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雑誌目次

雑誌文献

medicina47巻6号

2010年06月発行

雑誌目次

今月の主題 酸塩基・電解質―日常で出くわす異常の診かた

著者: 柴垣有吾

ページ範囲:P.929 - P.929

 「酸塩基・電解質」というタイトルで,この雑誌を手にとられた方の気持ちはどんなものなのであろうか?「うわっ.苦手だけど,よく遭遇するしなぁ.少しはためになること書いてあるかな??」という感じだろうか.

 酸塩基・電解質に初めて触れたときのことを思い出すと,確かにとっつきにくい印象を感じたのを覚えている.

理解のための28題

ページ範囲:P.1085 - P.1089

知っておきたい酸塩基・電解質の生理学の基本

水・ナトリウム代謝異常

著者: 柴垣有吾

ページ範囲:P.930 - P.935

ポイント

★Na量の異常は細胞外液量の異常(Na欠乏=体液量欠乏,Na過剰=体液量過剰)である.

★Na濃度の異常は浸透圧(張度)の異常で細胞内液量の異常となる.

★低Na血症は体が薄まっている(低張),高Na血症は体が濃くなっている(高張)状態である.

★Na濃度異常を抑制する鍵は尿張度の調節(低Na血症には薄い尿で対応)である.

★低Na血症は薄いintakeと濃いoutputの合併で生じ,原因として多いのが低張輸液や食欲低下と,ストレスなどによるADHの相対的過剰の合併である.

★低Na血症の治療はintakeを濃く(水制限,塩分負荷)することである.

カリウム代謝異常

著者: 森實隆司 ,   門川俊明

ページ範囲:P.936 - P.938

ポイント

★カリウム(K)は細胞内の主要な電解質であり,体内の総K量の約98%が細胞内に存在する.

★K代謝異常の病態を把握するためには,「細胞内外のKの移動」と「腎臓からのK排泄」に注目する.

★アルドステロン活性を評価するうえで,TTKGが臨床上有用である.

酸・塩基平衡異常

著者: 柴垣有吾

ページ範囲:P.939 - P.945

ポイント

★不揮発性酸(HA⇆H+A)は主に蛋白質(特に硫黄やリン含有アミノ酸)の肝臓での代謝により1日体重1kg当たり1~1.5mEq生じる.

★体内で生じた不揮発性酸のプロトン(H+)は腎の近位尿細管で中性アミノ酸グルタミンの分解から生じたHCO3によって緩衝を受け,CO2となって呼気中に排泄される.

★グルタミンの分解で生じたHCO3の片割れであるNH4+は不揮発性酸(HA)のプロトンの片割れであるAとともに尿中に排泄される.

★Aが体内に残存している限りは,酸の排泄がなされていないことを示している.AがClであれば,高Cl性アシドーシスとなるし,AがCl以外であれば,いわゆるアニオンギャップの上昇としてとらえることができる.

カルシウム・リン・マグネシウム代謝

著者: 濱野高行

ページ範囲:P.946 - P.950

ポイント

★カルシウム(Ca)・リン(P)・マグネシウム(Mg)代謝は,いずれも腸管吸収,骨との平衡,腎臓からの排泄に3つの要素に依存する.

★ほかにrefeeding syndromeでみられるような細胞内へのシフトがPとMgにはある.

★尿細管での再吸収が腎臓からの排泄量の大きな決定因子で,ホルモンがこれを支配する.

★骨細胞由来のP利尿ホルモンFGF-23は,生理的なP代謝の理解にも欠かせない因子である.

身体所見と検査で電解質を診る

身体所見から電解質異常を診る

著者: 須藤博

ページ範囲:P.952 - P.955

ポイント

★電解質異常を予測するきっかけになりうる身体所見があり,以下の2通りが考えられる.

 1)ある疾患や病態の結果として電解質異常の存在を考える場合に,その原疾患を示す身体所見

 2)電解質異常そのものが原因で起こる臨床徴候としての身体所見

血液ガス診断をマスターする

著者: 北川渡 ,   今井裕一

ページ範囲:P.957 - P.961

ポイント

★血液ガス診断はstep by stepで解釈する.

