icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina46巻5号

2009年05月発行

雑誌目次

今月の主題 肺血栓塞栓症 見逃さず迅速かつ的確な対応を

著者: 山田典一

ページ範囲:P.707 - P.707

 肺血栓塞栓症は,わが国で増加していることが指摘されている.また,本疾患の原因である深部静脈血栓症の入院患者における発生頻度は危険因子を有する場合には,日本人でも欧米人と大差のないことが明らかにされてきている.

 増加している病院内発症を減少させるために,2004年にはわが国でも予防ガイドラインが公表され,厚生労働省により肺血栓塞栓症予防管理料が承認された.以降,入院患者に対する一次予防が急速に普及したものの,日本麻酔科学会のアンケート調査では周術期の肺血栓塞栓症による死亡率は予防策導入後にも改善していないこともわかってきた.今後,本症による死亡率を減少させるための対策としては,さらに各症例に適した一次予防を普及させるとともに,発症後の早期診断と早期治療の徹底が不可欠である.

Editorial

肺血栓塞栓症をめぐる動向

著者: 山田典一

ページ範囲:P.708 - P.710

ポイント

●わが国でも一次予防は急速に普及してきており,院内発症抑制に効果を挙げつつある.

●診断手順として臨床確率評価とDダイマーの組み合わせによるスクリーニングが効率的である.

●新しい抗凝固薬の開発に伴い,近い将来,軽症例に対しては外来治療が可能と考えられる.

●亜広汎型症例に対する血栓溶解療法の必要性については検討が続けられている.

●一時的な静脈血栓遊離対策には回収可能型フィルターが使用されつつある.

急性肺血栓塞栓症の病態を理解する

肺血栓塞栓症の疫学―本当に日本人には少ないのか?

著者: 佐久間聖仁

ページ範囲:P.712 - P.714

ポイント

●肺塞栓症の症例数は最近10年で倍増した.

●肺塞栓症のリスクは高齢者,肥満,長期臥床,最近の大手術,癌で増大する.

●周術期の肺塞栓症は予防ガイドラインの公表以降,減少している.

●黄色人種の肺塞栓症発症は白人の約1/5である.

●日本の肺塞栓症による死亡頻度は米国の黄色人種と同等であり,臨床診断数も米国の黄色人種に近くなってきている.

剖検からみた深部静脈血栓症と急性肺血栓塞栓症との関係

著者: 呂彩子 ,   景山則正 ,   福永龍繁

ページ範囲:P.715 - P.717

ポイント

●急性PTEの塞栓源の9割は下肢DVTである.

●急性PTEとなる下肢DVTの血栓発生源は,ほとんどがヒラメ筋静脈である.

●ヒラメ筋静脈血栓から中枢側に進展したフリーフロート血栓が塞栓化してPTEとなりやすい.

●PTEの一次予防としてヒラメ筋静脈,二次予防として中枢側静脈の血栓検索が重要である.

危険因子の把握が重要―急性肺血栓塞栓症の外科的因子・内科的因子

著者: 瀬尾憲正

ページ範囲:P.718 - P.720

ポイント

●手術,骨盤・下肢骨折,多発外傷,脊髄損傷,静脈血栓塞栓症既往,血栓性素因,下肢麻痺(脳卒中を含む)は強い危険因子である.

●外傷,外科手術,妊娠を除けば,危険因子は内科的因子が多い.

●危険因子は複合的かつ経時的に関与するのでリスク評価は断続的に行う.

●今後は内科系患者に対するリスク把握が重要になるであろう.

血栓性素因をどのようにして検索するのか

著者: 池尻誠 ,   和田英夫

ページ範囲:P.721 - P.723

ポイント

●深部静脈血栓症(DVT)を繰り返す場合は,血栓性素因の検索が必要である.

●血栓性素因が疑われるDVT症例は,①40歳台の若年発症,②繰り返す発症,③稀な部位での発症,④家系内の発症,⑤習慣性胎児死亡,である.

●抗凝固因子であるPS,PC,ATなど先天性血栓性素因のスクリーニングおよび抗リン脂質抗体の検査を行う.

肺血栓塞栓症の病態生理を理解する

著者: 尾林徹

ページ範囲:P.726 - P.729

ポイント

●急性肺塞栓症の病態は,血行動態から急性肺循環不全として理解する.

