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雑誌目次

雑誌文献

medicina50巻13号

2013年12月発行

雑誌目次

『medicina』50周年を迎えて

ページ範囲:P.2105 - P.2105

特集 不整脈の診断と治療―ポイントをおさえよう

著者: 山下武志

ページ範囲:P.2107 - P.2107

 不整脈は,循環器内科の外来診療で多くの割合を占める疾患です.かつて,その診断や治療に心臓電気生理学的な知識が必須と考えられていた時代がありました.そして,そのことによって不整脈診療が敬遠されがちになったことは否めませんが,数々の大規模臨床試験により不整脈診療の方向性はずいぶん見やすくなったと思います.それは「心電図から診断し」,「電気生理学的な解釈をして」,「心電図を正常化する」というかつての王道とされた方法から,「心電図から診断し」,心電図から離れて疫学的な情報を基本に「患者の生命予後とQOLを向上する」という新しい診療タイプへの変換です.社会の高齢化が進む今,不整脈の罹患人口が増加し,すべての内科医が不整脈診療に多かれ少なかれかかわらざるを得ません.そして,この診療タイプの変換は,そのような意味においても時代の要請に答えたものと言えるでしょう.

 そのうえで,不整脈診療を最短で会得するためのポイントがいくつか挙げられると思います.

特集の理解を深めるための28題

ページ範囲:P.2253 - P.2257

座談会

一般内科医・研修医に知ってもらいたい不整脈のエッセンス

著者: 山下武志 ,   志賀剛 ,   山根禎一

ページ範囲:P.2108 - P.2118

山下(司会) 不整脈は多数の種類があり,それぞれに多くのエビデンスや技術の進歩があるため,一般内科医や研修医の先生方は,不整脈治療のコアがどこにあるのかわかりづらくなっていると思います.

 それぞれの不整脈の知識については本特集の各論文に記載されていますので,ここでは,一般内科医の先生方が特に困る,健康診断で発見された不整脈をどうすべきかについてお話しいただきたいと思います.テーマとして,心房細動,心室期外収縮と非持続性心室頻拍,Brugada型心電図とBrugada症候群を取り上げます.

不整脈の実態

健康診断で見つかる不整脈

著者: 増田慶太 ,   西裕太郎

ページ範囲:P.2120 - P.2123

ポイント

◎無症状の心房期外収縮と心室期外収縮は,原則として治療しない.

◎心房細動は脳梗塞のリスクをまず評価し,年齢・症状・基礎心疾患に応じて治療を検討する.

◎Brugada型心電図はType 1で診断的意味があり,失神の既往や家族歴がなければ経過観察でもよい.

不整脈の症状

著者: 川村祐一郎

ページ範囲:P.2124 - P.2126

ポイント

◎不整脈の症状は,大別すると①動悸,②脈拍の欠損,③脳循環不全症状の3つである.

◎まったく無症状な不整脈もある一方,不整脈に類似した症状を呈する不整脈以外の疾患もある.

◎不整脈の確定診断は各種心電図検査による.

不整脈の疫学

著者: 髙橋尚彦

ページ範囲:P.2128 - P.2130

ポイント

◎心房細動の罹患率は加齢とともに上昇し,その年齢層においても男性に多い.有病率は男女ともに70歳台で最も高く,全国での罹患患者数は,100~200万人程度と推定される.

◎心房細動の新規発症も加齢とともに増加し,70歳台の男性で7~8/1,000人と推定される.

◎心房細動発症の本邦における危険因子として,弁膜症,年齢,虚血性心疾患が挙げられているが,欧米の知見を加味すると,高血圧や糖尿病も危険因子として認識する必要がある.

◎心原性脳塞栓症の危険因子としてCHADS2スコアが普及しており,本邦における有用性も現在解析中である.

不整脈の診断

症状時の心電図をどのようにして記録するか?

著者: 笠巻祐二 ,   橋本賢一 ,   相馬正義

ページ範囲:P.2131 - P.2135

ポイント

◎症状出現時の心電図を記録するものがイベント心電図である.

◎イベントレコーダーは,症状が不整脈によるものか否かを診断するのに有用である.

◎イベントレコーダーは,不整脈の検出を考えるなら,1つの誘導で十分である.

12誘導心電図による不整脈診断のこつ

著者: 安喰恒輔

ページ範囲:P.2136 - P.2140

ポイント

◎不整脈の診断では,P波を正確に認識することが重要である.

