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雑誌目次

雑誌文献

medicina5巻8号

1968年08月発行

雑誌目次

100万人の病気

無酸症

著者: 三好秋馬

ページ範囲:P.930 - P.939

 診断・治療のめざましい発展に伴い,幾多の病因が解明されてきたが,現在なお,正体の明らかでない疾患がある.いわゆる無酸症はその代表的なものの1つである.ここでは,診断を中心に,最近の動向をまとめてみた.

座談会

環境と病気

著者: 外山敏夫 ,   巷野悟郎 ,   保崎秀夫 ,   山崎昭吉 ,   村地悌二

ページ範囲:P.940 - P.949

 内科医は,最も上手な生活指導の処方箋の書き手でなければならないはずであるが……,それには患者の生活全般を知らねばなるまい.そして,私たちが病歴をとるとき,もっと,人間の生活的,精神的な既応歴に目を向ける必要がありはしまいか.広い意味で,環境が,病気にどう影響しているか,じっくり考えてみよう.

Leading Article

癌と内科医—ヒューマニズムの介入

著者: 小田切信男

ページ範囲:P.927 - P.929

癌は内科的に治しうるか
 主題の"癌"と"内科医"とを相互に気軽く結びつけてもよいか,といえば,それは問題であろう.内科医を内科的に病を治す者とする常識的見地からすれば"癌は内科的に治しうるか"がこの主題から問われてしかるべきであろう.その結果,内科医は癌とは無縁なもの,と断ぜられることになるかもしれない.
 "内科医は1人も癌を治してはいないではないか""癌を治している者は,ただ外科医だけである"と語り,"この手で殺すこともあるが,この手で治すのだ"と言いきって,癌患者の活殺の権を握る者は,まさに外科医のみであり,内科医のごときは,ただ癌について語ったり書いたりする"癌ジャーナリスト"にすぎないと,勇ましく言い放つ誇り高き外科医も出てくるほどである.

診断のポイント

原因不明の婦人の浮腫

著者: 竹本吉夫

ページ範囲:P.952 - P.954

診断にあたっての注意
 婦人にみられる原因不明の浮腫,およびそれと鑑別すべきものとして,慶応大学の加藤博士は表1のごとくまとめている.
 このうち特発性浮腫は,1955年Machらが,はじめて本症患者で尿中アルドステロンの排泄増加を報告して以来,その成因をめぐって特にホルモン分泌異常との関連で大いに注目されてきた.われわれも最近12例を経験したので,本症の臨床および成因をめぐって若干ふれてみたい.

日本脳炎

著者: 鍵和田滋

ページ範囲:P.955 - P.956

日本脳炎の病型
 一般に感染症は,病原が発見され,さらに特異的血清抗体価の測定などが可能になると,診断の確実さが増すとともに,従来,記載されていた定型的な病型のほかに,非定型的な病型や不全型も把握されるようになる.日本脳炎(日脳)の場合もまたそうで,現在は従来の脳炎型のほかに,次のような病型が区別され,かつ不顕性感染がはなはだ多いことも知られている.
 ① 脳炎型(入院した日脳患者の70-90%)

慢性硬膜下血腫

著者: 中村紀夫

ページ範囲:P.957 - P.959

 臨床所見 病理学者の多くがPachi-meningitis internaとよび,臨床家の多くが慢性硬膜下血腫学的に興味ぶかいと同時に,臨床像もまたたいへん注目すべき面をもっている.
 発生機序に関する諸問題をさておいて,臨床家にとって—あるいは,ことに私自身にとってかもしれないが—興味をひどくそそられるのは,次のような事がらである.

治療のポイント

夏と低血圧症の生活指導

著者: 三瀬淳一

ページ範囲:P.960 - P.961

夏に弱い低血圧者
 夏は疲れやすく,気温の上昇と不快指数の増加は人の活動力ことに頭脳活動を著しく阻害する.それにもかかわらず,高血圧者は疲れを知らず,活躍できるようにみうけられるが,低血圧者はそうではない.夏季には,末梢抵抗の減少,したがって血圧の下降があり,低血圧者のうちには易疲労性,注意集中能力の低下,眩暈と失神傾向を訴え,やりきれなくなって医師を訪れる者がある.ひどい場合には,胸部圧迫感のため溜息を発し,食思不振,胃部圧迫感,便秘さらに放屁などをみ,男子ではインポテンツ,女子では月経障害をもみるにいたる1)
 次ページの低血圧の分類表のI,1に示された体質性低血圧あるいは本態性低血圧ならびに低血圧症候群にはLian and Blondelが記載したように,その主要症状として低血圧,易疲労性,眩暈と失神傾向,および肢端チアノーゼの4項目があげられる1)

