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雑誌目次

雑誌文献

medicina48巻1号

2011年01月発行

雑誌目次

今月の主題 皮膚から内科疾患を疑う

著者: 田中勝

ページ範囲:P.7 - P.7

 皮膚に現れる症状は多彩である.皮膚科以外の医師にとっては,見えているのに理解しにくい,その症状の背景にどんな疾患を考えたらよいのかわからないという,歯がゆい思いをすることがあるかもしれない.一方,患者にとっては目に見えて症状があるため,その訴えは明確であり,その原因は何かということを知りたいであろうし,そこに生じている痛みや痒みを今すぐに取り除いてほしいという願いも切実である.

 この特集では,代表的な皮膚症状の影に隠れている内臓の異常を解き明かしていく皮膚科医の考え方のプロセスを紹介し,広く内臓疾患を扱う内科医にとって,羅針盤となるものにしたいと思った.それゆえ,病歴の考え方と皮疹の診かた考えかたに重点を置くことにした.

理解のための25題

ページ範囲:P.120 - P.123

Editorial

考える内科医のための皮膚所見の自然な理解

著者: 田中勝

ページ範囲:P.8 - P.10

皮膚所見を読み取るときに大切なことは何か?

 皮膚の症状をみたとき,特徴的な症状と分布から瞬時に診断名が決まってしまう場合も多いが,なかには皮膚所見からすぐに診断名が浮かばないときや,いくつかの鑑別診断が同時に頭の中に浮かんでしまい,正直なところ,悩ましいことがある.そのような場合,皮膚科医(私)はどのような思考過程をたどるだろうか?

 鑑別診断がいくつか浮かぶ場合は比較的容易である.そのときは,鑑別のポイントを考え,経過や症状をさらに詳しく尋ね,血液検査や光線テスト,パッチテスト,鏡検などを行い,診断を絞ることができるからだ.しかし,診断が全くわからない場合にどうするか?自分の診療を振り返って考えると,まずは,背景に起こっているであろう<病理所見>を想像しながら皮疹を観察する.次に,皮疹の<部位>がどこに限局しているのか,あるいは全身に生じているのか,患者の<年齢>も考慮しながら鑑別診断を考えることになる.そのうえで,さらに必要な検査を追加し,皮疹のどこを生検すれば,予想された所見が証明できるのかを考える.視診・ダーモスコピー診・触診・鏡検・血液検査・画像検査は,鑑別診断を考えながら項目を選び,追加するという,ダイナミックなプロセスであり,考えた結果が診察の方法や検査の選び方に大きく影響を与える.そのため,症例ごとに施行する内容が大きく変わる.

そう痒

激痒

著者: 峯垣裕介

ページ範囲:P.12 - P.15

ポイント

★そう痒が全身疾患の初発症状として出現することがあり,診断学的に重要である.

★激しいそう痒が長期間持続し治療に抵抗を示す場合,高頻度に背景疾患が存在する.

★そう痒を伴う悪性腫瘍のなかで最も頻度の高いものは,血液系の悪性腫瘍である.

★そう痒の原因として最も多いものは,生活習慣や老化に伴う皮膚の乾燥である.

紅斑

匍行性環状紅斑

著者: 吉村理枝子 ,   望月隆

ページ範囲:P.16 - P.19

ポイント

★匍行性環状紅斑は高率に内臓悪性腫瘍を合併する.

★臨床症状は特異的で四肢,体幹に木目状,縞馬状,蛇行状などと表現される紅斑が出現する.

★紅斑はそう痒が非常に強く,速やかに移動,遠心性に拡大,変形する.

★皮疹は合併する内臓悪性腫瘍の摘出により消退するとされている.

壊死性遊走性紅斑

著者: 山岡俊文 ,   小寺雅也 ,   臼田俊和

ページ範囲:P.21 - P.23

ポイント

★皮疹は顔面,間擦部,臀部,四肢といった外的刺激を受けやすい部位に出現する.

★難治性のそう痒を伴う皮疹の場合は,内臓悪性腫瘍に伴ったデルマドロームを念頭に置いての検索が必要である.

★体重減少や下痢といった消化器系の症状が持続していないか.

多彩な紅斑

著者: 梶原朋恵

ページ範囲:P.24 - P.28

ポイント

★多彩な紅斑をみたときには,皮膚症状のみでなく,随伴症状がないかチェックする.

