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雑誌目次

雑誌文献

medicina5巻12号

1968年12月発行

雑誌目次

100万人の病気

膠原病

著者: 川上保雄

ページ範囲:P.1404 - P.1410

 Klempererらが,結合織のフィブリノイド変化を共通とする全身性系統的疾患として膠原病という概念を初めて提唱して以来,本疾患に対する関心が高まったが,病因究明は決定的な決めてを欠いていた.しかし,自己免疫患の概念が大きくクローズアップされるとともに,膠原病を免疫病として考えようとする機運が起こってきた.

座談会

慢性関節リウマチの臨床

著者: 吉野良平 ,   安倍達 ,   広瀬俊一 ,   佐々木智也

ページ範囲:P.1412 - P.1418

 慢性関節リウマチの原因はまだ明らかでない.診断内容もまちまちであるが,しだいにARAの診断基準に統一されつつある.根治的療法はないから,外科的手術や病勢のコントロールによって,患者の機能保持をはかることが主目標になる.

アメリカの内科専門医制度—その実際を聞く

著者: ,   小田正幸 ,   本多虔夫 ,   五島雄一郎 ,   日野原重明

ページ範囲:P.1462 - P.1467

いよいよ,内科専門医制度はスタートしたわけであるが,教育のカリキュラム,試験内容,トレーニングの実際など,今後具体的に検討していかなければならないのが日本の現状.アメリカの実際の運営をつぶさに聞いて,参考にすることができれば…

Leading Article

臨床検査センターの今後の課題

著者: 小酒井望

ページ範囲:P.1401 - P.1403

中央検査室と検査センターのちがい
 各地に医師会の臨床検査センターをはじめ私立の検査所(研究所あるいは臨床検査センターの名称を使用しているところが多い)が多数できている.医師会立の臨床検査センターは別として,私立の検査所に関しては,その数・設備など実態が十分つかめないということである.
 ともかくこのような検査施設が増加することは,一般的にいえば,臨床検査が普及し,めんどうな検査を行なうことができなかった診療所の医師が,必要な検査を十分に駆使して,高度の医療を行ないうるようになったわけで,医療の進歩のために慶賀すべきことである.またこれらの検査施設は,集団検診の一翼をにない,地域の予防医学的活動に重要な役割を果たそうとしている.

診断のポイント

甲状腺腫

著者: 隈寛二

ページ範囲:P.1421 - P.1424

診断の基本は注意深い診察に
 甲状腺疾患の診断は,近年の目ざましい甲状腺機能検査法の発達でより容易にはなったが,反面,検査成績を重視するあまりの誤診もなしとはしない.ほかの疾患と同じく甲状腺腫の診断においても細心の病歴聴取と注意深い診察が基本となるべきで,酵素異常に基づく甲状腺腫などは別として,日常の臨床においては検査はあくまで補助的手段であることを忘れてはならない.

血清鉄の高いとき低いとき

著者: 松原高賢

ページ範囲:P.1425 - P.1426

測定術式
 血清鉄の判読にあたっては,あらかじめ測定術式を確かめておく必要がある.通常採用されているのは筆者法,Landers法あるいは市販の血清鉄測定キットと思うが,いずれもほとんど同値を与えるもので,以下述べる高低の判定基準をそのまま適用してよろしい.他の術式を用いた場合の正常値については多数例の精密な報告がないので,この基準を適宜ずらして判定するほかはない.最近オートアナライザーを用いる方法が開発されたが,標準的用手法との比較実験は十分には行なわれていない.

憩室炎

著者: 大貫寿衛

ページ範囲:P.1427 - P.1428

憩室発生の頻度
 消化管は,食道から結腸までそのいずれの部分にも憩室発生の可能性があるが,最も高い頻度に発見されるのは結腸ことにS字状部で,次いで十二指腸ことにその第2,第3部分の内側である.小腸では発見の頻度はかなり下がるが,先天性Meckel型のものは遠位回腸に多く,後天性のものは空腸のそれもTreitz靱帯の近くに多いという.もっとも憩室の頻度は報告によってかなりまちまちであり,たとえば十二指腸憩室はX線的には0.8-5%,剖検上は5-22%(いずれも検索全症例に対し)に発見されるといったぐあいで,この頻度は検索の技術と努力に比例して向上するともいわれている.食道,まれには胃にも憩室は見いだされるが,憩室炎を問題にするのであれば,十二指腸以下について考えればよいであろう.
 先天性・後天性をあわせてみると,憩室はだいたい40歳以上の年齢の者に多く,性差は十二指腸では明らかでなく,小腸,結腸では男性にやや多いとされる.

