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雑誌目次

雑誌文献

medicina48巻3号

2011年03月発行

雑誌目次

今月の主題 臨床栄養Update 2011

著者: 中村光男

ページ範囲:P.351 - P.351

 わが国において戦前,戦後の食事の変遷は日本人の栄養状態や寿命,罹患する疾患に大きく影響を与えている.戦前,終戦直後はエネルギーや栄養素の欠乏症が中心で,いかにそれを改善するかに重点が置かれてきた.しかし,わが国の高度経済成長後は食事の欧米化,ファストフードの浸透によって脂肪の摂取量増加や質の変化がもたらされ,栄養の欠乏症から過剰症によって引き起こされる疾患が増加した.また,高齢社会となり高齢者の健康的な生活維持のため,高齢者向けの栄養管理も必要な時代になっている.さらには,高カロリー輸液法(total parenteral nutrition:TPN)や経腸栄養法(enteral nutrition:EN)の発達によって経口摂取不能患者の長期栄養管理が容易になっていること,一般の人々がサプリメントを容易に摂取することができるようになっていることなどから,特定の栄養素の欠乏症や過剰症のリスクを念頭に置いた診療を行う必要性がある.

 近年,わが国でもnutrition support team(NST)の活動が盛んに行われるようになっているものの,日常診療で常に栄養状態を把握し,病態に応じた栄養管理,治療が適切に行われているとは言い難い.まだまだ医師の臨床栄養学に対する認識は低いと思われる.

理解のための28題

ページ範囲:P.493 - P.497

食事の変遷

日本人の食事の変遷―食事脂肪とコレステロール

著者: 丸山千寿子

ページ範囲:P.352 - P.355

ポイント

★昭和30年代以降,食生活の洋風化と多様化が進み,動物性食品摂取量が増加した.

★脂質および飽和脂肪酸の過剰摂取が虚血性心疾患のリスクとなる.

★大豆製品,魚,海藻,野菜,果物,緑茶を摂取する日本型食事パターンは虚血性心疾患の予防に効果的である.

病院,施設での食事の現状

著者: 三上恵理 ,   丹藤雄介 ,   中村光男

ページ範囲:P.356 - P.360

ポイント

★病院における食事基準は「疾患別約束食事箋」と「成分栄養別約束食事箋」によるものが主流である.

★栄養管理,食事療法は疾患名ではなく,病態や症状によって異なる.

★高齢者の栄養管理の目的は,健康寿命を延ばすこと,QOLの維持向上,介護予防である.

栄養療法の基礎知識

なぜ栄養評価が必要なのか

著者: 森脇久隆

ページ範囲:P.362 - P.365

ポイント

★栄養療法はPDCA(plan-do-check-act)サイクルで行われ,栄養評価はその第1段階に位置する.

★栄養評価は主にエネルギー栄養状態と蛋白栄養状態の2面から行う.

★正確な栄養評価は患者アウトカムとよく相関する.

栄養投与法

著者: 櫻井洋一

ページ範囲:P.366 - P.369

ポイント

★栄養不良または栄養不良のリスクの高い患者に対し,病態に応じて経口摂取を含めた栄養療法を早期から適応する.

★消化管機能の障害を認めない場合には,できるだけ経腸的に栄養投与を行うことを原則とする.

★中心静脈栄養は,消化管が使用できず長期間にわたり静脈栄養を必要とする患者にのみ適応を限定する.

栄養素欠乏症および過剰症の診断・治療法

微量元素欠乏症と過剰症

著者: 湧上聖

ページ範囲:P.370 - P.373

ポイント

★鉄欠乏による貧血は臨床的に多く,圧倒的に女性に多い.

★亜鉛欠乏および銅欠乏は,経腸栄養管理のときに発生することが多い.

★亜鉛欠乏は皮膚炎や褥瘡の発生,銅欠乏は貧血や白血球減少として臨床的に重要である.

ビタミン欠乏症と過剰症

著者: 武田英二 ,   周蓓 ,   川上由香

ページ範囲:P.374 - P.377

ポイント

★バランスのよい食事によりビタミンを絶えず摂取することを心がける.

★加齢とともに潜在的ビタミン欠乏症が増えるので,注意が必要である.

★妊婦の栄養状態は子どもに影響を与えるので,妊娠前の栄養状態を良好に保つ.

