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雑誌目次

雑誌文献

medicina47巻4号

2010年04月発行

雑誌目次

今月の主題 抗菌薬の使い方を究める

著者: 大曲貴夫

ページ範囲:P.555 - P.555

 いつの時代も,感染症診療,特に抗菌薬の使い方は医師にとって悩みの種です.抗菌薬に関する情報は世の中に溢れていますが,実際にそれを頭の中で実用に耐えるレベルで整理できている人は少ないはずです.

 そこで,読者の方々が頭の中に「抗菌薬の使い方」をしっかりと引き出しを作って整理できるように,と願って今回の特集を組むことにしました.

理解のための17題

ページ範囲:P.706 - P.708

抗菌薬について,最初におさえるべきこと

感染症診療の流れ―抗菌薬治療を中心に

著者: 大曲貴夫

ページ範囲:P.556 - P.560

ポイント

★感染症診療を円滑に行うには,「考え方」を身につけることが必要である.

★患者背景を知ることで,問題となる微生物の推定が可能になる.

★問題臓器を絞り込むことで診断仮説が容易になり,微生物の絞り込みに役立つ.

★抗菌薬の選択は適切な診断・仮説があれば難しくはない.

★治療開始後の診療を円滑に行うには,適切な経過観察の方法が必要である.

どう判断する? 抗菌薬を「使うか」「使わないか」「待つか」

著者: 岸田直樹

ページ範囲:P.561 - P.567

ポイント

★十分な診断学の知識をもつことが重要である.

★感染症診療ならではの特徴を理解する.

★感染症ではまずは,大きく“可能性の軸”と“重症度の軸”の2つから考えるとよい.

★日々のアセスメントへの努力が,次の患者の検査前確率の設定に生かされる.

抗菌薬の全体像を多角的に理解する

著者: 具芳明

ページ範囲:P.568 - P.574

ポイント

★抗菌薬を理解するにはさまざまな視点からバランスよくまとめることが有効である.

★グラム染色所見に基づいて細菌を分類するとスペクトラムを理解しやすくなる.

★特定の細菌をカバーするスペクトラムをもった抗菌薬を整理しておこう.

★薬物動態学(PK)/薬力学(PD)の考え方を知ることで抗菌薬の理解と使い方をより深めることができる.

各抗菌薬の特徴と使い方

ペニシリン系抗菌薬の使い方

著者: 椎木創一

ページ範囲:P.576 - P.580

ポイント

★ペニシリン系薬剤は,今でも標的に対して強い活性を持つ第一線の抗菌薬である.

★ペニシリン系薬剤を使いこなすには,グラム染色所見が必須となる.

★アレルギー以外のペニシリンの副作用にも注意する.

★半減期が短いペニシリンは十分量,頻回の投与が必要である.

ケーススタディ:ペニシリン系抗菌薬の使い方の実際

著者: 椎木創一

ページ範囲:P.581 - P.584

ポイント

★ペニシリン系薬剤を活用するためにグラム染色所見とlocal factorを用意する.

★ペニシリンGの「○○万単位」という用量表記に慣れておく.

★ペニシリン同士での違いを症例を通じて確認する.

★ペニシリンの投与で起こりうる反応や副作用を事前に予測したい.

セフェム系抗菌薬の使い方

著者: 上田晃弘

ページ範囲:P.586 - P.590

ポイント

★セフェム系抗菌薬の区別のポイントはグラム陰性桿菌にある.

★セファゾリン(第1世代セフェム)はメチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)による感染症の第一選択薬である.

★第3世代セフェムは,緑膿菌に対する活性の有無で2つに分類される.

★セフェム系抗菌薬は嫌気性菌に活性が低い.セフメタゾールは例外.

★セフェム系抗菌薬は腸球菌,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA),リステリア,非定型肺炎の微生物,リケッチアに無効である.

★第1世代,第2世代セフェムは髄液への移行が悪い.一方,第3世代,第4世代セフェムは髄液への移行がよい.

ケーススタディ:セフェム系抗菌薬の使い方の実際

著者: 上田晃弘

ページ範囲:P.591 - P.593

ポイント

★起因菌が判明すればde-escalationを行う.

★広域セフェム系抗菌薬がdefinitive therapyとして用いられる場面は,他剤に耐性の微生物が問題を起こしている場合などに限られる.

★メチシリン感受性黄色ブドウ球菌(MSSA)による重症感染症に対するdefinitive therapyでは,セファゾリンを選択する.