◎P波はしばしばQRS波やT波と重なっている.

◎QRS波形やT波形のわずかな変化がP波の手がかりとなる.

Holter心電図の適応・判断のポイント

著者: 水牧功一

ページ範囲:P.2142 - P.2145

ポイント

◎Holter心電図は,安静時心電図で記録されにくい一過性の不整脈や虚血発作の診断に有用である.

◎高分解能Holter心電図では,心室遅延電位やT wave alternansなど,心疾患の予後の予測指標の解析が可能である.

◎瞬時心拍数トレンドグラムは不整脈の発見に有用であるが,詳細な診断には拡大波形での確認が必要である.

運動負荷検査の適応と解釈

著者: 長嶋淳三 ,   松本直樹

ページ範囲:P.2146 - P.2149

ポイント

◎不整脈の特性診断のため早期に一度は実施したい.

◎再現性に問題があることを理解して解釈する.

◎12誘導心電図,心エコーとともに総合的に判断する.特別な状況でのみ発生するならHolter心電図を併用する.

◎安全性や負荷量の定量性など,検査の特徴を理解し,目的に合った方法を選ぶ.

◎不整脈が発生しやすい心拍数範囲を知る.

心室レートポテンシャル・T波オルタナンス検査の適応と判読ポイント

著者: 池田隆徳

ページ範囲:P.2150 - P.2153

ポイント

◎重症心室不整脈や心臓突然死の予知において2つの指標が保険償還の対象となった.

◎心室レートポテンシャルは心室の脱分極異常(伝導遅延)を反映する指標である.

◎T波オルタナンスは心室の再分極異常を反映する指標である.

失神患者で行うべき問診と検査

著者: 河野律子 ,   安部治彦

ページ範囲:P.2154 - P.2157

ポイント

◎失神の原因疾患を理解し,それぞれの臨床的特徴を捉えた問診を行う.

◎心原性失神か否かは,早急に鑑別すべきである.

◎失神の多くは問診が診断への大きな手がかりとなり,不必要な検査は避けるべきである.

Brugada症候群で行うべき問診と検査

著者: 上野亮 ,   小林義典

ページ範囲:P.2158 - P.2164

ポイント

◎Brugada症候群を疑った場合,異なった状況や,1または2肋間上などで,複数回心電図を記録してみることが重要である.

◎問診では失神の既往の有無が重要なポイントであるが,ほかの原因による失神(脳血管疾患や神経調節性失神など)をできる限り除外しなければならない.

◎電気生理学的検査による心室細動の誘発は,診断および植込み型除細動器適応の重要な判断要素であるが,その誘発プロトコールやほかの検査結果も加味して,総合的に診断する必要がある.

QT延長・短縮症候群で行うべき問診と検査

著者: 清水渉

ページ範囲:P.2166 - P.2169

ポイント

◎先天性QT延長症候群は,Schwartzスコアが3.5以上,またはQTc時間が500ms以上の場合に診断される.

◎先天性QT延長症候群で頻度の多いLQT1,2,3では,遺伝子型特異的治療,生活指導が実践されている.

◎QT短縮症候群は,QTc時間が330ms以下,または遺伝子変異,家族歴,VT/VFのいずれかを認める場合にはQTc時間が360ms未満でも診断される.

不整脈の治療 【まずはここから】

不整脈治療の基本的考え方:予後とQOL

著者: 井上博

ページ範囲:P.2170 - P.2172

ポイント

◎不整脈は自覚症状や心ポンプ機能障害によりQOLを損ね,一部のものは生命予後に影響する.

◎QOL改善は不整脈治療の目標として妥当である.

◎抗不整脈薬により心房細動や心室期外収縮を抑制しても,生命予後が改善するとは限らない.

抗不整脈薬より重要な薬物(1)―心不全におけるβ遮断薬・RAS抑制薬と不整脈

著者: 祖父江嘉洋 ,   渡邉英一

ページ範囲:P.2174 - P.2177

ポイント

◎心筋の構造的リモデリングや電気的リモデリングの進んだ心不全では,抗不整脈薬による副作用が生じやすい.

◎心不全標準治療薬であるβ遮断薬やRAS抑制薬は,リモデリングの抑制により抗不整脈効果を発揮する.

抗不整脈薬より重要な薬物(2)―心房細動における抗凝固薬の使い方

著者: 奥山裕司

ページ範囲:P.2178 - P.2182

ポイント

◎ワルファリン治療では細かく処方量の調整を行い,高いTTRを目指す.

