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雑誌目次

雑誌文献

medicina48巻4号

2011年04月発行

雑誌目次

今月の主題 緊急画像トラブルシューティング―内科医のためのPearlとPitfall

著者: 岩田充永

ページ範囲:P.545 - P.545

 わが国の多くの医療機関では,画像診断の非専門医(内科医や救急医)も容易に画像検査にアクセスできる環境であると思います.この環境は多大な恩恵をもたらしていることは疑う余地がありませんが,救急診療の現場で初診時に正しい診断が下せなかった事例が発生すると,患者側からは「あの時に検査しておけば診断できたのではないか?」と,また,病院管理職からは「なぜ検査しておかなかったんだ.とりあえず検査はたくさんやっておけ.困ったらCT撮っておけばいいんだよ」という類の発言に遭遇することはないでしょうか?

 確かに画像検査はわれわれに多くの情報をもたらし診療の大きな武器となりますが,とりあえず画像検査をしておけば,すべての見落としが防げるという誤解が,医療を利用する側だけでなく医療を提供する側にも存在するのは残念なことです.

理解のための23題

ページ範囲:P.671 - P.674

総論

救急画像診断における注意点―画像診断専門医が贈るPearls

著者: 松本純一 ,   箕輪良行 ,   平泰彦

ページ範囲:P.546 - P.551

ポイント

★現状の救急診療においては,画像診断に際して診療担当医の果たす役割は大きい.

★画像検査の目的と診療における位置づけは,そのつど明確にしておく.

★画像検査は,目的にあった適切なプロトコールで行う.

★見逃したくない病態は,臨床的には想定しにくい状況でも,必ず確認する癖をつける.

★得られた臨床所見や画像所見は,主観を交えずに論理的に解析する.

循環器疾患を疑ったら

喘鳴を伴う呼吸困難:心不全だと思ったのに胸部X線でうっ血がはっきりしない

著者: 上田剛士

ページ範囲:P.552 - P.555

ポイント

★喘鳴を伴う呼吸困難を見たら閉塞性肺疾患(気管支喘息やCOPD)と心不全をまず考える.

★胸部X線写真では血流再分布(redistribution)やKerley's B lineを見落とさないように注意しながら読影する.

★追加検査としては脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)や心臓超音波検査が有用であるが,いずれの検査も解釈には注意を要する.

大動脈解離だと思ったのにCTで所見がはっきりしない

著者: 本多正徳

ページ範囲:P.556 - P.558

ポイント

★大動脈解離の分類にはStanford分類とDeBakey分類がある.

★画像読影の際は撮像されている範囲すべてを確認する習慣をつけよう.

やるからには最先端!? coronary CT(冠動脈CT)はいかほど?

著者: 渡瀬剛人

ページ範囲:P.559 - P.561

ポイント

★coronary CTは感度,陰性的中率が高い.

★coronary CTの有益性に関しては,まだもう少し研究が必要.

★放射線被曝はcoronary CTに限らず,すべてのCTにおいて常に考慮すべき.

★不整脈や冠動脈の石灰化はcoronary CT特有の敵.

★coronary CTを施行するのは煩雑なので,放射線科とのコラボレーションが必要.

肺塞栓症:どんな時に疑う?どんな胸部CT所見なの?

著者: 石倉健

ページ範囲:P.562 - P.565

ポイント

★常に肺塞栓症を鑑別診断として考えること!

★心エコーで右心負荷を認めた時は造影CT施行を積極的に考える.

★造影剤投与から20~30秒前後で,3mm以下の薄いスライスで,可能であれば横隔膜から肺尖部の方向に撮影していく.

★造影剤投与から180秒前後で,腹部~膝窩までの静脈相での撮影を行うと,肺血栓塞栓症の危険因子である静脈血栓症を見つけることができる.

★致死的になりうる下肢の浮遊血栓は,下肢の浮腫をきたさないので注意する.

神経疾患を疑ったら

Stroke:頭部CTでearly CT signは何?―早期のrt-PA使用のために

著者: 鈴木淳一郎 ,   西川佳友 ,   伊藤泰広

ページ範囲:P.566 - P.569

ポイント

★CTの利点は検査時間が短いことだが,early CT signの評価には習熟が必要である.

