icon fsr

雑誌目次

雑誌文献

medicina50巻12号

2013年11月発行

雑誌目次

『medicina』50周年を迎えて

ページ範囲:P.1919 - P.1919

特集 新時代の肺炎診療

著者: 石田直

ページ範囲:P.1921 - P.1921

 2011年,肺炎は脳血管障害を抜いて,わが国の死亡原因の第3位に浮上した.その死亡者のほとんどは60歳以上の高齢者であり,年齢が上がるにつれ,肺炎の罹患率,死亡率は加速度的に増加している.高齢者が誤嚥性肺炎を反復して発症し,その診療に苦慮することは,臨床医ならば誰しもが経験していることと推定される.1898年にSir William Oslerが述べた,「肺炎は老人の友である」という言葉は,100年以上経過した今日においてもまさしく至言である.このような超高齢社会と高齢者肺炎の増加を背景として,2011年には日本呼吸器学会から,医療・介護関連肺炎(NHCAP)という新しい肺炎のカテゴリーの概念も発表された.

 一方,抗菌薬治療の進歩にもかかわらず,若年者層においてもしばしば重症や劇症型の肺炎が認められ,治療の甲斐なく不幸な転帰をとる例も経験される.各種の細菌学的・遺伝子学的検査法の発達はみられているが,肺炎の原因微生物の判明率はいまだ満足できるものではなく,多くの場合はエンピリックセラピーが行われている.院内肺炎においては各種の薬剤耐性菌が問題となり,新規抗菌薬の開発も以前ほど盛んではない.肺炎は,いまなお臨床医にとって最も重要で困難な疾患の1つである.

特集の理解を深めるための25題

ページ範囲:P.2055 - P.2059

座談会

肺炎診療の現場から

著者: 石田直 ,   髙野義久 ,   高柳昇 ,   伊藤功朗

ページ範囲:P.1922 - P.1932

石田(司会) ご存じのように,わが国では2011年に死因統計で肺炎が第3位になりました.戦後,抗菌薬によりどんどん下がってきた死亡率が1980年代から逆に上がってきており,最近では戦後とほとんど変わらない状態になっています.その理由は肺炎の死亡者数を年齢別にみるとわかりますが(図1)1),60歳以上が98%を占めており,つまり,高齢者人口の急激な増加によるものです.こうした背景から,日本呼吸器学会では市中肺炎と院内肺炎の中間に位置するものとして,医療・介護関連肺炎(nursing and healthcare-associated pneumonia:NHCAP)というカテゴリーを作り,現在それぞれにガイドラインがあります.

 本日は「肺炎診療の現場から」と題し,プライマリケア,市中病院,そして大学病院の立場から,先生方に肺炎診療の現状についてお話しいただこうと思います.

肺炎の疫学

わが国の肺炎の現況と今後

著者: 関雅文 ,   朝野和典

ページ範囲:P.1934 - P.1936

ポイント

◎わが国では,高齢化社会の進展と高度医療の発展を受けて,肺炎へのよりきめ細かい診療が必要となっている.

◎市中肺炎(CAP),院内肺炎(HAP)の他,医療・介護関連肺炎(NHCAP)の概念も提唱され,各々のガイドラインが発刊されている.

◎特に誤嚥性肺炎と耐性菌性肺炎への対応が求められており,介護保険制度や胃ろうの問題も含めて,社会面や倫理面での配慮も必要となってきている.

◎今後は,抗菌薬の適正使用のみならず,ワクチンを中心とした予防と感染制御の考え方がより重要となる.

市中肺炎(CAP)の診療

プライマリケアにおける肺炎の診断―かぜ症候群との鑑別

著者: 松村榮久

ページ範囲:P.1938 - P.1941

ポイント

◎かぜ症候群(急性気道感染症)において肺炎との鑑別を考慮する際には,かぜ症候群の病型,特に非特異的上気道炎型と急性気管支炎型を区別することが重要である.

◎急性気管支炎型では初診時に肺炎の鑑別が重要である.

◎非特異的上気道炎型では初診時に肺炎の鑑別を要することは稀で,経過遷延や軽快していた症状が再増悪した場合に肺炎を疑う.

◎身体所見で呼吸数≧24回/分,経皮的酸素飽和度低下(SpO2≦95%),呼吸音異常のうちいずれか1つがあれば,胸部X線を撮影する.

