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雑誌目次

雑誌文献

medicina47巻3号

2010年03月発行

雑誌目次

今月の主題 ウイルス肝炎―日常診療のポイント

著者: 四柳宏

ページ範囲:P.373 - P.373

 C型肝炎ウイルスの遺伝子配列が初めて公表されたのは1989年のことである.20年経った今日,C型肝炎に関する研究は急速に進歩し,臨床に大きな恩恵をもたらした.これらの研究の多くの部分が日本人によって行われた点も特筆すべきことであろう.目立った症状,徴候を示さないまま多くの人を肝硬変,肝細胞癌まで追いやるこの病気を有効に抑え込む方法が少しずつ明らかにされつつある.

 C型肝炎の四半世紀前に発見されたB型肝炎ウイルスは,抗ウイルス療法もワクチンも整ったものの,全世界で3億人が感染しており,撲滅にはほど遠い現状である.ウイルスそのものに関してもC型肝炎同様,新しい事実が明らかにされ,それに応じた対策が立てられつつある.

理解のための28題

ページ範囲:P.512 - P.516

正確に病態を把握するために

肝疾患患者の診察の進め方

著者: 中村郁夫

ページ範囲:P.374 - P.376

ポイント

★肝機能障害を呈した患者が受診した際に,そのなかからウイルス肝炎患者を拾い上げるには,ウイルス肝炎に特徴的な所見の有無を評価すると同時に,肝機能障害を呈するほかの疾患を除外する必要がある.

★現病歴のほかに,家族歴・既往歴・生活歴などの聴取が重要である.

★身体所見は全身を系統的に診察することが重要である.

肝機能検査の読み方

著者: 池田健次

ページ範囲:P.377 - P.382

ポイント

★肝障害では,細胞傷害(AST,ALT),胆道系障害(γ-GTP,ALT),肝予備能(アルブミン,ビリルビン)など,多面的に評価する.

★ウイルス性肝炎では,血小板数や肝線維化マーカーを確認して,肝疾患進行度を知り,適切な治療を行う.

★AFPとPIVKA-Ⅱは相補的であり,両者を同時測定することで肝癌の早期発見に有用である.

肝炎ウイルスマーカー

著者: 平松憲 ,   今村道雄 ,   茶山一彰

ページ範囲:P.384 - P.387

ポイント

★HBs抗原が陽性であれば,HBVの感染状態である.HBs抗体はHBVの中和抗体である.

★HBe抗原からHBe抗体へのセロコンバージョン後も,HBV-DNAが低下せず,肝炎が継続する場合もある.

★PCR法により判定可能なHCV genotypeは,インターフェロンによる治療効果予測に重要である.

画像診断からわかること

著者: 田中克明 ,   森本学 ,   沼田和司

ページ範囲:P.388 - P.391

ポイント

★超音波(US)は画像診断の第一選択であり,形態学的に線維化の進展度をスクリーニングすることができる.

★USあるいはMRIベースの非侵襲的肝線維化診断法の進歩により,肝生検に代わりうる検査法としての地位を築きつつある.

肝生検からわかること

著者: 前山史朗

ページ範囲:P.392 - P.397

ポイント

★肝生検から得られる情報は,非侵襲的な診断方法以上の情報が得られる.

★組織変化を要素として分類して,その程度を総括すると,組織診がしやすい.

★慢性肝炎では,線維化と肝実質の壊死・炎症所見が重要な組織学的要素である.

★結節性病変の良・悪性の鑑別にも有用である.

ウイルス肝炎の疫学

急性肝炎と劇症肝炎

著者: 富谷智明 ,   田上靖

ページ範囲:P.399 - P.402

ポイント

★B型急性肝炎ではgenotype Aが増加しており,慢性化との関連から注意が必要である.

★劇症肝炎の予後は肝移植施行例にて良好であるが,肝移植適応ガイドラインは今後さらなる改善が必要とされる.

