icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina49巻1号

2012年01月発行

雑誌目次

今月の主題 外してならない循環器薬の使い方 2012

著者: 山科章

ページ範囲:P.7 - P.7

 循環器領域に限ったことではないが,治療の目的は生活の質(QOL)と生命予後の改善であり,その基本は生活習慣改善と薬物療法である.カテーテル治療や外科手術などの侵襲的治療は,最適な内科治療(optimal medical therapy)と比較して,その予後やQOLを改善すると判断されるときに選択される.そのため,臨床医はそれぞれの疾患における治療ゴールや最適な内科治療について,十分に理解しておく必要がある.そういった観点から一般内科診療としてよく診る循環器疾患に焦点をあてて,「外してならない循環器薬の使い方2012」を特集した.

 循環器領域はガイドラインがそろっており,日本循環器学会のホームページを開くと,現在49のガイドライン(http://www.j-circ.or.jp/guideline/index.htm)が紹介されている.日常診療で遭遇するほとんどの循環器領域をカバーしており,エビデンスに基づく標準的診療が紹介されている.しかし,ガイドラインは大規模臨床試験をもとに最新の知見をまとめた標準的診療を紹介するものであるが,個々の患者にすべて適応できるわけではない.実際の医療現場では患者の背景や病態を見極めたうえで個別の判断をしなければならない.エビデンスを参考にしながら,個々の患者への妥当性を考え,さらに,患者の価値観に合わせて最適な医療を判断するのがEBMである.そこには,外してならない臨床のコツがある.

理解のための28題

ページ範囲:P.146 - P.150

循環器疾患に対する薬物療法の基本

救急蘇生・心原性ショック

著者: 菊島公夫 ,   長尾建

ページ範囲:P.8 - P.11

ポイント

★CPRと早期除細動は薬剤投与より優先される.

★蘇生のための薬剤投与経路を新たに確保する場合は,中心静脈路ではなく,末梢静脈路を第1選択とする.

★心停止に対する薬剤はアドレナリンが第1選択である.投与量は1回1mg(静脈路/骨髄路)とし,3~5分間隔で追加投与を行う.

★アドレナリンの初回あるいは2回目の投与は,バソプレシン40単位の1回投与で置き換えることができる.

★アトロピンをPEA,心静止にルーチン使用しない.

上室性頻脈性不整脈―心房期外収縮,発作性上室性頻拍,心房細動,心房粗動

著者: 松本万夫

ページ範囲:P.34 - P.38

ポイント

★上室性頻脈性不整脈は種類と重症度により治療法が選択される.特に発作性上室性頻拍症は薬物療法よりも非薬物療法の有効性が高い.

★上室性頻脈性不整脈の中でも特に心房細動,心房粗動,心房頻拍では,原因疾患精査とそれに対する適切な治療が必要である.

★心機能低下例では,抗不整脈薬(特にⅠ群)は予後を増悪させる可能性があるので注意して使用する.

★心房粗動や心房細動に対し抗不整脈薬を使用するときには,薬剤による頻拍へ移行する危険性があることを念頭に治療する.

★抗不整脈薬はそれぞれ固有の作用・副作用があり,使用する抗不整脈薬の性質を十分に理解して使用する.

心室性頻脈性不整脈―心室期外収縮,心室頻拍,心室細動

著者: 池田隆徳

ページ範囲:P.40 - P.43

ポイント

★心室性不整脈に対する薬物治療の意義は,自覚症状とQOLの改善および生命予後の向上にある.

★ガイドラインでは,Ⅲ群抗不整脈薬とβ遮断薬の使用を推奨している.

★危険性が高いと判断された場合は,静注薬であるアミオダロンまたはニフェカラントが選択される.

★予防目的で経口薬を使用する場合は,心機能の程度と冠動脈疾患の有無によって薬剤を使い分ける.

高血圧―降圧薬の選択の仕方

著者: 平田恭信

ページ範囲:P.44 - P.47

ポイント

★第一選択薬はCa拮抗薬,ACE阻害薬,ARB,β遮断薬,利尿薬から選ぶ.

