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雑誌目次

雑誌文献

medicina47巻12号

2010年11月発行

雑誌目次

今月の主題 糖尿病診療Update―いま何が変わりつつあるのか

著者: 小田原雅人

ページ範囲:P.1877 - P.1877

 最近,糖尿病罹患者数は世界的に著明に増加する傾向があり,特にアジア地域は,今後とも糖尿病罹患者が著増すると考えられている.わが国も例外ではなく,2007年の国民健康・栄養調査によると,糖尿病罹患者は890万人,予備軍は1,320万人と報告されている.糖尿病患者においては,慢性合併症の予防が非常に重要な課題であり,生活習慣の改善は,すべての患者に指導する必要がある.前向きのコホート研究や糖尿病の発症予防試験も数多く報告され生活習慣の改善が糖尿病の発症抑制に有効であることも示されてきた.

 糖尿病発症後の患者においては,細小血管症と大血管障害の両方の合併症の予防が重要であることは論を待たない.近年,エビデンスに基づく治療が推奨されるようになり,糖尿病領域においても,1型糖尿病を対象とした大規模前向き臨床試験のDCCT,2型糖尿病を対象とした大規模臨床試験UKPDSをはじめとして,PROactive,ACCORD,ADVANCE,VADT,RECORDなどの無作為化前向き臨床試験の結果が数多く報告されてきている.例えば,新たに2型糖尿病と診断された患者を対象としたUKPDSでは,血糖管理と血圧管理の両方を同時に行うことが細小血管症や心筋梗塞の発症・進展抑制に重要であると明らかにされた.一方,大血管障害の発症・進展抑制には血糖管理や血圧管理だけでなく脂質異常症も含めた危険因子の多面的な管理が重要視されるようになってきている.またUKPDSの長期追跡試験の結果より,血糖管理は早期から行うことが重要であると明らかになってきた.そのほか,さまざまなメタ解析も報告されており,薬剤間の比較など,最新のデータの解釈も重要度が増してきている.

理解のための20題

ページ範囲:P.2016 - P.2019

序章

糖尿病診療をめぐる動向と展望

著者: 門脇孝

ページ範囲:P.1878 - P.1882

ポイント

★わが国では糖尿病患者数が約890万人とさらに増大し,合併症も特に腎症と大血管症が増大している.

★糖尿病を早期診断し早期治療を進めるため診断の第一段階にHbA1cを取り入れた.このHbA1cについては,国際標準化を進める.

★合併症抑制のために,血糖・血圧・脂質を統合的に治療するJ-DOIT3が進行中で,また,日本糖尿病学会の今後5年間のアクションプラン(DREAMS)が発表された.

1型糖尿病の基礎知識

解明が進む1型糖尿病の病態

著者: 川﨑英二

ページ範囲:P.1883 - P.1887

ポイント

★1型糖尿病が発症するまでには,数カ月~数年にわたる前糖尿病期が存在し,膵島β細胞の進行性破壊の結果,β細胞量が約20~30%まで減少すると顕性化する.

★1型糖尿病の発症には遺伝素因と環境因子が関連し,膵島β細胞自己抗原に対する「自己反応性T細胞」の活性化により膵島炎が形成される.膵島β細胞破壊には,それを抑制する制御性T細胞の数や機能も密接に関連している.

★本邦における1型糖尿病は,臨床的に,「劇症型」「急性型」「緩徐進行型」の3つのタイプが存在する.

★緩徐進行型では,GAD抗体のみならず,ほかの膵島関連自己抗体を測定することが進行を予測する上で重要である.

1型糖尿病の疫学―DCCT/EDIC

著者: 瀧端正博 ,   寺内康夫

ページ範囲:P.1888 - P.1891

ポイント

★DCCT(1993年)は1型糖尿病患者の厳格な血糖コントロールが糖尿病細小血管障害の進展を抑制することを示した.

★EDIC(2000年)は早期からの血糖コントロールが糖尿病細小血管障害の進展を抑制することを示した.

★EDIC(2005年)は早期からの血糖コントロールが糖尿病大血管障害の進展を抑制することを示した.

2型糖尿病の基礎知識

病態―いまどこまで解明されたか

著者: 藤坂志帆 ,   浦風雅春 ,   戸辺一之

ページ範囲:P.1892 - P.1897

ポイント

★2型糖尿病は,遺伝因子と環境因子を基盤として,インスリン標的細胞でのインスリン抵抗性と膵β細胞からのインスリン分泌不全の病態が種々の程度で関与して発症する.

