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雑誌目次

雑誌文献

medicina47巻10号

2010年10月発行

雑誌目次

今月の主題 Helicobacter pylori―関連疾患と除菌療法のインパクト

著者: 高橋信一

ページ範囲:P.1711 - P.1711

 Helicobacter pyloriが再び注目されている.今では一般市民の間でも「ピロリ菌」として知られ,情報が氾濫する中,胃がんを心配して「除菌をしてください」と外来を訪れる例も多い.このような場合,果たして除菌をすべきかどうか,正確なインフォームド・コンセントが重要となるが,そのため診療側にとって幅広い知識が必要となる.すなわち,単に消化器病学のみでなく,疫学や細菌学,薬学など基礎医学の知識も必要となってくる.やっかいな除菌療法ではある.

 本邦では,2000年に消化性潰瘍を対象に除菌療法が保険適用となったが,初期の頃はあまり一般臨床では用いられなかった.2005年度のノーベル生理・医学賞が「本菌を発見して,その胃炎や消化性潰瘍との関係を明らかにした」オーストラリアの消化器内科医Barry Marshallと病理医Robin Warrenの二人に与えられたが,本邦における除菌療法普及にあまり影響力を示さなかった.

理解のための24題

ページ範囲:P.1826 - P.1829

H. pyloriの基礎知識

H. pyloriの細菌学

著者: 西園晃

ページ範囲:P.1712 - P.1716

ポイント

★H. pyloriは,胃炎,胃潰瘍,十二指腸潰瘍から胃癌,胃MALTリンパ腫発生に至る重要なリスクファクターである.

★らせん状の形態を呈するグラム陰性の桿菌で,微好気性条件下で増殖する.

★ヒトばかりか多くの動物種に固有のHelicobacter属が感染している.

★ウレアーゼを産生し,胃酸を中和することで胃内への定着を可能にしている.

★全ゲノムの比較から,病態や菌株に特有な遺伝子の存在が報告されている.

H. pyloriの感染経路

著者: 奥田真珠美 ,   山本憲康 ,   福田能啓

ページ範囲:P.1717 - P.1720

ポイント

★小児のH. pylori感染率は激減しており,5~10%くらいであり,未来の感染率の低下が予測される.

★感染経路として家族内が重要で特に母-子感染がメインである.

★口-口感染が主と考えられており,感染者の嘔吐物や嘔吐後の口腔内から高率に菌が検出され,感染者が胃腸炎などの際に感染の機会が多くなると考えられる.

H. pyloriの病原機序

著者: 神谷茂

ページ範囲:P.1722 - P.1725

ポイント

★H. pyloriはウレアーゼによるアンモニア産生により,胃酸を中和して胃粘膜に持続感染する.

★VacAサイトトキシンは細胞の空胞化形成作用やタイトジャンクション傷害性をもつ.

★Ⅳ型分泌装置により宿主細胞内に移入したCagAは細胞の形態変化や運動性を修飾する.

★H. pylori感染により誘導されたサイトカイン,活性酸素,一酸化窒素が粘膜傷害の一因となる.

H. pyloriの検査法

感染診断

著者: 伊藤慎芳

ページ範囲:P.1726 - P.1729

ポイント

★H. pyloriの感染診断には抗体や抗原,ウレアーゼを利用する方法,鏡検,培養など多くの方法がある.

★抗体法は血清または尿で可能で,安価で簡便で比較的正確だが,判定困難な場合もある.

★尿素呼気試験と便抗原法は除菌判定を含め繁用されており,比較的正確である.

★胃生検検体による感染診断はサンプル採取部位に左右されることに注意が必要である.

★検査の偽陽性や偽陰性について理解し,必要な場合,複数の検査から判断する.

除菌判定の実際

著者: 田中昭文 ,   徳永健吾 ,   高橋信一

ページ範囲:P.1730 - P.1733

ポイント

★除菌判定は除菌治療薬中止後少なくとも4週以降に行う.

★除菌判定には尿素呼気試験およびモノクローナル抗体を用いた便中抗原測定が推奨される.

★血清抗体測定法は除菌判定には適さない.

★除菌判定時にはプロトンポンプ阻害薬などH. pylori静菌作用を有する薬剤は少なくとも2週間は中止する.