★病態に応じた降圧目標まで確実に低下させる.

★1剤で十分な降圧が得られない場合は,併用に適した組み合わせの他剤を加える.

★それでも不十分な場合は3剤目として利尿薬を加える.

★合併症のある場合は,より適した薬剤を選び,副作用に注意する.

心筋症―閉塞性・非閉塞性肥大型心筋症

著者: 秦野雄 ,   磯部光章

ページ範囲:P.48 - P.52

ポイント

★閉塞性肥大型心筋症においては血行動態を意識した薬物の選択が必要である.

★心房細動合併患者においては,病態の増悪に注意し積極的な抗凝固療法の導入を行う.

★突然死リスクの高い患者においては,植え込み型除細動器の適応を検討する.

肺高血圧

著者: 大郷剛 ,   中西宣文

ページ範囲:P.54 - P.57

ポイント

★肺動脈性肺高血圧症は稀な疾患であり,適切な治療が行われない場合,非常に予後が悪い.専門施設との連携が大切である.

★以前は抗凝固療法,利尿剤,酸素投与といった補助的治療が肺高血圧の治療であった.

★近年,肺動脈性肺高血圧症特異的治療薬の使用が可能となってきている.

★予後は改善してきているが,いまだに根治させる方法はない.

閉塞性動脈硬化症

著者: 堀真規 ,   中村正人

ページ範囲:P.58 - P.60

ポイント

★閉塞性動脈硬化症は動脈硬化性疾患の一部分症である.

★下肢症状の重症度はFontaine分類が一般的である.

★閉塞性動脈硬化症の治療は,症状改善のための治療と生命予後改善の治療に大別される.

★各種合併症とリスクファクターの評価・治療をより早期から行う.

★シロスタゾールは間欠性跛行症例に対し,有効である.

脂質異常症,動脈硬化症の二次予防

著者: 八尋英二 ,   朔啓二郎

ページ範囲:P.62 - P.64

ポイント

★脂質異常症改善の大原則はスタチンを用いたLDL低下療法である.

★高TG血症や低HDL血症も重要な治療標的である.

★併用療法により十分にLDLを低下させる.

抗血小板薬/抗凝固薬服用時の抗潰瘍薬

著者: 平石秀幸 ,   島田忠人

ページ範囲:P.66 - P.69

ポイント

★低用量アスピリンの効能・効果は,消化管合併症のリスクのために制限される.

★米国におけるアスピリン/非ステロイド性抗炎症薬NSAIDによる死亡率は,年間20~25例/100万と推定されている.

★平均的な消化管リスクの患者では,低用量アスピリンの上部消化管病変はH2受容体拮抗薬とPPIにより予防される.

★低用量アスピリンによる上部消化管出血の再発抑制はH. pylori除菌単独に比べ,除菌+PPI投与がより有効である.

★消化管ハイリスクの患者では,低用量アスピリン投与による潰瘍再発はPPIにより予防される.

★抗血小板薬および抗凝固薬の併用により,消化管出血のリスクが相加作用以上に増大することに留意する.

【心不全】

急性心不全,慢性心不全急性増悪

著者: 梶本克也

ページ範囲:P.13 - P.16

ポイント

★急性心不全症候群(AHFS)の初期治療の目標は,「患者の自覚症状,症候および血行動態を速やかに改善させて,その安定を維持すること」である.

★AHFS症例の入院時収縮期血圧(SBP)は,院内および退院後予後の予測因子,また初期治療の選択時の重要なバイタルサインの一つである.

★入院時SBPで治療戦略を検討するAHFSに対するクリニカルシナリオ(CS1-3)は簡便でわかりやすいが,その前提条件を十分理解して活用すべきである.

★SBPのみでなく,自覚症状,既往歴,心エコーによる左室収縮能を速やかに評価して超急性期薬物治療を迅速に選択することが重要である.

慢性心不全

著者: 原田和昌

ページ範囲:P.18 - P.21

ポイント

★左室収縮不全では,神経体液因子の作用を減弱させる薬剤が臨床的アウトカムを改善する.

