icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina48巻2号

2011年02月発行

雑誌目次

今月の主題 関節リウマチを疑ったら―診断・治療のUpdateと鑑別すべき膠原病

著者: 岸本暢将

ページ範囲:P.165 - P.165

 20年前の関節リウマチ(RA)治療の目標は,まず非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)やステロイドを十分使用しRAの症状を軽減させるというCareが中心であった.1990年台にアンカードラッグとしてメトトレキサート(MTX)が普及し,経口抗リウマチ薬(DMARDs)併用治療および生物学的製剤が登場するとともに,RAに対する治療戦略が変わり,その臨床的寛解が大きな治療目標となり,Cureも夢ではないかもしれない時代を迎えた.ところが“診断”というと,関節リウマチ長期罹患患者のデータを基に20年以上前に作られた1987年米国リウマチ学会RA分類基準を参考にするしかなかった.

 2010年,欧州リウマチ学会にて待ちに待ったRA新分類基準が23年ぶりに最終発表された.これは“骨びらん”が起こる前に早期治療を開始する目的で早期診断ができるよう工夫された基準である.ところがこの基準には“関節リウマチと類似する他疾患を除外する”という項目が含まれている.つまり,日常診療で遭遇する最も頻度の高い膠原病の一つである関節リウマチの診療を行っていくうえで,プライマリケア医が関節炎をきたす膠原病の鑑別に精通することが至上命題となったのである.

理解のための23題

ページ範囲:P.304 - P.307

関節リウマチ診療Update

新分類基準のインパクト―日常診療はどう変わるか

著者: 岸本暢将

ページ範囲:P.166 - P.169

ポイント

★早期治療を行うことによる予後の改善のエビデンスが示され,早期診断が重要になり旧分類基準(1987年)の限界が示された.

★早期診断を目的に2010年ACR/EULAR関節リウマチ分類基準が発表された.

★早期診断時には除外診断を適切に行う必要がある.

手指単純X線写真のみかたASBCD

著者: 木村万希子

ページ範囲:P.170 - P.175

ポイント

★撮影は両手2方向(正面・斜位)でオーダする.

★手根骨の異常を見落とさない.

★「正常な骨の窪み」と「骨びらん」の見分け方のポイントは骨皮質の連続性.

関節リウマチ診断時に行う検査

著者: 津田篤太郎

ページ範囲:P.176 - P.179

ポイント

★関節リウマチ新分類基準では,「ほかの疾患で説明できない」滑膜炎の存在が前提である.

★感染症・代謝性疾患やほかの膠原病との鑑別のため,適切に検査を施行する必要がある.

★診断特異的な検査(リウマトイド因子・抗CCP抗体など)の有用性と限界の理解が重要である.すなわち「リウマトイド因子陰性・CCP陰性だからリウマチではない」は間違い.「CRP・血沈正常だからリウマチではない」も間違いである.

Treat to Target(T2T)―日常診療での臨床的寛解をめざした活動性モニタリング

著者: 岸本暢将

ページ範囲:P.180 - P.183

ポイント

★日常診療においてRAの治療目標は,ほとんど治ったような状態である“臨床的寛解”である.

★臨床的寛解を達成するために,抗リウマチ薬開始前と開始後は最低3~6カ月おきに疾患活動性を用いて評価し治療調節を行う.

★臨床的寛解基準が2010年米国リウマチ学会で発表され,実臨床ではCDAI≦2.8と決められた.

★tightに治療調節を行いRAの疾患活動性をコントロールすることにより,すべての薬剤の中止=“治癒?”が可能な時代になっている.

治療の進歩と専門医との連携

著者: 野村篤史 ,   岡田正人

ページ範囲:P.185 - P.188

ポイント

★関節リウマチの治療には早期の診断と早期からのDMARDsによる治療が重要である.

★治療目標達成までは1~3カ月ごとに疾患活動性の評価を行い,治療の調整を検討する.

★リウマチ治療薬は,コントローラーとリリーバーに分けて考える.

関節リウマチと鑑別が必要な疾患とその特徴

関節リウマチと鑑別すべき膠原病―疫学的特徴を中心に

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.190 - P.194

ポイント

★commonな膠原病はSjögren症候群とSLEである.

