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雑誌目次

雑誌文献

medicina47巻13号

2010年12月発行

雑誌目次

今月の主題 これ血液悪性疾患?自分の守備範囲?―非専門医のための見分け方

著者: 緒方清行

ページ範囲:P.2059 - P.2059

 血液を専門としない医師が日常診療や健診などでリンパ節腫脹や血算異常を診た場合,リンパ腫や白血病を疑うべきか,血液内科医に診せるかどうか,悩むケースが多い.一方,実際に血液内科へ紹介されるなかには,血液疾患ではないケースも多く,地域によっては,血液内科医の診療へのアクセスが容易でない場合もある.また,最も多い造血器腫瘍である非Hodgkinリンパ腫は,全身のあらゆる部位が原発になりうるという特徴がある.血液内科医以外の方が造血器腫瘍を治療する機会は少ないが,診断の端緒は,プライマリケア医をはじめ,すべての診療科の医師に依存している.さらに,専門医での治療を終えた造血器腫瘍患者のフォローを依頼される機会は増加する傾向にあり,造血器腫瘍の診療の基礎知識は重要である.

 そこで本特集では,造血器腫瘍,特に白血病・リンパ腫・骨髄腫について,非専門医の方々へ向けて,①病歴,身体所見,検査所見からどのように白血病・リンパ腫を疑うか,②白血病・リンパ腫を疑ったとき,どのように判断し,どのような場合に血液内科医に紹介するか,③専門医での治療を終えた患者をどのようにフォローアップするかを中心に,実践的なガイドを企画した.読者の方々の日常診療のお役に立てば幸いである.

理解のための26題

ページ範囲:P.2206 - P.2210

Editorial

造血器腫瘍における過度の懸念や見逃しを避けるために

著者: 緒方清行

ページ範囲:P.2060 - P.2061

ポイント

★造血器腫瘍は稀ではない.

★造血器腫瘍はどの診療科でも遭遇する可能性がある.

リンパ節腫脹:考え方とリンパ腫を疑う場合

リンパ節腫脹をどう診るか

著者: 中村恭子

ページ範囲:P.2062 - P.2067

ポイント

★1cm未満のリンパ節は有意な腫大ではない.

★リンパ節腫脹の原因は大半が反応性である.急性上気道炎などのよくある疾患から疑おう.

★腫瘍性リンパ節腫脹は固形癌の転移が多い.

血球異常:考え方と血液悪性疾患を疑う場合

血球異常総論

著者: 田村秀人

ページ範囲:P.2068 - P.2071

ポイント

★基準値は全体の95%を含み,平均値±2SD~平均値±3SDは境界値と呼ばれる.

★境界値が検出されたときは,その患者の健常値をもとにして病的意義があるかどうかを判断する.

★異常が単独か複数の系統か,付随する異常があるかどうかが診断上重要である.

白血球異常をみたら

著者: 山口博樹

ページ範囲:P.2072 - P.2076

ポイント

★薬剤歴,貧血や出血症状,リンパ節腫脹,肝脾腫のチェックは重要である.

★白血球分画において,芽球などの異常な細胞の有無や,増加・減少している細胞を確認することは大切である.

★血液疾患が疑われる場合は,バイタルサインに異常を認める症例,出血症状やDICを認める症例,芽球が著明に増加している症例は早急に専門施設を紹介受診させるべきである.

★慢性白血病の場合は,白血球数が高値であっても緊急性がない場合がある.

血小板異常をみたら

著者: 山口博樹

ページ範囲:P.2078 - P.2081

ポイント

★明らかな出血症状がなく,血小板減少のみが認められた場合は,まず偽性血小板減少症を鑑別する.

★血小板減少症の原因として,薬剤性や血液疾患以外によるDICも少なくないので,血液疾患を疑う前にしっかりと鑑別する.

★ほかの血球異常を伴う血小板減少は,血液疾患の存在を強く示唆しており,血液専門医への紹介が必要である.

貧血と赤血球増多をみたら

著者: 田村秀人

ページ範囲:P.2082 - P.2087

ポイント

★貧血患者は正確な病歴聴取,CBC,血液像,網赤血球数,トランスフェリン飽和度などで評価する.

