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雑誌目次

雑誌文献

medicina5巻10号

1968年10月発行

雑誌目次

100万人の病気

腰痛—発生要因と診断を中心に

著者: 吉田赳夫

ページ範囲:P.1168 - P.1173

 腰痛と骨X線異常との関係は,必ずしも1対1の対応を示さない.その原因はさまざまで,単なる疲労にすぎないものから,内科的疾患が隠れている場合,あるいは骨X線異常があって,さらに内科的疾患が見のがされている場合もある.診療にあたっては,医師としての常識が全的に活用されねばならないゆえんである.

座談会

腰痛

著者: 森崎直木 ,   平方義信 ,   木下佐 ,   佐々木智也

ページ範囲:P.1174 - P.1181

 腰痛というと,どの本でも椎間板ヘルニアとか脊椎のすべり症などに主眼がおかれている.患者の数や病気の起こり方を考えると当然なことだが,そういう教科書に詳しく書かれていない周辺にも多くの問題が存在する.

Leading Article

卒後研修病院のあり方

著者: 高岡善人

ページ範囲:P.1165 - P.1167

法案成否のカギを握る研修病院の指定と整備充実
 今回の医師法の一部改正の最も大きな重点は付帯決議がつけられていることであって,これが忠実に実行されてはじめて生きた法律になる.したがって問題はむしろ今後に残されている.今こそ明治以来百年の反省をなすべき時であり,早急に解決すべき問題と恒久的に対策をねるべき問題とがかみあっている.この中で研修病院の指定と整備充実こそはこの法案の成否を握る重要なカギであることは申すまでもない.
 現在指定されている研修病院は若干の例外はあっても(たとえば長崎で指定されてしかるべき病院が締め切りにまにあわなかったとかで落ちている),これまでのインターン指定病院に比べればはるかに妥当な線といえるかもしれない.その意味ではいまわれわれはスタート台に立っているスポーツ選手に似ている.多くの期待と不安とが交錯する中で勇気をもって進まねばならない,その中でも最も勇気をふるって取り組まねばならない中心課題は大学病院であって,従来の官僚的考え方では解決できない難題を多数かかえており,この解決の方向こそ他の研修病院の運命を左右する状態にある.

診断のポイント

心房中隔欠損症

著者: 依藤進

ページ範囲:P.1184 - P.1186

一次口欠損症と二次口欠損症
 心房中隔欠損症には一次孔欠損症と二次孔欠損症があり,圧倒的に数が多いのは二次孔欠損症で,ふつう心房中隔欠損症といえば二次孔欠損症をさしているので,ここでも主として二次孔欠損症について述べるが,特に断わりなしに心房中隔欠損症といえば.二次孔欠損症をさしているものと思っていただきたい.
 経静脈性にカテーテルを左房に挿入し,そこから注入した造影剤が右房をも造影することができれば,診断が確定し,また心臓カテーテル法で,肺動脈圧,心送血量.シャント血量を測定すれば,その程度が判定できることはいうまでもないが,そんな味気ない話は述べないことにして,推論の妙味を味わいつつ診療を続けていく平凡な内科医に必須な診断のポイントを述べることにしよう.

老人の喘息

著者: 川上保雄

ページ範囲:P.1187 - P.1188

 老人の喘息は原因・症状・予後・治療などの面においても,いろいろ若年者の喘息とは異なった特色があるが,ここでは診断面に重点をおいて,その主要ポイントについて述べることにする.

負荷心電図の読みかた

著者: 水野康

ページ範囲:P.1189 - P.1190

 心電図に特徴ある変化がみられるときは,狭心症(冠不全)の診断は容易であるが,安静時心電図で異常所見のみられないことも多い.このような潜在性冠不全の有無を確かめるには,なんらかの方法で冠不全の状態を再現させて心電図をとらねばならない.この誘発法として,運動負荷,薬物負荷,低酸素負荷などが用いられている.