◎基礎疾患にCOPDなどの慢性呼吸器疾患のある症例では,肺炎から呼吸不全の増悪をきたしやすく,早めの対応を心がける.

外来での市中肺炎の治療

著者: 中浜力

ページ範囲:P.1942 - P.1946

ポイント

◎市中肺炎の外来治療では,従来法に加えてOPATやスイッチ療法といった,新しい治療法が使われ始めている.

◎外来市中肺炎の入院適応には,絶対的,経過的,社会的の3つがある.

◎経過的に入院を判断する場合,高齢者は24~48時間以内に方針を決定する.

◎紹介医は,基礎疾患や過去の検査値などすべての患者情報を病院主治医に申し送ることが大切である.

肺炎診療における喀痰グラム染色

著者: 名倉功二 ,   藤本卓司

ページ範囲:P.1947 - P.1951

ポイント

◎喀痰グラム染色は,各診療ガイドラインでは必ずしも強く推奨はされていないが,起炎菌の推定・治療の効果判定において非常に有用な方法である.

◎診療に活かすことのできる情報を得るために,良質の喀痰を採取することが重要である.

◎グラム染色所見の基本パターンは限られており,習熟することで得られる情報の有用性はさらに高まる.

心不全との鑑別

著者: 大西勝也

ページ範囲:P.1952 - P.1955

ポイント

◎肺炎は心不全の急性増悪因子であり,また心不全があると肺炎を併発しやすい.

◎心不全,肺炎とも間質浮腫が起こりうるため,胸部X線写真では鑑別が困難なことがある.

◎BNPあるいはNT-proBNPの測定が心不全の診断に有用である.

市中肺炎の画像診断

著者: 一色彩子

ページ範囲:P.1958 - P.1967

ポイント

◎市中肺炎の診療における画像診断の役割は,単純X線写真における陰影の存在診断が第一となる.

◎CT診断は合併症や肺炎以外の疾患の鑑別に有効な手段である.

◎起因菌の推定は一般に困難であるが,ある程度絞れる可能性があり,今後に期待される.

◎主治医・画像診断医間のディスカッションは,精査を要する肺炎や類似疾患の早期発見に有用である.

細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別―有用性と今後

著者: 宮下修行

ページ範囲:P.1968 - P.1970

ポイント

◎細菌性肺炎と非定型肺炎を鑑別する大きな目的は,非定型病原体の重要性を認識するとともに,原因菌を絞り込んで治療することを意味している.

◎広域抗菌薬をエンピリック治療の第一選択薬から除外することで,耐性菌出現や蔓延抑止につながる.

◎高齢者や重症例,前抗菌薬投与例では両者の鑑別は困難である.

◎耐性マイコプラズマの出現やニューキノロン系抗菌薬の普及などで,細菌性肺炎と非定型肺炎を鑑別する必要性には疑問がある.

市中肺炎の入院治療

著者: 三木誠

ページ範囲:P.1972 - P.1976

ポイント

◎原因菌や宿主の免疫状態・基礎疾患の違いから,市中肺炎には軽症~重症まで存在し,なかには軽症から一気に急速進行する症例もみられる.

◎入院治療の必要性について初診時に見極める必要があり,これを見誤ると致死的となりうるため,まず重症度判定と急速進行の可能性の評価を行う.

◎初期迅速検査で原因微生物を同定できない場合には,ガイドラインに従ってエンピリック治療を行うと治療成功率が高い.

◎抗菌薬は通常5~14日間使用するが,軽快傾向を認めない場合には,非感染性疾患も含めて鑑別診断を行うことが重要である.

院内肺炎(HAP)の診療

院内肺炎の治療方針

著者: 前田光一

ページ範囲:P.1978 - P.1981

ポイント

◎院内肺炎に対する治療では,耐性菌の危険因子や重症度を考慮して初期抗菌薬を選択する.

◎抗菌薬のde-escalationは,治療開始前に採取した良質な喀痰の分離菌の情報をもとに行う.

◎治療効果を最大化するとともに,耐性菌を抑止するために,抗菌薬は用法・用量に注意して投与する.

薬剤耐性菌による院内肺炎

著者: 水谷哲 ,   寺地つね子

ページ範囲:P.1982 - P.1985

ポイント

◎喀痰培養と同時に採取した血液培養からMRSAを検出すれば,MRSA肺炎と診断できる.