●肺動脈の30~50%が急激に血栓閉塞すると肺循環の破綻が起きる.

●90%は下肢深部静脈由来の血栓である.

●血圧低下,右心不全を合併すると急性期死亡率は高率となり迅速な治療開始が大切である.

いわゆる“エコノミークラス症候群”―長時間旅行に伴う静脈血栓塞栓症

著者: 森尾比呂志

ページ範囲:P.730 - P.733

ポイント

●いわゆる“エコノミークラス症候群”とは,長時間旅行に伴う深部静脈血栓症および肺血栓塞栓症のことである.

●“エコノミークラス症候群”は,航空機だけでなく電車や車などほかの交通手段でも起きうる.

●航空機旅行による報告が多いが,低い湿度,低い気圧などの航空機客室内特有の環境が関連すると考えられている.

●高齢者ほど多く,また旅行が長時間になるほど起きやすくなる.

●予防には足の運動,十分な水分補給が勧められ,リスクが高い場合には弾性ストッキングや低分子ヘパリンも考慮される.

急性肺血栓塞栓症をいかに診断するか

急性肺血栓塞栓症を見逃さず診断するためのコツ

著者: 丹羽明博

ページ範囲:P.735 - P.739

ポイント

●説明できない心臓呼吸器関連症状に対しては,一度は急性肺血栓塞栓症を疑う.

●発症早期には頻脈や低酸素血症が生じやすい.

●心電図上の急性右心負荷所見や心エコー図上の右室拡大は,発症早期の記録であれば高頻度に認められる.

●病歴や身体所見から本症の確率を推測する方法として,WellsスコアやGenevaスコアが提唱されている.

●確定診断には造影CTないし肺動脈造影が用いられる.

血液検査では肺血栓塞栓症をこうして疑え

著者: 岡野嘉明

ページ範囲:P.741 - P.744

ポイント

●原因不明の息切れや胸痛の場合には肺血栓塞栓症の可能性を念頭におき検査を進める.

●Dダイマーの上昇は血栓形成を,動脈血液ガスの所見は換気・血流不均等分布を反映する.

●臨床的可能性が低くかつDダイマーが陰性であれば静脈血栓塞栓症をほぼ除外できる.

●典型例ではPaCO2低下をともなうPaO2低下を呈し,A-aDO2は増大する.

●BNPやトロポニンは右心負荷を反映し予後や治療効果の判定に用いられることがある.

心電図と胸部X線写真から肺血栓塞栓症をこうして疑え

著者: 宮原嘉之 ,   池田聡司

ページ範囲:P.745 - P.747

ポイント

●心電図所見はSQTパターン,V1-4の陰性T波,V5の深いS波の有無に注目する.

●ST上昇やST低下を認めた時は急性肺血栓塞栓症も鑑別に入れる.

●胸部X線写真は所見がないのが特徴である.

超音波検査で見るべき肺血栓塞栓症のポイント―心エコー・下肢静脈エコー

著者: 濱口浩敏 ,   今西孝充 ,   川合宏哉

ページ範囲:P.750 - P.755

ポイント

●肺塞栓症の状態把握には,心エコーで右心負荷所見を確認する.

●下肢静脈エコーで,肺塞栓症の原因となる下肢静脈血栓の確認をすることができる.

●心エコー,下肢静脈エコーとも非侵襲的な検査であり,肺塞栓症の診断,治療方針の決定に重要な役割をもつ.

急性肺血栓塞栓症の確定診断としての画像診断の選択とその所見

著者: 小泉淳

ページ範囲:P.756 - P.761

ポイント

●急性肺血栓塞栓症確定のための画像診断として,下肢静脈を含めたCTが第一に推奨される.

●ヨード系造影剤の使えないアレルギー,腎機能低下症例や,妊婦,臨床的に強く疑われるのにCTで陰性であった場合(末梢性のshower embolismなど),血栓溶解療法の際の治療効果判定例などに核医学検査を施行する.

●肺動脈造影はCTを施行できないような重症例での血管内治療目的に限定されつつある.

●MRIは患者管理の困難性,空間分解能の低さ,撮像時間の長さにやや難があるが,血栓のaging判定を含め,CT,核医学検査双方に取って代わる可能性が期待される.