◎新規抗凝固薬は適正な用量を使用する.不適切な低用量では心原性塞栓予防効果は期待できない.

◎新規抗凝固薬はそれぞれ特徴があり,心原性塞栓予防効果も一様ではないと推定されるため,適切に使い分ける.

抗不整脈薬の分類・使い方―何種類の薬を覚えればよいか

著者: 井原健介 ,   平尾見三

ページ範囲:P.2184 - P.2188

ポイント

◎抗不整脈薬の分類にはVaughan Williams分類とSicilian Gambitがある.

◎個々の抗不整脈薬の有効性だけでなく,催不整脈作用,心抑制作用,排泄経路を理解する.

◎抗不整脈薬による治療が困難・無効な時などは,漫然と治療を継続せず専門医に紹介する.

【患者を前に】

頻脈発作の患者が来院したら…

著者: 大塚崇之

ページ範囲:P.2190 - P.2193

ポイント

◎頻拍出現時は可能な限り12誘導心電図を記録して,機序を推察することが重要.

◎wide QRS頻拍をみた場合は,上室性頻拍と心室頻拍の鑑別を行うこと.

心房細動に対する治療―薬物によるリズムコントロールとレートコントロールの実際

著者: 庭野慎一

ページ範囲:P.2194 - P.2196

ポイント

◎リズムコントロールは,抗凝固療法などの優先すべき治療を行ったうえで実施する.

◎症候の軽減にはレートコントロールが有用である.

◎リズムコントロールには,Ⅰ群(Ⅰa群,Ⅰc群)ないしⅢ群抗不整脈薬が選択できる.

心房細動に対するカテーテルアブレーションの適応と実際

著者: 桑原大志

ページ範囲:P.2198 - P.2202

ポイント

◎カテーテルアブレーション治療は,薬剤抵抗性発作性心房細動に対してClassⅠの適応がある.

◎心房細動起源の多くは肺静脈内に存在し,肺静脈隔離術がアブレーション治療の基本手技である.

◎アブレーションの致死的合併症は約0.1%発症し,脳梗塞,心タンポナーデ,心房食道瘻などである.

心房粗動に対する治療

著者: 富田威

ページ範囲:P.2204 - P.2207

ポイント

◎心房粗動は心房細動と同様に,心原性脳塞栓症・全身塞栓症の原因となるため,抗凝固療法が必要となる.

◎通常型の心房粗動は右房峡部に対するカテーテル心筋焼灼術が有効である.

◎伝導比の高い心房粗動は鋸歯状波がR波やT波に重なり不明瞭になるため,徐拍化させ形状を確かめる.

◎心房細動に対してⅠc群(ピルジカイニド,フレカイニドなど)使用中に,動悸症状の増悪や頻脈がみられた場合は,心房粗動に変化している可能性があり,12誘導心電図で確認する必要がある.

◎2:1あるいは1:1伝導の心房粗動は血行動態破綻をきたす可能性があり,緊急処置が必要である.

上室頻拍の治療法

著者: 速水紀幸

ページ範囲:P.2208 - P.2210

ポイント

◎発作停止にはATP・ベラパミルがよく使われる.

◎発作予防はカテーテルアブレーションが第一選択である.

◎顕性WPW症候群患者の発作予防には,Ⅰ群抗不整脈薬を使用する.

非持続性心室頻拍の治療適応と実際

著者: 清水昭彦

ページ範囲:P.2212 - P.2215

ポイント

◎正常心機能患者は,無症状であれば非持続性心室頻拍は経過観察で良い.

◎低心機能患者で,アミオダロンをICD/CRT-Dの代用にすることは勧められない.

◎低心機能患者は,無症状でも突然死予防にICD/CRT-Dを考慮する必要がある.

基礎心疾患のない持続性心室頻拍の治療法

著者: 野上昭彦

ページ範囲:P.2216 - P.2220

ポイント

◎特発性VTは,その機序・波形・起源・アブレーション成功部位によってサブタイプに分類できる.それぞれの特徴を理解することが,正しい診断と治療への近道である.

◎特発性VTに対するカテーテルアブレーションの成功率は高いことから,積極的な実施が推奨される.

