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特集 進化し続ける内科診療―世界が認めたブレイクスルー 消化器
消化性潰瘍
著者: 浅香正博1
所属機関: 1北海道大学大学院医学研究科がん予防内科
ページ範囲:P.58 - P.62
文献購入ページに移動消化性潰瘍は,20世紀の初頭まで胃癌とならんで致命率の高い疾患であった.当時,消化性潰瘍の診断はきわめて困難であり,死後の解剖によって初めて診断がつくケースがしばしばであった.その後,バリウム造影や内視鏡検査の普及により診断は可能になってきたが,安静や制酸薬以外,適当な治療法がなかったため内科医にとっては患者をどう取り扱ってよいのかわからない厳しい時代が続いた.内科医によって治せない多くの消化性潰瘍患者が外科手術に回されていたのである.
消化性潰瘍治療の最初のブレイクスルーは1976年,わが国でH2ブロッカーのシメチジンが発売されたことにより突然やってきた.これまで何種類もの薬剤を大量に投与しても治癒に導けなかった潰瘍のほとんどが,わずか4錠のシメチジンの服薬で治癒に至ったのである.消化性潰瘍の診療に従事していた医師の大半はこの時の衝撃を忘れることができないと思っている.この瞬間から消化性潰瘍の治療が内科医の手によってコントロールされることになった.酸のないところに潰瘍は生じないという昔の格言がまさに正しかったといえる.その後,酸をさらに完璧に抑制できるプロトンポンプ阻害薬(PPI)が開発され,潰瘍を治癒させるという点ではゴールが見えてきた.しかし,酸分泌抑制薬を中止すると潰瘍は高い確率で再発を繰り返し,自然史を変えない限り消化性潰瘍との闘いは長期間にわたって続くことを感じていた.
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