◎MDRP肺炎の治療薬選択にはブレークポイント・チェッカーボードプレートが有用である.

◎海外の治療歴情報は多剤耐性アシネトバクターのリスク評価に重要である.

◎耐性菌による院内肺炎は患者周囲環境が汚染されているため,適切な治療とともに適切な防護具の着用,手指衛生など感染予防対策が不可欠である.

人工呼吸器関連肺炎(VAP)の診断と治療

著者: 志馬伸朗

ページ範囲:P.1986 - P.1990

ポイント

◎人工呼吸器関連肺炎診断のゴールドスタンダードはない.

◎気管支肺胞洗浄液を用いた定量培養は,多くの臨床研究で標準的に用いられており,適切な抗菌治療に寄与する可能性が高い.

◎経験的抗菌薬の適切性が生命予後に影響する.

◎原因菌同定/感受性判明後に標的治療へとde-escalationする.

◎抗菌治療期間は1週間が標準であるが,ブドウ糖非発酵グラム陰性桿菌では,より長い治療期間を考慮する.

医療・介護関連肺炎(NHCAP)の診療

医療・介護関連肺炎(NHCAP)の概念

著者: 今村圭文 ,   河野茂

ページ範囲:P.1992 - P.1996

ポイント

◎医療技術の進歩や超高齢社会の到来により,従来の市中肺炎,院内肺炎という単純な分類では対応が難しい肺炎症例が増加してきた.

◎米国では2005年に医療ケア関連肺炎(HCAP)として市中肺炎と院内肺炎の中間的な肺炎群が提唱された.

◎日本と米国では医療を取り巻く環境は大きく異なっており,日本では特に介護(nursing care)も重要視し,医療・介護関連肺炎(NHCAP)という呼称が提唱された.

◎HCAPと大きく異なる点として,療養病床入院患者を含めること,自宅で寝たきりで介護が必要な患者を含めることが挙げられる.

医療・介護関連肺炎の臨床像

著者: 福山一

ページ範囲:P.1997 - P.1999

ポイント

◎NHCAPの主な臨床像は,在宅や施設で介護を受けている高齢者に発症する誤嚥性肺炎である.

◎NHCAPの一部は,高度医療の結果生じた耐性菌や日和見感染を原因とする肺炎である.

◎NHCAP患者は宿主の状態が悪いため,予後不良となる.

医療・介護関連肺炎(NHCAP)の治療

著者: 橘洋正 ,   石田直

ページ範囲:P.2000 - P.2003

ポイント

◎NHCAPの治療は治療区分という考え方で決める.

◎集中治療の必要性,入院の必要性,耐性菌のリスクなどの評価が重要である.

◎NHCAPは実に多彩な背景をもつ疾患であり,画一的な治療方針にはなじまず,個々の例で総合的に主治医が判断する必要がある.

高齢者施設での肺炎

著者: 丸山貴也

ページ範囲:P.2005 - P.2009

ポイント

◎高齢者施設での肺炎患者の特徴は,高齢に加えて脳血管障害などの基礎疾患を有する頻度が高く,活動性,栄養状態が低下していることである.そのような集団環境で,肺炎の発症率は高くなる.

◎高齢者施設ではインフルエンザ,肺炎球菌の集団感染が報告されている.

◎肺炎発症には誤嚥が関与するため,口腔ケアが肺炎予防に有効である.

◎高齢者施設での肺炎で最も頻度が高い原因微生物は肺炎球菌であり,インフルエンザワクチンと23価肺炎球菌ワクチン(PPV23)の両接種が重要である.

訪問診療を受けている患者の肺炎

著者: 荒井康之 ,   太田秀樹

ページ範囲:P.2010 - P.2013

ポイント

◎入院医療・在宅医療のどちらにするかの選択は,医療者ではなく,患者・家族が行う.

◎医療者は医学的立場から,その意志決定の支援にかかわる.

◎その際に考慮されるのは,医学的病状・予後予測,患者・家族の解釈モデル,介護力などである.

◎在宅療養では,ケアにかかわるスタッフ間の円滑な連携が必須である.

