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雑誌目次

雑誌文献

medicina47巻5号

2010年05月発行

雑誌目次

今月の主題 ワンランク上の内科エマージェンシー―もうだまされない! 非典型例から最新知識まで

著者: 林寛之

ページ範囲:P.747 - P.747

 救急対応は誰でもできるはずと世間の人は思っているようだが,致死的救急疾患なんてそうそう毎日診るようなものじゃない.それも専門外になってしまうと,いかに疑いをもつかにかかってくる.稀な救急疾患や非典型的救急疾患はてぐすねを引いてわれわれを落とし穴にはめようと待ち構えている.重症なら救急車で来院して欲しいと願うのはわれわれ医療者の都合であり,独歩来院で実は重症だったという救急患者は0.2~0.7%あるというから,時間外患者を1,000人も診れば必ずとんでもない重症救急患者に数人ほど出くわすということだ.

 「常に最高の名医が診ないとダメだ」「絶対救急は受け入れろ.でも死んだら医療ミス」などと夜中に無理難題を言う昨今の判決や患者は現実をわかっていない.医療がこんなに広範囲になった今,スーパードクターなど漫画やマスメディアの中にしか存在しない.テレビのERの心肺蘇生率は約6割もあるのに,院外心肺停止の蘇生率など1割にも満たないのが現実の世界だ.心が折れた医者はさっさと救急なんて手を引きたくなってしまう.軽症救急患者を断っても時間外救急の混雑には影響を与えないと多くの論文が証明しているのに,軽症救急患者を憎むのはむしろバーンアウトの徴候だ.

理解のための27題

ページ範囲:P.883 - P.887

慌てず対応するためのカギ

hands-only CPRって何ですか?―人工呼吸を伴わない蘇生術の適応

著者: 紙尾均

ページ範囲:P.748 - P.751

ポイント

★“あえぎ”がある症例は蘇生率が高い.

★hands-only CPRは119番通報と胸骨圧迫の2ステップのみ!

★院外で成人が突然倒れるところを目撃した症例にのみ適応する.

★蘇生に人工呼吸が必要な心肺停止症例もあることを忘れない.

★2010年末に発表予定の新しいガイドラインに注目.

外傷診療のJATECは内科医なら知らなくていいの?―専門外だからこそprimary surveyだけは知らなければ!

著者: 入澤太郎

ページ範囲:P.752 - P.755

ポイント

★外傷患者の診察手順を標準化したガイドラインとして,JATEC®(Japan Advanced Trauma Evaluation and Care)がある.

★JATECのprimary surveyは,それほど難解なものでもなく,当直するすべての医師に知っておいていただきたい診療手順である.

ショック患者の対応をもう少しうまくしたいんだけど……―「さるも聴診器!」

著者: 林寛之

ページ範囲:P.756 - P.759

ポイント

★「やばい!」と思ったら,合言葉「さるも聴診器」

★ショックは早期の原因究明が救命につながる!

★エコーを使い慣れておこう!

★ABC>Dの法則

どんな時,血圧は下げないといけないの?―血圧だけなら慌てない,慌てない.ひと休み,ひと休み.

著者: 金井伸行

ページ範囲:P.760 - P.763

ポイント

★無症候性高血圧に対し,すぐ降圧薬を投与すべきというエビデンスはなく,むしろ急速な降圧が有害になることもある.

★無症候性高血圧に対しては,まず安心と安静を提供し,患者のリスクに応じてフォローアップの指示を行う.

★高血圧に伴って臓器障害を疑わせる症候がある場合は,高血圧緊急症として静注薬による積極的な降圧が不可欠である.

とにかく血培をとっておけばいいの?―No Culture, No Life !

著者: 川城麻里

ページ範囲:P.764 - P.767

ポイント

★「発熱があるからとりあえず血培」ではない! 血液培養の適応は「菌血症または敗血症を疑うとき」.

★菌血症を診断するためには,血液培養は2~3セット採取が必要.複数セットを採取する理由を説明して,周囲を味方につけよう!

★血液培養の量は多いほど検出率が高い! 一般的には1セットにつき20ml採取が推奨される.

診断のためのカギ

意識障害でCTに異常がなければお手上げ?―まずABC,そしてAIUEOTIPS !

