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連載 医事法の扉 内科編・9
説明義務(4)
著者: 福永篤志1 松川英彦2 稲葉一人3
所属機関: 1国家公務員共済組合連合会 立川病院脳神経外科 2国家公務員共済組合連合会 立川病院内科 3中京大学法科大学院
ページ範囲:P.1674 - P.1675
文献購入ページに移動まず,63歳男性が肝細胞癌の再発に対し,ラジオ波焼灼術(RFA:radiofrequency ablation)と経皮的エタノール注入療法(PEIT:percutaneous ethanol injection therapy)を受けたところ,容態が悪化し,その1カ月半後に死亡した事例があります.原告ら(患者側)は,RFAとPEITそれぞれについての説明義務違反として,①適応を欠くこと,②肝不全,菌血症などの重大な合併症の危険性があるという説明を怠ったこと,③これらの治療行為を選択せず,薬物治療を続けるなどした場合の予後についての説明を怠ったことを主張しました.裁判所は,まず,RFAについて,腹水がコントロール不良な場合には出血のおそれが高まるなどの危険性につき十分な説明が尽くされていなかったとし,上記主張①を認めました.PEITについては,その適応性を認めています.つぎに,肝不全・菌血症といった重大な合併症は,文献や鑑定人の意見によれば,極めて稀であると認められるから,そのような合併症について説明しなかったとしても,直ちに説明義務違反とはならないとし,RFAとPEITの両者について,上記主張②を否定しました.しかし,RFAとPEITを実施しなかった場合の予後の説明は,それらを実施した場合の危険性と比較することによってそれらを受けるか否かを決定することができるのであるから,患者の自己決定にとって重要な事項であるとし,本件では,そのような説明がなかったと認定して上記主張③を認めました(名古屋地裁平成20年10月31日判決).ただ,これらの説明義務違反と患者の死亡との間の因果関係は存在しない,すなわち,たとえ適切な説明がなされたとしても死亡しなかったとはいえないとしています.
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