治療のポイント

腎障害時の化学療法

著者: 中村昇

ページ範囲:P.1429 - P.1431

 腎障害患者に薬剤を投与すると,排泄が制限されるために体内に蓄積が起こり,その結果種々の副作用が起こったり,または増強する危険がある.抗生剤の腎排泄様式は,その種類によって異なっているが,腎から排泄されるものが多く,抗生剤の腎排泄いかんは血中濃度,病巣内濃度に影響するので,腎障害時の抗生剤の使用方法にはいくつかのくふうがいる.

肺化膿症—内科的治療の限界

著者: 岡捨己

ページ範囲:P.1432 - P.1433

内科的治療で全治させるための治療原則
 与えられた"この問題"にふれるまえに,肺化膿症の治療の原則を総括的にまず述べなければならない.これは逆説的になるおそれがあるが,肺化膿症は内科的治療で全治させることが理想であるからである.その根幹は次のようである.1)早期に起炎菌に対し有効な抗生物質を十分に投与し,2)肺実質内,空洞内から壊死物質がたやすく喀出されやすいような姿勢をとらせること(体位転換postural drainage),3)疲をやわらかくし出やすくするように,蛋白融解酵素,界面活性剤,気管支拡張剤を内服または噴霧療法(Aerosol,Nebulizer)で与え,肺実質内にSequester,pyofibrosisが残らないように努めることである.
 しかし,治療が遅れ,起炎菌が耐性となるか,合併症を併発したり,また空洞が遺残して痰,発熱,血痰が続く場合があるので内科的治療の限界を明確にしておかねばならない.

妊婦梅毒

著者: 松山栄吉

ページ範囲:P.1434 - P.1435

 最近の全国の妊婦梅毒の頻度はほぼ1%であるが,このうち梅毒の感染ないし血清反応の陽性を意識しないもの(不識梅毒)が3/4を占めている(順大水野教授)ということは注意しなくてはならない.最近妊婦の検診が普及してきたため,妊婦において不識梅毒を発見する機会がふえたのも事実である.

EDITORIAL

リウマチ性疾患の疫学

著者: 七川歓次

ページ範囲:P.1419 - P.1419

 最近では,リウマチ病研究の新しい分野として,疫学的研究が急速に発展している.その国際的なシンポジウムもすでに3回を重ね,わが国もふくめ,世界各国の成績がかなり豊富になってきている(Bennett and Wood,1968).
 現在までのところ,これらの成績から,最もよく研究されている慢性関節リウマチについては,人種や緯度,都市や農村による頻度の差があまりなく(わが国では全人口の0.3-1%),世界中普遍的に分布されていること,年齢とともに増加し,女性に頻発すること,遺伝疾患とは見なされがたく,環境や生活様式のほうが発病に関連しているようであることなどがわかってきている.社会心理的因子を重視するCobbらは,すぐれた疫学的調査に基づき,この疾患は低い社会階層に多く,家族・社会関係の不適合が欝憤感情を介してその発生に主役を演ずるという意見である.

銭型病巣と銭型陰影

著者: 立入弘

ページ範囲:P.1420 - P.1420

 "胸部レ線撮影をいろいろな方向からすることのすすめ"について小文を書くことをいまさらに求められる,ということ自体が少々おかしいのではないだろうか.立体を見るのには少なくとも3つのdimensionsで考えるのが当然であり,胸部レ線診断ではまず正面と側面の写真になるのはいうまでもない.もともと胸のレ線写真はなんでも見えると思われすぎであり,しかもそれが大きさも形もすべてを現わしているように受けとられるのは困る,病変の表現にもすでに観念的におかしいのがある.coin lesion(銭型病巣)はその適例で,これは1枚の正面写真で2-3cm径の円形陰影が見えるということにすぎない.側面像が伺じように円形陰影を示せば,これはspherical lesion(球形病巣)であり,正面あるいは側面像で見える陰影はcoin shadow(銭型陰影)といいたい.鎖骨や肋骨と重なって見失う可能性のある肺尖部に対する肺尖撮影の歴史は古いが,縦隔洞,心臓や横隔穹隆後部の病巣の認知に欠くことのできない側面(方)撮影や斜方向撮影の応用の少ないのは胸部結核レ線診断学の功罪であろうか.心臓の検査には各房室や大血管の関係を明らかにせねばならないので,正面,左側面,第1および第2斜方向の4枚は少なくとも必要である.

