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雑誌目次

雑誌文献

medicina50巻2号

2013年02月発行

雑誌目次

『medicina』50周年を迎えるにあたり

ページ範囲:P.185 - P.185

特集 大きく変貌した脳梗塞の診断と治療

著者: 木村和美

ページ範囲:P.187 - P.187

 脳梗塞の診療は,「分からない・治らない」時代から,「分かる・治せる」時代に大きく変貌している.ドクターヘリによる搬送,t-PA静注療法の認可,血管内治療の登場により,この数年の変化は目覚ましいものがある.t-PA静注療法が,発症3時間以内にしか使用できなかったが,2012年8月31日より4.5時間まで使用可能となった.これまでだと寝たきりとなったり,死亡されていた人が,場合によっては歩いて退院する時代になった.また,最近の研究で,一過性脳虚血発作の患者は,発作直後に完成型脳梗塞になる可能性が高いこと,しかし適切な治療により脳梗塞を回避できる可能性があること,が示された.さらに,もし発作が起こってもt-PA静注療法により治療可能であり,一過性脳虚血発作直後は,緊急疾患として扱うことがクローズアップされている.

 脳梗塞急性期の治療は,言うまでもなく,各々の患者の病態を把握し,その病態にあった治療を行うことである.ラクナ梗塞,アテローム血栓性梗塞,心原性脳塞栓症,また,まれでない病態として奇異性塞栓症,脳動脈解離,大動脈原性塞栓症が挙げられる.これらを,MRI,超音波,SPECT,血管造影検査などを駆使して,総合的に病型を診断する.よく患者を診察し,画像診断と総合的に病態解明に努めることが大切である.

特集の理解を深めるための24題

ページ範囲:P.329 - P.333

座談会・Ⅰ

脳梗塞の診断・治療をめぐる近年の動向について

著者: 木村和美 ,   岡田靖 ,   井口保之 ,   藤井修一

ページ範囲:P.188 - P.195

木村(司会) お忙しいなかお集まりいただき,ありがとうございます.今日は脳卒中の専門医として九州医療センターの岡田先生,東京慈恵会医科大学の井口先生,一般医家の先生として湯川診療所(岡山県新見市)の藤井先生をお招きして,私,川崎医科大学の木村と4人で座談会をしたいと思います.

 脳卒中の座談会ということで,テーマは2つあります.前半が「脳梗塞の診断・治療をめぐる近年の動向について」,後半が「歩いて来る脳卒中急性期患者とTIAの対応」で,後半は特集論文の後に掲載されます.

初期対応

一般医家(研修医も含む)の初期対応はいかにあるべきか

著者: 藤井修一

ページ範囲:P.196 - P.198

ポイント

◎病院前救護の段階で急性期脳卒中を疑う場合には,早急に脳卒中専門医療機関へ救急搬送を行う.

◎問診では発症時間を必ず聴取する.

◎TIAが疑われる場合は外来受診時に症状が消失していても,直ちに脳卒中専門医療機関へ紹介すべきである.

脳卒中専門医の初期対応はいかにあるべきか

著者: 山上宏

ページ範囲:P.200 - P.204

ポイント

◎急性期脳梗塞では,1分でも早く閉塞血管の再開通を得ることが,機能予後の改善につながる.

◎救急隊や院内関連部署と,脳卒中救急診療システムを構築する必要がある.

◎受診から診断,治療までの時間をできるだけ短縮できるように,十分な準備と迅速な指揮を行う.

◎軽症脳梗塞やTIAでは,早期再発や症状増悪のリスクを評価し,病型に応じた治療を早期に開始する.

院内発症の対応―対応が遅れないようにするには

著者: 上野祐司 ,   卜部貴夫

ページ範囲:P.206 - P.209

ポイント

◎脳梗塞院内発症ハイリスク患者の管理や,脳梗塞発症後の迅速な対応は重要である.

◎心疾患(心房細動・心不全・心筋症など),悪性腫瘍,頸動脈狭窄,抗血栓薬中止はハイリスク群である.

◎ハイリスク患者は,入院中早期に専門医への紹介が必要である.

◎新たな神経症状を呈している患者を発見したらNIHSSを評価し,遠慮せず専門医を呼ぶ.

