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雑誌目次

雑誌文献

medicina5巻7号

1968年07月発行

雑誌目次

100万人の病気

消化器疾患と貧血

著者: 衣笠恵士

ページ範囲:P.810 - P.817

 われわれが日常接している血液疾患,特に貧血症においては,1次性病変が消化管粘膜にあるものが少なくない.もっとも多い鉄欠乏性貧血についても無酸症の関与が古くから問題となっている.ここでは,種々の消化器疾患のさいに認められるV-B12,葉酸ならびに鉄の吸収障害について,最近の知見,検査法にふれながら紹介する.

座談会

貧血

著者: 天木一太 ,   福武勝博 ,   織畑秀夫 ,   長谷川弥人

ページ範囲:P.818 - P.825

 貧血は,その型に応じて特有な症状を現わす.そこで,貧血をそれぞれの型に分類したうえで,それぞれに奏効すべき治療薬を投与することが必要になってくる.

Leading Article

情動と血圧

著者: 小川暢也

ページ範囲:P.807 - P.809

"情動と血圧"における3つの中心課題
 情動と血圧との関係を考える際に,大別して,次の3つの点がその中心課題となっているようである.
 第1は,正常なヒトまたは動物において,情動刺激を受けた際の身体的随伴現象のひとつの反応としての血圧変動である.

診断のポイント

けいれん

著者: 浜口勝彦

ページ範囲:P.828 - P.830

"けいれん"とは
 けいれんとは,随意筋が急激かつ不随意的に反復性あるいは持続性に収縮することをいう.けいれんには,間代性けいれんと緊張性けいれんがあり,また,全身性の大発作型と局所性に始まる焦点発作型とがある.
 けいれんは各種疾患にみられる症状であり,初発年齢およびその型により,原因疾患を推定することができる.

血性胸水

著者: 村尾誠

ページ範囲:P.831 - P.832

 尿に赤血球が混入している場合に,Microscopic hematuriaとMacroscopic hema-turiaとを一応区別しているように,血性胸水についても同様な区別がありうるであろうが,通常,血性胸水といえば,肉眼的に明らかに血性(赤色・暗赤色・赤褐色)と認めうる状態をさしている.

副腎皮質ステロイド剤の投与と白血球増多症

著者: 梅原千治

ページ範囲:P.833 - P.835

 ACTHや副腎皮質ステロイド(以下CSと略す)を投与すると白血球増多が起こることは古くから知られており,この白血球増多の機序についても種々研究されているが,なお完全に解明されるにはいたっていない.またこの白血球増多は,CSの投与量や投与期間,さらには投与される患者の状態ならびに原疾患によっても左右されるといわれる.したがって臨床的にACTHやCSを使用したさいにみられる白血球増多が,投与薬剤によって惹起されたものか,あるいは原疾患の悪化によって起こったものかを区別することはかならずしも容易なことではない.
 そこでここにはCSを1回投与したさいの白血球の動きと,連続投与したさいの白血球変動を,私どもの経験に諸家の報告を加味して解説したい.

治療のポイント

酒と肝臓

著者: 三輪清三

ページ範囲:P.836 - P.837

アルコールの肝臓におよぼす影響
 アルコールすなわち酒類は,世界じゅう人種を問わず嗜好品として用いられ,功罪両面あるとしても,いまその前者について述べるつもりはない.後者すなわち医学的にもっとも関係深いめは肝臓である.健康なる肝臓に対しても,このアルコールの長期間濫用が種々の肝疾患,たとえば脂肪肝とか肝硬変症の原因あるいは誘因のおもなものとして,古くから唱えられていることは周知のとおりである.しかしまた,一度ほかの原因によって障害された肝細胞はアルコールに対して過敏であり,ためにその治癒を遷延悪化せしめたりする原因の1つとなることを,われわれは経験している.
 アルコールと肝障害との関係については,長い間,多くの学者によって論議されているが,現在なお未解決の問題も残されている.特に後述する肝硬変の問題などはそれである.日本では,欧米に比して全体としてのアルコール消費量は少ない.しかし一面,濫用する嗜癖者はしばしばみかけるが,それらについての病態,ことに肝の病変を詳しく検索する機会には比較的恵まれない現状であるが,当教室では,主として伊藤らによってこれらの研究がなされている.肝硬変症にしても,その原因として,ウイルス性の慢性肝炎は血清肝炎が問題となることは当然の事実であるにしても,それ以外にも原因を求めてしかるべき理由がある.