ファースト・エイド

狭心痛

著者: 高階經和

ページ範囲:P.1436 - P.1437

狭心痛と鑑別しなければならないもの
 まず狭心痛と鑑別をしなければならない最もたいせつなものは,なんといっても心筋硬塞である.患者を診たとたんに鑑別をしていただきたい.それは,
 ①狭心痛—患者はうずくまって静止.

器具の使いかた

ハイジェッター

著者: 平山宗宏

ページ範囲:P.1438 - P.1440

ハイジェッター実用化の意義
 針を使用する注射の苦痛と恐怖感をとりのぞく方法はないだろうか,という要求から出発したと考えられるいわゆる針なし注射器として,自動皮下噴射注射器・ハイジェッター(Hyjettor)が実用化されている.このハイジェッターは米国で,もとは軍隊での使用要求から開発されたというが,現在では一般にも広く使用され,わが国でもすでに約200台が輸入実用に供されているので,ここではその概要を紹介したい.筆者自身使用経験は十分でないので内容に不備の点があれば経験のある方がたのご叱正をいただきたい.

カラーグラフ

ベーチェット症候群(ベーチェット病)

著者: 清水保

ページ範囲:P.1392 - P.1393

 近年,わが国におけるベーチェット症候群(ベーチェット病)患者の増加は,内外の注目をひくところであり,本症患者に接する機会はまれではない.本症は,いわゆる粘膜・皮膚・眼症候群の範疇に包括されているが,その症状発現はmuco-cutanco-ocularの領域にかぎらず,きわめて多彩で,主症状以外に関節,消化管,血管系および中枢神経系(いわゆるNeuro-Behçet型)など,広く全身的であり,かつ個々の症状が再燃を反復するのを特徴的とする独立した全身病である.ここには臨床の実際において,最もしばしばみられる症状について図示する.

グラフ

トランスアミナーゼの簡易測定法

著者: 石井暢

ページ範囲:P.1395 - P.1397

 血清トランスアミナーゼ活性の測定は急性肝炎,心筋硬塞の初期診断に不可欠の検査である.ことに急性肝炎ではGPT,GOTともに,心筋硬塞ではGOTが著増する.また心筋硬塞では心電図上の変化も同時に認められるが,急性肝炎のごく初期にはこの測定以外に手がかりはない.また無黄疸性肝炎においてもしかりである.ところがこの測定には相当な技術と器具を必要としていた.しかしようやく比較的簡単に概測定量(ふるい分け検査)できるセットが市販されてきた.ここにその一例を紹介する.

グラフ レントゲンの読み方・2

胸のX線写真に現われる血管異常

著者: 玉木正男

ページ範囲:P.1398 - P.1400

 胸の単純X線写真には,肺実質,胸膜あるいは心臓自身の諸疾患だけでなく,いろいろな血管の病変が現出する.これには先天性の異常もあれば後天性の病変もあり,また胸部の血管に原発の病変もあれば他臓器または全身的疾患にもとづく続発的の病変もある.これらはしばしば肺,縦隔の炎症性疾患あるいは腫瘍などと誤認されているが,血管造影はそれの確定または否定に役だつ.
 胸のX線写真には,肺血管の異常だけでなく,体循環静脈,胸部大動脈とその分枝の異常も現出する.それぞれについて、いくつかの異常を重点的にとりあげて図説していくことにしたい.

