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雑誌目次

雑誌文献

medicina47巻1号

2010年01月発行

雑誌目次

今月の主題 ズバリ! 見えてくる不整脈

著者: 村川裕二

ページ範囲:P.7 - P.7

1903年12月,ノースカロライナ州.

ライト兄弟の12馬力の飛行機は12秒だけ空中に浮かんだ.

ブレークスルーまでは時間がかかるが,ひとたび動き出せば話は早い.

40年も経たずにジェット機が飛んだ.

 

1903年とくれば,アイントーベンが心電図を報告した年.

少しずつ不整脈のメカニズムもわかってきた.

抗不整脈薬はいろいろできたし,外科的治療も行なわれた.

なのに,どうもすっきりしない.

不整脈の治療にブレークスルーは来なかった.

理解のための25題

ページ範囲:P.141 - P.145

どこにカギがある? 不整脈と抗不整脈薬

心臓の電気生理 ここがわかりにくい

著者: 大塚崇之 ,   山下武志

ページ範囲:P.8 - P.12

ポイント

★不整脈のメカニズムはいまだ不明な点が多く残されている.

★不整脈診療の第1歩は心電図を捉えることと患者背景を把握することである.

★不整脈の機序を理解するうえで心臓電気生理検査は有用である.

★12誘導心電図は不整脈診断の基本である.

抗不整脈薬とはつまり何か?

著者: 清水昭彦

ページ範囲:P.14 - P.20

ポイント

★抗不整脈薬とは,Na,K,Caイオンチャネル,b受容体のブロックにより不応期の延長,伝導ブロックを作成してリエントリ回路を途絶したり,細胞膜安定化によって自動能を抑制して,抗不整脈作用を示す.

★治療効果は,不整脈の原因・種類あるいは個体による差が大きい.

★不整脈治療の目的を考えて治療を行う.

不整脈診断 ここでつまずく

不整脈のリアルワールド

著者: 青柳秀史 ,   沖重薫

ページ範囲:P.22 - P.25

ポイント

★不整脈の種類と重症度を知る.

★薬物治療および非薬物治療対象となる不整脈を知る.

★薬物を適切に使い分ける知識を得る.

★現在の不整脈治療の問題点を知る.

正常亜型でつまずく

著者: 速水紀幸

ページ範囲:P.26 - P.29

ポイント

★正常亜型の判断には,心電図波形以外に年齢・性別・背景疾患などの情報を必要とする.

★副交感神経緊張の関与するものが多いため,正常亜型は若年者に多い.

★洞徐脈や洞房ブロックがあっても一律に洞不全症候群とはいわない.

★R波増高不良は以前の心電図と比較することも重要である.

期外収縮の数にとらわれる

著者: 鈴木敦 ,   志賀剛

ページ範囲:P.30 - P.34

ポイント

★期外収縮をみたら,その数ではなく,まずは基礎疾患の有無およびその背景を考える.

★自覚症状が強い場合や心不全症候を生じる場合,突然死のリスクとなる場合には,治療が必要となる.

非持続性心室頻拍は危険な不整脈か?

著者: 森田典成

ページ範囲:P.35 - P.38

ポイント

★基礎心疾患の有無での非持続性心室頻拍の意義を知っておく.

★低心機能例では,非持続性心室頻拍は突然死予防評価の出発点である.

心房粗動と心房頻拍は他人か?