★血小板減少,白血球の数や形態の異常を伴えば,骨髄検査を考慮する.

★赤血球増多では,他系統の血球増加,脾腫,血清エリスロポエチン値をみて診断する.

その他の検査値異常―HTLV-1抗体陽性,sIL-2R高値など

著者: 中村恭子

ページ範囲:P.2088 - P.2093

ポイント

★HTLV-1抗体陽性者のほとんどは発症せずに一生を終える.

★HTLV-1キャリア判定には,Western blot法による確認検査が必要.

★HTLV-1キャリアがATLL(成人T細胞白血病/リンパ腫)を発症する頻度は年間3万人当たり1人である.

★授乳制限により,HTLV-1伝播が抑止されることを知っておく.

★sIL-2Rの数値に診断的有用性はない.

★総蛋白の相対的高値は骨髄腫が疑われるため,要注意である.

血液悪性疾患のコンサルテーション

白血病を疑ったとき

著者: 前田智也 ,   松田晃

ページ範囲:P.2094 - P.2096

ポイント

★白血病の緊急性は,急性白血病か否か,DICや感染症の併発の有無が判断材料となる.

★白血球分画検査は塗抹標本の顕微鏡下による目視法で行い,特に芽球の有無に注意する.

★急性白血病を疑った際の赤血球造血能の評価には,ヘモグロビン値と網状赤血球数の絶対数を用いる.

リンパ腫を疑ったとき

著者: 吉永健太郎 ,   泉二登志子

ページ範囲:P.2098 - P.2100

ポイント

★リンパ節生検は,施行する部位や各種検査法をあらかじめ血液内科医と打ち合わせを行い決定したうえで実施する.

★リンパ腫の診断は免疫染色を含めた病理,細胞表面形質,染色体・遺伝子検査などから総合的に判断し,病理医との検討も必要である.

骨髄腫を疑ったとき

著者: 佐々木純 ,   小松則夫

ページ範囲:P.2102 - P.2103

ポイント

★臓器障害を伴うM蛋白血症は治療対象となる可能性が高く,早期の専門医紹介を勧める.

★骨髄腫すべてにM蛋白血症があると思ってはいけない! Bence Jones protein(BJP)型や非分泌型では血清M蛋白を認めない.

血液悪性疾患にみられる対応を急ぐ合併症

著者: 村山徹

ページ範囲:P.2104 - P.2107

ポイント

★血液悪性疾患にはDIC,高Ca血症,重症感染症,腫瘍融解症候群などの対応を急ぐ合併症がある.

★これらの合併症については専門医に紹介するまでに一般医が対応を迫られるものもあり,対処法は知っておかなければならない.

血液悪性疾患の疫学と分類

血液悪性腫瘍の疫学

著者: 松尾恵太郎 ,   伊藤秀美

ページ範囲:P.2108 - P.2112

ポイント

★血液悪性腫瘍の罹患率は低くない,つまり日常臨床で遭遇しうるレベルである.

★血液悪性腫瘍の罹患数・罹患率は増加傾向である.

白血病の分類

著者: 鈴木律朗

ページ範囲:P.2114 - P.2124

ポイント

★血液腫瘍の分類は「白血病かリンパ腫か」でなく,「骨髄性かリンパ性か」という由来細胞に基づく分類に移行しつつある.

★遺伝子異常によって分類する動きが加速している.

悪性リンパ腫の新WHO分類―研修医と非血液専門医のための実戦的活用法

著者: 細根勝

ページ範囲:P.2126 - P.2135

ポイント

★新WHO分類では造血器腫瘍を大きく骨髄系,リンパ系,組織球・樹状細胞系の3つに分ける.このうち,リンパ系腫瘍はB細胞性リンパ腫,T/NK細胞性リンパ腫,Hodgkinリンパ腫,免疫不全に伴うリンパ増殖異常症の4つに分けられる.

★リンパ系腫瘍の新WHO分類は「疾患単位」という基本項目の膨大なリストから形成されており,この「疾患単位」の成り立ちを十分に理解することが分類把握への鍵となる.