★2型糖尿病の増加は,生活習慣の欧米化による過食・脂肪摂取増加と活動量の低下,肥満(内臓脂肪の蓄積)などが大きく関与している.

★内臓脂肪細胞が肥大化すると,アディポネクチンの合成・分泌低下や,レジスチン・TNFαや遊離脂肪酸の分泌亢進,マクロファージのリクルートメントによる炎症性サイトカイン(MCP-1など)の分泌増加をきたし,その結果,インスリン抵抗性が増大し,2型糖尿病が発症する.

疫学―糖尿病実態調査を中心に

著者: 中神朋子

ページ範囲:P.1899 - P.1903

ポイント

★糖尿病実態調査は1997年に開始され,HbA1cが糖尿病有病率や,有病者数の算定に用いられている.

★2007年度の調査では,「糖尿病が強く疑われる人」は約890万人,「糖尿病の可能性を否定できない人」約1,320万人であった.

★10年前の調査に比べ,「糖尿病が強く疑われる人」,「糖尿病の可能性を否定できない人」はそれぞれ約1.3倍,1.6倍程度増加していた.

糖尿病の新しい診断基準

著者: 清野裕

ページ範囲:P.1905 - P.1908

ポイント

★従来の血糖値による診断基準は堅持する.

★診断基準にHbA1cを取り入れる.

★HbA1cのカットオフ値は6.1%(JDS値).

★初回検査で,①空腹時血糖値≧126mg/dl,②75gOGTT2時間値≧200mg/dl,③随時血糖値≧200mg/dl,④HbA1c(現在使用しているJDS値.以下,特に注釈がない場合はJDS値)≧6.1%のうちいずれかを認めた場合は,「糖尿病型」と判定する.別の日に再検査を行い,再び「糖尿病型」が確認されれば糖尿病と診断する.ただし,HbA1cのみの反復検査による診断は不可とする.初回血糖値とHbA1cを測定し,両方が糖尿病型であれば同一採血で糖尿病と診断可能.

★日本糖尿病学会が別に定める日から現在使用しているHbA1c(JDS値)の国際標準値(日本以外で使用されているNGSP相当値)へ移行する(JDS値+0.4%=国際標準値).

血糖の指標と糖尿病発症

著者: 伊藤千賀子

ページ範囲:P.1910 - P.1913

ポイント

★空腹時血糖値が100~109mg/dlの糖尿病発症率は<99mg/dlの約2倍高率なことから正常高値と呼ばれる.

★OGTT判定別に糖尿病発症率をみると,IFGやIGT-1(2時間値<170mg/dl)では正常の2.5倍も高率であった.

★IGT-2(2時間値≧170mg/dl)の糖尿病発症率はIFGやIGT-1の2倍であり,初診から短期間の発症率が高かった.

★健常者の随時血糖値は140mg/dl未満である.

★糖尿病発症の要因は高血糖が最も強く,肥満,高TG血症,年齢,高血圧の順であった.

急性合併症の診かた

糖尿病性ケトアシドーシス・高浸透圧性昏睡

著者: 長澤薫 ,   森保道

ページ範囲:P.1914 - P.1917

ポイント

★高血糖による急性合併症は糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)と高浸透圧性昏睡(HHNC)がある.

★どちらもインスリン欠乏に,感染,手術,外傷,薬剤などのストレスが加わり発症し,意識障害をきたしうる.

★診断はDKAでは高血糖,ケトーシス,アシドーシスを,HHNCは高血糖,高浸透圧血症を証明する.

★治療は生理食塩水を中心とした十分な補液,インスリン療法,電解質の補正である.

低血糖性昏睡

著者: 大川原奈々 ,   石原寿光

ページ範囲:P.1918 - P.1920

ポイント

★意識障害・昏睡患者をみたら,低血糖性昏睡も念頭に速やかに血糖測定を行って診断し,ブドウ糖投与を行う.

★片麻痺やけいれんなど脳梗塞を疑われる症状を示す低血糖症もある.

★重症低血糖・低血糖性昏睡は無自覚性低血糖を起こす患者に発症しやすい.

★無自覚性低血糖の危険因子は,低血糖の反復,長期の罹病期間,血糖コントロール不良,糖尿病自律神経障害などである.

