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雑誌目次

雑誌文献

medicina49巻9号

2012年09月発行

雑誌目次

今月の主題 内科診断の本道―病歴と身体診察情報からどこまでわかるか?

著者: 福原俊一

ページ範囲:P.1479 - P.1479

 『誰も教えてくれなかった診断学』(医学書院)1)を上辞してからたった4年しか経っていないが,この間,「診断推論」という用語と概念が日本の臨床医に急速に浸透したことは,うれしい驚きである.

 思い起こせば4~5年前には,「患者の話を聞き,仮説を考え,診察をし,仮説を絞り込み,検査をし,検査の結果を解釈する」という仮説演繹法的な診断アプローチは,わが国にほとんど普及していなかった.それまで医学生や研修医に教育されてきた方法は,主に検査に依拠した「徹底的検討法」あるいは「アルゴリズム法」が主流であった.この方法が日本で長く教えられてきたのは,おそらく明治初期にドイツ医学を輸入したことにその源があるのかもしれない.一方,仮説演繹法を用いた診断推論アプローチの源は,イギリスの「病院医学」2)にあると推測される.実は,このことは診断あるいは臨床だけでなく,臨床研究にも当てはまる.「とにかくデータを集めてから分析する.要はどのような統計解析技術を駆使するかで決まる」という考え方が,わが国の医学研究文化に根強い.アメリカは2つの医学をバランス良く取り入れたために,現在も独り勝ちの様相を呈している,というのが井口先生2)のお考えであり,私も同感である.ちなみにわが国の臨床研究発信力は世界23位に転落している.

理解のための26題

ページ範囲:P.1619 - P.1622

総論

患者の言葉を医学的に変換する

著者: 野口善令

ページ範囲:P.1480 - P.1484

ポイント

★病歴聴取では患者の言葉を,医学的な症候名(=clinical problem),それをキーワードにした鑑別診断,さらに最終的な診断仮説に変換する.

★臨床医は,情報を集める段階と分析して考える段階を区別して病歴聴取しているのではなく,仮説を思いつくのと質問して確かめるのを(ときには身体診察も)同時進行的に動的に行っている.

★診断仮説に沿って質問するためには,その疾患の特徴・病像(症候,身体所見,検査所見)を想起して,それらの有無を患者に確認していく.

Evidence-based physical diagnosis

著者: 南郷栄秀

ページ範囲:P.1486 - P.1490

ポイント

★診断には,感度・特異度,尤度比といった診断特性だけでなく,有病割合を推定することが重要である.

★身体診察は検査を行うべきかどうかを決めるスクリーニングを目的としており,陰性尤度比が優れたものが有用である.

★病歴,身体所見,検査の特性を理解して,おのおのの特性を活かすような効率の良い診療を行うべきである.

診断サポートツールとは何か―その活用法

著者: 杉岡隆

ページ範囲:P.1492 - P.1495

ポイント

★診断のプロセスとは,想定される診断仮説を絞り込んでいくことである.

★診断サポートツールはプライマリケア外来における疾患の適切な拾い上げに有用である.

★診断サポートツールは簡便で場所を選ばず使用でき,結果の信頼性も高い.

感染症

敗血症

著者: 大曲貴夫

ページ範囲:P.1496 - P.1499

ポイント

★患者の訴えから鑑別診断として感染症を想起した場合,敗血症の状態かどうかの判断は,その後のマネジメントを変えうるため,きわめて重要である.

★敗血症かどうかの判断のためには,患者のバイタルサインを速やかに把握し,全身性炎症反応症候群の状態かどうかをすぐに判別することが必要である.

感染性心内膜炎

著者: 土井朝子

ページ範囲:P.1500 - P.1503

ポイント

★発熱以外に特定の臓器の随伴症状のない発熱は心内膜炎を疑う.

★全体像から心内膜炎を疑ったら,部分的な所見を詳しく探しにいく.