著者: 古嶋博司

ページ範囲:P.39 - P.43

 心房粗動と心房頻拍.それぞれにどのようなイメージをもっておられるだろうか.おそらく図1aの頻拍は何かという質問に,ほとんどの方が心房粗動と答えるだろうし,図1bを見れば心房頻拍(いわゆるPAT:paroxysmal atrial tachycardia)と診断する方が多いだろう.つまり,図1a,1bそれぞれが心房粗動,心房頻拍の教科書的な例として挙げられているからである.しかし,電気生理学の発展により頻拍の発生あるいは解剖学的機序が解明されてくるにつれ,○○型心房粗動,××性心房頻拍などさまざまな呼び名が生まれた.その結果,混乱を招くこともしばしばである.本稿では心房粗動および心房頻拍の呼び名についての歴史的背景または現時点での考え方などを説明し,頭を整理できたらと期待する.

wide QRS tachycardiaに歯がたたない

著者: 須山和弘

ページ範囲:P.47 - P.50

wide QRS tachycardiaを診断する前に

 wide QRS tachycardia(WQRST)は診断名ではないが,確定診断がつくまで,QRS幅が広い(一般的にQRS幅120ms以上)頻拍を総称してこう呼んでいる.WQRSTには,心室頻拍(ventricular tachycardia:VT),上室性不整脈の変行伝導,顕性WPW症候群に生じた心房細動/心房粗動など多彩な不整脈が含まれる.的確に診断することが重要であるが,多彩な不整脈が含まれるために,診断に苦慮する場合も少なくない1)

 WQRSTが認められたら,まずは血行動態,自覚症状の程度および意識状態を確認することが第一である.さらに,直流除細動器をいつでも使用できるようにスタンバイさせることが重要である.薬物治療を施行する場合でも,血行動態が破綻した場合に備えて直流除細動器を用意しておくことが必要である.

心房細動はいろいろ

著者: 藤木明

ページ範囲:P.51 - P.54

ポイント

★心房細動の発生要因には,急性の要因としては心膜炎など可逆的なもの,慢性の要因としては高血圧や心肥大がある.

★心房細動のトリガーには,肺静脈や上大静脈などからの異常自動能がある.

★心房細動の維持基盤は,不均一な不応期の短縮と間質線維化により生じるランダムリエントリーである.

★心房細動のリモデリングは,頻回興奮によるCa過負荷に対する適応であり,それ自体が細動をさらに維持する.

★心房細動のタイプには,トリガーが主体の発作性,維持基盤が主体の持続性心房細動がある.

ハイリスク患者を見逃す

著者: 草野研吾

ページ範囲:P.56 - P.59

ポイント

★心臓突然死の多くは基礎心疾患を合併した頻脈性不整脈であるが,徐脈(特に房室ブロック)も重要である.

★安静時心電図に特徴的な所見をもつものがあり,心電図から突然死ハイリスク患者を疑うことができる.

Brugada症候群が多すぎる

著者: 西崎光弘

ページ範囲:P.61 - P.65

ポイント

★Brugada症候群は特徴的な心電図異常を示し,心室細動により突然死をきたす疾患として知られている.

★診断上,重要な心電図所見はV1~V3誘導のcoved型および saddleback型ST上昇であり,type 1, 2, 3に分類されている.

★type 1(coved型,J点≧0.2mV)の心電図に加え,症状および家族歴などについて評価することで,本疾患は診断される.

★予後を規定する重要な指標は,症候性および自然発生のtype 1心電図とされている.

★本邦におけるICD治療の適応は,coved型心電図に加え,症状,家族歴,VF誘発性の3指標に基づいて決定されている.

★Brugada型心電図を示す例は健診でしばしば遭遇するが,精査および治療を要する場合は専門医へ紹介すべきである.

QTが長ければQT延長症候群か?

著者: 伊藤英樹 ,   堀江稔

ページ範囲:P.66 - P.68

ポイント

★QT間隔は,実際に用手的に測定する.

★QT間隔の延長を認めた場合,失神歴や家族歴などの問診に加え,運動負荷心電図などの検査を行う.

★QT延長症候群は原因遺伝子によって治療法が異なるため,遺伝子検索を行う.

★心イベントの誘因や心電図の特徴など,多角的に症例を吟味し,有益と思われる治療方針を決定する.

抗不整脈薬の迷路から抜け出す

分類やガイドラインを覚えて役に立つか?

著者: 髙橋尚彦

ページ範囲:P.69 - P.73

ポイント

★Vaughan Williams分類からSicilian Gambitへと移った経緯を知っておく.

