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雑誌目次

雑誌文献

medicina49巻13号

2012年12月発行

雑誌目次

今月の主題 急性心不全への挑戦

著者: 佐藤直樹

ページ範囲:P.2047 - P.2047

 急性心不全患者は増加の一途をたどり,現在では心筋梗塞患者数よりも多いことがわかっています.このように多くの患者がいるにもかかわらず,急性心不全診療はエビデンスに乏しく,日常診療が手探りで行われています.この現状を把握し,問題点を抽出して,より良き診療へと結びつけることは,非常に重要な課題だと思います.

 このような観点から,われわれは6年前から急性心不全の実態を把握すべく急性心不全疫学調査(ATTEND Registry)を開始し,4,800例以上の患者登録を行い,その全貌が少しずつ明らかになりつつあります.また,日本循環器学会から急性心不全治療ガイドライン2011年改訂版が公表されました.これを土台に,現状を把握したうえで,目の前にいる患者に対してわれわれはいかにevidence based medicine(EBM)を実践するかを検討する時期に来ています.EBMとは,三位一体,すなわち,エビデンス,医師の技量,そして,最も大切な患者背景を考慮して行う医療です.これを実践するために,エキスパートの知識と経験を集結し,急性心不全への対応についての共通認識を明確にするとともに,来るべき課題を見据え,一般内科医の先生方との連携をも含めてさらなる“良き急性心不全診療”を目指したいと考えています.それが,急性期に限らず予防を含めた心不全診療をより良くすることにつながります.

理解のための21題

ページ範囲:P.2188 - P.2191

急性心不全の現状

日本の現状を知る―欧米との比較

著者: 梶本克也

ページ範囲:P.2048 - P.2051

ポイント

★急性心不全の基礎心疾患は欧米と比して,日本は虚血性が少ない.

★急性心不全症例の既往歴では高血圧の頻度が最も高く,これは世界共通である.

★退院時処方は欧米と比して日本はACE阻害薬よりもアンギオテンシンⅡ受容体拮抗薬の投薬率が高い.

★急性心不全症例の入院期間は欧米と比して,日本は著明に長い.

急性心不全治療ガイドラインを読む

著者: 青山直善

ページ範囲:P.2052 - P.2057

ポイント

★長期予後を見据えた,リバースリモデリングを可能とする急性心不全治療の実現が重要.

★急性心不全の疫学的分析を行うことは,エビデンスの確立やガイドラインを作成していくうえで重要な作業.

★症状の改善と迅速な原因疾患や病態に対する治療を実施する.

診断・病態把握

急性心不全の診断法

著者: 加藤真帆人

ページ範囲:P.2058 - P.2064

ポイント

★急性心不全の診断は,その症状・兆候を探すことから始める.

★心機能異常は慢性心不全の指標であり,それだけでは急性心不全の診断には至らない.

★再入院予防のためには,急性心不全をきたした原因疾患と誘因に対する積極的な介入が必要不可欠である.

身体所見のとり方

著者: 室生卓

ページ範囲:P.2066 - P.2070

ポイント

★急性心不全のアセスメントにはNohria-Stevenson分類が有用であり,初期の治療方針決定のみならず,日々の病態変化の把握などに活用すべきである.

★Nohria-Stevenson分類に際してはそれぞれの所見の精度や特徴を理解し,自身の技量なども勘案し,総合的に評価することが肝要である.

血液生化学検査・バイオマーカーの見方

著者: 鈴木聡 ,   竹石恭知

ページ範囲:P.2072 - P.2075

ポイント

★急性心不全患者におけるバイオマーカーとして最も頻用されているものはB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)である.

★近年,トロポニンや炎症・酸化ストレスマーカーが注目されている.

★それぞれのマーカーがどのような機序で産生,分泌されるのかを知ることで,そのマーカーのもつ意味を理解することが重要である.

心エコーによる評価法

著者: 有田武史

ページ範囲:P.2076 - P.2080

ポイント

★急性心不全の治療は血行動態の是正が中心であり,そのほとんどは心エコーにより把握することができる.

★心エコー図により血行動態指標のみならず収縮能や拡張能も把握することができる.