骨・関節・筋疾患

痛風・ピロリン酸カルシウム沈着症(CPPD)

著者: 六反田諒 ,   岸本暢将

ページ範囲:P.1504 - P.1507

ポイント

★結晶性関節炎を適切に診断するには病歴,患者背景,リスク因子の評価が重要である.

★身体所見で単関節炎の鑑別は困難である.特に化膿性関節炎は稀だが,常に念頭に置く.

関節リウマチ

著者: 袴田康弘

ページ範囲:P.1508 - P.1512

ポイント

★関節リウマチでは,病歴聴取と身体診察こそが最も有効な診断法である.

★診断のための最新のモダリティは,すべて補助診断の術にすぎない.

★RF,抗CCP抗体,MMP3は身体所見を確認してから考えよう.

リウマチ性多発筋痛症

著者: 立松充好

ページ範囲:P.1514 - P.1517

ポイント

★リウマチ性多発筋痛症と巨細胞性動脈炎はともに高齢者に出現し,著しい赤沈の亢進をみる一連の疾患と考えられる.

★リウマチ性多発筋痛症では,体幹の痛みがあらわれ,少量のプレドニンによって劇的に症状の消退をみる.

循環器疾患

心原性失神

著者: 志水太郎 ,   徳田安春

ページ範囲:P.1518 - P.1523

ポイント

★失神では全例で頸動脈を触れること.動脈波の性状が診断を決定することがある.

★心尖部の3拍動,大動脈弁領域の収縮期ダイヤ型雑音と心尖部の汎収縮期雑音を同時に認めた場合は,大動脈弁下狭窄を考える.見逃すとときに致命的になる.

肺塞栓症

著者: 竹島太郎 ,   野口善令 ,   福原俊一

ページ範囲:P.1524 - P.1528

ポイント

★急性の呼吸困難の病歴から,5~6の診断仮説を想起できるようにしておく.

★呼吸困難の鑑別を進めるうえで,リスク因子やpertinent positive/negativeな情報は重要な問診項目である.

★肺塞栓の軽症例では,症状が表面化しにくく,身体所見や心電図などの検査所見も典型像を欠いていることが多い.

心不全

著者: 石川譲治

ページ範囲:P.1530 - P.1534

ポイント

★心不全が疑われる患者の病歴聴取,身体所見では,気管支喘息の急性増悪や右心不全を伴う慢性閉塞性肺疾患との鑑別が重要である.

★病歴や身体所見においては,うっ血の所見,還流障害の所見に注意して,速やかに患者評価を行う.

呼吸器疾患

COPD

著者: 有村保次 ,   松元信弘 ,   中里雅光

ページ範囲:P.1536 - P.1539

ポイント

★慢性の呼吸困難,咳,痰をきたす喫煙者はCOPDを常に考慮しておく.

★COPDは特異的な身体所見がなかったとしても完全には否定できない.

★COPDの身体診察では,頸部や胸部の視診,聴診が特に重要である.

間質性肺疾患

著者: 小山弘

ページ範囲:P.1540 - P.1544

ポイント

★病歴聴取にも,「こつ」がある.

★身体診察にも,「エビデンス」がある.

★「ガラパゴス医者」にならないよう,英語の文献を読もう.

消化器疾患

潰瘍性大腸炎

著者: 正田良介

ページ範囲:P.1546 - P.1549

ポイント

★血性下痢,しぶり腹は大腸炎の症状である.また,非特異的だが腹痛や発熱も重症の大腸炎では発生する.

★2週間以上続く慢性の血性下痢(大腸炎)では,潰瘍性大腸炎は重要な鑑別診断の一つである.

★慢性大腸炎の診断には,感染症の検索とともに下部消化管内視鏡検査(+生検組織検査)が必要となることが多い.

虫垂炎

著者: 桂守弘 ,   我部敦 ,   山城敏光

ページ範囲:P.1550 - P.1553

ポイント

★典型的な虫垂炎では,病歴と身体所見のみで多くの場合は診断可能である.

★病歴と身体所見を丁寧にとり,その都度鑑別疾患を考え直す作業が大切である.