各疾患の病態別栄養評価と栄養療法 【消化器疾患】

胃潰瘍・逆流性食道炎

著者: 前北隆雄 ,   榎本祥太郎 ,   一瀬雅夫

ページ範囲:P.379 - P.383

ポイント

★出血性胃潰瘍の急性期において,絶食は非常に有用である.

★ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2RA)やプロトンポンプ阻害薬(PPI)投与下では,食事による胃内酸度の影響はほとんどない.

★逆流性食道炎はアルコール・臥位で悪化,体重減少・頭側挙上で改善する.

脂肪肝・NASH

著者: 児玉和久 ,   徳重克年 ,   橋本悦子

ページ範囲:P.385 - P.388

ポイント

★非アルコール性脂肪性肝障害は,単純性脂肪肝と進行性の病態である非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に分類される.

★肥満・糖尿病などの生活習慣病合併が肝病変増悪の因子となる.

★NASHは食事・運動療法による減量が安全かつ有効な治療である.アルコール性肝障害は禁酒が原則である.

肝硬変

著者: 加藤章信 ,   鈴木一幸

ページ範囲:P.390 - P.393

ポイント

★肝硬変の栄養代謝異常は,蛋白質・エネルギー栄養不良が特徴である.

★エネルギー異常対策には,肝不全用栄養剤などによる就寝前軽食摂取療法がある.

★蛋白質・アミノ酸異常対策には,分岐鎖アミノ酸製剤が用いられ,予後改善効果も示されている.

膵疾患

著者: 丹藤雄介 ,   柳町幸 ,   中村光男

ページ範囲:P.394 - P.397

ポイント

★急性膵炎において,重症度と絶食期間は栄養状態に影響を及ぼす因子である.

★慢性膵炎では,病期によって栄養状態に影響を及ぼす因子が異なる.

★膵癌では,悪液質への対策を必要とする.

★膵術後の栄養管理では,切除範囲だけでなく吻合法や郭清・合併切除部位にも注意する.

炎症性腸疾患

著者: 佐々木雅也

ページ範囲:P.398 - P.402

ポイント

★Crohn病や潰瘍性大腸炎では,慢性的な栄養障害を高率に認める.

★Crohn病の栄養療法には,寛解導入効果,寛解維持効果も認められる.

★潰瘍性大腸炎の重症,中等症難治例では,腸管安静の目的で静脈栄養が有用である.

短腸症候群

著者: 瓜田純久 ,   本田善子 ,   島田長人

ページ範囲:P.403 - P.405

ポイント

★小腸大量切除後は,腸麻痺期,腸蠕動亢進期,回復適応期,安定期と経過する.

★回復適応期では,胆汁酸および脂肪吸収障害への対応がQOLに大きく影響する.

★安定期でも代謝性疾患への注意が必要である.

【内分泌・代謝疾患】

肥満症

著者: 齋木厚人

ページ範囲:P.406 - P.411

ポイント

★糖脂質を制限し,蛋白やビタミン,ミネラルを十分摂取することが食事療法の原則である.

★フォーミュラ食や糖質制限食はより内臓脂肪を減少させ,代謝を改善させる.

★肥満症患者の性格特性を理解し,総合的な栄養サポートが行われるべきである.

糖尿病

著者: 小川吉司 ,   友常健

ページ範囲:P.413 - P.416

ポイント

★糖尿病ではインスリンによる肝,筋,脂肪へのブドウ糖取り込みに異常がある.

★糖尿病の食事療法の基本はエネルギー制限,適当な栄養素バランスである.

★食事療法の目的は糖尿病慢性合併症を予防することにある.

脂質異常症

著者: 吉村中行 ,   寺本民生

ページ範囲:P.418 - P.421

ポイント

★脂質異常症を有する患者の食生活の是正は,動脈硬化性疾患予防の根幹である.

★脂質異常症における栄養療法の基本は,総エネルギー摂取量と脂肪摂取量を適正に保つことである.

★コレステロールの低下には飽和脂肪酸やコレステロールの摂取制限が必要である.

★多価不飽和脂肪酸の摂取が冠動脈疾患の発症リスクを低下させる.

★食物繊維やビタミン,ポリフェノールを含有する食品も摂取したほうがよい.

