icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina49巻3号

2012年03月発行

雑誌目次

今月の主題 内科医のための気管支喘息とCOPD診療

著者: 巽浩一郎

ページ範囲:P.375 - P.375

 気管支喘息とCOPD(慢性閉塞性肺疾患chronic obstructive pulmonary disease)はともに呼吸器診療においてはcommon diseaseであり,両疾患とも閉塞性肺疾患に分類されている.ともに「息苦しくなる」病態であるが,COPDの診断基準を認識せずに気管支喘息として治療している場合も多くみられる.気管支拡張薬を使用する点では共通しているが,その使い方は同じでよいのかという問題点がある.COPDに吸入ステロイド薬を使用するのは妥当かという問題点もある.COPDはイコール肺気腫かという問題点もある.病態を認識すると,より適切な治療が可能かもしれない.気管支喘息とCOPDは概念上別の病気で,鑑別も治療もそれほど難しくはないと思われるかもしれないが,「さにあらず」が本特集の主旨である.

 高齢者では気管支喘息とCOPDの合併(overlap)があるかもしれない.慢性喘息では動くと息苦しさを感じているかもしれない.喫煙歴のある気管支喘息患者もいる.アレルギー歴のない気管支喘息患者もいる.COPDは経年的に呼吸機能の悪化がみられるとされているが,数年の経過ではほとんど変化のない場合もある.胸部画像で気腫病変のないCOPD患者もいる.両疾患とも気流閉塞に対して気管支拡張薬が適応になるが,気管支喘息にはβ2刺激薬,COPDには抗コリン薬でよいのか.気管支喘息とCOPDの病態が合併しているときの治療はどうするべきか.臨床の現場では,さまざまな患者から学ぶべきことはたくさんある.

理解のための27題

ページ範囲:P.510 - P.513

気管支喘息,COPDの新たな認識

COPD,喘息の診断と検査のポイントは

著者: 塩谷隆信 ,   佐竹將宏 ,   佐藤一洋 ,   佐野正明

ページ範囲:P.376 - P.379

ポイント

★アトピー素因があり,小児期や若年期に発症し,夜間の発作性喘鳴を伴い,寛解と増悪を繰り返す呼吸困難を主症状とした症例は,気管支喘息である可能性が高い.

★65歳以降の高齢者で重喫煙歴があり,ゆっくりと発症し,労作時呼吸困難を主訴とする症例はCOPDである可能性が高い.

★治療的診断として,吸入ステロイド薬の吸入効果が大きいのは気管支喘息であり,長時間作用性抗コリン薬(LAMA)の効果が大きいのはCOPDである.

★気管支喘息とCOPDの合併症例も多いので,吸入ステロイド薬およびLAMAは,臨床的に両疾患に有用である可能性がある.

一般内科患者にCOPDは隠れている

著者: 永井明日香 ,   桑平一郎

ページ範囲:P.380 - P.382

ポイント

★日本のCOPDの有病率は約8~10%に上ることが明らかとなった.

★閉塞性換気障害を有する患者の約90%はCOPDと診断されていない.

★COPDは全身性疾患であり,併存症の存在もCOPD診断の手がかりとなる.

喘息死ゼロ作戦とは

著者: 大田健

ページ範囲:P.384 - P.387

ポイント

★全年齢における喘息の死亡数は,年次ごとに減少している.

★年齢分布では,65歳以上の高齢者が毎年80~90%を占めている.

★「喘息死ゼロ作戦」の基盤は,ガイドラインに沿った喘息治療の普及である.

COPDにもいろいろある―COPD表現型

著者: 一和多俊男 ,   清水谷尚宏 ,   内海健太

ページ範囲:P.388 - P.390

ポイント

★COPDはheterogeneousな疾患である.

★1秒量値のみでCOPDの病態を判断して,適切な治療を選択することは困難である.

★1秒量が急速に低下するCOPDは,通常のCOPDと異なったサブグループである可能性がある.

★COPDをサブグループに分類することは,患者に適切な治療を提供するうえで重要である.

COPDには多面的評価が必要

著者: 小賀徹

ページ範囲:P.392 - P.395

ポイント

★COPDの診断にはスパイロメトリーが必要であるが,重症度評価は1秒量のみでは不十分である.