非侵襲・低侵襲的評価

著者: 菊池有史

ページ範囲:P.2082 - P.2086

ポイント

★血行動態評価のスタンダードはpulmonary artery catheter(PAC)での測定であるが,最近では低侵襲・無侵襲に血行動態をモニターできる装置が登場している.

★これらは侵襲が少ないばかりでなく,継時的なモニタリングが可能で,かつPACでは測定し得ないデータも提供してくれることが利点である.

侵襲的評価

著者: 品川弥人

ページ範囲:P.2088 - P.2091

ポイント

★Swan-Ganzカテーテルでの血行動態のモニタリングは低心拍出状態が主体となる重症例やショック症例に適応となる.

★混合静脈血酸素飽和度(SVO2)は末梢循環不全の鋭敏な指標であり,心拍出量の変化をリアルタイムに反映する.

★心臓カテーテル検査は治療に難渋する重症心不全や,早期に原疾患の同定と評価が必要な場合は急性期にも適応となる.

急性心不全の治療 【治療の基本】

病態から考える治療選択の流れ―ガイドラインを踏まえて

著者: 安村良男

ページ範囲:P.2092 - P.2096

ポイント

★急性心不全は7つの基本病型に分類される.

★通常の発症様式はvascular failureとcardiac failureに大別される.

★一般的な急性心不全の主要病態はうっ血であり,肺うっ血と体うっ血に分けられる.

【急性期薬剤の適応】

血管拡張薬

著者: 酒井哲郎

ページ範囲:P.2098 - P.2101

ポイント

★血管拡張薬は前負荷や後負荷を軽減して心不全を軽減する.

★急性心原性肺水腫の症例には第一選択として用いられ,血圧が保たれている急性心不全の薬物療法には中心的な役割を果たす.

★患者の病態を的確に把握し,各種血管拡張薬の特徴や副作用を考慮して薬剤を選択する.

利尿薬

著者: 猪又孝元

ページ範囲:P.2102 - P.2105

ポイント

★利尿薬は,体液過多に基づくうっ血徴候の軽減に用いる.

★血管内の体液量評価には,エコーによる下大静脈の観察が有用である.

★フロセミドの必要量は,漸増により結果的に判断されるものである.

★低Na血症を伴うフロセミド抵抗例には,バゾプレシン拮抗薬が有用である.

強心薬

著者: 谷口達典 ,   坂田泰史

ページ範囲:P.2106 - P.2109

ポイント

★強心薬の使用を考慮する場合には,まず血行動態の把握を正確に行うことが重要である.

★強心薬の必要性の是非は速やかに判断し,できる限り少ない用量を短期間のみ使用することが望ましい.

★それぞれの病態に合った強心薬を選択するように心がける.

不整脈治療

著者: 上野亮 ,   小林義典

ページ範囲:P.2111 - P.2115

ポイント

★頻脈性心房細動・粗動の治療の際には,頻脈の治療のみならず,心原性血栓・塞栓のリスクに留意しなければならない.

★心室頻拍に対しては,抗不整脈薬の投与が無効であれば,電気的除細動による可及的速やかな心室頻拍の停止が望まれる.

★循環動態を維持できない過度な徐脈に対しては,薬物療法の効果は限定的であり,一時的体外ペーシングが必要となる.

【非薬物療法の適応】

呼吸管理―非侵襲的陽圧呼吸療法

著者: 弓野大

ページ範囲:P.2116 - P.2120

ポイント

★急性心不全のfirst line therapyとしてNIPPVの適切な使用が症状改善,気管内挿管率の減少などにつながる.

★NIPPVは循環動態酸素化,呼吸仕事量の改善をもたらす.

補助循環

著者: 青景聡之 ,   山本剛 ,   田中啓治

ページ範囲:P.2122 - P.2125

ポイント

★IABPは,冠動脈血流の増加と後負荷軽減により心補助を行う(圧補助).

★PCPSは,ポンプを用いて静脈血を脱血し,酸素化した後,動脈系に返血することで循環を維持する(流量補助).

★PCPSは,通常の治療に反応しない場合の最終手段である.

左室補助人工心臓(LVAD)

著者: 絹川弘一郎

ページ範囲:P.2126 - P.2129

ポイント

★急性心不全でIABPやPCPSでも血行動態が維持できない場合には年齢や背景を考慮して体外式LVADの適応とする.