痛風・高尿酸血症

著者: 藏城雅文 ,   庄司拓仁 ,   山本徹也

ページ範囲:P.422 - P.425

ポイント

★生活習慣の変化に伴い,高尿酸血症,痛風患者が増加している.

★食事,アルコール,ストレスを含む生活習慣の改善は高尿酸血症の治療に重要である.

★薬物性を含む,二次性高尿酸血症にも留意する必要がある.

骨粗鬆症

著者: 細井孝之

ページ範囲:P.427 - P.430

ポイント

★骨粗鬆症とは,骨強度が低下し,骨折しやすくなった状態として定義される.骨強度は骨量と骨質の両方で決定される.

★骨量に最も関連する栄養素はカルシウムとビタミンDである.ビタミンDは転倒予防効果をもつことも報告されている.

★骨質を劣化させないためには,ビタミンB,葉酸,ビタミンKが不足しないことも必要である.

【その他の疾患】

慢性閉塞性肺疾患(COPD)

著者: 植木純 ,   熱田了 ,   十合晋作

ページ範囲:P.432 - P.435

ポイント

★慢性閉塞性肺疾患(COPD)の体重減少は呼吸機能障害とは独立した予後因子である.

★体重減少には摂取エネルギーの低下と代謝亢進によるエネルギーインバランスが関与する.

★食事中に息切れを訴える場合は食事に関するADL(日常生活動作)トレーニングの適応である.

★高エネルギー,高蛋白食の指導を基本とする.

★%理想体重(IBW)<80%の場合や進行性の体重減少がある場合は栄養補給療法を考慮する.

腎不全

著者: 松永智仁

ページ範囲:P.436 - P.440

ポイント

★慢性腎臓病(慢性腎不全)患者では保存期と比較して,透析期では炎症の存在も関与することで栄養状態は不良となりやすい.

★保存期CKD患者での食事療法は,適切な蛋白質制限と十分なエネルギーの摂取が基本となる.

糖尿病性腎症

著者: 杉本俊郎 ,   柏木厚典

ページ範囲:P.442 - P.445

ポイント

★糖尿病性腎症の診療において尿中アルブミン排泄量を測定し,腎症をより早期に診断し,ガイドラインに準じて血糖・血圧・脂質に対する集約的な治療を行うことが重要である.

★ガイドラインに示されている血糖・血圧・脂質の治療目標に達するためには,薬物療法のみならず,カロリー制限や減塩などの栄養管理の実施は必須である.

高齢者の栄養障害―低アルブミン血症を中心に

著者: 田中光 ,   柳町幸 ,   中村光男

ページ範囲:P.446 - P.451

ポイント

★加齢のみでは消化吸収能は低下しない.

★高齢者の低アルブミン血症の主因は食事摂取の量的質的変化である.

★栄養障害に対しては,高齢者の特徴を考慮した治療法が望まれる.

★血清アルブミン3.8g/dl未満を低アルブミン血症として介入すべきである.

アルコール依存症

著者: 丸山勝也 ,   水上由紀

ページ範囲:P.452 - P.455

ポイント

★一般診療においてアルコール性臓器障害をみた場合,必ずアルコール依存症を考慮する.

★アルコール依存症者は多飲による臓器障害の結果,種々の栄養障害をきたす.

★例外を除き,高蛋白・高エネルギー食とし,各種ビタミン・ミネラル欠乏に配慮する.

★アルコール依存症の疑いがある場合は,早期に専門治療機関への紹介が必要である.

症候と栄養療法

下痢・便秘

著者: 福田修久 ,   福田能啓

ページ範囲:P.456 - P.461

ポイント

★「下痢」や「便秘」はしばしば遭遇する症状であり,一過性であることも少なくないが,重大な疾患が隠れていることがあるので病歴を注意深く聴取する.

★急性下痢の多くは細菌感染性下痢やウイルス感染性下痢である.ノロウイルスは感染性が強いので感染拡大に注意する.サプリメントや服用薬剤によっても下痢が起こりうることを忘れてはならない.

★高齢者の宿便は下痢症状や便秘症状を呈することがある.投薬する前に,直腸診で便塊を除去しておく必要がある.

★慢性下痢では栄養障害を伴うことがある.消化・吸収機序を考慮しながら鑑別診断を行う.

