内科診察を難しいと感じるのか,外来診療や救急診療に即した神経診察とはどのようなものか,どのように臨床で神経診察を教えていけばよいかについて,ご議論いただいた.

 局在診断を考えながら行う神経診察は,内科診療における醍醐味の一つであり,たとえ画像診断能が向上しても省けるものではない.

連載 手を見て気づく内科疾患・2

ミー線,重篤な病態からの経過日数

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.211 - P.211

患 者:28歳,女性

病 歴:22歳のときにネフローゼ症候群を発症し,プレドニゾロン40 mg/日の内服で寛解した.その後,2回ネフローゼ症候群の再発を認めている.今回もプレドニゾロンを7.5 mg/日に減量したところ,下肢浮腫が出現し,尿蛋白18 g/日,血清総蛋白4.4 g/dl,血清アルブミン2.3 g/dlであった.プレドニゾロン40 mg/日に増量し寛解した.

身体所見:約130日後の爪の所見を示す.両第1指の爪に半月と平行して走る1本の白色の線を認める.溝は触れない(図1).これはMee's lines(ミー線)という.

聖路加Common Diseaseカンファレンス・22

―心療内科編―うつ病に対する心身医学的アプローチ

著者: 村田智史 ,   太田大介 ,   山田宇以

ページ範囲:P.339 - P.343

うつ病の診断 まずはここを押さえよう

①うつ病の主症状(精神症状と身体症状)を理解しよう.
②見逃してはいけないうつ病について理解しよう.
③うつ病患者に対する心身医学的アプローチについて理解しよう.
④心療内科を通じて医療をみてみよう.

目でみるトレーニング

著者: 山之内良雄 ,   鈴木克典 ,   窪田哲也

ページ範囲:P.344 - P.349

市中感染症診療の思考プロセス IDATEN感染症セミナーより・11

急性腹症のマネジメント

著者: 岩田健太郎

ページ範囲:P.350 - P.354

ケース 発熱,腹痛のある80歳女性

 

現病歴 ADL自立した80歳の女性が,半日持続する発熱,悪寒,戦慄,嘔気,腹痛の訴えで救急外来を受診した.呼吸困難や咳はない.既往として食事療法を行っている糖尿病があり,胆嚢胆石,総胆管結石を指摘されている.

 

身体所見 体温39.5℃,心拍数120/分,呼吸数24/分,血圧90/60 mmHg.全身状態:きつそうである.頭目耳鼻喉:特になし.心臓:I・II音正常,雑音なし.胸部:右下肺に呼吸音減弱し打診上濁音,ラ音なし.腹部:平坦,腹部板状硬,痛みで触診も十分にしにくいほど.明らかな肝腫大なし.脾腫なし.四肢:皮疹なし,下肢痛なし.リンパ節:触知せず.

 

検査データ ヘマトクリット36%,白血球14,500/ml(好中球72%,桿状球19%,リンパ球3%,6%単球),血小板7×104/ml,CRP 34 mg/dl,電解質・BUN・クレアチニン正常,赤沈82 mm/hr,ALT 82 IU/l,AST 55 IU/l,ALP 122 IU/l,総ビリルビン1.5 mg/dl.胸部X線:右胸水(+),血液培養:グラム陰性桿菌(+),腹部エコー:胆石あり.総胆管拡張なし.

研修おたく海を渡る・38

不況の波

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.355 - P.355

 2008年末にやってきたアメリカ発の不況は,医療にも確実に影響を及ぼしています.そのまっただなかで日々の臨床で感じたことを紹介したいと思います.

 患者さんがもっている保険のことをあまり考えずに診療できるということも理由の一つとして選んだ今の病院なのですが,状況は厳しくなっています.チャリティケアと言われる無保険者のために割り当てられた予算が毎月減らされているのです.waiverといって診察する医師が個々の裁量で許可すればdeposit(前払い金)がなくても診察できたのですが,それにも事前に各科のトップの許可がいるようになりました.“命にかかわる”状態であるとの証明ができればそれはいらないということなのですが…….僕が診察しているのはがん患者さんだけなので,“命にかかわる”といえばそうなのですが,それすらフリーパスではないようです.

見て・聴いて・考える 道具いらずの神経診療・14

―主訴別の患者の診かた9―意識障害のある患者の診かた(後編)

著者: 岩崎靖

ページ範囲:P.356 - P.361

 意識状態は「脳のバイタルサイン」といわれる.意識障害の原因は多彩であるが,その如何によらず,意識障害があるということは中枢神経系が抑制または障害されているということであり,迅速な鑑別,慎重な対応が必要である.