★pHとHCO3は,静脈血液ガスでも評価できる.

尿所見から電解質異常を診断する

著者: 相馬友和

ページ範囲:P.962 - P.967

ポイント

★尿中電解質検査値に正常値はない.

★臨床状況に,腎が正常ならどのような尿を作るかを考える.

心電図所見から電解質異常を診断する

著者: 大塚崇之 ,   山下武志

ページ範囲:P.969 - P.971

ポイント

★低カリウム(K)血症ではT波は低く,U波は高くなり,見かけ上のQT時間が延長する.

★高K血症ではT波が尖鋭化し高くなり,高度になるとQRS幅の延長などが出現する.

★血清K値の異常時は不整脈の発生に注意が必要である.

内分泌検査はどのような場合に必要か,どう役立てるのか

著者: 能登洋

ページ範囲:P.972 - P.975

ポイント

★検査は臨床的文脈のなかで初めて解釈可能で意味をもつ.

★病歴,症状,身体所見,一般検査で鑑別診断を絞ったうえで内分泌的検査が必要となる.

★内分泌検査を系統的に実施すると的確な侵襲検査を選択でき,リスクを最小限にできる.

電解質異常の治療の基本―緊急対応と軽度異常への対応

ナトリウム濃度異常

著者: 田川美穂

ページ範囲:P.976 - P.979

ポイント

★Na濃度異常を認識し,治療することは重要である.

★Na濃度異常の急激な補正は危険であり,数時間ごとに採血で評価をしながら治療する.

★Na濃度異常の原因の病態が進行しているかを考えながら治療する.

カリウム濃度異常

著者: 長浜正彦

ページ範囲:P.980 - P.983

ポイント

★高カリウム(K)血症の緊急治療直後はリバウンドに注意する.

★K濃度異常では心電図のモニタリングが重要である.

★慢性の低K血症で高血圧やアルカローシスがあれば,漫然とKを補充せず,高アルドステロン血症や,その類似疾患が背景にないか疑う.

酸塩基平衡異常

著者: 赤井靖宏

ページ範囲:P.984 - P.987

ポイント

★酸塩基平衡異常においては,その原因となる基礎疾患治療を常に考慮する.

★乳酸アシドーシスにおけるアルカリ製剤投与は,慎重に行うべきである.

★酸塩基平衡異常治療では,常に電解質(特にカリウム)異常に留意する.

カルシウム・リン・マグネシウム濃度異常

著者: 藤井直彦

ページ範囲:P.988 - P.994

ポイント

★Ca・P・Mg異常では,常に医原性でないことを確認する必要がある.

★Ca・Mg異常では,意識障害,腎不全,痙攣,徐脈といった致死的合併症を伴うことがある.

★多くは輸液にて緊急対応するが,重症例では透析を必要とする場合がある.

種々の臨床現場における電解質異常を知っておこう

プライマリケア医がみる電解質異常とその対応

著者: 横井徹

ページ範囲:P.996 - P.999

ポイント

★病歴や生活状況,家族関係などの把握,注意深い身体診察は電解質異常の診断に役立つ.

★検査機器が病院ほど充実していないプライマリケア医では,上記のローテク技術は不可欠である.

★この技術は,病院でも十分な検査ができない時間外,救急,休日診療の際に有用である.

救急外来における電解質異常,酸塩基平衡異常のピットフォールと鉄則

著者: 岩田充永

ページ範囲:P.1000 - P.1003

ポイント

★電解質異常の患者が救急外来を受診するときの主訴に強くなる.

★不整脈の背後に電解質異常があることを理解する.

★血清の電解質の値が体内の総量を反映するとは限らない.

★数字のみを直すのではなく,患者の全身状態に留意する.

ICUで多い酸塩基異常とその対応

著者: 若竹春明 ,   藤谷茂樹

ページ範囲:P.1004 - P.1008

ポイント

★代謝性アシドーシスの鑑別(アニオンギャップによる病態の鑑別)と乳酸アシドーシスの管理を理解する.