★uncommonな膠原病はWegener肉芽腫症である.

★commonな膠原病類縁疾患はリウマチ性多発筋痛症である.

【若年~中年で多い疾患】

全身性エリテマトーデス(SLE)

著者: 野村篤史 ,   岡田正人

ページ範囲:P.195 - P.198

ポイント

★全身性エリテマトーデス(SLE)でも,関節リウマチと臨床的には鑑別の難しい小関節の多関節炎が認められる.

★SLEの関節炎は朝のこわばりが短い傾向にあり,移動性関節炎のことがある.骨びらんは通常起こさない.

★皮疹,血球減少,蛋白尿,血沈がCRPに比して顕著に上昇していることなどが,SLEの診断のきっかけになることがある.

★抗核抗体が陰性であればSLEの診断はほぼ否定的である.

★関節炎患者で抗核抗体が陽性であれば,特異抗体の検査を考慮する.

★パルボウイルスB19の感染によりSLEと同様の症状を示すことがある.

Sjögren症候群

著者: 松本功

ページ範囲:P.199 - P.202

ポイント

★高頻度でRFが陽性となるが,抗CCP抗体は陰性となることが多い.

★高γグロブリン血症,膠質反応陽性,赤沈高値などを検診で指摘され受診することがある.

★関節炎は一過性で,進行性のことは少ない.ほとんどの症例がNSAIDで対応可能である.

★多彩な臓器障害を伴うことがある.

★乾燥症状を問診,診察,検査でしっかり捉えることが重要である.

多発性筋炎・皮膚筋炎(PM・DM)

著者: 高田和生

ページ範囲:P.203 - P.208

ポイント

★初期診断的評価は,病歴・身体所見および検査にて筋病態の存在を確認,鑑別疾患の除外,筋・皮膚外病変合併の評価,悪性腫瘍合併の評価,の4つの過程より成る.

★多発性筋炎を疑う症例や,特徴的な皮疹を伴わない症例に皮膚筋炎を疑う場合には,筋生検の施行が推奨される.

★合併する間質性肺炎の糖質コルチコイドへの反応性は低く,特に皮膚筋炎に合併頻度の高い急速進行性間質性肺炎は短期生命予後不良であり,初期治療開始時より強力な免疫抑制治療が必要である.

成人発症Still病

著者: 藤井隆夫

ページ範囲:P.209 - P.212

ポイント

★成人発症Still病は関節リウマチ(RA)と同様に慢性関節炎の原因となる.

★リウマトイド因子や抗CCP抗体は通常陰性で,中~大関節炎が多く,手関節を除いては重篤な骨破壊をきたす症例は乏しい.

★急性期には必ず高熱を認め,RAに比してCRP,フェリチン値も異常高値となる.

Behçet(ベーチェット)病

著者: 田中住明 ,   星健太 ,   廣畑俊成

ページ範囲:P.214 - P.217

ポイント

★ベーチェット病は,急性炎症の増悪と寛解を繰り返す全身性疾患である.

★関節炎は急性関節炎で,1~2週間で軽快する.

★関節炎は主に四肢の大中関節に非対称性に出現し,非対称性で変形や骨破壊は少ない.

★関節炎は約60%の初発患者でみられる.

★有痛性の再発性口腔内アフタ性潰瘍は,初発患者にほぼ必発である.

血清陰性脊椎関節炎(SNSA)

著者: 八田和大

ページ範囲:P.218 - P.221

ポイント

★SNSAはリウマトイド因子が陰性の背椎関節炎をきたす疾患群である.

★代表疾患はASであり,反応性関節炎,腸炎関連関節炎,乾癬性関節炎などがある.

★RAと異なり関節炎のみならず脊椎炎,仙腸関節炎,末梢関節炎,付着部炎をきたしうる.

★治療反応性もRAと若干違いがみられるので,注意すべきである.

★既存の疾患には入らない分類不能な脊椎関節症(uSpA)にも注目すべきである.

若年性特発性関節リウマチ(JIA)

著者: 山口賢一

ページ範囲:P.224 - P.227

ポイント

★若年性特発性関節炎(JIA)を診断する際には,自己炎症症候群や悪性疾患を含む十分な鑑別を行う必要がある.