★体内植え込み型LVADを急性心不全に適応する条件は今後の検討課題である.

腎代替療法―限外濾過を中心に

著者: 佐々木彰 ,   柴垣有吾

ページ範囲:P.2130 - P.2134

ポイント

★急性心不全の治療において,利尿薬抵抗性の存在がしばしば問題となる.

★利尿薬抵抗性の急性心不全の治療オプションの1つとして,腎代替療法がある.

★限外濾過をはじめとする腎代替療法は,現状では十分なエビデンスが不足しているという点で治療の第1選択とはならない.

症例から学ぶ急性心不全診療の実際

心原性肺水腫患者

著者: 石原嗣郎 ,   古賀徳之

ページ範囲:P.2136 - P.2140

ポイント

★急性心不全治療において重要なことは病態の把握である.

★初期収縮期血圧で病態を把握し,治療に活かすことができる.

★初期収縮期血圧で治療を開始した後は何度もアセスメントを行う必要がある.

体液貯留患者

著者: 白壁章宏

ページ範囲:P.2142 - P.2146

ポイント

★体液貯留患者の基本治療は利尿薬である.特にループ利尿薬持続静注による治療が第一選択治療として望ましい.

★体液貯留患者の管理ではループ利尿薬を中心治療としたうえで,ほかの利尿薬(カルペリチド,トラセミド,スピロノラクトン,トルバプタン),持続的血液濾過透析(CHDF)を状況に応じて併用する.

★体液貯留症例では腎障害(慢性腎臓病,急性腎障害)を併発している症例が多い.腎臓保護を念頭に体液貯留管理を行うのが望ましい.

低灌流患者

著者: 大谷朋仁

ページ範囲:P.2148 - P.2150

ポイント

★クリニカルシナリオ3の低灌流患者は低心機能の慢性心不全の増悪例であることが多い.

★病態により治療法は異なるが,左室拡張末期圧が高く,強心薬に加え輸液よりも利尿を要することが多い.

急性冠症候群患者

著者: 海老名俊明 ,   木村一雄

ページ範囲:P.2152 - P.2155

ポイント

★急性冠症候群に伴う急性心不全の治療では,速やかに虚血を解除することが重要である.

★ポンプ失調症例では,カテコラミンや大動脈内バルーンポンプ法などの補助循環を行う.

右心不全患者

著者: 南雄一郎

ページ範囲:P.2156 - P.2159

ポイント

★右心不全は多彩な原因と複雑な病態からなる臨床症候群である.

★右心不全の予後はその原因となる病態によって強く規定される.

★管理の要点は「原因の同定とその除去」「病態の把握と悪循環の解除」に集約される.

新たなる急性心不全診療の展開

急性期から慢性期へ ケアをどうすべきか?

著者: 池亀俊美

ページ範囲:P.2160 - P.2164

ポイント

★心不全医療は,急性心不全入院後早期から,退院後の生活を見据えたケアが始まっている.

★症状安定後は,患者・家族に心不全の理解を促しつつ,個別性を考慮した患者教育・カウンセリング,心臓リハビリテーションを行う.

★心不全患者・家族には,医療と福祉の連携,シームレスな多職種アプローチが必要である.

慢性期にむけての課題と対策

著者: 稲住英明 ,   佐藤幸人

ページ範囲:P.2166 - P.2169

ポイント

★心不全急性期から慢性期管理を意識した内服導入などを進めていく.

★チームとして心不全治療に介入し,入院中のリスク管理や患者教育を徹底する.

★重症心不全患者に対しては治療を行いながら末期医療についての可能性も念頭に置く.

急性心不全治療のエビデンス構築にむけて

著者: 佐藤直樹

ページ範囲:P.2170 - P.2172

ポイント

★急性心不全治療のエビデンス構築は今後の重要な課題である.

★薬剤に関する試験を行うには,薬剤の特性に合った対象を明確にすることが重要である.

★臨床試験を円滑に行うための研究体制づくりも必要である.