著者: 横須賀公三 ,   茂木恒俊

ページ範囲:P.768 - P.771

ポイント

★意識障害の原因は,頭部疾患6割,代謝性疾患4割.

★意識障害の患者へのアプローチは,バイタルサインのチェック→安定化→低血糖の否定→頭部CT.

★やっぱり鑑別診断の記憶法としてはAIUEO TIPSが有用.

★ピットフォールも少なくないことを知っておこう.“Beyond AIUEOTIPS.”

人生最大の頭痛っていえば,くも膜下出血なの?―Worst headache ever !

著者: 加藤之紀 ,   林寛之

ページ範囲:P.772 - P.774

ポイント

★「突然のひどい頭痛」の10~15%はくも膜下出血.

★頭部CTだけではくも膜下出血の7%は見逃してしまう.

★髄液は,発症12時間までは赤血球,それ以降はキサントクロミーで判断.

★頭部CTも髄液も正常であれば帰宅可能だが,follow upは忘れずに!

★非典型例は医者泣かせ! 高血圧,飲酒歴,喫煙歴,家族歴で疑いを!

心筋梗塞ってどうして見逃されるのですか?―Atypical is typical ! ……AMI

著者: 永井秀哉 ,   林寛之

ページ範囲:P.775 - P.778

ポイント

★AMIの8~33%が胸痛ではなく,呼吸困難や嘔気・嘔吐などの非典型的症状を主訴とする.

★高齢,女性,糖尿病や心不全,高血圧は,胸痛のないAMIのリスクである.

★85歳以上の高齢者心筋梗塞の主訴は,「胸痛」よりも「息切れ」が多い.

★女性のAMIは刺すような痛みや,放散痛,嘔気・嘔吐,めまいなどで発症しやすい.

★初回の心電図変化が診断的なのは20~60%しかない.

大動脈解離って裂けるような痛みなんでしょう?―Atypical is typical !……大動脈解離

著者: 今明秀

ページ範囲:P.780 - P.783

ポイント

★大動脈解離診断に非典型例が多い.

★裂けるような痛み自覚は半数.

★来院時には痛みがない例もある.

★AMI合併が解離の7%にある.

★血圧左右差,神経局在所見の頻度は少ないが診断に有用な所見.

★大動脈解離はDダイマー 500ng/ml以下で否定できる.

肺塞栓ってDダイマーさえ測定しておけばいいんでしょ?―猫も杓子もDダイマーではダメ

著者: 有嶋拓郎

ページ範囲:P.784 - P.787

ポイント

★患者のリスク分類をして低リスク群でDダイマーが陰性なら肺梗塞を否定できる.高リスク群なら造影CTで診断をつける.

★血液ガス検査ではPaO2が酸素投与に反応していて正常化していることがあるが,AaDO2は初期から開大してくる.SpO2が低下してくるのは非常に重篤な状態に陥ってからと考える.

★現病歴で循環虚脱の症状(10%くらい)があれば集中治療が必要なことが多いので聞き洩らさない.

★頻脈と頻呼吸は肺梗塞でも一般的にみられる所見であるが,下肢の観察を加えることで診断の絞り込みをするように心がける.

失神はTIAが多いんじゃないですか?―知って得する「CHESS」

著者: 奥村将年 ,   岩田充永

ページ範囲:P.789 - P.793

ポイント

★TIAで失神は稀である.

★見逃してはいけない失神は3つ! 「心血管性・失血・SAH」

★詳細な病歴,身体診察,ECGで50%は診断可能である.

★帰宅させるときには「CHESS」でriskを評価する.

虫垂炎って見逃さないようにするにはどうしたらいいですか?―心窩部痛患者全員に「アッペかも?」が合言葉

著者: 加藤博之

ページ範囲:P.794 - P.797

ポイント

★心窩部や臍周囲の痛みの患者に対し,安易に「急性胃腸炎」と“ゴミ箱診断”をするな.

★高齢者,小児,妊婦など,“要注意患者群”にご用心.

★身体所見の感度,特異度を把握せよ.

★エコー,CTについては,「まずエコーを行って,正常または不明ならCTへ」.

尿管結石だと思ったのに……―尿管結石と間違われやすい救急疾患

著者: 森浩介 ,   林寛之

ページ範囲:P.799 - P.801

ポイント

★腹部大動脈瘤の誤診率No.1は尿管結石である.