★運動能力,呼吸困難,健康関連QoLは,1秒量と独立してCOPDの予後と関連する.

★重症度は複数の指標で多面的に評価する必要がある.CATは簡便で有用な評価法である.

気管支喘息にもいろいろある

著者: 正木克宜 ,   浅野浩一郎

ページ範囲:P.396 - P.399

ポイント

★喘息,特に重症喘息には多様な病態が混在しており,クラスター解析によって4~5群に分類される.

★クラスター解析や分子生物学的なアプローチによる喘息の病型分類が,分子標的薬を用いた喘息治療に有用となる.

★高齢者喘息の治療にあたっては,COPDの合併と不適切な吸入手法の可能性を常に念頭におく.

気管支喘息はアレルギー疾患か

著者: 伊藤功朗 ,   新実彰男

ページ範囲:P.400 - P.404

ポイント

★喘息の分類には,特異的IgEの関与するアトピー型喘息と,その関与がない非アトピー型喘息とがある.

★小児発症喘息はアトピー型が多く,成人発症喘息は非アトピー型が多い傾向がある.

★高齢者喘息では非アトピー型喘息も多い.

COPDと喘息の合併,オーバーラップ症候群とは

著者: 青柴和徹

ページ範囲:P.406 - P.409

ポイント

★COPDと高齢者喘息の鑑別は困難なことがある.

★COPDと喘息のコンポーネントが併存している病態をオーバーラップ症候群という.

★COPDの診断基準を満たす症例(気管支拡張薬吸入後の1秒率<70%)で,発作性の呼吸困難や喘息の既往,アトピー素因,非常に大きな気道可逆性などがみられる場合にはオーバーラップ症候群を疑う.

気管支喘息,COPDの診断・治療をする前に

One airway, one diseaseとは

著者: 鈴木朋子

ページ範囲:P.411 - P.415

ポイント

★One airway, one diseaseとは上気道・下気道を同一の器官として捉える概念のことである.

★成人の喘息患者がアレルギー性鼻炎を合併している割合は7割近くに上る.

★喘息を管理するうえで,アレルギー性鼻炎の診断・治療は非常に重要である.

アレルギー性気管支肺アスペルギルス症とは―気管支喘息との鑑別が重要

著者: 濵田薫

ページ範囲:P.416 - P.419

ポイント

★アレルギー性気管支肺アスペルギルス症は真菌が気道内で腐生・増殖することにより,Ⅰ型,Ⅲ型,Ⅳ型アレルギー反応を介して気管支喘息および好酸球性肺炎をきたす.

★アレルギー性気管支肺アスペルギルス症は組織学的に中枢性気管支拡張症と粘液栓(子),気管支中心性肉芽腫が特徴的な疾患である.

リンパ脈管筋腫症とは―COPDとの鑑別が重要

著者: 安藤克利 ,   市川昌子 ,   瀬山邦明

ページ範囲:P.420 - P.423

ポイント

★リンパ脈管筋腫症は,妊娠可能年齢の女性に発症する腫瘍性疾患である.

★家族歴や身体所見で結節性硬化症の有無を確認する.

★COPDや他の囊胞性肺疾患の鑑別にあたり,個々の囊胞が鮮明に描出される高分解能CT画像で評価する.

COPDに合併する肺癌には注意

著者: 坂東政司

ページ範囲:P.424 - P.428

ポイント

★COPDは肺癌の危険因子の1つであり,肺癌はCOPDの重要な肺合併症である.

★COPD患者における肺癌の早期発見にはプライマリケア医の果たす役割が大きい.

★COPD合併肺癌を早期に発見し治療を行うためには,COPD自体を早期に発見することが重要である.

★COPD合併肺癌の治療においては,年齢,全身状態,合併症などの個人差を考慮する必要がある.

COPDに合併する肺高血圧症とは

著者: 花岡正幸

ページ範囲:P.430 - P.432

ポイント

★COPDに合併する重症肺高血圧症は,予後規定因子として重要である.

★呼吸機能では説明のつかない呼吸困難や運動耐容能の低下は,肺高血圧症の存在を疑う.

★COPDに合併する肺高血圧症の治療の第一選択は,長期(在宅)酸素療法である.

