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雑誌目次

雑誌文献

medicina47巻7号

2010年07月発行

雑誌目次

今月の主題 高血圧診療―わかっていること・わからないこと

著者: 植田真一郎

ページ範囲:P.1133 - P.1133

 循環器内科や腎臓高血圧内科などの専門医でなくても高血圧の患者さんに遭遇することは多いと思います.そのときどのように対処するかについては日本高血圧学会のガイドラインがあります.高血圧の領域は臨床試験,臨床研究が多く行われていますので,ガイドラインは多くのエビデンスに基づいて作成されています.ある意味で高血圧領域はEBMを推進しやすいかもしれません.しかしそれだからこそ,の落とし穴があります.

 患者さんが多い,ということは一口に高血圧といってもその背景は多様であることを意味しますし,致死的な高血圧は多くありませんので本来はもっと長期的な予後に関する研究が必要なのですが,臨床試験,臨床研究は適切に実施されたとしても多様性への対処や時間軸に関してどうしても限界があり,高血圧の予後と適切な心血管イベント予防のための治療介入について十分にわかっていないことも多いのです.

理解のための25題

ページ範囲:P.1295 - P.1299

観察研究と介入試験からの最新のエビデンスとその限界

論文解釈のピットフォール:臨床研究論文を正しく読もう

著者: 植田真一郎

ページ範囲:P.1134 - P.1138

ポイント

★ランダム化臨床試験の意義は選択バイアスのかからない集団を設定し,交絡因子をできる限り排除して,治療介入とアウトカムの因果関係を証明することにある.

★最近の臨床試験は複合エンドポイントが多く,その実際の内容が自分の臨床的疑問と適合するかどうかよく吟味すべきである.

★オープン試験が必ずしも二重盲検に劣るわけではないが,客観性,重篤度の低いエンドポイントは評価できない.

★「高血圧患者」といってもその患者の背景やリスクは試験によってかなり差異があり,臨床試験の結果を必ずしも目の前の患者に適用できないことも多い.

★サブグループ解析の本来目的はさまざまな背景をもつ患者における治療効果の一貫性の証明.

★サブグループ解析だけで何らかの「有意な」結果がでても,まだそれは仮説の創出の段階であり,証明されているとはいえない.

★ランダム化比較試験の結果は,信頼性(内的妥当性)は高いが,外的妥当性を獲得するためにはより広い範囲の患者を対象とした観察研究も必要である.

脳卒中の一次予防,二次予防

著者: 桑島巌

ページ範囲:P.1140 - P.1143

ポイント

★脳卒中の発症には,初発,再発を問わず,高血圧が最大のリスク因子である.

★降圧薬で血圧を厳格に管理することで脳卒中の初発,再発とも予防できることが大規模臨床試験で示されている.

★ACE阻害薬,ARBは降圧利尿薬を併用しなければ十分な降圧が得られず,脳卒中の再発予防効果も得られにくい.

★脳卒中の再発予防効果は降圧度にほぼ依存しており,現在のところいわゆる“J曲線現象”,すなわち過度降圧のリスクは認められていない.

リスクの低い(臓器障害のない)比較的若年者および女性の高血圧

著者: 景山茂

ページ範囲:P.1144 - P.1147

ポイント

★リスクの低い若年者における降圧療法の心血管イベント抑制効果は検証されていない.

★治療は降圧,QOL,医療費などの患者負担を考慮して行う.

★治療期間が長期に及ぶため生活習慣の改善が重要である.

★二次性高血圧の除外を忘れずに行う.

冠動脈疾患を有する高血圧―β遮断薬とRAS抑制薬の適切な使用

著者: 安隆則

ページ範囲:P.1148 - P.1150

 冠動脈疾患の厳格な降圧の根拠(エビデンス)は十分とはいえないが,少なくとも140/90mmHg未満を目安とすることがACTION 1)試験で示された.冠動脈疾患を有する高血圧は大きく心筋梗塞後と狭心症に分類され,降圧目標ならびに至適薬剤も異なるため分けて論ずる.