★左室収縮不全による心不全の治療概念は,「体液量コントロール」,「予後改善の治療」,「残った症状をとる」の3つである.

★デバイス治療が必要なら早めに判断する.それまでは予後改善とQOL維持の治療を行う.

★収縮不全に有効なACE阻害薬やβ遮断薬は,拡張不全の臨床的アウトカムを改善しない.

【冠動脈疾患】

急性冠症候群

著者: 中川義久

ページ範囲:P.22 - P.25

ポイント

★STEMIでは,一刻も早い血行再建を確実に達成することをサポートすることが薬剤の使用目的となる.

★NSTEMIとUAでは,病態を安定化させることが薬剤の使用目的となる.

★ACSへのPCIは,抗血小板薬が効いた状態で施行するように努め早期に投与する.

★慢性期には危険因子の管理を行い,二次予防に努めることが主眼となる.

慢性虚血性心疾患

著者: 末田章三 ,   河野浩明 ,   坂上智城

ページ範囲:P.26 - P.29

ポイント

★左前下行枝近位部高度狭窄以外の安定狭心症1枝疾患は薬物療法を優先させる.

★安定狭心症の症状改善には硝酸薬,β遮断薬,カルシウム拮抗薬を投与する.予後改善にはアスピリン,ACE阻害薬(ACEI)/ARB,スタチンを投与する.

★安定労作性狭心症はβ遮断薬同様に,硝酸薬,カルシウム拮抗薬も第一選択とする.

★蘇生後冠攣縮性狭心症例には,多剤のカルシウム拮抗薬と硝酸薬を投与する.

★治療抵抗性冠攣縮性狭心症例は,種々の治療薬を考慮する.

★陳旧性心筋梗塞例では,抗血小板薬,β遮断薬,ACEI/ARB,脂質代謝改善薬を投与する.日本人にはカルシウム拮抗薬投与も考慮する.

PCI,CABG後の抗血小板薬の使い方

著者: 伊苅裕二

ページ範囲:P.30 - P.33

ポイント

★ステントを用いたPCI後には,ステント血栓症という重大な合併症があり,予防には抗血小板薬が必須である.

★ステント使用後の抗血小板療法は,アスピリン+チエノピリジン系の2剤投与が基本であり,ステント血栓症を減らす最も良い組み合わせと考えられている.

★チエノピリジン系薬剤としては,チクロピジン,クロピドグレルの2種に保険適用がある.さらにプラスグレル,チカグレルなど治験中の薬剤があり,今後,使用可能となると予想される.

★ただし,2剤投与は1剤に比べて出血性合併症が増加する.

身につけるべき基本的な循環器薬の使い方

抗血小板薬

著者: 後藤信哉

ページ範囲:P.82 - P.84

ポイント

★抗血小板薬は止血に必須の血小板機能を阻害する.

★少量アスピリンが抗血小板薬として世界中で広く使用されている.

★抗血小板薬の使用にはモニタリングが不要である.

★抗血小板薬により重篤な出血性合併症の発症リスクは増加する.

★抗血小板薬は出血リスクと抗血栓のベネフィットにより適応を決定する.

抗凝固薬

著者: 上塚芳郎

ページ範囲:P.86 - P.90

ポイント

★ワルファリンはPT-INRで治療域を厳密にコントロールする.

★ワルファリンの維持量は個人差が大きいが,治療域は同じである.

★心房細動例に対するワルファリン療法の適応の判断にCHADS2スコアを用いる.

★ダビガトランは固定用量であるが,透析や重度の腎不全症例には禁忌である.

血栓溶解薬

著者: 藤岡正紀 ,   中村真潮

ページ範囲:P.92 - P.94

ポイント

★急性肺塞栓症では,患者の血行動態と心エコー所見を組み合わせた重症度分類を用いる.

★急性肺塞栓症治療は,呼吸不全に対する急性期治療と血栓源からの再発予防に大別される.