熱性けいれん

著者: 加藤英夫

ページ範囲:P.962 - P.963

まず“けいれん”を鑑別する
 熱性けいれん(febrile convulsion,febrile spasm,Fieberkrampfe)と思われる急患の訪問をうけることは,小児科医にとっては日常茶飯事である.そのため,ともすると,これらを安易に取り扱いがちであるが,正しく診断し,正しく予後について説明することは,必ずしもたやすいことではない.
 それはそのけいれんが,てんかん,代謝性疾患,テタニー,低血糖症,脳腫瘍,中毒,頭蓋内感染症あるいは出血,先天性脳障害ないし奇形,脳内血管異常,脳血管塞栓,脳変性疾患,外傷,急性腎疾患,ヒステリーなどでないことを確かめる必要があり,特にてんかん発作が発熱によって誘発されたものでないことを決定することが,しばしば困難であるからである.

妊娠とトキソプラズマ症

著者: 古賀康八郎

ページ範囲:P.964 - P.965

トキソプラズマ症とは
 トキソプラズマ症は人獣伝染症の1つであって,動物のトキソプラズマ原虫が人に移行して発生するものである.トキソプラズマ原虫は1880年Nicolle & Manceauxによってヤマアラシの一種から発見されたもので,その後,哺乳類・鳥類・爬虫類から発見され,人からは1937年Wolf & Cownらがけいれん発作で死亡した新生児から発見したのにはじまり,脳水腫その他の患者から発見され,人および動物間に広く不顕性感染のあることが証明されている.
 近年,妊婦における本症が胎内感染によって流早死産あるいは先天性トキソプラズマ症児を出産することが明らかになり,流早死産,および先天性異常児の重要な原因の1つとして注目されている.

新しい強心剤

著者: 友松達弥

ページ範囲:P.966 - P.968

強心配糖体
 ここ2,3年来登場してきた強心配糖体は,海葱Scilla maritimaより精製されたProscillaridinである.海葱から得られた強心配糖体はScillarenという商品名で,すでに戦前に発売されていたが,副作用の強いために使用困難であった.近来,ドイツのKnoll社により精製に成功して再登場したわけである.その構造式は下図に示されるとおりで,3β-rhamnosido-14β-hydroxy-Δ4,20,22-bufatrienolideである.
 強心配糖体はジギトキシンによって代表される遅効性と,ストロファンチンあるいはデスラノシドの速効性と2種に分けられる.前者は吸収率80-100%,排泄率7-9%であるに反して,後者は吸収率10%以下,排泄率40%である1).したがって,遅効性のジギトキシンは効果が安定し持続性であるが,過重のとき,すなわち中毒症状も長くつづくことになる.速効性の場合は効果の安定性が乏しく,したがって効果の維持に難があるが,中毒症状の発生の恐れが少ない利点である.ところが本剤は吸収率が35-40%,排泄率50%である.両者の中間的存在であるが,本剤は経口剤として用いられるのみでなく,排泄率が高いから中毒症状の不安が少ない.

EDITORIAL

赤痢

著者: 斎藤誠

ページ範囲:P.950 - P.950

 日本の赤痢の問題点をとらえてみると,その流行菌型はフレキシネル段階を脱し,ほぼソンネ段階にはいり,菌型分布の面では先進国型を示しているこの菌型変動と関連して多剤耐性(SA・SM・CP・TC)赤痢菌が85%前後に達した所見に加え,流行形式が夏型から年間型に変化したこともあげられる.
 臨床的には赤痢症状の軽症化,致命率の激減,疫痢の著減などの軽症化の指標となる現象がみられているが,これは菌型の変動,生体側の因子と無関係ではありえない.