★セフトリアキソンはペニシリン耐性肺炎球菌の一部に活性をもち,また,βラクタマーゼ非産性アンピシリン耐性インフルエンザ菌(BLNAR)の第一選択薬である.

グリコペプチド系抗菌薬の使い方

著者: 上原由紀

ページ範囲:P.594 - P.598

ポイント

★グリコペプチド系抗菌薬はグラム陽性菌に幅広く有効な抗菌薬である.

★主に医療ケア関連感染症や耐性グラム陽性菌感染症の治療に用いられる.

★耐性菌出現抑制の観点から,本当に必要な症例にのみ用いられるべきである.

★バンコマイシンの血中濃度測定は,耐性菌出現防止,治療成功および副作用防止のために必要である.

★投与中は腎障害をきたすほかの要因をできる限り回避する.

ケーススタディ:グリコペプチド系抗菌薬の使い方の実際

著者: 上原由紀

ページ範囲:P.599 - P.601

ポイント

★empiric therapyとしてグリコペプチド系が必要な状況を判断する(針治療,椎体炎,大動脈瘤などが本症例のキーワード).

★投与前に必ず必要な培養を採取し,definitive therapyとして続行すべきか判断する.

★血中濃度を適切に保っても改善しない場合は,抗菌薬以外の治療法を検討する.

アミノグリコシド系抗菌薬の使い方

著者: 大野博司

ページ範囲:P.602 - P.606

ポイント

★アミノグリコシドは緑膿菌を含む好気性グラム陰性桿菌に活性がある.

★アミノグリコシドの適応は,その副作用から①重症グラム陰性桿菌感染症へのempiric therapy,②グラム陽性球菌による感染性心内膜炎への併用薬,③重症緑膿菌感染症への併用薬に限定されることが多い.

★アミノグリコシドは1日分割投与法(MDD)と1日1回投与法(ODD)があるが,副作用の減少,簡便さからODDが推奨されている.

★特に72時間以上使用する場合や分布容量,腎機能の変化が大きなケースでは,頻回に血中ピーク値,トラフ値を測定し治療薬物モニタリング(TDM)を行うことが必要である.

★アミノグリコシドの副作用には,①腎毒性,②耳毒性,③神経筋接合部遮断がある.

ケーススタディ:アミノグリコシド系抗菌薬の使い方の実際

著者: 大野博司

ページ範囲:P.607 - P.610

 前稿の「アミノグリコシド系抗菌薬の使い方」の総論に引き続き,ここではアミノグリコシドの投与法を実際の症例をもとに考えてみたい.

キノロン系抗菌薬の使い方

著者: 相野田祐介

ページ範囲:P.611 - P.615

ポイント

★キノロン系抗菌薬は抗菌スペクトラムもかなり広域であり,内服で緑膿菌までカバーできる薬剤であるが,耐性や副作用の問題などデメリットも多く,本来の適応に基づいて処方されるべきである.

★同じキノロン系抗菌薬でもターゲットとする菌が異なるため全体を整理しておく必要がある.

★一般外来でただの上気道炎にレボフロキサシン(クラビット®)が処方されるようなシチュエーションをしばしば見かけるが,これは抗菌薬の処方として大変不適切である.

ケーススタディ:キノロン系抗菌薬の使い方の実際

著者: 相野田祐介

ページ範囲:P.616 - P.620

ポイント

★キノロン系薬剤が第1選択となるケースは少ない.

★結核が否定できない症例では使用を控える.

マクロライド系抗菌薬の使い方

著者: 岩渕千太郎

ページ範囲:P.622 - P.625

ポイント

★マクロライドは抗菌スペクトラムの広さから多用される薬剤である.

★リボソームサブユニットに結合して蛋白合成を阻害して作用する.

★エリスロマイシンは静注薬が利用できる点で有用である.

★クラリスロマイシンはエリスロマイシンよりも経口内服時の吸収が良好かつ非結核性抗酸菌にも利用できる.

★アジスロマイシンは細胞内半減期が長く,他のマクロライドよりも薬剤相互作用が少ないことが特徴である.

ケーススタディ:マクロライド系抗菌薬の使い方の実際

著者: 岩渕千太郎

ページ範囲:P.626 - P.628

Case 1

 8歳男子.数日前からの咽頭部の違和感,1日前からの咽頭痛,発熱にて受診.咽頭発赤あり,前頸部リンパ節腫脹あり.A群溶連菌迅速検査陽性.