慢性腎臓病(CKD)

著者: 田村功一 ,   戸澤裕貴子 ,   白善雅

ページ範囲:P.1151 - P.1155

ポイント

★CKDでは高血圧や心血管合併症を発症する頻度が高く,高血圧はCKD増悪および心血管合併症の危険性を高める.

★降圧療法はCKD増悪を抑制するとともに,心血管合併症や死亡の危険性を抑制する.

★降圧目標は,130/80mmHg未満(尿蛋白量1g/日以上の場合は125/75mmHg未満)である.

★降圧薬は原則としてRA系阻害薬(ACEIもしくはARB)が第1選択薬であり,降圧目標達成のために利尿薬やCa拮抗薬との併用療法が推奨されている.

★CKD治療上の腎機能指標としてのアルブミン尿の意義については今後,原疾患別のさらなる検討が必要である.

高齢者高血圧

著者: 又吉哲太郎

ページ範囲:P.1156 - P.1161

ポイント

★加齢に伴い血圧の調節・維持機能が低下する.

★加齢に伴う血管コンプライアンスの低下で拡張期血圧が低下する.

★高齢者の定義がエビデンスを示す試験ごとに異なる.

★高血圧治療は超高齢者においても有益.

★リスクと合併症に応じた治療が必要.

糖尿病合併高血圧

著者: 浦信行

ページ範囲:P.1162 - P.1165

ポイント

★血圧が高いほど心血管疾患死が増加するが,耐糖能異常合併でさらに増加する.

★糖尿病合併高血圧の降圧目標値は130/80mmHg未満である.

★第一選択薬はACE阻害薬かARBである.

★第一選択薬で十分な降圧が得られなければ増量もしくは他剤併用により目標達成を目指す.

★推奨される併用薬は少量の利尿薬もしくはカルシウム拮抗薬(CCB)である.

メタボリック症候群と高血圧

著者: 小園亮次

ページ範囲:P.1166 - P.1169

ポイント

★メタボリック症候群のリスクは個々の危険因子の総和以上にならないという批判がある.

★日本のメタボリック症候群の基準は疫学的裏づけが乏しい.

★腹囲を必須項目にすると非肥満のハイリスク者が見逃されるおそれがある.

★日本人のメタボリック症候群の心血管疾患に対する相対危険度は1.5~3.0程度か.

指標やバイオマーカーの妥当性と診療への応用

外来血圧,家庭血圧,24時間血圧などさまざまな血圧の指標―どれをどのように診察に使っていくか

著者: 中野真宏 ,   苅尾七臣

ページ範囲:P.1170 - P.1175

ポイント

★血圧測定には,診察室(外来)血圧,家庭血圧,24時間自由行動下血圧(ABPM)がある.

★高血圧基準値は,診察室(外来)血圧,家庭血圧,24時間自由行動下血圧で異なる.

★高血圧診療では,仮面高血圧,白衣高血圧の存在を常に意識する.

★血圧日内変動パターンや夜間血圧,早朝血圧,職場血圧などに対しても注目する.

★診察室外血圧測定を用いて,24時間にわたって,血圧レベルを十分下げるようにすることが重要である.

高血圧診療における血管機能検査の意義

著者: 松岡秀洋

ページ範囲:P.1177 - P.1182

 高血圧は大小の血管を物理的に傷害し,臓器血流不全をもたらす1).したがって,高血圧の診療において,血管機能低下の程度を臨床的に評価することで,個々の病態に応じた,より的確な介入が可能となることが期待されている2)

 本稿では,現在臨床応用可能な血管機能検査として,血管内皮機能検査と脈波伝搬速度について概説する.

血清学的指標,内分泌(BNP,アディポネクチン),EPCなど―現時点での臨床的な妥当性,有用性と今後の展望

著者: 野間玄督 ,   東幸仁

ページ範囲:P.1183 - P.1187

ポイント

★現時点では,高感度C反応性蛋白(hs-CRP)が最も脳心血管イベントや脳心血管死におけるサロゲート(代用)マーカーに近いものである.