癌ウイルス説と臨床の結びつき

著者: 波多野基一

ページ範囲:P.951 - P.951

 人の悪性腫瘍の病因をウイルスに求めて行なわれた研究の試みは,今日までけっして少なしとはしない.しかし,かつてRobert Kochが結核菌を人の結核病の病因と断定するのに要請されたのを契機に唱えた,Koch's postulates(regelmässige Nachweiß,ausschlieslicher Isolierung,Rein Kulture und Animal Experimentの3条件)が人癌ウイルス説にも依然として生きていると考えるならば,現在までのそれらの多くは,まだ不十分といわざるをえない.
 ただ間接的傍証としては,たとえばBryan Fink,Dmochowskiらを中心とした人造血臓器腫瘍における電顕的"virus like particle"の存在の証明,および螢光抗体法によるそれらのマウス白血病ウイルス(特にRauscherウイルス)との免疫学的相関が知られている.これらのなかでも,1962年Burkittにより臨床的に見いだされたいわゆるBurkittlymphoma(central Africa lymphoma)には現在同様に電顕的にヘルペス型ウイルスが認められ,分離も報告されている.しかも,これと同一と思われるウイルスは,正常人白血球培養細胞にも見いだされ,かつ同様の白血病がアメリカ大陸にもその後見いだされるに至り,この現在同定未了のウイルスこそ人白血病ないしBurkitt腫瘍に共通の病因ウイルスと疑せられている.わが国においても,最近,伊藤らにより類似ウィルスが人白血病白血球培養上清より分離され,人胎児培養細胞は形態学的に"transform"(癌化)したと報告している.

器具の使いかた

ネブライザー吸入療法の適応

著者: 藤本淳

ページ範囲:P.970 - P.971

 肺における気道の役割は,機能を営む肺胞が直接外気に曝露されることから守ることである.気道は吸入気の温度・湿度を維持すると共に,深部気道では粘液分泌により自己清浄作用を営んでいる.したがって気道の疾病は外気の肺胞への流通を阻害し肺機能低下を生来する.気道の疾病に対する治療としては,経口的,経直腸的(消化管を通して),および筋肉内静脈内(血管内へ)注射により投与を行なうこともあるが,気道が外気と交通していること,換気により微粒子が気道深部に侵入することを応用して薬剤を撒布する方法も行なえる.これがネブライザー吸入療法というもので,その効用としてはさらに気道内に分泌されたもの(喀痰)に直接的に薬剤を作用させうる点から他の投与方法でははたし難い効果を発揮するということである1).今回はネブライザー吸入療法を,臨床の実際面でどのように活用されるべきかを考えてみたいと思うので,ご追試をお願いしたい.

ファースト・エイド

小児の脱水症

著者: 大部芳朗

ページ範囲:P.972 - P.973

 小児の脱水症は,放置すれば急速に進行悪化することが多く,特に体液生理の不安定な乳幼児では,この傾向が著しい.したがって,小児に脱水の徴候を認めたならば,原疾患の治療と平行して,ときにはこれに優先して脱水に対する治療を行なう必要がある.

心電図講座 ブロックのいろいろ・2

第1度および第2度房室ブロック

著者: 吉村正蔵 ,   宮本進

ページ範囲:P.983 - P.987

 前回,洞房ブロック,心房内ブロック,および第1度房室ブロックについて,リウマチ性心疾患および冠硬化症の症例を中心に述べました.今回は,これらの補足と第2度ブロックを中心に述べます.

カラーグラフ

全身疾患と口腔症状

著者: 林一

ページ範囲:P.918 - P.919

 診断等に関する書物をひもとけば,どれにも口腔診査の項が載っている.それは,口も人体の一部であるし,全身と無関係ではありえないことの証拠であるし,また,全身性疾患のなかには,口腔内に症状を呈するものが少なからずある.しかし,そのわりには,重視されていないようである.しかもなかには,口腔症状をもって初発するものすらあるのに,そして眼で見,指で触れることができるのに,これをそまつにするのはもったいないことである.