 前回から2回に分けて意識障害患者の対応法と鑑別法についてポイントを概説している.前回は主に意識障害患者を診察する際の注意点を概説したので,今回は神経学的所見の取り方,意識障害を呈する代表的疾患の鑑別点についてのポイントを述べる.

書評

症例から学ぶ脊椎関節炎―強直性脊椎炎,未分化型脊椎関節炎ほか

著者: 七川歓次

ページ範囲:P.294 - P.294

 著者も述べているように,脊椎関節炎の患者は多く,日常診療でよく遭遇するにもかかわらず,稀な疾患であるという印象が強い.この現状を打ち破るため,この本はわが国初めての,しかも時宜を得た出版物であり,脊椎関節炎の臨床に貢献するところが大きいと思う.著者は豊富な症例の呈示による解説に力を注いでいて,何よりも現場の医師に直接役立つものにしようとする著者の意向には全く同感である.

 かつて強直性脊椎炎といわれていたものが,現在では“脊椎関節炎”の中の一疾患とされるようになり,さらに著者のいう未分化脊椎関節炎の診断名も用いられるようになったことで,有病率が増加し,欧米ではRAにほぼ比肩するほどである.脊椎関節炎のもう一つの特徴は多くの合併症をもち,これもRAに劣らず症状が多彩なことで,皮膚,眼,腸の症状,感染症,Behçet病,その他肺,循環器病など枚挙にいとまがない.本書はこの点でも大いに啓発してくれる.

神経救急・集中治療ハンドブック―Critical Care Neurology

著者: 丸川征四郎

ページ範囲:P.312 - P.312

 本書の著者に神経内科医,脳神経外科医が多いことは想像に余りあるが,救急・蘇生科医が全65名中に12名が含まれている.救急・集中治療という表題にしては意外に少ない.しかし,日本救急医学会(第34回学術集会)を見ると脳蘇生,脳卒中についてのシンポジウムが各1セッションあり,脳低温療法の講演が2セッション,一般演題は5セッションと活発である.この事実からみれば,本書には神経内科・脳神経外科と救急・集中治療科の2つの世界の癒合を促そうとする編者の意図が窺える.さらに穿ったことをいえば,救急・集中治療医に神経系を専門とする医師を育成すべきとのメッセージが含まれているのかもしれない.「監修の序」には,「critical care neurologyの導入と体系化」が本書編纂の目的と述べてあり,「編者あとがき」には,「わが国には,神経系疾患全般に対して対応できる高度の施設はまだ非常に乏しい」現状への挑戦が窺える.

 本書の体裁はA5判,496頁と病棟や診察室など狭いテーブルに置かれることを意識したサイズである.その意味では,いわゆる教科書と実用書の中間に属するものと理解できる.

脳の機能解剖と画像診断

著者: 中野今治

ページ範囲:P.317 - P.317

 本書は『脳の機能解剖と画像診断』と命名されている.脳の図譜とそれに対応する脳画像(主としてMRI)が見開き2頁で見やすく提示されている.

 しかし,本書は画像診断のための単なるアトラスではない.「最新の画像診断機器は患者にとって不利益ともなり,危険ともなりうる」(p1).その通りである.このような記載は脳画像の他書には見られない.「画像診断によって一目瞭然な病的所見が,いつも臨床症状を起こしている原因とは限らない.画像上の病理所見と臨床症状とを関連づけるには,機能局在に関する神経解剖学の知識が必要である」(p1).全面的に賛成である.本書は画像の書であるが,神経学の基本的考えで裏打ちされている希有な書である.

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編集室より

著者:

ページ範囲:P.370 - P.370

●年甲斐もなくラフティングで怪我をして,年をとっても続けられる運動はないものかと嘆息していたとき,太極拳に巡り会いました.その優雅な動きを真似ようとしても,なかなかうまくいかず諦めかけた頃に「これだ!」という感覚が訪れました.それは,流れの中で次の動作を意識した瞬間のこと.それまで不可解だった動作の1つひとつが合理的な動きとして感じられました.合理的な体の動かし方は,美しいがゆえに人を魅了し,合理的であるがゆえに人々に受け継がれてきた,そう納得した瞬間でもありました.

●合理的だから美しい,合理的だから受け継がれる.この言葉だけをとり出せば,医師の診断技術,なかでも身体所見のとり方に共通するようにも感じます.道具の使い方を含めた体の使い方,それに対する患者の反応を自分の体に覚え込ませていくしかない,Polanyiのいう暗黙知の占める割合が多いために,教えるのも学びとるのも難しい.そんな領域だからこそ,医師にしかできないことであり,機器がすべてを代替できるものではないのでしょう.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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