内科疾患と皮膚・11

帯状疱疹

著者: 西山茂夫

ページ範囲:P.1441 - P.1444

帯状疱疹の発生病因
 帯状疱疹(Herpes zoster)は,水痘ウィルスと全く区別できない,または同一のウィルスによる"Dermo-(muco)-neuro-ganglio-radiculo-myelitis"である.今日の見解によれば,このウィルスは単に"帯状疱疹"という皮膚病変を生ずるだけではなく,いろいろな程度に内臓をおかすものであり,したがって全身性疾患と考えられている.そこでHerpes(疱疹)という語をとって,単に"Zoster"とも呼ばれている.
 病原ウィルスの浸入門戸は明らかではないが,帯状疱疹の発生病因の仮説として,次のように考えられている.すなわち,小児期に感染した水痘ウィルスは,一般にかなり長期間の免疫を生ずるのが普通であるが,時に神経細胞の中に存在している.そして大量の新しい感染があるか,外傷,中毒などの誘因があるか,またはそのほかの感染症,脊柱変性性の疾患,抵抗性の減少をきたすような疾患がある時に,後根に存在するウィルスは活性を得,該当する分節において,帯状疱疹として現われるとされている.その分節性は,おそらく残存している抗体の量によって左右されるのであって,もし抗体がないと疱疹は汎発性となるらしい.

病歴のとりかた

循環器疾患

著者: 高階經和

ページ範囲:P.1445 - P.1448

症例
 29歳の男子で,地下鉄の運転手として数年勤務していた患者が,最近,眩暈がひどくなり,ときどき,重いものを持ったりすると,体中の力がぬけるようになってきた.そして,来院する3日まえ,運転中,意識がもうろうとなり,停車すべき駅に止まらずに,ふと気がついた時は,次の駅との中間であった.そのため,次の駅ですぐに降り次の運転手と交代させられ,会社の診療所で診察を受けたところ,血圧が180/50mmHgであり,高血圧と診断され,1週間の安静と,専門医によって精密検査の必要があるという理由で,本院を訪れた.
 病歴 現在までの病歴を詳しく聞いてみると,小学校3年生のときにひどい扁桃腺炎を経過したが,関節が痛んだり,全身に発赤が出たりしたことは一度もなかった.ただ,その後自転車で友だちと遠乗りすると,他の子どもに比べて,いちばん早く疲れてしまって,途中でやめてしまうことがしばしばあった.その後学校の定期検診でも別に異常があるといわれなかったが,地下鉄の運転手として勤めだしてから,ちょっとしたことにも非常に神経質となり,動悸がはげしくなる.ときには一瞬間,胸部がナイフで刺すように痛くなったり,眩暈を起こしたりするようになり,この2,3年とくに症状がひどくなってきたが,ちょっと休むとすぐによくなるので勤務を休むようなことはなかった.

心電図講座 ブロックのいろいろ・6

左脚ブロックおよび硬塞周囲ブロック

著者: 吉村正蔵 ,   宮本進

ページ範囲:P.1457 - P.1461

 脚ブロックのうち前回は右脚ブロックについて述べました.今回は左脚ブロックと硬塞周囲ブロックについて述べます.

くすりの効きめ・12

われ幻の薬をみたり(3)—薬の正しい評価法

著者: 鈴木哲哉

ページ範囲:P.1468 - P.1469

 ある日私の家のまえでたくさんの人がごうごうと文句をいっているのである."くだらんばかりでなくやたらに人を傷つける文章だ.もう書くのをやめろ".その後のほうでメディチーナの編集氏が人をかきわけてまえへ出ようとするが人が多くて出られないでいる.私がこんな夢をみたのはある中国の笑話を読んだからである.ある患者が医師にかかって大金をまきあげられたのにすこしも病気がよくならなかったのでしゃくにさわって子どもをやって医師の門前で罵らせようとした.ところが子どもは長い間たってやっとうかぬ顔をして帰ってきた.悪口をいってきたかと聞くと全然いわなかったという.それはまたどうしてだとたずねると,医師の門前は大声で悪口をいう人でいっぱいでどうしても人をかきわけてまえへ出られなかつたからだというわけである.

臨床家の生理学

アミノ酸代謝異常—特にトリプトファン代謝異常による光線過敏性疾患

著者: 荒木寿枝

ページ範囲:P.1472 - P.1475

 アミノ酸は生体に重要なものであるが,とりわけ,トリプトファンは種々の物質代謝過程に大きな役割を演じている.では,トリプトファン代謝障害は具体的にどのような臨床症状を呈し,特に光線過敏性疾患において,どの程度の役割を果たしているのであろうか.