★C反応性蛋白(CRP)は簡便で再現性は高いが,特異性に問題がある.

★心筋梗塞の診断ではトロポニンTやH-FABPが,心不全重症度評価ではBNPやNT-proBNPが生体サンプルバイオマーカーとして臨床現場で有効活用されている.

★現時点ではバイオマーカーのいくつかを組み合わせることによってサロゲートマーカーとしたほうが妥当であるが,補助的な意義が強い.

二次性高血圧

著者: 髙橋克敏

ページ範囲:P.1188 - P.1193

ポイント

★原発性アルドステロン症は,血清カリウム正常のことが少なくない.

★クッシング症候群は,皮膚菲薄化や易出血性など,特徴的な身体所見を呈する.

★褐色細胞腫の高血圧は,発作性,持続性などさまざまで,正常血圧で副腎偶発腫のみの場合もある.

★睡眠時無呼吸症候群のヒントは,肥満,いびき,小顎症である.

★高齢者の血圧上昇時は,NSAIDなどの薬剤性高血圧や腎血管性高血圧も考える.

睡眠時無呼吸症候群と高血圧

著者: 安藤真一

ページ範囲:P.1195 - P.1198

ポイント

★閉塞型睡眠時無呼吸症候群(OSAS)は昼間だけでなく特に夜間の血圧上昇の原因となり臓器障害を引き起こす.

★OSASにより亢進した交感神経活動は持続的陽圧呼吸(CPAP)治療で正常化する.

★CPAP治療により,血管内皮の機能が改善する.

★治療抵抗性高血圧では,OSASの関与を疑い積極的に検査をするべきである.

診療に役立つ病態生理の基本を理解しよう

レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系

著者: 久保田和充 ,   浦田秀則

ページ範囲:P.1199 - P.1204

 レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系は血圧調節や体液・電解質調節に加え,種々の病態における心・血管系のリモデリングなど重要な役割を果たしている(図1).血圧の低下や体液量の低下を感知して,腎臓の輸入細動脈に存在する傍糸球体細胞から分泌されるレニンは,肝臓で産生されたアンジオテンシノーゲンに作用してアンジオテンシンⅠ(AⅠ)を生成する.AⅠはアンジオテンシン変換酵素(ACE)やキマーゼによりAⅡに変換される.AⅡは血管平滑筋を収縮させると同時に,副腎皮質の球状層からのアルドステロン分泌を促進することで,腎尿細管でのナトリウム再吸収とカリウム排泄を介して昇圧効果を及ぼす(図1).

 この一連の系は血中RAA系を意味するが,脳・心臓・腎臓・血管などの各組織においてもそれぞれ独立したRAA系が存在し,全身性RAA系と組織RAA系は連動して作用していると考えられている.本稿ではRAA系に関する構成因子を解説する.

電解質代謝,尿酸代謝と利尿薬

著者: 森永潤 ,   北村健一郎

ページ範囲:P.1206 - P.1208

ポイント

★利尿薬は,腎尿細管の電解質輸送体やイオンチャネルに作用する.

★サイアザイド系利尿薬は遠位尿細管管腔側膜のNa/Cl共輸送体NCC(TSC:SLC12A3)を抑制する.

★ループ利尿薬はHenleの太い上行脚管腔側膜のNa/K/2Cl共輸送体NKCC2(BSC1:SLC12A1)を抑制する.

★カリウム保持性利尿薬には腎皮質集合管上皮型Naチャネル(ENaC)を阻害するものとミネラルコルチコイド受容体を拮抗阻害するものがある.

動脈硬化と血管内皮,炎症,酸化ストレス

著者: 井上晃男

ページ範囲:P.1210 - P.1212

ポイント

★動脈硬化の進展機序には血管内皮機能障害,炎症,酸化ストレスが密接に関与している.

★血管内皮は動脈硬化に対してバリアの役目をもつ.

★動脈硬化の進展機序における炎症の場では,接着分子が重要な役割をもつ.