★皮膚筋炎の紅斑はムチン性浮腫を伴うため,どの部位に生じても赤紫色を呈する.

★皮膚筋炎で悪性腫瘍の検索は大切!!

★多形皮膚萎縮(poikiloderma)は紅斑を繰り返すことで形成される皮膚筋炎の慢性期の皮膚症状である.

★外的刺激が加わる部分にはkebner現象で皮膚筋炎の皮疹が出現しやすい.

全身症状を伴う播種性紅斑

著者: 何川宇啓 ,   狩野葉子

ページ範囲:P.29 - P.33

ポイント

★発熱を伴う播種性紅斑を見たら,薬疹とウイルス感染症を疑う.

★播種性紅斑を皮膚所見のみで診断するのは困難であるので,皮膚の性状と分布を経時的に観察する.

★診断には詳細な問診が重要である.

★薬疹は投薬後すぐに出現するとは限らず,ある特定の薬剤では長期内服後に発症する.

★薬疹の中にはヘルペスウイルスの再活性化を伴うものがある.

★重症薬疹の一つであるDIHSでは,遅発性に臓器障害が次々と出現し,致命的な状態となりうる.

結節~結節性紅斑

紅斑を伴う多発性皮下硬結

著者: 磯貝理恵子 ,   川田暁

ページ範囲:P.34 - P.37

ポイント

★皮下脂肪織炎様T細胞リンパ腫は皮下脂肪組織を病変の場とする末梢性T細胞リンパ腫である.

★発赤を伴う有痛性皮疹のため,炎症性疾患と誤診することがあるので注意が必要である.

★組織学的には脂肪織炎を示す.細胞異型性は目立たないことが多く診断が困難であるが,脂肪細胞を取り囲む腫瘍細胞(rimming)を認めるのが特徴である.

★血球貪食症候群を伴うものは約30%とされ,その場合は予後が悪い.

結節を触れる紅斑(Bazin硬結性紅斑)

著者: 佐藤貴浩

ページ範囲:P.38 - P.41

ポイント

★Bazin硬結性紅斑は慢性的に経過する皮下結節ないし板状皮下硬結であり,女性の下腿に好発する.

★種々の原因による結節性紅斑や慢性静脈不全による脂肪織炎などとの鑑別が必要.

★Bazin硬結性紅斑が疑われた際には積極的に結核病変の存在の有無を検索する.

圧痛を伴う赤い小型結節

著者: 稲沖真

ページ範囲:P.42 - P.45

ポイント

★圧痛を伴う赤い小型結節をみたら毛囊炎,虫刺症,結節性紅斑,血管炎を思い浮かべる.

★下肢に多発し紫斑,壊死,網状皮斑を伴う結節では,結節性多発動脈炎を考える.

★結節性多発動脈炎の診断には,組織学的に中等大動脈の壊死性血管炎を確認する.

★皮膚のみに血管病変を認める皮膚型結節性多発動脈炎という病型がある.

扁平で目立たない淡紅色の小結節

著者: 塩田剛章 ,   澤田美月 ,   石崎純子

ページ範囲:P.46 - P.48

ポイント

★サルコイドーシスの確定診断には皮膚生検が有用なので,皮膚科との連携が重要である.

★サルコイドーシスの皮膚病変は非常に多彩である.

★サルコイドーシスが疑われたら入念に皮疹を観察し,軽微な紅斑でも生検する.

紫斑

下肢に多発する小さな紫斑

著者: 長縄真帆

ページ範囲:P.49 - P.51

ポイント

★下肢の紫斑をみたら,浸潤を触れるかどうかで血管炎が起こっているのかどうか判別する.

★紫斑出現以前に上気道感染などの前駆症状があったかどうかを問診する.

★紫斑以外の消化器症状,関節症状,腎症状が出ていないか注意する.

★治療は基本は安静であるが,症状に応じてステロイド投与や血液凝固活性第XIII因子製剤の投与を行う.

好酸球増多を伴う紫斑,血疱

著者: 信藤肇

ページ範囲:P.52 - P.55

ポイント

★好酸球増多を伴う紫斑・血疱を診た場合は末梢神経障害の有無を確認する必要がある.