貧血

著者: 玉井佳子 ,   高見秀樹

ページ範囲:P.462 - P.465

ポイント

★最も遭遇する頻度の高い貧血は鉄欠乏性貧血であるが,鉄欠乏のない患者への鉄補充は有害無益である.

★ビタミンB12 欠乏性貧血の場合,吸収障害の場合がほとんどであり,治療介入(定期的な非経口補充)が必要なことが多い.

★葉酸欠乏は本邦では稀であり,明らかな原因のない場合には薬剤服用の確認が大切である.

★長期経口摂取不良状態では,亜鉛や銅の欠乏による貧血が生じる場合がある.

★栄養障害以外にも貧血を生じる原因は多岐にわたるため,適切に血液内科へコンサルトすることも大切である.

褥瘡

著者: 定本哲郎 ,   東口髙志 ,   伊藤彰博

ページ範囲:P.466 - P.469

ポイント

★褥瘡の発生要因には栄養障害に関連するものが多く,予防や治療にあたっては適切な栄養管理を行うことが重要である.

★褥瘡の栄養管理においては,必要エネルギー量,必要蛋白量の投与に加えてビタミンや微量元素の補給が重要である.

★栄養管理の実施にあたっては,NSTとのコラボレーションが欠かせない.

嚥下障害と誤嚥性肺炎

著者: 柴田斉子 ,   才藤栄一

ページ範囲:P.470 - P.473

ポイント

★肺炎で死亡する人の90%以上が65歳以上の高齢者である.

★“むせ”のない誤嚥を不顕性誤嚥と呼ぶ.

★誤嚥性肺炎の要因は,食事中の誤嚥と夜間や睡眠中の唾液の微少誤嚥とに分けられる.

★誤嚥性肺炎の発症には,口腔内の細菌数が大きく関与する.

栄養に関する新しい概念

プレバイオティクス・プロバイオティクス

著者: 曺英樹

ページ範囲:P.474 - P.477

ポイント

★プレバイオティクス,プロバイオティクスとは,腸内細菌叢との共生により,腸管機能を維持することを目的とする.

★消化管粘膜の免疫能を高め,感染による合併症を抑える.

機能性食品の現状

著者: 内山和彦 ,   吉川敏一

ページ範囲:P.478 - P.481

ポイント

★機能性食品のなかでも,その有効性にある程度の規格基準を設けた特定保健用食品は,生活習慣病の予防効果を中心に現在増えつつある.

★周術期や回復期などの栄養療法のなかで,機能性食品が担う役割は大きくなりつつある.

★機能性食品のなかには,その機能発現に関しての科学的根拠が乏しいものも多く,今後,各個人に応じた摂取方法を決めるうえでも,その作用機序を解明する必要がある.

座談会

これからの臨床栄養における課題と問題点

著者: 中村光男 ,   福田能啓 ,   加藤昌彦 ,   柳町幸

ページ範囲:P.483 - P.492

食事を摂ることは単なる栄養の摂取でなく,人間が文化的・精神的に豊かな生活を送るためにも非常に大切な行為です.また,加齢や疾患により,個々の状況に合った食事および栄養療法が必要です.しかしながら,栄養学・栄養療法に詳しい医師が少ないのが現状で,食生活の変遷による生活習慣病の増加,対して高齢者の栄養不足などの問題も生じています.

そこで,本座談会では「日本人の栄養摂取の変遷と疾患への影響」,「特定保健用食品およびサプリメントの使用」,「高齢者の栄養障害」,「過剰栄養による疾患」,「外来食事指導,入院中の食事提供法」に関する議論を通して,臨床栄養における問題点と課題を明らかにし,今後の方向について考えます.

SCOPE

続・事前確率の重要性―いかに臨床現場に反映させるか

著者: 名郷直樹

ページ範囲:P.498 - P.500

前回(2010年12月号)1)のまとめ

 事前確率が低いままに検査をするとどうなるか,その極端な例として脳卒中の事前確率が0%の状況でMRIを撮った場合,どのようなことが起きるのかについて解説した.MRIはきわめて優れた検査であるが,事前確率を考慮しなければ,宝の持ち腐れになるばかりでなく,“疾患を生み出す錬金術”とでもいうべき有害な検査にもなりうることを強調した.