★病歴と身体所見を軽視して,鑑別疾患を考えない状態で安易に画像検査に進むべきではない.

★外科医へのコンサルトのためだけの画像検査は不要である.

胆囊炎・胆管炎

著者: 野々垣浩二 ,   榊原聡介 ,   印牧直人

ページ範囲:P.1554 - P.1557

ポイント

★意識消失をきたした重症急性胆管炎についての詳細な病歴情報と身体診察情報.

★意識消失と背部痛をどのように関連づけ,患者情報を聴取していくか.

★高齢者では,重症胆管炎になるまで黄疸や発熱に気づかないこともある.

腎泌尿器・女性器疾患

腎盂腎炎

著者: 山口真 ,   志水英明 ,   藤田芳郎

ページ範囲:P.1558 - P.1562

ポイント

★膀胱炎症状を呈さず,発熱のみで受診した場合にも腎盂腎炎を忘れない.

★右CVA叩打痛を認める疾患に対し,肝周囲炎や胸膜炎を忘れない.

急性細菌性前立腺炎

著者: 久末伸一 ,   堀江重郎

ページ範囲:P.1564 - P.1566

ポイント

★OPQRSTにそって,排尿困難,排尿時痛を訴える中高年男性に特異的な疾患を思い浮かべる.

★急性前立腺炎では,直腸診によって圧痛と熱感を伴う前立腺を触れる.

★重症例では前立腺膿瘍をきたしていることがあるので,触診には十分に注意する.

骨盤内炎症性疾患(PID)

著者: 尾原晴雄

ページ範囲:P.1568 - P.1571

ポイント

★女性の腹痛患者では,内科・外科疾患のみでなく,常に妊娠性疾患,産婦人科疾患を念頭に置く.

★PIDの診断には,腹痛に関する詳しい病歴,身体診察に加えて,PIDを意識した産婦人科的問診,生活歴が重要である.

血液疾患

特発性(免疫性)血小板減少性紫斑病(ITP)

著者: 東光久

ページ範囲:P.1572 - P.1577

ポイント

★詳細な病歴聴取により,単なる出血なのか,異常な出血(出血傾向)なのかを判断する.

★出血傾向には血小板減少と凝固因子不足の2パターンがあり,それぞれ出血部位に特徴がある.

悪性リンパ腫

著者: 中村文明

ページ範囲:P.1578 - P.1581

ポイント

★リンパ節腫脹では,生検が必要な疾患なのかを考える.

★リンパ節の部位,大きさ,圧痛,硬さ,可動性についてまとめる.

★病歴と所見からリンパ節生検が不要な疾患に診断できなければ,生検を考慮する.

内分泌・代謝疾患

甲状腺機能低下症

著者: 平田匠

ページ範囲:P.1582 - P.1586

ポイント

★甲状腺機能低下症では,全身倦怠感などの不定愁訴で受診されることがある.

★甲状腺機能低下症を疑った場合は必ず甲状腺の触診を行う.

★軽症や中等症では典型的な症状が乏しく,診断に苦慮することがある.

副腎不全

著者: 横田健一 ,   柴田洋孝

ページ範囲:P.1588 - P.1592

ポイント

★副腎皮質機能低下症の診断は,全身倦怠感,易疲労感,体重減少,消化器症状などの非特異的な症状から疑うことが大切である.

★診断は,迅速ACTH負荷試験を行い,ピークの血清コルチゾール濃度が18μ/dl未満のときに確定診断される.

★Addison病の初期は,副腎予備能が残存するために,通常の検査所見では異常を認めないが,副腎機能の低下につれて低Na血症,高K血症,正球性貧血,リンパ球増加,好酸球増加などの異常を認める.

★副腎皮質機能低下症が疑われるときは,検査結果が出るのを待たずに,ただちに糖質コルチコイド補充を行うべきである.

