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文献詳細

雑誌文献

medicina47巻11号

2010年10月発行

文献概要

特集 これだけは知っておきたい検査のポイント 第8集 腫瘍マーカー 消化器系

SLX(シアリルSSEA-1)

著者: 神奈木玲児1

所属機関: 1愛知医科大学先端医学医療研究拠点

ページ範囲:P.532 - P.535

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異常値の出るメカニズムと臨床的意義

 SLXは癌細胞で産生される糖鎖を検出する腫瘍マーカー検査である.検出に用いられる抗体が末端シアル酸とLex糖鎖構造とi-抗原糖鎖構造を併せもつ糖鎖とよく反応することから,シアリルLex-iとも呼ばれる.Lex糖鎖構造とi-抗原糖鎖構造を併せもつ糖鎖は,以前にマウス初期胚に発達時期特異的に発現する胎児性抗原(stage-specific embryonic antigen-1:SSEA-1)に対して作製された抗体の認識糖鎖であり,これにシアル酸が付加した糖鎖であることからシアリルSSEA-1とも呼ばれる.SLXは本糖鎖の測定用に市販されている試薬キットの商品名である.

 正常の上皮細胞には本糖鎖よりも複雑な多種多様な糖鎖が発現している.細胞が癌化する際にこうした複雑な正常糖鎖の合成を行う糖鎖関連遺伝子の一部がエピジェネティックな機構により発現抑制され,糖鎖合成不全が起こる.正常上皮細胞では硫酸化修飾を受けたシアリルLex系統の糖鎖が強く発現しており,癌化に伴って糖鎖の硫酸化に関与する一連の遺伝子のエピジェネティック・サイレンシングが起こる.そのために,癌細胞では本糖鎖のような硫酸基をもたないシアリルLex系統の糖鎖が発現・蓄積するに至る(図1)1, 2).サイレンシングを受ける遺伝子としては,硫酸基転移酵素遺伝子に加え,最近は硫酸基のトランスポーター遺伝子DTDSTのサイレンシングが注目されている.DTDSTには細胞増殖抑制作用があり,この遺伝子のサイレンシングは癌細胞の増殖能の亢進と関連するためである2)

参考文献

1)Kannagi R, et al:Current relevance of incomplete synthesis and neo-synthesis for cancer-associated alteration of carbohydrate determinants. Biochim Biophys Acta 1780:525-531, 2008
expression and accelerates proliferation of colon cancer cells. Cancer Res 70:4064-4073, 2010
3)Kannagi R, et al:Altered expression of glycan genes in cancers induced by epigenetic silencing and tumor hypoxia. Cancer Sci 101:586-593, 2010
predict multilevel N2 disease in non-small-cell lung cancer. Ann Surg Oncol 13:1010-1013, 2006
5)Mizuguchi S, et al:Serum Sialyl Lewis x and cytokeratin 19 fragment as predictive factors for recurrence in patients with stage I non-small cell lung cancer. Lung Cancer 58:369-375, 2007
6)井村裕夫,他:新しい腫瘍マーカー「シアリルSSEA-1抗原」の測定の基礎的検討並びに臨床的有用性.癌と化療15:1315-1321, 1987;ibid. 15:1322-1331, 1987
7)Kannagi R, et al:Quantitative and qualitative characterization of human cancer-associated serum glycoprotein antigens expressing fucosyl or sialyl-fucosyl type 2 chain polylactosamine. Cancer Res 46:2619-2626, 1986

掲載誌情報

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN:1882-1189

印刷版ISSN:0025-7699

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