 親の話では「ペニシリン系抗菌薬にアレルギーがある」とのこと.


Q:抗菌薬選択はどのようなものを考慮するか?

A:マクロライド,ニューキノロン,ST合剤などを考慮するが,感受性,副作用などからマクロライドを選択することが多い.

カルバペネム系抗菌薬の使い方

著者: 冲中敬二 ,   大曲貴夫

ページ範囲:P.630 - P.635

ポイント

★ターゲットとする細菌を念頭に置いて使用する.

★カルバペネム系抗菌薬のスペクトラムは非常に広く,使用する際にはカバーできていない病原体を常に意識する.

★T>MIC(time above MIC)に依存する薬剤であり,原則的には投与回数を分けたほうが治療効果を期待できる.

★基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌や多剤耐性菌のように治療に不可欠な細菌も存在する.

★いざという時の効果を担保するためにも,乱用は避けなければならない.

ケーススタディ:カルバペネム系抗菌薬の使い方の実際

著者: 冲中敬二 ,   大曲貴夫

ページ範囲:P.636 - P.639

ポイント

★ESBL産生菌による感染症は,カルバペネム系薬剤が第1選択薬となる数少ない感染症の一つである.

★ESBL産生菌による重症感染症の可能性が考えられた場合には,早期にカルバペネム系薬剤を投与開始する.

★empiricにESBL産生菌をカバーする際には,しっかりと患者背景を検討したうえで判断する.

★感染症診療には,細菌検査室との連携が不可欠である.

リネゾリドの使い方

著者: 松永直久

ページ範囲:P.640 - P.644

ポイント

★リネゾリドの本邦での適応は,VRE感染症,MRSA敗血症/皮膚感染症/肺炎などである.

★リネゾリドは基本的には代替薬の位置づけである.

★リネゾリドは生体利用率,組織移行性ともによい.

★投与期間は原則として28日間を超えないことが望ましい.

★MAO阻害作用,血球系の減少,末梢神経障害,視神経障害などの各種合併症に注意する.

ケーススタディ:リネゾリドの使い方の実際

著者: 松永直久

ページ範囲:P.645 - P.649

Case 1

 72歳男性.喫煙者.うつ病,糖尿病の既往歴.糖尿病はインスリンでコントロールされている.胃がんに対する胃全摘術を7日前に施行.3日前から創部の発赤を認め,本日創部から滲出液を認めるようになった.体温38.1℃,創部の発赤,腫脹,熱感,圧痛のほかは特に異常所見なし.浸出液のグラム染色では,白血球とブドウの房状に集簇したグラム陽性球菌が観察されたため,バンコマイシン1回1g 12時間ごとの経静脈投与が開始となった.培養の結果はメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(methicillin resistant Staphylococcus aureus:MRSA)で,バンコマイシン(S),テイコプラニン(S),アルベカシン(S),エリスロマイシン(R),クリンダマイシン(R),ST合剤(S),ミノサイクリン(R),レボフロキサシン(R),リネゾリド(S).

バンコマイシンの血中濃度測定ではトラフ値が15μg/mlであった.

 バンコマイシン投与後も創部からの滲出液や炎症徴候に改善傾向はなく,体温も37℃後半から38℃前半で推移していた.他の身体所見は変化なし.白血球数8,300/μl,好中球83%.バンコマイシンのMICは2μg/ml以下との報告であったが,E-testを施行したところMIC 2μg/mlとの判定であった.

経口抗菌薬の使い方 総まとめ

著者: 細川直登

ページ範囲:P.652 - P.658

ポイント

★経口抗菌薬は抗菌スペクトラムだけでなくbioavailabilityに注意する.

★βラクタム薬,特に第3世代セフェムは静注と比べ著しく低用量しか使用できない.

★キノロンは結核ではないことを確認する必要があり,気軽に濫用しない.

★マクロライドは使用目的を非定型肺炎,ピロリ除菌,非結核抗酸菌症などに限定する.

★グラム陽性菌用の薬剤としてクリンダマイシンを活用する.

★ST合剤は経口薬として優れた特徴をもつので,使い慣れると有用性が高い.

ケーススタディ:経口抗菌薬の使い方の実際

著者: 細川直登

ページ範囲:P.659 - P.662

Case 1

26歳女性,主訴:排尿時痛.