診断

TNA(一過性神経発作)とTIAはいかに対応すべきか

著者: 長谷川泰弘

ページ範囲:P.210 - P.213

ポイント

◎TIAが疑われる一過性神経発作の初期診療は,ワイドトリアージの姿勢が望まれる.

◎わが国におけるABCD2スコアの有用性は未確認であるが,クレセンドTIA,血栓塞栓リスクなどの所見を含めてリスク層別化を行って対応する.

◎最前線の初診医と地域の専門医とが連携して,速やかに発症機序を確定し直ちに治療を開始する.

身体所見のポイント

著者: 森興太 ,   湧川佳幸 ,   岡田靖

ページ範囲:P.214 - P.217

ポイント

◎一般理学的所見は,脳卒中の病型診断に有用である.

◎脳卒中の急性期診療は時間との勝負であり,速やかな身体診察を行うよう心がけるべきである.

◎気になる身体所見があれば,必要に応じて迅速に追加検査を行い確認する姿勢が大事である.

よくみられる神経症候と見落としてはいけない神経所見

著者: 橋本洋一郎 ,   伊藤康幸 ,   山本文夫

ページ範囲:P.218 - P.221

ポイント

◎患者・家族の訴える症状に対応する他覚所見(徴候)の確認を第一に行う.

◎脳梗塞でよくみられる神経症候には麻痺や感覚障害がある.

◎半盲,眼球運動障害,眼振,小脳失調,Babinski徴候,構音障害,失語,半側空間無視,感覚無視などの徴候も見落とさないようにする.

CTとMRI所見のポイント

著者: 佐々木真理

ページ範囲:P.222 - P.225

ポイント

◎rt-PA静注療法では,CTやMRIで頭蓋内出血と広汎な初期虚血性変化を除外する.

◎脳血管の評価は必須ではないが,治療戦略上重要な情報となりうる.

◎虚血ペナンブラの評価の意義は現時点で明らかとなっていない.

なくてはならない超音波検査

著者: 寺澤由佳

ページ範囲:P.227 - P.231

ポイント

◎頸動脈超音波検査は,内頸動脈狭窄に伴うアテローム血栓性脳梗塞の診断と治療決定に重要である.

◎頸動脈超音波検査は,経静脈的血栓溶解療法前の大動脈解離の診断に有用である.

◎経頭蓋超音波検査は,頭蓋内血管の狭窄および右左シャントの検出に有用である.

◎経食道超音波検査は,経胸壁超音波では診断のできない左心耳内血栓,卵円孔開存,大動脈粥腫病変を診断するために必要である.

◎右左シャント疾患を有する場合,下肢静脈超音波検査で下肢静脈血栓を認めると奇異性脳塞栓症の診断となる.

脳血管造影は必須検査か?

著者: 山田丈弘 ,   今井啓輔

ページ範囲:P.232 - P.235

ポイント

◎脳梗塞例における脳血管造影の適応を理解する.

◎脳血管造影に関連する合併症を知っておく.

◎脳血管造影の役割は血栓除去用デバイスの承認後に変わってきた.

◎緊急の脳血管造影では「リアルタイムでの読影力」が求められる.

◎脳血管造影は脳梗塞の診断と治療において今後も必要な検査といえる.

治療戦略を決めるうえでのSPECTの役割

著者: 平野照之

ページ範囲:P.236 - P.240

ポイント

◎rt-PA静注療法の対象例(発症4.5時間以内)には,治療開始を遅らせるリスクが大きいためSPECTは実施しない.

◎局所線溶療法(発症6時間以内)の適応決定には,SPECTによる脳血流評価が有用である.

◎慢性期血行再建療法の適応は,アセタゾラミド反応性を含めた脳血流SPECT検査によって判断する.

バイオマーカー―いかに活用するか

著者: 芝﨑謙作 ,   木村和美

ページ範囲:P.242 - P.245

ポイント

◎BNPは,脳梗塞の病型診断および発作性心房細動の予知マーカーである.

◎TATは,凝固系の活性化を反映する.

◎D-dimerは,血栓形成の結果と血栓溶解の状態を把握できる.

病型ごとの治療

ラクナ梗塞とアテローム血栓性梗塞

著者: 山本康正

ページ範囲:P.246 - P.251

ポイント

◎ラクナ梗塞(LI)は,1本の穿通枝自体の病変による梗塞で0.5~15mmのサイズを示し,ラクナ症候群を呈する.