★急性肺塞栓症に対する治療の第一選択は抗凝固療法である.

★血行動態不安定または右心機能障害例は出血リスクを考慮し,血栓溶解療法を選択肢とする.

★急性心筋梗塞では,PCI可能施設への搬送に時間を要する場合に,血栓溶解療法を考慮する.

利尿薬

著者: 猪又孝元

ページ範囲:P.124 - P.127

ポイント

★利尿薬の立ち位置はうっ血解除を目的とした「目に見える治療」である.

★体液量過多の急性増悪例では,必要量の利尿薬を用いることに躊躇すべきでない.

★必要以上のループ利尿薬は,電解質異常,腎機能障害,さらには,心不全予後そのものを悪化させる危惧がある.

★バゾプレシン拮抗薬は,ループ利尿薬抵抗性を解決する切り札として期待されるが,適応や投与法に未知な点も多い.

★抗アルドステロン薬は,今やACE阻害薬などとともに「目に見えない治療」と認識されている.

抗アルドステロン薬

著者: 藤井真也 ,   吉村道博

ページ範囲:P.128 - P.131

ポイント

★ACE阻害薬,ARBだけでは,RAA系抑制薬投与初期にアルドステロンブレークスルー現象が認められる.

★心不全の治療において,基礎治療(ACE阻害薬/ARB,β遮断薬)に抗アルドステロン薬の追加投与がとりわけ有効である.

★抗アルドステロン薬は,降圧・利尿作用に加え,臓器保護作用がある.

★エプレレノンは受容体選択性が高く,女性化乳房などの性ホルモンに関する副作用が少ない.

【循環不全,心不全治療薬】

カテコラミンとPDEⅢ阻害薬

著者: 加藤真帆人

ページ範囲:P.70 - P.73

ポイント

★強心薬を投与する前に,開始する理由を明確にすることが最も重要である.

★強心薬にはβ受容体を介するカテコラミン類と介さないPDEⅢ阻害薬がある.

★強心薬を必要とする病態では「cardiac failure type」か「vascular failure type」を区別して薬物の選択,使用方法を決める.

ジギタリス薬と経口強心薬

著者: 吉川勉

ページ範囲:P.74 - P.77

ポイント

★ジギタリス薬は頻脈性心房細動を伴う心不全例に有用である.

★洞調律であっても,収縮不全による非虚血性心不全例に適応となる.

★高齢者や女性では血中濃度への注意が必要である.

★中毒症状が疑われた場合には,血中濃度の測定結果を待たずに中止するのが賢明である.

★基本となる薬物治療にかかわらず,入退院を繰り返す難治性心不全例に対してQOL改善を目的にピモベンダンを投与することがある.

カルペリチド,ニコランジル,硝酸薬

著者: 佐藤直樹

ページ範囲:P.78 - P.81

ポイント

★各々の血管拡張薬の特性を理解したうえで,目的を明確にして使用する.

★投与する際は,原則は低用量から開始し適宜増減することである.

★カルペリチドは,肺水腫および体液貯留を伴う全身的なうっ血改善に使用される.

★ニコランジルは,肺水腫を主病態とし,虚血性心疾患を基礎にする場合に有効性を発揮する.

★硝酸薬は,超急性期の迅速な酸素化改善に最も威力を発揮する.

【β遮断薬】

虚血性心疾患,不整脈,高血圧

著者: 平光伸也 ,   宮城島賢二 ,   椎野憲二

ページ範囲:P.96 - P.98

ポイント

★わが国でのβ遮断薬の使用頻度は低い.イベント抑制の目的でもっとβ遮断薬を投与すべきである.

★β遮断薬の効果はクラスエフェクトではなく,ドラッグエフェクトとして理解すべきである.

★心機能が低下した症例や高齢者では,少量から慎重に投与を開始すべきである.

★β遮断薬は気管支喘息,徐脈,高度房室ブロックの症例には禁忌であり,投与する場合は慎重に行う.

心不全

著者: 後藤大祐 ,   筒井裕之

ページ範囲:P.100 - P.103

ポイント

★β遮断薬は左室収縮機能不全を伴う慢性心不全患者の予後を改善する.