増悪診断と治療が重要

気管支喘息の増悪はどう治療すべきか

著者: 丸岡秀一郎 ,   橋本修

ページ範囲:P.434 - P.437

ポイント

★喘息増悪の誘因を理解し,問診する.

★喘鳴のみで喘息発作とはいえない.まず他の疾患の合併を除外する.

★重症度を把握して適切な治療を早期に行う.

咳喘息とは

著者: 藤村政樹

ページ範囲:P.438 - P.441

ポイント

★咳喘息とは,気管支拡張薬が有効な咳嗽を唯一の症状とする病態である.

★咳喘息では,気管支平滑筋収縮が平滑筋内のAδ線維を刺激して咳嗽が発生する.

★約30%の患者が喘息に移行する.

COPDの増悪とは

著者: 山口佳寿博

ページ範囲:P.442 - P.445

ポイント

★増悪は気道炎症の急激な悪化を意味する.肺炎など気腔病変に起因する全身状態の悪化は除外され,鑑別診断の1つとして捉えられる.

★睡眠時無呼吸症候群の夜間無呼吸/低呼吸は長くても数分の持続であり,呼吸は直ちに再開される.しかしながら,呼吸停止と呼吸再開の繰り返しは虚血再灌流の状態を作り出し活性酸素を過剰に産生する.

★HHIPは胎生期の発生に関与し,この蛋白の異常は重篤な奇形を発生させる.成人では,気道上皮細胞の修復,MMPs/growth factorsの遊離と関与し,肺のリモデリングならびに癌化をもたらす.

COPD増悪の治療戦略とは

著者: 平田一人 ,   浅井一久

ページ範囲:P.446 - P.449

ポイント

★COPD増悪時の治療は薬物療法,酸素療法,人工呼吸管理(換気補助療法)が行われる.

★薬物療法の基本はABCアプローチ(antibiotics,bronchodilations,corticosteroids)である.

★PaO2が60Torr未満,あるいはSpO2が90%未満の場合,酸素療法の適応となる.

★換気補助療法は,PaCO2が45Torrを超え,かつpHが7.35未満の場合は適応を考慮し,十分な薬物療法や酸素療法にもかかわらず,呼吸状態が改善しない場合には適応となる.

★増悪の予防には禁煙,インフルエンザや肺炎球菌ワクチン療法,吸入ステロイド薬,長時間作動性気管支拡張薬,ICS/LABA配合剤,去痰薬,少量マクロライド療法などがある.

COPDを基礎疾患とした肺炎をどう考えるか

著者: 和田裕雄 ,   後藤元

ページ範囲:P.450 - P.454

ポイント

★一般感染症の治療と同じく,COPDの肺炎も,感染臓器の特定と原因微生物の分離・同定を試みる.

★原因微生物は,肺炎球菌,モラキセラ,インフルエンザ菌が多い.

★治療は,経口ステロイドとエンピリックに選んだ抗菌薬を使用する.

気管支喘息,COPD安定期の治療

軽症気管支喘息の治療はどうあるべきか

著者: 本川郁代 ,   東元一晃 ,   井上博雅

ページ範囲:P.456 - P.459

ポイント

★日常診療で最も遭遇する軽症気管支喘息はガイドラインに沿った治療を行う.

★吸入ステロイドは気管支喘息に対する治療の基本である.

★吸入ステロイドは早期に導入することでその後のコントロールを改善する.

中等症以上の気管支喘息の治療はどうあるべきか

著者: 棟方充

ページ範囲:P.461 - P.464

ポイント

★治療ステップ決定前に,診断は正しい? 合併症・合併病態は? コンプライアンスは?を考えよう.

★一度はガイドライン(JGL2009)を参照しよう.

★抗IgE抗体(オマリズマブ)はできるだけステップ4,経口ステロイド導入前に考慮しよう.

COPDの内科的最大限の治療とは

著者: 植木純 ,   熱田了 ,   十合晋作

ページ範囲:P.466 - P.469

ポイント

★薬物療法に運動療法を併用することにより,さらに上乗せの改善効果を得ることができる.

★セルフマネジメント教育は増悪による入院の頻度を減少させる.

喘息とCOPD治療における抗コリン薬とβ2刺激薬の位置づけ

著者: 一ノ瀬正和

ページ範囲:P.470 - P.473

ポイント

★喘息の発作には作用発現が速やかな短時間作用性β2刺激薬を用いる.