感染症

著者: 松本哲哉

ページ範囲:P.1921 - P.1924

ポイント

★高血糖は好中球機能を抑制するため,糖尿病は感染症の増悪因子である.

★どのようなタイプの感染症であっても糖尿病患者の血糖値を上昇させる.

★糖尿病患者の感染症治療では血糖の積極的なコントロールが重要である.

★糖尿病患者では重症化のリスクを想定して当初から積極的に抗菌薬治療を行う.

慢性合併症の診かた

網膜症

著者: 桐井枝里子 ,   山下英俊

ページ範囲:P.1927 - P.1931

ポイント

★糖尿病網膜症(以下,網膜症)は高血糖による代謝障害が原因の細小血管合併症のひとつである.

★網膜症の主病態は細小血管の障害と考えられており,その障害によって血管透過性亢進,微小血管閉塞,血管新生,網膜浮腫という病態が引き起こされ視力低下に関与してくる.

★初期に自覚症状が乏しいため,放置すると失明に至ることが多い.そのため,糖尿病診断後まもなくからの眼科への定期受診が重要となる.

腎症

著者: 羽田勝計

ページ範囲:P.1932 - P.1934

ポイント

★腎症の評価には,尿アルブミン値の測定とeGFRの算出が必須である.

★治療戦略は,血糖・血圧・血清脂質の集約的管理である.

★降圧薬の第一選択薬は,レニン-アンジオテンシン系抑制薬である.

★的確な治療により,腎症の臨床的寛解(remission)が期待できる.

神経障害

著者: 中村二郎

ページ範囲:P.1936 - P.1939

ポイント

★糖尿病性神経障害の成因として重要と考えられるのはポリオール代謝活性の亢進である.

★糖尿病性神経障害の治療の基本は早期から厳格な血糖コントロールを維持することにある.

★成因に則った治療としてアルドース還元酵素阻害薬が有用である.

★強い自覚症状によりQOLが損なわれる場合には対症療法薬が必要となる.

冠動脈疾患

著者: 石橋俊

ページ範囲:P.1940 - P.1943

ポイント

★糖尿病では冠動脈疾患の合併率が高く,重症化しやすい.

★糖尿病に合併する冠動脈疾患の発症機序は複合的である.

★ハイリスク患者を抽出して,冠動脈疾患のスクリーニングを行うべきである.

★発症・再発予防のためには,生活習慣改善と並行して,血糖・脂質・血圧管理を積極的に行う.

脳血管障害

著者: 大下智彦 ,   松本昌泰

ページ範囲:P.1944 - P.1949

ポイント

★脳梗塞の急性期診療は血栓溶解療法であるt-PAの使用を念頭に置いて,神経所見と画像を有効に利用して短時間で診断からdecision makingが行われる.

★脳梗塞およびTIAの急性期治療および再発予防は,臨床病型に基づいて行われる.

★糖尿病は脳梗塞のリスクファクターであり,特にアテローム血栓性脳梗塞やラクナ梗塞の発症が多い.これまでインスリンなどによる血糖管理は再発予防効果を認めなかったが,インスリン抵抗性改善薬であるピオグリタゾンにて再発予防効果が示されている.

末梢血管疾患(PAD,ASO)

著者: 進藤俊哉

ページ範囲:P.1950 - P.1953

ポイント

★閉塞性動脈硬化症の危険因子として糖尿病は最大の要素である.

★間歇性跛行肢は下肢の予後,生命予後ともに良好であるが,重症虚血肢は双方ともに不良である.

★糖尿病合併の閉塞性動脈硬化症は重症虚血肢が多い.

★ABI<0.9が専門医へのコンサルトのタイミングである.

★50歳以上の糖尿病患者はすべてABIを測定するべきである.

★足病変を発症する前のフットケアが重要である.

大規模臨床試験から見えること

血糖介入試験と心血管リスク

著者: 植木浩二郎 ,   岡崎由希子

ページ範囲:P.1954 - P.1959

ポイント

★糖尿病は心筋梗塞・脳卒中の危険因子である.

★心血管リスクの低減のためには,早期・軽症のうちから積極的に厳格血糖コントロールを図る.

★厳格血糖コントロールとは,単なるHbA1cの低下を意味するのではない.

★進行した動脈硬化がある場合には,低血糖の防止に注意する.

★β細胞の保護を考えた治療を選択する.