現病歴:昨日より排尿時違和感を感じ,本日から排尿時痛がみられるため受診した.半年前に同様の症状があり,膀胱炎と診断され抗菌薬投与を受けたことがある.男性のsexualパートナーが1人いる.「妊娠はしていないと思う」とのこと.4日前に最終の性交渉歴あり.性交渉後の排尿は心がけていない.

既往歴・家族歴:特記すべきことなし.薬剤アレルギーなし.

身体所見:全身状態良好.血圧100/60mmHg,脈80回/分・整,呼吸数14回/分,体温36.5℃.頭頸部所見に異常なし,胸部理学所見異常なし.腹部理学所見;平坦,軟,恥骨直上を骨盤内に向けて圧迫すると圧痛あり,CVA(cost vertebral angle)叩打痛は左右ともなし.下腿浮腫なし.

検査所見:尿一般検査;pH8.0,蛋白(+),糖(-),潜血(+++),ケトン体(-),白血球反応(+++),亜硝酸塩(+).

血液検査;白血球6,500/μl,Hb 12.0g/dl,血小板18万/μl,AST14 IU/l,ALT 16 IU/l,BUN 10mg/dl,Cr 0.7mg/dl.妊娠反応;陰性.

抗真菌薬の使い方

著者: 高倉俊二

ページ範囲:P.663 - P.668

ポイント

★細菌感染症を厳しく検索・治療することが真菌感染症の診断の第一のカギである.

★深在性カンジダ症は非特異的バリア障害だけで十分発症する.

★抗アスペルギルス治療は診断的検査の実施と治療開始を同時に行う必要がある.

★患者背景による各真菌別のリスクを理解し,対象とする真菌を明確にして薬剤を選択する.

★投与量不足で予後を悪化させないように各薬剤の正しい用量・用法を厳守する.

ケーススタディ:抗真菌薬の使い方の実際

著者: 高倉俊二

ページ範囲:P.670 - P.673

ポイント

★患者の基礎疾患,リスク状態,予防投薬内容によって発症する真菌感染症は異なる.

★免疫抑制・好中球減少がなくても深在性カンジダ症は起こりうる.

★深在性真菌症の治療に用いる抗真菌薬のスペクトラムは必ず覚えておく.

★免疫抑制患者では真菌感染症を疑う閾値,治療開始の閾値を低く持っておかねばならない.

手強い菌の感染症に対する治療

MRSA感染症に対する抗菌薬治療

著者: 柳秀高

ページ範囲:P.674 - P.678

ポイント

★MRSAも黄色ブドウ球菌であり,皮膚軟部組織感染,血流感染などを起こす.

★カテーテル採血でない血液培養からMRSA(に限らず黄色ブドウ球菌)が検出されれば通常は治療すべきである.

★喀痰培養からMRSAが検出されても,臨床的に肺炎かどうか検討する必要がある.

★感染部位により治療法は異なる.

★バンコマイシン,リネゾリド,シナシッド,クリンダマイシン,ST合剤,ミノサイクリンなどが用いられる.

緑膿菌感染に対する抗菌薬治療

著者: 荒岡秀樹

ページ範囲:P.679 - P.683

ポイント

★緑膿菌は,好中球減少や解剖学的異常などを有する免疫不全患者において問題となる.

★緑膿菌を意識した初期治療は,ローカルファクターを意識して「外さない」ことが大切.

★抗菌薬は腎機能に見合った十分量を投与する.途中で減量したりしない.

★「併用」が「単剤」を上回る十分なデータはない.感受性が判明したら,最適化する.

★多剤耐性緑膿菌感染症は治療が困難.BCプレートを用いて抗菌薬の併用効果を期待する.

ESBL産生菌感染に対する抗菌薬治療

著者: 原田壮平

ページ範囲:P.684 - P.687

ポイント

★ESBL産生菌は第3・4世代セファロスポリンなどに耐性を示す高度耐性菌である.

★ESBL産生菌はキノロン系,アミノグリコシド系の抗菌薬にもしばしば耐性を示す.

★耐性菌を想定した経験的治療の選択には施設の感受性パターンの情報が有用である.

★ESBL産生菌が分離されても感染症の起因菌でなければ抗菌薬投与の対象にならない.

★2010年以降,腸内細菌科の感受性試験結果の解釈の新基準が採用される予定である.

肺炎球菌感染症に対する抗菌薬治療

著者: 笹原鉄平

ページ範囲:P.688 - P.693

ポイント

★肺炎球菌感染症に対する抗菌薬治療は,可能な限りペニシリンで行う.

★肺炎球菌のペニシリンに対するMIC(最小発育阻止濃度)を確認すること.