★early CT signは,脳実質の所見と脳血管の所見があるがrt-PA使用には前者が重要である.

★rt-PA静注療法でearly CT signの許容範囲はMCA(中大脳動脈)領域の1/3以下,ASPECTSで8点以上である.

★MRIは情報量が多く,rt-PA静注療法に際してMRIを追加することが多くなっている.

脳梗塞だと思ったのにdiffusion weighted MRIではっきりしない―脳梗塞って診断してよいの?

著者: 河合真

ページ範囲:P.570 - P.573

ポイント

★画像とは診断の助けになるもの.

★自分の病歴,診察を信じられるか?
★画像の性質,限界を知る.

激しい頭痛,頭部CTを撮ったけど何もなし.その次の検査は?

著者: 茂木恒俊

ページ範囲:P.575 - P.578

ポイント

★頭部CTは時間軸を考えて見る.

★鑑別に沿った検査を考える.

★再度,片頭痛の病歴を確認!

くも膜下出血(SAH)だと思ったのに頭部CTでははっきりしない―軽症SAHの診断におけるpitfall

著者: 西徹

ページ範囲:P.579 - P.583

ポイント

★くも膜下出血の正確な診断は,まず,精密な問診から始まる.軽症SAHの場合は,典型的な「悪心嘔吐を伴う突発的な頭痛」という既成概念を取り除いて診察に臨む必要がある.

★頭部CTでの診断は,くも膜下腔のhigh densityの存在のみではなく,low densityが描出されないことにも注目しなければならない.

★病歴上SAHが充分に疑われ,頭部CTにては明らかな所見を認めない場合は,次のステップとして可能であれば頭部MRI, MRAを選択すべきであるが,不可能であれば,腰椎穿刺を試みる.

★頭部CTおよび頭部MRIにおいては,発症からの経過時間を念頭に置いて画像診断に臨まなければならない.

なんだか言っていることがおかしいCTでは異常なさそうなのだけど…

著者: 本田大祐

ページ範囲:P.584 - P.588

ポイント

★画像検査を急ぐ前に,迅速にバイタルサインと血糖値をチェックし,病歴を確認する.

★CTで異常がない場合に念頭に置くべき疾患に単純ヘルペス脳炎(HSE)やWernicke脳症がある.

★MRIの撮像シークエンスとしては,拡散強調像(DWI),MRAのみならず,FLAIR像も選択する.

★HSEでは側頭葉内側や前頭葉下面,Wernicke脳症では中脳水道周囲や視床内側に病変が好発する.

★画像所見の欠如からHSEやWernicke脳症を否定せず,早期から治療を開始するべきである.

腹部疾患を疑ったら

虫垂炎と思ったのに超音波・腹部CTで所見がはっきりしない―超音波・腹部CTにおける診断のポイント

著者: 前田重信

ページ範囲:P.590 - P.593

ポイント

★急性虫垂炎以外の疾患を否定しよう.

★術前画像診断にはまずエコー.

★CTは感度,特異度ともにエコーより優る.

★エコー・CTともに虫垂の直径6mm以上で虫垂炎を強く疑う.

★やはり総合診断を.

イレウス:どんなCT所見が危険なの?

著者: 八幡浩信

ページ範囲:P.594 - P.597

ポイント

★血流障害をきたす絞扼性イレウス(狭義),腸捻転,腸重積,ヘルニア嵌頓を見逃さない.

★手術歴がないイレウスほど,より注意が必要である.

★腎機能・アレルギーなどの問題がなければ,単純CTおよび造影CTを行う.

★撮像範囲は,横隔膜円蓋部から座骨下端までを含める.

急性腹症:フリーエアー探しのポイント

著者: 吉岡勇気

ページ範囲:P.598 - P.600

ポイント

★立位および左側臥位単純X線検査では,10分間体位を維持した後に撮像する.

★CTでは,肺野条件で腹部を確認する.肝臓周囲,腸間膜内のフリーエアーに注目する.