抗ヒスタミン剤

著者: 高橋昭三

ページ範囲:P.838 - P.839

 臨床的に使用しうる抗ヒスタミン剤(抗ヒ剤)としてMosnierやHalpern(1942年)の研究になるAnterganが出現して以来こんにちまで数多くの抗ヒ剤が開発されてきた.
 抗ヒ剤はその名の示すごとく抗ヒスタミン作用をもっていることはもちろんであるが,また多少なりとも抗アセチルコリン作用や抗セロトニン作用を兼ねそなえているものが多く,抗ブラジキニン作用をもっているものもある.後セロトニン作用,抗ブラジキニン作用が強く,特に抗セロトニン剤,抗ブラジキニン剤と称されている薬剤もある.抗ヒ剤の多くは局所麻酔作用をもち外用にも用いられるが,私にはその経験がないので割愛する.

三叉神経痛

著者: 清原迪夫

ページ範囲:P.840 - P.841

 痛みのなかでももっとも激しいものの1つである三叉神経痛は,現在のところ成因が不明である.生命に危惧がないとはいうものの,患者は飲食さえもできない状態が続くと,痛みへの恐れと身体の疲憊,そしてだれもがこの内容を理解してくれないので,精神的にも抑うつ的になっている.したがって,早期診断とその適切な鎮痛対策がほどこされると,うれし涙と笑顔で感謝される.

妊娠と黄疸

著者: 浪久利彦

ページ範囲:P.842 - P.843

血中ビリルビン増加の機序
 黄疸は血中ビリルビンの増量によるものであるが,生体におけるビリルビン代謝は次のように説明されている.すなわち赤血球内ヘモグロビンは,網内系で処理されてビリルビンとなり,流血中ではアルブミンと結合しているが,肝類洞に到達すると能動的な移送機構によりアルブミンと解離して肝細胞内にとりこまれ,肝細胞内においてはグルクロン酸抱合をうけて,その大部分は毛細胆管内に排泄される.
 したがって,血中ビリルビンの上昇がみられる場合には,4つの機序の関与することが考えられ,第1の機序は,処理すべきヘモグロビンの増加する場合であり,溶血の亢進あるいはshuntビリルビンの増量などがこれに該当する.

EDITORIAL

日本人の貧血

著者: 河北靖夫

ページ範囲:P.826 - P.826

 日本人には,鉄欠乏性貧血は多い.そのうちでも,もっとも多いのは本態性萎黄貧血(本態性低色素性貧血,本態性鉄欠乏性貧血)で,男より女に多い.鉤虫貧血は,近年,減少したが,農村にはなお少なくない.また,筆者らが調査した女性農業従事者のなかには,自覚症状はなく,鉤虫症も消化管出血もないのに,軽度の貧血がみられ,血清鉄が正常に比し低値を示したものが少なくない.また貧血はないのに,血清鉄の低下が認められるものさえある.本態性萎黄貧血も,貧血がある程度進んではじめて自覚症状を覚えるもので,かなりの貧血がありながら,服薬することなく過ごしている者も少なくないものと思われる.これらの鉄欠乏性貧血ないし鉄欠乏状態は,鉄剤投与あるいはさらに駆虫によって容易に治癒ないし改善可能なもので,この方面の対策は強力に推進さるべきであろう.鉄欠乏性貧血を伴うBanti症候群もまれな疾患ではなく,その病因ないし病態生理については,なお検討さるべき点が少なくない.
 本態性再生不良性貧血は,欧米に比べて日本には多いもので,いまなおその成因は明らかでない.また治療法にかなりの進歩はみられたものの,つねに確実に卓効を奏するという治療法はない.本貧血に関する諸問題は,ぜひ日本の学者によって解決さるべきものであろう.