慢性肝炎と肝硬変

著者: 日浅陽一 ,   徳本良雄 ,   恩地森一

ページ範囲:P.404 - P.408

ポイント

★慢性肝炎350万人,肝硬変40万人の患者が推定されている.

★C型肝炎は慢性肝炎の約70~80%,肝硬変の60%を,B型肝炎は慢性肝炎の約20%,肝硬変の14%を占める.

★非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は,肝硬変の2~5%程度を占めている.

経口感染するウイルス肝炎

A型肝炎の最近の動向

著者: 八橋弘 ,   矢野公士 ,   玉田陽子

ページ範囲:P.409 - P.412

ポイント

★A型肝炎の発生時期に関しては,2000年以後は発生頻度の減少とともに従来ほどの季節性がなくなっており,特に2005年以後は発生数そのものが顕著に減少している.

★A型肝炎患者の年齢層は,HA抗体を自然獲得していない,戦後生まれの幅広い世代に広がっている.

E型肝炎の最近の動向

著者: 姜貞憲

ページ範囲:P.413 - P.415

ポイント

★日本におけるE型急性肝炎は中年以上の男性に多くみられ,HEV genotype 4の感染と年齢が重症化に関連している.

★日本など非侵淫地域におけるHEV感染は人獣共通感染症(zoonosis)を背景としている.

★HEV急性感染を疑う症例では,感染潜伏期間(2~8週)における肉,貝類などの摂取状況の問診が重要である.

B型肝炎の日常診療

B型肝炎の自然経過

著者: 田中榮司

ページ範囲:P.417 - P.419

ポイント

★自然経過はALT値,HBe抗原,HBV DNA量,免疫状態などから病期に分類される.

★病期や病態の把握は,治療方針の決定に重要である.

★35歳を過ぎてもウイルス量が十分低下せず,肝炎が持続する症例は予後が悪い.

治療の適応,選択の実際

著者: 鈴木文孝

ページ範囲:P.420 - P.422

ポイント

★B型慢性肝炎の治療の適応と選択は,年齢,性別,肝組織像,HBe抗原の有無,HBV DNA量を参考に決定する.

B型慢性肝炎に対するインターフェロンの使い方

著者: 黒崎雅之 ,   泉並木

ページ範囲:P.424 - P.427

ポイント

★35歳未満の若年者では,治療期間が限定でき,催奇形性がないことから,drug freeを目指したインターフェロンを第一に選択する.

★HBe抗原陽性例の約20~30%でセロコンバージョンが達成され,治療中止後も80%以上の症例で持続する.

★インターフェロンが効きやすいのは,女性,若年者,genotype A型・B型で,ALT値が高く,組織学的に炎症反応が強く,血中HBVDNA量が少ない症例である.

核酸アナログの使い方

著者: 南祐仁 ,   片山貴之 ,   千藤麗

ページ範囲:P.428 - P.431

ポイント

★ウイルス増殖を強力に抑制し,複製エラーによるウイルス変異の出現をできるだけ減らすよう努める.

★初回の核酸アナログ投与は,抗ウイルス力が強く,薬剤耐性の生じにくいエンテカビルが第一選択である.

★ラミブジン耐性ウイルスに対しては,ラミブジンとアデホビルの併用を行う.

【コラム】B型肝炎ウイルスの遺伝子型(genotype)

著者: 四柳宏

ページ範囲:P.431 - P.431

 B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)にはA~Hまで8つの遺伝子型があり,国ごとあるいは地域ごとに特有の分布をとることが知られている(図1).

 慢性肝炎の症例からは,日本にもともと存在している遺伝子型B,Cが主に検出される.急性肝炎の症例からは遺伝子型B,Cに加えて,日本に最近持ち込まれた遺伝子型Aが検出される(図2).各遺伝子型について以下のような事実が知られている.