REVIEW & PREVIEW

大腸がん検診の実際と課題

著者: 松田一夫 ,   田中正樹

ページ範囲:P.502 - P.504

最近の動向

本邦における大腸がん死亡の現状

 2009年の大腸がん死亡は男性では肺がん,胃がんに次いでがん死亡の第3位(22,762人),女性の大腸がん死亡は第1位(19,672人)であり,男女合計では1980年の2.9倍となった.最近になってようやく増加に歯止めがかかってきた.

連載 手を見て気づく内科疾患・27

尋常性乾癬:多彩な爪の変化

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.347 - P.347

患 者:66歳,男性

病 歴:慢性腎臓病で外来通院中である.半年前から四肢,体幹に皮疹が出現した.

身体所見:右環指を示す(図1).爪郭に鱗屑を伴った紅斑,爪上皮の消失,複数の横行陥凹(洗濯板様の変化),爪甲剥離・爪下角質増殖,爪下線状出血を認める.背部には,銀白色の鱗屑が付着する境界明瞭な紅斑(図2)を認める.

festina lente

負い目の感じ

著者: 佐藤裕史

ページ範囲:P.501 - P.501

 小児科医・思想家の松田道雄先生は没後10年余,今もその名著『育児の百科』を求める人が絶えない.疾病各論の部分を外し,育児の普遍的部分だけが近年岩波文庫に入った.先生が英独仏の最新の文献に毎日あたって,同書の修正を亡くなる直前まで続けておられたのを知る人は少ないだろう.医療を超えて教育,文化,思想史まで幅広く地に足のついた膨大な著作を発表し,京都を代表する知識人であったことを知らない若手医師も増えているだろうか.

 私が初めて先生の著書を手にしたのは高校生の頃で,小児科開業の一方で幅広く批評活動をしておられるのに惹かれた.知的視野狭窄への解毒剤であった.そのうち出た『わが生活 わが思想』に人生の総決算のような口吻を感じお手紙を出した.すぐに毛筆の返信をいただいた.「私は医者から敵視されているので抗議の手紙しか貰いません」とあり,医学生からの手紙も記憶にないとのこと―学生までもがこの在野の大知識人を異端視するのかと,日本の集団主義の圧力を感じた.国家試験目前の冬,二条城近くのお宅を訪ねた.80歳を超えて“New England Journal of Medicine”や“Lancet”はもとより“Journal of Immunology”に至る十数種の学術誌を購読しておられたのに圧倒された(蔵書は2万冊を超え,現在熊本学園大蔵).人間はここまでできるのかという感銘と,自分は何をやっているのだろうという自責の念を抱えて帰京した.卒後は内科研修の慌ただしさを縫って時折文通があった.精神科に転じる時は「難しい領域を選んだね」といわれ,英国を留学先にしたのは賢明だと後押しもしてくださった.交通事故の後遺症の長かった奥様を看取られた後,編集者に私を紹介され,ご自分の没後の手続きを葉書で書店に指示された日に亡くなった.

目でみるトレーニング

著者: 河岸由紀男 ,   大前知也 ,   安藤智恵 ,   浦田秀則

ページ範囲:P.505 - P.510

研修おたく海を渡る・63

たった一年でも、できること。

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.511 - P.511

 第51回で紹介したサービスラインマネジャーのボビーを覚えていらっしゃるでしょうか.患者だけでなく,病院スタッフの満足度を上げることを使命にやってきた,がんセンター立ち上げのプロの話です.彼女が就任してから,起こった変化を振り返ってみたいと思います.

 待ち時間を減らすために,実際に時間を測定し,どこがボトルネックになっているかを探し出し,人を補充する場所を決め,実際に予算をつけて採用実績を作りました.紹介から初診,その後の受診をスムーズにするがん部位に応じたコーディネーターの数は2倍になり,さらにその下で働く患者ナビゲーターというポストもできました.抗がん剤治療室での患者の副作用や不安に速やかに対応するために,治療室をフリーでラウンドする臨床心理士や,ナースプラクティショナーを採用したのも彼女です.この作戦は,患者の満足度だけでなく,医師,看護師といった診療スタッフの満足度も上げました.抗がん剤の処方テンプレートはできるまでが大変でしたが,結果として,医師,薬剤師の満足度は上がりました.土日に病棟で,通院点滴に対応できる仕組みを作ったり,看護師を教育するために,ナースエデュケーターというポストもつくりました.