座談会

急性心不全診療をより良くするために

著者: 佐藤直樹 ,   谷田貝茂雄 ,   笹尾健一郎 ,   池亀俊美

ページ範囲:P.2174 - P.2186

近年,急性心不全の患者数は増加傾向にあります.しかし,基礎心疾患や症状の複雑さによって一般市民だけではなく医療従事者にも,急性心不全が正しく認識されていない現状があります.

本座談会では循環器医,一般内科医,救急医,看護師の方々にお集まりいただき,今後も患者数が増加していくことが予想される急性心不全にどう立ち向かっていくべきか,治療や鑑別の仕方,患者への教育・啓発活動,チーム医療についてそれぞれの立場からご議論いただきました.

SCOPE

米国内科学会日本支部総会・講演会2012報告

著者: 柴垣有吾 ,   柳秀高 ,   白山武司 ,   小山弘 ,   中村文明 ,   錦織宏 ,   岸本暢将 ,   福原俊一 ,   小林祥泰

ページ範囲:P.2194 - P.2197

 米国内科学会(American College of Physicians:ACP)日本支部総会・講演会2012が4月14日,小林祥泰支部長(島根大学)のもと,京都大学百周年時計台記念館(京都市)にて開催された.ACP日本支部は日米間交流を促進し,国際的な視野を広げ,実践的な生涯教育を行うことを目的に,アメリカ大陸以外では初めて設立された.支部発足当時,約300名であった会員数が現在では1,000名を超え3倍以上になり,医学生や研修医など若手会員が20%を占めるまでになった.これはほかのACP支部では考えられない驚異的な増加率ということで米国のACP本部から賞賛されている.

 これまでは日本内科学会年次総会と同じ会場で同時開催していたが,2012年より独立しての開催となった.これは日本内科学会講演会出席のついでに当総会・講演会に参加してもらえなくなることを意味し,ACP日本支部としては大きなチャレンジであった.しかし,この危機をより良い総会・講演会にする原動力に変えようと小林祥泰支部長・Scientific Program Committee(SPC,委員長 福原俊一)のリーダーシップのもと,大きな改革を行った.

連載 手を見て気づく内科疾患・48【最終回】

複数のボー線:化学療法の痕跡

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.2041 - P.2041

患 者:65歳,男性

病 歴:胃癌に対する化学療法としてドセタキセルの投与を受けている.11週前,8週前,5週前と3週間隔でドセタキセル60mg/日の投与を受けた.

感染症フェローのシンガポール見聞録・12

アジアの中の日本

著者: 馳亮太

ページ範囲:P.2043 - P.2043

 Tan Tock Seng病院の関係者がシンガポール国内全体の電子カルテを統一するプロジェクトについて説明してくれた時に,「国全体の電子カルテ統一なんて凄い!」と自分の率直な感想を伝えると,「日本はもっと進んだ国のはずなのにどうしてそんなことで驚くの?」と不思議な顔をされました.他の場面でも同じような反応をされることが何度もあり,どうやら嫌みではなく,彼らの日本に抱いているイメージに由来した正直な反応らしいことに気がつきました.

 シンガポールは1942年から第2次世界大戦終戦まで日本の統治下にあり,昭南島と呼ばれていました.遠い昔の歴史くらいにしか思っていませんでしたが,シンガポール人の親友と談笑していた時に,「うちのおじいさんは,戦争中に日本軍につれられていってそのまま帰ってこなかったんだよ」という話を聞いて,はっとさせられたことがあります.街の中心部には,日本占領時期死難人民記念碑という慰霊塔が建てられています.

研修おたく 指導医になる・11

究極のテーマ:コミュニケーションをうまくとる

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.2193 - P.2193

 最初は3年のつもりで2002年にアメリカに渡ったのですが,あっという間に10年が経ってしまいました.その間,7年近く本誌にエッセイを書く機会を与えていただきました.異文化に身をおいて,日本にいた時以上に「コミュニケーションをうまくとる」ことの難しさ,必要性について深く考えてきました.最初の数カ月は電話での会話が不安だったので,ポケベルがなっても電話で対応せずに必ず病棟に足を運び,看護師と直接話をして顔を覚えてもらうようにしました.指導医からの指示もコミュニケーションミスを防ぐために“So you want me to do……, right?” “What I need to do is…….”という感じで,相手にyes, noで答えてもらう工夫をしていました(いまだに電話では“can't”と“can”がわからなかったりすることもありますが).また,「教えられ上手になる」ためにどうしたらよいか,そんなこともよく考えていました.

