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雑誌目次

雑誌文献

medicina50巻11号

2013年11月発行

雑誌目次

『medicina』50周年を迎えて

ページ範囲:P.6 - P.6

特集 内科診療にガイドラインを生かす 総論

診療ガイドラインの正しい理解

著者: 中山健夫

ページ範囲:P.8 - P.11

EBMと診療ガイドライン

EBMとは?

 1991年に誕生した根拠に基づく医療(evidence-based medicine:EBM)は,質の高い医療を求める社会的な意識の高まりとともに,さまざまな分野で普及した.EBMは「臨床家の勘や経験ではなく科学的根拠(エビデンス)を重視して行う医療」といわれる場合があるが,本来のEBMは,臨床研究によるエビデンス,医療者の専門性・経験,患者の価値観,そして患者の臨床的状況・環境の4要素を統合し,よりよい患者ケアに向けた意思決定を行うものである1).エビデンスを提供する研究として,人間集団を対象とする疫学研究(臨床試験を含む)が重視される.その本来の意味は必ずしも理解されておらず,「エビデンス=EBM」という混同が現在でも散見される.大規模な臨床試験の知見によって「EBM」が確立し,すべての臨床現場の判断が自動的に決まるわけではない.EBMのパイオニアであるHaynesらが述べる“Evidence does not make decisions, people do”という言葉は,日本におけるEBMのあり方を再考するうえで傾聴に値する.

診療ガイドラインの作り方

著者: 吉田雅博

ページ範囲:P.12 - P.17

 診療ガイドラインは,最近の学術集会において話題として取り上げられる場合が多く,シンポジウム,討論会などの企画が開催され,日本全体として大きな潮流となっている.

 日本では1999年頃からガイドライン作成が開始された1).ただし,この頃はまだ臨床医療に「ガイドライン」という言葉はほとんど浸透しておらず,多くの場合は厚生労働省が科学研究を推し進めるという形で作成され始めた.ガイドライン作成に対して数年にわたり積極的に厚生労働科学研究費補助金が交付され,多くのガイドライン作成が開始されたのである.

エビデンスとコンセンサス

著者: 野口善令

ページ範囲:P.18 - P.20

なぜガイドラインにエビデンスが必要なのか?

 ひと言で言えば,有効性のない治療法を推奨するのを防ぐためである.

 人間の認識力には限界があり,治療法の有効性について正しく判断できないことがしばしばある.たとえば,疾患の自然経過による改善,プラセボ効果,ホーソン効果(実際には治療効果がないのに患者が医師から観察されることによりアウトカムが改善する現象)などは非特異的効果として知られ,本当は治療効果がないのに見かけ上効果があるようにみえる原因となる.また,偶然の影響によって,実際には効果がないのにたまたま自分が治療効果を観察したときに限って有効となることもある.医療の専門家といえどもこれらの影響から逃れることはできない.特に治療効果が小さい場合,治療を行ってから効果が出るまでの時間がかかる場合に影響は顕著になる.

診療ガイドラインの評価方法

著者: 東尚弘 ,   中村文明

ページ範囲:P.21 - P.23

評価とは?

 物事や活動を評価する際は,その活動が「達成すべき目標をどの程度達成しているのか」という視点が必要である.例えば教育の評価では,新しい知識を得て応用する力がついたか,がん検診の評価では,早期発見により死亡率が減少したか,医療の評価では健康状態の向上や寿命の延長に寄与したか,という視点である.もちろん,その目標は不変ではなく,例えば,昔は自動車の目的はある地点から別の地点への移動であったのが,「快適な移動」により重点が置かれるようになり,移動の過程内容が自動車の評価になる,ということもあり得るだろう.

診療ガイドラインに対する誤解と偏見

著者: 上野文昭

ページ範囲:P.24 - P.26

 以前からわが国にあった各種疾患の診療指針は,その疾患を専門とする医師グループの合議により作成されていた.EBMの概念が浸透するにつれ,ようやく周到な作成手法を順守した診療ガイドライン(practice guideline:PG)が普及し,ほとんどすべての主な疾患に関する診療ガイドラインが整備されるようになった.

 しかし,いくら科学的妥当性の高いPGがあっても,それが正しく使われなければ意味をなさない.PGの正しい理解は別項に譲るとして,本稿ではPGの適正使用を阻んでいる誤解や偏見について述べてみたい.

循環器疾患

高血圧

著者: 上竹勇三郎 ,   下澤達雄

ページ範囲:P.28 - P.32

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 わが国では,日本高血圧学会による「高血圧治療ガイドライン2009(JSH 2009)」1)が広く用いられている.一方,世界の高血圧治療ガイドラインとしては米国のJNC,欧州のESH/ESC,WHO/ISH,英国のNICE/BHSなど多くのガイドラインが発行されている.JNCはJNC 72)が発表されてから,すでに10年が経過し,近日中の改訂が期待されている(表1).

 JSHは2014年に改訂を予定しているが,NICE/BHS 2011やこの度改訂されたESH/ESC 2013,本年に改訂を予定しているJNC 8の変更点を踏まえて行われるものと考えられる.どのガイドラインもエビデンス重視であることは間違いないが,エビデンスレベルや推奨度の記載については,比較的新しいガイドラインには明記されている.

狭心症

著者: 海北幸一 ,   小川久雄

ページ範囲:P.34 - P.39

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 狭心症の診断,治療に関する国内外のガイドラインは,欧米,そして日本から学会を中心に作成されている.欧米の学会からは,不安定狭心症および安定虚血性心疾患の診断と管理に関するガイドラインが発刊されている(表1)1~3).日本では,日本循環器学会が中心となり発刊されているが,「非ST上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン(2012年改訂版)」4)「安定冠動脈疾患における待機的PCIのガイドライン(2011年改訂版)」5)「虚血性心疾患に対するバイパスグラフトと手術術式の選択ガイドライン(2011年改訂版)」6)「慢性虚血性心疾患の診断と病態把握のための検査法の選択基準に関するガイドライン(2010年改訂版)」7)「冠攣縮性狭心症の診断と治療に関するガイドライン(2008年初版)」8)などのように狭心症の病態,診断,評価,治療法によって細分化され,刊行されている.

心筋梗塞

著者: 郷原正臣 ,   木村一雄

ページ範囲:P.40 - P.44

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 急性心筋梗塞の診断・治療に関する国内外のガイドラインが,日本,米国,欧州から学会を中心に作成されている(表1).日本では日本循環器学会を中心に2008年に「急性心筋梗塞(ST上昇型)の診療に関するガイドライン」が,2012年に「非ST上昇型急性冠症候群の診療に関するガイドライン」が発行されている.米国では米国心臓病学会(ACCF)と米国心臓協会(AHA)から2013年に「2013 ACCF/AHA Guideline for the Management of ST-Elevation Myocardial Infarction」が,欧州では2012年に欧州心臓病学会(ESC)から「ESC Guidelines for the management of acute myocardial infarction in patients presenting with ST-segment elevation」が発行されている.また,心肺蘇生の領域では2010年にAHAが「2010 American Heart Association Guidelines for Cardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care」を,日本蘇生協議会が「JRC蘇生ガイドライン2010」を発行している.なお,欧米のガイドランの改訂と,近年のエビデンスを踏まえて日本循環器学会では「急性心筋梗塞(ST上昇型)の診療に関するガイドライン」の改訂を2013年度内に予定している.

不整脈

著者: 高橋尚彦

ページ範囲:P.45 - P.49

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 不整脈診療に関するガイドラインとして,日本循環器学会刊行のものと,欧州心臓病学会(ESC)刊行のものが参考にされることが多い.心房細動は患者数が多く,重篤な合併症として脳卒中の頻度が高いことから,心房細動に特化したガイドラインが多く刊行されている.米国心臓学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)/米国不整脈学会(HRS)からのガイドラインもあるが,ESCガイドラインのほうが本邦の臨床に即している印象を受ける(表1).また,2011年以降,新規抗凝固薬が登場し,心房細動患者に対する抗血栓療法は大きな変革期を迎えている.この点につき,本邦からは「心房細動における抗血栓療法に関する緊急ステートメント」が,ESCからは「ESC心房細動治療ガイドライン限定アップデート2012年版」が公表された.一方,不整脈全般および心不全に対する非薬物療法として,カテーテルアブレーション,植込み型除細動器(ICD),心臓再同期療法(CRT)・両室ペーシング機能付き植込み型除細動器(CRT-D)の進歩も著しく,これらを扱ったガイドラインも日本循環器学会から刊行されている.

 欧米からのガイドラインには,適宜,推奨度(クラスⅠ~Ⅲ)とエビデンスレベル(A~C)が記載されており,日本循環器学会のガイドラインもこれに倣っている.

心不全

著者: 猪又孝元

ページ範囲:P.50 - P.54

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 慢性心不全例におけるアンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬の有効性を実証したCONSENSUS試験は,EBMの先駆であった.「目に見える」血行動態的な効果は,必ずしも「目に見えない」予後改善の効果と併行しない―実感や経験を重視してきた循環器臨床医は,その価値判断を大きく転換せざるを得なくなった.

 心不全はEBMの象徴的疾患だけに,これまで内外から多くのガイドラインが発表されてきたが(表1),試行錯誤の繰り返しであった.

抗凝固・抗血小板療法―心房細動症例への実践

著者: 矢坂正弘

ページ範囲:P.55 - P.59

 抗凝固療法と抗血小板療法はさまざまな循環器疾患や虚血性脳血管障害の予防に広く用いられている.本稿では高齢化社会のなかで急増し,脳梗塞予防対策としての抗血栓療法の重要性が強調されている非弁膜症性心房細動を取り上げ,抗凝固療法や抗血小板療法の適応や用量に関して日本と海外のガイドラインを比較し,日常臨床への実際的な適応を解説する.

大動脈瘤・大動脈解離

著者: 村井亮介 ,   加地修一郎

ページ範囲:P.60 - P.65

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 大動脈瘤と大動脈解離の診断・治療の関する国内外のガイドラインとしては,日本,米国から学会を中心としたガイドラインが発行されている.国内では,日本循環器学会が主導して関連学会の合同研究班がガイドラインを作成しており,2006年に大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(2006年改訂版)が発行されている.本ガイドラインは,これまでの大動脈解離診療ガイドラインに大動脈瘤の範囲も加えられ,わが国の大動脈疾患診療の標準的な診療ガイドラインと位置付けられている1).一方,米国では,2010年に米国心臓病学会(ACC),米国心臓病協会(AHA),米国胸部外科学会(STS)などの関連学会が参加した合同委員会が胸部大動脈疾患ガイドライン2)を発行している.

 日本循環器学会の2006年改訂版ガイドラインは,2011年に一部改訂され,ステントグラフトなど治療法についての推奨やこれまで混乱していた病態や定義に関しての見解が示されている.本稿では,本ガイドラインにおける,疾患概念の定義や治療方針などの注目すべきポイントを中心に概説する.

末梢動脈閉塞性疾患

著者: 松尾汎

ページ範囲:P.66 - P.72

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 わが国においては,循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2005~2008年度合同研究班報告)として,「末梢閉塞性動脈疾患の治療ガイドライン(Guidelines for management of peripheral arterial occlusive diseases:JCS 2009)」が合同研究班参加学会(日本循環器学会,日本血管外科学会,日本血管内治療学会,日本血栓止血学会,日本心臓血管外科学会,日本心臓病学会,日本糖尿病学会,日本脈管学会,日本老年医学会)から出されている(Circ J 73 SupplⅢ,2009).そのほかに,心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン(日循合同研究班報告2012年改訂版)において,運動療法の有用性が述べられている.

 海外では,TASC(Trans-Atlantic Society Consensus for the management of PAD)およびTASCⅡがあり,後者では日本からも委員が参加して,国際的なPADの診療ガイドライン(日本語訳:TASCⅡ Working Group/日本脈管学会 訳:下肢閉塞性動脈硬化症の診断・治療指針Ⅱ)として認知されている(図1, 2)1).近年中に改訂される予定と聞いているが,それらに関連するのがACCF/AHAガイドライン(2011)である.

感染性心内膜炎

著者: 赤石誠

ページ範囲:P.74 - P.80

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 感染性心内膜炎の診断・治療・予防に関する国内外のガイドラインとして,日本,米国,欧州から学会を中心に作成されたガイドラインが発行されている(表1).日本のガイドラインは,2008年に改訂された.