★吸入ステロイドのみでコントロールできない喘息に対する追加薬のなかで,長時間作用性β2刺激薬は最も有効性が高い.

★長時間作用性抗コリン薬およびβ2刺激薬は安定期COPD治療の第一選択薬である.

―COPDと喘息―オーバーラップ症候群の治療はどうするべきか

著者: 坂本透 ,   檜澤伸之

ページ範囲:P.474 - P.476

ポイント

★気流閉塞を有する高齢者の半数以上は喘息とCOPDのオーバーラップ症候群である.

★禁煙,アレルゲン除去,インフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチン接種が大切である.

★治療には吸入ステロイドに加え長時間作用性気管支拡張薬の併用が必要である.

COPD,喘息には増悪予防が重要

著者: 山谷睦雄

ページ範囲:P.478 - P.481

ポイント

★COPDの増悪は呼吸器細菌感染,ウイルス感染などによる気道炎症で生じる.

★症状の悪化をもたらし,予後に関係することもある.

★ワクチン接種,抗コリン薬,β2刺激薬,吸入用ステロイドなどに増悪抑制効果がある.

在宅医療と病診連携

COPDに在宅酸素療法が必要なときは

著者: 濱田泰伸

ページ範囲:P.483 - P.485

ポイント

★1日15時間以上の酸素投与は高度慢性呼吸不全を有するCOPD患者の予後を改善する.

★在宅酸素療法の適応は安静時,睡眠時,運動時の低酸素血症を考慮しなければならない.

★目標とする動脈血酸素分圧は60Torr以上である.

★高二酸化炭素血症を認める場合は,適宜動脈血液ガス分析を行う.

COPDにNPPV治療が必要なときは

著者: 石原英樹

ページ範囲:P.486 - P.490

ポイント

★COPD急性増悪に対する人工呼吸の第一選択は非侵襲的陽圧換気療法(NPPV)である.

★COPD急性増悪時の人工呼吸開始のポイントは,急激に進行する呼吸性アシドーシスである.

★NPPV導入には医療スタッフの習熟と連携が必要である.

気管支喘息,COPDの管理には地域医療連携が必要

著者: 津田徹

ページ範囲:P.492 - P.496

ポイント

★気管支喘息では,吸入指導が地域の病診薬連携のなかで,確実になされているかが重要である.

★COPDの診断に肺機能検査(スパイロメトリー)ができない場合,専門医へ紹介し,逆紹介を受けること.

★COPDでは重症度の判定とマネージメントが難しいことが多く,専門医へ紹介する.

座談会

プライマリケアのための気管支喘息とCOPD診療

著者: 巽浩一郎 ,   中村眞人 ,   桂秀樹 ,   磯辺雄二

ページ範囲:P.498 - P.509

呼吸器診療におけるcommon diseaseである気管支喘息とCOPD(慢性閉塞性肺疾患)は,ガイドラインが作成され治療のステップは整えられています.しかし,プライマリケアの段階では,限られた設備のなか特にCOPDの診断は容易でなく,高齢者も少なくないなど治療にも苦労が伴います.

本座談会では,開業医として,専門医として取り組んでこられた経験豊富な方々にお集まりいただき,プライマリケアでどこまでできるのか,患者をどのように治療に引き込んでいったらよいのかなど,現場感覚溢れるお話をうかがいました.

REVIEW & PREVIEW

くも膜下出血診療の現在

著者: 高須俊太郎 ,   吉田純

ページ範囲:P.515 - P.517

最近の動向

 くも膜下出血に対する治療は,顕微鏡手術技術の進歩,術中モニタリングなどの支援機器の発達,血管内治療によるコイル塞栓術の確立などによって,治療成績の向上が認められている.一方で重症くも膜下出血の致命率はいまだに高く,脳血管攣縮による脳梗塞発症も機能的予後を悪化させる大きな問題である.

 致命率の高いくも膜下出血が発症する前に予防するために,MRA(MR angiography;MR血管造影)の普及とともに1990年前後から脳ドックが広まり,未破裂脳動脈瘤の診断,治療が進められるようになってきた.未破裂脳動脈瘤の破裂率はいまだに議論があるが,動脈瘤の大きさや部位を検討し,治療適応を判断する必要がある.