★血管炎症候群が疑われる皮膚所見がみられた際には積極的に皮膚生検を行う.

★Churg-Strauss症候群では好酸球増多はほぼ必発であり,MPO-ANCAの陽性率は半数程度である.

網状皮斑

著者: 高橋智子 ,   清島真理子

ページ範囲:P.56 - P.59

ポイント

★網状皮斑とは,症状名で,局所的な循環障害により皮膚に生じる網目状の紅褐色斑を表す.

★その臨床的な違いにより,生理的に生じるcutis marmorata(大理石様皮膚),特発性または症候性に生じるlivedo reticularis,livedo racemosaに分けられるが,後2者はlivedo reticularisと統一される傾向にある.

★発症背景には,全身疾患が潜んでいることも多く,診断や治療について十分な検討が必要である.

下腿の紫斑と潰瘍

著者: 松木美和 ,   高橋一夫

ページ範囲:P.60 - P.63

ポイント

★下腿の紫斑と潰瘍を診た際には,皮膚生検による病理学的検討をし,血管炎の有無などを評価して診断をつけることが望ましい.

★血管変化を疑わせる皮膚病変(浸潤を触れる紫斑,潰瘍など),寒冷曝露による網状皮斑や寒冷蕁麻疹をみたときにクリオグロブリン血症を疑う.

★クリオグロブリンの採血の際には使用するシリンジや針を37℃前後に温め,採血後の採血管も温めたまま検査室に運び,遠心し血清分離するまで冷やさないことが大切である.

潰瘍

下腿前面の紅色局面と潰瘍

著者: 大野美咲 ,   寺木祐一

ページ範囲:P.65 - P.67

ポイント

★リポイド類壊死症は40~50歳代の女性に好発する.

★臨床的に下腿前面の境界明瞭な黄~紅褐色局面を特徴とし,ときに潰瘍を呈する.

★病理組織学的に真皮~皮下の膠原線維の変性と肉芽腫性変化である.

★約1/3の症例で糖尿病がみられる.

下腿の浮腫と潰瘍

著者: 菊澤亜夕子 ,   瀬戸英伸

ページ範囲:P.68 - P.70

ポイント

★下腿潰瘍の大部分は血管系の障害が占めるがときに内科的疾患が潜んでいる症例もある.

★下腿潰瘍の治療は原因検索が大切であり,病歴聴取もキーになる.

★下腿の色調・浮腫の有無,潰瘍の形状・部位・数・足の色調など見た目の情報も大きい.

★本稿の症例では原因と思われた巨大骨盤内腫瘍を摘出後速やかな改善傾向を示した.

★巨大化しやすい婦人科系の腫瘍は,静脈うっ滞の要因になりうる.

透析患者の四肢に生じた有痛性の紫斑と潰瘍

著者: 洲崎玲子 ,   塩田剛章 ,   石崎純子

ページ範囲:P.71 - P.74

ポイント

★透析患者に手足を除く四肢の潰瘍をみたら,calciphylaxisを第一に考える.

★激しい疼痛と周囲の紫斑が特徴的である.

★血清Ca・P値,血中副甲状腺ホルモン値を定期的に確認する.

★中枢側の潰瘍は,予後不良のサインである.

★早期デブリドマンが,予後を改善する.

足の難治性潰瘍

著者: 末木博彦

ページ範囲:P.76 - P.79

ポイント

★加重部に一致し,角質増殖とともにみられる皮膚潰瘍は糖尿病神経障害の関与を疑う.

★足趾間,足縁,趾根部に多発する皮膚潰瘍は動脈硬化性血管閉塞症の関与を疑う.

★糖尿病性潰瘍・壊疽をみたら神経障害,血流障害,感染についての病態評価を行う.

★糖尿病神経障害を基盤とする皮膚潰瘍の治療には加重の分散(免荷)がポイントである.

★血流障害を伴う皮膚潰瘍では血行再建術が潰瘍治療・救肢のポイントとして重要である.

角化

四肢の角化性紅斑

著者: 三橋善比古

ページ範囲:P.80 - P.83

ポイント

★角化性紅斑とは,真皮の炎症と表皮の角化の両者がみられる状態である.

★乾癬,毛孔性紅色粃糠疹,アトピー性皮膚炎,Bazex症候群などで角化性紅斑がみられる.

