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雑誌目次

雑誌文献

medicina46巻8号

2009年08月発行

雑誌目次

今月の主題 ガイドラインを基盤とした心不全の個別診療

著者: 吉村道博

ページ範囲:P.1211 - P.1211

 心不全とは,心臓の機能低下により心拍出量の低下や血液のうっ滞が原因で生じる1つの症候群である.その直接の原因は心臓のポンプ機能の低下であることは言うまでもない.数百年の循環器病に関する学問の中で,心血行力学は研究の中心であり,多くの先人の努力のお陰で膨大な知見が蓄積されてきた.

 さて,一方で神経体液性因子の立場から心不全を捉える動きが数十年前から徐々に起こってきた.心機能が低下すると心拍出量の減少や血圧が下がるが,それに対する代償機序として内因性に,レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系(RAAS)や交感神経系が活性化する.これらは体液量を増やし血圧を維持する.しかしながら,結果的にそれらの活性は過剰となり,かえって心不全を悪化させる.しかし,生体は興味深いことにこれに対しても防御機構を備えている.その代表がナトリウム利尿ペプチド(ANP,BNP)であろう.何らかの理由で心機能が低下すると,心臓から多くのANP,BNPが分泌される.ANP,BNPは種々の作用でRAASや交感神経系と拮抗し,心不全の病態を鎮めようとする.1984年の松尾・寒川両博士によるANPの発見以降,心臓研究はホルモン学と歩調を合わせて大きく進展した.そしてさらに心臓研究は進歩し続けている.

心不全治療へガイドラインをどう活用するか

心不全の捉え方の変遷―時代とともに変化する診断と治療

著者: 吉村道博

ページ範囲:P.1212 - P.1215

心不全とは

 心不全とは,心臓のポンプ機能が不全に陥ったために,①体組織が必要とするだけの動脈血を送り出し得ない(収縮不全)か,②静脈血を十分に受け取ることができない(拡張不全)か,③あるいは両方の機能不全が出現したために生ずる臨床症侯群を意味し,運動耐容能の低下やうっ血,不整脈の出現などを特徴とする.あらゆる心疾患が心不全の原因となりうる.

日本の急性心不全のガイドラインの特徴

著者: 安村良男

ページ範囲:P.1216 - P.1219

ポイント

●うっ血所見を共通項とするが組織低灌流所見は認めないこともある.

●急性非代償性心不全,高血圧性急性心不全,急性肺水腫など大きく6つに大別される.

●救命はもちろんのこと,予後やQOLの改善を目指した治療を心がける.

●強心薬が必要な場合はPDE Ⅲ 阻害薬を上手に使う.

慢性心不全治療における日本のガイドラインの特徴―RAA系を中心として

著者: 堤丈士 ,   斎藤能彦

ページ範囲:P.1220 - P.1224

ポイント

●慢性心不全においてRAA系は,重要な役割を果たしており,早期にその改善を求められる.

●日本と比較し欧米では,ACE阻害薬およびARBの投与量が多く,大規模試験もそれに準じ施行されている.

●BNPなどでの評価は,簡便で非常に有用だが,必ずしも一致しない病態もある.

心不全の診断

心不全を疑ったら最初に診るべきポイント―一般医に求められること

著者: 榊原守 ,   筒井裕之

ページ範囲:P.1226 - P.1231

ポイント

●心不全は,急性と慢性で大きく疾患概念や診断・治療目標が異なる.

●急性心不全は,血行動態が著しく変化するため,迅速な診断および治療を同時に進行させ患者の救命を第一に考える必要がある.

●慢性心不全は,正確な心不全の病態の評価と経時的な心不全のコントロール状態の把握により急性増悪への進展や長期予後の改善を目標としてアプローチする必要がある.

●一般内科医は,増悪・急変時に対応できるようあらかじめ循環器内科医と連携を保っておくことが重要である.

循環器内科医としての初期対応―血行動態の把握

著者: 清水光行

ページ範囲:P.1233 - P.1236

ポイント

●心不全の重症度・基礎心疾患・増悪誘因を明らかにする.

●心拍出量とうっ血を評価する.

●心不全には,急性非代償性心不全,高血圧性急性心不全,急性心原性肺水腫,心原性ショック,高拍出性心不全,急性右心不全の6病態がある.

神経体液性因子からわかること

著者: 川井真 ,   吉村道博

ページ範囲:P.1238 - P.1241

ポイント

●心不全では代償機序により交感神経系や神経内分泌系因子が亢進する.