★肺炎球菌治療の戦略は,髄膜炎とそれ以外の感染症で大きく異なる.

★肺炎球菌性髄膜炎では,菌の感受性判明までの間,薬剤耐性株を想定した治療を行う.

鼎談

抗菌薬はなぜ難しく感じるか

著者: 大曲貴夫 ,   木村舞 ,   九鬼隆家

ページ範囲:P.694 - P.705

 近年,若手医師を中心に一般内科医の感染症への関心は高まりを見せている.しかしその一方で,初期研修医がまず難しいと感じるのも感染症,特に抗菌薬の選択であるという.

 また,抗菌薬と菌の系統的知識が身についても,実際の臨床現場では,限られた時間の中で「抗菌薬開始をどこまで待てるか」や,個々の患者にどうガイドラインを適応するかといった判断」が求められるなど,感染症診療ならではの難しさも多い.

 本座談会では,初期研修医,後期研修医それぞれの立場から,日々の診療における感染症診療上の悩みをお話しいただいた.

連載 手を見て気づく内科疾患・16

逆ゴットロン徴候,皮膚筋炎の皮膚病変

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.551 - P.551

患 者:52歳,女性

病 歴:1カ月前から,顔,手に皮疹が出現し,床からの立ち上がりに困難を感じるようになってきた.近医を受診したところ,クレアチニンキナーゼ高値を指摘され,紹介された.

身体所見:近位指節間関節,中手指節関節の背側にゴットロン徴候(Gottron's sign)を認める(図1a).爪囲紅斑も認められる.遠位指節間関節,近位指節間関節の掌側にも紅斑を認める(逆ゴットロン徴候,図1b).三角筋,腸腰筋の筋力が両側で低下(4/5)している.

アレルギー膠原病科×呼吸器内科合同カンファレンス・1【新連載】

喘息と関節リウマチの既往がある患者の咳嗽―他科から処方される薬剤に注意!

著者: 岡田正人 ,   仁多寅彦

ページ範囲:P.710 - P.713

後期研修医 喘息,関節リウマチの既往のある65歳男性が,感冒様症状の悪化により自宅から電話で連絡してきた症例です.

 患者さんは20歳頃から喘息があり,数年前に当院呼吸器内科に受診しましたが,吸入治療にて状態が安定したため,近医で治療継続することとなり,当院呼吸器科へは半年に1回検査目的で来院する程度となっていました.

目でみるトレーニング

著者: 斎藤雅彦 ,   小森美華 ,   中田一之

ページ範囲:P.714 - P.719

外来診療に差をつけるコミュニケーションスキル・7

家族に付き添われた患者とのコミュニケーション:相手は患者か家族か

著者: 木村琢磨

ページ範囲:P.720 - P.724

事例紹介●娘と来院した高齢男性

88歳の男性.これまで医療機関にかかったことはないが,最近食が細くなり,心配した娘に付き添われて外来を受診した.

医師 「こんにちは,今日はどうなさいましたか?」

患者 「自分では心配していないんですが,娘がどうしてもと言うもんですから参りました」

医師 「どういうことでしょう?」

患者 「元々,食は細いほうなんですが,そうそう,いつだっけ,この前は吐き気があったよな?」(娘にゆっくり話しかけている)

患者はしっかりしているようだが,とてもゆっくりと話し,話の要領を得ない.カルテはどんどん積まれていく.手際よく診療しなくては…….

そんな医師の気持ちを悟ってかはわからないが,娘が話し始めた.

娘 「すいません.父がのろのろしていまして.実は……」

娘は,とても手際よく症状の経過を教えてくれた.

医師 「はーなるほど」「そうですか」

医師は,本人のほうを時々向いてはいたものの,いつのまにか,本人とほとんど話をせず,娘とばかりやり取りしたまま診療は終了となった.果たして,これでよかったのであろうか…….

研修おたく海を渡る・52

マッチングの季節(1) 個性を出す

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.725 - P.725

 またマッチングの季節がやってきました.昨年からインターン選抜委員となり,今年も50以上の応募書類を読みました.こういうエキストラな仕事はアメリカでも面倒くさがられるのですが,エッセイを読むのは嫌いでないので,なんとか楽しんでやっています.