ICDの適応と植込みの実際

著者: 嵯峨亜希子 ,   今井靖

ページ範囲:P.2222 - P.2226

ポイント

◎植込み型除細動器の適応は,致死性心室性不整脈の再発予防(二次予防)とハイリスク症例に対する予防的適応(一次予防)に分けられる.

◎植込み型除細動器の適応が考えられる症例は速やかに専門医へ紹介する.

◎日本循環器学会が示すガイドラインを参照し,患者の臨床的,社会的背景も考慮し最終的な判断を行う.

心室頻拍・細動頻発時の対応

著者: 栗田隆志

ページ範囲:P.2228 - P.2233

ポイント

◎Electrical stormに遭遇した場合はその原因(原疾患)を可能な限り特定する.

◎基礎心疾患に起因するものであれば深い鎮静,交感神経抑制,Ⅲ群薬(アミオダロンまたはニフェカラント)の静注を試みる.

◎虚血,心不全,電解質異常など修飾因子となりうる要因も是正する.

◎通常の方法で改善しない場合はBrugada症候群やQT延長症候群など,特殊な原因が潜んでいないかを検討する.

◎抗不整脈薬による催不整脈作用(過剰なQRS拡大またはQT延長)を常に念頭に置いて対応する.

洞不全症候群・房室ブロックに対するペースメーカーの適応

著者: 石川利之

ページ範囲:P.2234 - P.2238

ポイント

◎ペースメーカーの適応を決めるうえで最も重要なことは,自覚症状および心不全の改善と失神による転倒,骨折などの事故の予防である.

◎房室ブロックに自覚症状を伴う場合は,ブロックのタイプにかかわらずペースメーカーの植込み適応となる.

◎恒久的3度房室ブロック,覚醒時の高度房室ブロックおよび3秒以上の心停止,MobitzⅡ型2度房室ブロックは自覚症状の有無やブロック部位にかかわらずペースメーカーの植込み適応となる.

◎洞不全症候群の生命予後は比較的良好とされており,ペースメーカー植込みの適応は徐脈に基づく自覚症状による.

不整脈診療のTips

抗不整脈薬による催不整脈作用

著者: 網野真理 ,   吉岡公一郎

ページ範囲:P.2240 - P.2244

ポイント

◎催不整脈作用とは,抗不整脈薬投与により現在の不整脈が悪化したり,本来は認められなかった不整脈が新たに出現することを意味する.

◎最も重篤な催不整脈作用は,Kチャネル遮断作用による過度なQT延長をきたした場合のtorsades de pointes(Tdp)である.

◎低心機能患者や高齢者においては初期投与量の減量を検討する.肝機能あるいは腎機能障害を有する場合は,薬物代謝および排泄経路を考慮して薬剤を選択する.

不整脈患者に対する生活指導

著者: 鈴木信也

ページ範囲:P.2246 - P.2249

ポイント

◎器質的心疾患を有さない期外収縮に対しては,疲労,ストレス,喫煙,飲酒,カフェイン飲料などの生活習慣改善を考慮する.

◎頻脈性・徐脈性不整脈に対して許容される作業・運動強度は,運動負荷試験の結果をもとに検討する.

老化・炎症と不整脈

著者: 岩崎雄樹

ページ範囲:P.2250 - P.2252

ポイント

◎不整脈領域においても動脈硬化の研究と同様に炎症との関連が示唆されてきている.

◎心房細動の不整脈基質に対する薬物治療は臨床研究で有益性が示されておらず,詳細な機序の解明が重要となる.

連載 顔を見て気づく内科疾患・12

顔面に広がる水疱―カポジ水痘様発疹症

著者: 石丸裕康

ページ範囲:P.2099 - P.2099

患 者:20代男性

病 歴:数日前より顔面に皮疹がみられるようになった.増悪傾向があり,救急外来を受診した.

実は日本生まれの発見・12

アディポネクチン―内臓脂肪症候群のキー分子

著者: 船橋徹

ページ範囲:P.2101 - P.2101

 アディポネクチンは脂肪細胞から分泌され,ヒト血中に5~30μg/mLという高濃度で存在する血漿蛋白である.抗動脈硬化,抗糖尿病,抗炎症作用を有し,脂肪細胞由来分子でありながら,肥満,特に内臓脂肪蓄積時にその血中濃度が低下しており,内臓脂肪症候群,メタボリックシンドロームの分子基盤の一つとして重要と考えられる.