★大規模臨床試験で有効性が明らかにされたカルベジロール,ビソプロロール,コハク酸メトプロロールを用いる.

★導入にあたっては低用量から開始し,徐々に維持量に向けて増量する.

【ACE阻害薬/ARB】

高血圧

著者: 高橋敦彦 ,   久代登志男

ページ範囲:P.104 - P.109

ポイント

★2剤の併用では,RA系阻害薬(ARBあるいはACEI)とCa拮抗薬または利尿薬との併用が推奨される.

★急性腎不全を防ぐため,高齢者,脱水,塩分制限時のARBあるいはACEIとNSAIDsあるいは利尿薬との併用には注意する.

★高リスク高血圧例におけるARBとACEI併用の有用性は否定的である.

心不全

著者: 安斉俊久

ページ範囲:P.110 - P.114

ポイント

★ACE阻害薬/ARBは,慢性心不全患者の左室機能ならびに生命予後を改善する.

★虚血性心不全にはACE阻害薬を第一選択とし,忍容性がなければARBを考慮する.

★ACE阻害薬とARBの併用は,腎障害,高カリウム血症を避けるため原則控える.

★両側性腎動脈狭窄,妊婦,授乳婦には禁忌である.腎障害例では少量より投与する.

★ACE阻害薬は腎排泄,ARBは胆汁排泄が多く,透析患者では原則ARBを使用する.

【カルシウム拮抗薬】

虚血性心疾患・高血圧

著者: 清水勇人 ,   苅尾七臣

ページ範囲:P.116 - P.119

ポイント

★心筋梗塞,狭心症,冠攣縮性狭心症に対してカルシウム拮抗薬の投与目的は各々異なる.

★心筋梗塞に対しては,主に降圧不十分である場合に使用する.

★狭心症,冠攣縮性狭心症に対しては血管拡張作用により,虚血を改善するために使用する.

★カルシウム拮抗薬は,糖尿病や慢性腎疾患がない場合は高血圧に対する第一選択薬である.

★外来血圧の変動が大きい場合はβ遮断薬ではなく,カルシウム拮抗薬がよい.

不整脈

著者: 藤木明

ページ範囲:P.120 - P.123

ポイント

★カルシウム拮抗薬の作用機序:L型カルシウムチャネルに依存した不整脈抑制に有効である.

★ベラパミル,ジルチアゼムによる頻拍の停止とレートコントロール:房室結節の伝導抑制を介して抗不整脈作用を発揮する.

★ベプリジルはマルチ・チャネルブロッカーであり,心房細動停止に特異な効果を有するが,過度のQT延長に注意する.

★カルシウム拮抗薬の禁忌と副作用として,洞機能不全,房室伝導障害,低血圧,心不全増悪に注意する.

座談会

循環器薬の理にかなった使い方

著者: 山科章 ,   桑島巌 ,   中川義久 ,   松村真司

ページ範囲:P.132 - P.144

循環器は薬の種類が非常に多く,しかもEBMが普及している領域である.一方で,エビデンスのない経験的な治療も多い.そこで本座談会では,理にかなった循環器薬の使い方をするためにはエビデンスをどのように理解し,診療に生かすかについてお話をうかがった.

はじめにエビデンスに基づいた循環器治療の変遷をたどりながら,エビデンスを診療に生かすためには臨床研究を評価し,正しく理解することが大切であること,また,そのために留意すべき点についてお話しいただいた.後半では,高血圧,冠動脈疾患,心不全,不整脈を中心に,治療のゴールや予後・QOLを意識した薬物療法や,非薬物療法を併せた使い方についてお話をうかがった.