治療のポイント

小児の肥満

著者: 日比逸郎

ページ範囲:P.1191 - P.1193

治療の原理
 肥満児では"過食→肥満→運動量の減少→相対的過食→肥満"という悪循環ができあがっている.この悪循環を断ち切るためには理論的には減食,運動量増加のいずれから始めてもよいわけであるが,実際にはいきなり運動量をふやすことは肥満の程度がごく軽い場合をのぞいては不可能で,減食によってある程度肥満が軽減してきてはじめて運動量の増加を期待できるようになる.したがって食餌療法が治療の基幹となる.

急性膵炎

著者: 内藤聖二

ページ範囲:P.1194 - P.1195

内科的治療の主眼点
 急性膵炎の治療は急性発作期では原則として内科的治療が行なわれ,外科的には緊急手術として開腹され,あるいは出血・滲出液を体外誘導する目的で手術をすることがあり,できるだけ避けたほうがよいと考えられている.試験開腹にて急性膵炎と決定された場合にも手術創をすみやかに閉じ,強力な内科的療法に移行することが肝要である.急性膵炎の原因である胆石症,胆嚢炎,乳頭炎に対する手術も急性膵炎発作期には行なわないほうがよい.内科的治療の主眼点は,1)疼痛対策,2)ショック対策,3)酵素逸脱による臓器障害対策,4)栄養対策などである.

妊娠と弁膜症

著者: 広沢弘七郎

ページ範囲:P.1196 - P.1197

妊娠が弁膜症患者に与える影響は
 弁膜症の患者が妊娠することを,なぜ問題にするか,考えておく必要がある.弁膜症は不治の病で,常に,血行力学的負荷を受けている.健康人に比べて,いわゆる予備力が少なく,したがって,よけいな重荷がかかれば代償不全の状態に陥りやすい.代償不全になると苦しいのはもちろんであるが,さらに,病気そのものを悪化進行させ,再びもとへ戻らないようになるおそれがある.その極限は死である.
 妊娠は,母体に対してかなりの重荷になる.心拍出量などにより表わされるところでは最高40-50%の心仕事量の増加をきたす.しかも,この仕事量の増加は,1日24時間休みなく続き,休む余裕がない,単純な肉体運動の重荷などとは異なる.一度始まったら,10カ月間,しかもしだいに増してゆく重荷である.簡単には脱出できない.

動脈硬化治療剤の使い分け

著者: 五島雄一郎

ページ範囲:P.1198 - P.1200

動脈硬化治療剤のねらい
 動脈硬化治療剤といわれるものの多くは,動脈硬化症が脂質代謝異常によって促進・増悪されるという考えにもとづいて,脂質代謝の異常を是正しようとするところにねらいをもっている.
 近時高脂血症の分類が行なわれるようになり,われわれは動脈硬化症にみられる高脂血症を分類し,これによって適切な治療方針(食餌・薬物)をたてて患者の指導を行なっている.したがってまず高脂血症の分類を述べて,動脈硬化治療剤の使い分けについて述べたい.

EDITORIAL

先天性心疾患の現状

著者: 高尾篤良

ページ範囲:P.1182 - P.1182

 一部学者の研究対象のみであった先天性心疾患も,1930年代の後半から40年代にかけ,動脈管開存,大動脈絞窄,ファロー四徴,肺動脈狭窄などが次々と外科治療の対象となって,根治的あるいは姑息的治療が可能となってきた.また,低体温法,体外循環法の発達は,さらに諸種の心中隔欠損,ファロー四徴,肺静脈・房室弁・大動脈幹・冠動脈異常などの根治へも導いてきた.一方,心カテーテル,血管心臓造影,螢光増倍映画,心音記録,稀釈法,その他のいわゆる特殊検査法の発展も40年代から60年代にかけてめざましく,われわれの先天性心疾患に対する,生理学的・病理学的理解を深め,解剖学的・生理学的診断に寄与するところが大きく,現在では,外科治療の必要性から,従来まれとされた奇形をも術前に正確に診断せねばならなくなってきた.
 外科治療適応の拡大とともに,各種先天性心疾患の自然歴の究明もますますその重要性を増してゆく.より正確な自然歴の理解は不必要な手術を少なくさせ,必要なものへの手術適応を拡大させる.先天性心疾患の死亡と罹病は,新生児・乳児期でいちばん高く,これら重症乳児救命可能性の認識と,診断・治療・育成へのよりいっそうの努力が望まれる,チアノーゼ心疾患治療で特記すべきは,ファロー四徴症に続き,大血管転位症に対しても,根治の道がひらけてきたことである.

