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雑誌目次

雑誌文献

medicina5巻1号

1968年01月発行

雑誌目次

特集 古い治療から新しい治療へ

ジギタリス剤

著者: 高安正夫

ページ範囲:P.29 - P.32

 ジギタリス剤が心不全の治療になくてならない重要な薬剤であることは昔も今も変わらない。年年各国で新薬の開発に非常な努力がはらわれ,強心剤についてもたくさんの薬剤が出されてはいるけれども心不全に対するもつとも基本的な治療剤としては,なんといつてもジギタリスに代わるものはみられない。しかし,その薬剤の形あるいは投与のしかた考えかたについてはかなり変遷がみられるので,これら以前のこともかえりみながらちかごろ使用せられている製剤について,その投与法や注意など主として私どもが日常行なつている方法を中心に述べてみよう。

ペニシリン

著者: 勝正孝

ページ範囲:P.33 - P.37

 ペニシリン(PC)はいわゆる抗生剤時代開幕の主役をはたした卓抜なる治療薬である。
 PCが広く臨床に使用せられてからすでに20年以上を閲している。

降圧剤

著者: 大島研三

ページ範囲:P.38 - P.39

歴史と現状からみた問題点
 降圧剤は過去約10年にわたり,本質的にはほとんど変わつていない。Rauwolfia serpentina剤が文明国の臨床に応用されはじめたのが1950〜1953年であり,また最初の利尿降圧剤であるChlorothiazideが開発せられたのが,1955年前後であり,また交感神経節遮断剤の最初のものであるmethobromineが臨床応用されはじめたのが1952年であるから,1950年を境として,治療法に画期的の変化がおこり,その後この3者を出発点とした諸種の誘導体がつくられ薬品の種類は多数を数えるにいたつたが,治療の形式は本質的には変わつていない。
 このようにひとつの薬剤が12〜15年の長きにわたり,王座の位置を護りつづけることは珍しいことであるが,長年の経験を経て残つたことは,優秀性が実証されたわけで,それはまた長期の療養を必要とする高血圧の場合において,患者にとつてこの上ない利益でもある。

副腎皮質ステロイド剤

著者: 梅原千治

ページ範囲:P.40 - P.43

 副腎皮膚ステロイド療法が,こんにちの時点で新しい治療といえるかどうかたいへん疑問であり,その功罪についてはほぼ評価が定まつた薬剤といえる。その詳細については,べつに拙著を参考にされたい。
 ここでは,それが学問的に正確な資料にもとづかない部分もあるが,私が17年間副腎皮質ステロイドを手がけてきた経験の二,三を述べてみたいと思う。

制酸剤

著者: 増田久之

ページ範囲:P.44 - P.48

 制酸剤は胃内で塩酸を中和,結合し,その作用を除去,抑制する薬剤である。制酸剤は昔から消化性潰瘍の治療に用いられていたが,近代医学でも潰瘍治療に最初に使用されたのは石灰水,マグネシウム塩,炭酸ソーダ,蒼鉛剤,牛乳などの制酸剤で,アルカリ療法の時代とよばれた。その後,潰瘍治療は飢餓療法の時代になつたが,1912年Sippyが持続的酸中和を提唱して以来,制酸剤がふたたび脚光をあび,重曹が主役に選ばれた。この持続的酸中和の治療概念はこんにちでも生きているが,重曹などの水溶性制酸剤は吸収されて酸塩基平衡を乱し,腎結石を生ずることなどの副作用と頻回投与の繁雑さが指摘され,しだいに非水溶性,持続性のものに代えられている。しかし重曹の臨床効果,速効性はなお広く賞用され,胃分泌抑制剤などと用いられている。
 このような制酸剤は本来の目的での使用のほか,賦形剤,添加剤としても用いられ,もつとも頻用される薬剤の一つである。しかし後者の意味の使用に慣れて,制酸の目的の使用にさいしても,漠然と食後に他薬剤と併用投与され,十分な制酸効果の得られない場合が少なくない。それで制酸剤について検討を加え,合理的な使用法を考えることにしたい。

