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雑誌目次

雑誌文献

medicina47巻8号

2010年08月発行

雑誌目次

今月の主題 呼吸不全の診療

著者: 阿部直

ページ範囲:P.1341 - P.1341

 呼吸不全に対する在宅酸素療法が四半世紀前に導入されて以来,気管挿管せずにマスクを用いて行う非侵襲的陽圧換気療法(NPPV:noninvasive positive pressure ventilation)の普及,人工呼吸器の進化,新型インフルエンザに対する体外式膜型人工肺(ECMO:extracorporeal membrane oxygenator)による治療成功例の報告,また,パルスオキシメータ,血液ガス分析装置の普及など,最近の治療・検査方法の進歩にはめざましいものがある.

 本特集では,研修医・レジデント,第一線で診療に従事している医師・医療関係者の方々が呼吸不全の基本的事項からup-to-date な内容までを網羅的に理解しやすいように企画した.呼吸不全の病態生理を理解したうえで呼吸不全の診療ができるように,呼吸不全と関連する病態生理として,低酸素血症,高炭酸ガス血症,酸塩基障害,右心不全・肺高血圧症などについての項目を設けた.また,読者が呼吸不全の実地診療に本特集を活用できるように,急性,慢性を問わず,呼吸不全を招く代表的疾患を取り上げ,胸部単純X線写真,胸部CTを含めて症例を簡潔に提示するようにした.さらに,最近のトピックスとして,新型インフルエンザ肺炎,非侵襲的陽圧換気,新しい理学療法,およびECMOを取り上げた.執筆は各分野のエキスパートの先生方にお願いした.

理解のための26題

ページ範囲:P.1476 - P.1479

Introduction

呼吸不全とは?―定義と分類

著者: 三嶋理晃

ページ範囲:P.1342 - P.1345

ポイント

★呼吸不全とは,呼吸機能障害のため,室内空気呼吸時PaO2が60mmHg以下となる状態である.

★呼吸不全の状態にある期間が30日を境として,急性・慢性呼吸不全に分類され,PaCO2が45mmHgを境として,Ⅰ型・Ⅱ型呼吸不全に分類される.

★呼吸不全の疾患別割合では,COPDが最も多いが減少傾向,結核も減少傾向,肺線維症は増加傾向にある.

★低酸素血症を起こす機序として,①肺胞低換気,②換気血流比不均等分布(特に右-左シャント),③肺拡散障害があり,①は高二酸化炭素血症を,②③はA-aDO2の開大をもたらす.

呼吸不全に関連する病態生理

低酸素血症―発生メカニズム

著者: 小山田吉孝

ページ範囲:P.1346 - P.1348

ポイント

★低酸素血症にはAaDO2が増加するものとしないものがある.

★換気血流比不均等分布,拡散障害,シャントによる低酸素血症ではAaDO2が増加する.

★肺胞低換気,高地,低濃度酸素吸入による低酸素血症ではAaDO2が増加しない.

高炭酸ガス血症―発生メカニズムと原因

著者: 小林一郎

ページ範囲:P.1350 - P.1353

ポイント

★高炭酸ガス血症の発生の主因は肺胞低換気であるが,換気血流比不均等も関与している.

★A-aDO2が正常な高炭酸ガス血症には純粋な肺胞低換気の存在が,開大時には肺胞低換気に加え拡散障害,換気血流比不均等,シャントの混在がある.

★CO2ナルコーシス発生の誘因の1つに高濃度酸素投与があるが,古典的な呼吸中枢に対する低酸素刺激の解除以外に,酸素吸入に伴うVA/Q不均等分布の増悪などの機序がその発生に関与している.

呼吸不全に伴う酸塩基平衡障害

著者: 小林弘祐

ページ範囲:P.1354 - P.1357

ポイント

★呼吸不全の酸塩基平衡障害には呼吸性アシドーシスのほかに,いろいろな酸塩基平衡障害が起こりうる.

★肺性心で浮腫のある慢性Ⅱ型呼吸不全患者にフロセミド(ラシックス®)を長期間投与していると,CO2ナルコーシスをきたすことがあり,base excessの補正が大事である.

★人工呼吸器からの離脱の際には,base excessを補正しておく必要がある.

★呼吸性の酸塩基平衡障害に対する治療の基本は呼吸管理であるが,ある程度のアシドーシスは容認する.