肺高血圧症

著者: 中西宣文

ページ範囲:P.81 - P.85

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 肺高血圧症は旧来より予後不良の疾患であることが知られていた.しかし,その症例数は多くはなく治療薬も存在せず,よって近年まで肺高血圧症診断・治療ガイドラインの必要性は乏しかったと言える.しかし,1990年以降に,特に肺動脈性肺高血圧症に対する内科的治療薬が開発されたことが契機となり,肺高血圧症に関する国際会議で治療方針の検討が開始された.そして2008年に米国ダナポイントで開催された第4回肺高血圧症ワールドシンポジウムでは,本症の定義や臨床分類・治療のエビデンスなどが討議され,この結果は2009年に「ACCF/AHA 2009 Expert Consensus Document」と「ESC/ERS Guidelines for the diagnosis and treatment of pulmonary hypertension」として成文化された.さらに2013年には第5回肺高血圧症ワールドシンポジウムがニースで開催され,その討議内容の一部とわが国独自の治療エビデンスを取り入れた日本循環器学会の「肺高血圧症治療ガイドライン(2012年改訂版)」もWeb上で公表された.現時点では,これらが代表的な肺高血圧症に関するガイドラインといえる(表1).

禁煙

著者: 野田慶太 ,   朔啓二郎

ページ範囲:P.86 - P.90

 喫煙は,癌,心・血管系疾患,脳卒中,肺気腫などの危険因子である.たばこ産業の「平成21年全国たばこ喫煙者率調査」によると,成人男性の平均喫煙率は38.9%であり,1966年のピーク時の83.7%と比較すると減少しているが,諸外国と比べると高い状況である.一方,成人女性の平均喫煙率は11.9%であり,ピーク時の1966年の18%より漸減しているが,現在はほぼ横ばいである.しかし,若年女性の喫煙率は増加傾向にある.

 世界的に禁煙活動は広がっており,WHOは,2005年に「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」を発効し,また,非喫煙者の二次喫煙に対し,2009年の世界禁煙デーにて「たばこの煙にさらされることからの保護に関するガイドライン」が採択された.

失神

著者: 水牧功一

ページ範囲:P.92 - P.96

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 失神の診断・治療に関する国内外のガイドラインとして,日本,欧州,米国から学会を中心に作成されたガイドラインが発行されている(表1).日本では,日本循環器学会の失神の診断・治療ガイドラインが2007年に公表され,2012年に改訂版1)がオンラインで公開されているが,European Society of Cardiology(ESC)のガイドライン(2009年改訂)2)と共通する部分が多い.ESCのガイドラインでは推奨ステートメントにエビデンスレベルが併記されているが,日本循環器病学会のガイドラインではわが国における無作為比較試験が少ないことから推奨ステートメントのみが記載されている.

呼吸器疾患

咳嗽

著者: 新実彰男

ページ範囲:P.98 - P.103

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 咳嗽の診療ガイドラインとして,2005年に日本呼吸器学会から「咳嗽に関するガイドライン」,翌年に同じ内容の英語版,そして2012年に「咳嗽に関するガイドライン第2版」が刊行された(英語版を現在準備中).第2版はクリニカルクエスチョンとそれに対するステートメント,検査や治療に関しては推奨グレードと保険適用の有無を併記した世界で初めての咳嗽の診療ガイドラインである.3週未満の急性咳嗽,3週以上8週未満の遷延性咳嗽,8週以上の慢性咳嗽に分類しているが,この定義は海外のガイドラインでもほぼ同様である.本邦のガイドラインは海外のものと比較して,感染症が主体となる急性咳嗽にもページ数を割いて詳述したこと,内科以外に小児科,耳鼻科の委員の協力も得て小児の咳嗽や耳鼻科疾患による咳嗽,専門施設で行う検査なども包括的に取り上げたことなどが特徴である.

 海外からはAmerican College of Chest Physicians(ACCP;1998年初版,2006年改訂版),European Respiratory Society(ERS;2004年診断・治療ガイドライン,2007年評価ガイドライン),British Thoracic Society(BTS;2006年成人ガイドライン,2008年小児ガイドライン)のほか,オーストラリア,ドイツ,中国などからもガイドラインが発表されている.主なガイドラインの比較を表1に示す.

肺炎(市中肺炎,院内肺炎,医療・介護関連肺炎)

著者: 朝野和典

ページ範囲:P.104 - P.108

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 肺炎の分類は,医療制度によって異なるため,海外のガイドラインを国内で用いることには慎重でなければならない.また,薬剤耐性菌の頻度も異なり,かつ抗菌薬の投与量,投与方法も異なることがあるから,海外のガイドラインの推奨薬が日本において適切であるとは限らない.このような理由で,肺炎のガイドラインについては国内のガイドラインを参照することを勧める.もちろん海外のガイドラインの考え方を知ることは,重要なことであり,日本の医療事情や薬剤耐性菌の頻度を知ったうえで利用することは有益である.

肺癌

著者: 林秀敏 ,   中川和彦

ページ範囲:P.109 - P.112

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 肺癌の診断・治療に関するガイドラインは国内外で複数発行されており,日本では日本肺癌学会による『EBMの手法による肺癌診療ガイドライン』が2003年より発行されている.2011年からはできる限り最新のエビデンスを実地臨床に反映するために毎年アップデートされており,アップデートされた内容が日本肺癌学会のホームページ上にて無料で公開されている.利用対象としては,専門医,一般医のどちらにも対応している.stage,年齢,PS(performance status),癌遺伝子プロファイルなどの患者背景に基づいた樹形図が基本となっており,実臨床において実際の患者さんに合った標準治療について知ることができるように配慮されている.ガイドライン委員は外科・内科・放射線治療科・病理医を中心に構成される.内容に関しては,その表題に「EBMの手法による」とあるように,基本的にはシステマティックに抽出された研究結果(主に学術誌において報告されたものであるが,重要なものに関しては学会報告も含む)を基本として委員会により議論されて決定される.エビデンスレベルに沿って推奨度が決定され,項目ごとにMindsの基準に則った推奨グレードが示されている.2012年度からは推奨グレードの決定に際しては,エビデンスのみでなく実際の臨床状況に十分配慮する必要があることから,医療資源,保険制度などの適応性や有益性にかかわる害やコストについても議論されている.また,教科書に記載されている内容や国際的にも多くのガイドラインで推奨され,実地医療で常識的に行われているものは推奨すべきものとして記載されている(表1).

 海外からは,米国臨床腫瘍学会(American Society of Clinical Oncology:ASCO)や欧州腫瘍学会(European Society of Medical Oncology:ESMO)などの学会が作成したガイドラインが作成されているほかに,全米で代表的な21の癌センターで結成されたガイドライン策定組織であるNCCN(National Comprehensive Cancer Network)が作成したNCCNガイドラインが有名である.こちらも年に1回以上の改訂が行われており,日本肺癌学会により監訳された日本語版がインターネット上で閲覧可能である.ASCOやESMOのガイドラインがエビデンスを重視した内容に対して,NCCNガイドラインは主に実地臨床に即した内容であり,世界中で幅広く使用されている.

気管支喘息

著者: 大田健

ページ範囲:P.113 - P.117

 気管支喘息(喘息)は,紀元前4世紀,古代ギリシャのヒポクラテスの時代からすでに記載のある古い疾患である.その患者数は増加傾向を示し,実地診療の場で必ず経験する疾患の1つといえる.喘息の診療では,気道閉塞と慢性の気道炎症を念頭に,個々の患者にとって適切な治療を実践することが重要である.本稿では,2012年に発刊されたわが国の「喘息予防・管理ガイドライン(JGL2012)1)」に沿った喘息治療を基盤にした医療現場での診療について概説する.

COPD

著者: 一ノ瀬正和

ページ範囲:P.118 - P.123

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)は従来,慢性気管支炎,肺気腫と診断されてきた疾患の総称である.タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで生じた肺の炎症性疾患であり,呼吸機能検査で正常に復すことのない気流閉塞を示す.気流閉塞は末梢気道病変と気腫性病変がさまざまな割合で複合的に作用することにより起こり,通常は進行性である.日本を含め世界的に患者数の増加が指摘されているが,過少診断,過少治療が問題とされている.COPDの診断・治療に関する国際的なドキュメントとして,global initiative for chronic obstructive lung disease(GOLD)がある1).このドキュメントはCOPDに関する最新の論文を網羅しているが,治療に関しては国情の異なるすべての地域を対象としており医療資源の入手状況によっては実情と乖離する場合もある.本邦では日本呼吸器学会が「COPD(慢性閉塞性肺疾患)診断と治療のためのガイドライン,第4版」を2013年4月に刊行している2).本ガイドラインは呼吸器専門医にとっても役立つよう,疾患概念の理解の変遷から,治療まで詳細に記されている.エビデンスレベルに関しては,編集委員会の推奨レベルに加え,Mindsに対応した記載もなされている.

特発性間質性肺炎(IIPs)

著者: 井上義一

ページ範囲:P.124 - P.129

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 特発性間質性肺炎(idiopathic interstitial pneumonias:IIPs)は,原因不明の間質性肺炎の総称である.IIPsおよびその主要な間質性肺炎である特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)について,現行の「手引き」,「ガイドライン」について概説する(図1).

肺血栓塞栓症

著者: 加藤史照 ,   巽浩一郎

ページ範囲:P.130 - P.135

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 近年,肺血栓塞栓の診断・治療に関して国内外から多くのガイドラインが提唱されている.代表的なものとして,本邦では2009年に日本循環器学会を中心とする合同研究班により「肺血栓塞栓症および深部静脈血栓症の診断,治療,予防に関するガイドライン(2009年改訂版)」1)が作成されている.また,欧州では2008年にEuropean Society of Cardiology(ESC)2),米国では2011年にAmerican Heart Association(AHA)3),2012年にAmerican College of Chest Physicians(ACCP)4)が,それぞれのガイドラインを提唱している(表1).

薬剤性肺障害

著者: 花岡正幸

ページ範囲:P.136 - P.140

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 現在,薬剤性肺障害に関するガイドラインは国内外に存在しない.日本呼吸器学会は,2006年4月に「薬剤性肺障害の評価,治療についてのガイドライン」を発刊したが,2012年5月の改訂にてガイドラインの名称は消え,「薬剤性肺障害の診断・治療の手引き」となった.この理由は,ガイドラインでは,大規模な無作為臨床試験に基づくエビデンスレベルや推奨レベルを記載する必要があるが,薬剤性肺障害は個々の症例が対象で発症の予想が難しく,かつ生命が脅かされる病態であるため,無作為割り付け試験が存在しないからである.薬剤性肺障害はすべての領域の医師が遭遇する疾患であるため,「薬剤性肺障害の診断・治療の手引き」は日常臨床での参考になるよう平易に記述され,症例提示や医薬品副作用被害救済制度の項が設けられ,さらに文献検索の方法にも言及している.「薬剤性肺障害の診断・治療の手引き」は,メディカルレビュー社から定価3,000円で書店販売されている.

 なお,ガイドラインではないが,医薬品情報に関するデータベースとして,医薬品医療機器情報提供ホームページ(http://www.info.pmda.go.jp/,医薬品医療機器総合機構提供)やMedWatch(http://www.fda.gov/Safety/MedWatch/,米国食品医薬品局提供)などがインターネットから利用可能である.また,薬剤性肺障害に関しては,PNEUMOTOX ON LINE(http://www.pneumotox.com/)という情報提供サイトがある.

酸素療法

著者: 植木純

ページ範囲:P.142 - P.145

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 酸素療法のガイドラインは,呼吸器や循環器疾患領域などの各疾患別の診療ガイドラインのなかで,または酸素療法のガイドラインとして国内外で発行されている.酸素療法のガイドラインに関しては,日本では日本呼吸器学会と日本呼吸ケア・リハビリテーション学会の2学会合同によるガイドラインが2006年に発行された1).欧米では,American Association for Respiratory Care(AARC)の酸素療法に関するClinical Practice GuidelineやBritish Thoracic Society(BTS)によるガイドラインなどがある.BTSの酸素療法ガイドラインは改定作業中で2,3),2014年にupdate版の発表予定にある.