座談会

薬物療法のうつり変わり

著者: 真下啓明 ,   菅邦夫 ,   常岡健二 ,   西村昂三 ,   日野原重明

ページ範囲:P.50 - P.58

 次々と作りだされる新薬の洪水の中で,薬物療法は,すつかり昔と様相を変えてしまつたかにみえる。が,いたずらにそれにおぼれることなく,"古きをたずねて新しきを知る"こともまた意義あることではなかろうか。

Leading Article

内科専門医の資質

著者: 日野原重明

ページ範囲:P.25 - P.27

内科専門医制度発足まで
 こんにち,欧米諸国のほとんどに内科その他の専門医制度が実施されているが,日本では,最近になつて,ようやく専門分科の諸学会によつてこれがとりあげられるようになり,ほかの多くの学会もこの発足の準備態勢にある。
 専門医制度を早くから発足させたアメリカの歴史をみると,眼科専門医の発足が1916年でいちばん早く,耳鼻咽喉科専門医制がこれにつづき,以後1949年までに19の分科の専門医認定委員会が発足している。そのなかで,内科専門医制は1963年から実施され,外科はその翌年に発足している。

EDITORIAL

薬の選択について

ページ範囲:P.59 - P.59

抗生物質の使いかた

著者: 長谷川弥人

ページ範囲:P.60 - P.60

 抗生剤を使用する医師を3群に分けることができると思う。まず発熱患者をみれば,すぐ投与する薬局型,次は菌の感受性を一応しらべるが,その成績に依存する過信型,先人の経験を尊重し,病型,薬剤の特異性を考慮して使用する適正型とである。抗生剤の感受性測定はかなり変動があることは英国臨床病理学会の報告をまつまでもないし,また過信すべきでないことは先人の常に強調するところである。しかるに多くの医師は今なおII型に止つているのはなぜだろうか。
 思うに,多くの感染症は自然治癒力があるので,多少適正でない抗生剤を使用しても治癒するので,安易に考えているのでなかろうか。しかし重症感染症,たとえば敗血症,亜急性細菌性心内膜炎では適正な治療でないと治癒しないのみならず死亡するのである。たとえばこれらの症例に原因菌が感受性であるとの理由で,先人の警告を無視してまずTC,CM,EMなどを使用して,死に至らせている例が,残念ながらかなりしばしば医学雑誌にみられるのである。これより推測すると,かなり多くの方が,このような間違つた治療法をしていることが明らかである。

くすりの効きめ—臨床薬理学入門・1

臨床薬理学のすすめ

著者: 鈴木哲哉

ページ範囲:P.61 - P.63

 患者を吐かせるにはどんな薬を使つたらよいか。下剤をかけるにはどうすればよいか。発汗させようとしたら何がよいか。こういう質問になら薬屋の小僧でも即座に答えることができる。だがもし,そのためにいちばんよい薬を使わねばならないとしたら,全然べつの人からの情報が必要となる。その職業の領域で少なからぬ実地体験をもつた人からの情報である1)

病歴のとりかた・1

呼吸器疾患

著者: 河盛勇造

ページ範囲:P.64 - P.66

 予診のとりかたしだいで,診断が容易になつたり,あるいは思わぬ誤りをしてしまうのは,呼吸器疾患にかぎつたことではない。しかし最近老年層人口の増加や,結核が化学療法によつて死亡を免れるようになつたことなどにより,特に複雑化した,肺・気管支系の疾患では,病歴をとる場合に留意せねばならぬ事項が,増えてきたと思える。予診のために時間をかけるのが,なんだかもどかしく,また興味のうすいことのように考えられがちであるが,呼吸器疾患の診療にさいしては,このむだに思える努力によつて,最終的には貴重な時間と,精神的,肉体的労力を節約できるものであることを,最初に強調しておきたい。