◎アテローム血栓性梗塞(ATBI)は主幹脳動脈が50%以上で生じる脳梗塞で,頸動脈,椎骨脳底動脈,頭蓋内動脈,大動脈などのアテロームプラークが原因で起こる

◎大径穿通枝の起始部のプラークやマイルドな母動脈の壁在プラークにより,穿通枝全域に及ぶ15mmを超える梗塞が生じうる.Branch atheromatous diseaseタイプの梗塞として分類するのがベターで,LIとATBIの中間的な位置にある.急性期進行性運動麻痺をきたしやすい.

心原性脳塞栓症

著者: 星野岳郎 ,   内山真一郎

ページ範囲:P.252 - P.255

ポイント

◎心内血栓が原因の脳梗塞であり,しばしば突発的に発症し,重症となりやすい.

◎閉塞血管の再開通や出血性梗塞の存在は,本症診断の参考となる.

◎本症の再発予防には抗凝固療法が有効であり,非弁膜症性心房細動が原因の場合は新規抗凝固薬も適応がある.

脳動脈解離と大動脈原性脳塞栓症

著者: 田中弘二 ,   豊田一則

ページ範囲:P.256 - P.260

ポイント

◎脳動脈解離は若年性脳梗塞の原因として重要である.

◎脳動脈解離に対する治療は確立されていない.虚血性脳血管障害で発症した脳動脈解離に対しては一般的に抗血栓療法を行うが,血管形態に応じて治療を選択する.

◎脳動脈解離では短期間に血管の形態変化をきたす場合があり,特に急性期には慎重な経過観察が必要である.

◎大動脈の動脈硬化性病変は経食道心臓超音波検査での評価が一般的である.

◎大動脈原性脳塞栓症の治療法は確立されていないが,一般的に抗血栓療法やスタチン投与が行われる.

奇異性塞栓症

著者: 井口保之 ,   木村和美

ページ範囲:P.262 - P.265

ポイント

◎奇異性塞栓症は,右心系に存在する血栓が右左シャント疾患(卵円孔開存,心房中隔欠損,肺動静脈瘻など)を介して左心系に流入し,脳血管を閉塞する病態である.

◎奇異性塞栓症は,動脈硬化リスク因子がない,あるいは塞栓源となる心疾患がない脳梗塞例における発症機序として重要である.

◎右左シャント疾患の診断には,経頭蓋超音波検査もしくは経食道心臓超音波検査を用いる.

◎奇異性塞栓症の再発予防は,塞栓源である深部静脈血栓症に対する抗凝固療法である.

その他特殊な脳梗塞

著者: 及川博隆 ,   寺山靖夫

ページ範囲:P.266 - P.269

ポイント

◎その他の脳梗塞はNINDS分類の脳梗塞3病型に含まれないものを指す.

◎病因はアテローム硬化以外の血管性病変,血液凝固異常,悪性腫瘍,血管攣縮,経口避妊薬,片頭痛,脳静脈・静脈洞血栓症などが挙げられる.

急性期治療

いかに治療を早く開始するか

著者: 賣豆紀智美 ,   藤本茂

ページ範囲:P.270 - P.274

ポイント

◎rt-PA静注療法の治療可能時間が発症4.5時間までに拡大された.

◎rt-PA静注療法の治療効果を高めるにはdoor-to-needle timeの短縮が重要である.

◎door-to-needle timeの短縮のためには,多職種が協力する院内体制の構築が重要である.

◎telestrokeの活用が,遠隔地におけるrt-PA静注療法をはじめとした脳卒中急性期治療において有用である可能性が示唆されている.

rt-PAの功罪―適応と禁忌,また限界について

著者: 金子淳太郎 ,   西山和利

ページ範囲:P.276 - P.280

ポイント

◎2012年,虚血性脳血管障害に対するrt-PA投与の適応は発症後3時間以内から4.5時間以内に延長された.

◎rt-PA投与は施設基準を満たせば特別な装置や手技などは必要なく,広く普及させうる治療法であるが,危険性についての認識も重要である.

◎rt-PA静注療法の適正使用に関する禁忌と慎重投与にあたり事項について述べる.

血管内治療と外科治療の役割

著者: 坂井信幸 ,   藤堂謙一

ページ範囲:P.282 - P.288

ポイント

◎急性期の血行再建は血管内治療が大きな役割を果たす.

◎脳動脈の再開通療法は機械的血栓回収機器の導入により大きく発展した.