★Sicilian Gambitスプレッドシートを覚える必要はないが,エッセンスの理解は必要.

★強力なNaチャネル遮断薬(slow drug)は抗不整脈作用も強いが重篤な副作用も多い.

★心筋梗塞既往例,心機能低下例では使える抗不整脈薬が限られる.

降圧薬のように抗不整脈薬を併用してよいのか?

著者: 庭野慎一 ,   青山裕也

ページ範囲:P.74 - P.77

ポイント

★抗不整脈薬は,種類によって作用発現の部位も様式も異なっている.

★矛盾する作用の薬剤を併用すると,双方の効果を打ち消す可能性がある.

★同効薬剤の併用は,催不整脈作用の発現を増加させる可能性がある.

★複数の抗不整脈作用を必要とする病態において,理論的に併用薬を選択する必要がある.

心房細動はすべてレートコントロールか?

著者: 林英守 ,   住吉正孝

ページ範囲:P.78 - P.81

ポイント

★大規模臨床試験ではリズムコントロールとレートコントロールでは生命予後に差はない.

★多くの大規模臨床試験はintention to treat(ITT)解析である.

★リズムコントロール群のなかに洞調律が維持できない症例が3割程度含まれている.

★リズムコントロールを目的とした抗不整脈薬の効果には限界がある.

★発作性心房細動においてリズムコントロールがQOLを向上させる.

★抗不整脈薬を使用せずに洞調律維持が維持できれば,予後は最も良好である.

心房細動を停めようとする努力は報われるか?

著者: 野呂眞人 ,   杉薫

ページ範囲:P.82 - P.86

ポイント

★低心機能症例や高リスク群には抗不整脈薬を投与しない.

★QOLは洞調律のほうが高い.

★洞調率維持のための投薬を5年以上続ければカテーテルアブレーションにかかる費用と同じになる.

★費用対効果を考慮すると,現時点ではアブレーションが第一選択にはならない.

★若年者では,3剤までは抗不整脈薬を用いて洞調律維持を図るが,薬剤抵抗性であれば,早々にアブレーションを試みる.

催不整脈作用がわからない

著者: 岩崎雄樹

ページ範囲:P.88 - P.90

ポイント

★抗不整脈薬の催不整脈作用は抗不整脈効果の延長として生じる.

★日常診療では,抗不整脈薬の使用に際しては催不整脈作用を十分留意しつつ使用する.

★定期的な心電図検査で催不整脈作用を見逃さないことが大切である.

非薬物治療はいつ考える?

カテーテルアブレーションに向いている心房細動とは

著者: 宮本康二 ,   土谷健

ページ範囲:P.92 - P.96

ポイント

★心房細動に対するアブレーションは,肺静脈の電気的隔離術が基本である.

★有症候性で,薬剤無効な比較的若年者の発作性心房細動はアブレーションの良い適応となる.

★発作性だけでなく持続性心房細動もアブレーションの適応となりうる.

★心房細動のアブレーションは発展途上であり,施設間の成績の差が大きい.

★心房細動のアブレーションで重篤な合併症(心タンポナーデ,脳梗塞等)が生じうる.

症状がなくてもペースメーカーが必要なとき

著者: 網野真理 ,   吉岡公一郎 ,   田邉晃久

ページ範囲:P.97 - P.101

ポイント

★自覚症状がない症例におけるペースメーカー治療の適応

★心房ペーシング機能による慢性心房細動の進展抑制と発作性心房細動の予防

★ペースメーカーを入れるべきではない症例

★ペースメーカー管理と患者指導

ICD(implantable cardioverter defibrillator:植込み型除細動器)とは

著者: 石川利之

ページ範囲:P.102 - P.106

ポイント

★植込み型除細動器(ICD)とは,体内に植え込まれ,自動的に致死的頻拍性不整脈を検出し,抗頻拍ペーシングや直流除細動を施行する器械である.