今日の処方と明日の医学・10

【有意義な臨床研究】とは

著者: 佐藤裕史 ,   日本製薬医学会

ページ範囲:P.512 - P.513

医薬品は,変革の時代を迎えています.国際共同治験による新薬開発が多くなる一方で,医師主導の治験や臨床研究などによるエビデンスの構築が可能となりました.他方,薬害問題の解析から日々の副作用報告にも薬剤疫学的な考察と安全対策への迅速な反映が求められています.そこで,この連載では医薬品の開発や安全対策を医学的な観点から解説し,日常診療とどのように結びついているのかをわかりやすくご紹介します.

アレルギー膠原病科×呼吸器内科合同カンファレンス・12

目は口ほどにものをいう―男性のSjögren症候群?

著者: 岡田正人 ,   仁多寅彦

ページ範囲:P.514 - P.518

後期研修医(アレルギー膠原病科) 患者さんは,70歳の男性です.他院の泌尿器科で水腎症のためフォローされていたようですが,涙腺の腫脹(図1)があり乾燥症状もあったためSjögren症候群疑いということで紹介となりました.口腔乾燥症状はごく軽度ですが,ガムテストは10mlで正常下限でした.また,以前他院で肺癌疑いのため外科的肺生検を行っていますが,悪性所見は指摘されなかったそうです.

医事法の扉 内科編・3

問診義務

著者: 福永篤志 ,   松川英彦 ,   稲葉一人

ページ範囲:P.520 - P.521

 問診は,われわれ医師が最初に行う医療行為であり,われわれは,「法的義務」などという認識は全くなく,ごく普通の業務の流れとして行っているのではないでしょうか.たしかに,問診を義務付ける明確な法律規定はありませんが,実は,診療契約に基づく善管注意義務(民法644条,656条)の1つと考えられています.

 まず,有名な判例として「輸血梅毒事件」1)があります.1948(昭和23)年に,医師が職業的給血者に対し,単に「からだは丈夫か」と尋ねただけで採血し,直ちにその血液を患者に輸血したところ,その患者が梅毒を発症したケースです.最高裁は,相当の問診を尽くさなかったことが注意義務違背にあたると判断しました(昭和36年2月16日判決).判決では,①患者の身体自体から得られる所見以外の情報は問診によるほかはないこと,②梅毒感染の危険の有無は当事者のみが知りうる事項であり,梅毒感染の危険性のない給血者から輸血すべきであること,③省略した問診が慣行となっていても,それはただ過失の程度を判定するときに考慮すべき事項にとどまり,注意義務が否定されるものではないこと,④この職業的給血者は質問されれば真実を答えたというのであるから,医師が誘導して具体的かつ詳細な問診をすれば,梅毒感染の危険性を推知できた可能性があったこと,⑤医師は,生命および健康を管理すべき業務に従事するのであるから,その性質に照らし,危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるのはやむをえないことなどが考察されています.ただ,この事例は,「信頼するに足る血清反応陰性の検査証明書を持参し,健康診断及び血液検査を経たことを証する血液斡旋所の会員証を所持する場合」にあたり,医師にそのような場合にも問診を義務付けるのは酷だという意見もあります.しかし,裁判所の上記のような判決に至るまでの理論的考察過程は,十分な説得力があるのではないかと思います.そもそも問診は法的義務ではないという見解もあるようですが1),問診は,時に患者しか知りえない重要な情報を聞き出す唯一の手段となりますから,それをあえて十分に施行せず単なる慣行にすぎない問診を行った場合には,やはり注意義務違反に問われてしまう可能性も否定できません.つまり,問診のようなごく普通の業務の流れにも落とし穴が潜んでいることに注意が必要です.

The M&M reports 見逃し症例に学ぶ内科ERの鉄則・19

56歳女性 主訴 呼吸困難

著者: 長谷川耕平 ,   岩田充永

ページ範囲:P.522 - P.528

救急レジデントH:

 乳癌の既往をもつ56歳女性が呼吸困難のため救急外来に救急車搬送となりました.