病態や重症度に応じた急性肺血栓塞栓症の治療の選択

著者: 山本剛

ページ範囲:P.763 - P.765

ポイント

●急性肺血栓塞栓症の重症度は,ショック,右室負荷,心筋障害,それぞれの有無から判定する.

●高リスク例には血栓溶解療法を行う.

●中リスク例で出血リスクが低い場合には血栓溶解療法を考慮する.

急性肺血栓塞栓症をいかに治療するか

急性肺血栓塞栓症に対する抗凝固薬の使い方

著者: 太田覚史

ページ範囲:P.766 - P.769

ポイント

●血栓形成にはVirchowの3大因子,①血流の停滞,②血管壁の障害,③血液凝固能の亢進が関与する.

●急性肺血栓塞栓症の急性期は未分画ヘパリン静注,慢性期はワルファリン経口投与が用いられる.

●未分画ヘパリンは,禁忌でない限り重症度にかかわらず急性肺血栓塞栓症全例に使用される.

●治療期間は危険因子が可逆的な場合で3カ月以上,特発性で6カ月以上,不可逆的な場合や再発例では無期限とされる.

肺血栓塞栓症に対する血栓溶解薬の使い方

著者: 金澤實

ページ範囲:P.771 - P.773

ポイント

●血栓溶解療法は急性肺血栓塞栓症の根治的治療であるが,出血性の副作用が避けられないため,治療効果と出血リスク(禁忌)を考慮して実施する.

●血栓溶解療法はショックや低血圧が遷延する広範型肺塞栓症で治療の第一選択である.

●正常血圧で右心機能障害を呈する亜広範型肺塞栓症では,血栓溶解薬により早期の回復が期待できるものの,予後や再発率に差はないため,投与は症例ごとに判断する.

●正常血圧で右心機能障害のない非広範型肺塞栓症は,抗凝固療法のみで治療する.

肺血栓塞栓症に対するカテーテル治療の適応と効果

著者: 田島廣之 ,   村田智 ,   中沢賢

ページ範囲:P.774 - P.777

ポイント

●カテーテル治療の適応は,広汎型肺血栓塞栓症のうち,不安定な血行動態が持続する患者である.

●単なる血栓溶解薬の肺動脈内投与は,全身投与と差が見られない.

●本法の治療効果は外科的血栓摘除術に匹敵する.

●血栓溶解療法に血栓破砕療法,血栓吸引療法を併用するハイブリッド治療が有用である.

下大静脈フィルターで肺血栓塞栓症の発症を防げ

著者: 猿渡力

ページ範囲:P.779 - P.781

ポイント

●急性肺血栓塞栓症では発症早期に急速に病態悪化を起こす危険性がある.

●急性肺血栓塞栓症の治療においては,血栓に対する治療と同時に再発予防を行うことが必要不可欠である.

●急性肺血栓塞栓症の急性期再発予防に下大静脈フィルターは有効であるが,合併症も少なくない.

●下大静脈フィルターの使用に際しては,症例ごとにメリットとデメリットを十分検討する必要がある.

肺塞栓除去術

著者: 谷口哲 ,   福田幾夫

ページ範囲:P.782 - P.784

ポイント


●重症肺血栓塞栓症の観血的治療にはカテーテル治療と外科的塞栓除去術がある.

●治療開始時には循環を安定させることが重要で,循環虚脱例では経皮的人工心肺装置(PCPS)の導入を考慮する.

●肺塞栓除去術とカテーテル治療の適応は重複するが,施設の経験に基づいて治療手段を決定する.

●脳血管障害急性期や手術後など血栓溶解療法禁忌例に外科的塞栓除去術が有効である.

急性肺血栓塞栓症をいかに予防するか

肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドライン

著者: 藤田悟

ページ範囲:P.786 - P.788

ポイント

●肺血栓塞栓症/深部静脈血栓症(静脈血栓塞栓症)予防ガイドラインは2004年に出版された.

●この予防ガイドライン出版後,周術期の肺血栓塞栓症は減少傾向にある.

●2007年以降Xa阻害薬と低分子へパリンが発売され,抗凝固療法が普及しつつある.