連載 手を見て気づく内科疾患・39

黒色爪:爪母でのメラニン色素産生の亢進

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.369 - P.369

患 者:84歳,男性

病 歴:8年前から糖尿病で外来通院中である.右母指の爪が黒い.

身体所見:左母指を示す(図1).

感染症フェローのシンガポール見聞録・3

風邪の鑑別に「デンギィー」

著者: 馳亮太

ページ範囲:P.371 - P.371

 外来に発熱患者が受診した場合,シンガポールではデング熱も重要な鑑別疾患の1つです(ちなみに英語では「デンギィー」と発音します).デング熱と聞くと恐ろしい熱帯病のイメージがあるかもしれませんが,熱帯地帯のシンガポールにおいてはとてもありふれた病気です.2010年には,年間約5,400例の発生が報告されており,平均して一日15人ものデング熱患者が発生していることになります.

 デング熱は,ネッタイシマカやヒトスジシマカによって媒介されるウイルス性の発熱疾患で,主な症状は,発熱,筋肉痛,関節痛,発疹で,通常は1週間程度で軽快します.デングウイルスには4つの血清型があることがわかっており,罹患した血清型のみに終生免疫ができるので,生涯で最大4回罹患する可能性があります.確定診断にはIgM抗体やPCR検査が用いられ,2~3日で結果が判明します.軽症ですむ症例が多い一方,著しい血小板低下と血管透過性亢進から出血傾向,ショックへと至ることがあり,このようなタイプを重症デング(以前のデング出血熱に相当)と呼びます.

Festina lente

ただ憧れを知る人ぞ

著者: 佐藤裕史

ページ範囲:P.514 - P.514

 精神科医・浜田晋先生が亡くなられて一年余りが経つ.白衣姿の温顔の写真を添えた追悼記事を新聞紙上で目にしたとき,先生の著作に胸を打たれた学生時代を思い出して感慨深かった.思えば四半世紀以上前のことである.

 先生は大病院を辞し街に出て無床精神科診療所を始められた第一世代である.入院治療が中心とされていた当時は周囲の猛反対にあったという.倒産の危機を抱えながらの下町での孤軍奮闘ぶりはその著作に詳しい.市井の患者と家族の苦心や生死,貧困や誠実の逸話の数々に学生の私は魅了された.切れ味のよい基礎研究や深遠高邁な精神病理学も若者をあおるものだが,市井で堅実に,淡々と,時に暖かく時に厳しく,患者の突然死から保険請求の苦労までの日常の医療に迷い悩み,ためらいながらも逃げず隠れず街にいつづける先生の姿に,憧れると同時に何か確かで尊いもの――それはほとんど仏性に近いのかもしれない――を感じた.

目でみるトレーニング

著者: 藤原敏弥 ,   星進悦 ,   藤巻克通

ページ範囲:P.518 - P.525

アレルギー膠原病科×呼吸器内科合同カンファレンス・24

生物学的製剤開始後の間質性肺炎増悪

著者: 岡田正人 ,   仁多寅彦

ページ範囲:P.526 - P.530

後期研修医(アレルギー膠原病科) 今回は59歳の男性です.抗トポイソメラーゼⅠ(Scl-70)抗体陽性の広汎型全身性硬化症(dcSSc)と間質性肺炎にて20年以上の外来通院歴がありますが,今までは入院歴はありませんでした.3年前からMCP,MTPの関節炎を発症し,dcSScによるものとしてNSAIDsで経過を観察していました.MTP関節に骨びらんが認められ抗CCP抗体も陽性化したため,関節リウマチの合併と診断し,サラゾスルファピリジンを,そしてエタネルセプトも1年以上前から開始しています.ゴルフなどの運動はしていたようですが,最近少し息切れを自覚しておられ,エタネルセプト注射前に37.2℃と発熱があったため外来を予定外受診し,胸部CTにて間質性肺炎の増悪を疑われ入院となりました.胸部画像の評価をお願いします.

研修おたく 指導医になる・2

ゴールの設定とフィードバックのこつ

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.531 - P.531

 アメリカのレジデントの教育システムも,この10年間で随分変わりました.その背景には週80時間ルールや,ニューヨークで始まったナイトフロート(夜だけ病院にやってきて病棟のカバーと新規入院をとるシステム)が全米に広がったこと,急性期病棟の回転率がさらに上がったことなどが挙げられます.