★新WHO分類を正しく利用するためには,従来の病理形態診断のみでは不十分であり,免疫学的表現型解析,遺伝子診断,染色体分析,FISH法などを組み合わせた総合診断が不可欠である.

血液悪性疾患治療の現状

治療の進歩と予後の改善

著者: 脇本直樹

ページ範囲:P.2136 - P.2138

ポイント

★急性白血病の治療の主体は化学療法であるが,一部に分子標的薬が用いられる.

★Ph陽性急性リンパ性白血病と慢性骨髄性白血病に対しては,イマチニブが有効である.

★びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に対しては,リツキシマブ併用化学療法が行われる.

★多発性骨髄腫の新規治療薬としてボルテゾミブなどが登場し,予後が改善しつつある.

急性リンパ性白血病

著者: 石川真穂 ,   矢ヶ崎史治

ページ範囲:P.2140 - P.2145

ポイント

★成人急性リンパ性白血病(ALL)の完全寛解率は約70%であるが,再発率が高く,長期生存率は30~40%である.

★フィラデルフィア(Ph)染色体陽性ALL(Ph+ALL),Burkitt型に対しては層別化治療が適応される.

★思春期・若年成人ALLに対しては,成人プロトコールよりも小児プロトコールの治療成績が良好であることが示唆され,小児プロトコールの適応が試みられている.

★予後不良因子を有し,化学療法のみでは治癒を得ることが困難な症例においては,寛解後療法に同種造血幹細胞移植を行うことにより治療成績が向上することが,前方視的無作為化比較試験(genetic randomization)で明らかにされた.

急性骨髄性白血病

著者: 麻生範雄

ページ範囲:P.2146 - P.2147

ポイント

★急性骨髄性白血病(AML)の予後予測因子:年齢のほか,染色体異常により予後良好群,中間群,不良群に分類される.正常染色体例においてもFLT3NPM1CEBPAなどの遺伝子変異が予後を左右する.

★同種造血幹細胞移植の進展:ドナーはHLA一致の家族,骨髄バンク,臍帯血バンクと拡大した.55歳以上にも可能な骨髄非破壊的移植も開発された.

慢性リンパ性白血病

著者: 青木定夫

ページ範囲:P.2148 - P.2149

ポイント

★慢性リンパ性白血病はCD5,CD23陽性の成熟リンパ球の低悪性度リンパ系腫瘍である.

★免疫グロブリン遺伝子の体細胞変異の有無やその代替因子,染色体異常などの予後因子が知られている.

★初回治療はリン酸フルダラビン単独で有効なことが多い.

★予後不良因子を有する例に対する多剤併用療法や新薬による治療は,臨床試験できちんと検証すべきである.

慢性骨髄性白血病

著者: 宮村耕一

ページ範囲:P.2150 - P.2152

ポイント

★慢性骨髄性白血病(CML)は,染色体転座により造血幹細胞に恒常的活性化が起こることが病因である.

★数年の慢性期後に急性転化を起こし,造血幹細胞移植だけが根治療法であった.

★近年,分子標的薬イマチニブの登場により,劇的な予後の改善がみられた.

Hodgkinリンパ腫

著者: 伊豆津宏二

ページ範囲:P.2153 - P.2155

ポイント

★限局期(stage I, II)Hodgkinリンパ腫に対しては放射線併用化学療法(CMT)を行うのが原則である.CMTではABVD療法を2~4コース行った後に局所放射線療法を行う.

★進行期(stage III, IV)Hodgkinリンパ腫に対する標準的治療はABVD療法である.より強力なBEACOPP療法も報告されているが,短期・長期の合併症の頻度が高い.

★現在のHodgkinリンパ腫の治療終了時効果判定規準では,CTで腫瘤が残存した場合でもPET陰性であれば完全奏効と判断される.

非Hodgkinリンパ腫

著者: 木下朝博

ページ範囲:P.2156 - P.2158

ポイント

★病型や病期,予後因子などに基づいて治療方針を決定する.

★B細胞リンパ腫はT細胞リンパ腫より予後がよい.

★抗CD20モノクローナル抗体リツキシマブによって,B細胞リンパ腫の治療成績が向上した.