★診断のgold standardはNECT.しかし日本では腹部エコーの活用が有用である.

★尿検査は診断に寄与しない.感染を疑った時は必須である.

★鎮痛はできるだけ早く行う.現在はNSAIDsが第一選択薬である.

★METにおいて現時点でエビデンスがあるのはα遮断薬のみ(タムスロシン)である.

腑に落ちない腹痛と,どう闘う?

著者: 太田凡

ページ範囲:P.802 - P.805

ポイント

★ウイルス性胃腸炎や便秘のようでも致死的な疾患が隠れていることがある.

★やはり,病歴・バイタルサイン・身体所見が重要.しかし,過信は禁物.

★病態が確定しないまま腹痛が残存する場合は,外科コンサルトを躊躇しない.

★腹痛が軽減していても病態が明らかでない場合は,適切なフォローアップを.

治療のためのカギ 【治療ストラテジー】

アナフィラキシー治療の優先順位は?

著者: 林実 ,   林寛之

ページ範囲:P.807 - P.810

ポイント

★アナフィラキシー治療のカギはエピネフリンと十分な輸液!

★エピネフリンは投与タイミング・投与量・投与経路が大切!

★抗ヒスタミン薬やステロイドはあくまで補助的療法.

★二峰性反応があるので安易に帰宅させてはならない.

脳出血って,血圧を下げて,手術をすればいいんでしょうか?―脳出血診療のエビデンス

著者: 佐藤朝之

ページ範囲:P.811 - P.815

ポイント

★脳出血と脳梗塞は,所見からでは完全には区別できない.低血糖を除外し,脳梗塞として行動する.

★降圧の前に,患者さんにストレス(痛い,苦しい,熱い,寒い)が,かからないようにする.

★収縮期血圧<180mmHg,平均動脈圧<130mmHgを目標に降圧する.

★手術の適応は,小脳出血と,深さ1cm未満の浅い皮質下出血に限られる.

髄膜炎の治療ってどれくらい焦らないといけない?―できるだけ早く!

著者: 前川道隆 ,   山中克郎

ページ範囲:P.816 - P.819

ポイント

★髄膜炎の症状や所見は典型的でない場合が多く,髄膜炎か判断に迷う場合には髄液検査を行う.

★髄膜炎を疑ったら,できるだけ早く抗菌薬治療を開始する必要がある.

★腰椎穿刺前の頭部CTは必要な場合のみに行えばよい.

★抗菌薬投与の前にステロイド投与を行うことで生命予後の改善,神経後遺症の減少が期待できる.

心筋梗塞の胸痛ってどれくらい急ぐものですか?―Time is muscle !

著者: 谷口洋貴

ページ範囲:P.820 - P.825

ポイント

★Time is muscle! 特にSTEMIでは,時間との勝負!

★胸痛患者にはACSが混ざっている! 決して待たせたり放置せず,すぐにバイタルチェックや心電図をとる環境を構築しておこう.

★STEMIの治療にはPCIと血栓溶解療法がある.primary PCIのほうが成績がよく日本では好んで行われるが,適応を考えれば血栓溶解療法も武器となる.とにかく,早く再灌流を急げ!

★NSTEMIはリスクの層別化を行い,応じて対応をする.STEMIに準じた対応を迫られることもあるのでNSTEMIなりに急がないといけない.

敗血症の有効な治療はステロイドでしたっけ?―やっぱりEGDT !

著者: 高松由佳 ,   柳井真知 ,   藤谷茂樹

ページ範囲:P.826 - P.830

ポイント

★感染症によるSIRSが敗血症である.

★初期蘇生はEGDTに従って行い,発症後6時間以内のCVPが8~12mmHg以上,平均血圧65mmHg以上,時間尿量0.5ml/kg以上,中心静脈酸素飽和度70%以上,の達成を目指す1)

★抗菌薬は,重症敗血症あるいは敗血症性ショックの認知後,1時間以内に投与する(severe sepsis bundlesは救急室入室時より3時間以内)2)

★十分な輸液と血管収縮薬を投与してもショックから離脱できない場合はヒドロコルチゾン(300mg/日以下),バソプレッシン(0.03単位/分)を考慮してもよい3)

化学療法中のがん患者が救急にきてしまったら,どうしたらいい?