特殊病態・特殊治療

HIV/AIDS患者における肺炎

著者: 柳澤如樹

ページ範囲:P.2014 - P.2017

ポイント

◎HIV/AIDS患者に発病する呼吸器感染症では,ニューモシスチス肺炎,肺結核,細菌性肺炎を念頭に治療を進めていくことが重要である.

◎画像診断は有力であるが,どの画像所見も診断を確定することはできないため,侵襲的な検査を施行することも考慮し,可能な限り原因微生物を同定することが重要である.

◎HIV感染者の胸部異常影には腫瘍性疾患など,感染症以外の原因が存在しうることを常に考慮して,診療に臨む必要がある.

重症肺炎に対するステロイド療法

著者: 山田悠史 ,   藤谷茂樹

ページ範囲:P.2019 - P.2022

ポイント

◎重症肺炎のステロイド投与について統一された見解はない.

◎重症肺炎と急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome:ARDS)とは明らかな区別がつかないことも多く,ARDSの研究が引用されることが多い.

◎敗血症性ショックを合併した症例には有用かもしれない.

◎各国のガイドラインにおいて記載が異なっており,注意が必要である.

重症肺炎に対する血液浄化法の適応と実際

著者: 池田寿昭

ページ範囲:P.2024 - P.2027

ポイント

◎ICUにおける入室理由および死亡原因の最も多いものは敗血症である.

◎イタリアのRCT「EUPHAS trial」では,腹腔内感染症からの重症敗血症・敗血症性ショック症例に対して,PMX-DHPにより平均血圧,inotropic score,vasopressor dependency index,PaO2/FiO2は有意に改善したとしている.

◎腹部緊急手術を要する敗血症性ショックに対しては,PMX-DHPは循環動態および呼吸機能の改善効果が示されているが,予後を改善するかどうかの結論を出すには根拠が不十分である.

重症肺炎に対する体外式膜型人工肺(ECMO)療法

著者: 杉田慎二 ,   小林克也 ,   竹田晋浩

ページ範囲:P.2028 - P.2030

ポイント

◎超重症呼吸不全に対してECMOは適応となる.

◎H1N1インフルエンザはECMOの良い適応である.

◎重症肺炎による敗血症性ショックに対してもECMOは適応となりうる.

◎ECMOを導入する際には,viabilityの有無を十分に検討しなければならない.

◎ECMOによる重症患者管理は専門施設で行われるべきである.

肺炎の予防

肺炎球菌ワクチンの有用性

著者: 川上健司

ページ範囲:P.2032 - P.2034

ポイント

◎PPVは現在93種類とされている肺炎球菌莢膜血清型のうち,23価を含む多価ワクチンで成人に用いる.

◎PPVの肺炎に対する有用性に関して,わが国でのエビデンスが蓄積されてきている.

◎費用負担に対する公費助成制度などの有無による地域格差が生じており,今後は国による地域格差のない公費助成が望ましい状況にある.

◎PPVの接種率が上がることによって,高齢者肺炎の予防につながり,高齢者の医療費を抑制する可能性がある.

誤嚥性肺炎の予防

著者: 寺本信嗣

ページ範囲:P.2036 - P.2040

ポイント

◎誤嚥性肺炎は感染症の側面と老年病の側面をもっている.

◎反復誤嚥の予防は,嚥下機能回復を目指す嚥下リハビテーションやACE阻害薬投与などがある.

◎誤嚥を肺炎にしない対策として,口腔ケア,呼吸リハビリテーション,ワクチン接種がある.

肺炎診療のトピックス 診断におけるトピックス

菌叢解析による肺炎起炎菌の診断

著者: 川波敏則

ページ範囲:P.2042 - P.2047

ポイント

◎培養を中心とした従来法では,肺炎の原因検索に限界があり,それらは培養法にまつわる問題や網羅的な検索ができないことなどが原因と考えられる.

◎網羅的細菌叢解析法は,培養に依存しない遺伝子工学的手法を用いて網羅的に菌種を検出し,その菌種の割合を評価することができる手法である.

◎本法を用いた市中肺炎の原因菌調査では,全例で菌種が推定でき,従来法での原因不明症例は,主に嫌気性菌や口腔細菌による可能性が示唆された.