多発性骨髄腫

著者: 半田寛 ,   村上博和

ページ範囲:P.2159 - P.2161

ポイント

★骨髄腫は現状では治癒が期待できない腫瘍であるため,治療適応,治療開始時期,治療終了時期を見きわめる.

★自家移植適応患者とそれ以外を区別する.

★骨病変,腎障害,脊髄圧迫による神経障害などの随伴症状と対処法を知っておく.

骨髄異形成症候群

著者: 宮﨑泰司

ページ範囲:P.2162 - P.2164

ポイント

★骨髄異形成症候群は造血幹細胞の異常で生じ,無効造血と白血病移行を特徴とする.

★骨髄・末梢血形態学的所見(芽球,血球異形成),染色体所見が診断に重要である.

★脱メチル化薬,レナリドミドなど,分子標的薬剤が新たに導入されてきている.

血液悪性疾患のフォローアップを依頼されたら

白血病と骨髄異形成症候群

著者: 坂巻壽

ページ範囲:P.2166 - P.2170

ポイント

★急性白血病のフォローアップは投与薬剤の副作用と白血病再発・再燃のチェックが重要である.

★慢性骨髄性白血病では近年新規分子標的薬が多数登場しているが,それぞれの薬剤には特異な副作用がある.

★骨髄異形成症候群のフォローアップでは現病の増悪に注意する.輸血依存の患者では輸血の急性期の副作用のほかに鉄過剰にも注意が必要である.

リンパ腫

著者: 山口素子

ページ範囲:P.2172 - P.2175

ポイント

★リンパ腫は造血器腫瘍で最も頻度が高く,病診連携が望ましい疾患である.

★フォローアップの際には自覚症状と,診察時所見に注意する.

多発性骨髄腫

著者: 三輪哲義

ページ範囲:P.2176 - P.2182

多発性骨髄腫のフォローアップの基となる2010年時点での骨髄腫の考え方

 多発性骨髄腫(multiple myeloma:MM)の治療は,最近10年の間に飛躍的な進歩を遂げた.以前はMP(メルファラン+プレドニゾロン)療法などのアルキル化薬+ステロイド療法が主な治療法とされた.この治療法では,一時期病勢が制御される時期があってもやがて不応性となり,平均して数年で亡くなられる予後不良の疾患とされてきた.

 しかし最近では若年者MMに対する自家造血幹細胞移植の定着,高齢者MMに対するMP+新規薬剤の併用療法などで,原病の長期にわたる制御が得られるに至った.自家造血幹細胞移植施行例では,全国平均では平均生存期間が55カ月とされており,MP療法を明らかに凌駕している.当科でも200例を超える造血幹細胞移植を実施しているが,支持療法を工夫した造血幹細胞移植では5年生存率約80%,8年生存率約60%の成績を得るに至っている.また,以前催奇性が問題となり禁止薬とされていたサリドマイドは血管新生抑制作用が催奇性に影響する反面,栄養血管が発達した腫瘍に奏効することが確認された.特に骨髄腫では腫瘍細胞由来物質により骨髄腫増殖巣近傍に栄養血管が発達していることを反映してか,サリドマイドが骨髄腫に奏効することが確認された.サリドマイドに続いてその誘導体のレナリドマイドなども開発され,診療に用いられるに至った.この両者の薬剤は血管新生抑制作用に加え,直接的な抗骨髄腫作用,骨髄腫の増殖を抑制するeffector cell増強作用など多様な作用があることが解明された1).特に抗腫瘍免疫に関与する細胞を調節する薬物という意味から,IMIDs(immunomodulatory drugs)と総称されている.

同種造血幹細胞移植後

著者: 神田善伸

ページ範囲:P.2184 - P.2190

ポイント

★同種造血幹細胞移植後の患者のフォローアップでは専門的な知識が要求される場面があるが,重要なポイントを把握していれば,一般内科医が専門医と連携しながらフォローアップすることは可能である.

★感染症の対策のためには,患者の免疫状態を把握することが重要である.

★慢性GVHD(移植片対宿主病)の診断のためには特徴的な症状を知る必要がある.

★その他の長期合併症や再発のモニタリングについても定期的な検査が求められる.