神経疾患

馬尾症候群

著者: 関口美穂 ,   紺野慎一

ページ範囲:P.1594 - P.1597

ポイント

★馬尾症候群は,「腰部脊柱管狭窄」「腰椎椎間板ヘルニア」「馬尾腫瘍」などの疾患で,馬尾部の神経が障害されることにより症状が出現する.

★膀胱直腸障害を伴う間欠跛行は,馬尾障害の可能性が高く重症である.

髄膜炎

著者: 佐久嶋研 ,   佐々木秀直

ページ範囲:P.1598 - P.1601

42歳男性 発熱・鼻汁・頭痛を伴い受診

 7日前より鼻汁および38℃台の発熱あり,徐々に頭痛も伴ってきた.近医内科を受診し,感冒を疑われ総合感冒薬などの処方を受けるも改善せず,総合病院へ紹介となった.

くも膜下出血

著者: 宜保光一郎

ページ範囲:P.1602 - P.1604

ポイント

★常に複数の鑑別診断を頭に入れながら行動する.

★くも膜下出血の初期(いわゆる警告出血)のときは軽症例も多く,見逃しが生じる可能性がある.そのことを認識し慎重に診断を進めていく.

座談会

内科診断のパラダイムシフト

著者: 福原俊一 ,   野口善令 ,   野々垣浩二 ,   徳田安春

ページ範囲:P.1606 - P.1618

これまで,わが国の内科診断では,検査を重視する診断スタイルがなされてきた.これは,病歴,身体診察情報を重視する北米式の診断スタイルとは大きく異なっている.

検査を重視する診断スタイルに伴う弊害とは何か.そして,病歴や身体診察情報から鑑別診断を絞り込んでいく診断スタイルへと変わることには,どのようなメリットがあるのか.

わが国が検査偏重の診断スタイルとなった原因も含め,医学教育,高齢社会,グローバル化など,さまざまなキーワードと絡めてお話しいただいた.

REVIEW & PREVIEW

過敏性腸症候群(IBS)の概念と治療の変遷

著者: 永田博司

ページ範囲:P.1642 - P.1645

最近の動向

 過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)の病因にかかわる機序,分子を標的とした創薬がなされている.特筆すべきは,脳腸相関を介在する神経伝達物質セロトニンが腸管の恒常性を保つだけでなく,IBSの病態生理に重要な役割を果たすことが明らかになり(図1),その受容体を標的とする創薬がなされたことである1,2)

 セロトニンの95%は腸管,なかでも腸クロム親和性細胞(enterochromaffin cell:EC cell)に存在しており,その特異的受容体であるセロトニン(5-HT)受容体は7つのサブタイプに分類されている(表1).ある作用について,受容体によっては互いに相反する反応を示す.5-HT3受容体は下痢型,5-HT4受容体は便秘型IBS治療薬の開発が進められ,わが国で5-HT3受容体拮抗薬,ラモセトロン(イリボー®)が開発された.

連載 手を見て気づく内科疾患・45

総指伸筋腱断裂:関節リウマチの合併症

著者: 松村正巳

ページ範囲:P.1473 - P.1473

患 者:83歳,女性

病 歴:54歳時に関節リウマチを発症し,少量ステロイド,サラゾスルファピリジン,メトトレキサートで加療されてきた.ある日,右中指,環指の伸展ができないことに気づいた.

感染症フェローのシンガポール見聞録・9

SARSとの闘いを経て

著者: 馳亮太

ページ範囲:P.1475 - P.1475

 Tan Tock Seng Hospital(以下TTSH)のメインロビーや病棟には,メッセージ入りの葉書に埋め尽くされた額が飾られています.

 これらは,2003年にシンガポールがSARS(重症急性呼吸器症候群)に襲われた際に,国民から病院職員たちに寄せられた感謝と激励のメッセージだそうです.当時SARSとの闘いの最前線となったのが,この病院なのです.