●心不全の予後は神経体液性因子活性やリモデリングをコントロールすることで改善につながる.

●BNPは心不全の重症度決定や予後予測,治療効果判定にも有用な指標である.

●BNP測定は簡便,迅速に測定可能でしかも心不全に対する感度が高い.

心不全の画像診断のポイント―心エコー・CT・MRI・心筋シンチ

著者: 谷本貴志 ,   赤阪隆史

ページ範囲:P.1242 - P.1247

ポイント

●心エコー図は心不全の診断,病態把握,治療方針の決定にきわめて重要である.

●血行動態は刻一刻と変化するため,経時的な変化を観察する必要がある.

●心臓CT,MRI,核医学検査などの各種画像診断法の特徴を理解する.

●各種画像診断法を駆使し,症例ごとの病態に応じた検査法を選択する.

心不全の治療 【急性心不全の内科的治療】

急性心不全の治療ストラテジー―治療目標と基本的治療

著者: 清野精彦

ページ範囲:P.1250 - P.1253

ポイント

●「Warm/Cold・Dry/Wet」臨床プロフィール分類に対応した治療判断が求められる.

●自覚症状,低酸素血症改善,血行動態・循環不全の安定化が急務である.

●肺水腫・高度肺うっ血に対する非侵襲的陽圧呼吸を早期導入する.

●急性期から長期生命予後・QOL改善に向けた治療を構築すべきである.

薬物療法:カテコラミン製剤

著者: 佐藤直樹

ページ範囲:P.1255 - P.1259

ポイント

●急性心不全治療におけるカテコラミン製剤の役割は,強心薬および昇圧薬である.

●カテコラミン製剤投与は,必要不可欠の場合のみに使用する.

●カテコラミン製剤投与により,少なからず臓器障害が起こると認識していることが重要である.

●使用目的を明確に,できるだけ少量および短期投与を心がける.

●併用する場合でも,少量併用で開始する.

薬物療法:利尿薬・hANP

著者: 水野雄二 ,   原田栄作 ,   吉村道博

ページ範囲:P.1261 - P.1267

ポイント

●心負荷の軽減と神経体液因子の是正が重要であり,管理においては脱水の鑑別が大切である.

●利尿薬の急性心不全における有用性と使用方法を,急性心不全治療ガイドライン(2006年改訂版)にある薬剤を中心に解説を行った.また,同時に固定的な治療の継続でなく,各症例の病態に応じた治療法選択の柔軟性が重要である.

薬物療法:ニコランジルを中心に

著者: 朝倉正紀 ,   北風政史

ページ範囲:P.1269 - P.1272

ポイント

●急性心不全治療は,心血管保護を考えた血管拡張薬を用いた薬物療法へと変貌している.

●血管拡張薬として,硝酸薬が急性心不全治療として使用されてきた.

●急性心不全治療における血管拡張薬として,ニコランジルおよびhANPが注目されている.

●ニコランジルは,急性心筋梗塞患者においても慢性期左心機能改善効果が期待される.

非薬物療法:経皮的心肺補助―IABP・PCPS・LVAS

著者: 平光伸也 ,   宮城島賢二 ,   木村央

ページ範囲:P.1273 - P.1276

ポイント

●内科的治療抵抗性の心原性ショックには,何らかの非薬物治療が必要である.

●IABPは後負荷を減少し冠血流を増加させて,心拍出量を増加する.

●PCPSは全身への血流を増加させるが,後負荷を増加させる.

●LVASは前負荷を減少して心拍出量を増加し,長期補助が可能である.

【慢性心不全の内科的治療】

慢性心不全の治療ストラテジー―一般療法の注意点

著者: 安斉俊久

ページ範囲:P.1277 - P.1279

ポイント

●慢性心不全の背景には,交感神経系,レニン・アンジオテンシン系(RAS)など神経体液性因子の賦活化による悪循環が存在している.

●食塩制限は,血圧低下に加え神経体液性因子を抑制し,慢性心不全あるいは心腎連関の病態に対して良好な効果をもたらす.

●身体的・精神的ストレスの解除は一般管理として重要であるが,適度な運動は運動耐容能を増加させ,神経体液性因子を抑制するとともに長期予後を改善し,精神面にも良好な影響をもたらす.

●長期予後改善のためにも禁煙は必須であり,飲酒も原則として禁止する.