★ICUで多い代謝性アルカローシスの病態と鑑別を理解する.

★permissive hypercapniaについて理解する.

腎臓病患者における電解質異常とその対応

著者: 谷澤雅彦 ,   柴垣有吾

ページ範囲:P.1009 - P.1014

ポイント

★腎不全患者では,体液量過剰のみならず,体液量欠乏にもなりやすい.

★低Na血症にも,高Na血症にもなりやすい.

★高K(P/Mg)血症のみならず,低K(P/Mg)血症にもなりやすい.

★代謝性アシドーシスのみならず,代謝性アルカローシスにもなりやすい.

★低血糖にも,高血糖にもなりやすい.

★低Ca血症のみならず,高Ca血症にもなりやすい.

循環器内科からみる電解質異常とその対応

著者: 永井利幸 ,   香坂俊

ページ範囲:P.1015 - P.1020

ポイント

★心臓はイオンチャネルの活動でスイッチが入る臓器であり,電解質異常はその電気的活動に多大な影響を及ぼす.

★特にNa,K,Ca,Mgの振舞いは重要であり,これらの電解質異常は各種不整脈の発生に密接に関連している.

 ①例えば,心不全患者の加療ではしばしば低Na血症が認められ,水バランスの管理に関して重要な指標となる.

 ②さらに,近年心不全の診療で頻用されるレニン-アンギオテンシン-アルドステロン抑制薬や利尿薬も電解質に影響を及ぼす重要な薬剤であり,特に高K血症は予後に対して重大な影響を及ぼしていると考えられている.

 ③また,還流低下による多臓器不全をきたしているような重症例では,酸塩基平衡障害の合併が多く,特に背景に隠れた混合性酸塩基平衡障害が見逃されやすい.

糖尿病代謝内科からみる電解質異常とその対応

著者: 大杉満

ページ範囲:P.1022 - P.1024

ポイント

★高血糖緊急症の治療でまず優先すべきは補液と誘発因子の同定・治療である.

★カリウムの補正は来院時の血漿カリウム値と腎機能を考慮して決定する.

★高度の低リン血症を除き,リン補充は必須ではない.

内分泌内科からみる電解質異常とその対応

著者: 槙田紀子

ページ範囲:P.1026 - P.1033

ポイント

★低ナトリウム血症には副腎不全が隠れていることがある.

★カリウム異常をみたら,アルドステロンの分泌異常の可能性を考慮する.

★血清カルシウムの異常は,リンの値とペアで考えると理解しやすい.

消化管疾患と電解質異常

著者: 畑啓昭

ページ範囲:P.1034 - P.1037

ポイント

★原疾患の治療に加えて,体液量,電解質を適正に補正することが目標となる.

★common diseaseである下痢や腸閉塞などでも,予想以上に大量の体液喪失や電解質異常があることに注意する.

低栄養・高カロリー輸液患者に多い電解質代謝異常

著者: 大村健二

ページ範囲:P.1039 - P.1041

ポイント

★血清電解質濃度は必ずしも体の中の電解質の過不足を反映しない.

★血清電解質濃度は蛋白や脂肪の合成速度に加え,酸塩基平衡にも大きく影響される.

★医師はナトリウム,カリウム,クロール,カルシウムの値には注目するものの,リンの値には関心を示さないことが多い.

処方で多くみられる電解質異常

漢方と低カリウム血症

著者: 前田益孝

ページ範囲:P.1042 - P.1044

ポイント

★利水(利尿)作用をもつ漢方薬は甘草を含有していることがある.

★甘草の主成分,グリチルリチンは腎臓でβ-hydroxysteroid dehydrogenase type 2(11 β-HSD2)を阻害し,コルチゾールのミネラルコルチコイド受容体(MR)への結合を促進し,偽性アルドステロン症を引き起こす.

★甘草は2.5g/日以上の投与量で偽性アルドステロン症を起こす危険が高まるが,少量あるいは長期の内服歴があっても,他薬剤との相互作用や患者の全身状態の変化から,突然,偽性アルドステロン症を引き起こすことがある.