在宅呼吸ケア

著者: 服部久弥子 ,   木田厚瑞

ページ範囲:P.146 - P.151

はじめに

 慢性呼吸器疾患の安定期の治療は,在宅で行い外来通院を原則とすることはほかの慢性疾患と同様である.COPD(慢性閉塞性肺疾患)はその典型でありエビデンスが多く,ほかの慢性呼吸器疾患における在宅ケアに応用できる点がきわめて多い.ここで言う在宅呼吸ケアとは,COPDで言えば主に中等度以上の重症の場合に相当し,大多数は高齢患者であることが特徴である.在宅呼吸ケアの目標は,①病態の経年的悪化を避け息切れをはじめ自覚症状をできるだけ改善し,日常の活動性を高める,②経過中に生ずる急性増悪による予定外受診,入院を避ける,③虚血性心疾患など,ほかの慢性疾患の併存が病態を悪化させる可能性を常に念頭に置く,④在宅の生活ではQOLを保ち,医療費負担が最小限になるように治療計画を組む,ことである.在宅呼吸ケアの質を高めるためには呼吸器専門医だけでは不十分で,治療全体を広くカバーできるかかりつけ医を置き,ADLが低下した症例では訪問看護などを入れたチーム医療体制を組むことが原則である.

 最重症例の在宅呼吸ケアに含まれる治療項目では在宅酸素療法(home oxygen therapy:HOT,long-term oxygen therapy:LTOT),在宅人工呼吸療法がある.これらはハイテク機器を在宅で使うという特徴があり,医師の処方で開始されその指示のもと機器業者が介入するという問題点がある.機器の使用のみで治療効果が得られるという例は少なく,禁煙,吸入薬などの薬物療法,栄養指導,運動療法,呼吸理学療法に加え日常的生活や社会的活動が十分に行われるよう継続的に指導管理をしていかなければならない.これらは包括的呼吸ケアと呼ばれているがその概念は包括的呼吸リハビリテーションに一致するものである.ここでの注意点は,①症例ごとに医学面だけでなく介護力など社会的な面からのアセスメント能力が高いこと,②チーム医療を進めるための基本的なコンセプトが一致していること,③これを推し進めるためにはかかわる医療スタッフのスキルアップが必要なことである.図1は包括的呼吸リハビリテーション1)の概念図であり,図2は最大範囲のチーム医療を示したものである.これを基本として症例ごとにきめ細かい対応を組んでいく.

睡眠呼吸障害

著者: 赤柴恒人

ページ範囲:P.152 - P.157

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 睡眠呼吸障害(sleep disordered breathing:SDB)の領域において世界をリードしているのは米国睡眠学会(American Academy of Sleep Medicine:AASM)であるが,いわゆるガイドラインと銘打ったものは発表されておらず,診断と治療のスタンダードという意味合いの報告が1999年にSleep誌に発表されている1).したがって,そこには現在ではガイドラインに必須である推薦度やエビデンスレベルなどは記載されていない.そして,SDBのなかで個々に必要な事項についてAASMとしてのコンセンサスをガイドラインとして,年を追って機関誌であるSleep誌に発表している.例えば,hypopneaの定義および評価についてのガイドライン2)や簡易型の睡眠モニターについてのガイドライン3)などが発表されている.したがって,SDBに関する個々の事項について何か知りたいときにはSleep誌を検索すればよい.SDBは睡眠だけでなく呼吸障害を伴うため,米国胸部学会(American Thorocic Society:ATS)やAmerican College of Chest Physician(ACCP)と共同のガイドラインも数多く発表されている.他国のガイドラインでは英国(スコットランド)4),カナダ5)から発表されている.特にカナダのガイドラインは2006年に第1版が発表され2011年に第2版が公表されており最新のガイドラインである.コンパクトにまとめられており,質問―回答形式で構成されており実際の診療に有用である.

 わが国のガイドライン6)はSDBの代表的疾患である閉塞型睡眠時無呼吸症候群(obstructive sleep apnea syndrome:OSAS)に限って作られており,2005年に睡眠呼吸障害研究会から出版されている.このガイドラインが作られたのには理由があり,それは,2003年に起こった山陽新幹線運転士の居眠り事件である.この運転士が重症のOSASであったことが報道され,大きな社会的現象となった.そのため,この疾患を医学的,社会的に認知させ早期診断,早期治療を促すためにガイドライン作成が急がれた経緯がある.したがって,現在のようにエビデンスレベルうんぬんの形式をとっていない.睡眠呼吸障害研究会は1988年に第1回研究会が開催され,そのメンバーはSASをはじめとする睡眠と呼吸障害との関連に興味をもった呼吸器内科医,循環器医,耳鼻科医,精神科医,神経内科医,歯科医などから構成されており学際的な研究会である.本ガイドラインは当時のレベルでのコンセンサスをまとめたものであり,ガイドラインというよりOSASの診断と治療のマニュアルという表現のほうが適切かもしれない.その内容がAASMの勧告をほぼ忠実に踏襲しているのはやむを得ないことであろう.本ガイドラインは睡眠呼吸障害研究会によって公表されたものではあるが,日本呼吸器学会,日本呼吸管理学会(現日本呼吸ケア・リハビリテーション学会),日本睡眠学会,日本気管食道科学会,日本口腔・咽頭科学会などのわが国の主要な学会が後援している.

消化器疾患

胃食道逆流症

著者: 神谷武

ページ範囲:P.160 - P.164

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 胃食道逆流症(gastroesophageal reflux disease:GERD)は,2006年にモントリオール基準1)として世界的コンセンサスの再構築が行われ,“胃内容物の食道内への逆流によって起こる煩わしい症状あるいは合併症を起こした状態”と定義された.これを受け日本でも2009年に日本消化器病学会による「胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン」2)が発行された.このガイドラインは,胃食道逆流症が日常臨床において一般的な疾患であることから,消化器専門医のみならず一般医家,プライマリケア医も対象に作成されている.また胃食道逆流症は肥満,高脂肪食など生活習慣との関連が指摘され,欧米と日本の食生活の違いが病態に関与すると考えられることより,日本人を対象としたエビデンスも重要視されている.ガイドラインは治療フローチャート(図1)と,疫学,病態,診断,内科的治療に加え外科的治療,上部消化管術後食道炎,食道外症状の章から構成され,各ステートメントには推奨グレードと,海外と日本のエビデンスレベルがそれぞれ独立して併記されている.

 一方諸外国でもいくつかのガイドラインが公表,改訂されており,米国をみても米国消化器病学会(American Gastroenterology Association:AGA),米国消化器病医会(American Collage of Gastroenterology:ACG),米国消化器内視鏡学会(The American Society of Gastrointestinal Endoscopy)の消化器系主要3学会に加え,米国内科医会(American Collage of Physician:ACP)の4学会がそれぞれガイドラインを発行している.ここでは日本のガイドラインと,2013年に改訂され,米国の4ガイドラインのなかで最も新しいACGのガイドライン3)の概要を表1に示す.

消化性潰瘍

著者: 東健

ページ範囲:P.165 - P.171

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 医療に対する患者の意識の高まり,情報の広まり,医療経済的問題などにより,医療の向上,標準化,経済性などが求められ,2003年4月に厚生労働省研究班により「胃潰瘍診療ガイドライン」が発表されるに至り,潰瘍診療の質的向上,効率化が図られてきた1).その後,2007年に,内容に追加変更を加え,第2版が発刊され2),さらに,2009年には日本消化器病学会により「消化性潰瘍診療ガイドライン」が作成された3).これらガイドラインはエビデンスを基にして作成され,Minds診療ガイドライン作成の手引きによるエビデンスレベル(Ⅰ,Ⅱ,Ⅲ,Ⅳa,Ⅳb,Ⅴ,Ⅵ)と推奨グレード(A,B,C1,C2,D)を用いている.「消化性潰瘍診療ガイドライン」では,主に治療についてクリニカルクエスチョンを設定し,それぞれに対してステートメントに推奨グレードとエビデンスレベルを明示し,エビデンスがわが国のものか,海外のものかを区別している.また,保険で診断・治療が可能かについても付記し,日常診療に使いやすいようにされている.

 また,消化性潰瘍診療に大きくかかわってくるHelicobacter pyloriH. pylori)感染については,同じく2009年に日本ヘリコバクター学会が「H. pylori感染の診断と治療のガイドライン2009改訂版」を作成している4)

潰瘍性大腸炎

著者: 小林健二

ページ範囲:P.172 - P.177

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)の診断,治療に関するガイドラインは日本からのもの以外に,英語で発表されているガイドラインとして米国,欧州,英国のものがある(表1)1~4).わが国には難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班プロジェクト研究グループ,日本小児IBD研究会,日本小児栄養消化器肝臓学会が合同で発表した「エビデンスとコンセンサスを統合した潰瘍性大腸炎の診療ガイドライン」1)のほかに,難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班から「潰瘍性大腸炎治療指針」が発表されている.本稿では,前者を中心に述べ,欧米のガイドラインとの比較も行いたい.

Crohn病

著者: 松岡克善 ,   金井隆典

ページ範囲:P.178 - P.180

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 Crohn病(Crohn’s disase:CD)の本邦での患者数は増加の一途を辿っており,現在35,000人以上の罹患者がいる.患者数の増加に伴い,CDは炎症性腸疾患専門医でなくても,日常臨床で遭遇し得る疾患となってきている.患者数の増加に加えて,インフリキシマブに代表される抗TNFα抗体製剤の登場によって,ここ10年でCDの治療体系は劇的に変化した.こういった状況を踏まえ,CDの診断・治療に関するガイドラインが切望されるようになってきた.そこで,厚生労働省難治性炎症性腸管障害に関する調査研究班と日本消化器病学会が合同で,2011年10月に「クローン病診療ガイドライン」を発行した1).本ガイドラインの目的は,本邦のCD診療における適切な指標の提供を通じて,患者アウトカムの改善に寄与することである.そのため本ガイドラインは,疾患概念,病態,診断,治療,経過観察,妊娠時などの特殊状況までを包括する内容となっている.本ガイドラインは英訳され,海外,特にアジア諸国に向けての情報発信の役割も担っている2)

 本ガイドラインは,患者の視点に立脚した臨床上の疑問(clinical question:CQ)に対する推奨ステートメントという形式で作成されている.各ステートメントには文献エビデンス・レベル,および専門家のコンセンサス・レベルの両者により規定された推奨グレードが付与されている.この専門家のコンセンサス・レベルが推奨グレードに反映される点が本ガイドライン作成の大きな特徴である.専門家のコンセンサス・レベルを推奨グレードに取り入れることにより,古くから臨床に定着しているがエビデンス・レベルの低い治療法や,エビデンス・レベルが高くても実際の臨床的有用性の劣る治療法などの推奨グレードを是正することが可能となり,より実臨床に近い推奨グレードを与えることが可能となる.

過敏性腸症候群

著者: 永田博司

ページ範囲:P.181 - P.185

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 わが国の過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)診療ガイドラインは,RomeⅢ診断基準(表1)が公刊された2006年に,東北大学病院心療内科のグループが,いち早く作成した(表2).わが国のIBSは軽症が70%,中等症が25%,重症が5%を占めることから,この順に一般内科医,総合病院の消化器内科医,専門病院の心療内科医を受診することを想定し,3段階に分けた治療フローチャートを提示しており,実用的である(図1)1).残念ながら,推奨グレードやエビデンスレベルの評価はなされていない.最近,新たなIBS治療薬も開発,保険収載されており,これらの評価を含む最新の診療ガイドラインが,日本消化器病学会から,近々,示される予定である.

 欧米では家庭医と専門医のコンセンサスによる診療ガイドラインがいくつか提示されている(表2)2~5).英国National Institute for Health and Clinical Excellence(NICE)のガイドラインはオンラインアクセスが可能であるが,full textは膨大である.独国のガイドラインでは,腹痛と便通が連関しなければならないというRomeⅢの必須項目を緩和して,腹部膨満感や放屁などの症状を追加し,また患者のquality of lifeが損なわれていることを診断基準に加えている4,5).IBSの診断や食事療法についてはエビデンスレベルの低いものが多く,各国の社会背景,医療事情によりステートメントに解離がみられる.