★酸化ストレスの亢進が血管障害を引き起こし,動脈硬化を促進する.

aortic stiffnessと脈派解析―PWVと中心血圧を中心に

著者: 平田浩三

ページ範囲:P.1213 - P.1216

ポイント

★血管は種々の疾患によって損傷を受け硬化する.aortic stiffness/arterial stiffnessとは傷害を受けた大動脈/動脈の硬化度を示す指標である.

★pulse wave velocityをはじめとしたaortic stiffness/arterial stiffnessの指標は,心血管疾患の危険因子としても重要であることが近年の研究で明らかとされた.

★上行大動脈の血圧を中心血圧といい,末梢血圧とは独立した心血管疾患の危険因子である.

★医療機器の進歩によってaortic stiffness/arterial stiffness,中心血圧ともに,非観血的な自動計測が可能となり,日常診療での使用頻度が急速に増している.

★aortic stiffness/arterial stiffness,中心血圧ともに,指標測定の原理と限界を理解し,日常診療において適切に使用することが必要である.

降圧薬について本当のところを知り,使い方を理解しよう

サイアザイド系利尿薬は副作用の多い降圧薬か?

著者: 植田真一郎

ページ範囲:P.1217 - P.1220

ポイント

★低用量を厳守し,RAS抑制薬との併用を行い,カリウム,ナトリウム,尿酸にある程度の注意を払えば利尿薬は安全で有効な降圧薬である.なかなか降圧ができない患者に,代謝系の軽微な副作用を危惧するあまりに使用しないのは賢明ではない.

★カリウム低下には利尿薬減量,RAS抑制薬併用,塩分制限,二次性高血圧のスクリーニングが必須.

★尿酸上昇には利尿薬減量,生活指導,ロサルタンへの変更を考慮する.

★血糖値上昇をみても全責任を利尿薬に押し付けない.カリウムは下がっていれば補正する.

★高齢者,多剤併用(特に抗うつ薬,向精神薬,抗てんかん薬)小柄な女性では低ナトリウム血症に注意.特に薬剤開始直後.

★利尿薬によるクレアチニンの軽度の上昇は糸球体内圧の低下と考え,経過をみる.進行性の腎機能低下はまず起こらない.

β遮断薬:もはや主要な降圧薬でない?

著者: 築山久一郎

ページ範囲:P.1221 - P.1225

ポイント

★高血圧に関する大規模介入試験やメタアナリシスをみると,β遮断薬の心血管イベント抑制効果は多様である.しかし,β遮断薬の効果が他の第一選択薬より劣るとはいえない.

★各種のガイドラインにおいてβ遮断薬は第一選択薬(ESH-ESC2007),高齢者を除き第一選択薬(JSH2009)と評価される一方,第一選択薬より除外するNICE/BSH2006もあり評価は分かれている.

★β遮断薬は頻脈,狭心症,心筋梗塞後は心不全を合併する高血圧患者には積極的適応として推奨されている.

★β遮断薬は喘息,高度徐脈を合併すれば禁忌として使用しない.耐糖能低下,末梢動脈疾患があれば避けるか慎重に使用する.

ACE阻害薬:咳の出るARB?―ACE阻害薬のさまざまなエビデンスと具体的な使用法

著者: 佐藤敦久 ,   福田誠一

ページ範囲:P.1227 - P.1232

ポイント

★ACE阻害薬とARBはRA系抑制薬としてまとめられているが,ACE阻害薬は咳の出るARBではない.

★ACE阻害薬はRA系の抑制作用とブラジキニン賦活化作用を中心としたハイブリッド薬である.

★ACE阻害薬には生存率に直結する臨床成績が多い.

★ACE阻害薬には降圧とは独立した冠動脈イベントリスク低下がある.

★咳対策を行いACE阻害薬がなるべく中止にならないように工夫する.

ARB:厳密に評価して,弱点,利点を知り,適切に使用する

著者: 杉本研 ,   楽木宏実

ページ範囲:P.1234 - P.1238

ポイント

★ARBは初期治療から使用できる安全性の高い降圧薬である.