薬物療法:利尿薬・抗アルドステロン薬

著者: 福田誠一 ,   佐藤敦久

ページ範囲:P.1280 - P.1283

ポイント

●利尿薬にはループ利尿薬,サイアザイド系利尿薬,抗アルドステロン薬などがある.

●利尿薬は心不全患者の臓器うっ血に基づく症状を軽減するために最も有効な薬剤である.

●抗アルドステロン薬には利尿,降圧作用を超えた臓器保護作用がある.

●抗アルドステロン薬の心不全に対する有用性は大規模臨床試験で示されている.

薬物療法:ACE阻害薬

著者: 小武海公明 ,   吉村道博

ページ範囲:P.1284 - P.1286

ポイント

●収縮力が低下した心不全において,禁忌のない限り,積極的にACE阻害薬を投与すべきである.

●少量から始め,血圧,血清Cr値,血清K値などに注意しながら,可能な限り高用量まで増量したほうがよい.

薬物療法:アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)

著者: 池田聡司 ,   前村浩二

ページ範囲:P.1288 - P.1291

ポイント

●レニン・アンジオテンシン系は心不全時に活性化され,心筋リモデリングに関与する.

●ARBはAT1受容体に拮抗し,AT2受容体を刺激することで心筋リモデリングを抑制する.

●大規模臨床試験にてARBはACE阻害薬とほぼ同等の心不全患者の予後改善効果を有することが示されてきている.

薬物療法:β遮断薬

著者: 吉川勉

ページ範囲:P.1292 - P.1295

ポイント

●β遮断薬は心不全急性増悪からの回復期に開始するのがよい.

●開始に当たっては血漿BNP濃度が参考となる.

●β遮断薬の忍容性は血圧・心拍数の変化や身体所見から判断する.

●心不全増悪によってβ遮断薬を中止したあとも,安定期には必ず再開するよう努める.

●閉塞性肺疾患や腎機能障害が軽度であれば,β遮断薬の使用も可能である.

薬物療法:抗凝固療法

著者: 後藤信哉

ページ範囲:P.1297 - P.1299

ポイント

●心不全は血栓症のリスク因子の一つである.

●血栓症の発症に及ぼす心不全の関与は病態により異なる.

●抗凝固介入は出血性合併症を増加させる.

●日本人心不全症例に対する抗凝固介入のメリットがデメリットを上回ることは示されていない.

●日本人症例に対する数値データベース化が必須である.

非薬物療法:心臓再同期治療・植え込み型除細動器

著者: 鈴木豪 ,   志賀剛 ,   萩原誠久

ページ範囲:P.1300 - P.1303

ポイント

●心臓突然死の治療を考えるにあたり必須のICDの適応は拡大されている.

●薬物療法抵抗性の難治性慢性心不全において心臓再同期療法は有効な治療の選択肢である.

非薬物療法:在宅酸素療法

著者: 福間長知 ,   林寛子 ,   水野杏一

ページ範囲:P.1304 - P.1307

ポイント

●心不全に対する在宅酸素療法のターゲットは合併する中枢性睡眠時無呼吸である.

●適応は,Cheyne-Stokes 呼吸が確認された無呼吸低呼吸指数(AHI)20以上の症例である.

●期待される効果はAHIや運動機能(QOL)の改善である.

●心機能や予後改善のエビデンスはいまだ得られていない.

【心不全の外科治療】

最近の動向―人工心臓・心臓移植を含めて

著者: 松宮護郎 ,   澤芳樹

ページ範囲:P.1308 - P.1311

ポイント

●外科的治療の適応となる心不全は多種多様であり,原因や重症度に応じて弁形成術や置換術,冠動脈バイパス術,左室形成手術,補助人工心臓,心臓移植などが適用される.

●重症の心不全に対しては依然として補助人工心臓と心臓移植の果たす役割は大きい.

●今後は補助人工心臓と再生医療など,さらに多様な治療法が組み合わされ,重症心不全の治療成績が向上していくことが期待される.

基礎疾患/合併疾患別の治療のポイント

高度高血圧を合併した心不全

著者: 岡山英樹 ,   檜垣實男

ページ範囲:P.1313 - P.1316

ポイント

●肺水腫を合併した高血圧性の急性左心不全は高血圧性緊急症として迅速な経静脈的降圧が必要である.

●降圧に伴う脳,心,腎などの主要臓器虚血に注意する必要がある.

●長期予後の観点から,慢性心不全では,降圧に加えてレニン・アンジオテンシン系,交感神経系活性の抑制が重要である.