胃薬・下剤による高マグネシウム血症

著者: 藤井直彦

ページ範囲:P.1045 - P.1047

ポイント

★Mg含有の胃薬・下剤長期投与中には高Mg血症に注意し,疑われる場合には血清Mgを測定すべきである.

★高Mg血症は,放置することで呼吸抑制,意識障害,徐脈性不整脈,心停止に至ることがある.

★胃薬や下剤による高Mg血症は,適切な対症療法と薬剤の中止により本来改善できるものである.

★腎不全や脱水状態,炭酸リチウム併用などでは,尿中Mg排泄が抑制され,高Mg血症をきたしやすい.

処方で多くみられる電解質異常―症例検討とshort review

薬剤による低ナトリウム血症(SIADH)

著者: 大澤勲 ,   富野康日己

ページ範囲:P.1048 - P.1050

症例検討

症例 59歳,男性.

現病歴 生来健康であった.3カ月前の単身赴任を契機に,“ふさぎこみがち”となり,会社への無断欠勤が続いた.メンタルクリニックを受診したところ,「うつ状態」と診断され,パロキセチン(パキシル®)20mg/日の内服治療が開始され,2週間後には30mg/日に増量された.一時的に症状は回復したが,内服開始2週目頃から,徐々に全身倦怠感と食欲低下が出現し,増悪した.4週目の再診時に低ナトリウム(Na)血症129mmol/lを指摘され,精査・加療の目的で入院した.

診察所見 意識清明.神経学的所見に異常を認めない.血圧132/72mmHg,脈拍72回/分・整,口腔内・皮膚の乾燥なし.皮膚ツルゴールの低下は認めない.胸腹部に異常なし.下肢浮腫は認めない.入院時の検査結果を表1に示す.

利尿薬による低カリウム血症と代謝性アルカローシス

著者: 嶋崎美奈子 ,   柴垣有吾

ページ範囲:P.1052 - P.1054

症例検討

症例 89歳,女性.

現病歴 40年来のインスリン依存性2型糖尿病患者で,糖尿病腎症・動脈硬化関連腎症による慢性腎臓病(CKD:血清Cr 2.0mg/dl程度)を合併.今回,意識障害を伴う低血糖および下肢浮腫(ベースより5kg超の体重増加)にて当院代謝内科に入院となった.入院第16病日,降圧薬による相対的低血圧が原因と思われるCKD急性増悪(血清Cr 2.1→3.5mg/dl)に伴い,入院時より18kg近い体重増加・高度浮腫をきたした.降圧薬減量とループ利尿薬の大幅な増量や静注を行ったところ,腎機能はベースライン近くまで回復したが,体重は20kg近く極端に減少,入院第30病日頃より意識障害をきたした.入院後のデータの経過は表1に示すとおりであった.

輸液・経腸栄養による酸塩基異常

著者: 花村菊乃 ,   花房規男

ページ範囲:P.1056 - P.1059

症例検討

症例 72歳,男性.

現病歴 血液透析導入後1カ月の患者で,解離性大動脈瘤破裂に対する手術が行われた.術後,意識障害の遷延による経口摂取不能に対し,リーナレン®,K-4S®による経腸栄養が開始された.誤嚥性肺炎による中断を経て経腸栄養を再開,胃瘻を造設した.誤嚥予防のため,K-4S®を半固型製剤メディエフ®プッシュケアに変更したところ,同時期より高カリウム血症(K 6.2~6.5mEq/l)と代謝性アルカローシス(pH7.60,HCO3- 36.8mEq/l)の進行を認めた.透析導入時およびアルカローシス発症時(半固型製剤開始9日目)の所見を表1に示す.

カルシウム・アルカリ症候群

著者: 花田繁

ページ範囲:P.1060 - P.1062

症例検討

症例 85歳,女性.