★Bazex症候群は,内臓悪性腫瘍を随伴するdermadromeである.

★合併腫瘍は,咽喉頭癌,口腔,食道,上肺野の扁平上皮癌が多い.

色素沈着

手背の色素沈着と瘢痕

著者: 川原繁

ページ範囲:P.84 - P.86

ポイント

★晩発性皮膚ポルフィリン症(PCT)の好発年齢は中年以降である.

★PCTは,基礎疾患にアルコール性肝炎などの肝疾患を伴うことが多い.

★PCTの皮膚症状は,顔と手背の色素沈着と手の水疱・びらん・痂皮である.

★PCTの診断は,尿中ウロポルフィリンの高値を証明することにより確定される.

★PCTの治療は,基礎となる肝疾患の治療,および日常の遮光である.

間擦部の色素沈着と疣贅の多発

著者: 平良真希子

ページ範囲:P.87 - P.89

ポイント

★間擦部の色素沈着と疣贅の多発をみたとき,黒色表皮腫を考える.

★診断には皮膚生検が必要である.

★悪性黒色表皮腫(MAN)では皮疹が悪性腫瘍に先行または同時発生するため,悪性腫瘍の検索を行う.

★日本ではMANと胃癌の合併が多い.

黄色の皮疹

躯幹・四肢の黄色丘疹(発疹性黄色腫)

著者: 遠田博

ページ範囲:P.90 - P.92

ポイント

★体幹・四肢の黄色丘疹を見たときは脂質異常症も鑑別に考える.

★食生活の変化から年齢を問わず若年者でも脂質異常症の可能性も考慮する必要がある.

★糖尿病の合併の頻度も高いことが言われており注意が必要である.

発汗低下を伴う多発性の点状血管腫

著者: 今村和子 ,   安元慎一郎 ,   橋本隆

ページ範囲:P.93 - P.96

ポイント

★発汗低下の背景にはさまざまな基礎疾患が存在することが多い.

★Fabry病は治療可能となっており,早期発見が重要である.

★Fabry病の症状は多岐にわたるため,診断が困難な場合があり詳細な病歴聴取が不可欠である.

★Fabry病の被角血管腫の好発部位は腰殿部である.

脱毛

円形脱毛

著者: 白山純実 ,   八幡陽子

ページ範囲:P.98 - P.100

ポイント

★脱毛は,内分泌異常,代謝・栄養障害,膠原病,感染症などで生じることがある.

★薬剤歴も詳しく確認する.

★脱毛部の紅斑・丘疹・皮下硬結・瘢痕などの有無を確認する.

★脱毛以外に発熱・関節痛といった随伴症状も確認する.

びまん性の脱毛

著者: 澤田美月 ,   洲崎玲子 ,   石崎純子

ページ範囲:P.101 - P.103

ポイント

★下痢や腹痛の患者にびまん性脱毛をみたら,Cronkhite-Canada症候群(CCS)を念頭に置き,爪甲を観察する.

★消化管内視鏡が鑑別に有効である.

★副腎皮質ホルモンの全身投与を行い,補液,栄養管理を併用する.

★胃癌や大腸癌の合併の報告もあり,定期的な消化管内視鏡を含めたフォローアップが必要である.

皮膚硬化

拘縮を伴う皮膚硬化

著者: 宮本樹里亜

ページ範囲:P.104 - P.107

ポイント

★皮膚硬化は主に真皮や皮下組織,筋膜の線維化により起こり,時に関節拘縮も伴う.

★鑑別疾患には,強皮症,好酸球性筋膜炎,硬化性粘液水腫,腎性全身性線維症(nephrogenic systemic fibrosis:nSF)等がある.

★NSFは腎不全患者に起こり,ガドリニウム造影剤が要因である.NSFに対する有効な治療法はなく,発症の予防が最も重要である.

座談会

内科と皮膚科の協力・連携・併診

著者: 田中勝 ,   田島厳吾 ,   沢田泰之 ,   山路安義

ページ範囲:P.108 - P.118

病診連携や地域連携の重要性が叫ばれ,その成果や方法が広く検討されつつある一方で,診療科間の連携についてはあまり論じられてこなかったのではないだろうか.今回は,異なるバックグラウンドを持つ内科医と皮膚科医にお集まりいただき,実際的な見地から,異なる診療科間におけるスムーズな連携について語っていただいた.