治療におけるトピックス

重症肺炎におけるマクロライド併用療法

著者: 新里敬 ,   伊志嶺朝彦

ページ範囲:P.2048 - P.2050

ポイント

◎肺炎球菌やレジオネラによる重症市中肺炎は致死率が高く,初期治療の際に留意する.

◎β-ラクタム系とマクロライド系抗菌薬の併用療法は,重症肺炎の致死率を低下させる.

◎マクロライド併用療法はフルオロキノロン併用療法に比較して予後が良好かもしれない.

◎心血管疾患患者や高齢者では,マクロライドによる心血管イベント発生に留意する.

予防におけるトピックス

スタチンの肺炎予防効果

著者: 岩田敦子 ,   門田淳一

ページ範囲:P.2052 - P.2054

ポイント

◎スタチンは脂質異常症の治療薬であり,抗炎症作用など多面的作用を有している.

◎スタチン使用による肺炎の重症化抑制,予防効果が報告されている.

◎スタチンはIL-6やIL-8などの炎症性サイトカインの産生を抑制する.

◎上記から,スタチンは肺の過剰炎症を抑制することで肺炎の死亡率を減していることが示唆される.

連載 顔を見て気づく内科疾患・11

顎下腺腫脹:Mikulicz病

著者: 石丸裕康

ページ範囲:P.1913 - P.1913

症 例:70歳台女性

病 歴:1カ月ほど前から特に誘因はないが,両側の顎下部の腫脹をきたすようになったため,当院を受診した.

実は日本生まれの発見・11

スタチン

著者: 伊藤公美恵 ,   多田紀夫

ページ範囲:P.1915 - P.1915

 HMG-CoA(3-hydroxy-3-methylglutaryl-CoA)還元酵素阻害薬(スタチン)の開発により脂質異常症の薬物治療は革命的な進歩を遂げた.臨床現場において今や世界中でfirst choiceとして認められている薬である.

 生体内でのコレステロール生合成はアセチルCo-Aからいくつかの段階を経て行われており,その律速段階はHMG-CoAからメバロン酸へのHMG-CoA還元酵素による還元反応である.スタチンはこの酵素を阻害することによりコレステロールを低下させる薬である.世界で初めてこのタイプの薬の基礎となる物質を青カビ(penicillium citriunum)から発見したのが遠藤章博士(バイオファーム研究所所長)である.1960年代にはコレスチラミン,ニコチン酸誘導体,フィブラート系薬剤はすでに使用されていたが有効性・安全性の面からエビデンスが確保されたコレステロール低下薬はまだなかった.博士は当時,三共株式会社で研究を行い,1973年にML-236B(コンパクチン)を発見し,1976年に学術誌に発表した(FEBS Lett 72:323, 1976, J Antibit 29:1346, 1976).

皮膚科×アレルギー膠原病科合同カンファレンス・20

高安病に伴った有痛性紅斑

著者: 岡田正人 ,   衛藤光

ページ範囲:P.2060 - P.2064

後期研修医(アレルギー膠原病科) 今回は高安病の28歳女性です.当院初診は2年前ですが,発症は15年前です.紹介状のデータでは,受診前数年間はプレドニゾロン10mgとアザチオプリン50mgを処方されていましたが,CRPは1~2mg/dLを推移していました.両上肢を下にした体位でMRAを撮影していますが,高安病に特徴的な大動脈分枝の狭窄と副側路の発達が認められます(図1).大動脈炎では,CRPと実際の血管炎の活動性の相関は乏しいことも多いとされています.

アレルギー膠原病科医 確かにその通りで,特にCRPが陰性でも画像的に進行がみられてしまうこともありますので注意が必要です.逆に,CRPを陰性にしようと無理に必要以上のステロイドを継続することは副作用の原因となります.しかし,経験上は短期間の寛解導入のステロイドで炎症反応を陰性化させてから維持にもっていけば,それほど問題になることはありません.理論的にも長期のCRP上昇はアミロイドーシスなどの懸念もありますので,安易に放置することは避けています.この患者も一時的なステロイドの増量でCRPを陰性化させたのち,アザチオプリンで維持していました.血管炎の活動性は臨床症状,血液検査,画像から鎮静化していたと考えられます.

神経診察の思考プロセス 一般内科外来のカルテから・8

急な右腕の麻痺脳卒中?