 フェローシップに応募した時は自分の下についた医学部生にpersonal statement(志望動機書)の添削をしてもらったこともあります.その頃はElectronic Residency Application Service(ERAS)ではなく,各プログラムが独自に郵送による募集を行っていたので,自分をわかってもらうために写真付きの自己紹介年表を作って同封しました.面白いと思ってくれるか,余計なことだと思われるか,ある意味賭けでしたが,好意的にとってくれないところは自分には合わないだろうと腹を決めて出しました.面接では,初めて会った人に熱意とパーソナリティを伝えるコミュニケーション力を試されました.

医事法の扉 内科編・24

判例上の義務(2)

著者: 福永篤志 ,   松川英彦 ,   稲葉一人

ページ範囲:P.2198 - P.2199

 今回も引き続き「判例上の義務」について検討します.前回は,チーム医療の説明義務と死因説明義務について,それぞれ考察しました.今回も,説明義務に関連して,家族への説明義務についてまずは検討したいと思います.

 説明義務(民法645条,医療法1条の4第2項など)は,その条文を読む限り,医療従事者に対し,原則として患者本人への説明義務を課したものと解されます.一方,療養指導義務(医師法23条)は,「本人又はその保護者」への療養指導を義務付けています.これは,日常生活における疾病管理について,その疾病の治療・再発予防を徹底させるためには,病者だけに任せると不十分な場合があるので,そのような場合には周囲の家族などの保護者にも協力してもらう必要があるという配慮に基づくものだと考えられます.特に,小児や高齢者の場合には,保護者の協力が不可欠です.そうすると,療養指導の際には病状に関する説明も必要ですから,結局,患者本人だけでなくその保護者に対しても説明義務が発生するようにも思えます.

Festina lente

文化的雪かき

著者: 佐藤裕史

ページ範囲:P.2201 - P.2201

 手間がかかりしんどいうえに大して得にならないが,片付けないと皆が困るので已む無く渋々自ら手を下さざるを得ない仕事がある.洗面台を拭いて後の人が使いやすいようにするといったことや,ごみ集め,雪かきの類である.誰かが書かねばならない原稿を急に持ち込まれても嫌な顔をせず締切り前に仕上げることもそうで,村上春樹はそうした文化的半端仕事を「文化的雪かき」と呼んだ――「穴を埋める為の文章を提供しているだけです.何でもいいんです.字が書いてあればいいんです.でも誰かが書かなくてはならない.で,僕が書いてるんです.雪かきと同じです.文化的雪かき」(『ダンス・ダンス・ダンス』講談社刊).

 現在,私の主務は臨床研究の運営・支援のとりまとめで,他の医師の研究の諸々の手伝いの指揮であり,自分自身の興味に基づく研究に没頭することではない.私同様の仕事に従う医師はあちこちに散在するが,多くは自分の研究主題を追求しつつ,同時に研究支援組織も兼務するかたちのようである.私とて精神科医としての職掌を捨て去ったのではなく細々と診療は続けているけれども,「自分の研究はしないんですか? つまらなくないですか?」と訝しがる方が間々ある.「自分の研究というほどのものはないんです,他の先生方の研究が円滑に進むように通路の雪かきをしているんです.文化的雪かき」と答えたいところだが,そんな格好いいことは言えない――私のへどもどした様子に,研究一般に対する私の懐疑的距離感や,研究者としての自分の資質に対する諦念を嗅ぎとられるのか(その勘は正しい),深追いされずに済んでいる.

皮膚科×アレルギー膠原病科合同カンファレンス・9

皮疹と体重減少

著者: 岡田正人 ,   衛藤光

ページ範囲:P.2202 - P.2205

後期研修医(アレルギー膠原病科) 今回の患者さんは,掻痒感を伴った皮疹と体重減少を主訴に来院された52歳男性です.ご紹介いただく2カ月ほど前から,首と肩に掻痒感を伴う皮疹が出現し,1週間ほどで顔面と体幹にも広がったため,近医皮膚科を受診されたそうです.そのときの診断はアレルギー性皮疹ということで,外用薬の処方を受けたようです.