★代謝性の酸塩基平衡障害に対する治療の基本は,アルブミン濃度を正常にし,電解質バランスを正常にもっていくことである.

呼吸不全に伴う右心不全と肺高血圧症

著者: 坂巻文雄

ページ範囲:P.1358 - P.1361

ポイント

★呼吸不全をきたす疾患では肺血管床の減少と低酸素性肺血管攣縮を主たる原因として肺高血圧をきたす.

★右心不全をきたした呼吸器疾患の予後は不良であり,突然死の原因にもなりうる.

★治療は原因疾患の治療と酸素療法を主体とする呼吸不全の治療,利尿薬などの右心不全の治療である.

★肺血管拡張薬は換気血流比の不均等分布の増大から低酸素血症を悪化させる可能性がある.

呼吸不全の患者の診かた

病歴と症状

著者: 高崎寛司 ,   磯貝進

ページ範囲:P.1363 - P.1365

ポイント

★呼吸困難を訴える患者では,症状の時間的経過や性状,随伴症状の有無,疾患に関連する危険因子の有無に着目する.

★呼吸困難の重症度はFletcher-Hugh-Jonesの分類やMedical Research Council(MRC)の質問票により客観的に評価する.

★呼吸困難の強さは必ずしも動脈血酸素分圧(PaO2)の低下と一致しない.

身体所見

著者: 中村守男

ページ範囲:P.1367 - P.1370

ポイント

★身体所見は視診・触診・打診・聴診を系統的に行い,画像や検体検査の施行につなげる.

★起座呼吸や口すぼめ呼吸は,疾患による呼吸困難の軽減への適応のサインともいえる.

★ばち状指は肺疾患で最も多くみられるがCOPDでは稀であり,心・消化器疾患でも認められる.

★連続性ラ音の聴取のみでCOPD,気管支喘息,心不全の鑑別は不可能で,問診やほかの身体所見・検査所見により評価する.

画像診断―肺胞性陰影と間質性陰影を中心に

著者: 長谷川瑞江 ,   酒井文和

ページ範囲:P.1371 - P.1374

ポイント

★肺胞性陰影と間質性陰影に分類するパターン認識は広く知られている手法であるが,その限界も認識したうえで使用する必要がある.

★肺胞性陰影は,辺縁が不明瞭,早期から融合傾向があり,気管支透亮像が認められるといった特徴がある.

★間質性陰影は,Kerley線,網状陰影,結節状陰影,網状結節状陰影,すりガラス陰影などさまざまな所見を呈する.

呼吸機能検査―肺機能検査,パルスオキシメータ,血液ガス

著者: 東條尚子

ページ範囲:P.1376 - P.1379

ポイント

★呼吸不全の患者を診るときは,病歴にある呼吸機能検査結果から換気機能障害の分類とその重症度,経時的変化を把握する.

★フローボリューム曲線のパターンは疾患の特徴を表している.

★安静時の低酸素血症が軽度あるいはなくても,労作時に低酸素血症を呈する場合がある.労作が強いほど低酸素血症が出現しやすい.

★動脈血ガス分析で低酸素血症を認めた場合は,PaCO2,AaDO2開大の有無,pHから病態を解釈する.

呼吸不全を招く疾患

ARDS:急性呼吸促迫症候群

著者: 鎌田浩史 ,   長谷川直樹

ページ範囲:P.1381 - P.1385

ポイント

★ARDSは肺の炎症による肺血管内皮細胞および上皮細胞傷害に伴う肺胞隔壁の透過性亢進を特徴とする,急性発症,両側性陰影,低酸素血症を呈し,心原性肺水腫ではない病態と定義されている.

★原因として,直接的肺損傷だけでなく,全身性炎症反応症候群(SIRS)の一部として発症するもの(間接的肺損傷)が少なくない.

★治療は,原疾患に対する治療が基本であり,基礎疾患によらない共通の治療として,呼吸管理療法が重要である.

細菌性肺炎

著者: 米丸亮

ページ範囲:P.1386 - P.1389

ポイント

★入院を要する市中肺炎や院内肺炎の多くは,細菌性肺炎である.

★市中肺炎では肺炎球菌,インフルエンザ桿菌,院内肺炎では黄色ブドウ球菌,緑膿菌,腸内細菌などが主な起炎菌である.

★細菌性肺炎の呼吸不全は,Ⅰ型を呈することが多い.

★高齢者での誤嚥性肺炎が増加している.

