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雑誌目次

雑誌文献

medicina48巻13号

2011年12月発行

雑誌目次

今月の主題 “がん診療”を内科医が担う時代

著者: 勝俣範之

ページ範囲:P.2049 - P.2049

 “がん”の罹患数は年間50万人を超えるようになり,「2人に1人はがんに罹患し,3人に1人は,がんで死亡する」時代になりました.このように,がんはもはやcommon diseaseといってよい疾患であると思います.

 がん医療は永らく外科医がその診療の中心を担ってきましたが,早期発見・早期治療できるがんは一部のみであり,手術で治るがんもまた早期のがんのみです.これまで,がんは切れなければ治らない,あきらめるしかなかった病気でした.しかし,薬物療法により,再発を防ぐことによって治るがんが増え,また,再発しても,抗がん剤をうまく投与することによって,より長く共存することが可能になってきました.

理解のための27題

ページ範囲:P.2182 - P.2186

がん診療で期待される内科医の役割

がん診療と内科医の役割―がんの治療ではなく,がん患者のケアが重要

著者: 石黒洋

ページ範囲:P.2050 - P.2052

ポイント

★「がん」はthe most common diseaseである.

★「がん」を診ずして,「がん」患者を診よ.

★抗がん治療の目的を患者と共有せよ.

家庭医が担うがん診療

著者: 岡田唯男

ページ範囲:P.2053 - P.2057

ポイント

★家庭医はその患者の背景や価値観を最も知る医師であり,リスクの見積,診断,ケアの調整,家族のケアなどを効果的に行うことができる.

★がんの診断が確定する前に告知の希望をたずねておくことは,家庭医のできる最も重要な連携の手段である.

★家庭医と専門医が行う協働には3つのパターンがある.ケアが途切れないためには,治療中も積極的にかかわる必要がある.

★がん専門医はできるだけ家庭医を巻き込むようにする.

在宅緩和ケア医の役割

著者: 萬田緑平

ページ範囲:P.2058 - P.2060

ポイント

★医療の提供を中心に考えるのではなく,本人の願いを叶えることを中心に考える.

★緩和ケアのテクニックは延命のテクニックではなく,家族ケアをするための時間稼ぎの手段である.

腫瘍内科医の役割とは

著者: 松本光史

ページ範囲:P.2062 - P.2065

ポイント

★腫瘍内科の役割とは,与えられた環境により異なるが,その根本は「腫瘍内科学を基盤にして,臓器横断的にがん患者を診療する」ことにある.

★殺細胞性抗がん剤や分子標的治療薬などのいわゆる「がん薬物療法」を実施する主体としての役割のほかに,治療方針確定前,すなわち診断のプロセスでの対応,積極的薬物療法を中止して緩和療法へ移行するプロセスでの対応,治癒目的の治療が終了して経過観察中のサバイバーシップ的な問題への対応など,本来果たすべき役割は多岐にわたる.

腫瘍内科の専門医制度―米国の場合

著者: 大山優

ページ範囲:P.2066 - P.2070

ポイント

★米国の腫瘍内科専門医制度は日本と大きく異なる.

★米国では腫瘍内科は内科の一部であり,病院の組織ではDepartment of Internal Medicineの傘下にある.

★米国の卒後医学教育はACGME(Accreditation Council for Graduate Medical Education)により全国統一されている.腫瘍内科専門医(board certified oncologist)になるには,ACGME承認の内科レジデント研修(internal medicine residency)を修了し内科専門医を取得,その後にACGME承認の腫瘍内科研修を修了し,腫瘍内科専門医試験に合格する必要がある.腫瘍内科専門医は十分な一般内科研修を受けている.

腫瘍内科の専門医制度―日本の場合

著者: 津端由佳里 ,   田村研治

ページ範囲:P.2071 - P.2074

ポイント

★がん化学療法の特殊性から薬物療法に特化した専門性の高い内科医が必要とされている.

★腫瘍内科の専門医資格には日本臨床腫瘍学会認定の「がん薬物療法専門医」がある.

★専門医の絶対数は不足しており,がん治療専門医の育成はきわめて重要な課題である.