著者: 大生定義

ページ範囲:P.2065 - P.2068

症例:桃井直樹(仮名)63歳男性,右利き

職場健診で数年前から血糖高めを指摘されていたが,放置していた.会社では営業部長をしており,酒は週に1,2度しか口にしないが飲むと深酒をしてしまう傾向がある.タバコは20本/日×40年吸っていたが,2年前からやめていた.高血圧やコレステロール高値は指摘されたことはない.

Step up腹痛診察・3

48歳男性,心窩部痛

著者: 小林健二

ページ範囲:P.2070 - P.2073

[現病歴]来院1週間前から心窩部痛を自覚するようになった.痛みの始まりは緩徐であったが,食後に増悪することがあった.痛みの性状は鈍痛で持続は2~3時間,痛みの程度はNumeric Rating Scale(NRS)で5/10であった.嘔気,嘔吐,放散痛,食欲低下,体重減少,黒色便はなかった.痛みは労作とは関係ない.心窩部痛の程度が徐々に増悪するため来院した.今までに上部消化管内視鏡検査を受けたことはないが,胃癌検診の胃X線造影検査で異常を指摘されたことはない.

[既往歴]花粉症

[常用薬]フェキソフェナジン(アレグラ®

[薬剤アレルギー]なし

[社会歴]飲酒:ビール350mL/回,週3回.喫煙:20本/日×28年間.

睡眠時無呼吸症診療の最前線・5

呼吸器疾患とNPPV

著者: 成井浩司 ,   葛西隆敏 ,   富田康弘 ,   徳永豊 ,   津田緩子 ,   山越志保 ,   百村伸一 ,   髙谷久史 ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.2074 - P.2076

 世界の慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)患者の人口は8,000万人を超えると推計されており,また,ステージ3~4のCOPD患者の20%が退院後30日以内に再入院するという現実もあり,医療政策の観点からも対応が求められる重要な疾患であると考えられている.今後,COPD患者の増加も想定されており,治療のみならず予防・診断の発展が期待されている分野である.本テーマにおいて,豪州の医師,Dr. Glenn Richardsの発表を踏まえて意見交換を行った.

 Dr. Richardsからは,特にCOPD患者には睡眠障害が高頻度で生じるにもかかわらず,臨床の場面であまり関心がもたれていないことなどから,睡眠呼吸障害に対する検討とその対応について報告された.報告の内容は,以下のごとくである.

目でみるトレーニング

著者: 中村彰宏 ,   石田素子 ,   森茂生 ,   中村造

ページ範囲:P.2078 - P.2083

REVIEW & PREVIEW

睡眠障害と生活習慣病

著者: 橋爪祐二

ページ範囲:P.2084 - P.2087

最近の動向

 わが国における肥満,メタボリック症候群(metabolic syndrome:Met S),高血圧,糖尿病,睡眠時無呼吸症などの生活習慣病は年々増加の一途をたどっている.また,睡眠時間も小児から成人まで減少し続けている.本稿では,睡眠と生活習慣病との関連性について述べる.

 厚生労働省は,中年男性の半数にMet Sの発生を見込んでおり,約2,000万人がMet Sの予備軍に該当すると考えられている.睡眠と肥満の関係については数多く報告が存在し,後述するように睡眠時間の減少が肥満の一要因であると言われているが,逆に肥満やMet Sも睡眠に影響を及ぼす.また,肥満とMet Sは閉塞性睡眠時無呼吸症(obstructive sleep apnea syndrome:OSAS)の最も重要な危険因子である.

書評

―Fernandez HH, 他 原著 服部信孝 監訳 大山彦光,他 訳―運動障害診療マニュアル―不随意運動のみかた

著者: 村田美穂

ページ範囲:P.1957 - P.1957

 「運動障害」って何だろう,と思われる方も少なくないかもしれない.「不随意運動」と聞くと,ああ,震えたり勝手に体が動くことね,でもいろいろあって何がミオクローヌスだか振戦だかよくわからないなあ,というのが多くの方の思いではないだろうか.