★除菌判定結果が疑わしい場合は,可能な限り経過観察を行い,再検査が望ましい.

H. pyloriの除菌療法

一次除菌の現状と問題点

著者: 河合隆

ページ範囲:P.1734 - P.1736

ポイント

★H. pylori感染率は低下している.ただしCAM耐性H. pyloriが確実に増加している.

★H. pylori一次除菌レジメンは,プロトンポンプ阻害薬/アモキシシリン(PPI/AC)療法のみである.その除菌率は70%前後である.

二次除菌の実際

著者: 永原章仁 ,   渡辺純夫

ページ範囲:P.1738 - P.1740

ポイント

★わが国で保険承認されている二次除菌レジメンはプロトンポンプ阻害薬,アモキシシリン,メトロニダゾールの併用療法である.

★このレジメンは一次除菌不成功例に用いる.

★ジスルフィラム-アルコール反応,ワルファリンの薬剤相互作用に注意する.

三次除菌の展望

著者: 徳永健吾 ,   田中昭文 ,   高橋信一

ページ範囲:P.1741 - P.1743

ポイント

★三次除菌療法は保険適用外であり,確立されたレジメンもない.

★プロトンポンプ阻害薬+アモキシシリン+ニューキノロン系抗菌薬が三次除菌療法の有力な候補である.

★ニューキノロンでは,レボフロキサシンとシタフロキサシンが注目され報告されている.

★高用量プロトンポンプ阻害薬+アモキシシリンの2週間療法も三次除菌療法の候補である.

H. pylori関連疾患における除菌治療のエビデンス

胃潰瘍,十二指腸潰瘍

著者: 鈴木雅之

ページ範囲:P.1744 - P.1746

ポイント

★活動性消化性潰瘍症例では,開放性潰瘍の診断とともに除菌治療を開始し,除菌薬投与終了後も潰瘍治癒が確認されるまで引き続いて抗潰瘍薬を投与すべきである.

★NSAID投与症例では,NSAID投与開始前に除菌を行うことにより薬剤性潰瘍の発症が抑制される.

★NSAIDがすでに投与されている潰瘍症例では除菌は行うべきではない.

★過去に潰瘍の既往がある症例に対して低用量アスピリン(LDA)を投与する場合は除菌が望ましい.

胃MALTリンパ腫

著者: 杉山敏郎

ページ範囲:P.1748 - P.1749

ポイント

★胃MALTリンパ腫はH. pylori感染胃粘膜に生じたリンパ濾胞マージナル層から発生したB細胞性リンパ腫である.

★病理組織学的特徴はlymphoepithelial lesion(LEL)の存在である.

★H. pylori陽性胃MALTリンパ腫の約60~80%は除菌によって退縮する.

★除菌治療無効例では放射線治療が有効である.

特発性血小板減少性紫斑病

著者: 高山信之

ページ範囲:P.1750 - P.1753

ポイント

★本邦においては,H. pylori陽性の慢性特発性血小板減少性紫斑病(ITP)患者に対して除菌治療を行うと,40~60%の症例に血小板の増加が認められる.

★除菌が有効であることから,一部の症例ではH. pylori感染がITPの発症に関与していることが推察されるが,そのメカニズムには諸説あり,まだ十分に解明されていない.

★2010年6月より,ITPに対するH. pylori除菌治療が保険適応となった.

早期癌に対する内視鏡的治療後胃

著者: 加藤元嗣 ,   小野尚子 ,   浅香正博

ページ範囲:P.1754 - P.1757

ポイント

★胃癌は組織型を問わずH. pylori感染に伴う慢性胃炎を背景として発症する.

★早期胃癌治療において,内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の開発や普及によって,内視鏡治療の適応拡大がなされてきた.

★内視鏡的治療後の遺残再発は不十分な内視鏡的治療が原因で起こり,ほとんどが術後2年以内に出現する.一方,内視鏡的治療後の異時性多発癌は稀ではなく,術後長期にわたって発症する.

★H. pylori除菌が内視鏡治療後の異時性多発癌の発生を有意に抑制することが,わが国における多施設共同の無作為化試験で証明された.

★2010年6月,早期胃癌に対する内視鏡治療後胃が保険適用となり,異時性多発癌の予防目的に積極的なH. pylori除菌が望まれる.