C型肝炎の日常診療

C型肝炎の自然経過

著者: 鈴木義之 ,   荒瀬康司 ,   熊田博光

ページ範囲:P.432 - P.435

ポイント

★C型慢性肝疾患患者の診療にあたっては,自覚症状の有無にとらわれることなく,血液データの推移により病期の進行を考慮し,適切な治療を行うべきである.

★たとえ慢性肝炎だとしても,高齢者においては,発癌のリスクを常に念頭に置いて診療にあたるべきである.

★合併症によりQOLを損なう可能性がある患者においては,現在症状がなくとも早めに専門医に相談するべきである.

治療の適応,選択の実際

著者: 筬島裕子 ,   中川美奈 ,   坂本直哉

ページ範囲:P.437 - P.441

ポイント

★ALT異常値を示すC型肝炎ウイルス感染者は,原則としてすべて抗ウイルス療法の適応となるが,初回治療例ではウイルス量,genotypeにより治療法を選択する.

★再治療例はペグインターフェロン・リバビリン併用療法が治療の基本であるが,年齢,性別,肝疾患進行度,ウイルス遺伝子変異(コア領域,ISDR),ウイルス量などを参考にし,治療法を選択することが望ましい.

★併用療法の非適応例や無反応例では,進展予防(発癌予防)を目指したALT値とAFP値の正常化,あるいは安定化のための治療法を選択すべきである.

C型肝炎に対するペグインターフェロン・リバビリン併用療法―インターフェロン・リバビリンの使い方

著者: 平松直樹 ,   小瀬嗣子 ,   林紀夫

ページ範囲:P.442 - P.444

ポイント

★1型高ウイルス量症例(1H)のウイルス陰性化にはPeg-IFN,再燃にはRBVが用量依存性に関与する.

★1Hで12週以降にウイルスが陰性化した症例では,72週投与が有効である.

★1H以外の症例では約80%が著効となり,高齢者でも治療効果は良好である.

インターフェロン療法が行えない場合の対応

著者: 松﨑靖司 ,   池上正 ,   斎藤吉史 ,   本多彰

ページ範囲:P.446 - P.450

ポイント

★肝庇護療法はC型肝炎ウイルス(HCV)を排除しないものの,肝炎を鎮静化し,肝細胞の再生を促すことにより,肝線維化進展を抑える治療法である.

★肝庇護療法としては,ウルソデオキシコール酸(UDCA),強力ネオミノファーゲンC(SNMC)の投与が有用である.

★血液中の鉄分は,C型慢性肝炎の進展に影響しているので,瀉血を行う.

ウイルス肝炎の周辺知識

ウイルス肝炎の肝外合併症

著者: 伊藤敬義 ,   黒木亜紀 ,   井廻道夫

ページ範囲:P.452 - P.457

ポイント

★ウイルス性肝炎には,多彩な肝外病変が存在し,症候性のものと無症候性で検査値異常のみの場合がある.

★C型慢性肝炎ではリンパ増殖性疾患の合併率が高く,無症候性を含め約7割の患者で関連マーカー異常を認める.

急性肝不全に対する初期対応

著者: 井上和明

ページ範囲:P.458 - P.461

ポイント

★自然回復しない急性肝炎はトランスアミナーゼが多峰性に変動し,コリンエステラーゼ,アルブミン,総コレステロールなどが低下する.

★自然回復の見込めない急性肝炎をみたら,専門施設と連携して移送の時期を見誤らないことが重要である.

肝硬変の病態と治療

著者: 玉井努 ,   宇都浩文

ページ範囲:P.462 - P.466

ポイント

★ウイルス性肝硬変は,インターフェロンまたはエンテカビルを主体とした抗ウイルス療法をまず考慮する.

★抗ウイルス療法の効果が期待できないウイルス性肝硬変では,トランスアミナーゼの低下を目指す.

★非代償性肝硬変では,病態に応じた薬物療法・食事栄養療法の選択が重要である.