急性膵炎

著者: 川口義明

ページ範囲:P.186 - P.190

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 急性膵炎の診断・治療に関する国外のガイドラインとして,欧米においてはその地域独特の医療情勢に合わせて独自の急性膵炎ガイドラインが作成されている.作成主体は多彩であり,診断基準や定義を検討したMarseilles symposium,Cambridge,Atlanta symposiumなどの世界における膵炎の中心的な研究者による委員会から始まり,各国の主要学会主導ガイドライン,国際集会を中核とするガイドライン,栄養や救急治療にポイントを置いたガイドラインなど,数多く作成・出版されている(表1).

 日本では,2003年に第1版が作成されて以降,急性膵炎の治療成績向上が認められたが,難病にも指定されている重症急性膵炎のさらなる死亡率の低下を目指して,2009年に日本腹部救急医学会,肝胆膵外科学会,膵臓学会,医学放射線学会,厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班合同による『急性膵炎診療ガイドライン2010[第3版]』が発行された1).第3版では,重症度分類変更に伴う改訂,新たなエビデンスに基づく改訂(予防的抗菌薬の使用,感染性膵壊死に対する治療),新たな取り組み(臨床指針:pancreatitis bundle)が盛り込まれており,高次医療機関への搬送基準が明文化されていることも特筆すべきである.

慢性膵炎

著者: 片岡慶正

ページ範囲:P.191 - P.197

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 慢性膵炎の診療に関する国内外のガイドラインとして,1998年世界で最初に米国消化器病学会から慢性膵炎疼痛の治療ガイドライン『American Gastroenterological Association Medical Position Statement:treatment of pain in chronic pancreatitis』1)がフローチャート形式で発表された.日本では日本消化器病学会により胃食道逆流症(GERD),消化性潰瘍,炎症性腸疾患,肝硬変症,胆石症,慢性膵炎の消化器6疾患について,2006年からガイドライン委員会を発足し,エビデンスに基づいた診療指針を作成して消化器医はもとより一般医師向けに広く提供すべく,2009年に南江堂から発刊された.この日本消化器病学会編『慢性膵炎診療ガイドライン』2)は米国のガイドラインが疼痛対策に限定されていたのに対して,慢性膵炎全般を網羅した体系的診療ガイドラインとなっている.すなわち,国内外のエビデンスを体系的に検索,吟味,評価した上で,61項目からなるクリニカル・クエスチョン(CQ)の形式で,診断,重症度・病期,合併症対策を含めた治療(食事および生活指導,薬物,膵内外分泌不全対策,内視鏡治療,外科手術など)および予後と経過観察法にわたるガイドラインである.エビデンスとしての文献検索数は“PubMed”および“医中誌”からそれぞれ英文4,773編,邦文2,548編である.個々のCQについてステートメント,推奨グレード,国内外別にエビデンスレベルの明記とともに保険適応についても併記されている.さらに,日本消化器病学会では患者さんや社会が一体となって病気と向かい合う重要性から,『患者さんと家族のための慢性膵炎ガイドブック』3)を2010年発刊し,だれでもが書店で入手できるようになった.一般市民がわかりやすいようにイラストや表を多用して25項目にわたるQ&A方式で,疑問に答えながら自らの病態をよく理解して納得のうえで医療者とともに病気に立ち向かえる内容となっている.その他,国内外のガイドラインを表1に示すが,わが国では新たな慢性膵炎臨床診断基準20094)の改訂(厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班,日本膵臓学会,日本消化器病学会合同)を受けて,膵仮性囊胞の内視鏡治療ガイドライン2009(厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班および日本膵臓学会),慢性膵炎の合併症に対する内視鏡治療ガイドライン(膵石症の内視鏡治療ガイドライン2010)および慢性膵炎の断酒・生活指導指針2010(ともに,厚生労働省難治性膵疾患に関する調査研究班委員会)が日本膵臓学会雑誌『膵臓』に公表されている.

胆石症

著者: 田妻進

ページ範囲:P.198 - P.204

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 胆石症の診断・治療に関する国内外のガイドラインとしては,日本,米国,欧州から学会を中心に作成されたガイドラインが発行されているが,前二者は胆囊結石に関するものも主体的に含まれているが,後者は総胆管結石に特化している(表1)1~3).日本消化器病学会が2009年に発表した“胆石症診療ガイドライン”はMinds版診療ガイドラインの手引き「2007年版」に準じて作成されており,クリニカル・クエスチョン(CQ)の設定とその回答および解説の形式で作成されている.画像による症例提示もあり内容が充実しているうえに,ステートメントはデータベース化された文献に基づいておりEBMに準拠している.推奨グレードはオリジナルな手法で提案されているが,医療施設の環境に応じた対応を推奨する斬新なスタイルで示されている点は柔軟性がある.国内と海外別にエビデンスの有無をレベル付で表示し,保険適用についても明記している点など,日本国内で活用する際にきわめて有用であることは明らかである.一方,米国からのガイドラインは総説的で解説書様式であるため,診療室での実務には事前に読み込んでおくことが必要である.しかしながら診療実態の変遷を熟知するにはきわめて価値ある手引書である.

胆囊炎・胆管炎

著者: 甲斐真弘 ,   藤井義郎 ,   千々岩一男

ページ範囲:P.206 - P.210

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 急性胆道炎診療に関する本邦で唯一のガイドラインである「急性胆管炎・胆囊炎診療ガイドライン2013(第2版)―TG13新基準掲載」1)が2013年3月に発刊された.

 胆道炎に焦点を絞った診療指針となるべきガイドラインは,本邦はもとより欧米にも存在せず,世界共通の診断基準や重症度診断基準も存在していなかった.さらに急性胆道炎診療に関しては,従来からレベルの高いエビデンスが少なく,また医療技能の厳然たる格差や標準的医療レベルの概念にも施設間格差がみられていた.

C型慢性肝炎

著者: 藤永秀剛 ,   四柳宏

ページ範囲:P.211 - P.213

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 現在,C型肝炎についての日本のガイドラインには,厚生労働科学研究費補助金肝炎等克服緊急対策研究事業(肝炎分野)「ウイルス性肝炎における最新の治療法の標準化を目指す研究」班によるガイドライン1)と,日本肝臓学会によるC型肝炎治療ガイドライン2)とがある(表1).治療の方針については共通する点も多く,本稿では主に後者に沿って解説する.

 肝臓専門医を対象としたガイドラインであり,他領域のガイドラインでみられるクリニカルクエスチョン形式は採用されていない.また非常に短期間で治療法が進歩している疾患のため,recommendationにはエビデンスレベルは付記されず,根拠となる文献が詳細に引用されている.

B型慢性肝炎

著者: 藤永秀剛 ,   四柳宏

ページ範囲:P.214 - P.217

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 B型肝炎についての日本のガイドラインもC型肝炎と同様に,厚生労働科学研究費補助金肝炎等克服緊急対策研究事業(肝炎分野)「ウイルス性肝炎における最新の治療法の標準化を目指す研究」班によるガイドライン1)と,日本肝臓学会によるB型肝炎治療ガイドライン2)とがある(表1).本稿では主に後者に沿って解説する.

 C型肝炎のガイドラインと同様に,クリニカルクエスチョン形式はとらず,recommendationにはエビデンスレベルは付記されていない.

自己免疫性肝炎

著者: 森實敏夫

ページ範囲:P.218 - P.222

 自己免疫性肝炎(autoimmune hepatitis:AIH)は原因不明の肝疾患で肝細胞に対するT細胞を介した自己免疫反応が肝障害を引き起こすと考えられている疾患である.その標的抗原や免疫応答の詳細はいまだ解明されていないが副腎皮質ステロイドを中心とした免疫抑制療法が有効である.

肝硬変

著者: 福井博

ページ範囲:P.223 - P.227

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 欧米では肝硬変の原因別,病態別にさまざまなガイドラインが作成されて並立した現状にある.すなわち,原因別ではB型肝炎,C型肝炎,アルコール性肝障害,自己免疫性肝炎,原発性胆汁性肝硬変,原発性硬化性胆管炎という別々のガイドラインの最終章に肝硬変に関する記述がある.これらのすべてを紹介する紙面の余裕はないので表1に名称のみを列記する.一方,合併症では腹水/肝腎症候群/特発性細菌性腹膜炎,肝性脳症,食道・胃静脈瘤出血のそれぞれについてガイドラインが作られており(表2),これとは別に栄養療法,肝移植のガイドラインが存在する.これらに対し,日本消化器病学会が編集したEBMの手法に則った肝硬変診療ガイドラインは世界で唯一の包括的な肝硬変ガイドラインである(表2).

腎・泌尿器疾患

急性腎障害(AKI)

著者: 佐々木彰 ,   河原崎宏雄

ページ範囲:P.230 - P.236

 過去に急性腎不全(acute renal failure:ARF)と認識された疾患群は,RIFLE(risk, injury, failure, loss, end-stage kidney disease)分類1)およびAKIN(acute kidney injury network)分類2)によりAKI(acute kidney injury)と定義され,ここ数年で急激に普及してきた.以前は異なる研究者間で異なるARFの定義のもとで,研究されてきたため,研究評価や比較が困難であったが,AKIの定義後は共通概念のもと,多方面からの研究報告が著しく増加し,注目を集めている.

 昨今のAKI研究は,「早期にAKIを診断し,治療することの重要性」,「一過性のAKIの経過であっても長期予後が不良であること」など,臨床的にきわめて重要なトピックスを多数示してきた.早くAKIを認識し,多様な病態に即した適切な治療を行うことのみならず,AKIリスクが高い患者への予防を含めたマネジメントが求められるようになってきている.また,発症メカニズムの解明や早期診断のためのバイオマーカーの不足をはじめ,さらなる知見が欲される分野も多く,AKIを取り巻く環境は,今後も目まぐるしく変化していくものと思われる.

慢性腎臓病(CKD)

著者: 今井圓裕

ページ範囲:P.238 - P.244

内科診療に役立つ国内外のガイドライン(表1)

 2002年に慢性腎臓病(chronic kidney disease:CKD)を早期に発見し,透析患者を減らし,心血管疾患(cardiovascular disease:CVD)の発症を抑制することを目的として,米国腎臓財団の学術部門であるKidney Disease Outcomes Quality Initiatives(KDOQI)により,CKDの診断と治療に関するガイドラインが作成された.このガイドラインによりCKDという概念が確立し,その簡潔さとわかりやすさから,現在,世界各国でCKD対策に使用されている.

 わが国においては,2007年に日本腎臓学会からCKD診療ガイドが出版された.これは,CKDという概念を日本に広めるために作成されたものである.記載は「ステートメント」を先に記載し,その根拠や説明を記載する方法を取っている.当時は日本人のための糸球体濾過量(glomerular filtration rate:GFR)推算式が完成する前であり,残念ながら不完全な内容であった.2009年に発行されたCKD診療ガイドには約800名の日本人のCKD患者のイヌリンクリアランスのデータより作成した日本人のGFR推算式が記載され,わが国のCKD診療に対応できるものとなった.

ネフローゼ症候群

著者: 大塚康洋 ,   両角國男

ページ範囲:P.245 - P.249

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 ネフローゼ症候群のガイドラインは,日本より「ネフローゼ症候群診療指針[完全版]」1)が発行されている.海外では,腎炎に対するガイドラインとして「KDIGO Clinical Practice Guideline for Glomerulonephritis」2)がある.KDIGOのガイドラインでは,推奨度は2段階(1~2),エビデンスレベルは4段階(A~D)としている.推奨度・エビデンスレベルの最も高い1Aは全体の2%,1Bは14%と多くなく,腎炎・ネフローゼ症候群の領域ではエビデンスに基づきガイドラインを作成することがいかに困難であるかを示している.このような状況下で,日本のガイドラインでは「成人のネフローゼ症候群に関する標準的な治療を行うことができるように記載」されている.これら2つのガイドラインの特徴を表1に示す.

IgA腎症

著者: 川村哲也

ページ範囲:P.250 - P.255

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 IgA腎症の診断と治療に関する国内のガイドラインとしては,「IgA腎症診療指針―第3版―(以下,第3版)」1)が現在汎用されている.この診療指針は,1995年に提示された「IgA腎症診療指針」と,これを一部改訂し2003年に発表された「IgA腎症診療指針―第2版―」に続いて2011年3月に刊行されたものである.初版および第2版の予後分類や治療指針が専門家の経験に基づくものであったのに対し,第3版では日本人のデータから導き出された科学的根拠に基づく予後分類となっている(表1a「特徴」参照).また,組織学的重症度分類の根拠となった「後向き研究」の成果は,2013年にJournal of Nephrologyに掲載されている2).その他に,「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2009」3)があるが,現在改訂作業が進んでおり,近々「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2013」として公表される予定である.