 1980年代,当教室(当時の大阪大学第二内科)ではCTスキャンを用いた体脂肪分布を分析することにより,肥満度が軽度であっても腸間膜や大網周囲の内臓脂肪が過剰に蓄積すると,糖代謝・脂質代謝・血圧の異常を合併しやすくなることを解明し,このような動脈硬化易発症状態を内臓脂肪症候群と名付けた.

目でみるトレーニング

著者: 藤田映輝 ,   渡邊梨里 ,   板本智恵子

ページ範囲:P.2260 - P.2265

神経診察の思考プロセス 一般内科外来のカルテから・9

記憶障害の2例

著者: 大生定義

ページ範囲:P.2266 - P.2269

症例1 奥田やよい(仮名)58歳女性 右利き

娘とともに受診.受診の3時間ほど前,友人と長電話をしていた.途中で言い合いになったようで,声が大きくなった.たまたま,訪問中の娘がそばにいったところ,電話で「なぜ電話をくれた」と同じ質問を繰り返すのが聞こえた.いつもとは違う様子に娘は電話を切らせて,患者に話しかけてみたところ,患者は「なんであなたがここにいるの」と質問してきた.娘は「お菓子を届けにきたんでしょう」と答えるも,いったん納得したが,すぐに同じ質問をしてくる状態が続いている.ボケの始まりかと相談にきた.

問診票の診察前の血圧138/85mmHg,脈拍78回/分 整,体温35.8℃

Step up腹痛診察・4

38歳男性,右下腹部痛,発熱

著者: 小林健二

ページ範囲:P.2270 - P.2273

[現病歴]来院1カ月前に39℃の発熱と右下腹部痛があった.近医を受診し急性腸炎の診断で解熱剤と整腸剤の処方を受けた.2日後に解熱したものの,37℃台の微熱と右下腹部痛が持続した.腹痛の性状は鈍痛で,食事による増悪はなかった.痛みの程度はNumeric Rating Scale(NRS)で4/10であった.嘔気,嘔吐,下痢,上気道症状はなかった.排便は1日1~2回で軟便であったが,腹痛が出現する前と比べて著変はない.食欲は徐々に低下し,腹痛と微熱も改善しないため外来受診となった.最近1カ月で体重は1.5kg減少した.発症前に生ものや加熱不十分な魚,肉類の摂取はない.最近の海外渡航歴もない.

[既往歴]なし

[常用薬]なし

[薬剤アレルギー]なし

[社会歴]喫煙:5本/日,18年間.飲酒:ワイン グラス1杯/日,週2回

[家族歴]なし

依頼理由別に考える心臓超音波検査とりあえずエコーの一歩先へ・8

依頼理由{その7}胸痛~「狭心症疑い,心機能評価お願いします」の矛盾~

著者: 鶴田ひかる ,   香坂俊

ページ範囲:P.2274 - P.2280

 虚血性心疾患(狭心症や心筋梗塞)といえば心不全とならんで循環器内科の代名詞ともいえる疾患です.実際に心エコー室でも「胸痛精査」という依頼理由は本当によく見かけます.

 この胸痛の診断では,なんといっても最初のアナムネ聴取が最も大事で,発症の様式,胸痛の性状,持続時間と増悪因子,随伴症状を聞き出すことによってふるい分けを行います.ここまでは『medicina』読者の方なら大丈夫ですよね? 次いで心電図所見と胸部X線所見より,鑑別を進めていくのがセオリーです.ここまでが患者さん側から取得してくる情報ということになります.

皮膚科×アレルギー膠原病科合同カンファレンス・21

6年ぶりの脳梗塞

著者: 岡田正人 ,   衛藤光

ページ範囲:P.2281 - P.2285

後期研修医(アレルギー膠原病科) 今回は6年前に脳梗塞にて他院で入院中に抗核抗体1,280倍,抗ds-DNA 38IU/mL,リンパ球低下から,全身性エリテマトーデス(SLE)と診断され当科紹介となった45歳女性です.退院時にはアスピリンが処方されており,初診時に下腿にlivedo(皮斑)がありました.若年性脳梗塞であり抗リン脂質抗体症候群(APS)も疑われましたが,抗リン脂質抗体は検出されませんでした.血栓を疑わせるような皮膚所見がないかも含めて皮膚科にコンサルトさせていただきました.ちなみにMPO-ANCAも陽性でしたが,腎障害や血管炎を示唆する所見はありませんでした.