 この1週間,徐々に増悪する呼吸困難,起座呼吸があり,今日になって横になると呼吸ができないほどになったとのこと.発熱,咳,喀痰,胸痛,四肢の浮腫や痛みはなし.既往歴は乳癌と高血圧のみ.2週間前に外来の化学療法を受けたほか,服薬はアムロジピンのみで,喫煙歴はなし.

書評

―鳥羽研二 編著―高齢者の生活機能の総合的評価

著者: 横手幸太郎

ページ範囲:P.388 - P.388

 わが国の成人男女を対象としたある保険会社の調査によれば,“長生きすることに不安を感じる人”が全体の9割に上るそうである.ちなみに,不安に感じる理由のトップは「お金」と「病気・入院」,そして「介護」が続いたという.洋の東西を問わず,長生きはめでたく喜ばしいことであったはずなのに…….経済の先行きにも希望が見えてこない日本社会は,これまで世界中の誰も経験したことのない“超高齢社会”に 今後どう対応していけばよいのか?

 本書には,高齢者医療に対する考え方を根本から変え,介護予防の世界にパラダイムシフトをもたらすヒントがある.編著者の鳥羽研二氏は,そもそも高齢者は何らかの病気をもっているものだというスタンスで本書を書いている.そして,持病がありながらも生活上の不自由さを感じていないのが高齢者の特徴の一つであり,いったん入院を経験すると退院後も生活機能が低下したままになりやすいことが若者との違いである,と説く.核家族化の進行による独居老人や老老介護家庭の増加を考えると,生活機能の低下は生存に対する大きな脅威でもあるのだ.

information

第12回肺高血圧症治療研究会開催について

著者: 国枝武義

ページ範囲:P.373 - P.373

 近年,難治性肺高血圧症に対する画期的治療法の開発により,肺動脈高血圧症(PAH)という概念が導入され,病因,病態,治療に関する新しい知見が世界的規模で集積されています.わが国においても種々の新しい治療薬の登場により,肺高血圧症の治療法が注目を集めています.

 今回,第12回研究会を下記の要領で開催致します.

第45回日本てんかん学会(新潟)開催のお知らせ

ページ範囲:P.425 - P.425

会期●2011年10月6日(木)~7日(金)

会場●朱鷺メッセ/新潟コンベンションセンター(新潟市)

日本睡眠学会第36回定期学術集会開催のお知らせ

ページ範囲:P.473 - P.473

会期●2011年10月15日(土)~16日(日)

※Worldsleep2011併催[10月16日(土)~20日(木)]

会場●国立京都国際会館(京都市左京区)

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バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.534 - P.535

購読申し込み書

ページ範囲:P.536 - P.536

次号予告

ページ範囲:P.537 - P.537

編集室より

著者:

ページ範囲:P.538 - P.538

●先日,睡眠呼吸障害に関する座談会を収録しました.そのなかで,「睡眠時間の短い人は高血圧,糖尿病,脂質代謝異常などの生活習慣病や肥満になりやすい」という話が印象的でした.生活習慣病の予防には食事,運動,睡眠が大切で,睡眠に関しては,時間の確保とともに良質な睡眠が必要.しかしながら日本人は睡眠を軽視しており,睡眠の重要性をぜひ認識してほしい,との内容でした.●本号の座談会「これからの臨床栄養における課題と問題点」では,治療食のみならず食事に関する話題が広く取り上げられました.食生活の変遷と疾患との関連については「子どもの食事が崩壊している.調理が簡単で外食でもよく食べられる肉類が多くなる一方,値段が高く調理が面倒であることから親が子どもに魚を食べさせなくなっている」,「食生活の基本は幼少期から.お母さんのあり方が問われている」など耳が痛い話題もあり,睡眠同様,日々の食生活の重要性も強く感じました.●食べ物は体の薬.患者さんの治す力を引き出すためにも,薬の種類とその処方を知るのと同じように,栄養と病態に応じた食事療法についても内科医に知ってほしい.また,読者の皆様がより長くよりよい診療を続けるために,ご自身の食事にも関心をもっていただくことを願っています.そして2回の座談会を通して,疾患の予防や早期発見のために「睡眠は十分にとれていますか?」,「食事は十分に摂れていますか?」の2つの質問を日常診療にぜひ取り入れていただきたいと感じました.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

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60巻11号(2023年10月発行)

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60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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