★肺炎診療ガイドラインに準じ,抗菌薬投与を中心とした治療を行う.

ウイルス性肺炎―新型インフルエンザ肺炎を中心に

著者: 川名明彦 ,   河野修一 ,   篠田雅宏

ページ範囲:P.1391 - P.1394

ポイント

★インフルエンザ,アデノ,RS,パラインフルエンザ,コロナなどが成人のウイルス性肺炎の原因となる.

★ウイルス性肺炎は,肺胞の障害,気道分泌物の貯留による無気肺や肺胞隔壁の浮腫により,Ⅰ型呼吸不全をきたす.

★パンデミック(H1N1)2009による肺炎の病態は多彩だが,Ⅰ型呼吸不全をきたす.

喘息

著者: 松倉聡 ,   足立満

ページ範囲:P.1395 - P.1398

ポイント

★喘息発作時には適切かつ迅速な初期評価が大切である.

★発作の初期にはⅠ型呼吸不全を,進行するとⅡ型呼吸不全を生ずることが多い.

★発作時には気管支拡張薬に加え,ステロイド全身投与が必要な場合も多い.

★発作改善後も,喘息長期管理の指導を行い,喘息の増悪や難治化を予防する重要性を患者に説明する.

気胸

著者: 渡邉秀裕

ページ範囲:P.1399 - P.1403

ポイント

★気胸は自然気胸いわゆる特発性(原発性)気胸と外傷,基礎疾患による続発性気胸に分けられる.

★緊張性気胸,血気胸,両側性気胸,基礎疾患下での気胸はいずれも緊急性を要する.

★緊張性気胸での緊急脱気は肺損傷に,血気胸での胸腔ドレーンは出血性ショックに注意する.

★再膨張性肺水腫は肺の再膨張後1時間以内に64%が発症する.若年齢,虚脱後72時間以上,虚脱率30%以上,急速な吸引が危険因子である.

薬剤性肺炎

著者: 三藤久

ページ範囲:P.1404 - P.1408

ポイント

★薬剤性肺炎は薬物療法を行ううえで避けて通ることのできない重要な副作用で,薬剤性肺炎を生じうる薬剤も増加している.

★臨床病型は薬剤ごとに特有な1つの病型を示すものではなく,1種類の薬剤でも多種の臨床病型を示しうる.しかし,薬剤により起こしやすい病型がある.

★薬剤性肺炎を診断する手がかりは,すべての薬剤は肺障害を起こす可能性があるとして疑うことにある.

★薬剤に対する適切な知識,症例選択,治療管理が行われれば,薬剤性肺炎の予防は可能である.

肺塞栓症

著者: 佐藤徹

ページ範囲:P.1409 - P.1414

ポイント

★急性肺塞栓では,治療後には,閉塞・狭窄が肺動脈全体の60~70%を超えることはなく肺高血圧を生ずることもない.

★慢性肺血栓塞栓症では臨床症状が6カ月以上持続すると診断され,閉塞あるいは有意の狭窄を認める肺動脈が60~70%を超え,たとえ軽度であっても肺高血圧症を認めることが多い.

★急性肺塞栓症の診断はこの疾患の可能性を疑うことが重要で,突然の発症,急速に出現して持続する呼吸困難では常に鑑別診断に含める.

特発性間質性肺炎

著者: 小倉高志

ページ範囲:P.1416 - P.1419

ポイント

★特発性間質性肺炎(IIPs)のうち,頻度の高い特発性肺線維症(IPF)は中間生存期間が平均3年,5年生存率は20~40%と予後は不良である.

★わが国でのIIPsの有病率は,10万人あたり11.8人と推定されているがCT検診の調査では無症状の潜在患者が多いことが予想されている.

★IPFは自然経過として進行性に徐々に悪化していくことが多く,肺活量の低下を抑制する抗線維化薬ピルフェニドンの適応を検討すべきである.

★IIPsでは進行期になるまで,換気不全を意味するPaCO2の上昇を認めるⅡ型呼吸不全は呈さない.

★IPFの合併症としては,原病の急性増悪,肺高血圧,肺癌,気胸がある.予後不良の病態である急性増悪の予防と治療は重要である.

神経筋疾患

著者: 荻野美恵子

ページ範囲:P.1420 - P.1423

ポイント

★神経筋疾患による呼吸不全には感染症に伴うものと呼吸筋麻痺によるもの(Ⅱ型呼吸不全)がある.