研修おたく 指導医になる・8

緩和医療を広めたい!―Trial and errorするアメリカ

著者: 白井敬祐

ページ範囲:P.1623 - P.1623

 がんセンターでは日々“Trial and error”が繰り返されています.先日も外来の導線を大幅に変えて,どうすれば患者がスムーズに受診できるかの試みがありました.また,亡くなられた患者さんの子供たちが企画したfund raising “Breath of Life”も,この夏初めて開催されました.もちろん入念に準備をしますが,とりあえず試してみる精神が根底にはあります.子供たちは,自分も社会に影響を与えることができると大きな自信になったそうです.Trial and errorと言うからには,もちろん失敗もあります.がんセンターから特定の宗教色をなくす試みとして,例年行っていた仮装サンタクロースの廃止を発表した時は,全米中のマスコミにつまらない試みだとしてコテンパンにやられ,その日のうちに廃止を撤回しました.今回から数回に分けてアメリカで感じた緩和医療教育の“Trial and error”について紹介したいと思います.

 さて,緩和医療教育をどう進めるか.何を伝えるにも,誰に伝えたいかで伝えるべきことが違います.対象は一般の方,病気に向き合う患者,学生,看護師,経験のある医師などさまざまです.どれだけ多くの情報を伝えるかも重要です.多すぎては焦点がぼけて身につきません.しかし,当たり前のことだけでは退屈してしまいます.どの程度,突き詰めるかも学習者の真剣さによって変えなくてはいけません.何を教えるか迷ったときには,教えられる側にたってみると,教えるべきことが見えてきます.以前に紹介しましたが,僕が医学生に講義をする時に,“Non curable”あるいは,“No more chemotherapy”(使える抗がん剤がない,抗がん剤を使わないほうがいい)ということと“Nothing to do”(何もすることがない)はまったく違う.この一点さえ感じてくれればいいと強調しています.頭でわかっているのと,感じているかは違うのです.

目でみるトレーニング

著者: 川瀬共治 ,   山本舜悟 ,   柳川洋一

ページ範囲:P.1625 - P.1630

皮膚科×アレルギー膠原病科合同カンファレンス・6

頭痛・眩暈・感音性難聴の高齢女性

著者: 岡田正人 ,   衛藤光

ページ範囲:P.1631 - P.1635

後期研修医(アレルギー膠原病科) 今回の患者さんは頭痛,眩暈,ふらつきを主訴に受診された71歳女性です.6カ月前から食欲低下,ふらつき,頭重感が出現しています.4カ月前には上気道炎症状後に左の感音性難聴が出現し,近医の耳鼻科にてステロイド内服を2週間継続しましたが,改善はわずかだったとのことです.3カ月前には左末梢性顔面神経麻痺が出現しましたが,10日程度で自然に軽快しています.2カ月前には口臭がひどくなったと感じて口腔外科を,味覚異常のため脳神経外科も受診していますが,異常は指摘されず原因不明となっています.ここ1週間ほどで頭痛,眩暈,ふらつきが顕著となり,下肢の筋力低下も出現したため自己免疫疾患を疑われ当科紹介となりました.

アレルギー膠原病科医 この時点で,どのような疾患を考えますか.

依頼理由別に考える心臓超音波検査とりあえずエコーの一歩先へ・1【新連載】

依頼理由{その1}息切れの患者さんがいますが,心不全でしょうか?とりあえずエコーお願いします!

著者: 鶴田ひかる ,   香坂俊

ページ範囲:P.1636 - P.1641

連載を始めるにあたって

 循環器内科に依頼したい検査ナンバーワン,それはずばり心臓超音波検査(心エコー)ではないでしょうか? 心電図のようにすぐに誰にでもできるわけではないのですが,侵襲的でもないし,画像は動いてくれてすごくわかりやすい!

心電図に異常があったら,

「とりあえずエコー!」

心雑音が聞こえたら,

「とりあえずエコー!」

心臓に持病があるけど,手術だいじょうぶかな?

「とりあえずエコー!」

身に覚えがないですか?