肥満

著者: 油谷友三

ページ範囲:P.1183 - P.1183

 肥満が個体の健康保持に有害であることは周知であって,近年わが国においても本症はしだいに増加の傾向にある.
 肥満の臨床で,肥満の軽度のものではその判定に迷うことがある.理論的にはunder water weighingによって個体の脂肪量を算出するのが妥当であるが,必ずしも容易に実施できるものではない.そこで標準体重表による方法が用いられ,あるいはこれを簡略化して種々な式によって,身長・体重から標準体重を算出する方法が用いられている.詳細は文献(診断と治療,55巻5号,高岡)にゆずる.

器械の使いかた

ポータブル脳波計—脳波計の小型化・軽量化

著者: 江部充

ページ範囲:P.1202 - P.1204

 一概に脳波記録といっても,その対象によっては1channelでもよいし,また2channelのこともあり,6-8channelを必要とすることもあり,またもっと多いchannelが要求されることもある.したがってポータブル脳波計といってもいろいろな大きさ,いろいろな性能をもつことになるので,ここでは脳波計の小型化・軽量化という点について述べることにする.

内科疾患と皮膚・9

爪の変化と内臓病変

著者: 西山茂夫

ページ範囲:P.1205 - P.1208

 皮膚の付属器の1つとしての爪の変化には,1)内臓疾患によるもの(たとえば匙状爪,ヒポクラテス爪など),2)皮膚疾患の部分現象として生ずるもの(たとえば爪の白癬,乾癬に伴う爪の変化など),3)外胚葉性(まれに中胚葉性)の畸型に伴うものがある.そのほか生理的な老人性変化(たとえば爪の縦のたかまり,爪の肥厚など)も理解する必要がある.
 爪に変化を及ぼす全身性の影響には,広い意味での末梢循環障害と内分泌異常とがあり,爪の発育に重要な爪母または爪床に変化を与え,したがって爪甲が二次的に変化するのがふつうである.しかし,爪の変化の発生要因には不明の点が多く,内臓病変との直接の因果関係を確定できないことが少なくない.次に内臓病変の道しるべとなりうる若干の爪変化について簡単に述べる.

病歴のとりかた

神経疾患

著者: 祖父江逸郎

ページ範囲:P.1209 - P.1212

病歴聴取は臨床神経学検査の一部である
 病歴が疾患診断上重要な価値のあることはいうまでもない.じょうずにとられた病歴は,それだけでかなり正確な診断が可能である.これほど重要であることがくり返し強調されておりながら,実際には軽視されがちであり,また病歴のとり方についても十分な訓練が行なわれていない.
 病歴は疾患についての経過や具体的ないろいろの事実を,ありのまま必要にして十分な条件を満たすよう整理し,診察の重要な参考にするとともに,記録として残すという性格をもっている.このような病歴聴取の過程が,同時にベットサイドでの診察の一部であることも忘れてはならない.患者の態度・表情・姿勢・運動・表現の仕方,理解の程度などについても観察が可能であり,また付き添い者のようすなどにもたえず注意を向けておく必要がある.できればこれらの印象をも簡単にまとめて,つけ加えておくと診断上役だつことが多い.不随意運動など,実際の診察時にはみられないで,病歴聴取の時にすでに観察されることがある.神経疾患ではこのようなことが,かなり多いので,病歴聴取が臨床神経学検査の一面をなしていることを強調しておきたい.