★Ⅱ型呼吸不全の原因として神経筋疾患がありうるという認識がないと診断が遅れることがある.

★無気肺の予防が大切である.

★適切な時期にNPPVを使用することでQOLが改善する.

★少量モルヒネで終末期の呼吸苦は緩和される.

COPD:慢性閉塞性肺疾患

著者: 福家聡 ,   西村正治

ページ範囲:P.1424 - P.1427

ポイント

★COPD患者は,呼吸機能検査で正常に復することのない気流閉塞を示す.

★末梢気道病変と肺気腫病変がさまざまな割合で複合的に作用することによって生じ,かつ進行性の経過をたどる.

★COPDは体動時の呼吸困難や慢性的な喀痰,咳嗽を特徴とする疾患である.

★日本人の40歳以上の8.6%(約530万人)がCOPDに罹患していると報告されている.

★治療法は病期の進行度だけではなく,症状の程度を加味し総合的に判断したうえで選択する.

★呼吸不全症例では酸素療法が第一選択である.著明な高二酸化炭素血症を呈する症例では,NPPVが有用な場合もある.

肺結核―後遺症を含めて

著者: 川﨑剛 ,   佐々木結花 ,   巽浩一郎

ページ範囲:P.1428 - P.1431

ポイント

★広範な活動性または陳旧性の肺結核病変が呼吸不全の主な原因である.

★肺結核後遺症とは,結核治癒後に呼吸機能および肺循環障害を呈した状態である.

★肺結核後遺症では,拘束性障害が主であるが閉塞性障害を合併しⅡ型呼吸不全に至りやすい.

★肺結核後遺症では,睡眠時の著しい低酸素血症や肺高血圧の合併に注意が必要である.

★肺結核後遺症に伴う呼吸不全に対しては,薬物療法,酸素療法,理学療法などによる包括的治療が重要である.

治療

酸素療法―在宅酸素療法を含む

著者: 一和多俊男 ,   清水谷尚宏

ページ範囲:P.1433 - P.1437

ポイント

★動脈血液ガス分析によりPaO2とPaCO2値を確認してから酸素投与量を決定する.

★酸素投与システムは,低流量システム・高流量システム・リザーバーシステムに分類される.

★鼻カニュラで酸素を投与した場合,吸気時間が同じであっても1回換気量(VT)が大きいほど,またVTが同じであっても呼吸数が多いほど吸入気酸素濃度が低下する.

★一定濃度の酸素を吸入するためには30l/分の供給が必要となるが,一般の酸素流量計は15l/分まであるため不足分は室内気を吸入することになる.

★鼻カニュラでは3l/分まで,ベンチュリマスクでは酸素流量に関係なく酸素濃度40%までは加湿する必要はない.

★変動型呼吸同調装置が使用した携帯ボンベの酸素流量は,患者の呼吸数によって吸入気酸素濃度が変動するため,実測したSpO2値に基づいて酸素流量を設定する.

挿管による人工呼吸管理

著者: 今井寛

ページ範囲:P.1438 - P.1441

ポイント

★人工呼吸は原因を治療するまでの支持療法である.

★人工呼吸の目的は酸素の改善,換気の改善,呼吸仕事量の軽減を目的とする.

★自施設で使用する人工呼吸器については十分理解をする.

★安全に施行するために,理学所見を含むモニターが必要である.

非侵襲的陽圧換気(NPPV)―挿管による人工呼吸管理との比較を含めて

著者: 望月礼子 ,   阿野正樹 ,   鈴川正之

ページ範囲:P.1442 - P.1446

ポイント

★NPPVは気管挿管を必要としない人工呼吸である.

★COPD急性増悪と心原性肺水腫による急性呼吸不全ではNPPVの施行が強く推奨される.

★NPPVは適応を選べば,挿管による人工呼吸管理に比べてVAPなどの合併症の発生を低下させ,死亡率・入院日数を減らすことができる.

★NPPV施行後に呼吸状態の改善を認めないときは,速やかに気管挿管への移行を検討しなければならない.

呼吸不全に対する理学療法

著者: 黒澤一

ページ範囲:P.1448 - P.1452

ポイント

★呼吸理学療法は呼吸リハビリテーションの基本プログラムのうちの1つである.

★運動療法のコンディショニングに含まれる内容が大半で,排痰手技もその中に入ると解釈される.