★陳旧性心筋梗塞や心不全症例においては,不整脈の有無にかかわらず,低心機能であることのみを根拠とした予防的ICD植え込みにより予後が改善することが示されている.

★右側胸部誘導のST上昇を認めるBrugada症候群などの特発性心室細動に対して唯一の確実かつ有効な治療はICD植え込みである.

心房細動と血栓塞栓症が見えてきた

ハイリスクとローリスク

著者: 籏義仁

ページ範囲:P.108 - P.110

ポイント

★心房内血栓による血栓塞栓症の予防は,心房細動患者の治療において重要な課題である.

★CHADS2スコアによる血栓塞栓症のリスク評価は,従来の評価法よりも予測能力が高い.

アスピリンでだめな理由

著者: 丹野郁

ページ範囲:P.111 - P.113

ポイント

★非弁膜症性心房細動の塞栓症予防にはワルファリンがアスピリンに比べて有効である.

★本邦では非弁膜症性心房細動の塞栓症予防にアスピリンが有効であったとする報告はない.

★血管壁,血流,血液の性状の異常に伴う血栓傾向に対して,抗凝固療法(ワルファリン)により血液凝固能を低下させ,血栓塞栓症を予防する.

ワルファリンはこう使う

著者: 山下省吾 ,   山根禎一

ページ範囲:P.114 - P.117

ポイント

★ワルファリンはさまざまな因子に影響され,PT-INRによるモニタリングが必須となる.

★本邦では若年者(≦70歳),高齢者(>70歳)で至適INR値が異なる点に注意が必要である.

★ワルファリン導入はDaily dose法のほか,患者の状況によって外来導入も可能である.

★出血リスクには,高齢者やPT-INR高値のほか,脳梗塞既往,高血圧,転倒などがある.

★ワルファリンによる抗凝固療法はオーダーメイド治療として扱わなければならない.

ほんとに不整脈?

失神=アダムス・ストークスとは言えません

著者: 辰本明子 ,   櫻田春水

ページ範囲:P.120 - P.123

ポイント

★診断の決め手は問診! 既往,家族歴,薬剤,前後の状況・失神の既往や頻度など詳細に.

★頻度と重症度は全く異なる.急性大動脈解離や肺塞栓症は迅速な診断を要する.

★失神と原因疾患は1:1の関係とは限らない.オーバーラップを見逃さないことが重要.

★高リスク群となる因子を念頭に,効率よい診療・検査を.

心臓の病気ではありません

著者: 加藤武史

ページ範囲:P.124 - P.128

ポイント

★脈が速い(遅い)=心疾患とは限らない.

★不整脈と洞性頻脈の鑑別には,心電図所見のみならず心拍数,発症様式,症状,そして経過を観察することが助けとなる.

★安静時に洞性頻脈があれば,それは患者の全身状態不良を示唆しているかもしれないので,原因検索に努めるべきである.

★抗血小板薬(シロスタゾール)や抗うつ薬などの薬剤が頻脈を誘発することもしばしばあるので忘れないようにしたい.

座談会

こんな患者さんをどうしますか?

著者: 村川裕二 ,   山根禎一 ,   中里祐二 ,   杉下靖之

ページ範囲:P.130 - P.140

 高齢化により,不整脈をもつ患者が増加するにつれ,一般内科医が不整脈を診る機会も多くなっている.カテーテルアブレーションなど非薬物治療の進歩により,治療の可能性は拡大した一方,一般内科医にとっては難解な不整脈領域にさらなる悩みの種が増えたことになるのかもしれない.

 本座談会では,心房細動・粗動を中心に,カテーテルアブレーションをはじめとした不整脈治療の実際について,具体的にお話しいただいた.特に,アブレーションに踏み切るタイミングの判断や,アブレーションを施行しないほうがよい症例,また,施行後の薬物療法のコツなど,不整脈の非専門医にとって役立つトピックを盛り込んだ.