痛み

第1部 人は痛みとどうたたかつてきたか

著者: 清原迪夫

ページ範囲:P.67 - P.69

はじめに
 現在では,生後3カ月ごろから始まる予防注射が,私たちが生涯対決しなければならない痛みの受けはじめだろうか。もちろん,生命誕生のよろこびの前には,分娩に伴う痛みがあつて,これが腹を痛めたきずなとして母と子とを永遠に結びつけているわけである。ときには,奇型のあるために,生まれおちて何時間もたたないうちに,メスの洗礼を受ける新生児もいるが,こういう例外はべつとして,とにかく,これから幾十年の人生で遭遇する,さまざまな傷害や炎症,そして最後の死にいたるまで,私たちの日常生活のなかに,痛みの問題は幻影のようにつきまとつていて,ひどい痛みが起こると,ことのたいせつさを明確に知らせてくれる。
 痛みの問題は,個体発生の立場からみても,また系統発生的にながめても,日常切実な問題である。痛みが起こると,一刻も早くのがれたいと思う。そのように,だれでもが知つている感覚でありながら,実はその成立する仕組みの詳細がわかつていないから,定義することはむずかしい。

目で見る神経病学・6

脳神経の診察

著者: 本多虔夫

ページ範囲:P.70 - P.72

 脳神経症状はしばしばその神経疾患の原因について重大なヒントを与えるからこの検査を正確に行なうことは重要である。たとえば片麻痺のある患者にVI脳神経麻痺がみつかれば脳卒中よりも脳腫瘍が考えられるし,対麻痺の患者に視神経炎がみつかれば脊髄腫瘍脊髄炎よりも脱髄疾患が考えられるがごとくである。
 脳神経を診察するにあたり実際にだいじなことはIからVIIの脳神経を全部詳しく調べようとせず,特に重要な神経に注意を集中することである。これにより比較的短時間で重要なみおとしをせずに脳神経の診察をすることができる。

グラフ

胃生検(カラー)

著者: 春日井達造

ページ範囲:P.14 - P.18

 胃生検は数十年以前より盲目的に,あるいは直視下に各種の装置を用いて実施されてきた,胃炎の診断研究を主な目的とした盲目的な吸引生検はさておき,直視下の狙撃生検はさまざまな生検用胃鏡を用い内外の一部研究者により行なわれたが,ルチーンの胃癌診断法の地位を確立するまでに至らなかつた。しかし,Hirschowitz(1958年)がファイバースコープを発明して以来,本器の開発改良がきそつて行なわれ,近年生検用ファイバースコープが開発されるに至り,胃癌の生検診断が容易となり,早期胃癌診断に欠くことのできない臨床検査法の一つとなつた。
 私どもは内視鏡で発見された病巣に対してファイバーガストロスコープによる直視下生検を実施し,早期胃癌の診断成績の向上を計つている(下表)。以下早期胃癌の2症例を供覧する。

肺の空洞—X線映像と病理像

著者: 江波戸俊弥

ページ範囲:P.19 - P.22

 胸部X線所見で透亮影を現わすものは結核以外にも肺化膿症,気管支拡張症,嚢胞性肺気腫,さらには肺がんなどもある。しかしなんといつてもわれわれがしばしば出会うのは肺結核の空洞である。空洞は結核性炎症が壊死を起こし融解して排出されたあとにできた腔所であるが,その治癒の形式には瘢痕化,被包化(濃縮),開放性治癒の3形式がある。今回は最近の化学療法の発達によりその可能性が多くなつた開放性治癒の過程を写真により供覧してみようと思う。

講座 不整脈の心電図・1

期外収縮

著者: 五十嵐正男

ページ範囲:P.94 - P.98

 不整脈の種類は数多くありますが,大きく分けるとつぎの三つのうちのいずれかに属します。1)電気刺激が洞結節に発生して拡がり,心室のパーキンジェ線維末梢に達するまでの伝導に異常があるか,2)洞結節以外のところから刺激が発生したか,3)その両者が加わつて起きたか,のいずれかです。
 以下6回にわたり,不整脈の基礎的なメカニズムを電気生理の面を中心にして考えてゆきたいと思います。