消化性潰瘍・慢性胃炎と胃発癌予防

著者: 間部克裕

ページ範囲:P.1758 - P.1760

ポイント

★消化性潰瘍,慢性胃炎の原因となるH. pylori感染は胃癌の確実な発癌因子である.

★H. pyloriに対する除菌治療は胃発癌を予防する.

★除菌療法で胃発癌は予防されるが,除菌後も胃癌は発見されるため内視鏡検査が必要である.

胃過形成性ポリープ

著者: 大草敏史 ,   小井戸薫雄 ,   古谷徹

ページ範囲:P.1761 - P.1763

ポイント

★胃ポリープは胃過形成性ポリープと胃底腺ポリープに大別される.

★胃過形成性ポリープは発赤調ポリープで,胃底腺ポリープは正色調ポリープである.

★胃過形成性ポリープはH. pylori感染陽性,胃底腺ポリープはH. pylori感染陰性がほとんどで,除菌治療で消失するのは胃過形成性ポリープである.

★胃過形成性ポリープは除菌成功例中約80%で平均7カ月後に消失する.

機能性ディスペプシア

著者: 鎌田智有 ,   佐藤友美 ,   春間賢

ページ範囲:P.1764 - P.1766

ポイント

★機能性ディスペプシアとは消化器症状を訴えるものの,画像診断などで異常所見が認められない患者群を指す.

★その病態には胃排出能遅延,胃酸分泌異常,内臓知覚過敏,精神・心理的ストレス,H. pylori感染などが関与する.

★除菌治療の有効性については現在までに一定の見解が得られていない.

★大規模無作為比較試験によるエビデンスが必要である.

逆流性食道炎(GERD)

著者: 福井広一 ,   三輪洋人

ページ範囲:P.1767 - P.1769

ポイント

★H. pylori除菌による胃酸分泌の変化は,除菌前の胃炎の分布および胃粘膜萎縮の程度で異なる.

★最近の前向き試験やメタ解析では,除菌による逆流性食道炎発生に関して統計学的に有意な関連性を認めていない.

消化管以外の疾患(ITPを除く)

著者: 塩谷昭子 ,   鎌田智有 ,   春間賢

ページ範囲:P.1770 - P.1771

ポイント

★特に小児において,H. pylori感染と消化管出血を伴わない鉄欠乏性貧血との関連性が示唆されている.

★鉄欠乏性貧血および特発性慢性蕁麻疹に対する除菌治療の有効性が報告されている.

★動脈硬化,脂質代謝異常症,肥満,糖尿病,骨粗鬆症などの生活習慣病との関与が示唆されている.

★除菌治療の有効性について,特発性血小板減少性紫斑病を除き十分なエビデンスが得られていない.

特殊なH. pyloriの除菌療法

高齢者における除菌療法

著者: 松久威史

ページ範囲:P.1772 - P.1775

ポイント

★高齢者のH. pylori除菌率,副作用の頻度は非高齢者と変わらず,除菌療法を安全に行うことができる.

★除菌療法は若年者に限らず,高齢者においても有用である.

★今後20年間,胃癌罹患者数,死亡者数の増加が予測され,積極的な除菌療法が望まれる.

★合併疾患に対する治療薬がある場合は,治療薬を休薬して除菌療法を行うか,相互作用を起こさない除菌薬に変更し,それが困難な場合は除菌療法を中止する.

合併症を有する患者の除菌療法

著者: 下山克

ページ範囲:P.1776 - P.1778

ポイント

★高度の腎機能障害がある患者にH. pylori除菌を行う場合は,アモキシシリンの投与量に注意が必要である.

★冠動脈疾患などでワルファリン・抗血小板薬が投与されているときはプロトンポンプ阻害薬との薬物相互作用に注意する.

★ワルファリンについてはメトロニダゾール・クラリスロマイシンによる作用増強が報告されている.

長期NSAIDs内服予定者の除菌について

著者: 辻晋吾

ページ範囲:P.1779 - P.1783

ポイント

★高齢,消化性潰瘍の既往などのあるH. pylori感染者では,NSAIDs・低用量アスピリンの連用に先立ち除菌治療を行うことが望ましい.