医療過誤における医師の過失責任

著者: 唄孝一

ページ範囲:P.827 - P.827

 戦後の民事判決においては,戦前と異なり,損害をうけた患者が医師を訴求することもそう珍しくなくなってきた.この傾向は,原告に対して好意的な態度を示す判決が増えたことと相対応しているといえよう.この点で,梅毒に感染している職業的供血者の血を輸血した医師につき,その問診不足の故に過失ありとした「輸血梅毒事件」(昭和36年)は,医師にかなり重い責任を課したものとして特に有名である.その際,最高裁判所が宣した「いやしくも人の生命および健康を管理する業務の性質に照し,危険防止のために実験上必要とされる最善の注意義務を要求されるのはやむを得ないところ」という言葉は,今後ますます大きく機能することが予想される.
 この場合,被告の過失を立証するために,その診療行為を,それを構成する諸行為に分析して,いかなる作為,不作為が注意義務違反であるかを特定するという方法がとられている.ところが,患者が医師の特定の行為または不作為を過失ありと証明することは,往々にしてきわめて困難である.そこで,結果から「一応の推定」によって過失を認定するという方法がとられることがある.

フアースト・エイド

小児の気道異物

著者: 三宅浩郷

ページ範囲:P.844 - P.845

気道異物とは
 気道異物という場合,普通われわれが考えるのは,気管・気管支異物のことで,重篤な症状を呈し,緊急処置が必要な症例を考えるのが常識である.しかし,厳密に,気道異物を定義すると,鼻腔・喉頭・気管・気管支のいずれかに異物が介在した場合をさすものである.
 表1は,昭和34年にわれわれが調査した1285例の気道異物の介在部位を示したもので,1/4は,鼻腔内異物である.気管・気管支異物は61%あり,気道異物の半数以上を占めている.

病歴のとりかた

内分泌疾患

著者: 鎮目和夫

ページ範囲:P.848 - P.850

 ホルモン異常は,全身的な影響をおよぼすもので,内分泌疾患の主訴や初発症状はしばしば全身倦怠感,疲労感,体重減少,月経異常,頭痛などの非特異的な症状であり,また時には筋力低下,筋萎縮,浮腫のような他の種の疾患を思わせるような症状である.したがって内分泌疾患の病歴(アナムネーゼ)をとるにあたっては,患者の訴えや病状の経過を詳細に聞いて,そこから内分泌疾患を疑わせるような資料を得ることが必要である.これは特に軽症例,初期のものの非定型例の診断にあたっては重要で,そうすることにより早期の診断や他医により見逃されていたものの診断が可能になる.一方,内分泌疾患はその異常をきたした内分泌臓器の種類により,さまざまの症状を呈するので,その病歴のとり方についても甲状腺,副腎等々各臓器にしたがって個々に考えなければならない点が多い.しかし,ここでその各々について記すことはかぎられた紙面ではとても不可能なので,ここでは内分泌疾患に共通な問題や,特に注意すべきいくつかの点について病歴のとり方を述べよう.

くすりの効きめ・7

β受容体遮断薬について その1

著者: 鈴木哲哉

ページ範囲:P.852 - P.854

β受容体遮断薬をめぐる二つの挿話
 最近といっても数カ月は経ったかもしれないが,どうもテレビの番組がいっこうに面白くないのでチャンネルをあちこちと探していたら,ある高名な先生が狭心症の話をしておられたので,しばらく拝聴してみることにした.テレビの医学講座というのはあまり聞いたことがなかったが,内容が薬であるところに興味をもったのである.
 画面いっぱいにいろいろの種類の狭心症薬の名前が並んでいて,先生はその1つ1つに解説を試みておられたのだが,モノアミン酸化酵素の阻害剤のあるものが狭心症薬に用いられる事情を説明されて