現病歴 本態性高血圧に対して降圧薬のほか,骨粗鬆症に対して活性化ビタミンD3製剤(アルファカルシドール,1.0μg/日),慢性便秘症に対して酸化マグネシウム(6.0g/日)を内服していた.受診2週間前の感冒症状を契機に食欲が低下し,徐々に倦怠感や頭重感などの症状が悪化し,衰弱していったため受診となった.その間,内服薬は継続していた.受診時の主要な身体所見およびデータは表1に示すとおりで,同日入院となった.

大腸内視鏡前処置による急性高リン腎症

著者: 大石大輔

ページ範囲:P.1064 - P.1067

症例検討

症例 65歳,男性.

現病歴 約14年前に発症し,腎生検にて診断が確定しているIgA腎症の患者.外来通院していたが,徐々に腎機能障害の増悪を認め,入院1カ月前には血清クレアチニン(Cr)値は5.14mg/dlまで上昇.前日より嘔気,嘔吐を認め,症状が改善しないため当院を受診し,即日入院となった.推算GFR 10ml/min/1.73m2以下であり,腎代替療法の情報提供を行うと同時に合併症精査を行っていった.入院第8病日,大腸内視鏡施行のため,経口リン酸ナトリウム緩下薬を内服したところ,第9病日に血清リン(P)の急激な上昇(5.6→12.1mg/dl)と同時に,血清Crの上昇(5.75→6.80mg/dl)を認めた.

鉄静注製剤(含糖酸化鉄)による低リン血症

著者: 清水祐一郎 ,   福本誠二

ページ範囲:P.1068 - P.1071

症例検討

症例 43歳,女性.

主訴 背部痛.

家族歴 特記事項なし.

生活歴 機会飲酒.

現病歴 30歳時に月経過多で近医を受診し,子宮筋腫を指摘された.35歳頃から鉄欠乏性貧血が増悪,経口鉄剤を処方されたが,消化器症状の副作用のため継続できず,含糖酸化鉄の経静脈投与が開始された.ひと月に1~2回程度,40歳時の多いときには週1~2回の投与を継続していた.40歳時に子宮筋腫核出術を施行したが,鉄欠乏性貧血は持続し,含糖酸化鉄の投与も継続していた.43歳時,スキー中に転倒後,腰や股関節,膝などの骨痛が出現,近医整形外科で脊椎の多発圧迫骨折(第5~9,11,12胸椎,第1,5腰椎)が発見された.多発骨折の原因として,多発性骨髄腫や悪性腫瘍の多発骨転移,代謝性骨疾患が疑われ,精査により著明な低リン(P)血症(P 1.2mg/dl)が発見された.低P血症性骨軟化症の原因検索のため,当院に紹介受診となった.

 来院時低P血症に加え,尿細管P再吸収閾値であるTmP/GFR(tubular maximum for phosphate)が1.0 mg/dl(基準値2.3~4.3)と低下しており,その他の尿所見は異常を認めなかった.したがって,何らかの原因によるP利尿が,低P血症の原因と考えられた.来院時の血液検査所見を表1に示す.

座談会

酸塩基平衡・電解質異常―治療につながる診かた・考えかた

著者: 柴垣有吾 ,   横井徹 ,   相馬友和 ,   田川美穂

ページ範囲:P.1072 - P.1084

酸塩基平衡・電解質異常は,概念的で多様かつ複雑なことから,非常に難しくとっつきにくい印象を抱かれる.しかし,さまざまな原疾患によって起こり,程度の差こそあれ,どの診療科でも遭遇するcommon problemである.臨床現場では,輸液や薬剤による医原性の異常が跡を絶たないことからも,すべての医師がある程度の知識をもつ必要がある.

酸塩基平衡・電解質異常をどう考え,診断・治療に結びつけるか.また,医原性の異常を引き起こさないために必要な知識はなにか.本座談会では,臨床経験を元に開業医,研修医,勤務医の立場からの意見を伺いながら,内科医にとっての酸塩基平衡・電解質のminimum requirementを探りたい.

連載 手を見て気づく内科疾患・18

皮膚硬化,爪上皮出血点,全身性強皮症の典型的所見

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.925 - P.925

患 者:61歳,男性

病 歴:1年前から右手のこわばり感が始まり,左手にも同様の症状が出現した.3カ月前からは寒冷刺激で指が白くなる現象(レイノー現象:Raynaud's phenomenon)も出始めた.