REVIEW & PREVIEW

人工心臓の現状と展望

著者: 絹川弘一郎

ページ範囲:P.158 - P.161

最近の動向

 2011年はまさに補助人工心臓元年というべき年になった.2010年まで実際に使用可能な補助人工心臓は体外式拍動流ポンプであるTOYOBO(現在のNIPRO VAS)しか存在せず,多くの患者はそのため退院できず,移植までの長期間入院継続して待機しなければならなかった.植え込み型補助人工心臓2機種が2011年4月より保険償還され,実臨床現場で使用可能となったことにより,そのような患者にとって退院可能となり自宅での待機はもとより,就労しつつ移植まで待機可能となったことは誠に喜ばしい.

 この2機種は図1に示すようにどちらも遠心ポンプ型であり,いわゆる定常流または連続流ポンプというものである.また,どちらも国産であり,心尖部脱血・上行大動脈送血は同じである.

連載 手を見て気づく内科疾患・37

強皮症による手指短縮

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.1 - P.1

患 者:61歳,女性

病 歴:30歳の頃から,寒冷刺激によりRaynaud現象を認めていた.

身体所見:右の示指~環指を示す(図1).

感染症フェローのシンガポール見聞録・1【新連載】

アジアの先進国・多民族国家シンガポール

著者: 馳亮太

ページ範囲:P.3 - P.3

 皆さんはシンガポール共和国という国に,どのようなイメージをもっていますか? 街のシンボルのマーライオンや,最近ではSMAPが出演した携帯電話の宣伝に出てくる屋上に巨大なプールのあるリゾートホテルを思い浮かべる人もいるかもしれません.

 僕とシンガポールとの最初のつながりは,米国のタフツ大学に留学していた学生時代に遡ります.難解な国際関係学の授業についていけず溺れていた僕に救いの手を差し伸べてくれたのがシンガポール人のクラスメートでした.同じアジア人でありながら英語を堪能に操って逞しく活躍する彼らを見て,日本がアジアの最先進国と言えていた時代はすでに過去のものになりつつあるのかもしれないと感じたことを今でも鮮明に覚えています.

Festina lente

淡々と

著者: 佐藤裕史

ページ範囲:P.151 - P.151

 教育病院に長く勤めた医師の定年を祝う会に,教え子数百人が詰めかけた.立錐の余地もない宴席で,私の前方にいた元婦長が突然倒れた.通常なら大騒ぎの筈が,救急外来やCCUのヴェテラン揃いの宴席だから,数名が無言で瞬時に彼女を囲み対応を始めた.傍らにいた副院長は一瞥して「意識はあるな」と呟き,慌てる給仕に私は「担架を」と指示したが,それも待たず皆で四肢体幹を持ってあっという間に会場外に搬出したから,出席者の大半はこの一件を知らぬままだったろう.私は感服した.急変に慌てず騒がず淡々とてきぱき対応した若手医師たちこそ,四十年近くを研修医の指導に捧げた先生の実績にほかならない.実地医家は皆知るように,重症例や緊急事態への対応は淡々と冷静迅速にこなすものであり,怒声を上げ渋面で走り回るのは映画の中だけと相場が決まっている.

 文楽の名人吉田玉男氏の代表作に近松『曽根崎心中』がある.徳兵衛がお初の胸に短刀を刺す道行は作中随一の見せ場で,太夫の声(「この世の名残,世も名残……」),三味線の太棹の冴えに観客は落涙する.しかし,人形を遣う吉田さんの表情は,僅かに眉間の皺に集中度がみえるだけで,動きには一切力みや衒いがない.往年の名ピアニストArtur Rubinsteinは,黄斑変性症で中心視力を失った八十歳頃からいっそう演奏に深みが出たと評判だった.舞台では背筋を伸ばし上体を微動だにしない.昨今のピアニストの思い入れたっぷりの身振りから遠く,激しいパッセージでも顔色ひとつ変えない.

目でみるトレーニング

著者: 森由弘 ,   村本弘昭 ,   今井陽俊

ページ範囲:P.152 - P.157

演習・循環器診療・8

めまい・ふらつきを愁訴に来院した女性患者の一例

著者: 今井靖

ページ範囲:P.162 - P.166

症例

64歳の女性.

主 訴 動悸,めまい,ふらつき.