著者: 河合泰一

ページ範囲:P.833 - P.836

ポイント

★がん化学療法を外来で受ける患者さんが増加している.

★外来治療のレジメンは決して「マイルド」ではなく適切な副作用対策が必要だ.

★がんは通常緩やかに進行するが,時間~日の単位で状態を悪化させ緊急な対応を要するオンコロジーエマージェンシーが存在する.

【患者マネジメント】

脳梗塞3時間以内ってわかりにくいんですけど―Time is brain ! 脳梗塞3時間以内一本勝負

著者: 吉田伸 ,   齊藤裕之

ページ範囲:P.837 - P.840

ポイント

★発症3時間以内のrt-PAの施行により,発症から3カ月後の機能予後が改善できる.

★rt-PAの適応は,本邦では発症3時間以内の適応となっているが,欧米では発症4.5時間以内に拡大されつつある.

★プライマリケア医は脳梗塞初期診療のゲートキーパーとして,rt-PAの適応と禁忌を踏まえた適切な行動をとる必要がある.

TIAって帰していいんですか?―ハイリスク患者を見分けるABCD2

著者: 許勝栄

ページ範囲:P.842 - P.845

ポイント

★TIAは決して「軽い脳梗塞」ではない.重症化予備軍であることを肝に銘じる.

★TIAに続く脳梗塞は48時間以内の急性期に多い.

★TIA診療の鍵は「スピード」.迅速な評価と治療が必要.

胸痛患者ってどれくらいフォローアップすれば心筋梗塞の見逃しがなくなるんですか?―100%除外はできない心筋梗塞の検査たち

著者: 西川佳友 ,   岩瀬三紀 ,   上田剛士

ページ範囲:P.846 - P.849

ポイント

★ACSを100%否定することは不可能.循環器内科医に相談する閾値を低くし,迷ったら経過観察入院を!

★心電図を診るときは必ず以前の心電図と比較を! フォローアップも忘れずに.

肺炎っていつ入院しないといけないの?

著者: 鈴木博子

ページ範囲:P.850 - P.855

ポイント

★肺炎を見たら,市中肺炎か,院内肺炎か,肺炎以外なのか,患者背景は何かを見きわめる.

★PSI, CURB-65, A-DROPはどういうものか知っておこう.

★血液培養の適応を知るべし.

★抗菌薬投与はなるべく早く!

【内科でも遭遇する他科の患者】

18カ月以下の乳幼児の熱性痙攣は腰椎穿刺が必要か?―単純か複雑かそれが問題だ

著者: 人見知洋 ,   松尾宗明

ページ範囲:P.856 - P.859

ポイント

★小児科医でないなら腰椎穿刺よりも乳幼児の目の前の痙攣を頓挫できればほぼ満点.

★有熱性痙攣発作で熱性痙攣を考えてよいのは通常6カ月~5歳の児である.

★熱性痙攣でも単純型か複雑型か,また患児の月齢で腰椎穿刺などの対応が違ってくる.

★単純型でも複雑型でも痙攣後の意識レベルが完全に清明かどうかの確認が最も重要.

★小児科医でない皆さん,帰宅させる判断を急がず小児科医への引き継ぎをとにかく優先.

目は口ほどにものを言うっていいますが……―内科医が知っておきたい眼科エマージェンシー

著者: 鈴木富雄

ページ範囲:P.860 - P.863

ポイント

★red eyeの鑑別では結膜充血と毛様充血の区別が大切である.

★急性緑内障を疑ったら触診法にて眼圧を推定し,ペンライト法にて虹彩膨隆による陰影を確認する.

★視神経障害を疑ったらswing flash light testにて視神経の求心路障害を評価する.

★急激な片側性無痛性視力低下は緊急事態と考え,中心網脈動脈閉塞症を疑い,眼球マッサージをしながら眼科医をコールする.

ちょっとボケたんですが……―器質性精神疾患を見逃さない!

著者: 久村正樹

ページ範囲:P.865 - P.868

ポイント

★40歳以降の初めての精神症状は原因として器質的疾患を考える.

★救急外来での精神症状はAlzheimer型認知症を原因に考えない.

★精神症状を常識の範疇で捉えない.

座談会

時間外こそジェネラリストが活躍すべき!