 国外のガイドラインとしては,2012年に発表された「KDIGO Clinical Practice Guideline for Glomerulonephritis(KDIGO GN)」4)がある.このエビデンスに基づく国際的に統一されたガイドラインを活用することで,IgA腎症に対する標準的な治療が可能になった.しかし,わが国におけるIgA腎症治療の現状と適合しない提言もあることから,日本における国際ガイドラインの適用という,これまでにない課題に直面することになった.

腎癌

著者: 佐々直人 ,   山本徳則

ページ範囲:P.256 - P.259

 腎癌(腎細胞癌)とは,腎臓近位尿細管より発生する悪性腫瘍である.腎臓に発生する良性腫瘍として,オンコサイトーマ,腎血管筋脂肪腫(angiomyolipoma:AML)がある.かつての腎癌の3大徴候は,肉眼的血尿,側腹部痛,腹部腫瘤であったが,近年は検診を契機にみつかる小径の腎癌が増加している.診断技術や手術治療の進歩,薬物治療の進歩により,ここ数年で腎癌に対する治療戦略は大きく変わった.めまぐるしく変わる治療の変遷にわれわれ泌尿器科医も自己研鑽をかかさず,日常診療にあたっている.内科の諸先生にも,現在の腎癌をよく知っていただけるようにまとめてみたい.

神経・精神疾患

細菌性髄膜炎

著者: 佐久嶋研 ,   佐々木秀直

ページ範囲:P.262 - P.267

 細菌性髄膜炎は“neurological emergency”と呼ばれ,診断・治療に関して時間単位の対応が求められる予後不良の神経感染症疾患である.世界的には死亡率は10~30%と言われており,重篤な神経後遺症を残す割合も少なくない.日本での年間発症者数は約1,500人と言われているが,初期対応は神経関連の専門医以外が行うことも多いと考えられ,細菌性髄膜炎に関する初期対応の知識は幅広くプライマリ・ケアおよび救急にて診療を行う内科医に理解されていることが望ましい.本稿では日・米・欧の細菌性髄膜炎に関するガイドラインの概要を紹介するとともに,最も内容が充実している日本のガイドラインに沿って,プライマリ・ケアや救急の現場での活用方法について紹介する.なお,本稿は2012年12月時点で入手可能なガイドラインを基に作成していることに留意されたい.

認知症

著者: 東海林幹夫

ページ範囲:P.268 - P.274

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 認知症の診断・治療に関するガイドラインは米国,欧州,英国でそれぞれ提案され,臨床に使用されている(表1).本邦では日本神経学会が2002年に公表した痴呆疾患治療ガイドラインが,日本神経学会と関連5学会のガイドライン作成合同委員会によって認知症疾患治療ガイドライン2010として改訂された.1983年から2010年までの論文報告をMindsエビデンス・レベル分類に準拠してシステムレビューを行い,推奨グレードをQ&A方式で提案している.2012年には日常診療への利便性のために短縮・簡略化されたコンパクト版2012が公表され,Q&A方式の準拠,新たなエビデンスの追加とともに,National Institute on Aging-Alzheimer’s Association Workgroup(NIA/AA)よって2011年に改訂された認知症の診断基準の追加,Lewy小体型認知症(DLB)治療薬の新たな論文の追加,せん妄の治療に関する項目の追加,Alzheimer病(AD)治療薬のアルゴリズムの追加がなされ,非定型抗精神病薬の保険適用外記述が存続された1)

 欧米では,認知症の診断基準と画像,生物学的マーカー,薬物治療,非薬物治療のシステムレビューによるエビデンスの検証が行われ,Americal Academy of Neurology(AAN)のガイドラインとして2001年に公表された.以後同様なガイドラインがEuropean Federation of Neurological Societies(EFNS),National Institute for Health and Clinical Exelence(NICE, London)で提案されている.2007年にはAmerican Psychiatric association(APA)が認知症の行動・心理症状:behavioral and psychological symptom of dementia(BPSD)を含む薬物療法とケアの詳細なガイドラインを提出しており,コリンエステラーゼ阻害薬とメマンチンの効果のメタ解析に基づいて,2008年にAmerican College of Physicians(ACP)の薬物療法臨床ガイドラインも策定されている2)

Parkinson病

著者: 田代淳 ,   菊地誠志

ページ範囲:P.276 - P.281

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 Parkinson病は,無動(寡動),固縮(強剛),振戦,姿勢反射障害を主徴とする運動障害性疾患と認識されているが,近年,多彩な非運動症状も呈することが明らかとなってきている.疾患のカテゴリーとしては,神経変性疾患に分類されるいわゆる神経難病とされる疾患であり,現時点では疾患を治癒させる根本的治療法はない.しかしながら,L-dopaを始めとする薬物治療や脳深部刺激療法など,症状を改善させる治療法は多数あり,その進歩には弛みがない.

 このように治療の選択肢が増加するに伴い,エビデンスに基づいた治療の指針を提示する必要があるとの考えから,「パーキンソン病治療ガイドライン2002」が作成された.これは,日本神経学会が2002年に主要な6神経疾患についてガイドラインを作成,発行したなかの1つであり,わが国でParkinson病診療に携わる神経内科医に広く活用され,標準的なParkinson病治療の普及に大きな役割を果たしてきた.

慢性頭痛

著者: 竹島多賀夫

ページ範囲:P.283 - P.288

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 わが国の頭痛ガイドラインは,2002年に日本神経学会ガイドライン委員会,頭痛小委員会(委員長:坂井文彦)が作成した慢性頭痛治療ガイドライン1)に始まる.片頭痛,緊張型頭痛,群発頭痛の治療について,国内外のエビデンスにもとづき作成された.エビデンスが不十分な事項は,エキスパートのコンセンサスで補完されている.また,薬物長期乱用に伴う頭痛(薬物乱用頭痛)についても付記として記載されている.2005年には,厚生労働科学研究費補助金・こころの健康科学研究事業(主任研究者:坂井文彦)により,慢性頭痛診療ガイドラインが作成され,これをベースに,2006年,慢性頭痛の診療ガイドライン(日本頭痛学会 編)が刊行された2).頭痛診療の重要な項目が網羅されており(表1),クリニカルクエスチョン(CQ)と,これに対する推奨文,背景・目的,解説・エビデンス,参考文献などが記載されている.このガイドラインが,現在,わが国で,最も広く利用されている.2011年に,日本頭痛学会と日本神経学会を中心に,慢性頭痛の診療ガイドライン作成委員会(委員長:荒木信夫,副委員長:竹島多賀夫)が組織され,日本脳神経外科学会,日本神経治療学会の協力を得て,「慢性頭痛の診療ガイドライン2013」が発刊された(以下,2013年版は単にガイドラインと記す)3).2006年版を踏襲し,その後の新たなエビデンスや研究成果,頭痛医療の状況変化を取り入れて作成されている.1995年以降に公開された欧米の頭痛に関連したガイドライン4~9)の主要なものを,わが国の頭痛関連ガイドラインとともに一覧として表2に示した.

脳卒中

著者: 橋本洋一郎 ,   菅智宏 ,   伊藤康幸

ページ範囲:P.290 - P.295

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

日本のガイドライン

 脳卒中の治療に関するわが国のガイドラインとしては,『脳卒中治療ガイドライン2009』がある(http://www.jsts.gr.jp,無料)1).5つの学会が合同で作成し,脳卒中のリハビリテーションも含まれている.2004年に初版が出され,2009年の改訂版が2015年に発刊される予定である.『Merciリトリーバー適正治療指針』(2010年),『Penumbraシステム適正治療指針』(2011年),『rt-PA(アルテプラーゼ)静注療法適正治療指針第二版』2))も必要に応じて出している(無料).

うつ病

著者: 宮岡等

ページ範囲:P.296 - P.298

 日本におけるうつ病と双極性障害を加えた気分障害患者数は1996年には43.3万人であったのが,2008年には104.1万人となった.2011年には95.8万人とやや減少傾向に見えるが,2011年は東日本大震災の年であり,「宮城県の一部と福島県を除いた」データであるため,現時点では減少していると理解しないほうがよいであろう1).うつ病が統計上,なぜ増加したかについては「ストレス社会になった」「精神疾患に対する社会の偏見が軽減し,受診しやすくなった」といったことなども関係していようが,「うつ病と診断される範囲の広がり」も大きな理由である.その背景には,「うつ病には抗うつ薬が効く」と宣伝する製薬会社の販売戦略や,医師への偏った啓発活動によって,“うつ病の診断方法は知っているがそれ以外の精神疾患に関する知識のない医師”が安易にうつ病と診断する傾向などの影響も無視できない.

 本稿では,「内科医がうつ病ガイドラインを用いる時の留意点」を述べる.

血液疾患

貧血

著者: 生田克哉 ,   伊藤巧 ,   高後裕

ページ範囲:P.300 - P.303

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 貧血は,単位容積の血液あたりのヘモグロビン濃度が低下した状態と定義されるが,その原因にはさまざまなものがあり,決して均一な疾患単位ではない.貧血を診た場合,それを分類し,その原因を検索し,それに対して治療的アプローチをしていかなくてはならないが,現在のところ貧血全般に対する包括的かつ整ったガイドラインはない.そのため,細分化された後の各種ガイドラインを利用していくことになる.最も頻度の高い貧血は鉄欠乏性貧血であり,日常臨床で診る貧血の約7割程度を占めるとされるが,これに対しては日本鉄バイオサイエンス学会から「鉄剤の適正使用による貧血治療指針(改訂第2版)」が2009年に出されており,鉄欠乏性貧血の診断・治療・予防を網羅した内容になっている.これ以外の貧血に関するガイドラインとしては,「癌および化学療法に伴う貧血に対するガイドライン」がNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)から出されており,特に内科領域の日常診療で遭遇する機会が多い病態に対し,フローチャートなどを使用した記載となっているが,少々煩雑である.慢性腎臓病に伴う貧血に対しては,日本透析医学会よりガイドラインが出されており,細かなエビデンスレベルも併記されている.その他,疾患頻度は減り血液内科領域に限定されてくるが,再生不良性貧血や骨髄異形成症候群などの造血不全に伴う貧血に対しては,「厚生労働省科学研究費補助金 難治性疾患克服研究事業 特発性造血障害班 特発性造血障害疾患の診療の参照ガイド」が出されているが,文章量が非常に多く,日常臨床での使用が少々難しい.そのため,同班において各対象疾患の責任者が集い,要点をコンパクトにまとめ,部分的にアップデートした形の「難治性貧血の診療ガイド」が出されており,実際の臨床で使用されている.

播種性血管内凝固(DIC)

著者: 和田英夫 ,   松本剛史

ページ範囲:P.304 - P.308

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation:DIC)1)の診断ならびに治療に関するガイドラインは,英国,日本,イタリア,欧州/北米/アジアから,学会を中心に作成されたガイドラインが発行されている.すなわち,英国血液標準化委員会(the British Committee for Standards in Haematology:BCST),日本血栓止血学会(the Japanese Society of Thrombosis and Hemostasis:JSTH)ならびにイタリア血栓止血学会(the Italian Society for Thrombosis and Haemostasis:SISET)が,それぞれのDIC診療ガイドラインを作製して,2009~2011年の間に公表 2~4)した.しかし,これらのガイドラインの推奨や推奨度に差があり,臨床家の間ではどのガイドラインが正しいのか,少なからず混乱が生じた.そこで,国際血栓止血学会(International Society of Thrombosis Haemostasis:ISTH)のなかの科学的標準化委員会(Scientific Standardization Committee:SSC)のDIC部会で,BCST,JSTH,SISETの主要メンバーが集まり,2011~2013年にかけてDICの診療ガイドラインのハーモナイゼーションが行われ,2013年にISTHのDIC診療ガイダンスとして公表された5)(表1).いずれのガイドラインも,DICの診断ならびに治療における推奨度とエビデンスレベルが記載されていて,実際に使用するときの判断材料となり有用である.