★ARBは幅広い臓器保護作用を有するが,それぞれの特徴を理解して使用する.

★ARBは副作用が少ないが,高度腎機能低下時における使用には注意が必要である.

★ARBは利尿薬やCa拮抗薬との相性がよく,併用による相乗効果が期待できる.

レニン阻害薬:今後どのような場面で使用されるか?

著者: 千本松孝明

ページ範囲:P.1240 - P.1243

ポイント

★直接的レニン阻害薬アリスキレンはRAS抑制薬の中で唯一レニン活性を抑制する薬剤である.

★組織RASのレニン活性を有したプロレニンに対しても阻害作用を有する.

★アリスキレンは日本人高血圧患者に対して用量依存的に降圧効果を示した.

★アリスキレンは高い臓器保護作用が期待される.

Ca拮抗薬:いちばん使いやすい降圧薬?

著者: 髙瀬浩之 ,   土肥靖明

ページ範囲:P.1246 - P.1249

ポイント

★Ca拮抗薬は種類が豊富であり,それぞれが多彩な特徴をもつ.

★Ca拮抗薬の適応病態および副作用を理解し適切に使用する必要がある.

★ジヒドロピリジン系薬剤の欠点を改善した長時間作用型Ca拮抗薬を主体に使用する.

★短時間作用型ニフェジピンの口腔内投与は心血管事故の危険があるため使用しない.

抗アルドステロン薬:主要降圧薬のひとつになり得るか?

著者: 森典子 ,   下澤達雄

ページ範囲:P.1250 - P.1253

ポイント

★アルドステロンはNa保持作用のほかに,細胞増殖・線維化,酸化ストレス増強効果が認められることが最近わかってきた.

★JSH2009において,抗アルドステロン薬は心機能低下例に関しては積極的に用いることが推奨されているものの,ほかの場合には利尿薬と同様の範疇で扱われている.

★ヒトにおいて重度心不全の死亡率の改善・心筋梗塞後のリモデリング予防・慢性腎臓病患者の進展予防に対するエビデンスがあり,ARBやACE阻害薬とともに臓器保護効果が期待できる薬剤であることがわかってきている.このことから今後積極的な使用が期待される.

合剤:本当に合剤は必要か?―ARB/利尿薬,今後発売されるARB/Ca拮抗薬,Ca拮抗薬/スタチン

著者: 崎間敦

ページ範囲:P.1254 - P.1257

ポイント

★患者の服薬状況を評価する場合,「コンプライアンス」から「アドヒアランス」に変わってきている.

★服薬アドヒアランスは十分な降圧効果と目標血圧レベルを達成するうえで無視できない要因である.

★服薬錠数が多いほど服薬アドヒアランスが低下することが示されており,その対策の一つとして処方の単純化がある.

★降圧薬の合剤は服薬錠数を増やすことなく2つの降圧薬を投与できる.

薬剤使用へのエビデンスの反映:日本と欧米の比較

著者: 山崎力

ページ範囲:P.1258 - P.1261

ポイント

★ACE阻害薬とARBの高血圧治療ガイドラインにおける位置づけは日本と欧米で異なる.

★日本ではARBが,欧米ではACE阻害薬が広く使われている.

★冠動脈疾患予防効果はACE阻害薬がARBに勝る.

★BPLTTCが行っているメタアナリシスは,いわゆる「前向きの」メタアナリシスであり,最も信頼性の高いもののひとつである.

一筋縄ではいかない高血圧診療

高血圧のエビデンスに基づく病歴と診察

著者: 名郷直樹

ページ範囲:P.1262 - P.1265

ポイント

★まず急ぐ状態でないかの確認が重要である.

★解釈モデルを早い段階で引き出しておく.

★血圧の変動要因について熟知する.

★血圧は心血管疾患のリスクのひとつにすぎない.

★どんな場合に二次性高血圧を疑うのかをおさえておく.