★潰瘍の既往が不明なH. pylori感染者についても除菌治療がNSAIDs潰瘍の発症リスクを低減する報告がある.

★潰瘍既往歴のないH. pylori感染者に対しアスピリン連用に先立ち除菌を積極的に行うべき根拠は現時点ではない.

H. pylori陽性NSAIDs潰瘍例の除菌について

著者: 樋口和秀 ,   時岡聡 ,   梅垣英次

ページ範囲:P.1785 - P.1787

ポイント

★NSAIDs内服により生じたH. pylori陽性胃・十二指腸潰瘍は,できればNSAIDsを中止し通常の抗潰瘍治療を施行する.

★NSAIDsを中止できない患者においては,H. pyloriの除菌は行わず,プロトンポンプ阻害薬かプロスタグランジン製剤で抗潰瘍治療を施行する.

学会ガイドライン2009をめぐって

Helicobacter pylori感染の診断と治療のガイドライン2009の意味するもの

著者: 棚橋仁 ,   村上和成 ,   藤岡利生

ページ範囲:P.1788 - P.1791

ポイント

★2009年の学会ガイドラインではH. pylori感染者すべてが原則除菌対象となった.

★胃・十二指腸潰瘍は従来どおり,除菌療法が第一選択とされた.

★萎縮性胃炎には,胃癌の発症予防のため除菌が強く勧められると明記された.

★早期胃癌の内視鏡的治療後には再発予防のため,除菌が強く勧められると明記された

自費診療の実際

著者: 水野滋章 ,   加藤公敏 ,   森山光彦

ページ範囲:P.1792 - P.1795

ポイント

★H. pylori陽性者では除菌による胃癌リスク低下が望める.

★2010年8月現在,H. pylori感染診断・治療の保険適応は,胃・十二指腸潰瘍,胃MALTリンパ腫,特発性血小板減少性紫斑病,早期胃癌に対する内視鏡的治療後胃である.

★自費診療での感染診断,除菌後判定には非侵襲的検査が望ましい.

★検査,除菌法,成功率と副作用,除菌のメリットとデメリットなどの説明と同意が必要.

★除菌法は,一次除菌,二次除菌と進めるが,クラリスロマイシン服用歴を考慮して決定してもよい.

★H. pylori除菌後も健診・検診での胃癌スクリーニング検査を勧める.

H. pylori(ピロリ菌)感染症認定医のねらい

著者: 鈴木秀和

ページ範囲:P.1796 - P.1798

ポイント

★2009年,日本ヘリコバクター学会は,保険診療の枠を超え,科学的見解をもとにガイドラインを改定し,H. pyloriは疾患にかかわらず,感染症として治療すべきであるとした.

★2010年6月,健康保険による除菌療法の適用が,胃MALTリンパ腫,特発性血小板減少性紫斑病,早期胃癌に対する内視鏡的粘膜切除術後胃に拡大された.

★日本ヘリコバクター学会はH. pylori感染症に関する豊富な知識や診療技能をもつ医師を育成するために,「H. pylori(ピロリ菌)感染症認定医制度」を創設した.

★H. pylori(ピロリ菌)感染症認定医は,除菌療法に関する一般市民の不安や疑問,また実地医家からの診療上の問題や疑問について相談可能な医師である.

★日本ヘリコバクター学会では,学会ホームページ上で,H. pylori(ピロリ菌)感染症認定医がいてH. pylori感染症の診断・治療を積極的に行っている施設を紹介している.

最近のトピックス

Helicobacter heilmanniiとは

著者: 中村正彦 ,   土本寛二

ページ範囲:P.1800 - P.1803

ポイント

★H. heilmanniiは人獣共通感染症であり,イヌ,ネコ,ブタ,サルでの高率な感染が認められ,ヒトにも感染する.

★胃MALTリンパ腫で陽性率が高く,H. pyloriとともにその成因に関係すると考えられる.

★H. pyloriで用いられる一次除菌薬への反応性はあまりよくない菌も認められる.

★ウレアーゼ陽性菌,陰性菌が存在するため,H. pylori陰性とされてきた症例でも考慮する必要がある.

★鳥肌胃炎などで陽性例が認められ,広範な疾患との関連性が想定される.