★呼吸トレーニング,胸部に対するアプローチ,四肢のケアなどは,離床のための基礎的なケアとなっている.

★排痰手技は体位ドレナージに呼吸介助を加えるものを基本とする.

栄養管理―慢性呼吸不全患者・人工呼吸管理中の患者に対して

著者: 藤田幸男 ,   吉川雅則 ,   木村弘

ページ範囲:P.1453 - P.1456

ポイント

★慢性呼吸不全,特にCOPDでは高率に栄養障害を合併し,病態や予後に影響を及ぼすことから,適切な栄養管理は重要である.

★COPDの栄養障害は代謝亢進,全身性炎症,内分泌ホルモンの変化などの複合的要因により引き起こされる.

★呼吸器疾患では消化管機能は比較的保たれていることが多く,可能な限り経口摂取と経腸栄養を選択すべきである.

★COPD患者では1日エネルギー摂取量の目標を実測REEの1.5倍または予測REEの1.7倍とする.

★換気能,抗炎症作用,アミノ酸組成などを選択基準とし,病態に応じた経腸栄養剤を選択する.

ECMO:体外式膜型人工肺

著者: 竹田晋浩

ページ範囲:P.1458 - P.1460

ポイント

★超重症呼吸不全はECMOの適応となる.

★H1N1インフルエンザはECMOのよい適応である.

★ECMO治療に慣れている施設で治療を行うことが重要である.

座談会

在宅酸素療法と在宅人工呼吸―病診連携を中心に

著者: 阿部直 ,   浦野哲哉 ,   川畑雅照 ,   武知由佳子

ページ範囲:P.1462 - P.1474

呼吸不全患者に対する在宅呼吸管理の需要は増えており,病診連携の重要性が高まっている.

本座談会では,第一線で在宅呼吸管理に携わるプライマリケア医と病院勤務医のそれぞれのお立場から,在宅酸素療法や在宅人工呼吸の導入時の連携として,患者さんやご家族への説明のコツから,起こりうる問題とその対処方法までを含めてご解説いただいた.

医療従事者にとどまらず,地域の人的資源を在宅呼吸管理チームへ巻き込むためのさまざまなご提案は,患者中心の病診連携体制を構築する方策として,重要なポイントとなるであろう.

REVIEW & PREVIEW

C型肝炎に対する抗ウイルス療法

著者: 柴田実

ページ範囲:P.1480 - P.1482

最近の動向

ガイドラインと治療上の新知見

 C型肝炎はC型肝炎ウイルス(HCV)の感染によって発症する肝疾患であり,全国に約200万人の患者がいる.HCVに初感染すると約3割は急性感染で治癒するが,残りの7割は持続感染(慢性肝炎)となる.慢性肝炎の一部は20~30年かけて肝硬変に進展し,最終的には肝癌を合併する.C型肝炎治療の目的は抗ウイルス薬によってHCVを体内から完全に排除し肝硬変,肝癌への進展を阻止することである.

連載 手を見て気づく内科疾患・20

紫斑,表皮の菲薄化,ステロイドの副作用

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.1337 - P.1337

患 者:60歳,男性

病 歴:6カ月前から倦怠感,両下肢に紫斑,しびれ感が出現した.近医を受診したところ尿蛋白陽性,血清クレアチニン10.7mg/dlを指摘された.抗好中球細胞質抗体(MPO-ANCA)は高値で,腎生検では半月体形成性腎炎の所見を認めた.3日間のメチルプレドニゾロンのパルス療法後,プレドニン50mg/日の投与を開始した.両下肢の紫斑は消退し,血清クレアチニンも2mg/dl台まで回復した.現在,プレドニゾロン17.5mg/日を内服中である.最近,手,前腕に青あざができやすいという.

身体所見:全体に表皮は菲薄化し,前腕から手背にかけて,径1~1.5cmの紫斑が散在している(図1).

研修おたく海を渡る・56

緩和医療を根付かせる戦略

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.1483 - P.1483

 緩和医療は,専門医制度が整備されてきたアメリカでも比較的新しい領域です.

 「サステイナビリティ(持続可能性)」日本でも環境の分野などでよく目にするようになった言葉ですが,今回はいかに緩和医療を持続可能なものにするか,既存の組織に根付かせるかの戦略について紹介します.