内科医が知りたいがんの知識 【がんの予防と検診】

がんの原因と予防

著者: 津金昌一郎

ページ範囲:P.2076 - P.2080

ポイント

★「たばこ・受動喫煙」「飲酒」「運動不足」「肥満・やせ」「偏った食事(塩分過多,野菜・果物不足など)」「感染」への対策が,日本人にとって有効ながん予防法である.

★中・高線量の放射線の被曝は,がんのリスクを上げることは確かであるが,100mGy以下の低線量の被曝についてはわかっていない.

内科医がすすめるがん検診

著者: 滝口裕一

ページ範囲:P.2081 - P.2085

ポイント

★がん検診の有効性は対象集団内の当該がん死亡率の減少効果によって評価される.

★対策型検診と任意型検診があり,前者は国の施策により市町村が実施する.

★ガイドラインに準じて実施することが重要である.

がんの診断―腫瘍マーカーでがんが診断できるのか

著者: 山中康弘

ページ範囲:P.2086 - P.2088

ポイント

★悪性腫瘍の診断において,最も重要な検査は病理組織学的検査である.

★血液・尿などの検体により測定される腫瘍マーカーの診断における有用性はごく一部の悪性腫瘍に限られる.

★男性で性腺外胚細胞腫瘍が疑われる場合のAFP,β-hCGの測定は有用である.

【がんの診断と治療】

原発不明がんの診断はどのようにするのか

著者: 河野勤

ページ範囲:P.2090 - P.2093

ポイント

★原発不明がんは全体として予後不良であるが,一部に予後良好群が含まれているため,確実な診断が重要である.

★予後良好群は8つあり,特定の治療を行うことで長期生存が期待できる.

★免疫組織学的マーカーによって原発巣の推定が可能な場合があるため,病理医との連携が重要である.

オンコロジック・エマージェンシー

著者: 東光久

ページ範囲:P.2094 - P.2097

ポイント

★主たるオンコロジック・エマージェンシーについて理解しその対応を知っておく.

★病態を,①構造上の問題(腫瘍自体による圧迫,閉塞など),②代謝性要因(腫瘍崩壊症候群など),③治療関連合併症(がん治療に特有のもの)に分けて考えると整理しやすい.

【抗がん剤と副作用対策】

外来化学療法と化学療法の副作用マネージメント

著者: 安井久晃

ページ範囲:P.2098 - P.2102

ポイント

★外来で安全に化学療法を行うためには,支持療法(副作用対策)が必須である.

★骨髄抑制自体は通常無症状だが,合併症の予防が重要である.G-CSFはガイドラインに沿った適切な使用が必要である.

★抗がん剤やレジメンの催吐性に応じた制吐療法を行う必要がある.

がん化学療法における感染症対策―発熱性好中球減少症を中心に

著者: 大曲貴夫

ページ範囲:P.2104 - P.2108

ポイント

★発熱性好中球減少症はmedical emergencyである.

★感染の有無・感染部位・原因微生物の推測と検索が重要である.

★施設の微生物の抗菌薬感受性パターンや感染部位を考慮して抗菌薬を選択する.

がん化学療法における感染症対策―真菌感染症・ウイルス感染症など

著者: 三浦裕司 ,   陶山浩一 ,   高野利実

ページ範囲:P.2109 - P.2111

ポイント

★固形がん患者診療中に比較的遭遇しやすいウイルス感染症はVZV,HSVによる内因性感染である.

★ほとんどの固形腫瘍に対する抗がん剤治療は真菌感染症のリスクにならない.

がん薬物療法により増悪する肝炎の対策

著者: 柴知史 ,   近藤俊輔

ページ範囲:P.2112 - P.2115

ポイント

★化学療法中にB型肝炎の再活性化が起こると致死的な肝障害となることがある.

★抗ウイルス薬の予防投与は再活性化予防に有効である.

★再活性化のリスク分類,レジメンの内容などエビデンスの構築が必要である.

がん薬物療法の新たな展開―分子標的薬

著者: 金田裕靖 ,   岡本勇

ページ範囲:P.2116 - P.2120

ポイント

★分子標的薬は作用機序から小分子化合物と抗体製剤に分けられる.