カラーグラフ

爪の変化と内臓病変

著者: 西山茂夫

ページ範囲:P.1156 - P.1157

 爪の変化には内臓疾患に伴うもの,皮膚疾患に伴うものおよび爪自身の病気とがある.内臓病変による爪の変化を理解するには,これらのすべての爪変化を知っていなければならない.内臓病変と関係のある爪の変化は比較的少なく,また特異的な変化も多くはない.しかしそのような爪の変化を知っていれば初診時において,診断ないし検査の方向をある程度決めることができる場合がある.
 爪の変化には,色の変化,形の変化,質の変化があり,それぞれ爪の疾患の診断に重要である.ここにその若干の例をあげて,内臓疾患と爪との関係を考えて見たい.(本文59ページ参照)

グラフ

薄層ゲル濾過法による蛋白の分析—分子の大きさによって分画する方法

著者: 河合忠

ページ範囲:P.1159 - P.1164

 ある特定の蛋白質の分子量を知る目的に超遠心分析法が用いられており,臨床的にはマクログロブリン血症,多発性骨髄腫などの異常蛋白血症の診断に有用である.
 しかし,超遠心分析法は高価な装置,特殊技術者を必要とするばかりでなく,分析に長時間を要するため,どこの検査室でも行なえるというものではない.

負荷心電図の読みかた

著者: 水野康

ページ範囲:P.1252 - P.1256

 狭心症発作時には,いわゆる冠不全心電図がみられる,特徴あるST降下と,ときにはTの平低化や陰転を伴う,発作が終わると,このST-T変化は減じて心電図上なんらの変化もみられないことがある(25-37%).非発作時にその診断を確実にするにはなんらかの方法で冠不全の状態を再現させて心電図をとらねばならない.この方法として薬物負荷,過食,低酸素負荷試験などの誘発試験が行なわれることもあるが,運動負荷試験が一般に用いられている.現在最も広く行なわれているMasterの2階段試験について図解する.

心電図講座 ブロックのいろいろ・4

脚ブロック(1)

著者: 吉村正蔵 ,   宮本進

ページ範囲:P.1221 - P.1225

 今回は脚ブロックについて述べます.洞を発した興奮は,房室結節からHis束へ伝わりさらに田原脚で左右心室へ伝わります,この脚の興奮伝導が障害されたものを脚ブロックとよび,右脚の障害されたものを右脚ブロック,左脚の障害されたものを左脚ブロックといいます.心電図記録ではじめて確実に診断がつき,日常しばしば遭遇する心電図所見です.

くすりの効きめ・10

われ幻の薬をみたり(1)—膜の内側に薬があるか?

著者: 鈴木哲哉

ページ範囲:P.1226 - P.1227

薬のゆくえは糸のきれたタコのようなもの
 へたな鉄砲も数打ちゃ当たるという教訓がある.鉄砲玉のようにたいへんなスピードで,かつまっすぐに飛んでいくものでも,打ち手がへたくそだとなかなか当たらないものだということである.どうしてこんな話を冒頭にもってきたかというと,薬を内服して病気を治すという現象が,鉄砲打ちが鉄砲玉を獲物に当てることよりもずっと複雑だということに日本の臨床家が早く気づかなくてはいけないということがいいたいからである.
 私はかつてある薬学者たちの集まりで製薬会社は少なくとも自社の製品については,それがどのような形で血中にあって,どのような形で尿中へ出るかぐらいはつかんでおいてほしいものだという希望を述べて笑われた経験があるが,将来はともかく現在大部分の薬はどこを通って,どうなってどう身体の外へ出ているものやらをわからせることが至難の業なのである.

他科との話合い

負荷試験をめぐって

著者: 阿部正和 ,   岸本道太 ,   橘敏也 ,   小酒井望

ページ範囲:P.1228 - P.1235

病気の状態を動的にとらえ,早期に診断・治療を行なううえに,負荷試験の意義は大きいが,とかくめんどうくささも手伝って,手軽に扱われすぎてはいないだろうか.負荷試験を生かして使うには……

臨床家の生化学

肥満とるいそう

著者: 麻生芳郎

ページ範囲:P.1238 - P.1241

 肥満の原因は環境・遺伝・内分泌器官・中枢神経などと関係してきわめて多様であるが,原因のいかんにかかわらず,エネルギー出納の正の結果である,ここでは,食欲と脂肪組織の代謝調節の問題に焦点をしぼって解説する.それはまた,るいそうに共通する機構でもある.