ウイルス肝炎の予防と汚染事故に対する対応

著者: 奥瀬千晃 ,   四柳宏

ページ範囲:P.467 - P.471

ポイント

★A型肝炎ウイルス(HAV),E型肝炎ウイルス(HEV)は経口感染をきたし,B型肝炎ウイルス(HBV),C型肝炎ウイルス(HCV),D型肝炎ウイルス(HDV)は血液感染をきたす.

★HAV,HEVの感染予防には手洗いの励行,生ものの飲食を避けることが重要である.

★HBVの母子感染防止には,児に対しB型肝炎(HB)ワクチンとHBs抗体含有ヒト免疫グロブリン(HBIG)を投与する.

★医療従事者のHBV感染予防には,HBワクチン接種を推奨する.

★HCVに対するワクチンは実用化されていないため,汚染血液の取り扱いに注意する.

ウイルス肝炎に合併するHIV感染症の実態と対応

著者: 井上淳 ,   上野義之 ,   下瀬川徹

ページ範囲:P.473 - P.475

ポイント

★日本におけるヒト免疫不全ウイルス(HIV)陽性患者の20%にC型肝炎ウイルス(HCV)感染が,6%にB型肝炎ウイルス(HBV)感染が合併している.

★HIV感染はB型およびC型慢性肝炎の予後に影響するため,肝炎患者においてHIV感染リスクがある場合は積極的にHIV検査を施行すべきである.

トピックス

新しい肝炎ウイルスマーカー

著者: 杉山真也 ,   田中靖人

ページ範囲:P.476 - P.480

ポイント

★新規のB型肝炎ウイルス(HBV)マーカーであるHBコア関連抗原(HBcrAg)は,肝細胞内のHBV-DNA量を反映している.

★HBcrAgは,抗ウイルス治療の中止基準として利用でき,臨床上の有用性が高い.

C型肝炎は代謝性疾患だ

著者: 三好秀征

ページ範囲:P.481 - P.483

ポイント

★C型肝炎に合併する肝脂肪化,インスリン抵抗性は,抗ウイルス治療や発癌に影響する因子である.

★C型肝炎では鉄が蓄積しやすく,酸化ストレス増大の一因となっている.

★メタボリックシンドロームは,C型肝炎の病態進行を促進する.

occult HBV感染とは何か

著者: 田守昭博 ,   河田則文

ページ範囲:P.484 - P.485

ポイント

★occult HBV感染とは,HBs抗原陰性例において(血清あるいは肝組織から)HBV DNAを検出する病態である.

★免疫抑制剤や化学療法により,HBs抗原陰性例からB型肝炎を発症することがある.

B型肝炎に対する免疫療法

著者: 石川哲也

ページ範囲:P.487 - P.490

ポイント

★免疫療法の目標は,自然経過に近いdrug-freeの臨床的治癒を達成することである.

★現時点での免疫療法の効果は限定的である.

★抗ウイルス療法との組み合わせの検討,新規ワクチンの開発が必要である.

今後有望なウイルス肝炎の新規治療薬

著者: 加藤直也 ,   室山良介

ページ範囲:P.491 - P.494

ポイント

★B型肝炎治療薬として,tenofovir,emtricitabine,clevudineなどが開発中である.

★C型肝炎治療薬として,プロテアーゼ,ポリメラーゼ阻害薬などが開発中である.

★プロテアーゼ阻害薬であるtelaprevirとboceprevirが臨床第Ⅲ相試験中である.

ウイルス肝炎に対する肝移植の実際

著者: 菅原寧彦

ページ範囲:P.495 - P.497

ポイント

★成人生体肝移植は年間約400症例行われており,最近ではその約半数がウイルス肝炎肝硬変,もしくはそれを背景とした肝癌を適応としている.

★B型肝炎症例は移植前に核酸アナログ製剤,移植後は抗B型肝炎ウイルス免疫グロブリンや核酸アナログ製剤を投与することによりほとんどの症例で,再感染を予防できる.