心電図講座 ブロックのいろいろ・1

心の刺激伝導系とブロックの分けかた

著者: 吉村正蔵 ,   宮本進

ページ範囲:P.863 - P.867

 今回から6回にわたり,ブロックというテーマで,私たちが経験した症例を中心に述べていきたいと思います.ブロックは心の刺激伝導異常の大きな項目であり,心電図によってもっとも明瞭になりますので,できるだけいろいろの心電図を呈示したいと思います.しかし実際上,心電図の解釈はいろいろとつくことも多く,読者の皆さまのご教示・ご批判をいただければ幸甚です.

カラーグラフ

消化器疾患と貧血

著者: 衣笠恵士

ページ範囲:P.798 - P.799

 最近,虫垂炎手術後に腸閉塞を起こし,再開腹・腸管吻合術を,あるいは胃全摘をうけた患者の貧血症を診る機会が多くなっている.本文(22-29ページ)に記したように,鉄,ビタミンB12,葉酸などの体内における代謝,または代謝に関与する機序が,アイソトープを用いることにより,ある程度判明し,臨床的にも各造血因子の欠乏状態を代謝面から診断することが可能となっている.ここでは広い意味でのmalabsorption症候群に属する巨赤芽球性貧血症の2,3症例を図示した.

グラフ

注射のしかた

著者: 西村昂三 ,   渡辺昭彦

ページ範囲:P.801 - P.806

 一般に,医者といえば注射を連想するぐらいに,注射は日常の臨床で最も数多く行なわれている治療手技である.ところがふしぎなことに,注射のしかたを医学生に教える大学は,わが国ではまれである.また,一部の医学書に記載はされていても写真が少ないので,実用上あまり参考にならず,だいたい,いつとはなく,見様見真似でおぼえてきた人が多いようである.そこで今回は編集者の要望により,私たちが日常行なっている注射の数々の写真を載せ,ごく簡単に解説することにした.読者諸氏のお役にたてば幸いである.

他科との話合い

腸管内ガスの考え方・とり方

著者: 土屋豊 ,   松永藤雄

ページ範囲:P.870 - P.878

腎盂撮影や胆嚢造影の際に,腸管内ガスがじゃまになって,所見がとれないことがある.あるいは,ガスがたまって苦しいと訴える患者がある.腸内ガスの始末は意外にやっかいなものだが……

臨床家の生理学

発汗の生理

著者: 緒方維弘

ページ範囲:P.879 - P.882

 個々の疾患について,発汗消長の全貌を明らかにすることは,現段階ではむずかしい.ここでは,特に汗量の問題にしぼって,種々の条件下における発汗の生理を解説したい.

痛み

頭痛—その最近の考えかた

著者: 清原迪夫

ページ範囲:P.884 - P.886

 もっともありふれた症状としての痛みは,従来,部位別にみたり,原因疾患によって分類されたりしてきたが,合理的な治療を行なうときには,因果関係を設定して考えなければならない.
 そうだとすると,この痛みを起こすおもな役割をはたしているものは何か,という問題に当面する.生体の営みは,体液と神経系との調節されたはたらきのうえに円滑に行なわれている,そのなかで,神経系の主役はインプルスの伝播であって,この痛みの感覚を成立させるような神経系の興奮機序を起こさせる原因がなくてはならない.この興奮機序の根底にはたらきかけるもの—それは体液成分の微妙な変化である.

症例

小腸疾患とX線像

著者: 日野和徳

ページ範囲:P.887 - P.891

症例1 Protein losing enteropathyの病像を呈した限局性小腸炎
佐○和○ 30歳 女
主訴 全身の浮腫と貧血および腹痛

全身性疾患と骨・7

血液疾患と骨—白血病,血友病

著者: 今村幸雄 ,   千葉省三

ページ範囲:P.892 - P.897

症例1 慢性(骨髄性)白血病の急性転化例に伴った骨病変
 患者 T. H. 38歳 男.
 家族歴 特記すべきことなし.