 しかし,エコーはその四半世紀にわたる歴史のなかで大きな進歩を遂げ,決してEF(ejection fraction)の計測だけがそのすべてではありません.現在の心エコー検査の報告書には実にたくさんの情報が記載されてきます.心臓そのものの大きさや収縮能(いわゆるEF)と拡張能は基本として,ドプラー法を使った心拍出量など血行動態に関するパラメーター,弁膜症の重症度,肺血管系の情報,肺高血圧の程度,疣贅の有無,そして心膜や心囊液まで評価可能です.

こんなときどうする?内科医のためのリハビリテーションセミナー・6

片麻痺(脳梗塞)②外来:維持期

著者: 鈴木文歌 ,   上月正博

ページ範囲:P.1646 - P.1649

症例

〔82歳,男性〕

 51歳から糖尿病を指摘され,インスリン療法を開始.15年前に脳梗塞を発症し右片麻痺となり,当院に入院し回復期リハビリテーション(以下,リハ)を施行された.退院時,T字杖+短下肢装具で屋内歩行自立,屋外車いすで自宅退院.その後,外来通院を継続していた.介護保険でのデイサービスを週1回利用しリハを続けていたが,徐々に自宅での活動性が低下し,数年前より全身浮腫が進行した.今回,下痢症状を契機に下腿浮腫が著明となり外来受診し,急性心不全のため入院した.

Festina lente

医師の絵

著者: 佐藤裕史

ページ範囲:P.1651 - P.1651

 その名もずばり「医師」The Doctorという絵がある.英国の画家Sir Samuel Luke Fildesの1891年の作.重症で気息奄々とする幼い娘が椅子に横たわり,傍らには悲嘆にくれて食卓に突っ伏す母と呆然と立ちすくむ父がいて,窓からうっすらと明け方の光が差し始めているが室内はなお暗い.往診に訪れている初老の医師は厳しい表情で娘をみつめて体をかがめ,そこで夜を徹したようにみえる.この絵は画家自身の思い出を描いたものだそうで,二人いた子どもがともに肺炎になり,息子は既に落命し,娘もあわやというところに往診にかけつけた医師の姿を描いたものらしい.

 十九世紀末の英国ではこの絵の複製が医師にたいそう人気を呼び,方々の病院の壁に飾られたという.実物はLondonの現Tate Britain(旧称Tate gallery)のラファエル前派の絵をたくさん掲げている部屋にあるが,案に相違して3m×2mくらいの非常に大きな絵で,画面は画集でみるより遥かに暗く,周囲にかかる他の世紀末絵画の華やいだ洗練とは好対照であった.

医事法の扉 内科編・21

療養指導義務

著者: 福永篤志 ,   松川英彦 ,   稲葉一人

ページ範囲:P.1652 - P.1653

 療養指導義務(医師法23条)とは,医師が診療をしたときに,患者あるいは患者の家族に対し,日常生活上の注意事項を指導しなければならないことをいいます.患者の病状を改善させるためには,病院内でのわれわれの治療行為だけでなく,患者自身の日常での療養が不可欠ですから,単に患者任せにするのではなく,われわれに医学専門的なアドバイスをするよう法的に義務付けたのです.ただ,その義務に違反しても罰則はないので(医師法33条の2第1号参照),訓示的規定であるとされています1).保険医に対しても同様の規定があります(保険医療機関及び保険医療養担当規則13条).

 患者あるいはその家族に対して説明するという点では,本連載第6回から第10回でとりあげた説明義務(民法645条,医療法1条の4第2項参照)と類似しています.説明義務は,医師患者間の紛争で最も争点となりやすい義務の1つであり,療養指導義務も,しばしば争点となります.今回は,この療養指導義務をとりあげ,その具体的内容と,われわれがどのような点に注意したらよいのか,最近の判例はどのようなものかなどにつき検討していきます.