★JIAと診断するだけでは不十分で,病型まで分類することにより適切な治療戦略を立てることが可能となる.

★小児科の主治医か小児リウマチ専門医と連携をとりながら治療を行うことが望ましい.

更年期の関節症

著者: 宮田あかね ,   村島温子

ページ範囲:P.228 - P.230

ポイント

★中年女性で多い肩こり・腰痛・関節痛などの訴えの中に更年期障害によるものもある.

★更年期障害の症状は身体的症状・精神的症状など多岐にわたる.

★要因としては,生物学的要因,社会的・環境的要因,心理的・性格的要因などがある.

★診断には診察時の面接が重要であり,その過程は治療を兼ねていることが多い.

線維筋痛症

著者: 岡寛

ページ範囲:P.231 - P.233

ポイント

★線維筋痛症は,中年以降の女性に多い.

★線維筋痛症は,3カ月以上持続する広範囲の疼痛と腱付着部の圧痛を認める.

★1次性の線維筋痛症は,炎症がなく,一般的に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は無効である.

【高齢者に多い疾患】

変形性関節症(erosive OA)

著者: 久米健介 ,   天野幹三 ,   天野國幹

ページ範囲:P.235 - P.238

ポイント

★DIP,PIP関節に関節腫脹,痛みを生じる.

★MP関節や手関節に症状を呈することは稀である.

★女性40歳以上,男性60歳以上で家族歴を有する.

★CRP,ESRは低値陽性に出ることも多い.

★RAとの鑑別はrheumatologistでも困難なことも多く,一度の診察で結論づけることなく少なくとも3カ月以上の経過を見るべきである.

リウマチ性多発筋痛症(PMR)・巨細胞性動脈炎(GCA)

著者: 金城光代

ページ範囲:P.239 - P.242

ポイント

★PMRは高齢者疾患で,肩関節周囲の痛みと可動域制限と炎症反応上昇を特徴とする.

★PMR類似疾患は多数あり,感染症を含めた除外診断をしっかり行う.

★プレドニゾロン治療に対する反応はPMR診断の助けとなる.

★PMR症状に加えて頭痛・発熱・複視があればGCAを疑い,ステロイド開始と側頭動脈生検を行う.

結晶誘発性関節炎―痛風・偽痛風

著者: 横川直人

ページ範囲:P.244 - P.248

ポイント

★結晶性関節炎は必ず偏光顕微鏡で結晶を同定できるまで確定診断としない.

★結晶性関節炎で発熱をきたすことは多いが、必ず関節液の培養を行い化膿性関節炎を否定すること.

★閉経前の女性や関節リウマチの患者で痛風はきわめて稀である.

【どのような年齢でも起こる疾患】

不明熱

著者: 萩野昇

ページ範囲:P.249 - P.256

症例 55歳男性,不明熱精査中に亜急性に進行する腎機能低下を認め,腎生検が予定されていた.検査前日に強い背部痛・血圧低下をきたし,造影CTで左腎の大きな血腫を認めた(図1).緊急で施行された血管造影検査で,腎動脈に多発する動脈瘤(一部破綻した動脈瘤からの造影剤血管外流出を伴う)を認めた(図2).結節性多発動脈炎と診断した.

 塞栓術を施行・止血に成功した後,ただちにステロイド投与を開始した.

血管炎

著者: 松井和生

ページ範囲:P.260 - P.264

ポイント

★血管炎の関節症状では関節痛・筋痛が最も多いが,滑膜炎は10~20%と決して少なくはない.

★発熱・体重減少などの非特異的症状や血管炎に特異的症状があれば,血管炎を疑う.

★血管のサイズ,罹患臓器による臨床症状のパターンから血管炎の鑑別を絞り込む.

★血管炎の診断のゴールドスタンダードは,組織生検および血管造影である.

悪性腫瘍に伴う関節炎

著者: 上野征夫

ページ範囲:P.265 - P.267

ポイント

★高齢者に発生した多発性関節炎,発熱,皮疹,リンパ節腫脹を伴った例を呈示する.

★膝関節穿刺液中の浸出細胞は,ほぼ全部リンパ球が占めている.