臨床家の生理学

ベクトル心電図入門

著者: 戸嶋裕徳

ページ範囲:P.100 - P.105

 ベクトル心電図は,図形として観察されるため,心電図に現われない変化が敏感に形に表現されるという利点をもつている。とかく難解なものとして敬遠されるむきも多いようだが,臨床的にはきわめて有用である。

器械の使いかた

肺活量計

著者: 梅田博道

ページ範囲:P.106 - P.107

肺活量を見なおそう
 肺活量の概念は,古くHutchinsonに始まり,その測定はよく知られている。つまり,肺活量とは最大吸気にひきつづいて,肺から吐き出しうる最大のガス量をいう。しかし,この場合,ゆつくりと吹かせるか,できるだけ力強く呼出させるかが問題である。
 昔は,解剖学的な肺の大きさを知る指標としてのみ肺活量を使つた。つまり,ガス量,volumeの測定だけであつた。現在では,これに加えて,肺活量を吹く時間も考慮し,空気の流れ,つまり流量も問題となつている。したがつて,最大吸気位からゆつくりと頑張つてはき出す肺活量と,最大吸気位からできるだけ力強く一気にはき出す努力性肺活量をわけて測定し,換気障害を区分しなければならない。このためには従来のHutchinsonの肺活量計ではだめで,どうしてもスパイログラフィーが臨床に必要だということになる。ここに肺活量計の使い方というテーマを頂戴したが,今や肺活量計とはスパイロのことをいうと考えていただきたい。つまり,肺活量を新しい立場で見なおそうというわけである。

ファースト・エイド

変わつてきた救急処置—シヨック

著者: 五十嵐正男

ページ範囲:P.110 - P.112

 患者の脈は糸のように細く,血圧は触診で60mmHg,手足が冷たく,皮膚に鳥肌がたち,冷汗をびつしよりかいている。意識は多少混濁している—こんな状態がショックの典型的なものである。病態生理的にいえば組織での血液循環を正常にたもつために必要な血液量を十分な血圧でもつて心臓から送り出せない状態である。このような患者が自分の前におかれたらどのように考え,どのように処置したらよいか,順を追つて考えてみよう。

症例 全身性疾患と骨・1

片麻痺と骨萎縮,脱臼

著者: 平方義信

ページ範囲:P.116 - P.120

 昨年12回にわたる連載症例「全身性疾患と肺」は,臨床医学研究の新方向を提起するものとして,たいへんなご好評をいただいた。ひきつづき,6回連載の予定で「全身性疾患と骨」をおとどけする。

胃間接フィルムの読み・1

胃の変形ということ

著者: 高橋淳 ,   丸山道懿

ページ範囲:P.113 - P.115

 胃がんや胃潰瘍はわれわれの目の前に現われずに死亡したり,そのまま放置されているケースが意外と多いものである。集団検診の必要な基盤はここにあるわけだが,ここで問題となるのは間接フィルムの読影であろう。このシリーズは間接フィルムによる胃疾患のひろいかたにアプローチすることである。

血液凝固障害の診断演習

ハーバード大学医学部血液学講義および実習用プリントから

著者: ,   天木一太

ページ範囲:P.121 - P.127

 本文は,ハーバード大学の医学部(Medical School)の2年生の血液学講義および実習用プリント(1966年版)のなかの,血液凝固の部の実習XおよびXI Case Solving Problemsを,担当者Dr. Deykinの了解を得て邦訳したものである。2年生の実習としては,非常に高級なものであるといえよう。また,米国で先輩が後輩と討論しながら,教育をしているようすもうかがわれる。
 血液学の講義と実習は,1月18日から2月8日まで(延べ18日間),毎日朝8時30分から午後12時30分まで(3時間),講義と実習をとりまぜて行なわれた。そのスケジュールは,最初から全部きまつていて,プリントの初めの頁に印刷されて,配布される。講師陣は,悪性貧血の内因子で有名なWilliam B. Castle教授をはじめ,有名無名15人の血液学専門医が,そのもつとも得意とする分野を担当しており,最新の知識までを含んでいて,まことに壮観というほかはない。