H. pyloriの薬剤耐性獲得機構

著者: 林俊治 ,   下村裕史 ,   平井義一

ページ範囲:P.1804 - P.1807

ポイント

★H. pyloriのアモキシシリン耐性は,細胞壁合成酵素であるPBP1の変異によって起こる.

★H. pyloriのクラリスロマイシン耐性は,リボソームの50Sサブユニットに存在する23S rRNAのドメインVの変異によって起こる.

★H. pyloriのメトロニダゾール耐性は,メトロニダゾールを還元して活性型にする酵素の変異によって起こる.

★H. pyloriのニューキノロン耐性は,DNA gyraseの変異によって起こる.

H. pyloriとABC検診

著者: 井上和彦

ページ範囲:P.1808 - P.1811

ポイント

★胃がん発生にはH. pylori感染およびそれに伴う胃粘膜萎縮が強く関与しており,胃がん検診においてもその把握は重要である.

★血清H. pylori抗体と血清ペプシノゲン法の組み合わせによるABC分類で胃の“健康度”評価および胃がんリスク診断が可能である.

★ABC分類だけで胃がん検診ができるわけではなく,適切な画像検査との組み合わせが必要である.

★ABC分類に際し,H. pylori除菌治療後例は別扱いにすべきであり,問診が重要である.

★ABC分類は胃がん検診のみならず,一般消化器診療でも有用となろう.

座談会

より的確なHelicobacter pylori除菌をめぐって

著者: 高橋信一 ,   鈴木秀和 ,   河合隆 ,   松久威史

ページ範囲:P.1812 - P.1824

昨年,日本ヘリコバクター学会から新たなガイドラインが出され,Helicobacter pylori(Hpylori)感染を1つの“感染症”として捉えて積極的に除菌していくことが求められるようになった.6,000万人とも言われるH. pylori感染者に対し,全員が除菌適応となることから,世界的にも非常にインパクトの強いガイドラインと注目されている.本座談会では,改訂されたガイドラインを誤解なく読み解き,H. pyloriの除菌に対して実際にどのように考えて診療に当たればよいかを,今後の展望も含めてご解説いただいた.

REVIEW & PREVIEW

新しい抗てんかん薬で日常診療の何が変わる?

著者: 河合真

ページ範囲:P.1830 - P.1832

 まず,私が成人のてんかん診療を行っている手前,今回は主に成人のてんかん診療を念頭に置いた議論になっていることをご了承願いたい.

連載 手を見て気づく内科疾患・22

爪甲剥離:外傷歴がなければ,サルコイドーシス,乾癬,甲状腺機能亢進,アミロイドーシスを鑑別する

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.1707 - P.1707

患 者:66歳,女性

病 歴:1カ月前から下腿に痛みを伴う盛り上がった紅斑(結節性紅斑)が出現した.1週間前からは37℃台の発熱も出現した.胸部X線写真で両側肺門リンパ節腫脹,皮膚生検では非乾酪性肉芽腫を認め,サルコイドーシス(レフグレン症候群,Löfgren syndrome)と診断した.

身体所見:左小指に爪甲剥離を認める(図1).右示指,環指にも同様の所見を認める.

今日の処方と明日の医学・5

【副作用報告】の必要性

著者: 佐藤淳子 ,   日本製薬医学会

ページ範囲:P.1834 - P.1835

医薬品は,変革の時代を迎えています.国際共同治験による新薬開発が多くなる一方で,医師主導の治験や臨床研究などによるエビデンスの構築が可能となりました.他方,薬害問題の解析から日々の副作用報告にも薬剤疫学的な考察と安全対策への迅速な反映が求められています.そこで,この連載では医薬品の開発や安全対策を医学的な観点から解説し,日常診療とどのように結びついているのかをわかりやすくご紹介します.