★患者選択により分子標的薬の治療成績の向上,患者への無効投与の軽減および医療費軽減が得られる.

★非小細胞肺がんに対するEGFRチロシンキナーゼ阻害薬の臨床開発において日本が世界をリードしている.

分子標的薬の副作用対策

著者: 峯岸裕司 ,   弦間昭彦

ページ範囲:P.2122 - P.2126

ポイント

★分子標的薬では標的分子のシグナル経路に依存した臓器・組織において特異的な副作用が発現する.

★各障害臓器の専門医と緊密な連携をとれる体制の構築が必要である.

★低頻度ではあるものの致死的な副作用も存在する.

【がん緩和ケア】

がん緩和ケア―症状コントロール

著者: 国兼浩嗣

ページ範囲:P.2128 - P.2132

ポイント

★がん性疼痛の治療として,非オピオイド鎮痛薬を投与し必要によりオピオイドを追加するWHO方式が用いられる.

★がん患者の呼吸困難に対してモルヒネが有効である.

★がん患者の嘔気・嘔吐に対して,病態に応じた制吐薬を投与する.

がん緩和ケア―精神的ケア

著者: 明智龍男

ページ範囲:P.2134 - P.2136

ポイント

★がん患者に多い精神症状は,適応障害,うつ病,せん妄である.

★終末期がん患者に最も頻度の高い精神症状はせん妄であり,30~90%に認められる.

悪い知らせの伝え方

著者: 久保田馨

ページ範囲:P.2137 - P.2139

ポイント

★悪い知らせを伝えるには,コミュニケーションの構造を理解し,段階的なプロセスで行う.

★患者/家族との対話,感情への対処が重要であり,ロールプレイを用いたコミュニケーション技術研修が有用である.

Column

がん患者団体の役割

著者: 天野慎介

ページ範囲:P.2080 - P.2080

 国内でのがん患者団体の活動は,すでに40年以上の歴史があるといわれていますが,その活動が特に活発化し,注目されたのは2000年以降です.端緒となったのは,海外で標準的に使用されている抗がん剤が,国内で未承認のために使用できない「未承認薬使用問題」(現在ではドラッグ・ラグといわれます)の解消を求めて,各地でがん患者が声を上げはじめたことです.その活動は「がん医療の均てん化」「がん情報や相談支援体制の充実」など,がん医療全体の向上を求める大きなうねりとなり,2006年のがん対策基本法の成立へと結実することとなりました.

 がん患者団体の活動内容には,このように行政や政治に働きかけを行い,がん医療の向上を求めていく「政策提言活動」もありますが,これ以外にも「普及啓発活動」や「相談支援活動」などがあります.「普及啓発活動」の内容としては,医療者を招いた講演会やシンポジウムの開催,会報誌やインターネットを通じた情報提供などがあります.「相談支援活動」の内容としては,患者や家族が参加する交流会や「がん患者サロン」の開催,電話や対面などを通じた相談窓口の開設などがあります.特に,同じ悩みをもつ患者や家族同士で,互いの経験を話し合い,分かち合う「ピア・サポート」については,当事者同士の自助活動の1つとして注目されています.

がん診療におけるPETの役割

著者: 大内恵理 ,   大内敏宏

ページ範囲:P.2085 - P.2085

 2003年にFDG-PETが保険適用となり,その後数回の改定を経て現在はすべての悪性腫瘍(早期胃がんを除く)の病期診断,再発・転移診断へと適用が拡大された.がん診療においては,術前・術後や,手術不能例での化学治療・放射線治療の効果判定などに際して施行され,日常診療において必要不可欠な検査となりつつある.

 通常,PETといえば18F-2-deoxy-2-fluoro-D-glucose(FDG)を用いたFDG-PETを指す.PETのみではRI集積部位が判断困難なことも多い.そこで,同時にCTも撮影し,PET画像とfusionさせることで診断能の向上が図られ,これをPET-CTと呼ぶ.