★CTでは,腸管の連続性に注目して,エアーが腸管外にあるのか腸管内にあるのか判別する.

★超音波検査でのフリーエアーを判別するには習熟が必要である.

急性膵炎:どんなCT所見が危険なの?

著者: 真弓俊彦 ,   蒲田敏文

ページ範囲:P.601 - P.604

ポイント

★急性膵炎では,膵炎の診断,成因診断,重症度判定を行う.

★重症度判定は予後因子スコアのみでも可能で,対応可能な施設への搬送を考慮する.

★重症膵炎を扱う施設では,診断時と発症48時間以降に造影CT gradeを判定する.

★造影CT grade,予後因子スコアともに重症と判定された症例の死亡率は30%である.

★膵脂肪壊死を伴った症例の予後は不良である.

腹部の血管疾患

著者: 船曵知弘

ページ範囲:P.606 - P.610

ポイント

★腹部血管疾患および腸管虚血の診断には造影CTが不可欠である.

★CTでは血管の造影効果だけでなく,その走行や径の異常などにも注意して読影する.

★腸管血流障害(腸管虚血)が生じている場合には緊急性を要する.

★腸管壁内気腫・門脈気腫は腸管虚血の兆候の一つであり,重要である.

急性胆道炎:どんなCT所見が危険なの?

著者: 横江正道

ページ範囲:P.611 - P.614

ポイント

★急性胆管炎はCTでは直接診断はできないが,成因をCTで確認することは重要である.

★総胆管結石による急性胆管炎では,総胆管結石による閉塞や通過障害,胆管がんなどの狭窄にかかわる所見を見きわめるべきである.

★胆囊摘出術や内視鏡的ドレナージ,乳頭切開術の既往などを問診で確認しておくべきである.

★急性胆囊炎の診断はCTよりも腹部超音波のほうが感度は優れている.

★気腫性胆囊炎や穿孔については,造影CTのほうが画像所見を得やすい場合がある.

感染症を疑ったら

感染症のフォーカス探し

著者: 井口光孝

ページ範囲:P.616 - P.619

ポイント

★救急診療は感染症の宝庫.

★感染症を診断する=感染している「微生物」と「臓器」を推定すること.

★感染症診断の主役は病歴聴取・身体診察と微生物学的検査→画像検査はあくまで脇役.

★事前(検査前)確率の見積もりのない画像検査は非常に危険.

★感染症診断において画像検査が有用となる場合で,造影CTが最も有用であることが多い.

肺炎と思ったのに…

著者: 西田幸司

ページ範囲:P.620 - P.623

ポイント

★胸部X線は決まった手順で読影する.

★見落としやすいポイントを認識する.

★比較読影を怠らない.

★ポータブル撮影の弱点を知る.

★なぜ必要かを考えて胸部CTを撮る.

内科医が遭遇する軽症外傷

腰痛:危険な腰痛って何?

著者: 徳永日呂伸

ページ範囲:P.624 - P.627

「腰痛? じゃあ整形外科でしょ」でいい?

 腰痛を主訴に医療機関を受診される患者さんはとても多く,救急外来だけでなく一般開業医や診療所などの先生方の外来診療において,いくらでも遭遇する“common disease”の一つといえよう.しかし腰痛というのは言うまでもなく症候名であり,それは単一の疾患や外傷と一対一対応ではなくさまざまな鑑別診断が含まれ,そのなかには命にかかわるような重篤なものも含まれる.ここでは,「腰が痛い」患者さんたちのなかから“危険な腰痛”を見逃さずに診断するための工夫について考えてみる.日々の忙しい診療の現場で実際に役に立つような実践的な内容を心がけてお伝えしたいので,個々の疾患・外傷の詳細については,誌面の都合もあり成書を参照されたい.

下肢の外傷(足,膝):足をひねった,膝をぶつけた

著者: 安炳文 ,   太田凡

ページ範囲:P.628 - P.632

ポイント

★病歴と身体所見から受傷部位を類推し,適切な撮影部位・方法を選択する.

★骨折はX線写真所見単独で判断せず,必ず身体所見と照らし合わせる.