★右頸部のリンパ節生検により,T細胞リンパ腫と診断された.

★頸部リンパ節腫瘍細胞と関節液細胞は同一細胞系であることが証明された.

★リンパ腫性関節炎と診断されたが,リンパ腫の稀な発症形態を示した症例である.

化膿性関節炎

著者: 宇都宮雅子 ,   本郷偉元

ページ範囲:P.269 - P.272

ポイント

★化膿性関節炎は内科的準緊急疾患であり,単関節炎あるいは少関節炎を見た際,鑑別に挙げ十分な評価/除外を行うことが不可欠である.

★関節液検査が診断の鍵である.

★関節リウマチや偽痛風と合併することもありうるため,ひとつ診断がついても安心しない.

★疑ったら培養結果を待たずに,抗菌薬の投与を開始する.

ウイルス性関節炎―パルボウイルスB19,風疹ウイルス,B型肝炎ウイルス,C型肝炎ウイルス

著者: 中西研輔 ,   金城光代

ページ範囲:P.276 - P.279

ポイント

★急性多関節炎では,感染症と早期RAの鑑別を念頭に置いて考える.

★関節リウマチ類似のウイルス性関節炎の臨床像を理解する.

★ウイルス性関節炎でも,自己抗体偽陽性となることがある.

膠原病類似症候を呈する内分泌疾患―糖尿病を中心に

著者: 横川直人

ページ範囲:P.280 - P.285

ポイント

★糖尿病による皮膚硬化は頻度が高くかつ特異的な合併症である.

★癒着性肩関節包炎は糖尿病に特異的ではないが頻度が高い合併症である.

★甲状腺疾患では筋症状を伴うことが多いが治療で速やかに改善する.

見逃すと怖い膠原病緊急疾患

著者: 萩野昇

ページ範囲:P.286 - P.291

リウマチ性疾患における緊急事態

 リウマチ性疾患における緊急事態は,以下の2つに大別できる.

 ①診断のついていない血管炎や全身性エリテマトーデス(SLE)などの疾患に罹患した患者が,臓器障害(急性呼吸不全,急性腎不全,中枢神経障害など)をきたして救急受診した場合

座談会

内科医として関節炎を鑑別する醍醐味

著者: 岸本暢将 ,   徳田安春 ,   江里俊樹 ,   岡田正人

ページ範囲:P.292 - P.303

2010年,23年ぶりに欧州リウマチ学会にて関節リウマチ新分類基準が最終発表された.これは“骨びらん”が起こる前に早期治療を開始する目的で早期診断ができるよう工夫された基準である.ところがこの基準には“関節リウマチと類似する他疾患を除外する”という項目が含まれている.つまり日常診療で遭遇する最も頻度の高い膠原病の一つである関節リウマチの診療を行っていくうえで,プライマリケア医が関節炎をきたす膠原病の鑑別に精通することが至上命題である.

座談会では関節リウマチの早期診断と鑑別が必要な疾患とその特徴,多関節炎患者における最低限プライマリケアで必要な検査,さらに早期治療や病診連携の重要性についてディスカッションした.

REVIEW & PREVIEW

CKD患者の貧血治療は益か害か

著者: 秋澤忠男

ページ範囲:P.308 - P.310

最近の動向

 腎性貧血は腎不全患者に最も高頻度に発症する合併症で,その第1治療選択薬である遺伝子組み換えヒトエリスロポエチン製剤(rHuEPO)がわが国で実用化してから20年が経過している.rHuEPOを代表とする赤血球造血刺激因子製剤(erythropoiesis stimulating agent:ESA)の登場に伴い,腎性貧血をどのレベルに管理するか(治療の目標ヘモグロビン:Hb)が治療上の大きな課題となった.効果と安全性上,健常者と同じレベルまで貧血を改善するのが得策か否か,の論争である.

連載 手を見て気づく内科疾患・26

テリー爪:肝,腎,心疾患,糖尿病,栄養状態,甲状腺機能亢進症に注意する

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.161 - P.161

患 者:82歳,女性

病 歴:6年前からレイノー現象(Raynaud's phenomenon)があり,混合性結合組織病(mixed connective tissue disease)と診断された.また,僧帽弁閉鎖不全,心拡大,心房細動を認め,慢性心不全の状態である.