著者: 林寛之 ,   齊藤裕之 ,   山中克郎 ,   太田凡

ページ範囲:P.870 - P.882

一般内科医の方々は,軽症から重症まで,また幅広い疾患を対象に,時間外の救急対応まで幅広い診療が求められている.時間外だからこそ診療の幅を広げるチャンスととらえるのか,専門科の領域を侵してはならないと遠慮するのか.

本座談会では,そのようなジェネラリストの難しい立場を踏まえて,時間外の救急患者への対応を中心に,ジェネラリストに必要な資質とは何か,折れそうな心を支える魅力とは何か,お話しいただいた.

「専門がないのが専門」という言葉には,他科の専門を尊重するからこその謙虚な姿勢と,幅広い対応ができるという自負が込められている.

連載 手を見て気づく内科疾患・17

著明な手の腫脹―鎖骨下静脈閉塞

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.743 - P.743

患 者:84歳,女性

病 歴:1年前に腎硬化症から慢性腎不全となり血液透析が導入された.左前腕に内シャントが作成されたが閉塞した.続いて右肘部で動静脈吻合が行われたが,右鎖骨下静脈まで血栓性静脈炎を併発した.右鎖骨下静脈の完全閉塞のため右腕全体が著明に腫脹した.

身体所見:右手が著明に腫脹し,左手との差が明白である(図1).右肩に側副血行路の発達が認められた(図2).

目でみるトレーニング

著者: 豊田智子 ,   小川大輔 ,   斎藤雅彦 ,   新谷雅司

ページ範囲:P.888 - P.893

研修おたく海を渡る・53

マッチングの季節(2) 面接対策

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.895 - P.895

 僕がフェローに応募したときにはエッセイだけで自分をうまく説明することに苦労しました.そこで自分の生い立ちからアメリカにたどり着くまでの「写真付きの自分史」を作って,願書に紛れ込ませました.「余計なことをして,変なやつだと思われないか」と迷ったのですが,「これをおもしろいと思ってくれるところに呼んでもらえればいいや」と逆セレクションのつもりで出しました.現在のERASというオンラインシステムでは,無理かもしれません.まだ応募書類が紙だった頃の裏技です.実は自分のアイデアではありません.ハーバードのMBAに入った部活の先輩に教えてもらった作戦なのです.

 担当面接官の名前入りのスケジュールをもらってからが準備のしどころ,本気度の示しどころです.Google,PubMedを駆使して,面接官の専門分野を調べます.文献を読めれば,それに越したことはありませんが,中には数百の論文を書いているスタッフもいます.それでも抄録,いやタイトルだけでも目を通しておくとずいぶん違います.もちろん知ったかぶりをしてはいけません.面接官の研究に興味があると示すことができれば,あとは彼がひたすら自分の研究について話してくれることもあります.聞き上手に徹すればいいのです.誰でも自分の話を聞いてくれたら,いやな気分はしません.たぶん一緒に働きたいと思ってくれることでしょう.

アレルギー膠原病科×呼吸器内科合同カンファレンス・2

関節炎+間質性肺炎=膠原病?!

著者: 岡田正人 ,   仁多寅彦

ページ範囲:P.897 - P.901

後期研修医 関節炎と間質性肺炎にて紹介されてきた,特に既往のない49歳女性です.来院1年ほど前から肘,手首などに関節痛があり,来院数カ月前からは肩の痛みを自覚していました.入院2週間前に咽頭痛と気道感染症を疑う症状があったため胸部単純写真を撮り,間質性肺炎を認めたため,膠原病疑いで紹介となりました.

The M&M reports 見逃し症例に学ぶ内科ERの鉄則・9

60歳女性,主訴 胸痛

著者: 長谷川耕平 ,   岩田充永

ページ範囲:P.902 - P.907

救急レジデントH:

 高血圧,脂質異常症,糖尿病の既往のある60歳の女性が胸痛のために救急外来を受診しました.今まで胸痛の既往はないとのことですが,30分ほど前より急性発症の左胸部痛と左肩痛を発症したとのことです.レビューオブシステムでは,冷や汗あり,発熱,上気道炎症状,呼吸困難感,下肢の痛みや腫脹はないようですね.両下肢が痺れて動かなかったと訴えていますが,来院時には下肢の症状は改善したようです.

 既往歴は高血圧,脂質異常症,食事療法でコントロールしている糖尿病,骨粗鬆症のみ.処方薬はアムロジピン,シンバスタチン,カルシウム剤+ビタミンDだけのようです.喫煙歴なし.家族歴に心疾患の既往なしでした.