高血圧を有する入院患者への対処:緊急症,脳血管障害

著者: 山本晴子

ページ範囲:P.1268 - P.1271

ポイント

★急性期脳梗塞では,降圧は必要な場合にのみ慎重に行う.

★急性期脳出血では,積極的な降圧を行ってよいが予後への影響はいまだ不明である.

★急性期を脱してからは,積極的かつ長期的な血圧管理が再発予防に重要である.

塩分制限をどのように実現するか?

著者: 𡈽橋卓也

ページ範囲:P.1272 - P.1274

ポイント

★ガイドラインが提唱する高血圧患者の減塩目標は1日6g未満である.

★減塩指導に際しては,質問表や尿中食塩排泄量の測定により摂取量の評価を行う必要がある.

★尿中食塩排泄量の自己測定はフィードバック効果による減塩の実践が期待できる.

★メタボリック症候群や肥満合併高血圧は食塩摂取量が多く,減塩指導が困難な例が多い.

★カロリー制限,運動,飲酒制限など他の修正項目も含めた包括的指導が望ましい.

治療抵抗性高血圧への対処

著者: 大石充

ページ範囲:P.1276 - P.1279

ポイント

★治療抵抗性高血圧とは降圧利尿薬を含む3剤以上の降圧薬を用いても至適血圧に達しないものを指す.

★偽性高血圧を含めて確実に血圧測定がなされているかも重要である.

★睡眠時無呼吸症候群と原発性アルドステロン症は意外と多いため注意が必要.

★AB/CDアルゴリズムを用いて理論的な降圧薬の選択を試みることも必要である.

★どうしても下がらない場合には高血圧専門医に紹介することも必要である.

座談会

高血圧のエビデンスをどう診療に生かすか

著者: 植田真一郎 ,   菊池健次郎 ,   中山雅文 ,   𡈽橋卓也

ページ範囲:P.1280 - P.1293

高血圧に関する臨床試験や観察研究は多く存在しているが,実際にそれを診療に取り入れようとすると,どのエビデンスを根拠にして治療方針を決めていけばよいのかはっきりしないというケースも多くみられる.

その理由はさまざまであるが,本座談会では,日々多様な患者を目の前にして診療を行っている読者が,混乱することなくエビデンスを活用していけるよう,高血圧診療のスペシャリストに現実的な対処法を語っていただいた.

連載 手を見て気づく内科疾患・19

手掌紅斑,多彩な鑑別疾患

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.1129 - P.1129

患 者:47歳,女性

病 歴:28歳時に発熱,慢性多発性関節炎で発症し,全身性エリテマトーデスと診断された.その後,プレドニンを長期間服用しているが,1カ月前から37℃台の微熱がある.同時に手掌が赤くなってきた.

身体所見:びまん性の紅斑を母指球,小指球,指に認める(図1).

今日の処方と明日の医学・2

【上手な研究計画書】の書き方

著者: 佐藤裕史 ,   阿部貴行 ,   高橋希人 ,   日本製薬医学会

ページ範囲:P.1300 - P.1301

医薬品は,変革の時代を迎えています.国際共同治験による新薬開発が多くなる一方で,医師主導の治験や臨床研究などによるエビデンスの構築が可能となりました.他方,薬害問題の解析から日々の副作用報告にも薬剤疫学的な考察と安全対策への迅速な反映が求められています.そこで,この連載では医薬品の開発や安全対策を医学的な観点から解説し,日常診療とどのように結びついているのかをわかりやすくご紹介します.

目でみるトレーニング

著者: 西田浩子 ,   岡本洋子 ,   山本光勝

ページ範囲:P.1302 - P.1307

外来診療に差をつけるコミュニケーションスキル・10

日常診療の中でコミュニケーションスキルを鍛える

著者: 和座一弘

ページ範囲:P.1308 - P.1311

若手の総合内科医にとって,面接がきわめて基礎的な力であると気づくのは,定時の外来を担当するようになってからではないでしょうか.限られた時間とリソースの中で,効率よく,診療の質を担保して,患者との関係を上手に築いていくことができないと,外来日はかなり悲惨な結果となります.食事もままならない,夕方遅くまで終わらない,病棟ナースから嫌な顔をされる…….こうならないように,コミュニケーションスキルを鍛えませんか.