REVIEW & PREVIEW

ストレスと生活習慣病

著者: 中野真宏 ,   苅尾七臣

ページ範囲:P.124 - P.126

最近の動向

 現代はストレス社会であり,多くの人たちがストレスを感じている.ストレスという言葉には心理的,社会・環境的,身体的曝露が含まれている.ストレスの影響は個人差が多く,客観的評価は困難である.日本循環器学会による虚血性心疾患の1次予防ガイドラインでは,加齢,冠動脈疾患の家族歴,喫煙習慣,高血圧,肥満,耐糖能異常,高コレステロール血症,高TG血症,低HDLコレステロール血症,メタボリックシンドローム,精神的肉体的ストレスが危険因子として挙げられている.このように精神的ストレスが,循環器疾患の重要な危険因子であり,これまで臨床研究において,精神的ストレスが循環器疾患の発症に関与していることが示されている.

連載 手を見て気づく内科疾患・25

爪の変形,萎縮,消失:円板状ループスによる爪の変化

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.3 - P.3

患 者:60歳,女性

病 歴:32歳時に,発熱,顔,腕の紅斑,関節炎が出現した.全身性エリテマトーデスと診断され,ステロイドで加療された.37歳時には頭部,手にも皮疹が出現し,円板状ループス(discoid lupus)と診断された.現在,皮疹はおさまっている.

身体所見:右示指の爪は消失,中指の爪は著明な萎縮,環指の爪は変形している(図1).

festina lente【新連載】

ゆっくり,いそげ

著者: 佐藤裕史

ページ範囲:P.127 - P.127

 ラテン語の格言festina lenteは「ゆっくり,いそげ」の意で,もとはローマ皇帝Augustusの遺したギリシャ文だったらしい.ずいぶん前に哲学者・随想家の串田孫一氏の著作で覚えたような気がするが,以来とんと目にすることがなかった.

 先日,欧州のあるClinical Research Organisation(臨床試験運営の受託・代行企業)の副社長に会った.彼はドイツ人医師で,30歳過ぎで診療を離れ製薬企業の研究開発部門に転じ製薬医学を専門とし,現在の社に移って大規模臨床試験の薬剤監視(膨大な有害事象の報告を迅速に分類し,医学的判断を下す)の責任者を務める.新薬開発では,迅速円滑な業務の遂行と同時に,全体的な意味を吟味し臨機応変に掘り下げて慎重に判断するのも必要だから,“Make haste slowly”とよく部下に言ってきかせるという.「Festina lenteですね」と返したところ,黙って頷かれた.

医事法の扉 内科編・1【新連載】

善管注意義務(1)

著者: 福永篤志 ,   松川英彦 ,   稲葉一人

ページ範囲:P.128 - P.129

 近年,医療事故・医療過誤がマスコミなどに数多く取り上げられるようになるにつれ,医療安全の重要性が注目されています.院内のリスクマネージャーを中心に,われわれ医師も医療過誤事例からさまざまな教訓を学ぶ必要があるでしょう.ただ,医学的観点のみからの判断では偏りが生じるおそれがあります.なぜなら,われわれ医師が「常識」と思っていたことでも,世間にとっては「非常識」とみなされてしまうこともあるからです1).たしかに,裁判では医学的のみならず法律的に判断されますから,判例を詳細に検討することは将来の医療過誤防止にきわめて有用であるといえるでしょう.

 そこで,本連載では,われわれ医師が判例を検討し将来の医療過誤防止のために必要な法律用語と法的考え方について,法律未修者でも理解できるような平易な文章で解説していきたいと思います.具体的には,まず総論として,憲法,民法,医師法,医療法などの医療行為に関連する法律(総称して医事法といいます)に規定されたさまざまな義務や,明確な規定はなくとも解釈上認められている義務を1つひとつ取り上げ,判例を紹介しながら,法的観点から臨床上重視される点について検討します.同時に,基本的な法律用語も解説していきます.次に各論として,訴訟化しやすい疾患や医療行為について判例を紹介しながら個別に検討していこうと思っています.また,2006年5月から2010年12月まで月刊誌『脳神経外科』(医学書院)に連載された「コラム医事法の扉」から,重要なポイントを適宜引用します.