★インターフェロンの副作用,奏効率の問題から,C型肝炎症例は移植前治療が難しいうえに,移植後にウイルスを駆除できる可能性も30%程度である.移植後の治療適応・適切な時期に関しては定説がない.

座談会

臨床医が知っておきたいウイルス肝炎のポイント

著者: 四柳宏 ,   鈴木義之 ,   黒崎雅之 ,   八橋弘

ページ範囲:P.498 - P.511

 2008年4月から厚生労働省による特定健康診査・特定保健指導が始まった.肝機能については,症状がないが検診での検査値異常を指摘され,かかりつけ医や一般内科を受診する患者が増えている.

 肝炎は種類や病期により治療法が大きく異なり,各種肝炎の治療についても薬剤の選択,治療期間,専門医への紹介など,臨床医が判断を要することが多い.また,薬剤性肝障害や肝外合併症など,見逃してならない疾患も多い.

 本座談会では,臨床医が日常よく遭遇する肝疾患,特にウイルス肝炎について,肝機能異常から診断までのアプローチおよび病期に応じた治療の実際について,第一線で活躍する4名の先生方にお話しいただいた.

SCOPE

“Master of Public Health(MPH)”を臨床に活かす―問題解決能力の向上につながる知識と技術

著者: 西﨑祐史

ページ範囲:P.518 - P.521

 私は5年間の臨床経験を経て,2009年4月から1年間,東京大学大学院医学系研究科公共健康医学専攻専門職学位課程(専門職大学院)のSchool of Public Health(SPH)で公衆衛生学を幅広く学んでいる.1年間で幅広い知識や技術を習得し,本年3月の大学院修了時には,学位としてMaster of Public Health(MPH:公衆衛生学修士)を取得予定である.その後4月からは現場に復帰し,今後は臨床医としてSPHで学んだ知識や技術を活かし,臨床現場の最前線で診療に従事し続けるつもりでいる.

 SPHは日本で少しずつ認知されてきてはいるが,まだなじみのない言葉だと思われる.そこで本稿では,実際に私が学んだこと,また,それをどのように臨床現場に活かすのか,といった点を中心に紹介していきたい.

連載 手を見て気づく内科疾患・15

ブシャール結節,ヘバーデン結節,生活を支えてきた証

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.369 - P.369

患 者:63歳,女性

病 歴:指の関節は15年くらい前から痛かった.指輪が入らないので困っている.

身体所見:近位指節間関節(proximal interphalangeal joint)が硬く腫れている(図1)

研修おたく海を渡る・51

サービスライン マネジャー

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.517 - P.517

 今年に入り,Tumor Boardで必ず後ろのほうにどしっと座る女性を見かけるようになりました.発言はせずに,ひたすらメモをとっているのです.時々,含み笑いをしながら.

 数カ月経ち,スタッフミーティングではじめて彼女は自己紹介をしました.「サービスライン マネジャー」それが彼女の役職です.立場がわかってしまうとありのままの観察ができないので,あえて自己紹介をしなかったとのこと.

目でみるトレーニング

著者: 谷口浩和 ,   仁科拓也 ,   中田一之

ページ範囲:P.522 - P.527

外来診療に差をつけるコミュニケーションスキル・6

The difficult patient②:過度な要求や暴言・暴力をどう回避するか

著者: 舘泰雄

ページ範囲:P.528 - P.531

事例紹介●騒いだり暴れたりする患者

患者:何時間待たせるんだ!

待合から事務受付へ患者がクレームを言ってきたので,診察中の医師が待合に出て説明を試みた.

医師:緊急性がある患者さんはお申し出ください.そうでない場合,順番どおりに診察していきますので,どうぞお待ちください.

患者:いいから早くしろ!

とうとう患者は暴れだしてしまった.