★Ottawa ankle rules,ottawa knee ruleを参考にする.

★「痛い」のには理由があり,「骨折がない」とは簡単に言えない.

★明らかな「痛み」を伴う場合には,骨折に準じて固定などの初期治療を行う.

上肢の外傷(手関節・肘関節)

著者: 志賀隆

ページ範囲:P.634 - P.637

ポイント

★明らかな所見だけに捉われず,合併損傷も含めてアプローチすることが望ましい.

★診察と画像を行き来することで正常画像所見なのか,骨折なのかが分かることがある.

★Gilulaの弧や3C'sまたfat pad signなどを参考に読影されることをお薦めする.

★正常X線写真との比較が肝要でありそのために“Atlas of Normal Roentgen Variants That May Simulate Disease”で対応画像を見つけて比較することが望まれる.

★安易に「骨折はない」と言わないこと.専門医受診は必要である.

転んで尻もちをついた―大腿骨頸部骨折の読影のポイント

著者: 長谷川耕平

ページ範囲:P.638 - P.640

ポイント

★大腿骨頸部骨折における単純X線読影の3つのポイントを身につけよう.

★大腿骨頸部骨折における単純X線の感度は57%のみ.

★外傷機序や身体所見(痛くて歩けないなど)で骨折を疑う場合には,さらなる画像検査(MRIまたは骨スキャン)が必要.

頭を打ってしまった―頭部CTの適応と読影の注意点

著者: 古武達也 ,   林寛之

ページ範囲:P.641 - P.643

ポイント

★CTは選択的に,頭蓋内病変が疑わしい患者,リスクの高い患者で撮る.

★CT適応のルールを参考にしながらも,社会的な適応なども考慮し柔軟に対応する.

★CTはsystematicに読影する.

★CTの所見だけにこだわらず,患者の状態も見ながら総合的にマネジメントを行う.

追突されて頸が痛い―頸椎X線の適応と読影,頸椎CT,MRIの適応

著者: 今明秀

ページ範囲:P.644 - P.646

ポイント

★頸椎X線が不要な場合:頸椎圧痛なし,意識状態良好,アルコール摂取なし,神経学的正常,他部位劇痛なし,受傷機転が軽い.

★頸椎X線読影は,まずCは7個,Alignment,Bone,Cartilage,Distance of soft tissue,3×7=21の順で.

★頸椎CT検査の適応は,開口位不能,下位頸椎不明,骨折あり,骨折不明確,臨床上骨折を疑う時.

★脊髄損傷が臨床的に疑われる場合はMRIを撮影する.

その他

造影剤を使っていいの?―造影剤腎症の予防策とメトホルミン服用者への造影剤使用

著者: 寺西智史 ,   山中克郎

ページ範囲:P.647 - P.651

ポイント

★造影剤急性腎症(CIAKI)の統一された定義は存在しない.

★腎障害の発症機序は血流減少,低酸素,直接毒性である.

★造影剤腎症の発症リスクは,脱水,CKD,糖尿病,高齢者など.確立された予防策は少ない.

★検査前に必ず腎機能評価を! リスク回避の努力は惜しまない!

★メトホルミン投与量上限の増加が日本で認められ,注意が必要である.

超音波で中心静脈圧(CVP)を推定する

著者: 奥村貴裕

ページ範囲:P.652 - P.655

ポイント

★中心静脈圧(CVP)は前負荷の指標であり,心機能や血管内ボリュームの評価に有用!

★CVPの推定には,下大静脈径とその呼吸性変動をあわせて評価する.

★下大静脈径は,呼気で拡大,吸気で縮小し,その呼吸性変動は通常50%以上.

★急性増悪期の下大静脈径は,安定期と比較して,相対的に評価すべし.

★肝静脈,内頸静脈,末梢静脈からCVPを推定する方法も提唱されている.

超音波ガイド下の中心静脈穿刺ってどうするの?

著者: 山中明美

ページ範囲:P.656 - P.659

ポイント

★静脈を輪切りにした短軸像を見ながら穿刺する「短軸アプローチ」が初心者にはお勧め.