目でみるトレーニング

著者: 長谷川浩司 ,   原啓 ,   薬師寺祐介 ,   南里悠介

ページ範囲:P.130 - P.135

今日の処方と明日の医学・8

【MR】が伝える医薬情報と販売促進

著者: 高山秀一 ,   日本製薬医学会

ページ範囲:P.136 - P.137

医薬品は,変革の時代を迎えています.国際共同治験による新薬開発が多くなる一方で,医師主導の治験や臨床研究などによるエビデンスの構築が可能となりました.他方,薬害問題の解析から日々の副作用報告にも薬剤疫学的な考察と安全対策への迅速な反映が求められています.そこで,この連載では医薬品の開発や安全対策を医学的な観点から解説し,日常診療とどのように結びついているのかをわかりやすくご紹介します.

研修おたく海を渡る・61

看護師とのコラボ―コミュニケーションをどうとる?

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.138 - P.138

 指導医になってから,2年半マンツーマンで外来で働いた看護師のボビーが,初孫ができたのをきっかけに引退することになりました.患者や家族の細かいところまで把握した彼女のアドバイスはいつも的確で,何度救われたことかわかりません.化学療法室の看護師さんも,「Keisuke,どうするの?ボビーやめちゃうんだって.彼女の替わりは,そうはいないよ」なんて,不安になるようなことを言ってくれます.

 ボビーの替わりにやってきた看護師さんは,ジョニー!「また男みたいな名前だね」とからかわれました.60代のベテラン看護師から,20代の若手看護師へ一気に若返りました.一カ月の引き継ぎ期間がもらえたので,ボビーには,患者に電話をするのが好きだとか,比較的早めに緩和医療の話を持ち出すといった,僕のこだわりを伝えてもらうようお願いしました.僕は僕で,コミュニケーションをどうとるか,三つの作戦を考えました.

アレルギー膠原病科×呼吸器内科合同カンファレンス・10

肺炎を繰り返す関節リウマチ

著者: 岡田正人 ,   仁多寅彦

ページ範囲:P.139 - P.143

後期研修医(アレルギー膠原病科) 52歳の関節リウマチ(RA)の女性です.2年前から2時間半かけて当科に通院しておられます.4年前に手足の多関節炎と抗CCP抗体高値などから関節リウマチと診断され,地元の病院でメトトレキサート(MTX),タクロリムスなどの抗リウマチ免疫抑制薬の治療を受けておられましたが,肺炎を2回併発し局所的な気管支拡張症がCTで認められたため治療中止され,全身の関節炎で日常生活も困難となった際に紹介受診となりました.

後期研修医(呼吸器内科) RAの治療は,ここ数年で大きく変わったと聞いていますが,どれも感染症の危険が高いようですね.

The M&M reports 見逃し症例に学ぶ内科ERの鉄則・17

35歳女性 主訴 けいれん発作

著者: 長谷川耕平 ,   岩田充永

ページ範囲:P.144 - P.149

救急レジデントH:

 35歳女性がけいれん発作で救急搬送となりました.バスに同乗していた同乗者によると,座席に座っていた患者が突然四肢を激しくけいれんさせ,意識を失ったとのこと.隣にいる人が体を抑えたので転倒はなかったようです.

 既往歴,社会歴,薬剤使用などの情報はまったくわかりませんでした.鞄の中の免許証によると35歳の女性,マルチビタミン剤が鞄に入っていました.

書評

―神田善伸 著―血液病レジデントマニュアル

著者: 金倉譲

ページ範囲:P.19 - P.19

 血液疾患(血液の病気:血液病)は,レジデントや一般臨床医には敷居の高い領域である.日常診療に当たっている若手医師が,白血病や悪性リンパ腫などの代表的な血液病に接することが少ないのが一因であろう.また,造血器腫瘍や難治性造血器疾患などの致死的疾患は,専門医が診る特殊で難しい疾患という印象を持つレジデントも多い.確かに,血液病は,遺伝子や分子レベルでの新たな診断法が次々と開発され,治療に関しても,従来の薬物療法に加えて,分子標的療法,移植による抗腫瘍免疫療法と多彩な治療の選択肢が存在している.血液病は,常に新しい知識を習得するとともに,絶えずそのブラッシュアップが求められる領域である.しかし,実際に血液病棟で研修を行うと,血液病の基礎ならびに多くの全身性の疾患の管理が学べることに気付くことが多い.