コラム

血液臨床の魅力

著者: 杉浦勇

ページ範囲:P.2192 - P.2193

ポイント

★血液臨床の魅力は病気の発生機序に合わせた治癒的治療法を駆使して,腫瘍疾患でさえ治癒に至らせることができる点にある.

★全身の臓器が診療対象となり,生死に接する機会が多く,人の生涯を考慮した診療を要求されることから,内科のなかでも最も内科的診療科である.

血液研究の魅力

著者: 三谷絹子

ページ範囲:P.2194 - P.2195

発症原因の解明により,巧妙な生命の仕組みに触れる

 医師を志した人で,生命現象に興味のない人はいないであろう.病気は正常な生命現象の裏返しである.疾患の発症原因を解明することは,破綻した生命現象を理解することであり,そのことによって,あまりに巧妙に創造された生命の仕組みに触れることができる.これは,基礎研究者には与えられていない臨床家の特権である.がん研究,特に血液腫瘍の研究において,多くの場合にみえてくるのは(細胞の集合体である臓器の機能の異常ではなく)一つひとつの細胞が営む増殖・分化などの制御の異常である.すなわち,細胞レベルでの制御がはずれた生命現象である.これを本格的に研究するには,分子生物学,細胞生物学,発生工学の基礎が必要であり,得られる喜びも大きいが,そう簡単なことではない.

座談会

血液悪性疾患が気になるとき,気にすべきとき

著者: 緒方清行 ,   中村恭子 ,   引野幸司 ,   安井美沙

ページ範囲:P.2196 - P.2205

白血病,悪性リンパ腫および骨髄腫の治療は著しく進歩しており,よい状態を維持したり,治癒できる例が増えています.しかしその方法は,速やかに強力な化学療法を行うものから,治療を急がない,あるいは経過観察するものまで疾患によりさまざまです.

これらの治療の多くは血液専門医が担当しますが,全身のあらゆる部位が原発になりうる「どの診療科でも遭遇する腫瘍」であることから,診断の端緒はプライマリケア医をはじめ,すべての診療科の医師に依存しています.そこで本座談会では,日常診療で血液悪性腫瘍をどのようなときに疑うか,またフォローアップをどう行うかについて,診療経験を踏まえお話しいただきました.

SCOPE

事前確率の重要性―「心配だからMRIを撮ってほしい」と言う患者を例に

著者: 名郷直樹

ページ範囲:P.2211 - P.2214

ある患者

60歳の女性.1週間くらい前から後頭部のあたりがなんとなく重い.「これは頭の中に何か異常でもあったら大変だ.脳梗塞だといけない.MRIを撮ってもらおう.」

RECOMMENDATION

診療に生かすPDA

著者: 松山剛

ページ範囲:P.2215 - P.2215

PDAとは?

 iPhoneが登場して,スマートフォンという言葉が少し耳慣れてきたこの頃.それでもPDAとなると,なじみのない方が多いのではないでしょうか.PDAは「携帯情報端末(Personal Digital Assistant)」の略で,手のひらにすっぽり収まる大きさの個人用情報管理ツールです.最近話題のスマートフォンも,PDAの一形態です.

 PDAとして最も有名なのは,米国Palm社が作ったPalmでした.ボタン1つですぐに起動し,使い勝手がよかったことから欧米の医療関係者に大変人気となり,教科書や薬剤情報,患者管理,その他有益なソフトが数多く公開されています.ePocratesという薬剤情報ソフトを使うためにPalmを購入する,という医師さえ少なくありませんでした.公的機関や大学などからもPalm用の情報が提供され,学会でもPalmのためのセッションが用意されました.日本ではかつてSONYからClieというPalmが発売され,小さなブームが起きました.Clieの販売が終了して,日本でのPalmブームは去りましたが,本家Palm社ではまだ後継機種が発売されており,依然として欧米の医療関係者には重要なツールとなっています.

連載 手を見て気づく内科疾患・24

爪下線状出血斑,先端紅痛症:鑑別が重要

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.2055 - P.2055

患 者:74歳,男性

病 歴:1カ月前から両手指先の疼痛,しびれ感,冷感が出現した.近医を受診したところ,しもやけと言われた.手を下におろすと痛みが増悪し,挙上すると痛みが軽快する.寒冷刺激で指先が白くなることはない.