痛み・8

頭痛 その3

著者: 清原迪夫

ページ範囲:P.1242 - P.1244

 前回おわりには,偏頭痛発作を急性炎症反応としてみるとすると,この反応が化学的に媒介される反応とみることができると書いた.
 このとき問題になる生体細胞の1つが肥絆細胞である.人では皮膚や血管周囲にあり,他動物よりも多少多いといわれていて,皮膚では肥絆細胞の崩壊によってヒスタミンが遊離する.ヒスタミンは,キニノーゲン基質から血漿キニンを形成しうる蛋白解溶酵素をも遊離させる.偏頭痛のある人は,発作が起こりやすいときに,ヒスタミン遊離物質であるCompound 48/80の小量を側頭動脈の周囲に注射しても頭痛発作が起こってくる.GreppiとSicutteri(1964)によると,それに要する時間は,1-2時間であるという.このように遅延した反応は,ヒスタミン遊離は数分以内に最高になるから,単にヒスタミン遊離によるものでないことは明らかである.これに答えるためには,なお今後の研究が必要である.

胃X線写真の写しかた・読みかた・2

表面陥凹型早期胃癌(IIc)のX線診断

著者: 熊倉賢二

ページ範囲:P.1245 - P.1247

早期癌IIcは,X線診断できますが,検査が粗雑だと,見落したり,誤診したりします,IIcのX線診断では,この点がまっ先に問題になります.

症例 全身性疾患と腎・2

腎とアミロイド症

著者: 木下康民

ページ範囲:P.1248 - P.1251

アミロイド症の分類
 アミロイド(Amyloid,類殿粉)が腎糸球体とか,腎の細動脈,あるいは尿細管,さらには間質に沈着する場含がアミロイド腎症である.
 アミロイド症にはいろいろの分類があるが1-3),全身性アミロイド症の分類としてHeptinstall2)らは,アミロイドの沈着部位からPerireticulin amy-loidosis Pericollagen amyloidosisに分け,一方,また,発生の病因から,(1)遺伝性,(2)後天性,(3)特発性に分類し,この2つの分類を組み合わせているが,後天性には感染に続発のもの.およびリウマチ様関節炎によるものをあげ,特発性を原発性のものとしており,遺伝性のものとしてfamilial Mediterranean feverによるものをあげている.

Medicina CPC・第3回

腰痛を訴えた肺結核と糖尿病の合併例—出題

ページ範囲:P.1153 - P.1153

下記の症例を診断してください.

腰痛を訴えた肺結核と糖尿病の合併例—討議

著者: 田崎義昭 ,   五十嵐正男 ,   本間日臣 ,   小出紀 ,   大貫寿衛

ページ範囲:P.1258 - P.1263

大貫 こういう症例ですが,なにかご質問がおありでしたら……
 田崎 7歳のときに肋骨カリエスをやったということですけれども,それ以後レントゲンは撮ったことないですか.

検査データどう読みどうする?

血中間接ビリルビン

著者: 屋形稔

ページ範囲:P.1154 - P.1154

間接ビリルビンと直接ビリルビン
 血中ビリルビンのなかで間接ビリルビン(以下間接ビ)は一名hemobilirubinとよばれる.これは間接ビが主としてHbの代謝によってできた色素であるからである.水に不溶性で腎からは排泄されない(尿ビ陰性),これが安息香酸ソーダやメタノールによってジアゾ試薬と反応しうる.一方,ジアゾ試薬に直接反応する直接ビリルビン(cho-lebilirubin)は,間接ビが肝細胞にとりこまれグルクロン酸抱合されたものが大部分で,水溶性で腎から排出される(尿ビ陽性).この両者をあわせて総ビリルビンとよぶが,間接型と直接型に分かれるゆえんについてはまだ確定されていない1)
 臨床的には黄疸の病因上から溶血性では間接ビ,肝胆道障害では直接ビの増加というふうに考えられるが,一方のみの増加を期待しては診断に役だてえないことも多い.たとえば閉塞性黄疸では一般に直接ビが増加するといわれているが,黄疸がながびくと直接ビとともに間接ビも増加する.また間接ビのみで起こると考えられる溶血性黄疸でも,溶血発作が顕著でひんぱんであると胆細管の胆汁閉塞を起こして直接ビが出現してくる(ただしこの場合総ビの15%以上にはならないといわれる).いずれにしろ血中ビのなかのこの両分画の優劣は,他の肝機能検査を参照して鑑別診断に資するときはじめて有意義なデータを提供するものといえよう.