 ここにご紹介するのは米国フロリダ大学運動障害疾患センターのdirectorの1人で米国パーキンソン財団のNational Medical DoctorでもあるOkun博士らが,その豊富な経験をもとに「ポケットタイプでありながら,すべての運動障害疾患の症候をベースとした臨床家の頼りになるハンドブック」を書かれたものである.運動障害疾患関連の書籍はわが国でも散見されるが,いずれも専門家向けで手軽に手にとれるものはほとんどない.本書の原著は2007年に出版され,世界中で愛読されているが,今回わが国のパーキンソン病診療および研究の第一人者である順天堂大学脳神経内科・服部信孝教授の監訳により,Okun博士のもとで薫陶を受けた大山彦光先生らが訳された.この名著の日本語版が出版されたことは本当にうれしいことである.

―中村好一 著―基礎から学ぶ 楽しい学会発表・論文執筆

著者: 若林チヒロ

ページ範囲:P.2023 - P.2023

 疫学研究の方法を解説した,「楽しい研究」シリーズ第一弾『基礎から学ぶ楽しい疫学』は,「黄色い本」として辞書代わりに活用している人も多い.第二弾として今回出版された「青い本」では,研究の発表方法を一から学べるようになっており,やはり長く使い続けることになるであろう.疫学や公衆衛生学をリードしてきた研究者であり,医学生や保健医療者の研究指導をしてきた教育者でもある著者が,長年蓄積してきた学会発表や論文執筆の方法を惜しげもなく伝授してくれている.さらに,学術誌の編集委員長を務めてきた経験から,査読者の視点や意識まで解説してくれている.2年間に及ぶ連載をまとめただけあって,ノウハウが詰まった濃い一冊である.

 この本はコメディカルや大学院生など研究の初学者向けに執筆した,と著者は書いている.発表する学会の選び方や抄録の書き方,口演での話し方からポスター用紙の種類まで,至れり尽くせりで効果的な学会発表のノウハウが示されており,確かに初学者が「基礎から」学べるようになっている.しかしこの本は,キャリアのある臨床家や研究者が,よりインパクトのある発表をしたり,より採択されやすい論文を執筆したりするためにも,十分に適している.「基礎から,かなり高度なレベルまで」学べるようになっているのである.

―『medicina』編集委員会 監修 岡崎仁昭 責任編集―目でみるトレーニング 第2集―内科系専門医受験のための臨床実地問題

著者: 奈良信雄

ページ範囲:P.2035 - P.2035

 「試験が学習をプロモートする」のは,古今東西問わず,真実である.

 もちろん試験には,合否を問う総括的評価としての性質が大きい.が,学習によって獲得した知識を整理し,足りないところを補う形成的評価としての意義もある.医師国家試験,専門医試験はいずれも合否を決定する試験ではある.しかし,それらを目指して学習することは,決して受験生に無益なものではなく,ステップアップに有用な手段にもなりうる.

information

『JIM』presents 公開収録シリーズ“ジェネラリスト道場”開催のお知らせ

ページ範囲:P.1946 - P.1946

医学書院『JIM』編集室では,今年も第一線で活躍中のジェネラリストをお招きし,“ジェネラリスト道場”と題する『JIM』presents公開収録シリーズ(全4回)を開催します.皆さま奮ってご参加ください.

「ERアップデートin東京ベイ2014」開催のご案内

ページ範囲:P.1981 - P.1981

「明日から使える!」を合言葉に,最強の講師陣によって「救命救急の最前線」から「つい見逃してしまう重要なポイント」「患者さんとのコミュニケーション」さらには「魅力的なプレゼンの仕方」まで,これまでにも多くの魅力あふれる講義とワークショップの数々が繰り広げられてきた「ERアップデート」.2014年の冬も,東京ディズニーリゾートのオフィシャルホテルを舞台に「日常の研修では学ぶことのできない」知識と技術の数々をお伝えします! 全国から集結する,熱い志をもつ研修医の先生方とともに,勉強と遊びに充実した2日間を過ごしてみませんか? ぜひ,ご参加ください!

日程●2014年2月1日(土)~2日(日)

会場●サンルートプラザ東京

2014年度日本製薬医学会年次大会開催のご案内

ページ範囲:P.2059 - P.2059

期日●2014年7月4日(金)午後~7月5日(土)

会場●東京大学 山上会館

--------------------

バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.2094 - P.2095

購読申し込み書

ページ範囲:P.2096 - P.2096

次号予告

ページ範囲:P.2097 - P.2097

奥付

ページ範囲:P.2098 - P.2098

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

雑誌購入ページに移動

バックナンバー

60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

icon up
あなたは医療従事者ですか?