◎頸動脈狭窄症に対するステント留置術は成績の安定によりさらに普及する.

◎内科治療,外科治療との比較のもとに適切に発展させていくことが必要である.

脳保護薬とその他の薬剤

著者: 阿部康二

ページ範囲:P.290 - P.293

ポイント

◎脳梗塞は発症4.5時間までtPA治療が可能となった.

◎しかし発症3時間を超えると出血合併症を惹起する危険性が高まる.

◎脳保護薬の併用はtPAの有効性のみを惹き出し,出血合併症を軽減する(tPAパートナー).

◎低体温療法も脳保護療法の1つである.

◎neurovascular unit破綻の生体イメージング技術により,より安全なtPA治療が可能となる.

循環・呼吸管理・睡眠呼吸障害の管理

著者: 鈴木圭輔 ,   竹川英宏 ,   平田幸一

ページ範囲:P.294 - P.297

ポイント

◎脳梗塞急性期は収縮期血圧>220mmHgまたは拡張期血圧>120mmHgで慎重に降圧する.

◎呼吸波形・動脈血酸素飽和度をモニターし,動脈血酸素飽和度の低下や呼吸パターンの変化に注意する.

◎大脳皮質・間脳の障害によりCheyne-Stokes呼吸が,脳幹部の障害により特徴的な呼吸障害パターンが出現する.

◎閉塞性睡眠時無呼吸症候群は,主要な脳血管障害の発症リスクであり,睡眠呼吸障害の早期診断および治療は患者の生命予後の改善や脳血管障害再発予防の観点から重要である.

早期リハビリテーションと栄養管理の役割

著者: 渡邊進

ページ範囲:P.298 - P.301

ポイント

◎急性期リハは,早期離床が重要で,廃用症候群を可及的最小限にとどめ,効果的に運動機能とADLの改善を図る.

◎摂食・嚥下障害では,口腔ケアを行い,間接訓練と直接訓練を徐々に難易度を上げていく.

◎意識障害,嚥下障害があっても基本原則は経腸栄養である.

慢性期治療(2次予防)

病診連携のあり方

著者: 目時典文

ページ範囲:P.304 - P.307

ポイント

◎脳梗塞は再発率が高く,年間約8%といわれている.

◎病型分類に基づいた抗血栓療法の選択が必要であり,病態の理解が予防のカギとなる.

◎動脈硬化性脳梗塞ではまず責任血管の特定が必要であり,外科治療の適応を見逃さないため一見軽症であってもエコーやMRAによる血管精査が必須である.

◎心房細動症例では抗凝固療法が必須であるが,導入困難例は循環器内科医との連携も必要となる.

◎急性期から回復期,さらにかかりつけ医まで一貫したリスクファクター管理に関する患者家族教育が必要である.一方で医師は患者の障害への理解が大切である.

リスク管理の重要性

著者: 棚橋紀夫

ページ範囲:P.308 - P.311

ポイント

◎脳梗塞の再発予防には,リスク因子の管理が重要である.

◎リスク因子には,高血圧症,糖尿病,脂質異常症,喫煙,飲酒,肥満などがある.

◎血圧に関しては,厳格な血圧管理が求められる.

◎糖尿病に関しては,血糖コントロールのみでなく,血圧も同時に管理する必要がある.

抗凝固薬と抗血小板薬は,どう使い分けるか

著者: 矢坂正弘

ページ範囲:P.312 - P.315

ポイント

◎抗凝固薬は主として赤血球とフィブリンからなる赤色血栓の心腔内や静脈内での形成予防に用いる.

◎抗血小板薬は血小板を主体とする白色血栓の動脈内での形成予防を目的に投与する.

◎抗凝固薬は抗血小板薬の代わりを担うことがある程度可能であるが,抗血小板薬で抗凝固薬の代替は一切できない.

◎抗血栓薬を併用すると頭蓋内出血を含む出血性合併症の発症率が上昇する.

◎頭蓋内出血の合併を避けるには十分な血圧コントロールが最も重要.ほかに血糖コントロールや禁煙および過度の飲酒制限にも注意を払う.頭蓋内出血発症率の低い薬剤選択も考慮.

外科治療の適応

著者: 里見淳一郎 ,   永廣信治

ページ範囲:P.316 - P.321

ポイント

◎症候性頸動脈高度狭窄では,抗血小板療法を含む最良の内科的治療に加えて,頸動脈内膜剥離術を行うことが推奨される.