抗がん剤のドラッグ・ラグ

著者: 片木美穂

ページ範囲:P.2115 - P.2115

 海外で治療薬が承認されてから,日本で承認されるまでの時間の差を“ドラッグ・ラグ”と呼びます.ドラッグ・ラグという言葉がマスコミに大きく取り上げられたのは2007年10月.日本テレビの報道番組が「ノーモアドラッグ・ラグ」と題して特集を組み,「さまざまな疾患の治療薬が日本では使えない」と報じたのです.海外で承認されている治療薬が使えないという問題は2000年頃から「未承認薬問題」としてメディアには頻繁に登場していましたが,ドラッグ・ラグという新しい言葉になったことで,「承認されない薬」という観点ではなく,「当たり前の治療が当たり前に受けられない」という問題に切り替わったように感じています.

 実際,当時卵巣がん患者が困っていた治療薬は「未承認」ではありませんでした.リポソーマルドキソルビシン(ドキシル®)はカポジ肉腫ですでに承認されていましたし,ゲムシタビン(ジェムザール®)は非小細胞肺がんや膵臓がんなどで承認されていました.つまり,日本で承認されていない「未承認薬」ではなく,ある疾患には承認されているけれど同じように効果が期待される別の疾患には承認されていない「適応外薬」のラグなのです.患者からは「外来化学療法室の隣のベッドで治療している肺がん患者さんはジェムザール®で治療ができるのに,私は卵巣がんだから治療できない」という悲しい訴えが届き,胸が締め付けられる思いがしました.

がん診療と地域連携

がん診療と地域連携

著者: 谷水正人 ,   舩田千秋 ,   菊内由貴

ページ範囲:P.2140 - P.2143

ポイント

★がんの地域連携が求められているが,地域連携を軸とした新しい医療の形はまだ現場には見えていない.

★「がんの連携パス」は医療者,患者・家族間で統一されていない医療への期待,志向のベクトルを標準治療,患者QOLの視点から方向づけることを目指している.

★地域連携のためには医療提供体制の再構築が必要であり,医療者,患者・家族それぞれの意識改革と行動変容が求められる.

緩和ケアをどのように紹介し,どのように導入するか

著者: 木澤義之

ページ範囲:P.2144 - P.2147

ポイント

★基本的な緩和ケアはすべての医療従事者が提供するべき基本的診療能力である.

★専門的緩和ケアへの紹介は,病期や抗がん治療の有無と関係なく,緩和困難な苦痛が存在するときに考慮する.

★緩和ケアを紹介するときに,「もう何もできないから」と言わないこと.

がん診療における医療ソーシャルワーカーの役割

著者: 大松重宏

ページ範囲:P.2148 - P.2151

ポイント

★がん診療においてソーシャルワーカーに期待される役割は,以下の通りである.

 1)地域連携業務

 2)患者・家族の心理社会的課題の解決・調整の援助

 3)地域における医療・福祉サポートシステム構築

がんの社会学

がん診療とメディア

著者: 後藤悌

ページ範囲:P.2152 - P.2155

ポイント

★患者にとって,がん情報は治療を選択するうえで大切である.

★各種情報源のなかでインターネットの占める割合がますます高くなっている.

★検索エンジンの順位はがん医療情報の正しさを保証していない.

がんの診療の質を測定するQuality Indicator―がん診療の質を改善するために

著者: 東尚弘

ページ範囲:P.2156 - P.2159

ポイント

★診療の質の評価には構造・過程・結果の視点があるが,それぞれに限界もあるため,それらを認識しつつ結果の解釈をすることが重要である.

★診療の質の評価の目的は,その向上にあるため,短絡的に評価・公開を推し進めるのではなく,質の向上のために何が最善かを検討しつつ探り,また検証していく必要がある.

がん患者のサバイバーシップ

著者: 明智龍男

ページ範囲:P.2160 - P.2162

ポイント

★わが国においては高齢化に伴うがん患者の増加に伴い,サバイバーの数が増加している.

★がんサバイバーにみられる最も頻度の高い心理的問題は再発・転移の不安である.

★サバイバーの不安軽減には医療者との良好なコミュニケーションが重要である.