★生活習慣の改善を柱に血糖・血圧・脂質に対する統合的治療を行う.

血圧介入試験と心血管リスク

著者: 片山茂裕

ページ範囲:P.1960 - P.1963

ポイント

★高血圧を合併した糖尿病患者では,130/80mmHg未満を目標とした厳格な血圧管理が求められている.

★第一選択薬はACE阻害薬あるいはARBとし,降圧目標に達しない場合には増量するか,Ca拮抗薬か少量のサイアザイド系利尿薬を併用する.

★UKPDSなどの結果からは,降圧薬による厳格な血圧管理は生涯にわたって必要である.

★ACCORDでは,収縮期血圧120mmHg未満を目指した血圧の厳格な管理は,標準管理群に比べて必ずしも心血管疾患を減らさなかった.

★130/80mmHg未満という降圧目標がただちに否定されるわけではないが,わが国進行中のHOMED-BP試験やJDOIT 3試験の結果が待たれる.

糖尿病治療薬の使い方

糖尿病治療薬の使い分け

著者: 柴輝男 ,   坂本健太郎 ,   森瀬敦之

ページ範囲:P.1964 - P.1968

ポイント

★抵抗性改善・インスリン補充のどちらから開始してもよい.

★患者の病態に合わせて第一選択をする.

★コントロール不十分は速やかにほかのカテゴリーの薬を併用する.

★インクレチン系は低血糖頻度が低くインスリンを補充できる.

スルホニル尿素(SU)薬

著者: 藤本新平 ,   稲垣暢也

ページ範囲:P.1970 - P.1973

ポイント

★SU薬は歴史の古い,しかも非常に有用なインスリン分泌を促進する経口糖尿病治療薬である.

★SU薬は,インスリン治療をすべき症例を除外し,食事・運動療法を徹底しても,食前血糖高値である症例に使用する.

★有効限界量で血糖コントロールが改善しない場合は,他剤との併用もしくはインスリン治療の導入を考慮する.

★副作用は低血糖であり食前血糖をモニターし安全面に配慮し使用する.

★DPP-4阻害薬との併用は非常に有効であるが,重症低血糖をきたす可能性を念頭に置き対処する.

ビグアナイド薬

著者: 高橋友乃 ,   小田原雅人

ページ範囲:P.1975 - P.1978

ポイント

★メトホルミンによる乳酸アシドーシスの頻度は低い.

★メトホルミンは2010年より2,250mg/日までの使用が可能になった.

★メトホルミンは,用量依存性にHbA1cを低下させる.

★メトホルミンは,体重増加をきたしにくく,肥満2型糖尿病では,第一選択薬となりうる.

α-グルコシダーゼ阻害薬(α-GI)・グリニド製剤

著者: 大村千恵 ,   綿田裕孝

ページ範囲:P.1979 - P.1982

ポイント

★食後高血糖は,心血管疾患の発症リスクを高め,死亡率を高める.

★α-GI,グリニド製剤はどちらも主に食後高血糖を改善する.

★α-GIの適応は初期の糖尿病患者に限らない.他剤と併用することで食後高血糖を改善する.

★グリニド製剤は食後高血糖が病態の主体の早期2型糖尿病が良い適応である.

チアゾリジン誘導体

著者: 山内敏正 ,   門脇孝

ページ範囲:P.1983 - P.1987

ポイント

★PPARγのアゴニストであるチアゾリジン薬は,内臓脂肪を減らし,脂肪細胞を小型化させる.

★チアゾリジン薬は,アディポネクチンを増やすなどして,インスリン抵抗性・動脈硬化を改善させる.

★チアゾリジン薬は,骨格筋や肝臓などにおける異所性脂肪蓄積を低減させる.

★チアゾリジン薬は,コレステロール引き抜きや,抗炎症・抗酸化ストレスなど,血管壁に対する直接作用も有する.

DPP-4阻害薬

著者: 岩本安彦

ページ範囲:P.1989 - P.1992

ポイント

★DPP-4阻害薬は,DPP-4を阻害し,活性型インクレチンの濃度を高めインスリン分泌を促進する.

★DPP-4阻害薬は,インスリン分泌促進系の経口糖尿病薬で,現在日本ではシタグリプチン,ビルダグリプチン,アログリプチンが認可されている.

★食事療法,運動療法でコントロールが不十分な2型糖尿病患者にそれぞれ単独で,またはほかの経口糖尿病薬と併用される.