グラフ

Pneumomediastinography

著者: 土屋雅春

ページ範囲:P.921 - P.924

 Pneumomediastinographyとは,縦隔内に酸素を注入して,胸部X線撮影を行なう方法で,これに断層を加えるときにはPneumomediastinostratigraphyとよぶ.縦隔内諸器官は心陰影にかくれ,ふつうの胸部X線撮影ではわかりにくいが,本法を行なうと,特に側面撮影では,心血管・リンパ節・気管・胸腺がはっきりと描写される.特に近年,自己免疫疾患との関係が重視される胸腺の状態を把握するには必須の方法である.
 図1,2に示すが,要領は針先がつねに正中線上にあり,胸骨柄部の離面へ向かっていることである.酸素の注入はきわめてゆっくりとやる,250-300ml注入して深呼吸させると,胸部全体にすこし圧迫感を訴えるが,この程度でよい.副作用はまったくない.

内科疾患と皮膚

関節の周囲の結節

著者: 西山茂夫

ページ範囲:P.925 - P.926

 四肢の関節の近くに結節をみるときは,つぎの病変の可能性が考えられる.すなわち,1)全身性の代謝障害による沈着症として,黄色腫症,痛風,石灰沈着症,Histiocytosis X,2)リウマチと近い関係にある結合織の一次的変性,3)皮下または真皮の炎症性変化で線維化をきたすもの,4)特殊な末梢循環障害,および5)関節部位に好発する感染症(Melker結節)である.
(本文93ページと合わせてお読みください.)

他科との話合い

全身疾患と口腔症状

著者: 浦田卓 ,   林一

ページ範囲:P.988 - P.995

 口腔内の局所的な疾患だと思っていたものが,全身疾患であったという場合が少なくない.口のまわりをよくみると同時に,全身的な疾患はないか,常に気をつけてみたいものである.

くすりの効きめ・8

β受容体遮断剤(2)

著者: 鈴木哲哉

ページ範囲:P.998 - P.1000

 受容体の本質を知ろうとして,われわれ人間どもはいたずらに細胞のまわりを堂々めぐりしており,一方,受容体は踊りの輪の内側にすわりこんで,万事を心得ていながら知らん顔をしているのが実情であることは確かにMoranのいうとおりだが,むろん人間もなすところなくただ踊っているわけではないので,受容体に関する正確な情報を得んがために,虎視眈々としていることはまちがいないのである.

内科疾患と皮膚・8

関節の周囲の結節

著者: 西山茂夫

ページ範囲:P.1001 - P.1003

関節の周囲に結節がみられる場合の病変
 一般に,主として細胞成分の増加による皮膚の小さな盛り上がりを丘疹とよんでいる.丘疹のうち米粒よりも大きな皮膚の隆起を結節(Knoten)というが,経験的に非炎症性の細胞ないし組織の増殖が考えられる場合には,米粒より小さくても結節または小結節とよぶのがふつうである.
 四肢の関節の付近に結節をみる場合には,おおよそつぎのような病変の可能性を考える必要がある.1)全身性の代謝障害による沈着症,たとえば黄色腫,痛風,石灰沈着症,2)リウマチ性疾患と関係のある皮膚結合織の1次的変性性病変,たとえばリウマチ結節,環状肉芽腫など,3)皮下または真皮の炎症性変化に伴って線維化を生ずる場合,たとえば持久性隆起性紅斑,萎縮性慢性肢端皮膚炎,Knuckle Padsなど,4)末梢循環障害による皮膚の肥厚,特に指関節背面における病変,たとえばChilblain-Lupus 5)関節部位に好発する肉芽腫性感染症,たとえばMelker結節.このうち内臓病変と関係のある若干の結節性病変について述べる.

痛み

頭痛 その2

著者: 清原迪夫

ページ範囲:P.1004 - P.1006

キサンチン類
 この類の薬物は,通常ほかの薬剤,ことにエルゴタミンと併用して,広く用いられている.
 カフェイン,テオブロミン,テオフィリンなどがそれで,テオフィリンがアミノフィリンの型でもっとも広範に用いられ,静脈内投与でもっとも有効である.通常,経口投与や経腸的吸収は悪く,胃刺激症状が起こりやすい.キサンチンは,中枢神経,腎,心血管系に対しては複雑な作用を起こすが,血管には直接はたらいて血管拡張を起こす.上述3剤のなかでテオフィリンが,もっとも有効で,血管運動中枢にはたらくと血管収縮を起こすが,治療量では末梢拡張作用が著明である.しかし,その結果起こる血流増加は短時間性であるから,末梢血管疾患の治療的意義は少ない.