 研修中は日本でよく見られる(見られた?)「体で覚えろ」「よく見て技を盗め」のような指導ではなく,ローテーションのはじめに指導医とレジデントがそれぞれ「何を学んでほしいか」,また「何を学びたいか」を話し合うことが求められています.さらに今回,レジデンシー・フェローシッププログラムの再構築があり,以前は指導医の努力目標だった「ローテーションの前にゴールと自分の評価基準をレジデント,フェローに伝える」ことが必須になり,指導医に対する評価項目として「ローテーション前にゴールの提示があったかどうか」をレジデントに“yes”,“no”で答えさせるものが加わりました.

演習・循環器診療・10

肝臓ラジオ波治療後,徐脈が遷延した一例

著者: 今井靖 ,   杉山裕章 ,   朝田一生

ページ範囲:P.532 - P.535

症例

55歳の男性.

主 訴 特になし.肝腫瘍に対する加療のため入院.

現病歴 刺青歴のある症例で,1992年全身倦怠感が出現,C型慢性肝炎と診断され,その後,近医にて定期的にフォローされていた.2000年肝臓癌を指摘され,肝動脈塞栓術(TAE)施行ののち外科において肝拡大S7切除術を施行した.2006年に再発,以後当院にてラジオ波治療のために繰り返し入院し,2012年1月,肝腫瘍再発に対する再度のラジオ波治療のため入院となった.

医事法の扉 内科編・15

医療訴訟のしくみ(5)

著者: 福永篤志 ,   松川英彦 ,   稲葉一人

ページ範囲:P.536 - P.537

 医療訴訟の審理は,通常の民事裁判よりも長期間に及びます.裁判所ホームページに公開されている資料によれば,2010(平成22)年度は,通常の民事裁判の平均審理期間が8.3カ月だったのに対し,医療訴訟は24.9カ月と報告されています.1993(平成5)年度は42.3カ月だったので,争点の整理や集中証拠調べを行い裁判所も努力をした結果,約半減してはいますが,2007(平成19)年度の23.9カ月を底値として,これ以上の短縮化は厳しそうです.このように約2年間も長引いてしまうのは,やはり医療紛争から訴訟へと進展してしまった事案は,患者側と医療側の双方に相当な主張があり,お互いがなかなか引き下がれないということと,医療訴訟の専門性・閉鎖性といった特殊性のために鑑定人などが必要となり,事実認定や法的判断に十分な時間を要するからでしょう.

 さて,判決の前に「和解」について解説しましょう.

書評

―〈『medicina』2011年増刊号〉―内科 疾患インストラクションガイド―何をどう説明するか

著者: 北原光夫

ページ範囲:P.387 - P.387

 2011年の『medicina』増刊号として,「内科 疾患インストラクションガイド―何をどう説明するか」が発刊された.

 「内科 疾患インストラクションガイド」(以下ガイド)は2つのセクションに分かれており,はじめのセクションは「患者にどう説明するか」とする4つの論文から成り立っており,次のセクションにはよく遭遇する内科的疾患が131,その他の疾患24と幅広く網羅されている.

―髙橋雅士 訳―わかる! 画像診断の要点シリーズ5―わかる! 胸部画像診断の要点

著者: 小倉髙志

ページ範囲:P.409 - P.409

 私は,胸部の画像診断が大好きな呼吸器内科医だ.画像診断の師匠たちの「どうしたら画像診断の達人になれるのか」という問いへの共通した解答は,①正常と疾患の症例の写真をとにかくたくさん読むこと,②絵画鑑賞の名画と同じで,典型的かつ鮮明な質の良い画像にふれていること,③所見を言葉にうまく表現できるようにボキャブラリーを増やしておくことであった.

 そのためにどうしたか.確実に診断されており,質の高い画像が撮られている症例をたくさん経験しようと考えた.ただ自分で経験できる症例のみでは限度があるため,画像の教科書をいままで何十冊と買って勉強した.気に入っていた“Fraser and Pare's Diagnosis of Diseases of the Chest”や“Imaging of the Chest”は愛読書というにはおこがましく,辞書がわりになっている.また,日本の画像の教科書も良い本が多く出版されているため,訳書を買った事はなかった.