外来診療に差をつけるコミュニケーションスキル・8

三者関係を診療に生かす①:家族を意識した患者とのコミュニケーション

著者: 木村琢磨

ページ範囲:P.908 - P.911

事例●姑に言われたことを契機に子どもを受診させた母親1)

5歳の女児が,今朝から発熱と鼻汁があるため,母親に連れられて外来を受診した.医師は上気道症状が受診動機と考え,病歴聴取を手短に切り上げ身体診察を行って,母親へ説明を行った.

医師 「熱が出たのでお母様もご心配と思いますが,風邪のようですから大丈夫ですよ」

母親 「先生,風邪はあまり心配していないんです.実は昨日の朝,いすから落ちて頭を打ちまして……」

医師 「そうでしたか」

医師は,母親からの意外な返答に内心驚かされた.明らかな感冒症状で来院しても,解釈モデルや受診動機を診療の前半で確認しておくべきだったと反省した.その後,母親から頭部を打った際の様子を聴取したところ,「母親が目を離した隙にいすから床へ落ちて後頭部を打ったが,いすの高さも低いうえ,床には絨毯が敷かれていた」という.追加の身体診察では神経学的に異常を認めず,臨床的に問題ないと考えられた.ただし,なぜ,昨日ではなく本日受診したのかが気になり,医師は母親に尋ねた.

書評

臨床中毒学

著者: 森脇龍太郎

ページ範囲:P.778 - P.778

 上條吉人先生は,わが国で最も先進的な急性中毒の診療および研究を行っておられ,また学会などでもオピニオンリーダーとして華々しく活躍されている.臨床中毒学を専門とする者で,先生の名前を知らない者はいないと言っても過言ではなく,間違いなく今後の日本の臨床中毒学を背負って立つ人材の一人である.

 数年前,同じ医学書院から出版された先生の著書『急性中毒診療ハンドブック』は,簡潔明瞭にエッセンスがまとめられていて,またおのおのの中毒のメカニズムについても強調されており,さらには今まで業界には存在していなかったメモニクスによる記憶法なども編み出され,大変ユニークで親しみやすい内容であった.今回その精神を踏襲しながら膨大な加筆をたった一人で行われて完成したものが,この『臨床中毒学』と思われる.本の体裁がハードカバーで,今までの先生の著書と違って,いかにもいかめしい印象を受けたが,内容を拝見すると,臨床医にもわかりやすい明瞭な解説・図表の数々,結局のところ今までのアプローチとまったく同じであることに安心した次第である.

救急レジデントマニュアル―第4版

著者: 福井次矢

ページ範囲:P.783 - P.783

 本書は1993年の初版以来,15年間の販売部数が10万部を超えているとのことであるから,この期間にわが国の医学部・医科大学を卒業したほぼすべての医師が本書を手にしたことになる.救急診療の現場で「まず何をすべきか,その後に何をすべきか」という実践的な知識・態度・技量を身につけようとする者にとって,本書は,その内容と利便性からいって,まさに“スタンダード・マニュアル”であることに異論をはさむ余地はないと思う.

 本年3月に出版された第4版では,過去6年間の医学・医療の進展を反映し,取り扱うテーマの新設・改廃が行われた.例えば,臨床研修の到達目標,保険適用されたt-PA,改正感染症法,AHA2005,JATEC,肺血栓塞栓症,急性膵炎など,多くの最新情報が盛り込まれ,執筆者の変更も全項目の約4分の1にあたる48項目に上っている.読みやすい場所にうまく配置されている32項目のAddendum(補遺)には,新たに「ISS(Injury Severity Score)」と「APACHEⅡ」が加えられた.

心臓病の診かた・聴きかた・話しかた―症例で学ぶ診断へのアプローチ

著者: 齋藤宣彦

ページ範囲:P.805 - P.805

 髙階先生をご存じない方には「プロ野球選手のイチロー以前に『イチロー』を開発された方です」と紹介することにしている.臨床実習開始前のOSCEを経験してきた研修医や評価者を務めたことのある指導医ならば,国内の全医科大学のスキルス・ラボに設置されている世界に冠たる心臓病患者シミュレータ「イチロー」の名を知らない人はいない.しかし実は,髙階先生はイチロー開発のずっと以前から,わが国屈指の臨床心臓病学者であるばかりでなく,尊敬すべき医学教育者として斯界ではよく知られていた.チュレーン大学医学部のProf. George E. Burchに師事されたとのこと,それを知って納得する読者も多いだろう.今回の著書は,臨床心臓病学と望ましい医学教育手法を融合させた切り口でまとめられているが,これは両方に精通した著者でなければできないことである.