身体所見:指先は軽度赤みを帯び,右母指,小指の爪下に小さな出血斑を認める(図1).

目でみるトレーニング

著者: 安藤智恵 ,   浦田秀則 ,   清水紀宏 ,   横山洋紀

ページ範囲:P.2216 - P.2221

アレルギー膠原病科×呼吸器内科合同カンファレンス・9

全身性エリテマトーデスのred flag

著者: 岡田正人 ,   仁多寅彦

ページ範囲:P.2222 - P.2227

後期研修医(アレルギー膠原病科) 今回は,呼吸器科の先生に大変お世話になった患者さんです.30歳の全身性エリテマトーデス(SLE)の女性で,これまでの発症から15年の症状は,皮疹,腹膜炎,関節炎,そして腎症は間欠的に軽度の蛋白尿が認められるのみでした.今回入院の1カ月前の受診時から全身の浮腫もあり入院治療を勧められていましたが,介護のため入院が難しいとのことで外来にてステロイドと免疫抑制薬を投与されていました.残念ながら,夜間に呼吸困難を主訴に救急外来受診され入院となりました(表1).入院時の胸部単純写真ですが,解説をお願いしてもよろしいでしょうか.

呼吸器内科医 胸部単純写真(図1)では,右側に著明な胸水貯留を認めます.中心陰影には明らかな所見はなく,肺野も胸水貯留以外の所見は目立ちません.CT(図2)で見ると,左側にも少量の胸水を認めます.右中葉と下葉は胸水貯留により無気肺となっています.ほかの肺野には明らかな浸潤影などはないですね.縦隔・肺門リンパ節の腫大もなく,胸膜の肥厚や不整もありません.呼吸器内科では,SLEで胸水というと,胸膜炎による胸水というイメージが強いのですが,胸腔穿刺の結果はどうでしたか.

今日の処方と明日の医学・7

医療用医薬品【添付文書の読み方】

著者: 井上雅博 ,   日本製薬医学会

ページ範囲:P.2228 - P.2229

医薬品は,変革の時代を迎えています.国際共同治験による新薬開発が多くなる一方で,医師主導の治験や臨床研究などによるエビデンスの構築が可能となりました.他方,薬害問題の解析から日々の副作用報告にも薬剤疫学的な考察と安全対策への迅速な反映が求められています.そこで,この連載では医薬品の開発や安全対策を医学的な観点から解説し,日常診療とどのように結びついているのかをわかりやすくご紹介します.

The M&M reports 見逃し症例に学ぶ内科ERの鉄則・16

72歳男性 主訴 意識障害

著者: 長谷川耕平 ,   岩田充永

ページ範囲:P.2230 - P.2235

救急レジデントH:

 糖尿病と高血圧の既往をもつ72歳男性が意識障害で救急搬送となりました.患者の妻によると,今朝から患者は傾眠傾向で混乱しているとのこと.昨日は頭痛と全身倦怠感を訴えていたようですが,特に発熱,腹痛,下痢,排尿痛などはなかったようです.最近転倒したこともないようです.

 服薬はインスリンとカプトプリルのみで,最近処方が変わったということもなし.喫煙歴は1箱/日×40年だが飲酒はなし.

研修おたく海を渡る・60

薬が足りない!―こんなところまで影響が

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.2237 - P.2237

 9月の初めに腫瘍内科で緊急会議が開かれました.抗がん剤が来週から手に入らないかもしれないというのです.アドリアマイシン,エトポシド,シタラビンという昔からありかつ今でもkey drugとなっている3つの薬が手に入らなくなるという通知がありました.薬の原料の入荷が遅れているとか,製造ラインに汚染があったとか,はたまた経営上の判断から製造が中止されたなどの噂が流れましたが,真相を知る人は誰もいないようでした.

 今後これらを使う場合は前もって必ず薬剤部に投与レジメン,実際の投与量,治療日程を連絡するという取り決めがされました.FDAからも製造元からもはっきりとした理由は明かされないまま,在庫量,予定使用患者,どのように分けるか,何月何日に○mg入荷予定といった情報が毎週更新されました.また代替薬となるエピルビシン,経口エトポシドなどの在庫情報も添えられました.