今日の処方と明日の医学・1【新連載】

【重篤な副作用】って、どういう意味?

著者: 原満良 ,   日本製薬医学会

ページ範囲:P.1090 - P.1091

医薬品は,変革の時代を迎えています.国際共同治験による新薬開発が多くなる一方で,医師主導の治験や臨床研究などによるエビデンスの構築が可能となりました.他方,薬害問題の解析から日々の副作用報告にも薬剤疫学的な考察と安全対策への迅速な反映が求められています.そこで,この連載では医薬品の開発や安全対策を医学的な観点から解説し,日常診療とどのように結びついているのかをわかりやすくご紹介します.

目でみるトレーニング

著者: 佐藤一也 ,   花岡正幸 ,   菅野敦 ,   下瀬川徹

ページ範囲:P.1093 - P.1099

外来診療に差をつけるコミュニケーションスキル・9

三者関係を診療に生かす②:家族を加えた患者とのコミュニケーション

著者: 木村琢磨

ページ範囲:P.1100 - P.1104

事例●妻が診療に参加したことを契機に糖尿病コントロールが改善した中年男性

55歳の男性,糖尿病で数年来,外来へ通院中.食事療法の重要性はわかっているが,なかなか実行に移せず,間食してしまうことが続いている.

医師 「最近,間食は気をつけていますか?」

患者 「はい.わかっているんですが,ついつい……」

医師 「以前,奥さんと一緒に栄養指導をお受けいただきましたが,奥さんは最近,何かおっしゃっておられますか?」

患者 「はい……」

医師 「次回,奥さんとご一緒においでいただき,奥さんからもお話をお聞きしたいのですが,よろしいですか?」

患者 「わかりました……」

アレルギー膠原病科×呼吸器内科合同カンファレンス・3

高齢者の原因不明関節炎には注意!

著者: 岡田正人 ,   仁多寅彦

ページ範囲:P.1106 - P.1109

後期研修医 今回の症例は,73歳の女性です.半年ほど前から左足関節の腫脹と歩行時の疼痛があり,近医整形外科を受診した際には単純X線で問題なく,非ステロイド性抗炎症薬(non- steroidal anti-inflammatory drug:NSAID)の投与で経過観察となりました.その後も改善がなく,リウマトイド因子陰性で原因不明と言われたとのことで,当院のアレルギー膠原病科に紹介受診となりました.既往歴としては脂質異常症のみで,喫煙歴もなく,アルコール摂取もないとのことでした.関節炎に対してNSAIDと脂質異常症に対して数年前からスタチンを服用しています.身体所見上は,一般的な頭頸部,聴診所見などは特に問題なく,リンパ節腫脹などもありませんでした.左足関節は明らかに腫脹し発赤と熱感があり,tibiotalar joint(脛距関節)のpassiveおよびactiveな動きで疼痛が誘発されました.

The M&M reports 見逃し症例に学ぶ内科ERの鉄則・10

72歳女性,主訴 全身倦怠感

著者: 長谷川耕平 ,   岩田充永

ページ範囲:P.1110 - P.1114

救急レジデントH:

 糖尿病,高血圧の既往のある72歳の女性が娘さんに連れられて救急外来を受診しました.2週間前に肺炎で入院したそうですが,昨夜から体がだるく,娘さんによると少し話のつじつまが合わないとのことです.嘔気,呼吸困難を認めるものの,胸痛,頭痛,四肢の麻痺・痺れ感はないそうです.

 既往歴は糖尿病,高血圧のみ.内服薬はリシノプリルのみ,インスリン使用とのこと.

研修おたく海を渡る・54

品質管理

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.1115 - P.1115

 優れたがんセンター“Center of Excellenceであるために,どうすれば,診療の質を保つことができるのでしょうか.

 うちの大学では受付から受診までの時間,スタッフ,医師の身だしなみを含めた対応,サポート体制などは,患者満足度としてPress Ganeyという外部の調査企業(http://www.pressganey.com/)や院内でも調べられています.ただ,患者満足度と診療の質は必ずしも相関しないとも言われています.