虚血性心疾患を合併した心不全

著者: 海北幸一

ページ範囲:P.1317 - P.1320

ポイント

●急性心筋梗塞は,急性心不全をきたす代表的疾患であり,血行再建術は心不全の解除に有効である.

●心原性ショックの状態でなければ,生命予後の観点からの心保護薬の投与を考慮する.

●急性心筋梗塞後の機械的合併症に対し,速やかに循環補助装置を装着し,外科手術へ移行する.

不整脈の多発する心不全

著者: 浅野拓

ページ範囲:P.1321 - P.1324

ポイント

●抗不整脈薬を使用して心室性不整脈を抑制しても,生命予後が変わらないか,むしろ悪くなる場合がある.

●多くの抗不整脈薬が陰性変力作用と催不整脈作用を有している.

●今までの抗不整脈薬による治療法(down stream approach)に加えて,不整脈の発生する原因=基質に対する治療(up stream approach)が必要とされている.

●心不全状態になると,Kチャンネル,Caチャンネル,Na-Ca交換系などの,心筋細胞上のさまざまなイオンチャンネルが修飾を受ける.

腎不全を合併した心不全

著者: 内村幸平 ,   北村健一郎

ページ範囲:P.1325 - P.1328

ポイント

●心不全と腎不全を個々の病態と考えず,心-腎連関の悪循環を想定した治療を行う.

●過度な利尿薬の使用により,腎前性腎不全を招かない.

●RA系抑制薬は心不全,腎不全患者に対しては少量から慎重に開始・増量を行う.

トピックス

睡眠時無呼吸症候群と心不全

著者: 百村伸一

ページ範囲:P.1330 - P.1335

ポイント

●閉塞性睡眠時無呼吸は直接心負荷を増大し,また他の心疾患の危険因子となることによって,心不全の発症に関係する.

●中枢性睡眠時無呼吸は心不全の結果起き,悪循環を形成し心不全を悪化させる.

●閉塞性,中枢性いずれの睡眠時無呼吸も心不全の予後を悪化させる.

●閉塞性睡眠時無呼吸の治療としては,心不全合併の有無にかかわらずCPAPが第一選択となる.

●心不全に合併する中枢性睡眠時無呼吸の治療としてはASV,CPAP,夜間酸素吸入などがある.

●心不全ガイドライン上は中枢性無呼吸を合併するNYHAⅢ度の心不全に夜間酸素吸入の適応がある.

心不全とジギタリス

著者: 小野克重

ページ範囲:P.1336 - P.1339

ポイント

●ジギタリスは心筋細胞膜のNa-K ATPase活性を抑制して心収縮力を増強する(心臓作用).

●ジギタリスは動脈圧受容器反射による迷走神経刺激等を介して心仕事量と血管抵抗を減らすとともに腎尿細管でのNaの再吸収を抑制する(心臓外作用).

●ジギタリスが心不全患者の生命予後を改善するという明確なエビデンスはない.

心不全の和温療法

著者: 窪薗琢郎 ,   宮田昌明 ,   鄭忠和

ページ範囲:P.1340 - P.1343

ポイント

●和温療法は,軽症から重症の心不全患者に安全に施行可能である.

●和温療法は,心不全患者の症状や心血管機能,自律神経のアンバランスや神経体液性因子を改善する.

●和温療法は心不全患者の予後を改善する.

鼎談

心不全の個別診療ストラテジー―常に病態生理を考えよう

著者: 吉村道博 ,   島田和典 ,   水野雄二

ページ範囲:P.1344 - P.1353

 医療の標準化や質の担保という観点から,診療ガイドラインへの期待は高まっている.その一方で,心不全の症例に同じ病態は1つとしてなく,また治療のバリエーションは多岐にわたる.このため,実際にどのような治療法を選択するのか,肝腎の答えはガイドラインからは見えにくい.そこで本座談会では,ガイドラインの効用と限界を踏まえつつ,患者の病態に応じた個別診療をどのように行うべきかについて,忌憚なくお話しいただいた.

連載 手を見て気づく内科疾患・8

リウマチ性多発筋痛症,高齢者の手の浮腫には注意

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.1207 - P.1207

患 者:93歳,女性.

病 歴:3週間前から左手の腫脹,疼痛が出現した.近医にて蜂窩織炎と診断され,加療されたが改善しなかった.2週間前からは右手にも腫脹が出現した.さらに,肩から上腕のこわばり感,疼痛のため朝は起きることができなくなった.こわばり感は1時間以上持続する.体重が2kg減ったという.