内科疾患と皮膚・7

かゆみ

著者: 西山茂夫

ページ範囲:P.898 - P.901

 皮膚のかゆみには,皮膚病変に伴うもののほかに,肉眼的に認められるなんらの皮膚変化なしにかゆいものとがある.後者を皮膚?痒症(Prurituscutaneus)として総括している.この場合重要なことは,かゆい皮膚をかいているうちに生じてくる,いわば二次的な皮膚の変化を,皮膚疾患と混同しないことである.かいた結果生ずる皮膚の変化(Kratzeffekte)には,線状の表皮の剥離(爪のあと),点状の小出血斑が主であるが,かゆみががんこに続いている場合には,皮膚が肥厚し,時に苔癬化を生じ,また二次的な細菌感染を惹起して,あたかも皮膚疾患のような外観を呈することもあろ.また神経症の患者では,異常な掻破のために,潰瘍などの極端な人工的皮膚変化(Artefa-kt)を生ずることもある.このような掻破の効果および人工的皮膚変化を正確に把握し,本来の皮膚疾患と区別することは,皮膚科医にとっても,しばしば簡単ではない.ここで取扱うものは,皮膚病変を伴わない一次的な皮膚のかゆみである.

Medicina CPC・第1回

出題

ページ範囲:P.795 - P.795

症 例 本○三○ 68歳 女
主 訴 食思不振,肝腫

討議—肝腫瘤があって末期に胸内苦悶を呈した症例

著者: 大貫寿衛 ,   三上理一郎 ,   日野原重明 ,   小沢啓邦 ,   太田怜

ページ範囲:P.902 - P.907

 過去2年間,"この症例をどう診断する?"の名称でご愛読いただいてきました本欄を,今月から"メディチーナCPC"と改めました.外国の例にならって読みごたえのあるCPCにしたいと新しい構想で再出発いたします.また,時に"CC"をも加えていきたいと思います.ご助言とご批判をお願い申し上げます.

検査データどう読みどうする?

胃液酸度の異常

著者: 湯川永洋

ページ範囲:P.796 - P.796

 胃液酸度の検査法は,わが国では,従来Katsch u.Kalkのカフェイン法が普及しているが,欧米では1953年Kayがヒスタミン最大刺激法を提唱して以来,本法またはその変法を用いている所が多い.
 このことは,ヒスタミン最大刺激法が在来の方法に比べ合理性をもっているからであるが,検査方法のこまかい点,すなわちヒスタミン量,胃液採取方法と時間,酸分泌量の表わしかたなどによって測定値は異なり,inter-nationalのものができていない.

統計

日本人の平均寿命

著者: 菅沼達治

ページ範囲:P.851 - P.851

 明治から昭和も戦前にいたるまでの長い間,平均寿命は45歳前後を示し,人生50年などといわれていましたが,戦後における伸長はいちじるしく,男68.4歳,女73.6歳というのが最近の状況であります.この平均寿命とは,0歳の平均余命をいいますが,この10年間,年平均男では0.5年弱,女では0.6年弱の伸びを続けています.このように平均寿命が長くなったことは,一般には老人が長生きをするように思われがちですが,図の60歳,75歳の傾向線はけっして上昇してはおりません.特に75歳という高齢者は,明治以後平均余命がほとんど伸びていないのであります.このことは若くして死亡していたものが,しだいに長生きをするようになってはきたが,高齢者における死亡状況には,あまり改善がみられないことを意味しております.
 ある年齢の平均余命とは,ある年次の死亡状況がそのまま100年も続いたとして,現在すでにその年齢に達しているものが,あと平均何年生きられるかを示すものであります.年齢と死亡との関係は,環境への適応,淘汰,老化現象などにより定まってきますので,0歳の平均余命よりは,乳児というきわめて死亡の危険度の高い時期を通過した1歳のそれのほうが,やや長いことが認められます.