 従来,血液病棟で働く多忙な若手医師から,要領よく必要最小限の事項を短時間で学べるマニュアルが切望されていた.このような時に,本書『血液病レジデントマニュアル』に巡り合えたことは幸いである.本書は,造血器腫瘍を中心とする血液疾患ばかりでなく感染症などにも造詣が深く,学生,研修医やレジデントに大変信頼されている神田善伸氏が執筆されたものである.血液疾患全般について,基礎知識,診断基準,鑑別診断や治療メニューなどの情報が一目でわかるように実に要領よくまとめられている.また,抗がん剤についても,その適応,使用方法,有害事象などのきめ細かな事項が網羅されており,確かに資料集としても手元におきたくなる1冊である.いかにしてミスのない化学療法が行われ,また副作用を軽減させるかという造血器腫瘍治療第一人者の意図が感じられる.さらに,ポケットサイズで常に携帯できるのもありがたい.

information

『第76回消化器心身医学研究会学術集会』演題募集のご案内

ページ範囲:P.33 - P.33

第76回消化器心身医学研究会学術集会を下記の通り開催いたします.

今回は「消化器の疾患・外科手術と心理社会的要因との関連」をテーマとしておりますが,その他に消化器領域の心身医学的諸問題に関して,広く一般演題を募集しております.一般演題の中から「優秀賞」を授与しますので,奮ってご応募いただきたくご案内申し上げます.

消化器心身医学研究会代表幹事:金子 宏

会長●羽生信義(町田市民病院外科)

中田浩二(東京慈恵会医科大学外科学講座)

日時●2011年5月14日(土)17:00~20:00(予定)

(第97回日本消化器病学会総会第2日目 会期:5月13日~15日)

会場●新宿NSビル30F「NSスカイカンファレンス」(東京都新宿区)

平成23年東北大学心療内科春期セミナーのご案内

ページ範囲:P.45 - P.45

毎年恒例で行ってきた心療内科夏期セミナーを春期に開催することとなりました.

全国の医学生,研修医の皆さんの参加をお待ちしております.

第6回日本統合失調症学会

ページ範囲:P.59 - P.59

日時●2011年3月25日(金)・26日(土)

会場●コラッセふくしま(福島県福島市三河南町)

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バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.154 - P.155

購読申し込み書

ページ範囲:P.156 - P.156

次号予告

ページ範囲:P.157 - P.157

編集室より

著者:

ページ範囲:P.158 - P.158

●昨年の秋,還暦を迎えた両親が山梨にある温泉付一泊人間ドック施設に行って来ました.

11月の甲府ということで,検査の翌日は宿近くのワイナリーで試飲会三昧だったとのこと.久しぶりの温泉とワイン飲み放題を十分満喫し,健診はおまけ扱いだったようです.●本号では,「皮膚から内科疾患を疑う」をテーマに,「こんな皮膚症状をみたら,どんな内科疾患を疑うか」をわかりやすくまとめました.意外だったのは,糖尿病の足病変や悪性腫瘍といったあきらかな病変だけでなく,単なる虫刺されやあせものように見える,目立たない皮疹や紅斑が,思いがけず重篤な疾患の現れであるものが多かったこと.特に背部や殿部,首の裏など自分では見えない場所にできた皮膚病変はなかなか気づかれにくく,気づいても「たかが皮疹」と患者に放置されることもあるようです.さらに,皮膚病変に加えてほかの内科的な症状(吐き気や倦怠感など)があっても,皮膚病変とは関係ないと思い見過ごしてしまうなど,さまざまな原因により受診・診断が遅れることもあると思います.どんな疾患にも共通だと思いますが,自分では見過ごしてしまうような小さな変化に家族が気をつけて目を配ることで,その芽を早いうちに摘むことが可能なのかもしれません.長らく母と一緒にお風呂に入ることもありませんでしたが,「親を温泉に連れて行くという親孝行」には,そういう意味もあるのかもしれない,とふと感じました.●昨年より,『medicina』編集室でTwitterを始めました(http://twitter.com/#!/medicina_japan).最新号のご案内や実施中のキャンペーン,おすすめの連載などについて発信していく予定です.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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