身体所見:両母指の爪の遠位端が赤褐色になっており,近位部は白い.半月は観察できない.また,さじ状に爪が変形している.爪囲紅斑を認める(図1).

festina lente

思いやること

著者: 佐藤裕史

ページ範囲:P.311 - P.311

 米国の画家Norman Rockwellの作品「体温計をみる医者と少年」(1954)をご存じだろうか.往診中の医師がベッドに腰掛け体温計を読もうとし,その背中越しに寝巻姿の少年が覗き込んでいるものである.医学部3年生の講義で,この絵をスライドで見せることにしている.「さてこの絵はどういう場面か,思いついたことを言ってごらん」と問うと,いつも当惑した沈黙が続く.促すと「体温を測っている」といわずもがなの答が出るくらいで,皆不安げである.こちらが今度は当惑する.

 やむなく私は自分の想像を口にする――この医者は家庭医で,少年が赤ちゃんの頃から何度も往診し,彼の気立てや腕白ぶりは重々承知.少年も物心ついてからずっと世話になっているから心を許している.医者の両肩に手をおいているのが,そんな気安さの証拠であろう.医者が何ともいえない笑みを浮かべているのはなぜだろうか.「このやんちゃ坊主が,三日間じっと安静にできただけで上出来だ.今日熱がなければそろそろ無罪放免か」.実際,少年はもう血色もよく,「ね,先生,明日から野球をやっていいよね」とでも言いたげな様子だ.この子の気質や両親の人柄,家庭の事情など万事このヴェテラン医師は先刻承知である.少年にしても医師の鷹揚な人柄が分かっているから「さあこれで野球ができる」とわくわくしている.そんな親密さ,信頼が絵にあふれている.頻繁な往診で医師と家族は十分馴染んでおり,お互い構えずに問わず語らずに気持ちも通じる……こういう穏やかな医師-患者関係がかつてはあった――こう「深読み」を話すと,漸く学生も少し納得がいった様子になる.

医事法の扉 内科編・2

善管注意義務(2)

著者: 福永篤志 ,   松川英彦 ,   稲葉一人

ページ範囲:P.312 - P.313

 今回も善管注意義務について検討します.薬物の副作用に関する具体的事例をみてみましょう.

 まず,18歳の精神発達遅滞状態の男性に対し,フェノバルビタール(フェノバール®),カルバマゼピン(テグレトール®)などの向精神薬を投与した例です.1カ月ほどで顔面,手足から体全身に発赤・発疹が広がったため,まずテグレトールを中止し,その26日後にフェノバールを中止しましたが,結局,フェノバールによるStevens-Johnson症候群のため視覚障害の後遺症が残存しました.高裁は原告の請求を棄却しましたが,最高裁は,担当医は「十分な経過観察を行い,過敏症状又は皮膚症状の軽快が認められないときは,本件薬剤の投与を中止して経過を観察するなど,本件症候群の発生を予見,回避すべき義務を負っていた」とし,結局,原審において担当医の過失の有無の判断に誤りがあったとして原判決を破棄し,原審に差し戻しました(平成14年11月8日判決).この「本件症候群の発生を予見,回避すべき義務」が善管注意義務の1つとなります.ちなみに,この事案は,平成16年に高裁で和解が成立したといわれています.

今日の処方と明日の医学・9

【PMS調査】の必要性

著者: 西馬信一 ,   日本製薬医学会

ページ範囲:P.314 - P.315

医薬品は,変革の時代を迎えています.国際共同治験による新薬開発が多くなる一方で,医師主導の治験や臨床研究などによるエビデンスの構築が可能となりました.他方,薬害問題の解析から日々の副作用報告にも薬剤疫学的な考察と安全対策への迅速な反映が求められています.そこで,この連載では医薬品の開発や安全対策を医学的な観点から解説し,日常診療とどのように結びついているのかをわかりやすくご紹介します.