統計

白血病の死亡(2)

著者: 菅沼達治

ページ範囲:P.1201 - P.1201

 前号で白血病の死亡率は年々増加し,特に急性白血病でいちじるしいことを記しました,そこで年齢層に分けて,最近3年間の平均と5年前3年間の平均の死亡率を比較しました.白血病全体では乳幼児の増加が6%と少なく,65歳以上の老人が43%といちじるしい増加を示しています.この老人の増加は急性になるとさらに顕著で58%と大きな増加をみせていますが,急性では乳幼児も23%の増加となっています.その他の年齢層は,おおむね,全年齢の平均と同じ増加率であります.
 つぎにそれぞれの病型によって,年齢別の死亡率曲線がどのようになっているかを図示しました.総数では乳幼児に高率ですが,学童期になると下がり,20判24歳で最低に達し,その後は上昇して60-64歳で最高となります.その間15-19歳で小さな山が認められます.65歳以後は急激な低下を示します.急性白血病は全体の63%を占めますので,総数とほとんど平行した曲線を示していますが,乳幼児の山のほうが,老人の山よりも高くなっています.なお,乳幼児の悪性新生物の死亡中白血病は53%を,急性は35%を占めています.

全国教室めぐり

自主性と進取の気性にあふれた教室へ—岩手医大・木村内科

著者: 佐藤一俊

ページ範囲:P.1213 - P.1213

創設から現在までの発展
 わが第2内科は昭和31年8月に,第1分院内科が母体となり,東北大学の岡捨己教授を迎えて創設されました.岡教授は東北大学と兼務にもかかわらず,満4年の間精力的に医局員の指導にあたられ,木村武現教授は助教授としてかげの推進力となってよく補佐され,教室の基礎づくりにともに苦労されました.昭和36年11月に岡教授の御退職の後,木村先生が教授に御昇任になり,木村内科となりましたが,以来,この11月で満7年めを迎えようとしています.この間医局員の数も年々ふえ現在は30余名,となり,まずは順調な発展を遂げてきたといえましょう.

ずいひつ

自然法則と太刀魚釣り

著者: 佐藤昌康

ページ範囲:P.1214 - P.1215

 生物・人間の生存と自然法則 生物の生存existenceには時間・空間・物質・自然法則の4条件を具備していなければならないということは,あえてヒューム,スペンサー,ヘッケルら偉大な哲学者を地下より喚起するまでもなくしごく妥当な定義であると考えてよかろう.ただし価値観念を"生存"ということばに含ませるとすれば,人間の生存という問題は,その時代の科学・医学の進歩にしたがって定義づけるのが妥当であるように思われる.最近,世界各国で行なわれるようになった臓器移植,とくに心臓移植手術に関して,新聞・テレビの報道機関はこぞってその成功を,新時代の当来を告げるかのように称賛をおしまない.しかしながら,人間の生存の本質的な意味,倫理観,哲学的思考はあまり十分に議論されているようには見受けられない.確かに歴史をふりかえってみると,宗教的倫理観が正しい自然科学の発展をはばんできた事実は数多く存在する.医学の進歩にしてもあまり多くの議論は正しい前進を渋滞させることになりかねない.しかしながら,いずれにしても"生存"という定義はさきに述べた自然法則natural lawに従ってなされるべきものと考えられる.ただこの自然法則が,今日どこまで明らかにされているかを考えてみると,その未知の分野があまりにも広すぎるので,現在の段階で性急に結論を出すことに躊躇を感ずるのは,自然科学の一分野である生理学の研究にたずさわっている私ばかりでく,生命現象を研究する者にとってもそうであろう.ともあれこの問題はあまりにも複雑すぎてこの小文に記述することはできないので,やはりここではただ自然法則の複雑さをかいま見た話をすることにしておこう.
  太刀魚釣りの最中に浮かんだ2つの疑問
 先般,教室のリクリエーションで熊本と鹿児島の県境にある湯の児温泉という海浜の保養地へ行った.海は水俣病で有名になった水俣湾にとなり合わせているが,ここは昔から保養地とあって美しい風景を楽しむことができる.夕方,まえから計画していたように,太刀魚釣りに出かけることになった.舟は4,5人乗りの動力のついた屋形舟である