書評

―西園マーハ 文 著―摂食障害のセルフヘルプ援助―患者の力を生かすアプローチ

著者: 鈴木(堀田)眞理

ページ範囲:P.2096 - P.2096

 摂食障害はcommon diseaseになったが,治療がやさしいという治療者はいない.神経性食欲不振症は「体重を増やしたくない」,神経性大食症は「止めたいけれど過食したい」患者である.つまり,摂食障害の治療の困難さは,「治したいけれど,治したくない」患者を対象にしているからである.

 セルフヘルプとは,本人が主体的に治療に参加して自分をケアすることである.本書は,根源的な治療関係の困難さを持つ摂食障害患者にもセルフヘルプする気持ちを育てることができる,治療者は技術提供をして患者の力を最大限活用するというガイド付きセルフヘルプの診療スタイルなら専門医に行かずともプライマリケアである程度の有効性を得られる,という著者の英国での臨床経験に基づいて書かれた実用書である.身体疾患では基本的な診療スタイルであるが,最もなじまないと考えがちな摂食障害での実用を指南している点で,本書は画期的である.

―髙階經和 著―心臓病の診かた・聴きかた・話しかた―症例で学ぶ診断へのアプローチ

著者: 山科章

ページ範囲:P.2236 - P.2236

 筆者が医学部5年生のときに勉強した医学書に,そのころ出版された医学書院のアプローチシリーズがある.髙階經和先生の『心臓病へのアプローチ』,本多虔夫先生の『神経病へのアプローチ』,天木一太先生の『血液病へのアプローチ』などである.穴埋め形式の問題を解いていくうちに,疾患や病態の理解が進むので大変に役立った.特に『心臓病へのアプローチ』は筆者が循環器を初めて勉強するきっかけになった本でもあり,その著者の髙階先生は学生の私にとって憧れであった.その後,筆者が循環器科医となり,先生の講演やセミナーで直にお話を聞く機会があり,先生の“スマートさ”に感激したことをよく覚えている.流暢な英語,豊かな表現力,論理的で理路整然として分かりやすい話の進め方など,学生のころに抱いていたイメージ通りであった.医学生あるいは医学教育関係者なら誰でも知っているシミュレーターの“イチロー”の開発者,あるいはAsian Heart Houseの開設者としても先生は世界中から注目されている.2002年に京都で開催された第26回国際内科学会でも学会場に循環器シミュレーション・ステーションを開設されたが,そのとき以来,筆者は親しくさせていただいており光栄と思っている.

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編集室より

著者:

ページ範囲:P.2248 - P.2248

小学生の頃,読み聞かせの時間が大好きでした.じゅうたんが敷かれた部屋で,司書のY先生が大きなろうそくに火をともし,お話が始まります.ろうそくの明かりの下,Y先生のやさしい語りを聞きながら,話の世界へみるみる引き込まれていきました.●Y先生の「おはなしのじかん」が楽しかったこと,また本を作る仕事に携わっていることから,息子の小学校で読み聞かせボランティアを始めました.月1回,朝の20分間,教室で子どもたちに本を読みます.本を見る表情や笑い声などに私自身も刺激を受けています.わずかな機会ですが,紹介した本が同じ作者の本や同じテーマの本へ興味を抱くきっかけとなり,子どもたちの世界が広がっていけば,と思っています.●今月の主題は造血器腫瘍.論文や先生とのお電話を通して,血液を専門としない先生に「これだけはしっかり知ってほしい」,「ここまではぜひ診てほしい」という思いが強く伝わってきました.また,先生のお人柄があふれる文章に多く接しました.その背景には,血液疾患が苦手な医師が多く,また血液専門医のいない病院が多いことがあるのだと思います.各先生のメッセージが読者のみなさまに届き,造血器腫瘍を知り,診療へとつながっていくことを願います.●本年もご愛読ありがとうございました.日常診療に役立つ最新情報の提供はもちろん,専門外の領域を知る・苦手な領域を診る足がかりとしての役割も担いたいと思っています.新連載も始まります.どうぞご期待ください.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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