目でみるトレーニング

著者: 大前知也 ,   山本光勝 ,   岡本耕 ,   畠山修司

ページ範囲:P.1837 - P.1842

アレルギー膠原病科×呼吸器内科合同カンファレンス・7

肺CTで説明できない労作時呼吸困難

著者: 岡田正人 ,   仁多寅彦

ページ範囲:P.1844 - P.1848

後期研修医(アレルギー膠原病科) 軽度ですが進行性の労作時呼吸困難を訴えている35歳の女性の患者さんです.半年前に出産し3カ月ほど前から,手のこわばり感を自覚し受診しました.診察上,関節炎はなく,手指から前腕にかけての皮膚硬化が認められ,爪床毛細血管異常もあり全身性硬化症の所見(図1)でした.血液検査(表1)で抗Scl-70抗体が陽性で,皮膚生検でも膠原線維の膨化と均質化があり強皮症に一致する所見でした.聴診上は吸気終末にfine cracklesがありましたが胸部X線は正常でした.血清KL-6値も2,000 U/ml以上と上昇しておりましたので,胸部CTをとりました.画像の解説をお願いしてもよろしいでしょうか.

呼吸器内科医 胸部単純X線写真(図2)では両側下肺野で全体的に肺野濃度が上昇している印象がありますが,乳房の影響もあり,明らかな異常陰影として指摘することは難しいですね.胸部CT(図3)では下肺野優位に両側背側,胸膜下に分布する非区域性のすりガラス影を認めます.蜂巣肺はありません.fibrotic-NSIPパターンで,典型的な強皮症による肺病変と言えると思います.強皮症での肺病変の治療はどうしますか.

研修おたく海を渡る・58

「すぐ怒る医者vs.つっけんどんな看護師」~PHSとポケベル~

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.1849 - P.1849

 前回は,すれ違いをリセットする方法について書いてみました.

 アメリカに来て9年目に入りますが,「日本とアメリカの違いは?」とよく聞かれます.仕事から日常生活に至るまで,どこが違うのかあれこれ考えてみたのですが,PHSとポケベルの違いに気がつきました.今回はPHSとポケベルのちがいをテーマに「一呼吸おくこと,おいてもらうこと」の効用について考えてみたいと思います.

外来診療に差をつけるコミュニケーションスキル・13

紛争を呼ばないコミュニケーション

著者: 前田泉

ページ範囲:P.1850 - P.1854

若手の総合内科医にとって,面接がきわめて基礎的な力であると気づくのは,定時の外来を担当するようになってからではないでしょうか.限られた時間とリソースの中で,効率よく,診療の質を担保して,患者との関係を上手に築いていくことができないと,外来日はかなり悲惨な結果となります.食事もままならない,夕方遅くまで終わらない,病棟ナースから嫌な顔をされる…….こうならないように,コミュニケーションスキルを鍛えませんか.

本連載は『コミュニケーションスキルトレーニング――患者満足度向上と効果的な診療のために』(医学書院,2007)を執筆した私たちの仲間が,テキストでは十分に紹介できなかったことも含めて,誰でもが修得できるテクニックや,回避できるピットフォールをご紹介します.ご期待ください.

The M&M reports 見逃し症例に学ぶ内科ERの鉄則・14

62歳男性 主訴 下血

著者: 長谷川耕平 ,   岩田充永

ページ範囲:P.1856 - P.1861

救急レジデントH:

 高血圧の既往のある62歳男性が下血の主訴で救急外来に搬送されました.

 昨日までは特にいつもと変わったことはなかったようですが,今朝より大量の鮮血便が数回あり,めまいがして歩けないため救急車を要請したとのこと.腹痛や肛門部痛はなく胸痛,呼吸困難感も否定しました.