全国教室めぐり

アレルギーの臨床を中心に—岩手医大・光井内科

著者: 光井庄太郎

ページ範囲:P.855 - P.855

 私どもの教室は,昭和31年11月内科学第3講座として誕生した.当時は学位審査権もなく,大学院も設置されてはいなかった.教室員5人とベッド15より始めた教室づくりは,苦労ではあったが,なつかしい思い出でもある.地方大学の悲しさで入局者も少なく,年々増加する患者の診療には全教室員があたらねばならなかった.入局早々から医局員は各種のレントゲン検査はもちろん,内視鏡臓器組織の採取,心臓カテーテルまで一応習得しなければならない.そのためか医局内はまったく家庭的で,内科医を養成するにはかっこうな教室ができあがったとも思える.
 大学院開設後も研究費や設備の点では,けっして恵まれたとはいえなかった.したがって,目だたなくとも将来を期待できる研究を志し,九大時代に恩師楠教授よりテーマとして与えられた気管支喘息を中心にアレルギーの臨床から研究を始めることにした.さしあたって費用のかからない抗原の作製を手がけたが,このことはこんにちでもアレルギー性疾患の診断および治療に強力な武器を提供してくれる.アレルギーの臨床より始めた教室の研究は,循環器,消化器,糖尿病としだいに範囲をひろめてこんにちに至っている.

ずいひつ

このごろの若い者は……

著者: 佐藤昌康

ページ範囲:P.856 - P.857

新幹線の車中にて
 熊本という地方都市に住んでいると仕事の都合で大阪・東京へ出かける機会が多い.九州から特急,新幹線乗継がずいぶん出ており便利になったとはいえ,やはり車中で費やす時間はなんとなく無聊をもてあますものである.そんな時同席した他人の話に聞くとはなしに耳を傾けていることがある.たいていの場合,見知らぬ他人の会話は記憶に残らず,週刊誌の座談会記事と同様その場だけで忘れてしまうことが多いが,ときになかなかおもしろい話にぶつかる.先般大阪から東京への新幹線の車中で同席した2人の人品いやしからぬかなり年輩の紳士の話も,後で述べるエピソードを思い出しておかしくなった.2人ともどこかの大学の理科系の教授らしく,盛んに現代の若い研究者気質について議論をしていたが,ついに若い研究者達は昔—つまりその2人が若かりしころという意味らしいが—ほど研究に苦労してはげむという態度に欠けているのではないかということで意見の一致をみ,たがいに自己の正当性を確かめあうことで満足したらしく,そのまま話はとぎれてしまった.そこで私はふとあるエピソードを思い出したというわけである.

これからの開業医

君は君,僕は僕—個性的開業医への階段

著者: 木島昂

ページ範囲:P.860 - P.861

 10年1日,○○科××医院の看板を後生大事に,内容もそのままに,孤塁を守る手はもう古い.子供のオモチャひとつ見ても,ゼンマイ自動車からリモート・コントロールへ変っている.「猿の惑星」をまじめに考える,SF時代だ.

木島先生のご一文を読んで

"君は君……"をグループに高めていくためには?

著者: 江見康一

ページ範囲:P.862 - P.862

自由な創造活動の社会的適用
 まず随筆の題に感あり."君は君,僕は僕"というのは,人はそれぞれ独立の人格をもった存在だということだが,特に医師にとっては,個性的活動をもつことがたいせつだ,ということだろう.個性的とは,自由な創造活動をしてゆくためにはなくてはならない性格だ.医学・医術の進歩は自由な研究活動によってのみ約束される.ヒモがついていてはいけない.それに創意工夫は,自分がたえず接している地域の生活環境や,それを背景にした患者の特性に対してどのように対処するか,という適用上の熱意から生まれてくるものだと思う.医療とは"医学の社会的適用"だといわれるが,個性的活動は医学自体の研究においても,その社会的適用においても,いずれの分野にも必要な性格である.
 夜間診療オンリーというのは,このような適用の1つのくふうであろう.私の家のすぐ近くにも,夜間診療オンリーのJ医院ができた.医師との不断の接触によって,みずからの健康管理をする立場からいうと,夜間オンリーができることは,勤め人には便利だ.特に中小企業や日雇的な仕事の人に.勤めを休まなくても,勤めが終わってから落ちついて医師と相談できるからだ.ついでに夜間診療プラス日曜診療オンリーの診療所ができればよいが,と思っている.