★併用可能な経口糖尿病薬は,現時点ではそれぞれ異なる.

★単独投与では低血糖のリスクが低いが,SU薬との併用では低血糖に注意すべきである.

GLP-1受容体作動薬

著者: 竹内淳 ,   𠮷岡成人

ページ範囲:P.1994 - P.1998

ポイント

★GLP-1は消化管由来のホルモンで,膵β細胞を刺激しインスリン分泌を促す“インクレチン”である.

★GLP-1受容体作動薬は血糖値に依存したインスリン分泌作用を有するため,単独使用では低血糖の少ない血糖降下薬である.

★β細胞保護作用,食欲抑制作用,抗肥満作用,心筋保護作用なども期待されている.

★既存の薬剤と全く異なる作用を有するため,SU薬と併用した場合の低血糖のリスクや未知の副作用の可能性など注意する必要がある.

★長期成績,有効症例の特徴,効果的な使用法,安全性など今後の臨床経験の蓄積が待たれる.

インスリン療法

著者: 西村理明

ページ範囲:P.1999 - P.2002

ポイント

★インスリン療法の絶対的適応と相対的適応を知る.

★インスリンの種類は超速効型,速効型,混合型,中間型と持効型溶解の5種類あることを知る.

★インスリン治療の基本は,健常人のインスリン分泌パターンをできるだけ再現することである.

★インスリン投与量の変更は,基本的に「責任インスリン」の増減によって行う.

座談会

生活習慣への介入―変わらないその重要性

著者: 小田原雅人 ,   佐倉宏 ,   勝川史憲 ,   木村肇

ページ範囲:P.2004 - P.2015

糖尿病診療においては,治療の進歩を日常診療へ取り入れるのと同時に,生活習慣への介入が重要課題です.

そもそも生活習慣の改善はなぜ重要なのか,国内外の大規模研究の結果や,解明が進む糖尿病の病態生理を踏まえ,冠動脈疾患予防など糖尿病以外への効果について,ご解説いただきました.また,食事療法と運動療法ではどちらがより重要か,食事療法のポイントや運動の具体例とインスリン抵抗性への影響などのエビデンスを交えてご紹介いただきました.

実地診療で患者さんに生活習慣の改善を実行してもらうための方法など,旧くて新しい悩みとその解決方法が散りばめられています.

REVIEW & PREVIEW

メタボリック症候群に合併するうつと運動療法の有効性

著者: 中津高明

ページ範囲:P.2026 - P.2029

最近の動向

 メタボリック症候群は肥満に軽度の高血圧,脂質異常症,耐糖能異常などを伴う病態である.その病因にはインスリン抵抗性,自律神経異常,アディポサイトカイン分泌異常に加えて未知の因子が複雑に絡み合っている.問題は,この病態を放置すると動脈硬化を介して重篤な脳心血管疾患を起こすことである.一方,この病態は症状が少ないため投薬の継続も難しく,しかも生活習慣も含めた指導管理が必要で,そのコントロールは簡単ではないことを実感している.

 メタボリック症候群が思いのほか治療抵抗性であることから,メタボリック症候群を最近,うつや気分障害の面からとらえ,この病態と向き合おうとする報告が見られ,われわれも同じ必要性を感じている.というのも,当院は高松市郊外の,ごく一般的な患者が来院する病院であるが,循環器内科の外来でも約半数はメタボリック症候群由来の疾患と考えられる.循環器内科を訪れた外来新患にうつの自記式評価尺度であるSDS(Self-rating depression scale)テストを施行し,総スコア50点以上をうつ,40点以上をうつ傾向と定義すると男性の15%,女性の24%がうつと判定された.さらに驚いたことはうつ傾向は男性の45%,女性の54%にも上ることが判明した1).したがって,気分障害への対処も含めた包括的管理の必要性を痛感したわけである.

連載 手を見て気づく内科疾患・23

ヒポクラテス爪:喫煙の影響は手にも現れる

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.1873 - P.1873

患 者:50歳,男性

病 歴:1年6カ前に,関節炎,顔の紅斑,抗核抗体陽性などから全身性エリテマトーデスと診断され,加療中である.タバコは1日20本を20年間吸っていた.全身性エリテマトーデス診断後は禁煙した.

身体所見:両手にヒポクラテス爪を認める(図1).爪が先端に向かい鳥のくちばし状にカーブしており,爪と爪郭の形成する角度が180°になっている.胸郭の前後径が大きく,吸気時の肺底部胸郭の動きが小さい.

