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文献詳細

雑誌文献

medicina46巻8号

2009年08月発行

文献概要

書評

組織病理カラーアトラス

著者: 町並陸生12

所属機関: 1東京大学 2河北総合病院病理部

ページ範囲:P.1320 - P.1320

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 医科大学あるいは研究所で第一線の病理医・病理学研究者として活躍の方々が自身で撮影した美しい病理組織のカラー写真が,本文383頁の本に613枚と極めて多数収録されている.ここに著者らの考えが如実に現れていると思われる.病理組織学的所見をいくら事細かく文章で表現しても,絶対に真実を正しく表現することができないという考えがわれわれ病理医・病理学者にはある.講義あるいはCPCにはなるべく多くの病理組織像を提示し,できるだけ少ない言葉で説明するのが正しいやり方であると私は考える.口数ばかり多くて実際の肉眼像や病理組織像の少ない発表は信用するわけにはいかない.本書を読むと,できるだけ具体的な病理組織カラー写真を多くし,必要にして十分な最小限の文章を加えた本にしたいと,著者らが病理組織カラーアトラスの理想像を追及する情熱が感じられる.もしかしたら著者らは私の考えそのものを具体化してくれたのではないかとの錯覚に陥る.

 医学・医療は日進月歩であり,最近の画像診断の進歩に目を見張るものがあるが,画像診断は統計学をベースにした診断であって,病気の本当の診断ではない.画像は病気そのものをみているのではなく,病気の影を見ているにすぎない.“このような影を示す病変は何パーセントの確率でこういう病気が考えられる”というのが画像診断である.世の中で大家と称される臨床医の中に最近は画像診断が進歩したので病理解剖を行う必要はなくなった,との考えを持つ人が少なくないのに驚かされる.このような臨床医の診療を受ける患者のことを思うと怒りよりも悲しみを覚える.画像診断の発達により,複雑多岐にわたる人間の病気にはしっかりした病理組織学的裏付けがあることを最近の臨床医は忘れがちで,それが誤診のもとになっているのではないかと私は大いに危惧している.病理診断を行う病理医の務めはできるだけ多数の病理組織標本を診て,臨床医の常識を打ち破る例外を見つけることであると私は考えている.

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1189

印刷版ISSN:0025-7699

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