話題

興味ぶかい微細脳損傷症候群の研究方向—第71回日本小児科学会総会から(43年5月23-26日)

著者: 巷野悟郎

ページ範囲:P.883 - P.883

先天性喘鳴
 生後まもないころから,吸気時に胸骨上部を陥没させて,ゼイゼイまたはヒューヒューという音を発して,苦しそうな呼吸をする乳児がある.これを先天性喘鳴といって呼吸障害のひとつの症候群である.母親の訴えをよく聞くと,抱かれかたや睡眠しているか覚醒しているか泣いているか静かにしているかなどによって,喘鳴の現われかたに変化のあることがある.そして喘鴫はいつのまにか消失することがあるし,ときには年余にわたって聴かれることがある,この原因は,気管の一部に生まれつきのかたちの異常や軟弱部があったりして,吸気時にその部分が狭窄を起こすためであろうといわれ,また胸腺肥大による気管の圧迫,声帯のポリープなどがあげられているが,日常診療でこの原因をつきとめることはなかなかむずかしい.
 奥山(国立小児病院)は耳鼻科・外科・麻酔科の協力のもとに,10例の本患児について精査し治療している.そして喉頭鏡検査によって左反回神経麻痺,喉頭腫瘍,喉頭横隔膜(Laryngeal swab)などを認め,また喉頭鏡で異常を認めないで,喉頭軟化症(Laryngomalacia)と考えられる例があったと述べている.これらの症例のうちで呼吸困難のために気管切開を必要としたもの,局所手術を行なったものもあったが,喉頭軟化症は新生児期には呼吸困難が強かったが,その後はしだいに軽快し,1歳ごろまでには自然治癒したと述べている.

臨床メモ

腸炎ビブリオ性食中毒の診断

著者: 柳下徳雄

ページ範囲:P.830 - P.830

 下痢患者を診ることが多いシーズンとなったが,夏季の感染性下痢症の首位を占めるものは腸炎ビブリオ性の食中毒である.
 この疾患の症状を出現率の高い順に列記すると,下痢 99.8% 悪心 61.6% 腹痛 87.3 血便 55.2 発熱 85.2 頭痛 28.7 嘔吐 69.5となるが,本症の病型は案外さまざまで,診断はかならずしも容易でない.すなわち,定型的な胃腸炎型の食中毒症状を呈するものもあるが,嘔吐のない下痢のみを主徴とする単純な腸炎型のものが多く,また一時的な高熱や粘血便を排出して,赤痢との鑑別は病原検索によってのみ可能な例もあり,胃けいれんと誤診されるようなことも,病初には少なくない.

文献抄録

われわれは治療学における不毛の"暗黒時代"に突入しつつあるのではなかろうか—JAMA, 18, 1967 Editorialsから

著者: 浦田卓

ページ範囲:P.858 - P.859

はじめに
 現代アメリカ哲学の一派である"客観主義哲学"の創始者たるAyn Rand女史によれば,こんにちの輝かしい科学文明を築いた源泉は,有史以来わずか数百人をかぞえる天才の頭脳にひらめいた偉大な"アイデア"であるという.なるほど,無数の民草の労働がなければ,偉大なアイデアから文明の花の咲くよしもないが,単純な労働だけでは,こんにちのけんらんたる科学文明が開花しなかったであろうことも,また事実であろう.
 さて,科学史をひもとけば,だれしも気がつくように偉大な科学的アイデアが生まれたのは,主として,古代ギリシアの社会と産業革命以後の資本主義社会においてであった.これらの社会のもっともいちじるしい特徴は,研究の自由,発表の自由,特に批判の自由が,他の社会に比べて大幅に許されていたという点である.しかるに一方,歴史上"暗黒時代"とよばれる,かのキリスト教独裁下の中世は,その名の示すとおり,科学的アイデアの"不毛"な時代だったのである.