目でみるトレーニング

著者: 花岡正幸 ,   渡辺浩志 ,   田口雅史

ページ範囲:P.316 - P.321

The M&M reports 見逃し症例に学ぶ内科ERの鉄則・18

56歳女性 主訴 めまい

著者: 長谷川耕平 ,   岩田充永

ページ範囲:P.322 - P.328

救急レジデントH:

 高血圧と糖尿病の既往をもつ56歳女性が,急性発症のめまいで救急車搬送となりました.1週間ほど前に上気道炎症状があって以来調子が悪く,今朝起きた時からふらふらするめまいで歩けないということで,救急車要請したようです.頭痛,頸部痛,複視,聴力障害,耳鳴り,しゃべりづらいといった症状はないようです.

 既往歴は高血圧と糖尿病のみ.過去にめまいの既往はなかったようです.服薬はアテノロールとメトホルミンのみで,喫煙歴は2箱/日×30年とのことでした.

研修おたく海を渡る・62

ナースプラクティショナー

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.329 - P.329

 日本でも,看護師と医師の中間の役割を果たす特定看護師といった新たなポジションが,医師不足の解消策として注目されています.実際アメリカでは,そういった職種は文字通りMid-level(中間レベル)practitionerと総称されています.MD Andersonがんセンターや,ハーバード大学の系列病院では,病院を効率的に回すため,レジデントよりも多くのMid-levelがいるそうです.アメリカでも,もともとは医師不足から生まれたようですが,日本と違い50年近い歴史があります.

 当院の血液腫瘍内科にも,骨髄移植専門のナースプラクティショナー(NP)は数人いるのですが,今まで,一緒に働く機会はありませんでした.ですが,がんセンターの外来拡張,患者数の増加をきっかけに新たにNPがリクルートされてきました.主な役割は,外来抗がん剤治療室での副作用対応や,外来での医師の応援です.

アレルギー膠原病科×呼吸器内科合同カンファレンス・11

Sjögren症候群 vs Sjögren病

著者: 岡田正人 ,   仁多寅彦

ページ範囲:P.330 - P.334

後期研修医(アレルギー膠原病科) 今回は62歳の女性で原発性Sjögren症候群の患者さんです.Sjögren症候群の症状としては,口腔乾燥,眼乾燥があり,自己抗体として抗Ro/SS-A抗体,抗La/SS-B抗体陽性です.5年前に他院で原発性Sjögren症候群と診断され経過観察されていましたが間質性肺炎の治療目的に当院紹介となりました.1年前に器質化肺炎に対してステロイド治療を行い軽快した既往があります.今回受診時は自覚症状は乏しく,日常生活も通常の就労をされておりますが,運動はあまりされないとのことです.喫煙歴が20本/日×15年ありますが10年前に禁煙されています.胸部単純写真とCTの解説をお願いしてもよろしいいでしょうか.

書評

―柴﨑 浩 著―神経診断学を学ぶ人のために

著者: 水野美邦

ページ範囲:P.243 - P.243

 このたび,柴﨑浩先生が『神経診断学を学ぶ人のために』という本を書かれた.わが国における臨床神経学・神経生理学の第一人者である先生の単著である.アメリカでのレジデント生活の経験も持たれる先生の御本で大変期待の持たれる単行本である.先生は,京大臨床神経学講座の主任教授を務められ,今は退官して武田総合病院の顧問をしておいでになる.

 目次を拝見すると,神経疾患の診断(総論),病歴聴取,診察の手順,意識状態の把握,脳神経領域と脳幹と続き,後者はさらに嗅覚,視覚から舌下神経まで,詳しく記載されている.次は,頸部と体幹,四肢の運動機能,腱反射と病的反射,不随意運動,体性感覚系,自律神経系,姿勢・歩行と続き,神経学的診察が完了する.さらにその先には,精神・認知機能,失語・失行・失認,認知症,発作性・機能性神経疾患,心因性神経疾患,視床下部と神経内分泌,神経内科的緊急症,日常生活障害度,機能回復と予後,検査方針の立て方と続き,神経学的診察の結果から,どのようにして病因診断に進むのかがわかるように配慮されている.