連載 手を見て気づく内科疾患・13

カロチン血症,あれ黄疸?

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.3 - P.3

患 者:50歳,女性

病 歴:10年前から慢性糸球体腎炎で外来通院中である.冬のある日の診察時のこと「先生,1週間前から手の色が気になるんです」.

身体所見:手の指,手掌を中心に黄染を認める(図1,2).眼球結膜に黄染は認めない.

 「柑橘類はお好きですか?」とお聴きすると,「大好物です」とのお答え.「ここしばらくみかんを毎日7個食べていました」とのこと.みかんの旬の時期が過ぎたら黄染は自然にとれた.

研修おたく海を渡る・49

メンターはいますか?

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.147 - P.147

 初めてメンターという言葉に出合ったのは,横須賀米軍病院でした.インターンになってすぐに,指導医の一人がメンターとして割り当てられました.このときのメンターというのは,キャリア育成のためのメンターというよりは,慣れない研修生活中の相談役でした.面談で「調子はどう?」と聞かれても,なんだか照れくさくて,いつも“Good”とだけ答えていました.そのうち,彼がどんな研修医だったのか,どうやって専門を決めたのかといった話ができるようになりました.ある指導医はことあるごとに,「おれは,自分が全力で駆けてきた道を,おまえが8割の力で駆け抜けられるように,tips(コツ)を含めて,guide(指導)し,support(援助)する.そのかわり,残りの2割を,自分ができなかった新しいことに使って欲しい」と言っていたのを覚えています.

目でみるトレーニング

著者: 大川豊 ,   小池智幸 ,   阿部靖彦 ,   谷口浩和

ページ範囲:P.148 - P.154

The M&M reports 見逃し症例に学ぶ内科ERの鉄則・5

42歳女性,主訴 頭痛

著者: 長谷川耕平 ,   岩田充永

ページ範囲:P.155 - P.160

救急レジデントH:

 片頭痛の既往のある42歳女性が頭痛のために救急外来受診となりました.いつもの片頭痛のように前兆はなく右の側頭部がズキズキと痛むと訴えていましたが,吐気,嘔吐,羞明はないとのこと.ただいつもより痛みは強く,発症時にもっとも痛くてだんだん良くなってきているとのことでした.

 既往歴は片頭痛とうつ病のみで内服薬はイブプロフェンとパロキセチンで対応しているとのこと.アスピリンや抗凝固薬はなし.身体所見ではバイタルサインに異常はなく,頭部外傷なし,頸部硬直認めず,眼部所見,神経学的所見に異常はありません.

外来診療に差をつけるコミュニケーションスキル・4

診察室の笑い:患者さんの笑いに隠された本当の意味

著者: 長谷川万希子

ページ範囲:P.162 - P.167

事例紹介●治療の説明は堂々巡り,患者さんは何度も笑うけれども……

 ああ,この患者さん苦手なんだ…….診察室に入ってきたのは,苦手な患者Sさん.いつも説明が堂々巡りになって,なかなか診察が終わらない.訴えが多くて,同じ説明を何度しても理解してくれない.Sさんが診察室に入ってきた途端に,どのように診察を切り上げようかと頭を悩ます.

 Sさん(72歳,女性)は,脳梗塞の発作を過去に2回起こしている.利き手の右上肢に軽い麻痺がある.現在は降圧薬を服用していて,リハビリが中心.診察室に入るなり,Sさんは笑いながら「人差し指と親指が力がないんです.いったい普通ならどのくらいで力が出るようになるのか,わかりませんよねえ」.それに答えて「それは,何遍も言いますけれどもね,人それぞれなんですよ」.そこでSさんがふっと笑う.私は説明を続けて,「リハビリを中止したらね,もうそれで終わりですから.もう諦めずに気長にやらないとダメですよ」.