医療者のための結核の知識―第3版

著者: 渡辺彰

ページ範囲:P.819 - P.819

 結核はなぜなくならないのか? それどころではない! 結核は過去の疾患ではなく,わが国にとってはいまだに大きな問題を孕む感染症である.年間2万数千人が新しく結核を発症して2000人前後が死亡しているのである.近年,結核罹患率(=新規患者の年間発生率,人口10万対)はようやく20を割ったが,これは先進国の北欧諸国や米国の5倍前後と高い.すなわち,わが国は決して結核対策の先進国ではなく,東欧圏などと同じレベルの中蔓延国なのである.疫学的背景としては,わが国の人口構成で高齢者が急増していることの影響が大きい.過去の高蔓延時,若いころに感染して発病せずにいたが病巣を抱えている潜在性結核が高齢者に多く存在し,そこから多数の発症が起こるとともに,結核免疫の脆弱な若年層がそれをもらって集団感染を起こすという構図が最近顕著になっているのである.若手医療者もまったく同様であり,診断のつかないまま一般医療施設を受診する結核菌排菌患者に遭遇する機会が増えている現在,若年看護師を中心とする職業感染としての結核集団発生も多い.結核は感染・発症するとその人にとっては一生続く一大事となるのであり,一般の医療職もここでもう一度「結核」を学んで対応策をしっかり考えたい.

問題解決型救急初期検査

著者: 上條吉人

ページ範囲:P.859 - P.859

 ただただ,これだけの本を一人で書き上げた著者に脱帽の思いである.私もこれまで単著を上梓してきた自負はあるが,あくまでも救急領域の一分野に限定された内容である.ところが,本著のタイトルには「救急」と冠されてはいるが,内容は救急領域を遥かに超えた幅広い分野に及んでいる.しかも,本著からは,著者の豊富な臨床経験ばかりでなく,広く深く正確な知識をもたらした著者の猛烈な知的欲求がにじみ出ている.「いったい何者だ?」という思いで著者の略歴を見て,合点した.物理学を学んだ後に,医学を志し,さらに,臨床医として,インターナショナルに切磋琢磨され,著者が「戦場」と譬えた「救急医療現場」に飛び込んだ経歴の持ち主である.著者にお会いしたことはないが,とにかく並外れた「熱い心」と「エネルギー」の持ち主であることは容易に想像がつく.

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編集室より

著者:

ページ範囲:P.922 - P.922

●「軽症患者の時間外受診が医療現場を疲弊させている」と考えていた私は,知人に「医師が診察する前に,その患者が軽症か重症かなんて,どうやって把握するのか?」と問われ,返す言葉がありませんでした.●軽症だろうが重症だろうが,内科だろうが外科だろうが,来る者を拒まずに引き受ける救急診療.本特集の座談会で「救急車を絶対に断らない」意気込みや風土が紹介され,ジェネラリストこそが救急医療を支えるという意味が,ようやくわかりかけてきました.逆説的ですが,ジェネラリストとは,“ジェネラルに診るという意味のスペシャリスト”なのだ,と.●ジェネラリストとして幅広い状況に対応するためには,初めてのことに挑戦し続けなくてはなりません.それを支えるのは,「何かあったら引き受ける」という先輩や上司の存在です.裏を返せば,24時間365日途切れない患者を救うために,自分が不在の間も同様に診療できる存在をつくらなくてはならない,その覚悟が人を育てるのでしょう.●人を育てるためには,自分が力をつけるのはもちろん,「一所懸命に教えることがとても大事」という林寛之先生の言葉が印象的でした.熱心に教えられたと感じている事柄は,今も大切にしていることに改めて気づいたからです.●知識や技術を機械的に伝達するだけではなく,その背後にあるマインドを伝えること.それが“同志”を増やすことにつながり,自分が従事する領域の質をより向上させる鍵なのかもしれません.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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