本連載は『コミュニケーションスキルトレーニング――患者満足度向上と効果的な診療のために』(医学書院,2007)を執筆した私たちの仲間が,テキストでは十分に紹介できなかったことも含めて,誰でもが修得できるテクニックや,回避できるピットフォールをご紹介します.ご期待ください.

アレルギー膠原病科×呼吸器内科合同カンファレンス・4

結節性紅斑とTNF阻害薬は偶然か?

著者: 岡田正人 ,   仁多寅彦

ページ範囲:P.1312 - P.1315

後期研修医 今回は複雑な症例なので,経過をまず提示させていただきます.患者さんは60歳の女性で,2年2カ月前から手指の関節炎を自覚し,2年前に近医整形外科からアレルギー膠原病科外来に紹介されています.典型的な分布の対称性多関節炎がPIP(proximal interphalangeal joint;近位指節間関節),MCP(metacarpophalangeal joint;中手指節関節),MTP(metatarsophalangeal joint;中足指節関節)に認められ,リウマトイド因子陽性,抗CCP抗体強陽性などもあり,関節リウマチの診断にて治療を開始されました.サラゾスルファピリジン,メトトレキサートに加えて1年6カ月前からTNF阻害薬を開始され関節リウマチは寛解状態でした.1年3カ月前に結節性紅斑(図1)を発症し皮膚科に入院なさいましたが,安静のみで軽快し10日間で退院しておられます.結核などの感染症は否定的で,薬物も特に新規に開始したものはありませんでした.

呼吸器内科医 TNF阻害薬投与中の患者さんですので,慎重に結核を除外する必要がありますが,どのような検査がされていますか.

The M&M reports 見逃し症例に学ぶ内科ERの鉄則・11

72歳女性 肺炎,敗血症性ショック

著者: 長谷川耕平 ,   岩田充永

ページ範囲:P.1316 - P.1321

救急レジデントH:

 前回の患者さんの経過です.糖尿病,高血圧の既往のある72歳女性が全身倦怠感と意識障害を主訴に救急外来を来院.来院時のバイタルサインは,体温38.5℃,脈拍120回/分,血圧85/50 mmHg,呼吸数24回/分,室内気酸素飽和度90%.胸部X線では肺炎像があり,肺炎による重症敗血症と診断しました.

 さっそく教えてもらったearly goal directed therapy(EGDT)を開始しました.酸素投与,生理食塩水を2l輸液,血液培養を送って,抗菌薬はセフタジジム,シプロフロキサシンとバンコマイシンを投与しました.それでも平均血圧が65mmHgに届かないので,中心静脈ライン,動脈ラインを挿入し,ノルエピネフリンとバソプレシンを開始しました.完璧ですね!(図1)

研修おたく海を渡る・55

I hate role plays! ハーバードでの緩和医療ワークショップ

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.1329 - P.1329

 ハーバード大学で開かれた緩和医療ワークショップ(http://www.hms.harvard.edu/pallcare/pcep.htm)に参加してきました.

 「人生が変わる体験をした」と,これを契機に小児と大人両方の緩和医療の専門科になる決意をした同僚に強く勧められたのです.部長と交渉し,受講料6,000ドル弱の半額をラッキーにも出してもらえることになりました.

書評

―放射線診療安全向上研究会 編―画像診断ヒヤリ・ハット―記憶に残る画像たち

著者: 大友邦

ページ範囲:P.1244 - P.1244

 Wikipediaによると,「失敗」は,ある程度の損害やデメリットを承知したうえでの織り込み済みの失敗,果敢なトライアルの結果としての失敗,そしてヒューマンエラーによる失敗の3種類に大別できるそうです.救命を最優先して行われるIVRは,常に前2者との遭遇を覚悟しながら行われる医療行為ということができます.一方,ヒューマンエラーに起因する第3の失敗は,回避可能であるにもかかわらず発生し,失敗が次の失敗を生む悪循環に陥る危険性もあるものです.我々放射線診断医の日々の読影業務は,ある意味で見落とし,誤診という第3の失敗との戦いであるということができます.そして瞬時に膨大な画像データを生み出すMDCTと高速MR撮像法の進歩と普及は,医療に向けられる社会の視線の厳格化と相まって,この戦局を一層深刻なものにしています.