身体所見:両手背に浮腫を認める(図1).側頭部の圧痛はない.

検査所見:血沈70.0 mm/時間,リウマトイド因子陰性.

研修おたく海を渡る・44

契約更改

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.1359 - P.1359

 この間facultyになって初めての契約更改がありました.レジデントの時は「次の年のポジションを年収○○$で与えます.acceptするかしないか,サインしなさい」といった一枚の紙が連絡箱に入っていただけだったので,今回は少し緊張しました.病院によっては,Start up packageといって,“自分の診療/研究体制をとにかく3年間で作り上げなさい”という仕組みもあるのですが,僕のところは毎年の更新です.

 臨床中心のClinical Facultyは,うちの部署では以下の基準で評価されます.それぞれの項目について,「だめ」「まぁまぁ」「できた」「よくできた」「すごくよくできた」と5段階の自己評価を事前に行います.

1.臨床試験に登録した患者の数

2.入院/外来で診た患者数と,請求額と回収率

3.学生,レジデント教育とその評価

4.書いた論文の数,学会発表

5.自分のアイデアではじめた臨床試験

6.研究(基礎,臨床を問わず)資金の獲得

7.大学内,地域,州,連邦レベルでの委員会などを含めた貢献度

 臨床試験への登録数を評価対象としているのは,補助金のためだけではありません.NCI(National Cancer Institute)指定がんセンターとして,臨床試験に貢献するという意味でも重要なのです.

目でみるトレーニング

著者: 古田健二郎 ,   馬庭厚 ,   大野道也 ,   渡辺卓也

ページ範囲:P.1360 - P.1366

内科医のためのせん妄との付き合い方・5

せん妄治療,これだけは注意しておこう

著者: 本田明

ページ範囲:P.1368 - P.1372

 せん妄治療には向精神薬が使用されることが多いが,その副作用を熟知することにより患者への不利益を最小限にする.また,身体拘束は,せん妄患者に対する行動制限の最終手段として行われるが,その目的と必要性を常にスタッフ間で検討する必要がある.せん妄治療の情報はできるだけ家族を巻き込んで共有することが望ましい.

書評

診断力強化トレーニング―What's your diagnosis?

著者: 福岡敏雄

ページ範囲:P.1224 - P.1224

 この本はゆっくりと読み進めなければならない.考えながら読まなければならない.そうしなければ,この本の本当の面白さは味わえない.手に取るときから注意して,ページを開くときから緊張して立ち向かおう.

 まず目次に目を通そう.普通の症例集とは違い,年齢も主訴も示されない何か意味ありげな題名が並んでいる.これこそが京都GIMカンファレンスの発表者がこだわる「妙なタイトル」である.発表者は参加者を知的に楽しませることを強く意識している.それが最も集約されているのがこの「タイトル」である.これで興味が引かれたらぜひ読み進めよう.でも,「注意して」読み進めよう.

―わかる!画像診断の要点シリーズ4―わかる!心臓 画像診断の要点

著者: 寺岡邦彦

ページ範囲:P.1236 - P.1236

 最近の画像診断の目覚ましい進歩は,循環器診療を大きく変えようとしている.例えば,この数年,わが国において急速に普及した64列MDCTによる冠動脈CTアンギオグラフィは,その施行数が,ついに年間30万件に達したといわれている.心臓超音波検査,心臓核医学検査,カテーテルアンギオグラフィに加えてMDCTやMRIは,いまや循環器診療において,なくてはならない存在になりつつある.

 しかし,これら画像診断のハードおよびソフトの開発や臨床研究のスピードが著しく早いため,なかなかその成果を完全に理解し,駆使することは難しい事態になりつつある.特に,発展途上にあるCTやMRIについては日々,新たな知見が追加され,知識は書き換えられているため,そのスピードについていくことは,容易なことではない.このことは画像を用いて日々の診療に当たる循環器科医にとってばかりでなく,画像の撮影を管理し,所見をつけ,依頼主にレポートを返す放射線科医にとっても同様であろうと思われる.