目でみるトレーニング

著者: 佐藤一也 ,   河岸由紀男 ,   藤本壮八

ページ範囲:P.1484 - P.1489

今日の処方と明日の医学・3

【利益相反】の考え方と管理のポイント

著者: 芹生卓 ,   藤井裕 ,   日本製薬医学会

ページ範囲:P.1490 - P.1491

医薬品は,変革の時代を迎えています.国際共同治験による新薬開発が多くなる一方で,医師主導の治験や臨床研究などによるエビデンスの構築が可能となりました.他方,薬害問題の解析から日々の副作用報告にも薬剤疫学的な考察と安全対策への迅速な反映が求められています.そこで,この連載では医薬品の開発や安全対策を医学的な観点から解説し,日常診療とどのように結びついているのかをわかりやすくご紹介します.

The M&M reports 見逃し症例に学ぶ内科ERの鉄則・12

22歳女性,主訴 過換気

著者: 長谷川耕平 ,   岩田充永

ページ範囲:P.1492 - P.1497

救急レジデントH:

 うつ病の既往をもつ22歳女子大学生が,急性発症の動悸,呼吸困難感で救急車搬送となりました.就職活動の会社訪問中に,急に息ができない感覚,規則的で速い動悸,全身の震えと四肢末端の痺れ感を発症したとのこと.2カ月ほど前にも同様の発作があったようですが,そのときは自然緩解したそうです.発熱,胸痛,嘔吐,下痢,性器出血もなく,静脈血栓塞栓症のリスクとなるような病歴はないようです.救急隊によると脈拍は130~150拍/分,呼吸数30~40回/分だったようです.

 既往歴はうつ病のみ.内服薬はパロキセチンのみで,違法薬物や処方外薬物の使用は否定しました.

外来診療に差をつけるコミュニケーションスキル・11

励ましの伝え方:「がんばって」の使い方をまちがっていませんか

著者: 長谷川万希子

ページ範囲:P.1498 - P.1503

若手の総合内科医にとって,面接がきわめて基礎的な力であると気づくのは,定時の外来を担当するようになってからではないでしょうか.限られた時間とリソースの中で,効率よく,診療の質を担保して,患者との関係を上手に築いていくことができないと,外来日はかなり悲惨な結果となります.食事もままならない,夕方遅くまで終わらない,病棟ナースから嫌な顔をされる…….こうならないように,コミュニケーションスキルを鍛えませんか.

本連載は『コミュニケーションスキルトレーニング――患者満足度向上と効果的な診療のために』(医学書院,2007)を執筆した私たちの仲間が,テキストでは十分に紹介できなかったことも含めて,誰でもが修得できるテクニックや,回避できるピットフォールをご紹介します.ご期待ください.

アレルギー膠原病科×呼吸器内科合同カンファレンス・5

関節リウマチ患者の肺炎をみたら―抗菌薬vsステロイドvs経過観察

著者: 岡田正人 ,   仁多寅彦

ページ範囲:P.1504 - P.1508

後期研修医(アレルギー膠原病科) 今回の症例は12年前に関節リウマチと診断された70歳の女性です.4カ月前に当科外来受診されています.治療はメトトレキサート週8mgとプレドニゾロン5mg/日を10年ほど前から続けているということでした.骨粗鬆症もありましたので,ステロイドの減量を考えましたが,手首とMCP関節(中手指節関節)に腫脹がありCRPも軽度上昇しているため抗リウマチ薬の強化が必要と考え,TNF阻害薬の併用,ブシラミンの併用などの説明を行い,結局は3カ月前にブシラミン100mg/日を追加しました.今回入院の5日前より37℃台の微熱があり,3日前から乾性咳嗽が出現しました.外来受診時に軽度の労作時呼吸困難,乾性咳嗽があり,呼吸数は16/分,パルスオキシメータによるSpO2 95%でしたが,聴診にて両側下肺に捻髪音を認め,同日入院となりました(表1).胸部画像の解説をお願いします.

書評

―四元秀毅,山岸文雄 著―医療者のための結核の知識―第3版

著者: 石川信克

ページ範囲:P.1374 - P.1374

 本書は,医師,看護師・保健師等の医療者に必要な結核の知識を網羅した読みやすい解説書である.感染症法統合後の初の改版で,思わぬときに結核患者に遭遇する可能性のある現在の状況で,いかに早く診断し,適切な治療を行い,周囲へのまん延を防ぐか,まさに第一線の医療者のための簡易手引き書といえる.