 急いで展開を図りたく,「まあちょっと,血圧測ってみましょうか」.血圧も落ち着いているので,一気に話を切り上げようと,作り笑いをしながら「何とか頑張ってやっていくというようなね.もうダメかなあとか思っても,ずっと続けていくっていうことですよ.ねえ,頑張って」.と励ました.その途端に,「先生,あのう,だいたいどのくらいで元に戻るっていうんですか.元気になるんですよねえ」.……そして今日も,堂々巡りに陥っていく.

書評

診断力強化トレーニング―What's your diagnosis?

著者: 大滝純司

ページ範囲:P.44 - P.44

 これは医学書院の月刊誌『JIM』の連載企画である「What's your diagnosis ?」が再編集されて単行本になったものです.優れた研修医教育で全国的に知られる京都の洛和会音羽病院で毎月行われている,京都GIMカンファレンスで検討された症例が,その連載の基になっています.総合診療の業界では,既に伝説になっている有名な症例検討会です.連載には,重症例や複雑な症例,そして珍しい症例や診断に苦慮した症例が,特にその診断の過程がリアルに紹介されていて人気があります.

 『JIM』には,基本を重視し,頻度の高い症候や健康問題に対する標準的な診療をわかりやすく学ぶのに適している,初心者向けの内容が多いと思いますが,この連載の症例検討は違います.症例の臨床的な情報がひと通り提示されたのちに,「What's your diagnosis ?」と考えされられるのですが,いつもかなり難しくて,私はなかなか診断が当たりません.

市中感染症診療の考え方と進め方―IDATEN感染症セミナー

著者: 山中克郎

ページ範囲:P.60 - P.60

 「いだてん」って,韋駄天(増長天八将軍の一神,小児の病魔を除く足の速い神)? いやいや日本感染症教育研究会こそ「IDATEN」なのである.歴史は古くなんと…大野博司先生(洛和会音羽病院)がまだ研修医だった2002年に,麻生飯塚病院で始められた「病院内感染症勉強会」にさかのぼるという.現在は大曲貴夫先生(静岡県立静岡がんセンター)が代表世話人を務められ,年に2回感染症セミナーが全国で開催される.私は2008年の夏に参加させていただいたが,市中感染症のreviewを豪華講師陣から聞くことができ,実に充実した感動の3日間だった.

 「IDATENセミナーの本が発売されるらしい」との噂を聞き,居ても立ってもいられず馴染みの本屋に注文した.「お~,これぞまさにIDATENセミナーではないか!」冒頭の「感染症診療の基本原則」では,青木眞先生が「発熱=感染症の存在ではない」こと,「CRPや白血球数上昇の程度=感染症の重症度ではない」ことを熱く語られる.

プルキンエ不整脈

著者: 井上博

ページ範囲:P.87 - P.87

 驚くべきタイトルの単行本が上梓されたものである.平成21年7月に京都で開催された日本心電学会と日本不整脈学会の合同学術集会の書籍展示で,最大部数を売り上げたようである.不整脈全体を網羅するものばかりでなく,個々の不整脈を扱った単行本はこれまでにも上梓されている.例えば心房細動,WPW症候群,Brugada症候群などである.これらの不整脈はそれなりにまとまった疾患として認識されており,単行本としても違和感はない.

 「プルキンエ不整脈」という疾患概念はなじみがうすい.左脚後枝に起源を持つベラパミル感受性心室頻拍をまず思い浮かべるが,その他の心室性不整脈については言われてみればなるほどプルキンエ線維が関係しているものもありそうに思われる.このような古い頭に一撃を加えるほどのインパクトを本書は持っている.著者の野上昭彦先生,小林義典先生は心臓電気生理の臨床でこれまで多くの業績を挙げてこられたが,特にプルキンエ線維が関連した心室頻拍や心室細動の研究に関しては第一人者である.