書評

―IDATENセミナーテキスト編集委員会 編―病院内/免疫不全関連感染症診療の考え方と進め方―IDATEN感染症セミナー

著者: 香坂俊

ページ範囲:P.1495 - P.1495

 ああ,またですか.抗菌薬の選択が議論にもならずスルーされていくのをみて,僕はため息をつきます.しかも,よりによってカテーテルをそのまま残しておいていただいているなんて,培養はどうなっているのでしょうか? もう提出済みですか? しかも,そのサンプルは2セットともカテーテルから取ったから問題ない? いやあ,感激です.これで緑膿菌が出たらコンタミでも何でも治療を開始できますね.え,もうメロペネムが使われている? それはもう神の一手ですね.文字通り言うことは何もありません.

 臨床感染症というのはもっといろんな科の先生が知っていてもいいのではないかと思います.そのうえで身近な疑問に答えていただけるエキスパートがいてくれるとありがたいのですが,そんなぜいたくは望んではいけませんよね.かといって成書を読んでもきめ細かいところがわかりません.分量も多いし,別にわかっていることを全部書いてくれなくてもいいのですよ.培養の取り方とカテ抜去のタイミング,そこが知りたいのです.

―Stuart Porter 著 武田裕子 訳―ここからはじめる研究入門―医療をこころざすあなたへ

著者: 前野哲博

ページ範囲:P.1557 - P.1557

 研究は研究者がやるもので,臨床医がやるものではない――学生時代・研修医時代,私はそう思っていた.大学の先生からは,「臨床医だからこそ研究に取り組むべきである」とよく言われていたが,当時はどうしてもそう思えなかった.

 そんな私も,後期研修が終わるころ,次第に研究に少し興味をもつようになり,軽い気持ちで研究に取りかかった.実際に取り組んでみると,その奥の深さに驚き,研究とはこんなに大変なものかと愕然とした.ようやく一つの論文を仕上げてみて,やっと臨床医が研究に取り組む意義を実感できたが,もし,こんなに苦労することを最初から知っていたら,研究をやってみようとは思わなかったかもしれない.思えば,研究のプロダクトである論文はいくらでも読む機会があるが,そのプロセスについて学ぶ機会は少ない.研究の進め方について書かれた本もあるが,研究をライフワークにしている研究者が,同じような道を選ぼうとしている人に向けて書かれたものが多いのではないだろうか.

information

第4回ISMSJ(International Sleep Medicine Society Japan;日本臨床睡眠医学会)学術集会

ページ範囲:P.1484 - P.1484

日時●2012年9月14日(金)~16日(日)

会場●神戸ファッションマート(神戸市六甲アイランド)

平成24年度日本透析医会公募研究助成のご案内

ページ範囲:P.1544 - P.1544

目的●当会は,適正な人工透析療法を普及し,技術及び安全性,有効性の向上を図り,関係者の教育研修を行うとともに,腎不全対策の推進並びに災害時における透析医療の確保に資する事業を行い,もって国民の保健・福祉の向上に寄与することを目的としています.

 この目的に適うものと期待される腎臓病研究者及び腎不全医療従事者の学術研究に助成します.

日本透析医会研修セミナー透析医療におけるCurrent Topics 2012(名古屋開催)

ページ範囲:P.1577 - P.1577

主題●維持透析の「今」を問う

日時●2012年10月21日(日) 9:00~16:10

場所●名古屋クレストンホテル クレストンルーム(名古屋PARCO西館9F)

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バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.1660 - P.1661

購読申し込み書

ページ範囲:P.1662 - P.1662

次号予告

ページ範囲:P.1663 - P.1663

編集室より

著者:

ページ範囲:P.1664 - P.1664

●今月は内科診断について特集いたしました.内科におけるさまざまな領域の疾患に対して症例を挙げ,鑑別診断の絞り込みや検査へと進むタイミングなども含め,なぜその診断に至ったのかという思考プロセスを,明確に,わかりやすくご説明いただきました.

●また,本号より新連載「依頼理由別に考える心臓超音波検査─とりあえずエコーの一歩先へ」が始まります.ぜひ,ご一読ください.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻12号(2023年11月発行)

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60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

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特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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