統計

糖尿病の患者と死者・1

著者: 菅沼達治

ページ範囲:P.11 - P.11

 糖尿病患者の統計は,伝染病のように医師の方たちに届出の義務がありませんので,全国的に完全なものをみることは不可能です。ここには国民健康調査という世帯の側から疾病を把握する調査の結果を,表にかかげました。これは医学的にはしろうとの調査員が,家人から疾病名をたずねるのですから,その正確性はやや劣ることが考えられます。しかし顕在性であるかぎりは,そのために医師の診断を受け,その病名が答えられるわけです。
 表によりますと,1年間に国民1万人当たりの罹患率は,10年前の29〜31の3年間では年間平均して2.4という低率でした。その後32〜34年は大きな変化はなく,35〜37年にいたり約3倍に,さらに38年〜40年では12.3と5倍に増加しています。すなわち,最近では1年間に12万人が糖尿病にかかることになります。このような罹患率の増加は,次号で述べるように医師にかかる患者が増え,それまでは気づかずにいたか,がまんしていた患者が,本調査で糖尿病と答えることが多くなつたことも一因と考えられますが,最近の死亡の増加をも考慮しますと,国民のあいだに本疾患が増えていることも事実だと思われます。

検査データどう読みどうする?

カンジダ培養陽性

著者: 大久保新也

ページ範囲:P.12 - P.12

カンジダ属は人体の常在菌であること
 カンジダ属は人体の諸部に特別の疾病的意義なく腐生的saprophyticに広く分布している常在菌であり,また自然の状態において人体以外からほとんど培養されたことがない。したがつて人体に由来する検査材料からカンジダ培養陽性ということはむしろあたりまえのことであるといつても過言ではない。

インタビュー

幸福で有意義な健康・長寿を—衛生統計の草分け渡辺定氏に聞く

著者: 渡辺定

ページ範囲:P.74 - P.75

喘息と私
 —お小さいときからお体が弱いとうかがつておりますが
 渡辺 私は2歳から虚弱体質のうえにひどい喘息でした。もう死ぬと周囲から思われたことがなんべんもありました。尋常,中学,高等学校を通じてしよつちゆう大きな発作を起こしたものですよ。それから東大へ入つたのですが,この喘息のおかげで勉強の面でもずいぶん損をしましたね。

第一線の立場

工場勤務医の待遇改善を

著者: 篠田太郎坊

ページ範囲:P.79 - P.79

 私は昨年暮れまで工場医をしていたので,私の不満,要求などを述べ,その実状を訴えてみたいと思う。工場医は生命保険医と同じく,卒業後,早く就職すべきである。それはまず就職と同時に課長待遇は受ける。そして従業員たちのあこがれの的であり,自分の子も大きくなつたら医者になそうなどの声を聞く。それはふつうの者は一生かかつても課長になれぬ者が大部分で,なつても大体,35歳を過ぎなければなれないからである。
 しかしながら心の底は嫉妬と反抗心に満ちている。病気をした時は頭を低うしてお世辞を言つてくるが,心の中はまつたく反対で,この野郎,年若受して課長待遇なんて,資格もないくせになんて思つている。野蛮な島国根性の日本人の通有性である。欧州に行つてドクターといつたら絶体的に尊敬されるし,米国でもアンケートで医師が一番に尊敬されている。