書評

―山本 博徳,砂田圭二郎,矢野 智則 編―ダブルバルーン小腸内視鏡アトラス

著者: 松井敏幸

ページ範囲:P.1729 - P.1729

 小腸内視鏡は,現在学会や研究会で研究対象として隆盛を極めている.また,日本に限らず世界でも臨床応用が急速に進んでいる.その礎をつくられた山本博徳先生の本ができた.過去を振り返ると,カプセル内視鏡(VCE)の臨床応用が始まって間もなくダブルバルーン内視鏡(DBE)が作製された.当時のわれわれの心境は,「そんなの信じられない」であった.間もなく,DBEが実際に現れ,山本先生が指導に来られた.多くの驚きと期待でDBEの使用が始まった.壮大なマジックを見るような思いであった.それまで小生の施設では,小腸疾患の多くはX線検査で診断され,プッシュ式内視鏡や術中内視鏡で確認する作業が行われてきた.それで不自由はないと思ってきた.現在も小腸疾患の初回診断はX線検査が行われ,それは有用性を失ってはいない.ただし,そのような世界は九州のわれわれの関連施設に限られるようである.DBEの挿入技術は著しく進歩している.それに伴いDBEの診断能も日進月歩である.本書では,まず手技に関する総論に相当のページが割かれている.その内容は,DBEの仕組み(なぜ小腸全域を観察できるのか),DBE検査を行うに当たって(知っておくべき基本事項),挿入手技(効率のよい挿入に,基本原理はここでも活きる),偶発症と防止策(特有の偶発症を理解することで,事前に防止できる),治療手技(内視鏡治療の実際)である.DBEが普及し多くの診療に使用されているが,基本に立ち戻って確実で安全な操作をしてほしいとの希望が込められている.DBEの安全性に関する治験が行われ保険申請前でもあり,重要な願いであろう.海外にも極めて多くのDBE使用者がおり,すでにアトラスが出版されている.本書は,それに負けない内容になっていると思われる.

―多賀須幸男,櫻井 幸弘 著―上部消化管内視鏡スタンダードテキスト

著者: 深井学

ページ範囲:P.1746 - P.1746

 消化器内視鏡検査・治療の進歩は,機器の開発や手技の高度化により著しいものがある.それに伴い,検査・治療の質が向上し,成果も飛躍的に現れている.これは内視鏡医の優れた技術と研鑽,そしてメーカーの開発努力によるところが大きいと思うが,質の向上では内視鏡のスタッフとしての内視鏡技師の役割も少なからずあると思われる.内視鏡スタッフの教育では医療現場における内視鏡専門医の熱心な指導が形に現れ,消化器内視鏡学会認定の消化器内視鏡技師資格の取得者も増えている.

 内視鏡スタッフの教育,指導に欠かせないのが教科書となるテキストである.ちなみに筆者が消化器内視鏡にかかわったのは昭和40年代の胃カメラの時代で,スタッフの教育・指導方法がまだ確立していなかった頃であった.そのため,多くの症例写真を見てそれをスケッチすることや解剖学,生理学の書物を読むこととその当時指導していただいた先生方から言われたことが,本書を読み進めるうちに思い出された.本書には正常写真とともに多くの症例が掲載され,さらに挿入過程や観察順序および,疾患,臓器などを図式化して説明が加えられており,間近で講義を受けているような錯覚に陥った.

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編集室より

著者:

ページ範囲:P.1872 - P.1872

●先日,サンゴの発生と変態のようすをとらえたドキュメンタリー映画を鑑賞する機会がありました.満月の後の一斉の産卵,海底をさまよって着生場所を探すプラヌラ幼生など,サンゴが動物であることを再認識させられる幻想的な映像でした.当日は,サンゴの初期ポリプを蛍光顕微鏡で観察するという珍しい機会にも恵まれました.●弊誌の担当になってから,電顕写真をはじめ,内視鏡写真や細胞染色,X線やMRI画像など,普段目にすることのできない貴重な画像を見る機会が増えました.最近もっとも印象的だったのは本号のHelicobacter pyloriの電顕写真.これまでは,H. pyloriのどこにらせんがあるのだろうと思っていましたが,今回頂戴したお原稿の中の写真では,美しいらせんがはっきりと.これは「よりより」じゃないか,とちょっと嬉しくなりました(唐人巻,麻花巻などの名で売られる中華揚げ菓子.田舎の長崎では「よりより」と呼ばれます).●さて,2009年の「Helicobacter pylori感染の診断と治療のガイドライン」改訂により,H. pylori感染者の除菌が推奨度Aとされました.さらに今年6月には,胃MALTリンパ腫,特発性血小板減少性紫斑病(ITP),早期胃癌の内視鏡治療後胃の3疾患が新たに保険適応となりました.これらの後押しにより,患者さんのH. pylori除菌への関心も高まっています.とはいえ,なぜ除菌が必要なのかをきちんと理解している方はまだ多くなく,除菌についての誤解も少なくないようです.本特集では,H. pylori関連疾患における除菌治療のエビデンスを中心に,H. pylori感染症診療のポイントをご解説いただきました.明日からの診療にぜひお役立てください.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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