 ERAS(electronic residency application service)というウェブ上のシステムになってから,応募先それぞれの様式にあわせて願書を作成する必要がなくなり,一括応募できる点は楽にはなりましたが,個性を出すのが難しくなったといわれます.たくさん応募するほど出願料は高くなり,31カ所以上は1つの応募先あたり25ドルもします.競争率の高いフェローシップである循環器内科や消化器内科では,アメリカ人でも,50以上のプログラムに応募することは稀ではないようです.ワンクリックで2,000ドル近くもかかったと言っているレジデントもいました.

The M&M reports 見逃し症例に学ぶ内科ERの鉄則・8

43歳男性 主訴 発熱・意識障害

著者: 長谷川耕平 ,   岩田充永

ページ範囲:P.726 - P.731

救急レジデントH:

 糖尿病の既往のある43歳大工の男性が,発熱・意識障害の主訴で救急外来を受診しました.

 昨日までは特にいつもと変わったことはなかったようですが,今朝より39℃の発熱,話しているとつじつまが合わないということで奥さんが心配し,連れてきたようです.軽度の頭痛,吐気に加え,力仕事のしすぎで右腕が筋肉痛と訴えていますが,上気道炎症状,咳,呼吸困難,嘔吐,下痢,腹痛,排尿痛,皮疹は否定していました.

書評

地域医療テキスト

著者: 武田裕子

ページ範囲:P.620 - P.620

 「『地域医療』があるのはわかるけど,『地域医療学』なんて学問,本当にあるんですか?」と質問されたのは,私が三重県の寄附講座に着任した直後であった.確かに,見わたすと教科書がない.地域医療連携や地域保健・福祉などに関する本はあるものの,「地域医療」を正面からとらえて一冊にまとめた書物はなかった.しかし,実際に地域医療に従事している仲間と会話すると,実践に役立つ知識や方法論,そして日々の悩みやジレンマにも確かに共通のものがある.何よりも,「うんうん,そうそう」と大きくうなずいてしまう患者さんやご家族とのエピソード,病院の中にとどまらない地域を挙げての活動には,伝えずにはいられない楽しさと感動満載である.これを言語化,理論化できれば,「地域医療」のテキストになるのでは……と思い続けていたところ,ついに出た.自治医科大学監修『地域医療テキスト』である.

白衣のポケットの中―医師のプロフェッショナリズムを考える

著者: 名郷直樹

ページ範囲:P.683 - P.683

 『JIM』に連載されていたときから注目していた記事が,連載時より格段にバージョンアップして,1冊の本にまとめられた.タイトルは「白衣のポケットの中」,副題が「医師のプロフェッショナリズムを考える」である.そして,本書のコンセプトは,裏表紙に次のフレーズに凝縮されている.

 医師の白衣には2つのポケットがついています.

 ひとつは,(中略)「確実性」のポケット.

 もうひとつは,(中略)「不確実性」のポケット.

 (中略)

 2つのポケットの中から飛び出した

 医師たちの「悩ましき日常」をめぐる冒険を

 どうぞお読みください.

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編集室より

著者:

ページ範囲:P.740 - P.740

●先日,『針聞書(はりききがき) 虫の知らせ』(ジェイ・キャスト発行)という絵本を手にしました.『針聞書』(九州国立博物館所蔵)とは戦国時代に著された東洋医学書で,病気別の針の打ち方や臓器・体内の解剖図に加え,体の中にいる虫の図とその治療法が記されています.この『針聞書 虫の知らせ』では,『針聞書』に描かれている「腹の虫」に焦点をあて,体内で病気を引き起こすと考えられていた63のユーモラスな虫たちを鮮やかな図解入りで解説しています.多くは空想上の虫ですが,なかには「腎積(じんしゃく)」〔この積(虫)のある人は色黒で塩辛い味を好み口臭がひどいと記されている〕のように,腎疾患のようすを示唆するかと思われるようなものも.姿の見えない病の「元凶」を虫という形で表現しているのはとても興味深いものです.●顕微鏡の発明により,病気の「元凶」が目に見えるようになりました.その大きなものが細菌などの微生物です.本号では,「抗菌薬の使い方を究める」をテーマに掲げ,抗菌薬診療の概観と各抗菌薬の使い方のコツをまとめました.本特集ではまず,感染症診療全体の流れを捉えることの重要性が強調されています.この「感染症診療の考え方」をまずは知ることで,これからの診療がもっとスムーズになるのではないでしょうか.●座談会では,若手医師を中心に,実際の臨床現場でのリアルな悩みをお話しいただきました.個々の患者への適応,緩和医療の場における感染症診療のありかたなど,身近なテーマが満載です.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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