がん民間療法との付き合い方

著者: 大野智

ページ範囲:P.2164 - P.2168

ポイント

★がん患者の約45%が,健康食品・サプリメントなどの民間療法を利用している.

★科学的に検証された民間療法は非常に少ないものの,現在,世界各国でヒト臨床試験が進行中であり,一部有効性が証明された施術・療法もある.

★民間療法による有害事象や他の薬剤との相互作用に関する報告があり,医療者は情報収集に努める必要がある.

★医師と患者との間において,民間療法の利用に関するコミュニケーションが十分にとられていないため,トラブルなどが見過ごされている可能性がある.

座談会

がん診療と内科医の役割―プライマリケアから抗がん剤治療,緩和ケアまで

著者: 勝俣範之 ,   岡田唯男 ,   高野利実 ,   木澤義之

ページ範囲:P.2170 - P.2181

わが国ではもはやcommon diseaseといってよいほどになった“がん”は,患者を専門医,専門病院に送れば終わりという時代でなくなりつつあります.プライマリケア医,一般の内科医は,がん患者とどのように,どこまでかかわっていくことができるのでしょうか.

本座談会では,家庭医,腫瘍内科医,緩和ケア医としてがん患者と深く接し,それぞれの立場でがん診療のあり方を探っておられる方々にお集まりいただきました.そして,どのような役割を担おうとしているのか苦労話を交えながらお話しいただき,がん診療の抱える問題点,一般内科医への助言をお聞かせいただきました.

REVIEW & PREVIEW

内科疾患に対する認知行動療法の活用

著者: 古川壽亮

ページ範囲:P.2188 - P.2190

最近の動向

 認知行動療法が,身体疾患の治療やマネジメントにおいても注目を集めている.

 人間はさまざまな状況に対して反応を積み重ねながら生きていくが,この人間の反応は,認知(頭に浮かぶ考えやイメージ),感情,行動および身体の4つの側面に分けて考えることができる.このうち,認知と行動の側面から働きかけることによって,感情や身体の反応を変えていくのが,認知行動療法である.

連載 手を見て気づく内科疾患・36

チアノーゼ:デオキシヘモグロビンの増加

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.2045 - P.2045

患 者:53歳,女性

病 歴:40歳時から寒冷刺激によってRaynaud現象を認めている.関節炎の存在,血球減少,抗核抗体陽性,抗Sm抗体陽性から全身性エリテマトーデスと診断され,プレドニゾロン8mg/日を内服中である.

身体所見:寒い冬の朝の外来での指の所見を示す(図1).

Festina lente

コトバの問題

著者: 佐藤裕史

ページ範囲:P.2191 - P.2191

 論述式に代わって五者択一方式が医学部の試験の大半を占めるようになって結構経つ.そもそも国家試験がマークシート形式なので臨床,ついで基礎医学の試験も右に倣えで現状に至ったのだろう.時に私は敢えて論述試験を学生に課すが,いくつかの学校で一貫する傾向がある.「○○を論ぜよ」と問うているのに箇条書きで答える.字の汚いのは大目に見るとしても誤字も著しく,毎年数人の学生が患者を“看者”と書く.「○○は○○で,○○なので,○○だけど」といった小学生並みの文章も稀でない.

 卒業した途端,夜中の救急外来で動揺する患者や家族に病状を説明し,入院なり帰宅なりを納得させる役回りになる.検査値や画像は参照資料に過ぎず,見立てと手当ての方針はあくまで医者が患者に話すほかない.話がそれたら軌道修正し,曰く言い難いところは忖度して代弁する.以上すべてを数分でやらねばならない.五者択一なら正解できた筈の診断・治療の選択肢,副作用,予後を,相手の理解に応じて手短に説明するのは至難の業だが,どうすべきか誰も教えてくれないから,自分たちで卒業までに何とかすること――そういうと学生は困惑して押し黙る.簡潔で正確でわかりやすい学術用日本語のお手本として,朝永振一郎,加藤周一,大野晋,木下是雄を薦めているが,どの程度読まれていることか.