●出版から4年以上が経過し,予防ガイドラインの改訂作業が進行中である.

肺血栓塞栓症の理学的予防法

著者: 平井正文 ,   新美清章 ,   岩田博英

ページ範囲:P.789 - P.791

ポイント

●理学的予防法には,下肢の運動,弾性ストッキング,間欠的空気圧迫法などがある.

●理学的予防法では,下腿(ふくらはぎ)の筋ポンプ作用を促進させることが大切である.

●理学的予防法の施行では合併症に注意がいる.

肺血栓塞栓症の薬物的予防法

著者: 小林隆夫

ページ範囲:P.792 - P.794

ポイント

●薬物的予防は高リスク例または最高リスク例に適応となる.

●低用量未分画ヘパリン皮下注またはワルファリン経口投与を行う.

●低分子量ヘパリンおよび選択的Xa阻害薬皮下注も保険適用となった.

●副作用,特に出血に細心の注意を払い,止血対策は確実に行う.

病院全体で肺血栓塞栓症予防に取り組むための工夫

著者: 保田知生

ページ範囲:P.796 - P.799

ポイント

●病院全体で対策チームにより静脈血栓塞栓症対策に取り組むことは,増悪を防止するうえで最も効果の高い方法である.

●予防方法は,①積極的な運動と早期離床,②抗凝固薬,③間欠的空気圧迫法,④弾性ストッキングの順で効果が高い.

●致死性と有症状肺塞栓症を減少させるには抗凝固薬(ヘパリン類)の積極使用が不可欠である.

●予防に際しては出血リスク,合併症を熟知し,主疾患の治療前に,予防策を策定する必要がある.

●抗凝固薬は,①合成Xa阻害薬,②低分子量ヘパリン,③用量調節ワルファリン,④低用量未分画ヘパリンの順で効果が高い.

肺血栓塞栓症の裁判例から何を学べるか―裁判におけるガイドライン

著者: 児玉安司

ページ範囲:P.800 - P.803

ポイント

●裁判所の判決は,常に医師の見解に基づいている.

●ガイドラインの科学的な位置づけと射程を明確にすべきである.

●社会とのコミュニケーションが,ますます重要になっている.

慢性肺血栓塞栓症の臨床

慢性肺血栓塞栓症の疫学と病態

著者: 田邉信宏

ページ範囲:P.805 - P.807

ポイント

●慢性肺血栓塞栓症は,欧米では,性差はないか,むしろ男性に多いとされるが,わが国では女性に多い.

●肺血管抵抗と肺血管閉塞率の相関が不良な原因としてsmall vessel diseaseの関与が示唆されている.

●わが国の症例には,深部静脈血栓症の頻度が低い,HLA-B*5201やHLA-DPB1*0202と関連する症例がある.

慢性肺血栓塞栓症の診断

著者: 中西宣文

ページ範囲:P.808 - P.811

ポイント

●慢性肺血栓塞栓症は6カ月以上,肺血流分布,肺循環動態が大きく変化しない肺血栓塞栓症と定義される.

●肺高血圧症は,その原因として呼吸器疾患・心疾患を除外すると残る例はCTEPHかPAHのいずれかで,その両者の鑑別には肺血流シンチグラムが有用である.

●CTEPH例は中枢型CTEPHと末梢型CTEPHが存在し,中枢型CTEPHは手術により完治可能な場合がある.

慢性肺血栓塞栓症の治療

著者: 安藤太三

ページ範囲:P.812 - P.815

ポイント

●慢性肺血栓塞栓症は,肺動脈に器質化血栓による閉塞や狭窄性病変が形成されて生じる.

●本症は,呼吸困難や低酸素血症が進行して,遂には右心不全や呼吸不全をきたす重篤な疾患である.

●本症に対する内科的治療は対症療法や予防的治療であり,根治療法としては外科的治療が必要である.

●最近になって超低体温間歇的循環停止法を用いた肺動脈血栓内膜摘除術の有用性が強調され,手術成績も良好となった.