症例

イタイイタイ病

著者: 萩野昇

ページ範囲:P.1007 - P.1010

症例1
M.K.44歳,農家主婦(会社員の家族,兼農業)
 家族歴 同胞6名,2名健在,4名は戦死,肺炎その他で死亡,実母は昭和14年イタイイタイ病にて死亡,姑も昭和19年イタイイタイ病にて死亡している.

全身性疾患と骨・8

血液疾患と骨—骨髄腫の骨変北

著者: 今村幸雄

ページ範囲:P.1011 - P.1016

はじめに
 骨髄種において骨変化は骨髄穿刺液中の骨髄腫細胞の出現,蛋自質異常(血清・尿・組織)についで主要な所見であることはすでに広く知られていることである.骨髄腫と診断された症例の約90%(著者ら246例中217例88.2%,Snapper 97例中92例94.8%,Kenny et al 91.2%,Schwartz 91.8%,Heiser & Schwartsman 87%)になんらかのかたちで骨変化がみられる.初診時骨変化がみられない場合でも経過が進むにつれ骨変化が現われてくる例があり,われわれもそのような症例を経験している.しかし,はっきりした骨変化がみられなくて死亡してゆく症例も少数ながらあることは念頭におく必要がある.
 臨床的に骨変化は身体各所の疼痛として現われ,もっとも患者を悩ませる症状であり,またこのような疼痛(腰痛,脊痛.胸痛)あるいは骨折などを契機として本症が発見されることが多いことを考えると,骨髄腫における骨変化は臨床的にきわめて重要な所見である.

病歴のとりかた

血液疾患

著者: 河北靖夫

ページ範囲:P.1018 - P.1021

 一般に病歴がうまくとれていると,それを聞いただけで,あるいは読んだだけで,およその診断がつく場合が少なくない,血液疾患でも同様な場合がみられるので,入念に病歴をとることは,診断あるいは治療上重要であり,他の疾患の場合と同様,ある症状をめぐっていろいろの病気の場合を考えながら,患者に誘導的に質問して,病歴をとることが肝要である.舌の他覚症状がかるいためにみおとされ,食事のさいの舌の疼みは軽度ながらあったにもかかわらず,患者はこれを訴えず,病歴をとるときに質問することも怠ったために,再生不良性貧血と考えて治療が開始され,たまたまビタミンB12および葉酸が併用されたところ,みごとな緩解をきたし,はじめて悪性貧血(Addison-Biermer巨赤芽球性貧血)と診断されたような症例さえある.この場合ただ一言ではあるが,舌の疼みについて問いただせば,この誤診はおそらく避けられたはずである.
 一口に血液疾患といっても,その数は多いし,また他の疾患で血液学的に異常を伴う疾患についてもふれたい.しかし与えられた紙数は少ないので,要点についてのみ述べることとする.

スプルー性悪性貧血の例

著者: 小宮悦造

ページ範囲:P.1022 - P.1025

 過般Medicinaから,筆者の50年の臨床経験の中で最も印象的な症例の提示を所望されたので,この例を選んだ.当時はまだ骨髄穿刺も現在ほど普及しておらず,悪性貧血に対する肝臓療法も現在ほど発展していなかったし,それにスプルーは日本にあるかないか判然しなかった時代であった.それを的確に診断し,自家製の肝臓末を与えて驚嘆に値する効果を得た点,真に印象的である.一度雑誌に報告したものであるが,現在でも十分価値ある症例と信ずるので,ご所望に応じて提供する.
 スプルーとは主としてインド,マレー,東インド,フィリッピンなどに分布する熱帯風土病の1つで,主要症候として慢性の脂肪下痢,羸痩および貧血をみるとされている.わが国で報告されたものは服部の数例と小松の1例がある.服部の例は記載がすこぶる簡単で明らかでないが,小松の例では,脂肪下痢,羸痩,胃腸障害などの症状を具備していたように報告されている.血液所見をみるに,軽度の色素指数上昇性貧血で,プライス・ジョーンス曲線は右偏していたが,巨赤芽球あるいは巨赤血球は欠如していたと記載されている.すなわちスプルー自体がわが国ではまれで,これによる悪性貧血は報告されておらぬ.