目でみるトレーニング

著者: 藤原敏弥 ,   佐伯恭昌 ,   小塚輝彦 ,   齋藤由扶子

ページ範囲:P.2192 - P.2197

アレルギー膠原病科×呼吸器内科合同カンファレンス・21

MTXによる治療後に増大した肺内結節

著者: 岡田正人 ,   仁多寅彦

ページ範囲:P.2198 - P.2201

後期研修医(アレルギー膠原病科) 今回の患者さんは2年前に関節リウマチと診断された60歳の男性です.当院の人間ドックを受診しておられ,関節リウマチと診断される1年前のCTですでに間質性肺炎と複数の小結節を指摘されています.新たに右肺底部に結節影が出現し,その精査で呼吸器科と併診になりました.

演習・循環器診療・7

心電図変化が目立たない胸痛の患者

著者: 今井靖

ページ範囲:P.2202 - P.2206

症例

63歳の男性.

主 訴 断続的に生じる前胸部痛.

研修おたく海を渡る・72

治療のゴール

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.2207 - P.2207

 患者・家族と医療者が「治療のゴールを確認する」という作業は簡単そうで難しいものです.お互いの“expectation(期待するもの)”,つまり「患者,家族の求めるもの」と「医療者側が現実的だと考えること」にずれがある時は特に工夫が必要です.そのずれをどう埋めればいいのでしょうか? まずは,“background(背景)”を知ることが大切です.しかも背景には,病気の情報だけでなく,患者本人がどう自分の病気を理解しているか,どのように受け止めているかも含まれます.しかし,背景を知り,ずれを確認できたとしても,情報を一気に与えてはいけません.昇圧薬や降圧薬への反応が人それぞれで,点滴の調節が必要なように,反応をみながら情報もいったん止めたり,ゆっくりにしてまた少しずつ早めるような工夫も必要です.“titrating information(伝える情報の細かな調節)”が重要なのです.もちろん,点滴全開でOKな人もいますが.

 たくさんの薬を一度に始めると,どれが効いているのかがわからないのと同じように,情報の種類も多すぎては焦点がぼけるのです.患者,家族ら聞き手も情報に圧倒されてしまいます.覚悟をしていたのか無言でかみしめる方もいれば,泣き出す方もいます.中には急に多弁になる方もいます.実際に先日のTumor Boardでは,残念ながらCTでがんの増悪がわかり,説明を受けた患者さんが“I am stunned!(stunn:気絶する)”と茫然自失になってしまい,その後の説明も“Why?”の繰り返しで何ともうまくいかなかったという例が紹介されました.こうした時に,“I told you.(だから言ってあったでしょ)”なんて言ってはいけません.その場で無理にすべてを解決するのではなく,別の場を設けたり,家族に加わってもらい根気よく待つ必要があります.誰にでも気持ちの波があるように1日のうちに受容と拒絶が繰り返されることもあります.昨日,話を聞いてもらいたいと言ったから今日も聞いてほしいとは限りません.今日はそんな気分じゃないかもしれないのです.治療のゴールもmoving targetです.患者の気持ちやニーズの変化にいらだったりせず,臨機応変に対応したいものです.また,お互いのずれを埋めようとすると葛藤(confrontation)や摩擦が生じることもありますが,それを恐れては前には進みません.そんな時は言葉に敏感になりながら,常にサポートする姿勢を示すことができれば最高です.

医事法の扉 内科編・12

医療訴訟のしくみ(2)

著者: 福永篤志 ,   松川英彦 ,   稲葉一人

ページ範囲:P.2208 - P.2209

 前回は,証拠保全まで説明しました.患者らは,証拠保全により収集した医療記録のコピーをチェックし,医療過誤の有無を検討します.もしそれが認められなければ,訴えを提起しても意味がありませんから,通常は訴えません.ただ,たとえ医療記録上明らかな過誤が認められなくても,医師・患者間の信頼関係が破綻していると,「隠蔽しているかもしれない」などと猜疑的にみられやすくなり,訴訟へと発展する可能性が高くなってしまうでしょう.また,過誤の可能性について患者らは,知り合いの医師などに相談することも多いようです.なぜなら,証拠保全には,弁護士の助けが必要ですが,さすがに弁護士といえども医学知識まで十分把握している人は少ないからです.余談ですが,第三者の医師が医事紛争に独自の見解を述べたために訴訟化することがあります.「後医は名医」と評されるように,患者らから相談された医師は,前医への不用意な批判は大いに慎むべきでしょう1)

 ところで,証拠保全で収集した医療記録だけでは裁判を維持するのに不十分だと考えられる場合もあります.そのような場合には,訴訟提起前に証拠を収集する手続きとして,以下の2つの方法を利用できます.