―山内常男 編―ことばもクスリ―患者と話せる医師になる

著者: 箕輪良行

ページ範囲:P.482 - P.482

 1990年代以降に医学教育を受けたOSCE世代と呼ばれる医師は「私は○○科のミノワです」と自己紹介でき,最後に「ほかに何か言い残したことはありませんか」とドアノブ質問ができる,という著者らの観察は,評者もアンケート調査で実証してきた.また,評者らが開発したコミュニケーションスキル訓練コースを受講した,地域で高い評価を受けているベテラン医師が受講後にみせた行動変容は唯一,ドアノブ質問の使用増加であった.

 本書は,若い医師たちをこのように見ていながらも,日ごろ,目にして耳にする患者からのクレームをもとにどうしても伝えたい「言葉」の話を医療従事者に向けてまとめた書物である.クレーム実例から出発しているのでリアルであり,真摯(しんし)な語りかけである.この領域で二冊のテキスト(『医療現場のコミュニケーション』『コミュニケーションスキル・トレーニング』,ともに医学書院刊)を執筆している評者にとっても,このような語りかけがどうしてもかくあるべしの理想論になりがちで非常に難しいのがわかるだけに,クレームからのアプローチは執筆の抑制を保つうえでうまい戦略だと感心させられた.

information

第20回日本消化器関連学会週間 Japan Digestive Disease Week 2012(JDDW2012)

ページ範囲:P.379 - P.379

日時●2012年10月10日(水)~13日(土)

会場●神戸国際展示場,ポートピアホテル,神戸国際会議場

米国内科学会(ACP)日本支部2012年総会・講演会のお知らせ

ページ範囲:P.399 - P.399

 米国内科学会(American College of Physicians:ACP)は,1915年創立の米国内科専門医会(ACP)と,1956年設立の米国内科学会(ASIM)が1998年に合併して誕生しました.現在,世界80カ国に13万人(医学生・研修医会員1.5万人を含む)の会員を有する国際的な内科学会で,最高水準の専門的な内科診療技術を育成し,医療の質を高め,医療をより効果的にすることを使命にしています.“Annals of Internal Medicine”を学会公式雑誌とし,年次学術総会,生涯教育(MKSAP),医療政策提言などさまざまな活動を行っています.ACP日本支部は,2003年にアメリカ大陸以外では初めて設立が許された支部で,会員数が1,000名を超え,医学生や研修医など若手会員が20%を占めるまでになっています.日本内科学会の総合内科専門医を有する内科医はACP正会員に,ACP正会員のうち要件を満たす者はFellow(FACP)の称号を申請できます.以来,毎年総会・講演会などの活動を行ってきました.

 本年も恒例の総会・講演会を開催します.ACPの会員であるなしにかかわらず,どなたでもご参加可能です.英語での発表が主ですが日本語の要約も提供されます.

日時●2012年4月14日(土)13:00~18:15

会場●京都大学時計台百年記念ホール

第53回日本人間ドック学会学術大会

ページ範囲:P.517 - P.517

日時●2012年9月1日(土)・2日(日)

会場●東京国際フォーラム

--------------------

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.544 - P.545

購読申し込み書

ページ範囲:P.546 - P.546

次号予告

ページ範囲:P.547 - P.547

編集室より

著者:

ページ範囲:P.548 - P.548

●弊誌の執筆要項には,「略語につきましては,full spellingと訳語を併記してください」と書かせていただいております.学術論文は,時代や分野を越えて,いつ,誰が読むかわからないのだから,略語は初出時にきちん説明するようにと,原著雑誌担当時に査読者から何度もご指導いただきました.●いきなりDICと出てきても,それがdisseminated intravascular coagulationのことなのか,drip infusion cholecystocholangiographyを意味しているのか,即座にはわからないことが(もしかしたら)あるかもしれません.辞書にはdrunk in charge(酒酔い運転者)まで挙がっておりますし,企業やビルの名前にもありそうです.●これに従えば,COPDは初出のたびに「慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)」と記載することになります.しかし,学会のガイドラインだけでなく,昨年流れたテレビ広告でも「COPD」と言っていた時代です.本号での略語の使い方は,必ずしも学術論文のルール通りとはなっておりません.読みやすさを優先させていただいたという言い訳を,ご執筆くださった先生方にさせていただかなければなりません.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?