 本書は,画像診断において第3の失敗を未然に防ぐことができた,あるいは悪循環に陥ることを防ぐことができた113症例(頭部9,頭頚部8,肺9,乳腺5,心大血管4,肝胆膵11,消化管21,婦人科9,小児5,造影剤・検査10,PET5,腎8,骨軟部9)から構成されています.各症例は見開き2頁に簡潔にまとめられているだけではなく,読者が実際の経過を追体験できるように,小項目(スタッフの会話形式の初期診断,択一問題形式の「あなたならどうする?」,その後の経過,ヒヤリ・ハットのポイント)の並びと内容に細かい工夫がなされています.いわゆる「後知恵」では何とでもいえるのでしょうが,顛末を知らずに,「どこに本書に掲載される由縁となった所見が隠されているのか」と考えながら画像を見ていると,いつのまにか緊張している自分に気づかされました.

―エリザベス・マッキンレー,コリン・トレヴィット 原著 遠藤英俊,永田久美子,木之下徹 監修 馬籠久美子 翻訳―認知症のスピリチュアルケア―こころのワークブック

著者: 朝田隆

ページ範囲:P.1266 - P.1266

 私が認知症になったら,さぞかし意地悪のボケ爺さんになることだろう.となると,ケアスタッフから大いに嫌われる可能性が高い.悪態をつくか,自虐ネタで笑いをとるかはわからないが,本心ではさぞかし淋しかろう.そもそも自分が壊れてゆくことは,多少とも自覚できるようだ.また人並み扱いされず,人が自分から去ってゆくうえに,意地悪への仕返しでもされたなら,さぞかしへこんでしまうことだろう.

 そんな意地悪爺さんも含めた認知症の人を励ますとしたら,何より大切なのは「私は人から必要とされ尊重されている」という実感と「希望」とをもってもらうことだと思う.

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編集室より

著者:

ページ範囲:P.1334 - P.1334

●先日,偶然3日続けて寿司をいただく機会がありました.どこもそれぞれおいしかったのですが,魚の質と同じかそれ以上に重要だと思ったのが酢飯の味でした.砂糖と酢と塩分のバランスがいい酢飯は全体としてのバランスがよく,魚の味までよくなるように感じます.以前酢飯が好きでなかった時期があり,砂糖と酢を極力減らした酢飯を作ってみたことがありましたが,どうにもピントがぼけた味に.やはり「塩梅」は大切なのだと思いました.●昨年2009年の日本高血圧学会では,3日間を通してランチョンセミナーで学会特製の減塩弁当が提供されました.私がいただいたのは1食が2.2gに抑えられたものでしたが,日頃,薄味好みだと自認していた私でも驚くほどの薄味で,料理によってはほとんど味を感じないものもありました.減塩食にはだしと酸味,香辛料などで味にメリハリをつける必要があるとはよく言われることですが,身をもって経験しました.これも「塩梅」の大切さでしょうか.●本特集でも重要なポイントとなっている塩分制限.座談会でも「塩分を多く摂取しているときは同時に油や炭水化物も多く摂っている.総摂取カロリーを下げれば自然と塩分摂取も減る」との指摘があり,なるほどと思いました.今回は座談会にご参加いただいた先生方はラーメンの有名な地域が多く(熊本,福岡,北海道),ラーメン談義にも花が咲きました.「福岡と札幌に出張に行くと血圧が上がる(笑)」との発言もありましたが,今年の高血圧学会の開催地は福岡.誘惑にかられる3日間となりそうです.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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