統計

癌死亡の現状

著者: 菅沼達治

ページ範囲:P.915 - P.915

 昭和28年以降,死因順位の第2位を続けている癌死亡は,昨年は11万2450に達し,このところ3年間約3000近くの増加をみせています.癌死亡の重要な問題は,社会的にも,また家庭的にも中心となる40-59歳の年齢層では,第1位の死因であり,これらの人々の死亡のうち4人に1人は癌によるものであります.
 わが国は,消化器系の癌死亡が多いことは周知のとおりですが,米英の約2倍の死亡割合を示しています.表によって死亡の多い順にみますと,男では胃が全体の半数近くの48.6%,これに次いで,肝臓・肺が約10%を占めています.死因統計では,原発部位の統計をとることにしていますが,肝臓の約6割は他にかくれた原発部位があると考えられます.これらに次いで食道・直腸・白血病などがあげられます.女でもやはり胃が37.3%を占めてもっとも多く,ついで子宮・肝臓・肺・乳房・直腸などとなっています.米英においては,男では肺がもっとも多く,性器・胃などがこれに次いでおり,女では乳房がもっとも多く,次いで小腸・大腸が10%をこえており,わが国とは異なった様相がみられます.

検査データどう読みどうする?

低カリウム血症

著者: 越川昭三

ページ範囲:P.916 - P.916

血清K値
 血清Kの正常値は3.6-5.0mEq/lである.3.5mEq/l以下を低K血症という.Kは体内に約3000mEqが含まれるが,その大部分(98%)が細胞内に分布し,血清や細胞外液には,わずか2%が存在するにすぎない.体内のKの変動は,この細胞内Kに左右され,血清K値はかならずしも体内Kの動きを忠実に反映しない.血清K値の解釈・評価がむずかしいのは,この点に由来する.

ルポルタージュ

全開放にしたい病院検査室の扉—島根県立中央病院と地元医師会の場合

著者: 木島昂

ページ範囲:P.975 - P.977

検査室を地元医師会に開放して,進取的スタートをきった島根県立中央病院.しかし,運営面その他で多くの困難な問題が残された.検査室と医師会のその後の姿を追ってみると……

ずいひつ

"なれる"ということ

著者: 佐藤昌康

ページ範囲:P.978 - P.979

 失われた少年の日の感動は…… 少年の日の私には常に新鮮な感動と目を輝やかす驚きがあった.しかし今の私にはそれが少なくなってきた.あの子供時代の素朴で美しい感動がなつかしくも羨しい存在であるような年齢になったのかもしれない.
 美しい海浜の村に幼年期から少年時代を過した私にとって,自然はいつも何かしらの新鮮な感動を与えてくれた.梅雨時になると,きまって台所の流しを支えている黒ずんだ木材に,そこだけが薄暗い20燭光の電灯の光がとどかなくなっていて,いっそう何か湿った感じをしている場所なのだが,背中に小さな灰色の反射光をせおった大きなナメクジがあらわれ,キラリと光る1本の道を残してしんと静まりかえっていたのを記憶している.私はそれをみつけると,この大きなナメクジの足跡をたどることにしばらく熱中することに満足を覚え,次には今まで大事にとっておいた一番うまい菓子に手を出す時のような決意をもって,そっと灰色と褐色の縞模様をつけたナメクジに指をのばす.そしてあのつるりとした冷たい粘っこい感覚に一瞬たじろぎを覚えて反射的に手を引込めてしまう.その時私はもうすぐ目の前に近づいた夏を知ると同時に,背筋をつらぬく戦慄にも似た感動を味わったものである.それは毎年のことながら実に強烈な感覚であり,おとなになって知った疼くようなあの熱い感動に似たものであった.

私の意見

最近の医事雑感

著者: 田中教英

ページ範囲:P.980 - P.980

医師として反省すべきこと
 こんにちの医学は日進月歩して尽きるところを知らない.医学研究はますます細分化し,専門化の傾向があって,もはや自分の興味をもつところ以外はほとんど盲同様の感さえある.しかし医学が,医師が,患者という人格をもつ一個体を治療するにあたってはもちろん専門的知識を必要とする以前に,自己の学問的経験や知識によって問診し,視診し,聴診,触診してその疾患を診断し,蝕ばまれた患者の体と心をただして治療しなければならない.ややもすればはじめからあまりにも専門化した片寄った知識のもとに,臨床検査的技術のみに頼って診断する傾向がありはしないかと反省させられることが多い.