心療内科ケーススタディー―プライマリケアにおける心身医療

著者: 青木誠

ページ範囲:P.119 - P.119

 この度,中野弘一教授執筆の「心療内科ケーススタディー」が上梓された.提示されている25の症例には,臨床に携わる医師ならば誰でも経験するであろう臨床問題がとりあげられている.一般内科の通常外来や救急外来に多い,動悸,胸痛,吐き気,頭痛,めまい感,微熱,眠れない,肩こり,パニック発作などから,診療部門として開かれていれば総合診療科にも依頼されることの多い,他覚的に説明困難な身体症状,うつ病を疑わせる症状など,自分ならどのように診療を進めていくであろうかとケーススタディー形式ならではの引き込まれてしまう展開の中に,著者の豊富な心身医学的ならびに内科学的な知識と長年の治療経験から得られた診察方法や治療方針がQ and A形式で記載されている.愁訴を出発点として器質的ないし機能的疾患はないか,また患者からどのような陽性,陰性情報を収集できれば,その人の置かれている社会や家庭環境の問題,生活習慣の乱れ,心理的ストレスや精神障害の存在に気づくことができるか,身体疾患と心理・精神的問題の両者に目配りしながら診断,治療をすすめる著者の診療を,傍らのベシュライバーの目線で学ぶことができる.

心房細動の治療と管理Q&A―第2版

著者: 杉本恒明

ページ範囲:P.140 - P.140

 心房細動はありふれた不整脈である.加齢に伴って現れる,避けられない種類の病態のように思える.60歳代で1%,80歳以上では5%にみられ,日本では70万人もがこれに悩まされているという.心房細動は生活の質(QOL)を損ない,心不全を悪化させる.ことに年間1ないし5%が脳梗塞を発症し,一方,脳梗塞症例の4分の1が心房細動に由来するといわれる.血栓の予知・予防が重要課題となっている.心房細動にはまず,薬物治療によって対処するが,これにはリズム・コントロールとレイト・コントロールとがあり,一長一短がある.最近,これに日本でのデータが加わった.近年,カテーテル治療が良い成績を挙げるようになった.カテーテル・アブレーション治療の効果は発作性で70%以上,持続性で22~45%となっている.アブレーションは肺静脈を心房から隔離するものであり,この効果から,心房細動の病態理解のための手がかりが得られつつある.

 つまり,心房細動は日常的にみられるがゆえに,臨床医が普段の診療の対象として知っておかなければならない不整脈であり,かつ,特殊治療の選択肢があるが故に,少なくとも知識として病態と治療に関する最新の知見を知っておかなければならない病気なのである.

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編集室より

著者:

ページ範囲:P.178 - P.178

●先日,東京ミネラルショーというものに行ってきました.東京ミネラルショーとは,世界各地から集められた鉱物,化石,隕石,宝石などが並ぶ大展示即売会です.即売会といっても,広い会場に所狭しと設置されたブースに,巨大な恐竜の骨格レプリカや身の丈半分ほどもあるような天然石の原石などがひしめく様子は,さながら博物館のよう.なかでもひときわ目を引いたのが特別展示の変形アンモナイトです.これまで,アンモナイトというといわゆる渦巻き型のものしか知らなかったため,自然界の不思議さに圧倒されました.ちなみにお土産に小さなエビが2匹入った化石を購入.勝手に「えび満月(○河屋製菓)」と名づけてデスクに飾っています.●さて,今号の特集テーマは不整脈です.不整脈というと常に難解なイメージが付きまとう領域ですが,その壁の原因は分類の煩雑さであり,心臓の電気生理の難しさであり,抗不整脈薬の機序の複雑さにあるのではないかと思います.また実際の診療の場では,カテーテルアブレーションなど非薬物治療の進歩による選択肢の拡大も,悩みの種となっているかもしれません.本特集では,不整脈の何が難しく,どこがわからないのかを明らかにし,不整脈の「難しさ」を解きほぐすことをめざしました.また座談会では,アブレーションの話題を中心に,一般内科医の先生方が依頼する際に注意すべき点などについてお話しいただきました.明日からの診療にぜひお役立ていただければ幸いです.(T)

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

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60巻11号(2023年10月発行)

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59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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