特発性血小板減少性紫斑病(ITP)

著者: 冨山佳昭

ページ範囲:P.310 - P.314

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 ITPという用語が広く日常臨床で用いられているが,本疾患の正式な名称に関してはいまだ統一されていないのが現状である.わが国では,ITPは厚生労働省の特定疾患に認定されidiopathic thrombocytopenic purpura(特発性血小板減少性紫斑病)と呼ばれており,本稿でもこの病名を使用した.一方,その自己免疫機序が明らかになるに従い,海外ではautoimmune thrombocytopenic purpura(自己免疫性血小板減少性紫斑病),さらにはchronic immune thrombocytopenic purpura(慢性免疫性血小板減少性紫斑病)などの用語も用いられている.最近,国際作業部会(international working group:IWG)は,本疾患の病名としてprimary immune thrombocytopenia(primary ITP)との名称を提唱している1)

 ITPの治療に関しては,1996年に米国血液学会より血液専門医の治療経験に基づいて作成されたITP治療ガイドラインや,IWGからのガイドラインが公開されている.2011年には米国血液学会から1996年版の改訂版としてエビデンスに基づいたITPガイドラインを公開している(表1).

多発性骨髄腫

著者: 河村浩二 ,   神田善伸

ページ範囲:P.315 - P.320

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 多発性骨髄腫の診断・治療に関する日本,米国,英国で作成された代表的なガイドラインを表1に示す.日本では,日本骨髄腫研究会の編集による「多発性骨髄腫の診療指針」第1版が2004年に,第2版が2008年に刊行され,日本骨髄腫研究会が発展的に日本骨髄腫学会に移行し,その編集による第3版が2012年10月に刊行されている.新規薬剤(サリドマイド,ボルテゾミブ,レナリドミド)の登場や,治療効果判定基準の改変など,ここ10年以内に骨髄腫診療は著しく発展してきており,ガイドラインもその都度改訂されている.現時点において「多発性骨髄腫の診療指針」第3版は,本邦での多発性骨髄腫の診療全体を網羅した内容になっている.表1に挙げた日本,英国のガイドラインは総説形式で,臨床所見,診断,治療の章立てにより形成され,推奨ステートメントにエビデンスレベルが併記されている.National Comprehensive Cancer Network(NCCN)からのガイドラインは毎年1回以上改訂され,しかも登録さえすれば無料で閲覧できる.また,表1にはないがInternational Myeloma Working Group(IMWG)から特定の検査や治療についての個別のガイドラインがいくつかの主要な血液学の雑誌に公表されている.

代謝・内分泌疾患

糖尿病

著者: 三松貴子 ,   柴輝男

ページ範囲:P.322 - P.328

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 糖尿病の診断・治療に関するガイドラインには日本,米国,欧州から作成されたガイドラインがある(表1).

糖尿病合併症

著者: 北田宗弘 ,   古家大祐

ページ範囲:P.330 - P.335

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 糖尿病・糖尿病合併症の診断・治療に関するガイドラインとしては,日本糖尿病学会から「糖尿病治療ガイド1)」,「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン2)」が発行されている.糖尿病治療ガイドでは,引用や出典のエビデンスは記載されていないが,糖尿病専門医のみならず,非専門医,療養指導にかかわるコメディカルを対象に糖尿病の病態・診断・検査・治療について実臨床に用いやすいよう2年ごとにupdateされている.科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドラインは,2002年に初版が発行されて以来,数回の改定を経て2013年発行版に至っている.本ガイドラインでは,奨励するステートメントを示し,それぞれについてグレードが表示されている.さらにステートメントごとに根拠となる文献が引用され,各文献はエビデンスレベルが記載されている.またエビデンスを伴わないがコンセンサスにより推奨する事項も明記されている.米国糖尿病学会(ADA)は,1994年に糖尿病診療に関するエビデンスに基づいたガイドラインを発行して以来,Diabetes Care誌にClinical Practice Recommendationsとして毎年改定を重ねて掲載している3).その他,カナダ糖尿病学会,欧州糖尿病学会,国際糖尿病連合,世界保健機構からそれぞれガイドラインが発行されている.また,腎症については,日本腎臓学会からCKD診療ガイド20124)および,エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン20135)が発行されている.

脂質異常症

著者: 木下誠

ページ範囲:P.336 - P.341

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 脂質異常症の診断・治療を中心に据えたガイドラインとして代表的なものに,日本,米国,欧州のものがある(表1).

 日本の動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012は,日本動脈硬化学会が作成したもので,主として日本人のエビデンスに基づいて作成されている1).米国のNCEP-ATPⅢ(National Cholesterol Education Program:Adult Treatment PanelⅢ)は米国国立衛生研究所(NIH)が中心になってまとめたもので,2001年に発表された2).欧州のESC/EASガイドラインは欧州心臓学会と欧州動脈硬化学会が作成したもので,2011年に発表された3).これらすべてのガイドラインでは,個人の動脈硬化絶対リスクを判定した後,それに基づいた治療方針を設定するようになっている.個人の絶対リスクを判定するには疫学データが必要であり,米国ではフラミンガムスコア4),欧州ではSCOREリスク評価チャート5),日本ではNIPPON DATA806)が用いられている.

高尿酸血症・痛風

著者: 山中寿

ページ範囲:P.342 - P.348

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 高尿酸血症・痛風は生活習慣病であり,対象となる患者数も多く,日常診療で遭遇することが多い疾患である.一方で,痛風や高尿酸血症の治療,生活指導には誤解も多く,治療の標準化が望まれる疾患である.

 日本痛風・核酸代謝学会は2002年に「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン」を発行した1)が,これはその時点のエビデンスを最大限に集約したものとしては世界の先駆けであった.その後,いくつかの国や地域からガイドラインが発表され,日本痛風・核酸代謝学会のガイドラインも2010年に第2版を発表した2)

骨粗鬆症

著者: 細井孝之

ページ範囲:P.350 - P.353

わが国における骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン

 わが国における骨粗鬆症診療関連のガイドラインは,1998年に発行された「骨粗鬆症の治療(薬物療法)に関するガイドライン」が最初のものである.1998年版とその改訂版である2002年版は治療,特に薬物療法に関するエビデンスをまとめることに重点が置かれていたが,2006年版の作成にあたっては.骨粗鬆症予防の重要性を鑑み,「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン」とタイトルを改めるとともに,さらなる内容の充実が図られた1).また,作成にあたっては,日本骨粗鬆症学会,日本骨代謝学会,財団法人骨粗鬆症財団の3者からなるアドホック委員会としての骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会の体制が確立された.2006年版の発行後さまざまな知見が蓄積したことを背景に2009年から改訂の準備作業が開始され,2011年版2)の発行に至った.

 2011年版の改訂作業では,以下の12項目について検討された.

甲状腺機能亢進症

著者: 吉村弘

ページ範囲:P.354 - P.359

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 甲状腺機能亢進症は,甲状腺の働きが高まり甲状腺ホルモン合成が盛んになる病態を指す.本邦で最も多いのはバセドウ病であるが,その他に中毒性結節性甲状腺腫,TSH産生腫瘍などがある.本邦のガイドラインとしては甲状腺機能亢進症のすべてを記載したものはないが,頻度の最も多いバセドウ病のガイドラインが日本甲状腺学会から発表されている.バセドウ病の診断については,日本甲状腺学会ホームページ「甲状腺疾患診断ガイドライン2010」1)のなかに「バセドウ病,無痛性甲状腺炎,亜急性甲状腺炎の診断ガイドライン」として記載されており,治療については薬物治療と131I内用療法を取り上げている「バセドウ病治療ガイドライン2011」2)に記載されている.バセドウ病の診断はバセドウ病治療ガイドライン2011の総論にも詳しく記載されており,鑑別診断はこの部分を参考にすればよい.バセドウ病治療ガイドライン2011は,ポイント,ステートメント,ステートメントの根拠,解説,文献紹介から構成されており,ステートメントはエビデンスレベルと推奨グレードが付けられ,一般実地医家の先生方にエビデンスに基づいた具体的方針を示すことが目標にされている.

 海外のガイドラインとしてはAmerican Thyroid Association (ATA)とAmerican Association of Clinical Endocrinologists(AACE)が共同で作製したHyperthyroidism and other causes of thyrotoxicosis:management guidelines of the American Thyroid Association and American Association of Clinical Endocrinologists3)がある.このガイドラインは甲状腺機能亢進症全体のガイドラインである(表1).

リウマチ・膠原病

関節リウマチ

著者: 野村篤史 ,   藤田芳郎

ページ範囲:P.362 - P.368

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 近年,関節リウマチ治療の進歩は著しく,生物学的製剤をはじめとした新規リウマチ薬の登場は診療に大きな変化をもたらした.それに伴って国内外で診断や治療に関する新しい指針が次々と発表されている(表1).

 診断に関しては欧米で発表されているのはガイドラインというものではないが,新分類基準として2010年に米国リウマチ学会(ACR),欧州リウマチ学会(EULAR)から合同で発表された.それとともに,診療の質の向上のための基本指針としてtreat to targetという医療者と患者がともに目標設定をし,診療にあたるという指針が同年発表されている.

全身性強皮症

著者: 竹原和彦

ページ範囲:P.370 - P.373

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 全身性強皮症に関する国内外のガイドラインとしては,まず日本で2004年に厚生労働省強皮症調査研究班(竹原班)より「強皮症における診断基準・重症度分類・治療指針」が策定され1),2007年に一部が改訂された.その後,2010年には,同じく厚生労働省強皮症調査研究班(佐藤班)により,EBMに基づいた新たな「全身性強皮症診療ガイドライン」が作成された.この診療ガイドラインは,そのまま日本皮膚科学会の診療ガイドラインとして承認され,日本皮膚科学会雑誌にも掲載されている2).このガイドラインは主として治療の流れを示す「診療アルゴリズム」と,診療上の具体的な問題事項であるclinical question(CQ)に対する回答・解説を記載した「診療ガイドライン」から構成されている.各CQに対する回答・解説は「推奨文」と「推奨度」の後に詳しい「解説」が付けられている.

 欧州ではヨーロッパリウマチ学会(European League Against Rheumatism)の下部組織であるEUSTAR(European Scleroderma Trials and Research Group)が2009年に全身性強皮症の治療に関するrecommendation(推奨)を公表した3,4).なお,作成には18人のエキスパート,2人の患者,3人の文献検索担当者で構成される委員会作成が当たり,日本からは筆者が唯一の皮膚科医,あるいは欧米以外のエキスパートとして参加した.当初,仮の質問がEUSTARの74施設に送られたが,最終的に文献的エビデンスやエキスパートからの意見に基づいて14の推奨事項が発表された.

全身性エリテマトーデス

著者: 閔治先 ,   岡田正人

ページ範囲:P.374 - P.380

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)については米国や欧州のリウマチ学会からは以下に示すいくつかのガイドラインが紹介されている(表1).

 1999年にはAmerican College of Rheumatology(ACR)からSLEの診断や治療に関するガイドラインが発行されている.また,2012年には同学会よりループス腎炎に関するスクリーニング,治療,管理に関するガイドラインが発表された.

線維筋痛症

著者: 岡寛

ページ範囲:P.381 - P.385

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 線維筋痛症(fibromyalgia:FM)の診断・治療に関する国際的なガイドラインは,The American Pain Society(APS)の2005年,The European League Against Rheumatism(EULAR)の2007年,The Association of the Scientific Medical Societies in Germany(AWMF)の2008年のガイドラインが存在するが,薬物療法の記載は三環系抗うつ薬(アミノトリプチリン)が中心となっており,最新の治療になっていない1).これに対して,本邦での線維筋痛症診療ガイドライン2013(日本線維筋痛症学会 編)では,多施設の二重盲検の結果を採用し,プレガバリンを推奨度Aに改訂するなど,最新の治療内容となっており高く評価される2).ガイドラインではないが,最新の文献として,Ann Rheum Disにネットワークメタ解析の結果が示されており,薬理学的介入として,プレガバリン,SNRI(選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害剤),認知行動療法の有用性が示されている3)

Sjögren症候群

著者: 中西研輔 ,   金城光代

ページ範囲:P.386 - P.391

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 Sjögren症候群の診断・分類基準として,本邦からは厚生省改訂診断基準(1999年),海外からはアメリカ・ヨーロッパ分類基準(2002年),アメリカリウマチ学会(American College of Rheumatology:ACR)分類基準(2012年)などが発表されている(表1)1~3).各基準の主な違いは以下のとおりである.

1)臨床症状が基準に含まれるのは,アメリカ・ヨーロッパ分類基準のみ.