後期研修医(皮膚科) 初診時の臨床像(図1)ですが,頬部の紅斑と下肢の網状皮斑(livedo reticularis)を認めます.頬部の紅斑は境界不明で色調は淡いですが,鼻根部を中心に左右の頬部に分布しておりSLEに特徴的な蝶形紅斑を考えました.下肢の紅斑は外踝から外側縁にかけて分布しており,網の目が閉じた網状皮斑が主体でした.臨床像から末梢循環障害が示唆されましたが,血栓や血管障害など器質的変化が背景にある可能性も否定はできません.抗リン脂質抗体はループスアンチコアグラント,抗β 2 glycoprotein Ⅰ(GPI)依存性カルジオリピン抗体,抗カルジオリピン抗体すべて陰性だったのでしょうか.

睡眠時無呼吸症診療の最前線・6

SAS診療システムとCPAP治療最前線

著者: 成井浩司 ,   葛西隆敏 ,   富田康弘 ,   徳永豊 ,   津田緩子 ,   山越志保 ,   百村伸一 ,   髙谷久史 ,   ,   ,   ,  

ページ範囲:P.2286 - P.2288

 「睡眠時無呼吸症診療の最前線」と題して,現在注目されているトピックについて解説を交えながらJapan-AU-meetingの討論内容を報告してきた.睡眠時無呼吸症(SAS)の病態理解が進むにつれ,いびきや日中傾眠といった睡眠障害の1つとしてだけではなく,循環器疾患や生活習慣病の重要なリスクファクターとして認識されるようになってきている.また,さまざまな知見が集積されるにつれて,多彩な病態とさまざまな合併症をもったケースの存在が明らかとなり,一元的な診療アプローチでは管理が困難であることもわかってきた.質の高い疾患予防,治療を行っていくためには,エビデンスの集積が求められるだけでなく,医療機器の特性や医療システムについての理解も欠かせない.

 最終回である第6回では,日米におけるSAS診療システムとcontinuous positive airway pressure(CPAP)治療の最前線について概説する.

REVIEW & PREVIEW

IgG4関連疾患

著者: 浜野英明

ページ範囲:P.2289 - P.2291

最近の動向

IgG4関連疾患とは

 2011年,「IgG4関連疾患包括診断基準2011」が作成された1).本診断基準における,IgG4関連疾患の概念は次の通りである.

 “IgG4関連疾患とは,リンパ球とIgG4陽性形質細胞の著しい浸潤と線維化により,同時性あるいは異時性に全身諸臓器の腫大や結節・肥厚性病変などを認める原因不明の疾患である.罹患臓器としては膵臓,胆管,涙腺・唾液腺,中枢神経系,甲状腺,肺,肝臓,消化管,腎臓,前立腺,後腹膜,動脈,リンパ節,皮膚,乳腺などが知られている.病変が複数臓器におよび全身疾患としての特徴を有することが多いが,単一臓器病変の場合もある.臨床的には各臓器病変により異なった症状を呈し,臓器腫大,肥厚による閉塞,圧迫症状や細胞浸潤,線維化に伴う臓器機能不全など時に重篤な合併症を伴うことがある.治療にはステロイドが有効なことが多い”.

書評

―齋藤昭彦 監訳 新潟大学小児科学教室 翻訳―ネルソン小児感染症治療ガイド―原書第19版

著者: 青木眞

ページ範囲:P.2189 - P.2189

はじめに

 聖路加国際病院院長の日野原重明先生のお招きで筆者が帰国した1992年当時,日本の臨床感染症とでも呼ぶべき領域はきわめて希薄であった.筆者は臨床感染症の軸となる抗菌薬の削減・適正使用をはじめとする感染管理,感染症診療にと動いた.研修医教育も始め,その対象に当時小児科研修医であった齋藤昭彦先生の姿もあった.時に厳しすぎたかもしれない教育も彼は甘んじて受け入れ,今度はその齋藤先生が小児感染症領域における日本のリーダーとして彼我の格差を是正する番になった.監訳の序で齋藤先生いわく「海外と国内での小児における抗微生物薬の使用に関するギャップがある……(中略)……国内の臨床の現場でこれらの問題は大きく,これをどう解決し,そして世界標準の治療にどう近づけるかはこれからの大きな課題である」と述べている.