症例

Meigs症候群の1例

著者: 河辺秀雄 ,   河西秀徳 ,   村国茂 ,   伊藤博之

ページ範囲:P.1476 - P.1480

症例
 ○刀○智○子,50歳,未産婦.
 家族歴:母は肺炎,父は心症患で死亡している.夫は55歳で健在

全身性疾患と腎・4

全身性エリテマトーデスと腎

著者: 木下康民

ページ範囲:P.1484 - P.1486

SLEと腎病変の特徴
 膠原病のうち,もっとも頻度の多い,かつ代表的疾患ともいいうる全身性エリテマトーデス(以下SLEと略す)と腎について述べる.
 SLEは典型的な場合には原因不明の敗血症のような発熱と皮膚に特有な発疹を示し,全身結合織に進行性のフィブリノイド変化のみられる疾患である.再発を繰返し,最後には死の転帰をとる.男性にはまれで,20-30歳代の女性に多い.

胃X線写真の写しかた・読みかた・4

圧迫法

著者: 熊倉賢二

ページ範囲:P.1481 - P.1483

 圧迫法は,微細な病変を適確に現わすには最もよい検査法ですが,病変をよく現わすためには,造影剤の量,圧迫の強さ・方向,検査部位が問題になります.

Medicina CPC・第5回

癌性ノイロパチー—出題

ページ範囲:P.1389 - P.1389

 症例 東○,67歳男.
主訴:歩行障害

癌性ノイロパチー—討議

著者: 本多虔夫 ,   金上晴夫 ,   福永昇 ,   田崎義昭

ページ範囲:P.1487 - P.1492

呼吸器症状も知能低下もなかった
 田崎 この症例のポイントをあげてみますと,67歳の男で,主訴は歩行障害です.41年の5月29日,比較的急速に歩行障害が出てきて,ろれつもまわらなくなった.それから左上肢もふるえるということで入院してきました.
 旺往歴は以前に高血圧を指摘されたということです.入院時の所見では,意識はほぼ清明で,いろいろな神経症状がございます.まず,構語障害がある.それから舌と下顎の不随意運動,これはかなり大きなふるえとして認められております.水平性眼振,運動失調もありました.右側でfinger-nose test,heel-shin testが下手で,dysdiadochokinesisもありました,歩行はよろめいてうまく歩けない.つかまって歩くか,やっと歩けるという程度だったと思います.腱反射は左側で亢進しているけれども,病的反射はないし,知覚異常もなにもないということです.入院時はそんなところで,これはなにか神経病だと思ったんですけれども,胸の写真を撮ったところが,異常陰影があったということです.経過では胸の異常陰影にコバルト照射を行なっております.コバルト照射をやってからわりあいと歩行失調もよくなったし,眼振も一時ほとんど取れてきたということです.しかし胸部の陰影はふたたびだんだん大きくなりまして,運動失調もふたたび強くなり起きあがることもできなくなってしまった.

検査データどう読みどうする?

尿中細菌の簡易検査成績

著者: 猪狩淳

ページ範囲:P.1390 - P.1390

 尿中細菌の簡易検査法にはCatalase試験(ディスク浮遊法)1),Triphenyl Telrazolium Chloride(=TTC)試験2),亜硝酸塩試験3)がある.これらは尿中細菌定量培養法に代わる簡易迅速な細菌尿検査法として利用されるようになったが,まだ正確度,特異性などの点で十分なものとはいえない.しかし短時間で結果がわかり,細菌尿のスクリーニングの意味では十分実用性はあるといえる.わが国ではTTC試験が普及しており,その試薬は市販されている.Catalase試験,亜硝酸塩試験は数分あるいは数秒で判定できることは判定まで4時間を要するTTC試験より有利な点であるが,その成績の信頼性,細菌尿検出能力はTTC試験より劣るといわれている4).そこでTTC試験を中心に尿中細菌の簡易検査成績について述べる.