アレルギー膠原病科医 アレルギー性というのは明らかなアレルゲンが同定されていたか,同様の既往があったのでしょうか.

目でみるトレーニング

著者: 木田耕太 ,   柳川洋一 ,   野田直孝

ページ範囲:P.2206 - P.2211

こんなときどうする?内科医のためのリハビリテーションセミナー・9

心臓①急性心筋梗塞後

著者: 森信芳 ,   上月正博

ページ範囲:P.2212 - P.2215

症例

〔69歳,男性〕

 今回は心筋梗塞急性期加療後の退院困難症例を提示する.高血圧症,糖尿病,慢性腎不全(Cr 4.0mg/dl)にて近医加療中.老人ホーム入所中であるが,日常生活動作(ADL)は自立していた.腹部大動脈瘤に対して8月30日に腹部大動脈ステントグラフト内挿術を施行された.

 10月7日夜より嘔吐,下痢があり,8日早朝に本人より救急要請.当院来院時の所見などは以下のとおりである.

書評

―永井良三 監修 杉山裕章 執筆 今井 靖,前田恵理子 執筆協力―個人授業 心電図・不整脈―ホルター心電図でひもとく循環器診療

著者: 村川裕二

ページ範囲:P.2121 - P.2121

 つまらない本の書評を書くときは,披露宴で「人並みでもない新郎」を秀才と褒めるのと同じ努力を求められる.本書のかわいい表紙を眺めて,そんなことを思った.ベテラン医師が新米医師とやりとりして何かを学ぶ,よくあるタイプの本だ.

 ところが,二人の「ボケと突っ込み」は肩の力が抜けて,引き込む魅力がある.「なるほど,なるほど」などと相づちを繰り返すところなど笑える.書評を書くだけならパラパラめくれば話は済むだろうに,うっかり最初から最後まで読んでしまった.ムム,お見それしました.以下にそのワケを述べる.

―辻 哲也 編―がんのリハビリテーションマニュアル―周術期から緩和ケアまで

著者: 生駒一憲

ページ範囲:P.2216 - P.2216

 今日,がん医療に対する注目は非常に高い.これはがん医療の進歩が著しく,不治の病ではなくなりつつあることが一つの理由であろう.ところで,このがん医療の進歩を支えるのがリハビリテーションであることをご存じだろうか.リハビリテーションは,一人一人の生活がより快適で意味のあるものになるようにさまざまな手法を用いてアプローチする専門技術である.がん患者の生存率が伸び,がんと共存する時代では,このリハビリテーションの良し悪しが人々の生活の質に直結し,ひいては人生そのものにも影響を及ぼすことは想像に難くない.薬物,放射線,手術などの進歩を,人にとってより恩恵のあるものとするために,リハビリテーションは不可欠である.

 このたび辻哲也先生が編集された『がんのリハビリテーションマニュアル――周術期から緩和ケアまで』は,がんのリハビリテーションを行ううえで,押さえるべき基本と実際の臨床をバランスよく著したもので,今まさに待望の一冊である.

information

第33回母乳育児学習会in千葉

ページ範囲:P.2075 - P.2075

日時●2013年1月13日(日)10時45分-16時45分

場所●千葉市民会館(千葉市中央区要町1-1)

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バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.2222 - P.2223

購読申し込み書

ページ範囲:P.2224 - P.2224

次号予告

ページ範囲:P.2225 - P.2225

編集室より

著者:

ページ範囲:P.2226 - P.2226

●今月の特集は急性心不全です.急性心不全の患者数は心筋梗塞の患者数より多く,また,その数は年々増え続けているとのことです.座談会では,急性心不全診療をより良くするために何をすべきか,熱意溢れるお話をいただきました.

●本年もご愛読いただき,誠にありがとうございました.今後も日常の診療に役立つ情報を提供し続けて参ります.来月からは新連載も始まります.ご期待ください.

「medicina」第49巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻12号(2023年11月発行)

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60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

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60巻8号(2023年7月発行)

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60巻7号(2023年6月発行)

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59巻2号(2022年2月発行)

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56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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