ずいひつ

睡眠と夢

著者: 時実利彦

ページ範囲:P.76 - P.77

手枕や,春眠覚むること勿れ
 「デカンショ,デカンショで半年暮らす,あとの半年や寝て暮らす」と歌にはあつても,実際に半年もの長い長い眠りがあつたら大変。反対にまつたく眠らなかつたら,これまた大変なことである。人間は発狂して死んでしまう。断食ストはあるが,断眠ストにはお目にかかれない理由である。
 ではいつたい,ぎりぎり何日間眠らないで頑張れるだろうか。N. & R. McWhirterの"TheGuiness Book of Records"(1965)〔武富・井上訳:これが世界一,竹内書店〕によると,フィンランド人がたてた276時間(11日半)が一応公認のレコードになつている。しかし,これには学問的資料は添えてない。学術論文として報告されている不眠め記録は,1963年にアメリカで,17歳の高校生が行なつた264時間の断眠実験である。この実験も,あまり厳重な管理のもとに行なわれていないから,あまり信用できそうもない。

全国教室めぐり

力点は臨床教育の充実に—東北大学山形内科

著者: 山形敞一

ページ範囲:P.80 - P.80

 われわれの内科は山川章太郎教授が米国のロックフェラー研究所野口英世研究室から帰国されて大正7年6月開講されたので,当時は代謝の仕事が主であつたが,昭和7年黒川利雄助教授がウイーン大学の応用生化学研究所と放射線学教室の研究を終えて帰国されてから消化管のX線診断がこれに加わつた。したがつて,教室創始以来米国流とドイツ流の医学の長所がとりいれられていたと思う。
 私は黒川内科の助教授のとき,昭和29年7月から1年間ドイツに留学し,ハイルマイヤー教室で血液学と臨床細胞学,ヘンニング教室で消化器病学と内視鏡学を研究し,あわせてドイツ医学者の研究態度と研究室のありかたを自ら体験した。また昭和32年教授に昇任してまもなく,昭和35年3月から4カ月間China Medical Boardの招聘でミシガン大学ポラード教室を中心として,米国各大学の研究室と医学教育制度を視察する機会に恵まれた。

臨床メモ

痔—その効果的処置

著者: 隅越幸男

ページ範囲:P.98 - P.98

 痔の症状は,大別すると出血,疼痛,脱出の三つである。出血,疼痛を訴え,たいして脱出のない,一,二度の痔核は,便通を調整し,局所を清潔にし,血流をよくしておく,いわゆる肛門衛生に留意し,あわせて坐薬,軟膏,内服薬など,保存的処置によつて十分改善されるものである。痔といえば,すぐ注射,手術を考えることはよくないことで,悪化した発作状態,すなわち肛門部のうつ血がとれれば疼痛もなくなり,自然に止血するものである。肛門静脈叢の病変が,リバーシブルの間は上記の保存療法を行なうべきである。発作をくりかえして長い間に慢性化して静脈壁およびその周辺の支持組織が弛緩してしまうと肛門外に全周が脱出をきたし,立つていても,歩行していても出てくるようになると,これは切り取る以外に方法はない。しかしこの場合でも特別に本人が苦痛を感じなければあえて手術を必要とすることはない。かりに手術をするにしても,結紮切除法でまつたく簡単に,疼痛少なく,後遺症もなく治癒するので,昔の痔の手術を考えると,うそのようである。
 保存的処置として注意すべき点は,急に肛門に疼痛を訴えて脱出したさいで,これに二通り考えておく。

"忘れつぽい"とは

著者: 浦田卓

ページ範囲:P.112 - P.112

 おもしろいことに,生理的な"忘れつぽい"現象が訪れるのは,がん年齢つまり45歳前後のようである。もちろんがんを生理的なものというわけではないが,生体のコントロールのしくみの衰えの一つの現われとみなせば"忘れつぽい"も生体のコントロールのしくみの衰えであるといえるからして,"忘れつぽい"とがんを,人生のたそがれを示唆する,精神的機能と身体的機能のそれぞれの二大失調症状といえなくもなかろう。
 こういう観点にたつ人たちは,"忘れつぽい"という現象の進行度は,脳の動脈硬化の進展度とある程度平行している,と画一的に推測する。しかし,こういつた説に不利な実験もないではない。たとえば,アメリカで行なわれた実験であるが,生活そのものがかかつている仕事についている70歳以上の老人に,まつたく意味のない乱数表を見せ,これをある一定期間に記憶してこなければ馘首する,と脅したところ,若い人に比べてまつたく遜色のない成績をあげたという。