統計

死亡診断書に記載された本態性良性高血圧症の死因(2)

著者: 菅沼達治

ページ範囲:P.1411 - P.1411

 前号にかかげた表から,合併症の致命度と個々の組み合わせの死亡数を考慮して,死亡診断書に当初良性高血圧症と書かれた死亡例について,脳死,心死,腎死の割合をやや大胆ですが推計すると,つぎのとおりであります.脳卒中と心(AH)は脳,心が同じ割合,脳動脈硬化と心(A'H)はすべて心,脳卒中と腎(AN)は脳が3で腎が1の割合,脳動脈硬化と腎(A'N)はすべて腎,心と腎(HN)は心が4で腎が1,脳卒中,心,腎(AHN)は脳,心がともに3で腎が1,脳動脈硬化,心,腎(A'HN)は心が2で腎が1としてそれぞれの割合を配分し,これらに脳単独15.9%,心15.5%,腎2.4%を合計しますと,脳死が30.0%,心死が42.3%,腎死が11.2%で合計83.5%となります.これを合計100%になおしますと,脳死36%,心死51%,腎死13%であり,良性高血圧症の直接死因は,脳死が1/3,心死が1/2,腎死が1/8と推計されます.表の下段の数字により,種々の組み合わせによる重複を無視した延べ数で発現割合をみますと,心がもっとも多くて61%ですが,腎は29.5%にすぎません.
 血圧と合併症の関係(表1)について,最低血圧のみ記しますと,血圧が高くなるにつれてその割合を増すものは,個々の組み合わせでは脳卒中と心(AH),心と腎(HN),脳動脈硬化と心,腎(A'HN)であり,延べ数では心,腎であります.

全国教室めぐり

—診療と研究のシステム工学—大阪大・阿部内科

著者: 繁田幸男

ページ範囲:P.1449 - P.1449

 阿部教授が大阪大学第1内科教室を主宰されてからようやく3年になる.この間寡黙ではあるが理論家として定評のある教授は,就任早々にこんにちの医学・医療の混乱は医学の理論・技術の急速な進歩・変革が従来からの組織と適合できなくなったことを率直に指摘され,旧習を反省するとともに進んで近代的な理論に立脚した組織を立案,そのなかでみずからのよき個性を生かす教室づくりに全力をあげてこられた.こうした理念のもとに"近代的で緻密な理論(青),強い個性と情熱(赤),相互信頼と協力を基調とした人間関係(白)"の3点をシンボルとして教室の近代的なシステムづくりのプランが着々と実行に移され,教室員全員が一致して早くも数多くの成果をあげているだけではなく,大阪大学におけるもっとも古い歴史をもつ第1内科がもっとも近代的な教室として,一般や学生の間にも共鳴の声が多く聞かれている.

1968年度 ノーベル医学・生理学賞

遺伝情報解読の機構を明らかにした三博士

著者: 西村暹

ページ範囲:P.1450 - P.1451

 1968年度のノーベル医学・生理学賞はアメリカのMarshall W. Nirenberg, H. Gobind Khorana, Robert W. Holleyの3博士に,"遺伝情報の解読とそのタンパク合成における役割"の研究に対して授与された.授賞対象となった遺伝情報(code,コード)の解読という問題は,過去10年間にわたる分子生物学の最大の研究テーマの1つであり,こんにちの完成された結果にいたるまでには,多くの研究者,特に分子遺伝学者の貢献があったことは否定できないが,しかし,3博士の研究が,この問題を決定的に明らかにするのにもっとも貢献したといってよいであろう.

話題

麻疹ワクチンの問題点—日本小児科学会43年度秋季大会より(前橋・高崎市,9月29-30日)

著者: 木島昂

ページ範囲:P.1493 - P.1493

9月29日から3日間,日本小児科学会43年度秋季大会が前橋と高崎の両市で開催された—会長・群大医学部・松村龍雄教授—.とくに大会3日めの第1回小児ウィルス研究会では,時の問題でもある"麻疹ワクチン"についてパネルディスカッションが行なわれ注目を集めた.すなわち,座長・国分義行(慈恵大),テーマとパネラーは…
 麻疹ワクチン接種法の問題点(南谷幹夫・東大分院),接種方法(木村三生夫・慶大),予防効果(大国英和・阪大),KL法について(新居美都子・国立東一),乳児に対するLワクチン単独皮内接種法の検討(岡秀・昭和医大),遠隔成績と追加接種成績(塚田嘉也・熊大),麻疹血清抗体の分析(大木徹郎・金大)らである.これらについて順を追って説明するのを避け,全部をほどいて問題点だけを別に整理してみよう.