座談会

肺血栓塞栓症診療における一般内科医と専門医の連携

著者: 山田典一 ,   佐久間聖仁 ,   箕輪良行 ,   松村真司

ページ範囲:P.816 - P.826

 肺血栓塞栓症の診療において,一般内科医に期待される役割は,基礎疾患からの発症予防,再発予防のマネジメントに加え,いかに本疾患を早期から疑って,迅速に確定診断にたどりつけるかであろう.とはいえ,肺血栓塞栓症は,特異的な症状や検査値などのレッドフラッグサインに乏しく,診断は難しい.そこで本座談会では,どのような症状で肺血栓塞栓症を疑うか,疑った時点で何を念頭に置いて対応したらよいか,いつ専門医に紹介すべきかを中心に,専門医,開業医,救急医のお立場から論じていただいた.

連載 手を見て気づく内科疾患・5

慢性閉塞性肺疾患でばち状指を認めたら肺癌を疑う

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.703 - P.703

患 者:49歳,男性

病 歴:5カ月前から左胸部の鈍い痛みを感じていた.3カ月前からは膝,足関節炎が出現した.また,1時間持続する朝の手のこわばり感もある.1カ月前から関節リウマチとして加療されたが,症状が改善しないため受診した.過去6カ月間で,2kgの体重減少を認める.家族は2カ月前から指の形が変わってきたことに気づいている.

タバコは1日15本を30年間吸っている.

研修おたく海を渡る・41

新米指導医の生活―小グループ学習

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.831 - P.831

 「担当者が足りません」とのお誘いメールに反応して,医学部2年生の,春学期の病歴聴取コースを担当することになりました.内科スタッフだけでなく,後期研修医であるフェローまで動員してのコースです.人が足りないなんて,あんまり教育熱心ちゃうんかなぁと思ったのですが,それもそのはずです.学生を2人ずつに分けて,3週間に1回,2時間の実習が開かれるのですが,一学年を160人として,延べ80人の教官がいるのです.いろいろな曜日と時間帯のオプションがあり,教官は自分のスケジュールにあったものを選べます.

 実習では,了解の得られた入院患者を,学生は毎回1人ずつ割り当てられます.セッション前に患者に会い,60分ほどかけて病歴と身体所見をとったうえで,簡単なアセスメントとプランを立てるのです.学生は,あとからカルテを見ることは許されていますが,基本的には患者から話を聞くことだけでプランを立てるのです.

目でみるトレーニング

著者: 永石彰子 ,   権藤雄一郎 ,   森田恭平 ,   馬庭厚 ,   谷口浩和

ページ範囲:P.832 - P.837

内科医のためのせん妄との付き合い方・2

せん妄かもしれない,と思ったら―スクリーニングと鑑別

著者: 本田明

ページ範囲:P.838 - P.842

せん妄の診断には意識障害,認知の障害,症状の変動の3項目が必須である.またせん妄と混同されやすい精神疾患や状態像として認知症,統合失調症,うつ病,不眠が挙げられる.

書評

緩和ケアエッセンシャルドラッグ

著者: 渡邊正

ページ範囲:P.785 - P.785

 診療中にすぐ参照できるように,手の平に乗るような小型サイズでありながら,緩和ケアに関する専門的・実践的知識がぎっしりと詰まった本書は,私には小さな巨人にたとえることができると思われた.それは本書が,①従来の小型版のほとんどが疼痛コントロールに限られているのに対し,緩和ケアで遭遇する多くの症状が網羅されていること,②著者の長年の経験から得られた臨床上のノウハウが随所に見られ,本書に息を吹き込んでいるばかりでなく,実践的で有用な知識を提供していること,③緩和ケアの本質である全人的ケアの観点が貫かれていること,などの特徴をもっているからと思われる.

 さて本書は,総論として症状マネジメントの原則と概説,各論として緩和ケアで用いられるエッセンシャルドラッグの解説から構成されている.先にタイトルにもなっているエッセンシャルドラッグであるが,世界保健機関(WHO)が国際ホスピス緩和ケア協会(IAHPC)に依頼して作成されたもので,そのリストは2006年の『Palliative Medicine』(vol 20, pp 647-651)に公表されている.リストの作成に当たっては,緩和ケアで多くみられる症状を特定したあと,デルファイ法を用いて薬剤の効果,安全性,経済性などを検討し,必須薬として33剤を決定している.しかし薬剤に関する説明はほとんど省略されているため,著者はこれらの必須薬をもとに,わが国の実情に即して約50種類の薬剤を厳選した上で,各薬剤の用法,副作用,相互作用などについて詳細な解説を行っている.