話題

経口避妊薬と血栓症,など—第8回日本脈管学会から

著者: 藤田勉

ページ範囲:P.49 - P.49

 独自の研究テーマの尊重 第8回日本脈管学会は,神戸大岡本彰祐会頭のもとに11月17,18の両日開催された。本学会の特徴は,西丸日本脈管学会長が会長講演でも述べたが基礎ならびに臨床の各部門にわたる医学者で構成する点であり,他の分科会に比しきわめて特色ある学会といえる。今回は,特に岡本会頭の構想になる「独特の発想になる研究テーマ尊重」によりシンポジウムはテーマを指定せず,現代日本脈管学を背負う第一線の研究者28名が独自の研究テーマを特別講演形式で報告されたことは,けだし壮観であつた。ただ惜しまれたことは,時間的関係からとはいえ,特別講演と一般講演が重複し,学会参加者全員が特別講演の討論に加われなかつたことである。一般講演も261題報告され,全部の印象を紹介することができないが,話題になつた二,三の間題を中心に紹介する。

今月の表紙

チェディアック・東の異常症・1

著者: 日野志郎

ページ範囲:P.63 - P.63

 Chediak-Higashi's anomalyは,常染色体性劣性遺伝をすると考えられる。わが国での報告は6家系あるにすぎない。幼児にみられることが多く,シラコで羞明があつたり,かえつて皮膚に色素の異常沈着をきたしたりする。感染症にかかりやすい。肝脾腫・リンパ節腫を起こし,しばしば黄疸を呈する。大部分は10歳以下で死亡する。
 この珍しい病気をなぜ持ち出したかというと,これには白血球の顆粒に特異的な異常がみられ,こんな病気があるということさえ知つていれば,容易に診断がつくからである。

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感冒をめぐつて—呼吸器臨床談話会より

著者: 長岡滋 ,   岡安大仁 ,   田中元一 ,   三上理一郎 ,   宮本昭正 ,   可部順三郎 ,   古家堯 ,   福島芳彦 ,   芳賀敏彦 ,   長沢誠司 ,   吉田清一 ,   飯守忠康

ページ範囲:P.130 - P.135

 第一線の診療に立つと,かぜほどポピュラーな病気はほかに類をみない。寒さにむすびついて,体験的にできあがつた万人の病気である"かぜ"を,ひとつの学問の場で考えなおしてみると,まつたくつかみどころのないやつかいなものである。

略語の解説・1

著者: 阿部正和

ページ範囲:P.9 - P.9

ABOB N-′N′-anhydrobis-(β-hydroxyethyl) biguanide hydrochloride:抗ウイルス物質,特に「かぜ」の治療に用いられる抗ウイルス物質として唯一のもの。すべての「かぜ」ウイルスに有効というのではない。現在までに効果が認められているのは,インフルエンザウイルスおよびアデノウイルスである。効果の程度は,細菌性疾患に対する抗生物質の効果のように強力ではない。できるかぎり早期に開始し,下熱後2日までくらいつづけるのがよい。特に忌むべき副作用はない。

きのう・きよう・あした

著者: 砂原茂一

ページ範囲:P.73 - P.73

某月某日
 きようは水曜日である。
 きのうも労働省のリハビリテーションについての委員会にかり出されたが東京にいるといろんな会合に引つぱり出され病院を留守にしがちである。そこで水曜日だけはなにがあつても断わることに決めているのである。委員会などの場合はあらかじめ「永曜日はだめだ」と宣言しておけばいいのだが,このごろどういう風の吹きまわしか,たてつづけに水曜日に告別式が行なわれたのにはまいつた。こればかりはどうにもならない。

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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