今日の処方と明日の医学・19

【日本の製薬医学】の展望

著者: 西馬信一 ,   日本製薬医学会

ページ範囲:P.2210 - P.2211

医薬品は,変革の時代を迎えています.国際共同治験による新薬開発が多くなる一方で,医師主導の治験や臨床研究などによるエビデンスの構築が可能となりました.他方,薬害問題の解析から日々の副作用報告にも薬剤疫学的な考察と安全対策への迅速な反映が求められています.そこで,この連載では医薬品の開発や安全対策を医学的な観点から解説し,日常診療とどのように結びついているのかをわかりやすくご紹介します.

書評

―杉本元信 編 瓜田純久・中西員茂・島田長人・徳田安春 編集協力―臨床推論ダイアローグ

著者: 本村和久

ページ範囲:P.2108 - P.2108

 表題の通り,病歴,身体所見から診断に迫る臨床推論の醍醐味を満喫できる名著である.難易度の低いものから,高いものの順に全部で40症例,どの症例も興味深い.東邦大学医療センター大森病院での経験をベースに書かれているとのことだが,臓器別ではない,診療科を超えた疾患のバラエティー,15歳から94歳までという年齢の幅,さまざまな垣根を取り払った総合診療の実践の素晴らしさを読んで実感できる.

 1例1例は明快な症例提示で始まり,さらに臨床推論→確定診断と小気味よく,研修医と指導医の対話形式で展開していく.その議論はわかりやすく病態に迫るもので,重篤な疾患の見落としがないように,慎重に鑑別診断を絞っていくさまは,指導医の思考過程そのものであり,臨床推論のまさに生きた教科書であると感じた.

information

日本製薬医学会第3回年次大会のご案内

ページ範囲:P.2211 - P.2211

日時●2012年5月11日(金)~5月12日(土)

会場●財団法人先端医療振興財団臨床研究情報センター(神戸市中央区港島)

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バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.2218 - P.2219

購読申し込み書

ページ範囲:P.2220 - P.2220

次号予告

ページ範囲:P.2221 - P.2221

編集室より

著者:

ページ範囲:P.2222 - P.2222

●「がんはいいぞ,あと○カ月と言ってもらえるんだから」.がんで逝った先輩が病床で語っていたと,別の先輩から以前何度か聞かされました.その先輩らしい自虐的諧謔だと受け止めていましたが,認知症が確実に進んでいく高齢者に接するにつけ,案外そういう面もあるのかもしれないなと,この話を思い出す機会が増えてきました.震災で一瞬にしてというのとも違い,自分で後始末をする時間がもてるのか…….●日本人の2人に1人ががんになり,3人に1人はがんで死亡する時代だそうです.これなら,傘を持たないときに限って降られ,歳末の福引きで残念賞以外当たったことがない,運から見放された身にも,可能性はそこそこあるわけです.もちろん,終末期やがんサバイバーまで丸ごと受け止め支えてくださる先生方にめぐりあい,笑顔で最後を迎えるほどの運はないでしょうが.●それに,いざそうなったとき,はたして告知に耐えられるか,痛みや不安と戦えるか,自信などまるでありません.安易な「余命告知」は慎むべきだとのお話もありました.●日本人の発がん要因で大きいのは煙草とアルコールだそうです.となると,がんを選ぶか避けるかは,ひとえに目の前のアルコールにかかってくることになり,どちらの道を選ぶべきか今夜も悩みは続きます.もう少し思索を深めるべく,取りあえず「おねえさん,熱いのお代わり」.

「medicina」第48巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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