コミュニケーションスキル・トレーニング―患者満足度の向上と効果的な診療のために

著者: 江口成美

ページ範囲:P.795 - P.795

 日本でコミュニケーションスキル・トレーニングを医学教育に取り入れるようになったのは1990年以降である.それ以前に大学を卒業した医師の大部分は,コミュニケーションに関わる教育を受ける機会がなかった.本書はこうしたベテラン医師を対象に,患者とのコミュニケーションスキルの習得と実践について体系的な学習を可能とする,従来なかった手引書である.前半にコミュニケーションや患者満足度に関する解説があり,後半にスキルアップのための手法やトレーニングの内容,効果が説明されている.ベテラン医師が自身で学べると同時に,トレーニングコースの実践テキストとしても活用することができる.編著者らは,コミュニケーションスキル・トレーニングコース(CSTコース)の開発・運営に実際に携わる専門家で,編者のお一人の松村真司先生は,研究もこなしながら臨床の場で活躍されている先生である.

 病気になれば誰しも不安で心細くなる.医療者と心の通う対話ができれば,患者は緊張や不安が和らぎ,診療を前向きに受けることができ,ひいては病気と積極的に向き合うことができる.一方,よいコミュニケーションは医師自身の達成感も向上させる.

リウマチ病診療ビジュアルテキスト―第2版

著者: 松村理司

ページ範囲:P.804 - P.804

 今,至福の時を迎えている.週末のほぼ丸2日間を,上野征夫先生の単独著『リウマチ病診療ビジュアルテキスト(第2版)』の味読に割けているからだ.著者御本人から直々にいただいて数カ月にもなるのだが,書評のための通読のまとまった時間を捻出できなかったのには,生来の怠惰以外の理由もある.昨今の病院長にとっての二大課題,勤務医の安定雇用と医療事故対策に評者も思い切りとらわれているからである.言い訳はともかく,好調な売れ行きと聞くのは,誠に慶賀にたえない.

 第2版の改正点の第1は,「あれ,結節性多発動脈炎は? 顕微鏡的多発血管炎は?……」といった初版時の問いに対する回答である.つまり,血管炎の章の増設である.そのほかの大幅な追加項目として,血清反応陰性脊椎関節症,感染性関節炎,随伴性のリウマチなどがある.おかげで2倍近い厚さになっている.第2は,日進月歩の医学に見合った増補であり,リウマチ病の生物学的製剤などが挙げられる.第3は小さいことかもしれないが,膠原病という用語が一切除かれたことである.理由は,「強皮症以外,collagen diseaseにコラーゲンの異常は見られない」という米国での30年前の指摘に基づくとの由.なお,文部科学省からの「医学教育モデル・コア・カリキュラム―教育内容ガイドライン」(平成19年度改訂版)の索引には,リウマチ病はなく,膠原病や膠原病類縁疾患はある.第4に,顔写真に目隠しが入ったことである.第5の違いは,出来栄えには関係ないが,手書きではなく,ワープロが使われたことである.

--------------------

編集室より

著者:

ページ範囲:P.850 - P.850

●“医療再生”というキーワードが世間をにぎわせています.医師の方々が,その力をいかんなく発揮できる環境を整えたいと願う人々が,それぞれの立場でできる取り組みを始めています.過剰に医療を求める行為が医療提供体制を脅かすという危機感を抱いた住民の,いわゆる“コンビニ受診”を控えようという呼びかけが奏効した地域もあります.しかし,「軽症」という素人判断が将来の急患予備軍となっていたら…….

●本特集の座談会収録中に,特異的な症状に乏しく,しかし見逃せば命にかかわる肺血栓塞栓症の難しさを垣間見て,医師でも診断が難しい疾患がある以上,早めの受診を心がけるのは,一概に悪いこととは言えないのではないかと迷います.ただし,時間内にかかりつけ医を受診できる環境を整えていく努力は求められるでしょう.そのうえで,医師の見逃しを責めるのではなく,「見逃してほしくない」専門医の願いと「見逃したくない」と願う非専門医の思いを信じて身を委ねる,そういう信頼関係を結ぶ姿勢が重要なのかもしれません.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?