★超音波の特性を知り,操作に慣れ,錯覚や先入観をなくすことが重要.

★NICEガイドラインでは必須の手技.ぜひ身につけよう.

座談会

内科医が救急現場で画像診断をうまく活用するために

著者: 岩田充永 ,   夏目寿彦 ,   山中克郎 ,   松本純一

ページ範囲:P.660 - P.670

 日本のCT・MRIの保有台数はOECD加盟国内でも群をぬいている.画像診断へのアクセスが格段に向上し,需要は増大する一方で,放射線画像専門医は依然として不足しており,少なくとも初期診療の段階では一般内科医が読影をせざるを得ないのが実情である.とはいえ,若手医師が読影を学ぶ場はほとんどなく,特に時間的制約のある救急外来における読影・診断では常に不安がつきまとう.このようななかで一般内科医が見逃しを少しでも減らし,自信を持って画像と対峙するためにはどうすればよいだろうか.司会の岩田充永氏は「画像診断能力のみならず,問診・身体診察・他の検査を含めた総合臨床力を上げる必要がある」と主張する.一般内科医が画像を自らの武器として使いこなすために何をすべきかについてご議論いただいた.

SCOPE

呼吸機能検査を出すべき時とその解釈

著者: 村田研吾

ページ範囲:P.676 - P.678

 呼吸機能検査はますます重要な役割を担うようになってきた.感染症以外の呼吸器疾患の多くは呼吸機能の評価を必要とする.例えば慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)は呼吸機能で定義され,特発性肺線維症では肺機能の変化が予後と相関することが示されている.

 そのようななか,日本呼吸器学会は2004年に呼吸機能検査ガイドライン1)を発行し,検査の普及を図っている.

 一口に呼吸機能検査といっても,さまざまな項目が含まれる.本稿では一般医家を対象とし,一般の生理機能検査室で広く行われているスパイロメトリー,肺気量測定,拡散能力検査に絞り,その適応と解釈法の一例を解説する.

連載 手を見て気づく内科疾患・28

手の変形性関節症:手根中手関節の腫脹

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.541 - P.541

患 者:83歳,女性

病 歴:高血圧で外来通院中である.親指の付け根は以前から痛かったという.40年間,豆腐店を営んでいた.

身体所見:第1手根中手関節(carpometacarpal joint:CMC関節)に骨性の硬い腫脹を認める(図1).

festina lente

不寛容への寛容について

著者: 佐藤裕史

ページ範囲:P.679 - P.679

 第二次大戦の戦火,教え子の召集と戦死や言論弾圧の中でも,フランス文学者の渡辺一夫はしなやかな抵抗と健全な懐疑精神を失わず,弟子筋の串田孫一,中村真一郎,加藤周一,大江健三郎らからその一貫した姿勢――あるいは知的不変節――への敬愛を得ていた.戦争の前後で信条や立場を二転三転させて恥じず,そのうえ戦中の豹変ぶりを戦後隠蔽した多数の知識人や報道関係者の付和雷同と日和見とは著しい対照である.

 首相のいった通り,戦禍から60余年で最大のこの国難にあたって,私は渡辺の随筆(の名高い命題)を思い出す――「寛容toléranceは自らを守るために不寛容intoléranceに対して不寛容intolérantになるべきか」.つまり,「この非常時に何事か」「そんな弱腰でどうする」と目を吊り上げて異端異論を弾劾する不寛容さを戒めるのみでなく,そうした不寛容な,狷介に荒ぶる人たちへの振舞いにおいてさえも,寛容さを維持できるかどうかを渡辺は問うた.「極論は止めよう」「仲間割れはよそう」という穏当な常識は,しばしば極論の前に軟弱だとなじられ乱暴に論破される.さりとて極論暴論に対して声高に反駁すればするほど,二つの相反する党派の正面衝突になり果ててしまう.穏健派が過激派を抹殺するのならもはや穏健派は穏健派でなくなり,寛容は不寛容に等しい.「寛容の武器としては,ただ説得と自己反省しかないのである」.不寛容への一次元更に高い視点における疑問,「寛容は,数人の英雄や有名人よりも,多くの平凡で温良な市民の味方である……寛容は寛容によってのみ護らるべきであり,決して不寛容によって護らるべきでない」という渡辺の品格の高さと志操こそ,教え子たちが慕い続けた所以だろう.