2)ACR分類基準では,唾液腺に関する評価は不要.

3)ACR分類基準では,血清学的検査に抗核抗体(anti-nuclear antibody:ANA)320倍以上およびリウマチ因子 (rheumatoid factor:RF)陽性が含まれる.

多発性筋炎・皮膚筋炎

著者: 高田和生

ページ範囲:P.392 - P.396

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 多発性筋炎・皮膚筋炎については,国内外を通じて診療ガイドラインは存在しない.診断については,1975年に発表されたBohanとPeterの診断基準1)が世界的に用いられてきたが,以下に述べるように今日の診療への適用には限界がある.日本では,疫学統計を目的とした診断基準〔1992年厚生省(当時)自己免疫疾患調査研究班作成〕が存在する.他方,治療については,質の高いエビデンスがきわめて少ないこともあり,国内外を通じてコンセンサスの得られたガイドラインは存在せず,単一医療機関からの治療推奨提案2)程度に限られる.なお,皮膚筋炎に対する免疫グロブリン大量静注療法に関しては,アメリカ神経学会からのガイドラインが存在する3).日本では,公益財団法人難病医学研究財団による難病情報センターが,医療従事者向けに多発性筋炎・皮膚筋炎の診断・治療指針を公表している(http://www.nanbyou.or.jp/entry/293).これは厚生労働省難治性疾患克服研究事業免疫疾患調査研究班(自己免疫疾患)より提供された情報に基づくものである.また,多発性筋炎・皮膚筋炎に合併した間質性肺炎の治療については厚生労働科学研究費補助金(免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業)の一環として公表された治療ガイドラインが存在する4).国際的に広くコンセンサスの得られたガイドラインがなく,また特に合併する間質性肺炎の重症度が日本やアジアの人種において高いことを示唆する報告などを鑑み,日本においてはこれら診断・治療指針や治療ガイドラインを参考に,多発性筋炎・皮膚筋炎の診療が行われている.

血管炎症候群

著者: 押川英仁 ,   松井和生

ページ範囲:P.398 - P.403

 原発性血管炎は罹患血管のサイズから大型血管炎,中型血管炎,小型血管炎にそれぞれ分類される.大型血管炎には高安病や巨細胞性動脈炎が,また,中型血管炎には結節性多発動脈炎や川崎病が含まれる.そして,抗好中球細胞質抗体(ANCA)関連血管炎と免疫複合体性血管炎が小型血管炎に分類される.本稿では血管炎症候群のなかでも,プライマリケアの場面においても比較的遭遇する頻度が高いであろうANCA関連血管炎に関して述べる.

Behçet病

著者: 陶山恭博 ,   岸本暢将

ページ範囲:P.404 - P.412

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 Behçet's病(BD)は,1937年にトルコのイスタンブール大学皮膚科教授のHulsi Behçetによって提唱された疾患である.現在では再発性口腔内アフタ性潰瘍,外陰部潰瘍,皮膚症状,眼症状の4つを主徴とする慢性再発性全身性疾患として,表1のような症状が知られている.地域的な分布をみると,日本をはじめとした東アジア,中近東,地中海沿岸諸国などのシルクロードに沿った地域での罹患頻度が高く,ヨーロッパ北部や米国その他の地域では少ないため,シルクロード病とも呼ばれる.好発年齢は20~30歳台にピークがあり,思春期前および50歳以降での発症は稀とされる.男女比は1:1で差はないものの,男性のほうが重篤な傾向にある.本邦からの報告では,男性では眼病変や神経病変が,女性では陰部潰瘍や関節炎の頻度がやや高くなるとされる1).表2のように本邦からは3つ,海外からは1つのガイドラインが発表されており,特に本邦のガイドラインでは病態,疫学,症状,検査,診断・鑑別,治療について詳細に記載されている.本稿では,その活用法,限界,国内外の相違点について,下記に質問形式にてまとめる.

アレルギー

花粉症

著者: 森本佳和

ページ範囲:P.414 - P.418

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 花粉症の診療に参考にできる国内外のガイドライン4つを選んで表にまとめた(表1).日本ではアレルギー性鼻炎の診療ガイドラインの「鼻アレルギー診療ガイドライン」が1993年に初めて作成され,最新版が約4年ぶりに改訂された(改訂第7版:2013年).国際的なアレルギー性鼻炎の診療ガイドラインとしては「Allergic Rhinitis and its Impact on Asthma(ARIA)guideline」(以下,ARIAガイドライン)が2001年に発表され,アレルギー性鼻炎の国際的ガイドラインの基準として考えることができる.世界で約5億人のアレルギー性鼻炎患者の治療に用いられているといわれ,現在,2008年改訂版が利用できる2).日本の花粉症特有の問題であるスギ花粉の状況には即していない点もあるが,喘息との関連を重視したアレルギー性鼻炎診療のための優れたガイドラインである.米国からはAmerican Academy of Allergy, Asthma & Immunology(AAAAI)とAmerican College of Allergy,Asthma and Immunology(ACAAI)が合同となって(Joint Council of Allergy, Asthma and Immunology:JCAAI),「The diagnosis and management of rhinitis:An updated practice parameter」(JCAAIガイドライン)が2008年に発表されている3).また,英国からは,British Society for Allergy and Clinical Immunology(BSACI)guidelines for the management of allergic and non-allergic rhinitis BSACIガイドライン)が2008年に発表されている4)

 本稿では,日本の「鼻アレルギー診療ガイドライン」からステートメントを抽出し,これら国内外のガイドラインの内容を加えながら解説したい.

アレルギー性鼻炎

著者: 陶山恭博 ,   岡田正人

ページ範囲:P.419 - P.422

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 鼻アレルギーの診断・治療に関する国内外のガイドラインとして,日本,米国,欧州から学会を中心に作成されたガイドラインが発行されている(表1).日本では,第5回日本アレルギー学会春季臨床大会特別シンポジウム「アレルギー疾患治療ガイドライン」をもとに初版が1993年に出版され,2013年には第7版が刊行されている.国際的にはAllergic Rhinitis and its Impact on Asthma(ARIA)によるガイドラインが2010年にAllergic Rhinitis and its Impact on Asthma(ARIA)guideline 2010 revisionとして改訂されており,米国からはAmerican Academy of Allergy, Asthma & Immunology(AAAAI)よりガイドライン論文が2008年に発表されている.海外のガイドラインは総説形式で症状,検査,鑑別診断,治療の章立てより形成されており,推奨ステートメントにエビデンスレベルが併記されている.

感染症

インフルエンザ

著者: 今泉貴広 ,   藤田芳郎

ページ範囲:P.424 - P.429

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 インフルエンザウイルスはA型,B型,C型に分かれており,通常,公衆衛生上問題となるような流行をするのはA型とB型である.このうちA型はヘマグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)の型の違いによってさらにサブグループに分かれる.HAは1~16,NAは1~9あり,全部で144通りの組み合わせが理論上は存在することになる.現在流行しているものとして,H1N1,H3N2がよく知られている.H5N1は高病原性鳥インフルエンザとして以前より認識されていたが,2013年4月頃より中国で新たにH7N9の流行が問題となってきている.

 インフルエンザウイルス感染症の診断,治療,さらには感染対策に関することまで言及された国内外で発表されているいくつかの指針が,インターネット上で無料にて入手可能である.Infectious disease society of America(IDSA),World health organization(WHO),日本感染症学会がそれぞれガイドラインや提言という形でまとめている(表1)1~3)

副鼻腔炎

著者: 相澤悠太 ,   齋藤昭彦

ページ範囲:P.430 - P.434

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 副鼻腔炎の診断・治療に関する国内外のガイドラインとして,日本,米国から学会を中心に作成されたガイドラインが発行されている(表1)1,2).日本鼻科学会から発行された『急性鼻副鼻腔炎診療ガイドライン2010年版』1)では,日本における上顎洞貯留液を含めた急性鼻副鼻腔炎からの検出菌と薬剤感受性の時間的推移が記載されており,スコアリングシステムと重症度分類を提唱しているのが特徴である.米国からはInfectious Diseases Society of America(IDSA)が2012年に学会誌でガイドライン論文2)を発表しており,Q&A方式で治療に重点を置き,詳細な解説が付いている.

咽頭炎

著者: 廣瀧慎太郎 ,   堀越裕歩

ページ範囲:P.436 - P.439

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 咽頭炎を起こす微生物は多数存在し,このなかで疾患頻度が高く,治療介入が必要な微生物はGroup A streptococcus(GAS)感染症である.

 2012年4月にThe European Society for Clinical Microbiology and Infectious Diseases(ESCMID)から咽頭炎の診療ガイドラインが発表され,同年11月にThe Infectious Diseases Society of America(IDSA)からGASによる咽頭炎の診療ガイドラインが発表された.日本からは2011年に小児呼吸器感染症診療ガイドライン委員会によりガイドラインが発表され,そのなかで咽頭炎および扁桃腺炎に関しての記述がある(表1)1~3)

カンジダ感染症

著者: 本田仁

ページ範囲:P.440 - P.445

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 カンジダ感染症は臨床上非常に重要な疾患であり,頻度の比較的高い腟カンジダ症から,カンジダ血症,侵襲性カンジダ症まで疾患のスペクトラムは広い.また疾患のスペクトラムに合わせて,患者の免疫機能の低下にもスペクトラムが存在する.特に好中球減少時に生じる菌血症は死亡率も高く,診断も困難なこともあり,治療開始のタイミングが議論となる.

 主に海外にカンジダ感染症に関して治療ガイドラインが存在するが,おおまかな治療方針は各ガイドラインでおおむね共通していると言ってよい.現在,主なガイドラインとしては2009年にInfectious Disease Society of America(IDSA)からカンジダ感染症の実践的治療ガイドライン1),2012年にEuropean Society of Clinical Microbiology and Infectious Diseases(ESCMID)からカンジダ感染症の診断と治療に関するガイドライン2~6)があり,日本医真菌学会から侵襲性カンジダ症の診断・治療ガイドラインの発表が予定されている(本稿執筆時の2013年5月末日時点では,パブリックコメントの募集が終了している段階でガイドラインの公開はされていないため,ここでは触れない.表1).IDSAのガイドラインはIDSA監修のもと,和訳もされており,本邦におけるカンジダ症の治療に寄与しているものと思われる.

HIV感染症

著者: 菅沼明彦

ページ範囲:P.446 - P.450

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 HIV感染症診療に関するガイドラインとして,日本,米国,英国,欧州などからガイドラインが作成されている(表1)1~5).日本では,近年「抗HIV治療ガイドライン」が作成され,臨床で使用されている1).本ガイドラインは,「平成24年厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業HIV感染症およびその合併症の課題を克服する研究班」により2013年に改訂された.海外の主なHIV診療ガイドラインに,米国IAS-USA(International Antiviral Society-USA)2),DHHS(The Department of Health and Human Services)3),欧州EACS(European AIDS Clinical Society)4),英国BHIVA(British HIV Association)5)などが挙げられる.HIV感染症に関するさまざまな研究成果が蓄積されていることに加えて,新規の抗HIV薬が市販されている状況であることから,いずれのガイドラインも2012~2013年に改訂が行われている.上記のガイドラインは,すべて各学会や組織のウェブサイトより,無料で閲覧およびダウンロードが可能である.また,上記のガイドラインで,EACSガイドライン以外は,推奨にエビデンスレベル,勧告の強さが表示されている.

MRSA感染症

著者: 椎木創一

ページ範囲:P.452 - P.456

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 MRSAに関連する国内外のガイドラインには,MRSA感染症の診療を中心にしたものと感染対策を軸にした2種類が存在する.本稿ではMRSA感染症の診断と治療を示したガイドラインを抽出した.また,インターネットで簡便に入手可能でアップデートされているものとして,米国,日本,そしてEUからは英国のものを選択した.

 この3カ国の院内で検出される黄色ブドウ球菌には,MRSAがある程度の頻度で発生している.こうした疫学的背景がある程度近いかどうかが,感染症診療に関連したガイドラインを読み解く場合に重要となる.ヨーロッパでもMRSAの頻度が極端に低い地域では,感染対策も含めてガイドラインの姿勢が異なってくる.しかし,地域によって疫学データの収集方法が異なっているため,比較するのは容易ではない.院内で検出されるMRSAについて,各地域での状況をいくつかの疫学データを集めて大まかに表1にまとめた.一口にEUと言っても国ごとの違いは著しく,まとめて論ずるのは適切ではない.とはいえ報告をみるとHAIで検出される黄色ブドウ球菌に占めるMRSAの割合が日本はEU全体よりも高く,米国はその中間と言える.