 著者のお二人は共に,東京病院,千葉東病院という代表的な国立病院機構の院長で,豊富な結核診療の経験に基づいて日常診療に必要な知識や手順の内容が整理されている.

―工藤翔二 監修 木田厚瑞,久保惠嗣,木村 弘 編―チーム医療のための呼吸ケアハンドブック

著者: 貫和敏博

ページ範囲:P.1452 - P.1452

 「呼吸ケア」という言葉が取り上げられてすでに10年以上が経過するが,この度「チーム医療のための」という読者対象と,日常臨床ですぐ参照しうるという意味の「ハンドブック」の体裁をなす本書が上梓された.

 呼吸ケアという医療は,現代社会,ことにタバコが税収維持のための課税対象品という時代錯誤的状況が改善されない中で,呼吸器関連医療スタッフが正面から向き合う必要性のある領域である.肺はゲノム(遺伝的)背景,環境,習慣の上に種々の病態が形成され,加えて加齢に伴い進行する.高齢化社会日本で今後数十年間,呼吸ケアが重要な課題になることは,工藤翔二氏による序論にもある通り,重く受け止める必要がある.

―井上 泰 著―病理形態学で疾病を読む―Rethinking Human Pathology

著者: 清水誠一郎

ページ範囲:P.1461 - P.1461

 いささか乱暴ながら,世に謂う理系をヒトとモノとの関係論,文系をヒトとヒトとの関係論と分類出来るなら「決定版! 文系の病理学!」.これが私の考えた本書のキャッチフレーズです(著者も出版社も絶対に受け入れないなとは思いますが).また,日本語で文系の学問といった場合,文学,哲学,政治学,法律学,経済学,心理学など,多様な学問・(一部の)芸術が含まれ,言い換えれば叙情的なもの,合理的なもの,あるいは科学的思考法までが含まれますが,そのすべてが本書にはあります.

 本書の対象は生身の,全体としての人間であり,そこから説き起こされる,医師をはじめとする医療従事者と患者との,ヒト対ヒトの関係論です.厳密な臨床医学的な記述,肉眼所見とルーペ所見を中心としたきれいな病理形態写真とその的確な説明,豊富な文献渉猟とそのユニークな紹介,著者の手による(かわいい,失礼!)イラスト,果ては小説化などで多彩に描かれています(もちろん最新の分子生物学などの成果も多数取り入れてあります).本書の腰巻には「推理小説を読んでいるかのような病理学!」とありネタばれになるので内容に触れることができませんが,「診断にいたるプロセス」はまさに名探偵の謎解きを思わせるスリリングなものであり,著者の明敏で合理的な頭脳を反映しており,一方,通常の病理学の本では触れられることのない患者さんの心の襞の奥にまで踏み込む描写,分析があり,これは後期エラリークィーンの描く一人の人間として悩む名探偵の如き著者の姿を彷彿とさせられます.

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編集室より

著者:

ページ範囲:P.1518 - P.1518

●8月1日は社団法人日本呼吸器学会が定めた「肺の日」であり,肺を守る啓発活動として禁煙が勧告されています.また,9学会による循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2003-2004年度合同研究班報告)「禁煙ガイドライン」では,喫煙者を依存症と喫煙関連疾患患者と捉え,個人の健康問題に対して指導できる医師という立場の可能性に言及しています.同ガイドラインでは,短い診療時間で効果的に禁煙指導する手法として,喫煙状況を尋ねる(Ask),すべての喫煙者に禁煙を促す(Advice),禁煙する意志を評価する(Assess),禁煙を支援する(Assist),フォローのための診療日を決める(Arrange)という「5Aアプローチ」を紹介.「禁煙」を「塩分制限」などに置き換えれば応用も利きそうです.とはいえ,患者の行動変容支援は一筋縄ではいきません.例えば,連載「外来診療に差をつけるコミュニケーションスキル」では,「がんばって」という言葉が,使い方を誤ると患者のやる気を削ぐという驚きの指摘が.効果的な励まし方とはどのようなものか,詳しくは本文をご覧ください.●幅広い領域の情報をupdateする一助としていただくために,「REVIEW & PREVIEW」欄では毎回1テーマを採り上げ,「最近の動向」 「何がわかっているか」 「今後の課題と展望」をおまとめいただきます.テーマなどのご要望は編集室(medicina@igaku-shoin.co.jp)までお寄せ願えれば幸いです.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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