目でみるトレーニング

著者: 原啓 ,   薬師寺祐介 ,   光武里織 ,   金本素子

ページ範囲:P.680 - P.685

アレルギー膠原病科×呼吸器内科合同カンファレンス・13

分類不能なのか診断未確定なのか―UCTDという概念の有用性

著者: 岡田正人 ,   仁多寅彦

ページ範囲:P.686 - P.690

後期研修医(アレルギー膠原病科) 患者さんは74歳の男性で,特発性間質性肺炎のNSIP(非特異性特発性間質性肺炎;non-specific idiopathic pneumonia)パターンとして,他院でフォローされておりましたが,当院呼吸器内科紹介となり同日アレルギー膠原病科にコンサルトいただきました.

研修おたく海を渡る・64

患者ナビゲーター

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.691 - P.691

 患者ナビゲーター(水先案内人)という職種が,診断,治療の選択が増えてきた今,とても重要になってきています.うちのがんセンターでも,数年前には全体で数人しかいなかったナビゲーターが今では,がんの部位ごとに2~3人います.重点的に補充されている部門です.

 なぜ必要なのか,またどんな仕事をするのか.僕のいる施設での,患者ナビゲーションシステムを紹介します.

今日の処方と明日の医学・11

【適応外使用】を考える

著者: 堀明子 ,   日本製薬医学会

ページ範囲:P.692 - P.693

医薬品は,変革の時代を迎えています.国際共同治験による新薬開発が多くなる一方で,医師主導の治験や臨床研究などによるエビデンスの構築が可能となりました.他方,薬害問題の解析から日々の副作用報告にも薬剤疫学的な考察と安全対策への迅速な反映が求められています.そこで,この連載では医薬品の開発や安全対策を医学的な観点から解説し,日常診療とどのように結びついているのかをわかりやすくご紹介します.

医事法の扉 内科編・4

転送(転医紹介)義務

著者: 福永篤志 ,   松川英彦 ,   稲葉一人

ページ範囲:P.694 - P.695

 自分が診察した患者が精査の結果,自分の専門外,あるいは自己の施設では行えない専門的検査・治療を必要とする場合には,原則として,その患者を速やかに他の専門外来,他の施設に転送(転医紹介)しなければなりません.法律上,明文規定はなく,保険医療機関及び保険医療養担当規則第16条の規定はありますが,善管注意義務(民法644条)の1つと考えられています.われわれ医師には応召義務(医師法19条1項)がありますし,患者も治療してもらえるだろうと考えてとりあえず受診することもありますので,転送する機会は比較的多いと思われます.

 紛争化しやすい状況として,しばらく自己の外来で診療を継続していたところ,病状が変化し,他の専門外来への受診が必要となったような場面があります.自分ひとりで患者をみていると,なかなか病変の緊急性・重大性に気づきにくいこともあるので,注意が必要です.

The M&M reports 見逃し症例に学ぶ内科ERの鉄則・20

65歳男性 主訴 右上肢脱力感

著者: 長谷川耕平 ,   岩田充永

ページ範囲:P.696 - P.702

救急レジデントH:

 糖尿病の既往をもつ65歳,右利きの男性が突然発症の右上肢脱力のため救急外来に搬送となりました.来院1時間前,昼食中に右手でコップを保持できなくなり落としてしまったとのこと.頭痛と嘔気もあったそうです.その後,20分ほどで徐々に右上肢脱力は改善,来院時には正常に戻ったようです.そのほか,頭部外傷,複視,失語,構語障害,下肢脱力,しびれ感などはなかったとのこと.