◎内頸動脈狭窄症において,頸動脈内膜剥離術の危険因子をもつ症例に対して,頸動脈ステント留置術を行うことが奨められる.

◎適応を満たした症例に限り,症候性内頸動脈および中大脳動脈閉塞,狭窄症を対象としたEC-ICバイパス〔浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術(STA-MCA bypass術)〕を考慮してよい.

座談会・Ⅱ

歩いて来る脳卒中急性期患者とTIAの対応

著者: 木村和美 ,   岡田靖 ,   井口保之 ,   藤井修一

ページ範囲:P.323 - P.328

木村(司会) 冒頭の座談会・Ⅰに続き,後半は「歩いて来る患者さん」に焦点を絞ってお話しいただきます.

 実は脳梗塞の患者さんが救急車で来るというのは5割に満たず,多くは外来に歩いて来ています.J-MUSICのデータでもそうですし,私たちも歩いて来る脳梗塞の患者さんをよく経験します.そこで,歩いて来る脳卒中の急性期患者,それも発症して48時間以内の患者さんと,数日以内に起こったTIAの患者さんの対応をどうしたら良いかについて話していきたいと思います.

連載 顔を見て気づく内科疾患・2

蝶形紅斑:SLE診断の鍵となるが,鑑別に注意

著者: 石丸裕康

ページ範囲:P.179 - P.179

症 例:25歳,女性

病 歴:1カ月前から関節痛,微熱を生じるが経過を観察していた.1週間前より,頬部に発疹を生じるようになり,当院を受診した.

実は日本生まれの発見・2

パルスオキシメータ

著者: 桑平一郎

ページ範囲:P.181 - P.181

 パルスオキシメータの普及により,誰でもいつでも簡単に低酸素血症の有無を判定できるようになった.しかし,指先で酸素飽和度(SpO2)が測定できるようになったのは,世界に先駆け機器を開発した日本人の功績によることをご存じない方は多い.開発者の社会への貢献,また,その歴史をご本人からのお話を含め紹介させて頂く.

 酸素を運搬するのはヘモグロビン(Hb)であるが,酸化Hbは赤外光を吸収するのに対し,還元Hbは赤色光を吸収するという特性の違いがある.分光分析法,すなわちオキシメトリーは,この両者の特性の違い,つまり吸収スペクトルの差を利用して酸素飽和度を求める手法である.遡ること,1940年~50年代にかけて開発された分光分析器であるオキシメータには,Wood型やWaters社製,Hewlett-Packard社製などがあった.しかし,当時いずれも研究の域を越えるものではなかった1).これに対し,現在のパルスオキシメータの基礎を作ったのは青柳卓雄氏である.青柳氏は,昭和11年(1936年)のお生まれで,新潟大学工学部電気工学科を卒業後,1958年に島津製作所に入社,もっぱら医療用計測機器の研究に従事された.一時米国で見聞を深めた後,1971年には日本光電工業に移られ,いわゆる色素希釈曲線測定用のイヤピース法の精度を高めるため,上述のWood型オキシメータの原理を研究された.その過程で,動脈の拍動による透過光の吸光度変化を捉えれば,動脈血の酸素飽和度が選択的に求められるのではないかと考えたのである.その発想を1974年の日本エム・イー学会に発表,特許申請も行い,翌1975年にはイヤオキシメータという耳朶で酸素飽和度を測定する画期的な製品を開発した.これが世界初のパルスオキシメータである.1976年にはミノルタカメラ社も新たに製品化したが,米国のNellcor社は半導体技術の進歩を応用し,使いやすくかつ外乱の影響を受けにくいタイプを作製した.光源を高性能のLEDとして高速点滅させ,受光素子にフォトダイオードを使用したことで,センサを直接皮膚に密着させることが可能となった.また,振動の影響も受けにくくなった.これが現在のパルスオキシメータの大々的な普及に繋がったと言えよう.しかし,青柳氏によれば,この半導体の歴史の裏にも実は日本の技術があり,Nellcor社が最初に使用したLEDおよびフォトダイオードは,日本製であったとのことである2)