人工受精児をめぐる諸問題

著者: 臼田正堅

ページ範囲:P.981 - P.981

 医学の進歩に伴っていろいろな問題が生まれてくる.なかでもSamen提供者による人工受精児の問題は重要視しなければならず早急に解決しなければならない.医学的,社会的,法律的そして人間関係など多くの問題を含みながら人工受精児は育成され成人しつつある。そして未必の道を一個の人間として歩まなければならないが,"親子であって親子でない"父親を知らない子ども—遺伝的に—が生まれてくる.その数,わが国内でおよそ千余人,しかし母親希望者が増加するばかりの昨今,"善と悪"の論議のまえに人間としての問題を医学,法律そして社会で解決しなければならない.しかし解決したとしても,それはあくまで机上の解決であって人間としての解決ではない.そこに問題がある.しかし解決しなければならない.

全国教室めぐり

特に力を入れる臨床教育—北大・村尾内科

著者: 本間威

ページ範囲:P.982 - P.982

 札幌の初夏は全くすばらしい.近郊の雪が溶け,こぶしの花が咲き,桜が散るころ,北大構内の芝生は萌えはじめ,木々はいっせいに芽ぶく.病室の窓から新緑の山々を眺め,郭公の声を聞くとき,北大に学ぶことの幸福と,誇らしさをしみじみと感ずる.
 初代有馬英二名誉教授,2代目故山田豊治教授のあとに,村尾誠教授を迎えてから1年半を経過し,研究・診療など教室の運営も軌道にのり,着々と業績をあげている.

話題

論議継続になった糖尿病判定基準—第11回日本糖尿病学会総会から

著者: 岡博

ページ範囲:P.974 - P.974

 第11回日本糖尿病学会総会は7月6日,7日の両日,東京国立教育会館で上田英雄会長のもとに行なわれた.特別講演「膵ラ氏島の形態学」(群大・伊東),指定講演「糖尿病治療における運動療法」(信大・小田)と3つのシンポジウム,I「糖尿病と蛋白代謝」,II「低血糖」,III「力士と肥満者の糖尿病」,1つのパネル「糖尿病診断基準」が行なわれ,また一般演題は257題の多きに及んだ.10年まえの糖尿病学会を思うと参会者も演題数も飛躍的に増えており,わが国の糖尿病研究の隆盛を示すものであろう,もっとも,そのために口演時間が短く,また討論時聞も十分でないうらみはあった,今後はなんらかの方法で演題を選び,国際的なレベルのもののみとすることが必要となるであろう.

今月の表紙

溶血性貧血患者の骨髄中の芽球(1)

著者: 日野志郎

ページ範囲:P.959 - P.959

 溶血性貧血患者の骨髄には,ふつう赤芽球の増殖が著明で,しばしば幼若な赤芽球系細胞が多数に認められる.前赤芽球ないし原赤芽球といわれるものや,塩基好性の強い大赤芽球などがそれにあたる.これらが,正常の骨髄にはあまりみられないような形をとってくると,骨髄芽球との区別がむずかしい.
 次号にわたって示すこの症例は23歳の男で,特発性自己免疫性溶血性貧血の1例である(臨床血液,3:47-51,1962に報告した).今回はその骨髄穿刺標本の中で骨髄芽球と思われたものを示そう.

診療相談室

ストレス潰瘍について

著者: 並木正義

ページ範囲:P.1017 - P.1017

質問 ストレス潰瘍についてお教えください.
 1)実際にどのくらいあるものでしょうか(頻度).

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略語の解説

著者: 阿部正和

ページ範囲:P.913 - P.913

CMI
 comell Medical Index:コーネル大学健康調査表 心理面および身体面の両面についての自覚症状を短時問の間に調査することを目的にしたもので,ニューヨークのコーネル大学のBordmanらが考案したものである.原法は身体的な自覚症についての質問144と,精神的な自覚症についての質問51からなっている、わが国では深町によって,さらに19項目が追加されたものが広く行なわれている,テストの結果,各区分の自覚症の数が多いものほど異常とされる.

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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