―Jane M. Orient 原著 須藤 博,藤田芳郎,徳田安春,岩田健太郎 監訳―サパイラ身体診察のアートとサイエンス―原書第4版

著者: 黒川清

ページ範囲:P.2221 - P.2221

 本書はサパイラDr. Joseph D. Sapiraによる“Sapira's Art & Science of Bedside Diagnosis”の第4版(2009)の邦訳である.1989年の初版以後,原書はDr. Jane M. Orientによって著されている.不思議な本と感じるかもしれないが,臨床の神髄,醍醐味(だいごみ)盛り込まれている.臨床の基本を患者との関係性(診る,聞く,話す,触る)から始め,記録し,分析する――.単なる臨床診断学というよりは,長い歴史のうえに蓄積された経験値を論理的に考える過程で構築されてきた,医師と患者の「信頼」の歴史をひもといているのだ.

 現在の臨床の現場では,えてして「効率,コスト,検査」から始まり,ともすれば患者不在の「検査データに基づく現代風デジタル診療」と指摘される.そこから患者と医師の「信頼」関係が薄れ,医療事故や訴訟などへ発展するかもしれないと不安な,医学生,研修の現場への応援の書ともいえる.臨床は「アートとサイエンス」の神髄の伝統であり,その伝統を自分自身も継承してきた優れた先輩医師の気持ちだろう.これが良い伝統を次の世代へと受け渡す「好循環」の基本なのだ.このあたりが,このサパイラ本の面目躍如というか,ほかの臨床診断学の教科書と違っているところだ.

―日本うつ病学会 監修 気分障害の治療ガイドライン作成委員会 編―大うつ病性障害・双極性障害治療ガイドライン

著者: 中村純

ページ範囲:P.2239 - P.2239

 本書は,日本うつ病学会が2011年に「気分障害の治療ガイドライン作成委員会」を立ち上げ,大うつ病性障害および双極性障害の治療ガイドラインを短い期間に改訂し,まとめたものを本年になって成書としたものである.

 高血圧や糖尿病などの身体疾患に対する治療ガイドラインは薬物アルゴリズムまでを含み,既に次々に更新されて一般診療科に流布し治療レベルも向上していると聞いている.しかし,精神疾患の場合には身体疾患と違って,その誘因,発症機転,治療法も微妙に異なる.そして,医師側の態度も同じようにさまざまな薬物療法や精神療法を行っているのが現状である.その結果,その転帰も違っている可能性もある.一方,精神科領域では,そのようなことはできないと考える人もまだ多い.

―木下芳一,高橋信一 編―実地医家ならこれを読め!―PPI(プロトンポンプ阻害薬)治療のコツがわかる本

著者: 豊田英樹

ページ範囲:P.2258 - P.2258

 プロトンポンプ阻害薬(PPI)は胃酸分泌を強力に抑制する薬で,現在では食道・胃・十二指腸疾患の内科治療の柱となる薬であり,内科診療を行うためにはPPIによる治療は避けて通ることはできません.つまり,自信を持ってPPIを適切に使いこなすことができれば,胃酸関連疾患としての食道・胃・十二指腸診療の達人になれるわけです.「実地医家ならこれを読め!」との力強いネーミングからも,日本における胃酸関連疾患診療の実地医家でのレベルアップを切望する編者の情熱が伝わってきます.

 一般に広く処方されるようになったPPIですが,適応や投与方法,投与期間に医療保険上の制限があるため,PPIを処方したら査定された経験のある先生もあると思います.そうした過去の苦い経験からPPIは使いづらいと感じておられる先生も少なくないと思います.PPIの酸分泌抑制作用は強力であるので,どのような投与の仕方をしても治療効果は十分であろうと以前は信じられてきました.しかし,現在では常用量のPPIを投与していても効果が不十分な症例が約半数程度も存在することが問題となっており,十分な治療効果を得るためにはPPIの使用方法に工夫が必要であることがわかってきました.

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第12回日本フットケア学会年次学術集会

ページ範囲:P.2149 - P.2149

会期●2014年3月7日(金)~3月8日(土)

会場●なら100年会館・ホテル日航奈良

第35回JALC母乳育児学習会<in東京>

ページ範囲:P.2177 - P.2177

日時●2014年1月26日(日)

会場●シェーンバッハ砂防(東京都千代田区平河町2-7-5)

第9回若手医師のための家庭医療学冬期セミナー

ページ範囲:P.2220 - P.2220

日時●2014年2月15日(土)13:00~16日(日)12:30

場所●東京大学本郷キャンパス 医学教育研究棟および鉄門記念講堂など

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「medicina」第50巻 総目次

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medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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