書評

栄養塾―症例で学ぶクリニカルパール

著者: 片多史明

ページ範囲:P.1051 - P.1051

 どの診療科が専門であっても,臨床医として修得しておかなければならない基本的事項が,いくつかある.栄養管理は,感染症の診断・治療や,水分電解質管理と並ぶ,患者マネジメントの基本であり,臨床医必須の知識・技術である.しかし,栄養管理法・臨床栄養学について,卒前に十分な教育を実施している大学は,まだまだ少ない.卒後教育においても,各種疾患の診断・治療に重きが置かれる中で,栄養管理が長い間軽視されてきたことは否めない.専門学会を中心とした,臨床栄養の卒後教育の取り組みが実を結び,各施設でも栄養管理についての教育に目が向けられるようになったのは,まだつい最近のことである.

 研修医に臨床栄養の講義をしていると,「栄養について勉強するのに,何か良い本はありますか?」という質問を受けることが多い.この質問を受けるたびに,いつも私は困っていた.分厚い臨床栄養学の専門書は確かにある.しかし,この分野の専門家を目指すわけではない医師の,限られた研修時間を費やすには効率が悪く,またよほどの心構えがない限り通読は困難である.内科学の教科書にも栄養管理の項目はある.だが全体のページ数のごく一部であり,そのほとんどが総論的事項である.2~3日で通読できて,臨床栄養学の全体を俯瞰することができ,なおかつ実践的な内容の本は……と考えると,答えに窮してしまうことが多かった.

多飲症・水中毒―ケアと治療の新機軸

著者: 阪本奈美子

ページ範囲:P.1105 - P.1105

 臨床医として仕事を始めて,もう10年以上になる.いろいろなことを,それなりにわかっていたつもりだった.しかし,本当は何もわかっていなかった.何かにガツンと頭をたたかれた,そんな一冊だ.

 タイトルを見ると,専門書に思われた.あるいは教科書かとも.しかし,そうだとしても常識を覆す構成である.普通だったら,定義や解説から始まるだろう.本書はなんと「Q&A」から始まる.意外であったが,「なんとなく」知っている多飲症や水中毒に対する抵抗感が一気になくなったのは事実である.そしてのめりこんでいく自分に気づいた.平易な文章でつづられているため,入り込みやすい.それでいて内容の深さにどんどんとはまりつつ進んでいくのである.

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編集室より

著者:

ページ範囲:P.1126 - P.1126

●3年前の夏,膝前十字靭帯の再建術を受けました.高校時代,知識なく部活動をがむしゃらにやった結果痛めて以来,かばいながら使ってきた膝でした.術後のリハビリを経て,日常生活上支障がないほどに回復しましたが,担当の理学療法士(PT)に「日常生活で膝への負担を減らすために,またスポーツを存分に楽しむためにも,体幹の筋肉を鍛えることが必要」といわれ,現在も腹・背・殿部・股関節周りの筋トレ(通称「コアトレ」)を続けています.●当初は,どこを意識して動かすのか正直わかりませんでした.しかし,PT・トレーナーのイメージしやすい指示のもと,本なども見ながら体の深部の筋肉を少しずつ意識できるようになりました.体の軸がしっかりすることで,体のバランスが整い安定感が得られることから,コアトレは生活に欠かせません.●今月のテーマは「酸塩基・電解質」.体内の恒常性を司る大切な仕組みです.論文を拝読しながら,酸塩基・電解質を理解することは,診療科を問わず内科医にとっての幹(コア)なのではないかと考えました.●本号は,酸塩基・電解質の生理および病態生理を学び,診断・治療の基本をおさえたうえで,各診療科で遭遇する異常や処方による異常を学ぶことができるよう構成されています.理解が難しい分野ですが,酸塩基・電解質を常に意識して診療すること,つまり日々のコアトレが臨床の基礎を固め,さらには専門分野をレベルアップさせることでしょう.弊誌がその一助となれば幸いです.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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