こんなときどうする?内科医のためのリハビリテーションセミナー・11

肝臓疾患

著者: 伊藤修 ,   上月正博

ページ範囲:P.338 - P.340

症例

〔56歳,女性〕

既往歴:高血圧,脂質異常症,変形性膝関節症

現病歴:33歳時に健診で肝機能障害を指摘され,肝生検により脂肪肝と診断された.グリチルリチン製剤,肝臓加水分解物投与で肝機能は改善した.46歳時に肝機能障害が再燃し,体重80kgで肥満があることから食事療法を指導された.しかし,食生活の改善はなく肝機能障害は持続,51歳時の肝生検で非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)と診断された.ピオグリタゾンの投与により肝脂肪化と線維化は改善したが,体重は最大103kgまで増加,ADL低下もあるため,リハビリテーション(以下,リハ)目的に当科入院となった.

目でみるトレーニング

著者: 入交重雄 ,   三浦修平 ,   明嵜太一

ページ範囲:P.342 - P.347

皮膚科×アレルギー膠原病科合同カンファレンス・11

運動後の筋肉痛と皮膚硬化

著者: 岡田正人 ,   衛藤光

ページ範囲:P.348 - P.351

後期研修医(アレルギー膠原病科) 今回の患者さんは,筋肉痛と皮膚硬化を主訴に来院された40歳の男性です.ラグビー部のコーチをされていて,練習で人数が足りなかったので久しぶりに紅白戦に参加した翌日に筋肉痛が出現しました.無理をしすぎたと考えて抗炎症薬を塗って様子を見ていたそうですが,1週間経過しても筋肉痛は改善傾向がなく,皮膚が硬くなってきた感じがするということで近医受診され,市販の塗り薬による接触性アレルギーも疑われ来院されました.

アレルギー膠原病科医 抗炎症薬を塗った部分と皮膚病変は一致しているのですか.

REVIEW & PREVIEW

NAFLD/NASHの診断と治療

著者: 児玉和久 ,   徳重克年 ,   橋本悦子

ページ範囲:P.335 - P.337

最近の動向

 食生活の欧米化,運動不足により肥満やメタボリックシンドロームが国民病となり,それを基盤に発症するNAFLD(non-alcoholic fatty liver disease)/NASH(non-alcoholic steatohepatitis)が急増し,その診断法の確立や予防法・治療法の開発が急務となっている.

 NAFLD/NASHは肝疾患としての重要性が認識され,わが国からはNASH/NAFLDの診療ガイド,EASLからはPosition Statement,AASLD・ACG/AGAからはPractice Guidelineが発表された.本稿ではこれらのガイドラインを参考に概説する.

書評

―佐藤健一 著―どうする?家庭医のための“在宅リハ”

著者: 葛西龍樹

ページ範囲:P.303 - P.303

 「在宅でのリハと在宅に向けてのリハ」を家庭医が準備し実践する際に役立つ本が出版された.しかも著者の佐藤健一先生は,北海道家庭医療学センターで家庭医療学専門医コースを第一期生として修了した家庭医である.本書は,臨床的な事項の合間に,佐藤先生がより良い家庭医療を求めて旺盛に学びの機会を広く探求していったエピソードやその成果も含まれていて,いわば物語を読むような面白さで読み進めることができる.

 家庭医としての必須のアプローチである高齢者総合的機能評価(comprehensive geriatric assessment)と患者中心の医療の方法(patient-centered clinical method)をベースにしたうえで,そこに生活の場,予防,精神面のケア,そしてチーム医療にこだわった数多くの在宅リハビリテーションで有用なヒントが盛り込まれている.

―岡田 定,堀之内秀仁,藤井健夫 編―あなたへの医師キャリアガイダンス

著者: 早野恵子

ページ範囲:P.334 - P.334

 この本は,聖路加国際病院出身の50名の医師たちが書いた本ですが,誰のために書かれたのでしょうか? さっと全体に目を通せば,これからキャリアを築いていく研修医・専門研修医や医学生が読むのに最適な本であることがわかります.すなわち,若手医師の最大の関心事である進路の選択やキャリア形成を経験した先輩の文章が掲載されていて,ロールモデルや後輩へのアドバイスを見出すことができるからです.

 さらに読み進めると,聖路加国際病院でさらなる研修を続けた医師,あえて国内の病院へ異動して研鑽を続けた医師,リサーチのための留学や海外での臨床研修やフェローシップの機会を得た医師,あるいはほかの病院で研修後(海外も含めて)スタッフとして迎えられた医師など,その多様さに驚くと同時に,「みんなちがってみんないい」(金子みすゞの詩より)というフレーズを思い起こします.