H. pylori感染症

著者: 山田航希 ,   本郷偉元

ページ範囲:P.457 - P.462

 1983年にWarrenとMarshallによりHelicobacter pyloriH. pylori)が胃粘膜組織より分離培養されて以来,この30年間で上部消化管疾患の概念や診療の実態が大きく変化してきた.わが国では2013年2月に内視鏡検査において胃炎の確定診断がなされたH. pylori感染患者は「ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎」として除菌治療を保険診療で行うことができるようになり,日常診療における重要性が増しており臨床医として十分な理解が必要である.

救急

成人の一次救命処置(BLS)の指針

著者: 田口瑞希 ,   山中克郎

ページ範囲:P.464 - P.469

診療に役立つ国内外のガイドライン

 一次救命処置(basic life support:BLS)に関する国内外のガイドラインは次のようなものがある.

●2010年AHA(米国心臓協会)ガイドライン1)

●2010年ERC(欧州蘇生協議会)ガイドライン

●2010年JRC(日本蘇生協議会)ガイドライン

 これらのガイドラインの大元になっているのが,国際コンセンサス(CoSTR)である.

成人の二次救命処置(ALS)の指針

著者: 山口つかさ ,   林寛之

ページ範囲:P.470 - P.474

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 蘇生に関する国際的コンセンサスと,推奨治療についての国際委員会〔国際蘇生連絡委員会(International Liaison Committee on Resuscitation:ILCOR)〕が1992年に設立されており,現在はAmerican Heart Association(AHA),European Resuscitation Council(ERC),Heart and Stroke Foundation of Canada(HSFC),Australian and New Zealand Committee on Resuscitation(ANZCOR),Resuscitation Council of Southern Africa(RCSA),Inter American Heart Foundation(IAHF),Resuscitation Council of Asia(RCA)の代表が参加している.なお,日本蘇生協議会(Japan Resuscitation Council:JRC)はILCORへの加盟を目指して現在,唯一の正式オブザーバーとして参加している(表1).

 1999年にAHAが第1回ILCOR会議を主催し,それに基づいた共通の蘇生ガイドラインが作られ,2000年に発表された.2000年以降,5年おきに国際コンセンサス会議が行われ,ガイドラインの改訂がなされている.

外傷初期診療ガイドライン

著者: 今明秀

ページ範囲:P.475 - P.478

はじめに

 厚生労働省平成22年人口動態統計月報年計によれば,不慮の事故として集計される外傷死は年間40,583人で,全死亡の3.4%を占める.この数値は10年以上にわたり大きな変動なく,大きな注目を集めているとはいえない.しかし外傷死亡は40歳未満の若年者に多く発生しており,障害調節生存年や損失生存可能年数などの調整係数を用いた検討によれば,悪性新生物や自殺に次ぐ第3位に位置するなど,社会的損失は非常に大きい.一般に外傷死亡は時期により3つに分類される.第1は現場で即死に近いもの,第2は呼吸障害や出血により受傷後2~3時間後に,第3は多臓器不全や敗血症で数日から2~3週後に,それぞれピークがあるとされる.このうち医療介入によって効果が見込めるものは第2のピークであり,外傷においては初期診療の良し悪しが生命予後に直結している.

 このように,外傷初期診療は生命あるいは機能予後に対して決定的な意味をもつ.しかし,実際の診療に求められる意思決定のアルゴリズムや手術などの決定的治療手技はいずれも非常に独特で内科や外科診療とは大きな解離があるため,外傷診療に特化した十分な訓練と経験が欠かせない.このため,限られた熟練者以外でも外傷初期診療の質を一定以上に保つため,初期診療の標準化が世界的に強く推進されている.

がん検診

消化器領域―胃がん検診に関するエビデンス

著者: 斎藤博

ページ範囲:P.480 - P.487

がん検診に役立つ国内外のガイドライン

 がん検診ガイドラインは,わが国では厚生労働省研究班により,科学的根拠に基づいた手法で作成されており,消化器がんについては大腸がん1),胃がん2)についてそれぞれ2005年,2006年に発行されている.海外ではガイドラインとは異なるが,米国国立がん研究所(National Cancer Institute:NCI)の「Physician Data Query®(PDQ®)」で検診法の評価が記述されているほかは,科学的根拠に基づくものはなく,コンセンサスによるレポート等である.

 本稿に課せられた主題は,有効性がまだ確立されていないが一部で議論のある“controversial”な消化器がん検診についてである.実は検診の有効性そのものの判断が分かれて,controversialになることは科学的根拠で判断すればそれほどありがちなことではない.わが国でしばしば「議論」が起こるのは評価のエンドポイントをはじめ,科学的根拠によらない有効性の過大評価/誤認が多くなされていることに主な原因がある.科学的根拠に基づくがん検診ガイドラインの必要性の所以である.

その他の領域

著者: 祖父江友孝

ページ範囲:P.488 - P.492

 本稿では,消化器領域以外のがん検診として,厚生労働省「がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(健康局長通知2010年2月)」(以下,厚労省予防指針)で推奨されているがん検診(肺がん,乳がん,子宮頸がん)と,普及が進んでいると思われる前立腺がんを取り上げる.

皮膚

アトピー性皮膚炎

著者: 山本洋介

ページ範囲:P.494 - P.498

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 アトピー性皮膚炎の診療・治療に関するガイドラインとしては,日本・米国・欧州から学会を中心に作成されたガイドラインが各種発行されている(表1).日本では,2000年に日本皮膚科学会によるアトピー性皮膚炎治療ガイドラインが策定された.その後,2008年には診断基準・重症度分類・治療ガイドラインを包含したアトピー性皮膚炎診療ガイドラインへと発展,2009年に改訂され現在に至る1).また別に,厚生労働省免疫アレルギー疾病予防・治療研究推進事業によるアトピー性皮膚炎診療ガイドラインも存在するが,両者の間で多少の差異はあるものの大きく矛盾する記述はない2)

 なお,米国ではAmerican Academy of Dermatology(AAD)が現在ガイドラインの改訂作業を進めており,2013年度中に発表される見込みである.欧州では,European Academy of Dermatology and Venereology(EADV)などにより,Guidelines for treatment of atopic eczema(atopic dermatitis)として,2012年同学会誌において公表されている.

蕁麻疹

著者: 秀道広

ページ範囲:P.500 - P.505

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 蕁麻疹診療に関するガイドラインとしては,2001年に英国皮膚科学会からの発表(2007年に改訂)を嚆矢とし,各国から表1のような独自のガイドラインが発表されている1).米国からは,2000年にガイドラインの形ではなく,いくつかの臨床的課題についての推奨文と説明(annotations)が発表されている(表1).また,2007年にアジア諸国の皮膚科医によるコンセンサスミーティングの内容をまとめたものが発表されている2)が,その内容は基本的に欧州のガイドラインに準ずる.わが国の内科医には,2007年に厚生労働科学研究班から発表された「プライマリケア版 蕁麻疹・血管性浮腫の治療ガイドライン」3)および2010年に日本アレルギー学会より発表された「アレルギー疾患診断・治療ガイドライン2010」4)に含まれる蕁麻疹の章が,参考になろう.プライマリケア版は,日本皮膚科学会の2005年版のガイドラインをプライマリケア医のために要約したもので,新たな図表とともに,専門医に紹介するタイミングが追記されている.日本アレルギー学会から発表されたガイドラインはこれらの2つのガイドラインの中間的内容である.

褥瘡

著者: 立花隆夫

ページ範囲:P.506 - P.509

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 欧米では,1994年に米国のAHCPR(保険医療政策研究機関)から「Treatment of Pressure Ulcers」,1999年にEPUAP(欧州褥瘡諮問委員会)から「Pressure Ulcer Treatment Guidelines」,また,2003年にWOCN(米国WOC看護師協会)から「Guideline for Prevention and Management of Pressure Ulcers」が公表されている.また,2009年には米国褥瘡諮問委員会(National Pressure Ulcer Advisory Panel:NPUAP)1)ならびにEPUAPから共同のガイドラインが刊行されている2)

 本邦においても,日本褥瘡学会の「褥瘡予防・管理ガイドライン」が2012年に改訂され第3版となっている3).また,日本皮膚科学会も2011年に「褥瘡診療ガイドライン」を公表している4)

疥癬

著者: 和田康夫

ページ範囲:P.511 - P.514

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 疥癬診療に関する国内のガイドラインとして,日本皮膚科学会の疥癬診療ガイドライン(第2版)がある1).一方,海外のガイドラインとして,米国のCenters for Diseases Control and Prevention(CDC)診療ガイドライン,欧州における疥癬診療ガイドラインなどがある.しかし欧州では,国によって疥癬に使用できる薬剤が異なっているため,各国で第一選択薬が異なる.全般的な傾向をいえば,ペルメトリンを第一選択薬としている国が多い(表1).しかし,日本ではペルメトリンは認可されていない.日本で保険適用となっているイベルメクチン錠は,米国では適用外である.このように,海外のガイドラインをそのままわが国の現状にあてはめることはできない.本稿では,日本のガイドラインを中心に解説しながら,海外のガイドラインとの相違点,これに基づく課題や展望について取り上げる.

緩和ケア

がん疼痛

著者: 新城拓也 ,   的場元弘

ページ範囲:P.516 - P.521

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 がん疼痛の診療ガイドラインは,痛みの強さに応じてオピオイドを含む鎮痛薬を使用する,いわゆる3ステップラダーが有名な,WHOが1996年に発表したものが最初である.当時のがん疼痛に対する治療の不備を重大な人類的問題と考えていたWHOは,わずかなエビデンスと世界各国の専門家の合意により,がん疼痛のガイドラインを作成した.このガイドラインは,「Cancer Pain Relief(がん疼痛からの解放)」というタイトルの通り世界中の臨床家に対する強いメッセージを含む一種の宣言となった.

 その後,WHOガイドラインの臨床的な検証や,新たなオピオイドの開発とともに,さまざまな臨床研究が実施され,日本,米国,欧州の学会や団体から新たなガイドラインが発表されている(表1)1~3).特に,日本緩和医療学会1)とEAPC(European Association of Palliative Care)2)から発表されたガイドラインは,エビデンスに基づいた知見を元に専門家で合意された推奨(ステートメント)で構成されている.

がんに伴う嘔気・嘔吐

著者: 沖田憲司 ,   古畑智久 ,   平田公一

ページ範囲:P.522 - P.526

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 がんに伴う嘔気・嘔吐に関するガイドラインは,化学療法や放射線治療などの抗がん治療が原因の症状に対するガイドラインと,抗がん治療に直接起因しない症状に対するガイドラインに大別される.

 抗がん治療が原因の嘔気・嘔吐に対する主なガイドラインは,日本,米国,欧州の学会や,米国のNational Comprehensive Cancer Network(NCCN)などで作成され公開されている(表1)1~6).日本のガイドラインとしては,日本癌治療学会が2010年に公開した「制吐薬適正使用ガイドライン」がある2).推奨内容に関しては,海外のガイドラインと大きな相違はないが,診療アルゴリズムの他に治療のダイアグラムを掲載している点や,レジメンごと催吐リスクを掲載している点など,海外のガイドラインに比べ利便性の高いものとなっている.

苦痛緩和のための鎮静

著者: 森田達也

ページ範囲:P.527 - P.531

内科診療に役立つ国内外のガイドライン

 苦痛緩和のための鎮静(palliative sedation therapy)は,1990年代前半から導入された概念である.ほかの手段で十分に緩和されない苦痛に対して,睡眠薬や麻酔薬の全身投与によって患者の意識を低下させることによって苦痛緩和を得る手段を指す.概念の導入前後では,安楽死(euthanasia)との医学的,倫理的,法的異同について国際的に大きな議論となったが,2000年からは各国で蓄積された実証研究にもとづくガイドラインが整備された.現在,緩和治療の1つのオプションとして位置づけるものが多い.

 複数のガイドラインが提示されている(表1)1~5).いずれも推奨度は設定されておらず,用語や概念の定義,frameworkを明確化するように記載されている.

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