—肺癌のトピックス—第9回肺癌学会総会(10月13-16日・東京)から

著者: 坪井栄孝

ページ範囲:P.1494 - P.1495

 10月中旬,東京で開かれた第9回肺癌学会のスケジュールのなかに"肺癌のトピックス"というセクションがあった.ほかの学会ではあまり聞かないよび名であるが,石川七郎会長(国立がんセンター副院長)が特に計画された新しい試みであった.このトピックスはいわゆるカレントトピックスというよりはむしろ総論的と解釈したほうが正しいかもしれない.すなわち,こんにちの日本における肺癌診療の現況を各部門の専門家に話してもらい,日本の肺癌診療のレベルを具体的に描き出そうというのが目的で,石川会長は各専門家の協力によってみごとにこれを成功させた.たしかに聞きごたえのある会場であった.
 ここでとりあげられた計12の演題は基礎的な話題から臨床的な話題まで広く検討されているが,これらのなかから臨床医として興味をもった2,3の課題についての私見を述べてみたい.

臨床メモ

頻拍症のベッドサイド診断

著者: 土肥豊

ページ範囲:P.1431 - P.1431

 突発する頻拍症の発作に際して,ベッドサイドで直ちにある程度の判断を下し,適当な処置を行なわねばならぬことに時として遭遇する.こんな時,ただ漫然と心電計が届くのを待つよりも,まず手と耳を使ってできるだけ診断を試みようと努力することも医師として大切なことがらであろう.私は以下のようにしながら,心電計がくるのを待つことにしている.
 脈はまず規則的か不整であるか? 前者なら洞性頻拍,上室性頻拍,心室性頻拍等が属するであろうし,後者なら心房細動・粗動,ブロックを伴った上室頻拍等であろう.次に心音を聞いてみよう.心尖部第1音が時として強くあるいは弱く変動するものは,前者の中では心室性頻拍であり,上室性ないし洞性のものはほとんど変化しないといってよい.心音を聞きながら,頸静脈の拍動に注意してみよう.心室性頻拍症なら心音に同期しない強弱の拍動が観察できるであろうし,心房粗動なら高頻度の拍動を時として見ることができるであろう.

今月の表紙

急性骨髄性白血病の白血病細胞(3)

著者: 日野志郎

ページ範囲:P.1424 - P.1424

 第3の群に属するのは、著明なアズール顆粒をもち,あるいはAuer小体をもつものである.Auer小体は,アズール顆粒が融合して結晶状になったもの,と理解されるようになっているので,同列に扱ってよいだろう.
 多少の異論はあるにしても,Auer小体の存在は急性骨髄性白血病の診断基準の1つと考えてよい.また,アズール顆粒があるものは前骨髄球とすべきものであるが,服部らが"この顆粒の性質が明らかにされるまでは,かりにこのような細胞を病的顆粒をもった骨髄芽球とよんでおく"と述べているように,一般には骨髄芽球といっている.すべてペルオキシダーゼ反応陽性である.

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略語の解説

著者: 阿部正和

ページ範囲:P.1387 - P.1387

FFA
 free fatty acid:遊離脂肪酸 別名NEFA(non esterified fatty acid),またはUFA(unesterified fatty acid)ともいわれる.血中で,アルブミンと結合して循環している脂肪酸のことで,脂肪組織の中性脂肪が分解されて遊離し,血液中に出る.肝臓の組織は,このNEFAを活発にとり入れ,ケトン体に酸化する.さらに骨格筋もNEFAをとり入れて,エネルギー源として活用する.飢餓,あるいは糖尿病のような,組織でのブドウ糖利用が低下しているときは,脂肪組織からの脂肪の動員が促進されるので,血中のFFAは増量する.これに反して,インスリンの投与,あるいはブドウ糖の投与により脂肪組織からの脂肪の動員はおさえられ,血中のFFAは低下する.

「medicina」第5巻 総目次

ページ範囲:P. - P.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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