The M&M reports 見逃し症例に学ぶ内科ERの鉄則・7

62歳男性 主訴 腰痛,前失神

著者: 長谷川耕平 ,   岩田充永

ページ範囲:P.532 - P.537

救急レジデントH:

 高血圧の既往をもつ62歳男性が腰痛と前失神のため救急外来に救急車搬送となりました.来院1時間前,通勤途中階段を登る際に,急に左下部腰痛を発症.その後,冷や汗,眼前暗黒感を感じて座り込んだとのこと.失神はせず,座位によってこれらの症状は軽快したとのことですが,周りの人が救急車要請し,当院搬送となりました.特に下肢脱力,しびれなどはなかったようです.

 既往歴は高血圧と脂質異常症.過去に腰痛の既往はなかったようです.服薬はアテノロールとシンバスタチンで,喫煙歴は1箱/日×40年とのことでした.

書評

そこが知りたいC型肝炎のベスト治療―インターフェロンを中心に

著者: 山田剛太郎

ページ範囲:P.457 - P.457

 ここ数年,国を挙げてのウイルス肝炎・肝癌の撲滅運動が本格化している.ウイルス肝炎の抗ウイルス療法においても,治療法の研究開発に対する厚労省からの助成金の増額に加えて,2008年4月よりC型肝炎,B型肝炎のインターフェロン療法に対する公的助成制度が始まっている.そこで,肝炎の専門医療機関のみでなく,一般医療機関においてもC型およびB型肝炎患者の治療への関心が急速に高まっている.

 このような時期に,C型肝炎を長年にわたって診療され,精通された3人の先生方が編者となり,C型肝炎の診療ならびに治療に関する実践に即した成書として『そこが知りたい C型肝炎のベスト治療』が企画・出版された.

臨床研究マスターブック

著者: 新保卓郎

ページ範囲:P.461 - P.461

 本書は臨床研究の実践に必要な事項を簡明に記載している.研究の計画やデータの扱い方,解析や統計の考え方,論文の書き方,倫理的問題に至るまで紹介している.治験やランダム化比較試験のような多施設共同の大研究を,いきなり勧めるものではない.臨床現場の身近な疑問に,一人ひとりの医師やスタッフが臨床研究を通じて答えを見いだすための方法を記載している.著者は聖ルカ・ライフサイエンス研究所の臨床疫学センターを中心とした臨床医や研究者である.従来臨床疫学の一般的な話題については,優れた教科書や論説が出版されてきた.また臨床研究の進め方に関して海外からはHulleyやHaynesなどの優れた教科書もある.しかし国内からは臨床研究の実践に関する類書が少なかっただけに貴重である.本書は臨床研究の実務的なノウハウに触れている.このような問題は,実際に研究を始めてから困ることが多い点であった.

 EBMの流れの中で臨床医にとって重要なのは,いかにエビデンスを利用するかのみではない.今や,いかにエビデンスを生むことに参加するかも問われているのだろう.エビデンスを上手に利用して患者の問題解決につなげるスキルを磨くためには,エビデンス作りを自ら行うことが優れた方法である.臨床研究の実施は,臨床医のスキル向上の方法の一つであろう.臨床研修必修化の中で,医局や大学とは半歩離れた立場から若い臨床医がキャリア形成を進めている.どのようにして臨床の技能を磨き続けることができるのか,その方法が模索されている.臨床研究は一つの道筋であろう.臨床医個人のスキル向上につながり,ひいては病院全体の診療の質の向上につながる.また臨床研究は,臨床医のみのテーマではなく,看護師,薬剤師,技師の方にとっても診療の質を向上させる方法となりうる.

肝疾患レジデントマニュアル―第2版

著者: 上野文昭

ページ範囲:P.466 - P.466

 『肝疾患レジデントマニュアル第2版』が,このたび医学書院より上梓された.本書の初版は,肝疾患診療に携わる研修医必携の書として絶賛され,4年を経てここにバージョンアップされたわけである.新しい知見を豊富に盛り込み,さらに新たな章立ても見られるためページ数は増加したにもかかわらず,価格が据え置きなのは良心的である.編集者・執筆者に多少の変更があるものの,いずれも実際の診療で患者と共に悩み苦労している肝臓専門医という基本線を踏襲していることが,本書を肝疾患診療のための活きた知識の道具箱としている理由であろう.