―ダグ・ヴォイチェサック,ジェームズ・W・サクストン,マギー・M・フィンケルスティーン 著 前田正一 監訳 児玉 聡,高島響子 翻訳―ソーリー・ワークス!―医療紛争をなくすための共感の表明・情報開示・謝罪プログラム

著者: 田中まゆみ

ページ範囲:P.341 - P.341

 2012年10月に日本脳炎予防接種後の急死例が大々的に報道された.このケースでもそうだが,医療事故には複雑な要因がからんでおり,過誤の有無,過誤が悪い結果(死亡・後遺症など)の唯一の原因であったのかなど,すぐには結論が出ないことが多い.しかし,被害者にとっては「予期しない悪い結果」の原因は人為をまず疑うのは当然であろう.もし初期対応が不適切であると,加害者vs.被害者の対立構図が生じ,訴訟に至ってしまう.

 しかし,医療訴訟に勝者はいない.信頼を裏切られた患者家族だけでなく,疑われたうえ「訴訟中は何もしゃべるな」と厳命される医療者もまた苦しむ.司法解剖がされたとしてもその結果は遺族にも医療者にも知らされることはないので,再発防止にも役立たない.最終的には医学的に医療過誤とはいえないという結論で終わることも多いが,それを「医療とはもともと不確実で未熟なものであり,司法でそれを裁くには限界がある」というふうにではなく,「医療訴訟では患者側が勝つことは難しい」というように受け止められてしまう.

information

米国内科学会(ACP)日本支部2013年総会・講演会のお知らせ

ページ範囲:P.275 - P.275

 米国内科学会(American College of Physicians:ACP)日本支部は,2003年に米大陸以外では初めて設立が許された支部です.設立以来,年次総会を開催しており,本年も「Generalism」を基本テーマとして開催します.2日間にわたってシンポジウム,臨床能力や臨床研究リテラシー向上のための教育セッションなど多数予定しております.ACPの会員であるなしにかかわらず,どなたでもご参加可能です.

日時●2013年5月25日(土),26日(日)

会場●京都大学百周年時計台記念館

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バックナンバーのご案内

ページ範囲:P.358 - P.359

購読申し込み書

ページ範囲:P.360 - P.360

次号予告

ページ範囲:P.361 - P.361

奥付

ページ範囲:P.362 - P.362

基本情報

medicina

出版社:株式会社医学書院

電子版ISSN 1882-1189

印刷版ISSN 0025-7699

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60巻13号(2023年12月発行)

特集 一般医家のための—DOAC時代の心房細動診療

60巻12号(2023年11月発行)

特集 内科医が遭遇する皮膚疾患フロントライン—「皮疹」は現場で起きている!

60巻11号(2023年10月発行)

増大号特集 患者さんの質問にどう答えますか?—言葉の意味を読み解きハートに響く返答集

60巻10号(2023年9月発行)

特集 ミミッカー症例からいかに学ぶか

60巻9号(2023年8月発行)

特集 症例から読み解く—高齢者診療ステップアップ

60巻8号(2023年7月発行)

特集 浮腫と脱水—Q&Aで学ぶジェネラリストのための体液量異常診療

60巻7号(2023年6月発行)

特集 整形外科プライマリ・ケア—内科医が知りたい整形外科疾患のすべて

60巻6号(2023年5月発行)

特集 Common diseaseの処方箋ファイル—臨床経過から学ぶ20症例

60巻5号(2023年4月発行)

特集 臨床医からみたPOCT

60巻4号(2023年4月発行)

増刊号 探求!マイナーエマージェンシー

60巻3号(2023年3月発行)

特集 令和の脳卒中ディベート10番勝負—脳卒中治療ガイドライン2021とその先を識る

60巻2号(2023年2月発行)

特集 慢性疾患診療のお悩みポイントまとめました—高血圧からヘルスメンテナンスまで

60巻1号(2023年1月発行)

特集 10年前の常識は非常識!?—イマドキ消化器診療にアップデート

59巻13号(2022年12月発行)

特集 令和の頭痛診療—プライマリ・ケア医のためのガイド

59巻12号(2022年11月発行)

特集 避けて通れない心不全診療—総合内科力・循環器力を鍛えよう!