精神障害のある救急患者対応マニュアル―必須薬10と治療パターン40

著者: 八田耕太郎

ページ範囲:P.1247 - P.1247

 本書は,精神障害者の身体合併症のうち救急性のある疾患40パターンについての治療マニュアルである.マニュアルといっても,その病態から治療までの明快な解説は,生化学的あるいは生理学的理解を可能にしており,深みのある実用書兼専門書といえる.精神障害者の身体合併症に関する書籍はこれまでにもあるが,精神科側から論じれば身体疾患に関する病態生理の深みに欠けていたり,非精神科医が書けば精神疾患への理解の浅さから机上論的であったりといった記憶がある.その点で本書は,納得しながら読める好著である.このような内容の書籍を生み出せたのは著者の稀有な経歴にもよるのであろう.

 例えば,向精神薬の急性中毒に対する処置とその根底にある考え方の明快な論理性は,東工大で化学を修得したがゆえと思われる.実際,著者は中毒研究の第一人者である.さらに,深い精神疾患への理解のもとに身体疾患への治療が組み立てられているため,精神科医が読んでも臨場感がある.その背景には,東京医科歯科大学や東京都立広尾病院で精神科医として研鑽を積んだ経験が生きているのであろう.そして,精神障害者の身体合併症のうち救急性のある疾患として40パターンを選び出し読者を納得させる的確さは,救急医として北里大学救命救急センターで最重症の身体合併症に対応してきた実力のなせる業であろう.

組織病理カラーアトラス

著者: 町並陸生

ページ範囲:P.1320 - P.1320

 医科大学あるいは研究所で第一線の病理医・病理学研究者として活躍の方々が自身で撮影した美しい病理組織のカラー写真が,本文383頁の本に613枚と極めて多数収録されている.ここに著者らの考えが如実に現れていると思われる.病理組織学的所見をいくら事細かく文章で表現しても,絶対に真実を正しく表現することができないという考えがわれわれ病理医・病理学者にはある.講義あるいはCPCにはなるべく多くの病理組織像を提示し,できるだけ少ない言葉で説明するのが正しいやり方であると私は考える.口数ばかり多くて実際の肉眼像や病理組織像の少ない発表は信用するわけにはいかない.本書を読むと,できるだけ具体的な病理組織カラー写真を多くし,必要にして十分な最小限の文章を加えた本にしたいと,著者らが病理組織カラーアトラスの理想像を追及する情熱が感じられる.もしかしたら著者らは私の考えそのものを具体化してくれたのではないかとの錯覚に陥る.

 医学・医療は日進月歩であり,最近の画像診断の進歩に目を見張るものがあるが,画像診断は統計学をベースにした診断であって,病気の本当の診断ではない.画像は病気そのものをみているのではなく,病気の影を見ているにすぎない.“このような影を示す病変は何パーセントの確率でこういう病気が考えられる”というのが画像診断である.世の中で大家と称される臨床医の中に最近は画像診断が進歩したので病理解剖を行う必要はなくなった,との考えを持つ人が少なくないのに驚かされる.このような臨床医の診療を受ける患者のことを思うと怒りよりも悲しみを覚える.画像診断の発達により,複雑多岐にわたる人間の病気にはしっかりした病理組織学的裏付けがあることを最近の臨床医は忘れがちで,それが誤診のもとになっているのではないかと私は大いに危惧している.病理診断を行う病理医の務めはできるだけ多数の病理組織標本を診て,臨床医の常識を打ち破る例外を見つけることであると私は考えている.

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編集室より

著者:

ページ範囲:P.1380 - P.1380

●小学生の頃,校庭に「回転シーソー」なる遊具がありました.高い位置にあるハシゴのような形状のシーソーで,向かい合ってぶら下がり,しゃがんだりジャンプしたりを交互に繰り返すのが初歩的な遊び方.上手に操れるようになると,ブランコを漕いだり鉄棒を回ったりする要領で縦方向へ一回転できるのが,その遊具の醍醐味でした.それぞれの力に応じた遊び方ができる一方で,実力が認められないと高度な技には挑戦できないという暗黙の了解のもと,回転シーソーに興じる日々.ところがある日,突然それは使用禁止に.どうやら,「まだ無理」と止められた子どもが,隠れて難しい技に挑戦して怪我をしたらしい.撤去された遊具の跡地で,「オトナはわかってないなぁ」と,溜息したものです.

●当事者が「デキル」「デキナイ」という実力を互いに認め合っていても,門外漢はその基準がよくわからないために,一律の制限を設けたくなるものなのかもしれません.医療界では,「ガイドライン」や「クリニカルパス」にその役割を求める人が少なくありません.本来は,両者とも医療の質を担保するツールにすぎず,医師の診療を縛るものではないにもかかわらず.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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