目でみるトレーニング

著者: 平岡佐規子 ,   金本素子 ,   石川英二

ページ範囲:P.2020 - P.2025

今日の処方と明日の医学・6

いわゆる【医師主導】とは

著者: 嶋本隆司 ,   日本製薬医学会

ページ範囲:P.2030 - P.2031

医薬品は,変革の時代を迎えています.国際共同治験による新薬開発が多くなる一方で,医師主導の治験や臨床研究などによるエビデンスの構築が可能となりました.他方,薬害問題の解析から日々の副作用報告にも薬剤疫学的な考察と安全対策への迅速な反映が求められています.そこで,この連載では医薬品の開発や安全対策を医学的な観点から解説し,日常診療とどのように結びついているのかをわかりやすくご紹介します.

アレルギー膠原病科×呼吸器内科合同カンファレンス・8

器質化肺炎と腎機能障害で紹介された高齢男性の“関節リウマチ”

著者: 岡田正人 ,   仁多寅彦

ページ範囲:P.2032 - P.2036

後期研修医(アレルギー膠原病科) 今回の患者さんは,関節リウマチにて前医で治療を受けていた72歳男性です.既往歴には22歳で肺結核にて保存的治療,10年前からの嗄声があります.2年半前から指趾関節の腫脹と疼痛が出現し,朝のこわばりも伴っていたため,近医で関節リウマチと診断され,プレドニゾロン3mgとブシラミン100mgにて治療されていました.治療開始から6カ月後には喀血のエピソードがあり,気管支鏡を施行されましたが,病理検査,各種培養検査では確定診断には至らなかったとのことです.この時の胸部画像を取り寄せましたので,解説をお願いしてもよろしいでしょうか.

研修おたく海を渡る・59

新薬を育てる!

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.2037 - P.2037

 日本では,アメリカやほかの国で使える薬がまだ使えないdrug lagが話題としてよく上がります.厚生労働省,PMDA(医薬品医療機器総合機構)による審査が遅い,あるいは厳しいことが一因であるとも言われています.

 では,アメリカでは新薬はどういうプロセスを経て,FDA(Food and Drug Administration)に認可されるのでしょうか.今回は,先日うちのがんセンターで開かれたファイザー社主催の新薬開発ワークショップについて紹介します.

The M&M reports 見逃し症例に学ぶ内科ERの鉄則・15

24歳女性 主訴 自殺企図

著者: 長谷川耕平 ,   岩田充永

ページ範囲:P.2038 - P.2043

救急レジデントH:

 うつ病の既往をもつ24歳の女性が母親に出された処方薬を大量摂取し救急車搬送となりました.今日ボーイフレンドと喧嘩をし,死にたくなって目の前にある薬を飲んだようです.服用は1時間前で,何を飲んだかはわからないとのこと.嘔気とめまい感があるほかは特に無症状で胸痛,腹痛,痙攣などなし.既往歴はうつ病と自殺企図のみで,服薬はセルトラリンのみ.違法薬物は使用していないようです.

 トリアージ時のバイタルサインは体温37.3℃,脈拍55回/分,血圧78/30mmHg,呼吸数16回/分,室内気酸素飽和度97%.血糖値は300mg/dl.意識清明で見当識障害なし.外傷痕なし.瞳孔径3mm,粘膜皮膚で特に乾燥,発汗はありません.

書評

―村川裕二 著―不整脈治療薬ファイル―抗不整脈薬治療のセンスを身につける

著者: 熊谷浩一郎

ページ範囲:P.1924 - P.1924

 本書は2002年に発行された「循環器治療薬ファイル―薬物治療のセンスを身につける」の不整脈治療薬版として執筆された.著者の専門である不整脈について,診療に必要な病態生理・薬理の知識を,実際に臨床で役立てられる範囲の必要最低限に絞って,著者のセンスでわかりやすくユーモアを交えて解説している.

 数ある薬の中で,抗不整脈薬は最も使用が難しく恐ろしい薬の一つである.本来は不整脈を抑える薬だが,効きすぎると逆に新たな不整脈を引き起こすという両刃の剣のような作用をもっている.病気を治す薬が,その病気を増悪させるような薬はあまりない.場合によっては,かえって予後を悪化させることもある.ほとんどの抗不整脈薬の副作用の欄には,洞停止,心停止,心室細動,心室頻拍,心不全,房室ブロック,失神,心原性ショック等が記載されてある.要するにこの薬を飲むと死ぬことがあるということである.また,なかには劇薬・毒薬指定もある.こんな恐ろしい薬はなるべくなら出したくないと思うかもしれない.