59巻11号(2022年10月発行)

増大号特集 これからもスタンダード!—Quality Indicatorの診療への実装—生活習慣病を中心に

59巻10号(2022年9月発行)

特集 ちょっと待って,その痛み大丈夫?—“見逃してはいけない痛み”への安全なアプローチ

59巻9号(2022年8月発行)

特集 不安を自信に変える心電図トレーニング—専門医のtipsを詰め込んだ50問

59巻8号(2022年7月発行)

特集 日常診療に潜む臨床検査のピットフォールを回避せよ

59巻7号(2022年6月発行)

特集 抗菌薬の使い方—敵はコロナだけにあらず! 今こそ基本に立ち返る

59巻6号(2022年5月発行)

特集 ジェネラリストの羅針盤—医学部では教わらなかった28のクエスチョン

59巻5号(2022年4月発行)

特集 症例から学ぶ—電解質と体液量管理のベストアンサー

59巻4号(2022年4月発行)

増刊号 フィジカル大全

59巻3号(2022年3月発行)

特集 成人が必要とするワクチン—生涯を通した予防接種の重要性

59巻2号(2022年2月発行)

特集 意外と知らない? 外用薬・自己注射薬—外来診療での適“剤”適所

59巻1号(2022年1月発行)

特集 クリニカルクエスチョンで学ぶ糖尿病治療薬—糖尿病治療の新しい潮流

56巻13号(2019年12月発行)

特集 プライマリ・ケアのための—ポリファーマシー「超」整理法

56巻12号(2019年11月発行)

特集 内科医が押さえておくべき—検査の考えかたと落とし穴

56巻11号(2019年10月発行)

特集 不明熱を不明にしないために—実践から考えるケーススタディ

56巻10号(2019年9月発行)

特集 脱・「とりあえずCT」!—スマートな腹痛診療

56巻9号(2019年8月発行)

特集 みんなが知っておきたい透析診療—透析のキホンと患者の診かた

56巻8号(2019年7月発行)

特集 一歩踏み込んだ—内科エマージェンシーのトリセツ

56巻7号(2019年6月発行)

特集 抗菌薬をアップデートせよ!—耐性菌に立ち向かう! 適正化の手法から新薬の使い分けまで

56巻6号(2019年5月発行)

特集 糖尿病診療の“Q”—現場の疑問に答えます

56巻5号(2019年4月発行)

特集 しまった!日常診療のリアルから学ぶ—エラー症例問題集

56巻4号(2019年4月発行)

増刊号 一人でも慌てない!—「こんなときどうする?」の処方箋85

56巻3号(2019年3月発行)

特集 TPOで読み解く心電図

56巻2号(2019年2月発行)

特集 抗血栓療法のジレンマ—予防すべきは血栓か,出血か?

56巻1号(2019年1月発行)

特集 枠組みとケースから考える—消化器薬の選び方・使い方

55巻13号(2018年12月発行)

特集 これからの心不全診療への最新アプローチ—予防からチーム医療・先進医療まで

55巻12号(2018年11月発行)

特集 内科医のための「ちょいあて」エコー—POCUSのススメ

55巻11号(2018年10月発行)

特集 どんとこい! 内科医が支える—エンド・オブ・ライフ

55巻10号(2018年9月発行)

特集 クリティカル・ケアを極める—一歩進んだ総合内科医を目指して

55巻9号(2018年8月発行)

特集 もっともっとフィジカル!—黒帯級の技とパール

55巻8号(2018年7月発行)

特集 血液疾患を見逃さないために—プライマリ・ケアと専門医コンサルトのタイミング

55巻7号(2018年6月発行)

特集 ここさえ分かれば—輸液・水・電解質

55巻6号(2018年5月発行)

特集 プロブレムから学ぶ感染症診療—すぐに役立つ厳選シナリオ30選

55巻5号(2018年4月発行)

特集 明日のために解くべし!—総合内科問題集

55巻4号(2018年4月発行)

増刊号 プライマリ・ケアでおさえておきたい—重要薬・頻用薬

55巻3号(2018年3月発行)

特集 —クリニカル・クエスチョンで学ぶ—循環器薬の使い方

55巻2号(2018年2月発行)

特集 —デキる内科医の—神経内科コンサルト

55巻1号(2018年1月発行)

特集 気管支喘息・COPD診療に強くなる

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