話題

"てんかん"の診療をめぐって討議—仙台市で行なわれた実地医家のための会より

著者: 樋渡

ページ範囲:P.1257 - P.1257

 "病気を診るまえに人間を"という主張のもとに,同考同志の第一線開業医を中心にしてできた"実地医家のための会"は,誕生して早や6カ年を経過しているが,現在全国に800余名の会員を擁するまでに成長した.このグループは毎月1回各地で例会をもち,月刊誌「人間の医学」を発行している.また,「人間の医学シリーズ全10巻」を医学書院から刊行しつつあり,"総合的にとらえた病人"の診かたを,基本の思想として,第一線の実地医家の主張を展開してきている.
 第63回"実地医家のための会"例会は,去る9月15日,落成後まもない仙台市宮城医師会館—5階建て,エレベーター付きの堂々たる建物—で行なわれた.東北・関東一円の第一線の臨床家が多数参加,今時点における多くの問題が活発に討議された.

臨床メモ

脳障害が疑われるときの応急処置

著者: 吉井信夫

ページ範囲:P.1204 - P.1204

 脳障害が疑われるときには大なり小なり意識障害がみられることが多い,ことに患者が昏睡状態の場合にはその原因をすみやかに決定し適切な処置をとる必要がある.しかし実際にはすぐに診断がつけられないことがある.そこで呼吸・脈拍・血圧・神経をみて応急処置をとることになる.
 いちばん重要なのは気道の確保で,吐物・分泌物による気道の閉塞,舌根沈下などが生じたときは,吸引,適当な頭位をとらせる,air wayの挿入などを行なう.これでも呼吸が改善されない場合にはただちに気管切開を行なうべきである.酸素吸入はチアノーゼの有無にかかわらず1分間1-1.5lで行なうとよい.このような処置を行なっても,意識障害や麻痺などの症状が進行する場合には,早めに適当な施設に移送する必要がある.

今月の表紙

急性骨髄性白血病の白血病細胞(1)

著者: 日野志郎

ページ範囲:P.1173 - P.1173

 骨髄芽球というものを考える上に残されているもうひとつの道は急性骨髄性白血病(AML)である,AMLにみる白血病細胞は,一般的にいって骨髄球系の幼若細胞だとされ,不用意に骨髄芽球とよばれていることが多い,しかし核が不正形であるのは,正常の骨髄芽球とは違うというので,paramyeloblast(傍骨髄芽球)といって区別する場合がある.また,アズール顆粒を多くもつのが多いときには,前骨髄球性白血病とよび分ける傾向にある.
 わたしが最近経験した11例のAMLに,かつて診た赤白血病の白血病期1例を加えて写真にとり,それぞれの症例から代表的な細胞を選んで並べてみたところ,4例ずつの3群に大別できた.最初に掲げる群に属するのは,いずれもペルオキシダーゼ反応陽性の骨髄芽球というべきものである.

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略語の解説

著者: 阿部正和

ページ範囲:P.1151 - P.1151

DPN
 diphosphopyridine nucleotide 嫌気的脱水素酵索(anaerobic dehydrogenase)の補酵素の代表的なもの.DPNのピリジン部分(ビタミンB群の1つ)が酸化還元を行なうことにより,脱水素酵素が本来のはたらきを発揮するのである.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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バックナンバー

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特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

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60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

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60巻6号(2023年5月発行)

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60巻5号(2023年4月発行)

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60巻3号(2023年3月発行)

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60巻2号(2023年2月発行)

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60巻1号(2023年1月発行)

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59巻13号(2022年12月発行)

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59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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