アレルギー膠原病科×呼吸器内科合同カンファレンス・22

関節リウマチ患者の急性呼吸不全

著者: 岡田正人 ,   仁多寅彦

ページ範囲:P.168 - P.172

後期研修医(呼吸器内科) 今回の患者さんは健康診断で間質性肺炎を指摘されて,当科の外来に通院していた78歳の関節リウマチ(RA)の女性です.来院2週間前から全身倦怠感が出現し,経口摂取不良となり,体重も減少傾向にあったそうです.1週間前から微熱,湿性咳嗽,労作時の呼吸困難が出現し,RAで通院しているかかりつけの病院でレボフロキサシン500mg/日を処方され,当院入院2日前まで計5日間服用しました.内服開始後も呼吸困難は増悪傾向にあり39℃の発熱も認めたため,家族が救急車を要請し当院救急外来に搬送となりました.2日前からは,食事はほとんど摂れず,飲水もわずかで尿量も低下していたとのことでした.既往歴として,50年前に内服治療された結核と慢性C型肝炎があります.

医事法の扉 内科編・13

医療訴訟のしくみ(3)

著者: 福永篤志 ,   松川英彦 ,   稲葉一人

ページ範囲:P.174 - P.175

 原告から訴えが提起されると,その時点で時効の中断という効果が発生します(民法147条1号).本連載第11回で触れたように,過誤を疑われた医療行為の時点から,通常3年あるいは10年経過すると時効を迎え,「権利の上に眠る者は保護されず」に基づき,患者らは訴訟を提起しても請求は認められません.しかし,時効の成立前に訴えを提起すれば,時効の進行が中断し,その後の時効は,裁判が確定した時から再び最初から進行することとなります(157条2項).要するに,時効は振り出しに戻り,その期間は一律10年となります(174条の2第1項).

 一方,訴状のコピーが被告ら(病院管理者や主治医)のもとに送達されると,その時点からその事件はその裁判所により審判されているという状態(訴訟係属といいます)になります.この訴訟係属は,同じ事件が繰り返し争われないようにするために法律上非常に重要な意味があるのですが,ここでは詳細は割愛します.

書評

―國土典宏・菅原寧彦 編―よくわかる肝移植

著者: 坪内博仁

ページ範囲:P.38 - P.38

 このたび,國土典宏教授・菅原寧彦准教授をはじめとする東京大学肝移植チームの執筆による「よくわかる肝移植」が上梓された.わが国における肝移植は,脳死問題のため,主に先天性胆道閉鎖症,原発性胆汁性肝硬変,劇症肝炎を対象とした生体肝移植がまず普及した.その後,脳死肝移植が認められ,さらに肝細胞癌も対象疾患に加わったが,脳死ドナーによる肝移植の症例は大きくは増えなかった.しかし,2010年7月から改正移植法が施行され,その後脳死肝移植数が飛躍的に増加している現況にある.

 肝移植は末期肝不全の最終的な,そして良好な予後の期待できる唯一の治療法であり,それゆえ患者さんやそのご家族,さらには主治医のこの治療にかける期待はきわめて大きい.したがって,肝移植の適応のある患者さんの診療に当たっては,主治医は正しい肝移植医療の知識のもとに慎重かつ適切に対応することが要求される.

―岩田健太郎 訳 Jerome P. Kassirer・John B. Wong・Richard I. Kopelman 著―クリニカル・リーズニング・ラーニング

著者: 徳田安春

ページ範囲:P.103 - P.103

 20年近く前に本書(原書)の第一版を購入し繰り返し拾い読みし,以来長年にわたり研修医教育にも利用していた.症例集がついているので,沖縄県立中部病院勤務時代はこれを利用して総合内科レジデントを集めてグループ学習を行い,臨床推論トレーニングを楽しんでいたことを思い出す.臨床推論の分野では本書に並ぶ教科書は無い.最近第2版がでて,認知科学と心理学からインプットされたさまざまな新しい理論(説)も追加され,症例集も補充されており,充実した内容に感心していた.そんなとき本書の翻訳版が出た.