 明快な構成と随所にちりばめられた多数の図表が,多忙な研修医の理解を容易にしている.若者に媚びるような無駄な漫画やイラストがないのも好感がもてる.冒頭の章,レジデントの心得は,評者も大いに参考にしたいClinical Pearlsである.お説教臭いなどと言わずに,ぜひ心に刻んでいただきたい.

プロメテウス解剖学アトラス―頸部/胸部/腹部・骨盤部

著者: 小澤一史

ページ範囲:P.480 - P.480

 『プロメテウス解剖学アトラス』の第1巻として「解剖学総論/運動器系」が刊行されて以来,それに続く「頸部/胸部/腹部・骨盤部」の出版を,まだかまだかと大変に待ち遠しかったのは私だけではないだろう.第1巻でその図の美しさ,精密さがすでに示されていたわけであるから,続編の質が極めて高いことは想像に難くなかった.実際に,本書を手にとり,そのページを開いて,思わず「にんまり」としないわけにはいかなかった.

 「解剖学総論/運動器系」ではその名の通り,「アトラス」としての役割が高い本であると感じたが,今回の「頸部/胸部/腹部・骨盤部」ではアトラス的な要素はもちろんであるが,「解説書」「教科書」的な要素が多くなり,特に基礎科学として解剖学的な見地から内臓学を学ぶとともに,臨床医学に直結する内容が豊富に散らばっており,工夫がなされている様子がよくわかる.例えば間接喉頭鏡の観察像,呼吸による肺容積の変化や力学的な影響,胃粘膜の内視鏡像,種々のX線画像,臓器と神経支配の図などが「ここ!」というポイントに示され,学ぶ楽しみを引き出そうとする著者の思いがにじみ出ている.内臓系が中心ということもあり,発生学的な説明や生理学的な機能面での解説も多く見られ,充実した「アトラス」になっている.最終章で扱っている「各器官に分布する神経・血管・リンパ管」では,非常に簡潔に単純化した内臓と神経,血管,リンパ管との関係が示されている.この単純化された関係図を見ながら,詳しい教科書の記述を読めば,これらの仕組みを能率よく身につけることができる.まさに「自ら学ぶ」ための道標としても利用でき,解剖学における少人数のチュートリアル的学習などにも活用できると感じた.

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編集室より

著者:

ページ範囲:P.548 - P.548

●今月の主題は「ウイルス肝炎」を取り上げました.2008年から特定健診が始まり,肝炎患者を診る機会が増えたのではないでしょうか.診断・治療法は日々進歩していますが,患者に治療を続けてもらう難しさは変わらないようです.医師はウイルスの種類と治療法,治療期間などを患者に明確に説明することが重要ですが,患者は自分や家族の将来を考え,治療を続け完治させるという強い意志をもって,生活のなかに治療時間を組み込む必要があると思います.●先月に引き続き,SCOPE欄で医学・医療のトピックスを紹介しています.掲載のきっかけは,「現在学んでいる公衆衛生大学院では,統計,疫学,医療倫理など臨床で必要なことを学べて楽しい.そのすばらしさを読者の方々にも知ってほしい」というメールの一文でした.公衆衛生と聞き「臨床とは関係ないのでは……」というのが正直な印象でした.しかし,解決されない疑問点が山積し,また論文の読み書きなど,必要だが学ぶ機会に恵まれない多忙な日常臨床のなかで,将来にわたり必要な知識や技術は何かを考え,大学院を選択したことを伺い,講義内容が臨床にどう結びつくかを中心におまとめいただきました.●3月は別れの季節.そして新たなスタートへ向けた準備期間です.慌しい毎日をお過ごしとは思いますが,ほんの少し立ち止まってみてはいかがでしょうか.日常のなかで見えてくること,ふと気づくことがあるかもしれません.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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