―岩田健太郎,豊浦麻記子 著―感染症外来の帰還

著者: 青木眞

ページ範囲:P.1939 - P.1939

 本書は『感染症外来の帰還』と文学的なタイトルがついているが,優れた内科・小児科領域の感染症に関する外来診療マニュアルである.

 自分が80年代前半に渡米し,内科専門のプログラムでインターンとして働き始めたとき,仲間が「メドゥピーズ」(英語でMed-Pedsと書く)という聞き慣れないプログラムの研修医であると聞いた.Med-Pedsとは,内科と小児科の両者の訓練を受け,2つの領域の専門医資格を4年間で取得するというプログラムである.都市部における外来診療の核となるべき2つの専門性を一度に短期間で取得できるということで,特に将来開業をめざす医師たちに人気が高い競争の激しいプログラムであった.内科と小児科,両専門領域の感染症をカバーする本書も外来の実態に即した,現場のニードにマッチした本である.

―切池信夫 著―摂食障害―食べない,食べられない,食べたら止まらない 第2版

著者: 古川壽亮

ページ範囲:P.1959 - P.1959

 大阪市立大学大学院神経精神医学教授,切池信夫氏の名著『摂食障害―食べない,食べられない,食べたら止まらない』の第2版が出版された.2000年に出版された初版のタイトルを見たとき,「なんと上手にエッセンスをサマライズしたサブタイトルなのだろうか」と,その洒脱さに脱帽し,そこに至る背景にあるに違いない臨床経験の厚みにひそかに感嘆した.そしてその数年後,大阪市大を訪問して切池先生と親しく話をさせていただき,「なるほど,この先生にしてこの名著あり」と,膝を打つ思いがしたことを今でも覚えている.その切池氏が,ライフワークとしてさらに研鑽を重ね,氏ご自身の第2版の序の言葉を借りれば「初版を上梓してから,日常診療において日々工夫を重ね実施している治療法を中心に改訂」されたのが,第2版である.

 何を隠そう,私自身は摂食障害と聞くと,「う~~ん,大変そうだな」という考えがまず頭をよぎり,そこはかとなくいすの上で居住まいを正してからでないと患者さんに会えない,普通の全般精神科医であるが,そういう精神科医であるからこそ,本書とそのバックボーンとなっている大阪市大での臨床と臨床研究にさまざまな示唆をいただきながら日々の診療をさせてもらえる.

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あとがき

著者:

ページ範囲:P.2052 - P.2052

●「母親が糖尿病だと,子どもが糖尿病になるリスクが高い」という文章を目にしたのはいつの頃でしたか,当時は「そうか,食習慣が糖尿病に影響するから,調理する人に左右されるのだ」と勘違いしておりました.時が流れて,母性遺伝するミトコンドリア遺伝子の多型が1つの因子らしいということを知り,経験知はいつしか科学的知識に裏付けられるのだという静かな感動を味わいました.●次々と公開される大規模臨床研究の成果をどう読み解くか,新しく開発され続ける治療薬をどう日常診療へ取り入れるか.医師には,常に科学的な態度が求められます.その一方で,患者が科学だけでは割り切れない存在であることに耐える力が,日常診療を支えているのだと感じます.●私事ですが,もう何十年も糖尿病を患っている祖母が,ほかの疾患を理由に急性期病院へ入院しました.回復期病棟へ転院したものの自宅へ戻る目処がつかず,介護系施設へ入所することになりました.そこでは,施設の売り上げを伸ばすために,包括されている医療費を抑えるインセンティブが働き,縮小医療となる実態を目の当たりにし,愕然としました.●科学的根拠に基づいた医療が,介護保険制度のために,提供されなくなるなんて.高齢になるほど,医療と介護を明確に線引きするのは難しいはずです.せっかくの医療の成果を台無しにするような制度設計の見直しを切実に感じた経験でした.●糖尿病の発症予防や進展予防のための生活習慣こそが,健康な生活である――特集座談会のメッセージを胸に,夏太りを解消し,食欲の秋を乗り切りたいと思います.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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