 既往歴は高血圧と糖尿病のみ.服薬はメトフォルミンとアテノロールのみで,喫煙歴は1箱/日×40年とのことでした.

information

「ERアップデートin沖縄2011」開催のご案内

ページ範囲:P.555 - P.555

 「明日から使える!」を合言葉に走り続けてきた「ERアップデート」はついに2011年の2月で第10回の開催を迎えることができました.これもひとえにご参加やご協力を頂きました数多くの先生方のお蔭とスタッフ一同,心より御礼申し上げます.11回目の開催となります今回2011年の夏も,南国沖縄を舞台に「日常の研修では学ぶことのできない」知識と技術がぎっしりつまった熱い3日間を予定しております.回を重ねるごとにさらに鋭さを増す講師の先生方の講義やスキルの数々に触れ,全国から集結した研修医の先生方とともに語り合い,磨き合って,勉強と遊びに充実した時間を過ごしてみませんか? ぜひ,ご参加ください!!

日時●2011年7月8日(金)~10日(日)

会場●沖縄残波岬ロイヤルホテル

平成23年度アルコール・薬物依存関連学会合同学術総会(J-ANDAC 2011)開催のご案内

ページ範囲:P.578 - P.578

学会名●第46回日本アルコール・薬物医学会

第23回日本アルコール精神医学会

第14回ニコチン・薬物依存研究フォーラム

会期●2011年10月13日(木)~15日(土)

会場●愛知県産業労働センター(名古屋市中村区)

「リウマチ・膠原病 臨床能力開発セミナー」第1回のお知らせ

ページ範囲:P.588 - P.588

学習達成目標●このセミナーは,3~4回のシリーズを予定しており,このシリーズで学習していただくことで,関節リウマチの診断を確実に,治療判断(コンサルテーションも含め)を適時に,適切に,行うことができるようになることを目指す参加型のセミナーです.併せて,臨床家に役立つ臨床研究デザインのスキルのミニ・レクチャーも提供されます.

対象●リウマチ疾患を診療する機会のあるすべての医師.特に総合内科,整形外科,リウマチ膠原病内科の若手医師.

日時●2011年7月16日(土)午後2時から7時まで

場所●大阪市中之島(正確な場所は,ご参加お申し込み者にお知らせします)

第2回 日本製薬医学会年次大会のご案内

ページ範囲:P.623 - P.623

会長●佐藤裕史(慶應義塾大学医学部クリニカルリサーチセンター教授)

テーマ●日本の臨床研究の課題

日時●2011年5月13日(金)・14日(土)

会場●東京大学 山上会館(東京都文京区)

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バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.708 - P.709

購読申し込み書

ページ範囲:P.710 - P.710

次号予告

ページ範囲:P.711 - P.711

編集室より

著者:

ページ範囲:P.712 - P.712

●3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震におきましては,被災された方々に心よりお見舞いを申し上げます.本号は救急領域の特集ということもあり,ご執筆いただいた先生にも現地での被災支援に駆けつけられた方が多くいらっしゃったようです.また,座談会にご出席いただいた松本純一先生は,被災地への救急遠隔画像診断システムのプロジェクトをすすめておられると伺いました.被災地域の一刻も早い復興をお祈り申しあげます.●このたびの震災では,地震と津波の脅威に加え,福島第一原子力発電所における事故が大きなニュースとなっています.これにより,いままで一般市民にはあまり耳慣れなかったμSv,mSvという言葉が毎日耳にされるようになりました.あふれる情報のなかで冷静な行動をとることが難しくなっているようです.『ものをこわがらなさ過ぎたり,こわがり過ぎたりするのはやさしいが,正当にこわがることはなかなかむつかしい(寺田寅彦)』.「正しくこわがる」ためには,「正しく知る」ことが必要です.これまでも放射線はX線やCTという形で身近にあったにもかかわらず,それらが専門家によって安全に管理されていたがゆえに,その威力を忘れかけていたのかもしれません.●医療現場ではいかに不必要な被曝を防ぐかということが常に考えられてきました.しかし,画像診断へのアクセス向上と画像診断への過信ゆえに,患者の希望から不必要な検査を行わざるを得ない場合もあると聞きます.一人ひとりが適切に行動するためには,知る努力,考える努力を怠ってはいけないのだと感じました.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

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60巻11号(2023年10月発行)

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60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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