慢性気管支炎と気管支喘息の組織学的変化—Thorax 23, 168-172(March)1968

著者: 若林保司

ページ範囲:P.859 - P.859

 2グループの患者—慢性気管支炎の患者24人と気管支喘息の患者24人のグループ—について,気管支鏡と気管支の生検をおこない比較した.対照に選んだ健康者24人についても同じことをおこなった.粘液の分泌亢進は慢性気管支炎の患者および気管支喘息の患者の両方にあった,が,気管支喘息では,気管支粘膜の肥厚がもっぱら杯細胞をおかし,粘液は,過沃度酸シッフ法でよく染まった.慢性気官支炎では,深部の気管支腺が侵され,また杯細胞もおかされた.このばあい,粘液はアルシアン青でつよく染まった.基底膜の肥厚は,気管支喘息ではほとんど恒常的であったが,慢性気管支炎ではまれにしかなかった.組織のエオジン嗜好細胞増多が喘息ではごく頻繁にみられ,かつその程度も強かった.しかしながら慢性気管支炎ではこの所見は珍しく,しかも僅少であった.肥満細胞は,喘息ではその顆粒が減少し,細胞数も減少していた.しかし慢性気管支炎ではその細胞数は増加し,細胞内に夥粒がギッシリとつまっていた.以上のことから気管支喘息と慢性気管支炎はそれぞれ別の病気であることが確かめられる.

今月の表紙

正常骨髄中の骨髄芽球(3)

著者: 日野志郎

ページ範囲:P.901 - P.901

 前の2号と同じ方式と同じ方針で選んだ図を示した.健康な別の男子学生(22歳)の胸骨骨髄穿刺標本から撮ったものであるが,結果的にみると,わたしが骨髄芽球と判断したものには,前の2例で骨髄芽球としたものと比較して著しい違いがある.
 同じ標本の上で,前骨髄球を基準にして幼若な方向にたどっていき,このような結果になったわけであるが,前骨髄球にすでに差があった.写真の枚数の関係でおみせできないしかし,今度の写真にでてくる好中成熟球やリンパ球を,以前のそれと比較すればわかるように,白血球系,とくに核が濃染している.したがって骨髄芽球の差も,個人差というより,標本のできや染まりに関係しているのではなかろうか.

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略語の解説

著者: 阿部正和

ページ範囲:P.793 - P.793

CCU
 coronary care unit心筋硬塞の発作初期の対策として,心臓性ショックに対するあらゆる施設および訓練された医師と看護婦が配置された単位のこと.適当な邦訳名はいまのところない.つまり,急性心筋硬塞患者の脈拍,心電図,血圧,呼吸などを連続的に監視して,必要に応じた対策がタイムリーに行なわれる特定の重装備室ということになる.
 有利な面のある反面,患者のむりな輸送,過重な精神的,肉体的,経済的な負担など不利な面もあり,議論のあるところである.わが国の大病院にも漸次設置される機運にある.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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バックナンバー

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60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

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60巻9号(2023年8月発行)

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60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

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60巻4号(2023年4月発行)

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60巻3号(2023年3月発行)

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60巻2号(2023年2月発行)

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60巻1号(2023年1月発行)

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59巻13号(2022年12月発行)

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59巻12号(2022年11月発行)

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59巻11号(2022年10月発行)

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59巻10号(2022年9月発行)

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59巻9号(2022年8月発行)

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59巻8号(2022年7月発行)

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59巻6号(2022年5月発行)

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59巻5号(2022年4月発行)

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59巻4号(2022年4月発行)

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59巻3号(2022年3月発行)

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