―相澤好治 監修 和田耕治・太田 寛 編集―臨床医のためのパブリックヘルス

著者: 加部一彦

ページ範囲:P.258 - P.258

 その昔,医学生だった時代に,確かに「公衆衛生学」の講義を受け,実習を行い,医師国家試験の受験勉強でも「公衆衛生」を勉強した記憶がある.が,しかし,あれから20有余年の歳月が流れた今,「公衆衛生」はなんと縁遠く感じられるだろう.医師法の第一条には医師の職務として「公衆衛生の向上及び増進に寄与」することが記されているにもかかわらず.一体,なんでそうなったのか? 医学教育の中で「公衆衛生」の占める位置は,臨床各科に比べてはるかに低い.それすなわち,日本の医学界では「公衆衛生」がそれほど重要視されていないことを意味しているのだろう.医師法に規定される「医師の職務」にもかかわらず…….

―久保恵嗣・藤田次郎 編―間質性肺疾患診療マニュアル

著者: 宮城征四郎

ページ範囲:P.274 - P.274

 この度,南江堂から久保恵嗣,藤田次郎両教授による『間質性肺疾患診療マニュアル』が刊行された.330頁に及ぶ一大大作である.

 編者によると間質性肺疾患は典型的には両側びまん性の疾患であり,その病態は判明しているだけでも実に200以上を数えるという.頻度は人口10万対10~20人であり,わが国には1.3~2.6万人の患者がいることになるが,呼吸器を専門とする臨床家が最もその鑑別に苦慮する病態である.

information

社団法人日本透析医会 研修セミナー「透析医療におけるCurrent Topics 2011」

ページ範囲:P.194 - P.194

主題●日常透析が抱える諸問題

日時●2011年3月6日(日)9時~16時10分

場所●コクヨホール(東京都港区)

第8回日本うつ病学会総会(大阪)開催のお知らせ

ページ範囲:P.208 - P.208

会期●2011年7月1日(金)~2日(土)

会場●大阪国際交流センター(大阪市天王寺区)

第3回 EM Alliance Meetingのお知らせ

ページ範囲:P.230 - P.230

ER型救急を目指す若手救急医の集い,EM Allianceも発足より1年が経過し,第3回 EM Alliance Meetingを開催いたします.日頃の診療に役に立ち,なおかつ面白い内容を企画しています.日本全国各地でER型救急を行っている仲間とともに学び,ともに語り合い,明日からの元気を貰いましょう.

日時●2011年3月5日(土)12時30分~18時30分

場所●湘南鎌倉総合病院講堂(神奈川県鎌倉市)

--------------------

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.340 - P.341

購読申し込み書

ページ範囲:P.342 - P.342

次号予告

ページ範囲:P.343 - P.343

編集室より

著者:

ページ範囲:P.344 - P.344

●寒くなると「肩が凝る」「膝が痛い」という言葉が口を衝いて出がちです.しかし,それが厳密に肩あるいは膝関節に原局した症状なのかと問われると,返答に窮します.今月の主題座談会の収録中,真の関節炎を見抜くためには,そのような曖昧な患者の言葉をどう内科学的に翻訳し直すかが重要であり,そのために「どう見るか」「どう触れるか」が臨床内科医の卓越したスキルなのだと感じ入りました.見て,それが炎症だとわかる.触れて,それが腫脹だとわかる.人から人へ直接は伝達できない「感覚」を学ぶ難しさ,教える難しさ.実際に患者を見て,触れて,言葉を交わす体験と,「そういうものだ」と教える存在が,現場の財産なのだと感じます.●電子書籍元年を迎え,紙媒体である雑誌の役割を再考する日々に出合った言葉は,「考える術を教えるべきで,考えたことを教えるべきではない」(Cornelius Gurlitt).弊誌アンケートでも,症例検討に関する企画は常に人気が高い領域です.経験と科学的な根拠を結びつける考え方の幅を広げ,深みを増す営みをご紹介し,臨床医学に資する誌面づくりを追求します.本年もご指導賜りますようお願い申し上げます.●1月号から2つの新連載をお届けしています.「医事法の扉 内科編」では,法令や裁判事例を通して,日常診療に潜む陥穽を回避し,より安全な診療に役立つ教訓をご紹介いただきます.「festina lente」では,先達との交流を交えながら,医師とは,医療とは,徒然の想いを綴っていただきます.いずれも日常診療に即効性があり,かつ普遍的な内容です.どうぞご愛読いただければ幸いです.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?