 本書は岩田健太郎氏がなんと「独りで」翻訳を担当したとのこと.本書の大ファンとしては,岩田氏が翻訳してくれてとてもうれしい.翻訳ではあるが,それでも岩田流口語調のモダンな言い回しがいつものテンポで展開されて読みやすい.翻訳書でこれほど読みやすい文章となっていることは誠に驚きである.

―岡田隆夫 監訳―心臓・循環の生理学

著者: 水野篤

ページ範囲:P.109 - P.109

 「生理学って面白いけど,覚えること多いねんなぁ……」「いまさら生理学……しかも心臓だけ?」

 僕がこの本の題名から受けた印象である.それだけ,学生時代の生理学のイメージが強い.研修医時代を一般病院で過ごし,臨床一直線の僕にとって,生理学のイメージは学生時代の丸暗記の試験や,ほとんど読まなかった分厚い教科書である.手にとって本を開く.なるほど…….僕はようやく生理学ということの意義を理解した.

―井川 修 著―臨床心臓構造学―不整脈診療に役立つ心臓解剖

著者: 副島京子

ページ範囲:P.127 - P.127

 規則正しく一日10万回も拍動し効率的に循環をつかさどる心臓は,勉強すればするほど奥の深い臓器です.その発生,解剖,不整脈の機序などを学ぶほどに興味と愛情が増し,自分が循環器医であることに喜びを感じます.井川修先生による『臨床心臓構造学』は,先生が長年培ってこられた心臓への愛情,不整脈への愛情,そして患者さんへの愛情の集大成だと思います.先生の持っている構造学,不整脈学への情熱がひしひしと伝わってきます.

 今まで,ほとんどの不整脈を専門とする医師はAnderson/Becker, Netterなどの解剖学者による教科書を参考にしていたと思いますが,本の知識を臨床へ応用するのは個々の読者にゆだねられていました.つまり,内容を理解して応用できるかは読者の力量次第だったと思います.この本では井川先生が基礎と臨床の懸け橋となり,臨床医にも非常にわかりやすく,即時に臨床応用できるような解説がされています.不整脈のカテーテル治療を専門とうたう医師は世界中に多いのですが,井川先生ほど,心臓の解剖から機序,治療のためのテクニックを知り尽くしたうえで,わかりやすく解説できる医師はいないでしょう.

information

第5回「呼吸と循環」賞 論文募集

ページ範囲:P.11 - P.11

 医学書院発行の月刊誌「呼吸と循環」では,「呼吸と循環」賞(Respiration and Circulation Award)を設け,呼吸器領域と循環器領域に関する優れた論文を顕彰しております.第5回「呼吸と循環」賞は,第60巻(2012年)第1号~第12号の「呼吸と循環」誌に掲載された投稿論文(綜説は除く)のうちオリジナリティのある論文を対象とし,原則として呼吸器領域1編,循環器領域1編(筆頭執筆者各1名,計2名)に,賞状ならびに賞金を授与いたします.

 「呼吸と循環」誌の投稿規定(http://www.igaku-shoin.co.jp/mag/toukodir/kokyu.html)をご参照のうえ,奮ってご投稿ください.

--------------------

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.182 - P.183

購読申し込み書

ページ範囲:P.184 - P.184

次号予告

ページ範囲:P.185 - P.185

編集室より

著者:

ページ範囲:P.186 - P.186

●今月号では循環器薬の使い方について特集しました.循環器薬は種類が多いためその作用機序を理解するのは一苦労かもしれません.よいかどうかは別としてそれらを覚えるための語呂合わせが多いのもうなずけます(抗不整脈薬:「鍋借りよっか?」など).

●座談会では「理にかなった循環器薬の使い方」と題してエビデンスに基づいた薬の使い方についてお話しいただきました.トピックスとしてEBMがあげられていますが,どのようなことを主眼において治療選択をするかなど,実臨床における多くのヒントが詰まった内容になりました.薬の選び方に限らず非薬物療法の併用,特に難しいと言われている不整脈についても触れていますので,ぜひご一読ください.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?